室永 秋太郎

12 件の小説
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室永 秋太郎

11月17日生まれ

都会夜景 (一)

都会の夜は、硝子細工のように脆く、冷たい。 ネオンがひそやかに瞬き、 煙草の煙が夢のように溶けていく。 空を舞う蝶。 都会の喧騒に馴染まぬその羽ばたきは、 幻のように儚く、 それでいてしなやか。 私の瞳は、 誘われるようにその軌跡を追う。 風が黒髪を遊ぶ。 シルバーの耳飾りが、静かに月の詠を奏でる。 私は微かに唇を歪める。何への笑みかは、私にもわからな 腕から零れる赤。 ひと雫ずつ、冷たい夜の床に吸い込まれ、滲んでいく。 痛みは、遠い。 深紅に染めた唇。 鏡を見ずに塗った色が、夜の闇を切り裂くかのように鮮やか だった。 蝶の影を追い、静かに歩を進める。 夜風が、そっと纏う。 風にふわりと抱かれ、 コンクリィトに無情に叩き潰される。 視界は黒に染まり、 ―それでも、私は微笑んでいた。

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古の花

黄色き夕焼けが京都の街をやさしく包み込む、橙色の空の下、静けさの中に鳥のさえずりが響く。ひんやりとした空気に海の香りと、どこか遠くから漂う沈丁花の香りが混ざっていた。それは、まるで時間が止まり、街そのものが深く息をしているかのような瞬間だった。 道を歩くを歩く少女の名は彩葉(いろは)。彼女は黒髪をゆるりと結い上げ、真紅のスカーフにセーラー服を身に纏っている。傘をつきながら進むその姿は、どこか儚さを感じさせる。路地のアスファルトには、昼間の雨が残した透明な輝きが散らばり、彼女の足音が静かに響くたび、微かに水滴が跳ねた。 「ここは、本当に夢のような場所だね……」 小さな声で呟いた言葉は、誰にも届かず夕焼けに溶けていった。彩葉の心には、今でもあの日の記憶が深く刻まれている。祖母から聞いた伝承京都には"舞い降りる花"があるという。その花は春先の満月の夜、静かな庭や神社の境内に現れ、かすかに発光すると伝えられていた。かつて古の時代、人々はこの花を"想い桜"と呼び、神聖なものとして崇めたという。それはただの花ではなく、人々の心の奥深くに宿る記憶や感情が形を成したものだとされる。そして、その花を見た者は、過去と未来をつなぐ秘密を知るとともに、心の奥に秘めた想いが解き放たれるのだという。 彼女がその話を信じた理由は、祖母が亡くなる直前に見せた微笑みにある。何かを伝えたかったような、その笑顔。そこに込められた意味を知りたくて、彼女はここへ来たのだ。 やがて足元に、ひらりと舞い降りる桃色の花びら。その花びらはまるで空からの手紙のように、軽やかに旋回しながら地に触れる。ふと顔を上げると、雲ひとつのもが空中に浮かび、淡い光をまとっていた。それは、風に乗った蝶が戯れるかのように、揺れながら彼女を誘うようだった。花びらの舞う軌跡が、まるで見えない糸で彩葉と結びつけられているかのように感じられる瞬間だった。 「……これがあの舞い降りる花?」 声に応えるように花は軽やかに動き、彩葉を導く。足取りも軽く、胸が高鳴る。行き着いた先は静かな庭。中央には古びた石灯籠があり、その傍らに咲き誇る白い梅の花。 彩葉は膝をつき、そっと花を見つめた。その瞬間、彼女の瞳に過去の映像が映し出される  それは祖母が若かった頃の京都、笑い声、涙。すべてが色鮮やかに甦る。 「これが、祖母の秘密……」 涙が頬を伝う。その雫が花びらに落ちたとき、梅の花は柔らかな光を放ち、ひとつの言葉を紡いだ。 「人は記憶を花として刻む。大切な人を思う心が、その花を咲かせるのです。」 彩葉はその言葉の意味を噛み締めた。静寂の中で、椿の花びらが風に揺れる様をじっと見つめながら、彼女の胸には幼き日の記憶が蘇る。 その声に、彩葉はただ静かに頷いた。霧が晴れると同時に、心の中の霧もまた消え去っていく。 京都の街には、また新たな朝が訪れる。彩葉の胸には、祖母から託された温かな記憶が根を張り、これからも彼女の道を照らすだろう。

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  蛾

 蛍光灯に蛾ぶつかる  ぶつかり離れ  ぶつかり離れ  暑いや寒いや  暑いや寒いや  離れ飛び  光に寄せられ  目に寄られ  蛾は尽きた  光に尽きた  倒れ尽きた  哀れかな  哀れなり

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如月

 鳴呼 朝が来た  布団も外も少し暖かい  春が来た  明日は寒かった布団に足も出せぬほど寒かった  四年一回二十九日 ほとんど二十八日  出会い別れまで短きどうしてくれたものか  北風がぴゅるるんと  南風がサラサラと  白い息が白なき青空が月の如く

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 ひまわり

 ひまわりは  太陽向かって伸びゆく  ひまわりは太陽になりたいのか?  ひまわりは花びら散らし首を吊る  嗚呼非常に馬鹿な花である

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 青き頭蓋

 青海の中で僕は呼吸している  鈍いベタベタに潰されている  ゆよーん  ゆよーん  アイスピックで砕き給え  青き頭蓋を砕き給え  青海の水も抜け  跡形もなく

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グレェスカイ

 家を出て  鉛のような足  灰世界  ばたばたと  青のない  味気ない空ザラザラと  アスファルトですらも光なく

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ぶくぶくと落ちていく 冷たい ああ、ああ ぷくぷくぷくぷく…… 泡が止まり ぼやぼやと 浮かない ぷかぷかと ぶく ぼこ 目を閉じ 暖かい 原っぱに のどかな 原っぱに ひらひらと舞う 蝶に その先に 川に

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うみそとの踊り子

踊り子よ 透明なる狭き海(ゲェジ)に入り 光たり ふわふわと 光たり ぴくぴくと動く ひらヒラと舞ふ 踊り子のやうに 踊り子開きたり ぱかんと開きたり ぞわぞわと震るへたり 暗ひ部屋 元に戻りたり 狭き海(ゲェジ)へ

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ビー玉

カランとラムネの中に 美しい音が鳴った それはまるで 風鈴のように響き 葉のように落ちる カランコロン、 カランコロン、 硝子のなるような音 寒天のような色 日に透り 日に照り カランコロン カランコロン……

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