雲丹丸 音夜

10 件の小説
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雲丹丸 音夜

知識も、経験も、文章力も未熟な癖に小説家になりたいクズ

転生林檎 一番①

人生とは、結局のところなんの変化もなく平凡に過ぎていくものなのだと、でもそれでいいのだと、社会人になってそう思うようになった。 子供の頃は、いつかのテレビで見た歌いながらパフォーマンスをする人になってみたいと思っていた。 でも、どれだけ練習しても、歌が上達することはなくて諦めた。 小学生の頃は、看護師とか人に優しくする仕事に憧れていた。 でも、優しくしすぎて、いい雑用係のように扱われる羽目になった。 中学生の頃は、この世の全てを疑って、変な綺麗事を嫌った。だから、本気でそうは思ってないのに、ネットでイキりまくって今の政治に色々な文句を言っていた。 俗に言う厨二病。 痛い思い出だ。 高校生の頃は科学の授業が好きになった。 元はと言えば、科学の先生の顔がタイプだったのが始まりで、なのにいつの間にか本気で科学にのめり込んでいた。 先生から、「発明家になれるんじゃない?」なんて言われて、本気で目指そうと思った。でも、今となって分かるんだけど、その言葉はよく大人が子供に使うその場しのぎの冗談に過ぎなかった。 こんなにも夢を追い掛けていたはずなのに、必ずどこかで挫折する。 だから、社会人になってからは夢を見ないと決めた。そうしたら、確かに平凡でなんの刺激もないけど穏やかに日常は過ぎていった。 最初はそれで良かった。やっと落ち着けたって思った。 でもある時、テレビで見た冒険家の話が、自分の心に揺さぶりをかけてきた。その冒険家は、皆が無茶だと言う事を幾度となく挑戦して成功させていた。 その姿に私は心惹かれた。 同時に目を背けていたあの感情が、自分の中でふつふつと蘇ってきて。なんだかこの時だけは、この気持ちから目を背けちゃダメだと思った。 番組が終わって、なにかに満たされたような気分で、自分が色んな世界を旅してる姿を思い浮かべいた。 なのに、テレビを消して、音が消えた途端に現実を突きつけられた。まるで上空から一気に地面へ叩きつけられたような、そんな感覚。 (そうか…私は夢追うの諦めたんだっけ…) 目に入るのは明日の仕事に着ていく服と、仕事に必要な荷物が入ったカバン。 真っ暗になったテレビ画面には、髪にターバンを巻いて、くたびれたパジャマを着ている自分の姿。 なんて、情けなくみっともない姿。 あれ、自分ってこんな姿してたっけ。 なんだか、夢を追いかけていた時よりも醜くなっている気がする。 (自分の手元には何も無い…趣味も、得意なことも…) さっきまではこの感情に目を背けちゃダメだと思っていたはずだったのに、今は記憶から消したいくらい。 あぁ、ダメだ。 こんなこと考え続けてたら、負のループだ。 どうせ、明日も早い。 今日は寝よう。 私は、全てを遮断するように布団を頭から被って、眠った。 そして次の日、珍しく私は寝坊をしてしまった。 「あ〜もう!! なんでアラームかけ忘れたの!? 自分がバカすぎるよ〜…」 時刻は8時丁度。 普段は7時半頃に家を出て出勤しているはず。 なので、今日は盛大に寝坊をかましてしまった。 「仕事九時からなのに〜…とりあえず、連絡入れないと」 着替え終わって、トイレに駆け込みその中で遅刻することを社員用のメールで伝える。 こんな時にふと思う。 どうして私は家から1時間ほどかかる職場を選んでしまったのだろうと。辞めればいいという人もいる。事実、私もそうしたい所。でもそう簡単に辞める選択が出来ないのがこの世界の悲しいところだ。 メイクやヘアセットも適当に私は急いで職場へと向かった。 一日はあっという間に過ぎた。 大量の仕事をこなしていたせいか、気づけば昼の時間、そして定時になっていた。 「柳さん、昨日頑張ってくれたし今日は帰っていいよ」 同じ部署で働く同僚の一人がそう言ってくれた。 でも、その人のデスクには大量の資料。誰がどう見たって今私が帰ってしまえば、この仕事の量は確実に明日に回される。 それなら今片付けてしまった方がいい。 「え!いやいや、そういう訳には行きませんよ。私も手伝います。この量は一人じゃ終わりませんよ」 「…いいの?ありがとう〜!! 柳さんって、優しいよね」 すぐに断らないところ、本当は手伝って欲しかったんだろう。 「いやいや!! 人として当たり前のことをした迄で、優しいなんてことは全然」 愛想笑い。 建前と本音。 使い分けてこその社会人。 資料を自分の机に移動させて、パソコンとまた睨めっこ。 きっと、いや、今日も、残業。多分これからもそうなんだろう。 パソコンを打ちながら、ふと昨日のテレビで見た冒険者のことを思い出す。ああいう人は、多分、たまたま得意とするものが才能として開花したからあんな風に有名になってるわけで。 