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3 件の小説“アズマ”との出会い
毎日を何となく過ごす事が得意だった。 それなりの努力をしていたのでテストではいつも1位だった。 残念ながら運動神経には恵まれなかったけど それでも懸命に部活の練習に励んだ。 テクニックこそ上達しなかったものの体力は十二分に付き、 小さな規模ではあるが陸上で表彰状を貰った事も何度かあった。 それは私にとって至極当然のことで、 努力というものは人生にデフォルトで備わっていた。 努力をしない私は私として認められないと常に思っていた。 「勉強したくな〜い」と抜かす奴が嫌いだった。 したくないならしなければいい。 そう言うと向こうは必ずこう言う。 「でも親に怒られるし……」 「成績落ちるの嫌だし……」 私はこの言い訳がこの世で1番嫌いだった。 親に見放されるから、成績を落とすのが嫌だから、 毎日努力していた。 毎日の怠惰と成果が出た時の喜びを天秤にかけ、 後者を選び積み重ねていた。 「怒られるから勉強しなきゃいけない」というのは 即ち「勉強したい」という事なのだと、 何故誰もそれに気づかないのかが謎だった。 いつもその言葉にイライラしていた。 中学2年生の終わり頃、 コロナの影響で全国一斉休校になり私は毎日退屈だった。 いつもの勉強を終えた後、暇潰しにTikTokを開いた。 何の気なしに動画をスクロールしている中 「正論は暴力になる」という語りの動画が流れてきた。 その動画を見て、私は初めて気づいた。 私に「勉強したくない」と愚痴を吐いていた人達は、 私に弱音を吐いていたのだと。 彼らはアドバイスや正論を求めていたのではなく 私に聞いて欲しかっただけなのだと。 動画の彼はただ私が加害者であったこと、 知らぬ間に他人を傷つけていたことを教えてくれた。 動画の彼は最後を 「だからどうか、明日も生きよう」 という文言で締めくくった。 この人となら生きていける、そんな風に思ったのかもしれない。 2020年、3月の事。
恒星
僕から見てあの子は、いつも太陽みたいだった。 キラキラ笑っていて周りには沢山人がいる。 人気者で色んな人に好かれる君の事を、 知らぬ間に好きになっていた。 太陽みたいなあの子には、きっと誰にも話せない裏がある。 彼女は完璧な太陽ではないはずだ。 それを全部聞いてあげたい。 僕が軽くしてあげたい。 僕に心を開いて欲しい。 僕を好きになって欲しい。 僕を支えに生きて欲しい。 そうして貰える日を夢見ながら、 僕は君と少しずつ近くなっていった。 告白したらOKを貰えた。 有頂天だ。やっと君の本質に迫る事ができるのだから。 近づいてみても、君は太陽のままだった。 家は裕福で優しい親に適度に躾られ、 昔から良い友達に恵まれ悩んだ事など無いと言った。 人に恵まれているのだと。 僕は諦めなかった。 きっと何かを隠しているはずだ、 嫌われるのが怖くて言い出せないんだ、 この子はそれくらい哀れで、僕が救ってあげなきゃいけないんだ。 何度聞いても彼女は一貫して「悩みは無い」と言い続けた。 頻繁に同じ事を問う僕に怪訝な顔をするでもなく、 ただ少し困った顔で「悩みはないよ」と言うばかり。 交際期間が1ヶ月、2ヶ月、半年と続いても、 君は僕に本性を見せてくれなかった。 その内、この子は本当に太陽なのかもしれないと気づいた。 君には陰りがない。 でも、人間は太陽にはなれないはずなんだ。 「君は太陽みたいだね」 僕が彼女にそう声をかけると、 「そんな大したものじゃないよ笑 笑顔が向日葵みたいだねって言われる事はあるかも」 あぁ君は、そんなところまで太陽なのか。 「ねえ」 「ん?なぁに?」 「別れようか」 「……どうして?わたし、君がすきだよ」 「僕に救われてくれない君は、要らないんだ。」
理想の創造
「この世に君と僕しかいなかったら、どんな世界にしようか」 つらい時はそんな話し合いをよくしていた。 私が彼に提案したのは好きな物ばっかりの世界。 私は目をきらきら輝かせて創造の世界の話をした。 彼は何も言わず笑顔で私を見ていた。 3回目の話し合いをした時、彼は私にこう言った。 「でもどうだろう、 楽しい物ばかりだとつまらないんじゃないかな。 今日、君が夕飯の味付けを失敗したから、 僕は明日から普段の君の料理が 一層尊く愛おしく思えるだろう?」 そうして、その世界には嫌いなものも入れてあげることにした。 少し不便で不自由なように。 ある日は私があまりにも泣いていて、 そんな私をあやす為に彼がこの話題を持ちかけてきた。 彼の腕の中で慰められながら私はこう呟いた。 「死にたい気持ちは、なくしたくないなぁ」 彼は少し目を見開いて不思議そうな顔をした。 「何故だい?君はこんなにもつらそうじゃないか。」 私は少し笑って答えた。 「だって、その世界には貴方が居るもの。 貴方にこうやってあやされたいの。」 貴方は照れくさそうに笑った。 「君みたいな死にたがりは、他に知らないな。」