好きなことはあってもそれを才能として開花させられなかった人は、こうして誰にも知られないところで社会の歯車になっていく。でもその方が夢を無理に追い掛けて傷つくよりはまだマシなのかもしれない。 「は〜!! やっと終わった〜!!」 同僚と二人で欠伸をしながら大きく背伸びをして、仕事の終了に喜びを表す。それぞれがパソコンを閉じて、帰る支度を始める。 「柳さん、ほんとにありがとう! 最後の方とかほとんど柳さんにおまかせ状態だったから、帰り遅くなっちゃったね。ほんとにごめん。」 顔の前で手を合わせながら、申し訳なさそうな顔をして同僚がそう言った。 たぶん、心から思ってないんだろうな。 「全然気にしないでください。 私結構あれ好きなので。」 本音は、あなたの仕事が遅すぎて帰る時間がさらに遅れそうだったからやっただけ。 「え!?そうなんだ! あれを好きって思えるのはすごいね〜。 あ、時間も時間だし、どっか食べいかない?」 同僚がそう言いながら、スマホで近くの飲食店を探し始めた。 え、待って。 ただでさえ、仕事を一緒にやってるだけで疲れるのに、社内で酒癖悪いと評判なあなたとまだ一緒にいろと? もうこれ以上は勘弁なんだけど。 「あー…そうしたいんですけど、ちょっと帰ってからやることあるので…すみません」 「あ…いいよいいよ!!仕事手伝ってもらったし、今日はゆっくり休んで!」 「はい。じゃあ、私はお先に失礼します。お疲れ様でした」 「うん!お疲れ様〜」 同僚が笑顔で手を降っているのに対し、私は軽く会釈だけして足早に事務所を出た。そのままのスピードでバス停まで行きバスに乗る。発車したバスの中から見えた外の景色は、なんだか色がないように見えた。 ソレを貰ったのは、バスから降りて、家までの道を辿っていた途中でだった。夜も遅く、普段なら人があまり通らない場所にそのお店はあった。 屋台ラーメンのような小さなお店。こじんまりとしたその店には艶々した真紅の林檎が沢山並べられていた。 好奇心だった。 その小さな好奇心に私は勝てず、そのお店の前で立ち止まってしまった。 「リンゴ、ひとつどうかい?」 店主であろうおばさんは、そう言って自分の手前にあった林檎を一つとった。 何だろう。この林檎を見ていると、どこか意識が、遠くへいってしまいそうな。 「お嬢さん、大丈夫かい?」 おばさんの声で意識が戻る。 「あ、はい」 「このリンゴ、見た目もいいし、味もいいし、」 おばさんはやたらと林檎を勧めてきた。 なんだ。そんなにこの林檎は売上が悪いのか。そう思っていたら、おばさんは一息ついて、静かにこう言った。 「何より、人によっては叶えたい夢を叶えることができるんだ」 なんて胡散臭い言葉だろうと思った。 ここまで来てそんな言葉を掛けられて誰がこの林檎を買うのだろう。売れないのも当然だ。時間を返して欲しい。 「すみません。そういうのでしたら、お断りしていますので…」 背を向けて帰ろうとしたら、「ちょっと待ち」と声を掛けられた。 「一つだけでいい。もらってくれないかの。タダであげるからさ」 「あの、すみません先程も言ったんですけど……」 「お願いだよ!!!」 喋ろうと思ったら上から大きな声で消されてしまった。 「貰ってくれんかの。一生のお願いだよ。 それに、君」 そうして耳元まで顔を近づけ、「まだ諦めてないんだろう」と、言ってきた。 「え……何、が」 心の奥底に眠っている何かを呼び起こされた感覚がした。 あ、ダメだ。 この気持ちを思い出すのは、もうやめようって昨日決めたばかりなのに。 「本当は諦めてないんだろう?なら、貰うべきだ」 店主はニヤケながら私の方を見た。私はこの時どんな顔をしていたんだろう。 「カバンに一つ入れとくからね。」 店主が林檎を私のカバンの中へ入れる。 その一連の動作を私は何故か止めることができず見つめていた。 その後は、なんだか変な気持ちで家まで帰り、ソファに座って貰った林檎をじっと眺めていた。 叶えたい夢を叶える。 それは一体どういう意味なのか。私はずっと考えていた。 叶えたい夢がない訳では無い。 でも、どうせ追いかけたところでこの道は、必ずどこかで挫折するって決まっている。 多分本当は、それを乗り越えてこそ得るものがあるんだろうけど、あいにく私は挫折に対抗できるほどの強さを持ってない。 「本当に、バカみたい」 そう呟いて結局、林檎はそのまま放置した。 次の日になると、そのお店は消えていた。 まるで私のために開かれているみたい。え、本当に、こういうことってあるんだ。 そう思いながら、いつものように出勤した。 日にちを重ねる毎に、私は誘われるように段々とその林檎に対しての好奇心を募らせていった。 手に取っては置いて、また手に取ってはじっと眺めて置いて。 そうやって何日も繰り返すうちに、あのおばあさんが言ってたことは林檎を売りたいがための言葉に過ぎず、本当はただの林檎なのではないかと思うようになってきた。 その思いは、日にちを重ねるたびに強くなっていき、そうしてついに。 林檎をひとかじり。 食べてしまった。

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転生林檎  一番①

語らせてください

雑談です。(というより、私の作品を読んでくださってる方々への感謝です) こんにちは。 突然ですが、いつも見てくださっている方々、本当にありがとうございます。 相変わらず、文章力も全く成長していませんし、技術も無いんですけど。 それでも私の作品を読んでくれる方がいて、いいねまで押してくれる方がいて、本気でライターを目指そうと思っている私にとってそれらは本当に心の支え(?)になっています。 たくさんの人を惹きつけるようなものを書く力はまだ無いですけど、これからも諦めずに書き続けようと思います。 唐突ですが、みなさんは、真似してみたい作風ってあったりしますか?

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僕の住む街がなくなるまで、あと七日

一日目 僕の住む街は、全てが最悪な状態です。 街自体の雰囲気もそうだし、街ゆく人の人間性とか。 最悪なウイルスが次々に発見されて、それが僕の住んでるところでも流行ってるせいで病気が充満しているし、夏は暑すぎるし、冬も短いし、春と秋はいつの間にか無くなったし。 それで、この前政府が「一度この世界を壊す」なんて事を言ったんだ。それで、さらにみんなは怒って、デモ?がどこに行ってもあるんだ。僕はそう言うのあんまり興味が無いから、やった事ないんだけど。でも、確かにこんな世界、壊して新しく作り直したくなるよね。 この状態の世界を維持するくらいなら、新しく作った方がよっぽどマシなのかも。 あ、そういえば、この前久しぶりにアイスクリームを食べたんだ。 やっとアイスクリームを買えるお金が溜まったから、買いに行ったんだけど、そこで詐欺にあったよ笑 値段の割にアイスの量が少なかったんだ。でもそれを言ったら、「仕方ねぇだろ。この時代でアイスの原材料買うのにどれだけの金がかかるか分からんだろ」って言われた。 まあ、分からないと言われれば分からないけど、こっちだってようやく貯めたお金で買いに来てるんだから、割に合う量を出して欲しいんだけどなぁ。まあ、こんな世界だしな。そう思うことにしとこう そういえば、一体この世界はいつ壊されるのかな。政府からなんの発表もないからちょっと不安だな。いきなり壊されるのはちょっと嫌かも。せめて荷物の準備とか心の準備とかしたいからさ。 いつ壊されるかは分からない、とか言われたら僕はデモ活動やろうかな。 外が暗くなってきた。最近、一定の時間になるといつも軍のヘリコプターが大量に空を覆うんだ。だから、昼間でも夜って勘違いしちゃってつい昼夜逆転の生活になりそうなんだよな笑 今日はここまで。 明日も、もし生きてたらこの日記に今日あった出来事とかを書こうかな。

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お母さんに会うまで 【お母さん、どこにいるの?〜前編〜】

この世界ではほとんどの人が、不老不死を願っていた。 老いず、死なず、怪我をしても病気になっても数日ほどで回復し、どれだけ世界が汚くなろうとも永遠に生きることが出来る。 そんな体を。 そしてついにそれは現実のものになった。 ある企業が不老不死になれる薬を開発した。 この薬を飲めば、老いず、死ぬこともない。 世紀の大発明だった。 ただ、デメリットもあった。それは、この薬は一度飲んだだけでは効果があまり現れず、何回も服用し続ける必要があること。 そして、この薬はとても大きな副作用があること。 副作用とは、吐き気が来るとか、髪の毛が無くなるとか、そんなのではない。 人ではない、鬼という存在になってしまう。これが副作用だった。 それでもこの世界の人々は、人外になって大金を払ってまでその薬を欲しがった。今では、街中の至る所に鬼の姿で人間語を喋る不気味な生物が増え、彼らは薬の効果で得た超人的な回復力と体力を使って色んな人に暴力を振るうようになった。 この世界は、不老不死の薬が発明される前よりも、最悪な世界になった。 「お母さん、どこにいるの?」 暗い路地裏の、ビルの隙間から見える満点の星空を、眺めながら、一人の少年が零す。 季節は冬。針がツンと刺さったように肌が痛む冷たさが、この路地裏に漂っていて。そんな中で、今日も鬼たちと共に年端もいかぬ少年は、路地裏を一人歩いていた。 「今日も行くかな、アイツのとこ」 ポッケに入れていた手を出して、スマホで時刻を確認する。 深夜12時半。今日も、この路地裏ではしょうもない喧嘩が繰り広げられるのだろう。 「おい、お前」 一人で目的地まで歩いていたら、声をかけられた。 この特徴的な声は、多分 「何、ですか」 見上げると、鬼が三つの目で俺をじっと見つめていた。 「お前、こんな時間にどこほっつき歩いてるんだ。....なんだ、お前も欲しいのか。 不老不死の薬」 「欲しくなんかない!そんなもの誰が飲むか!!」 「何だと!!」 ヤバい。 そう思った時には体が宙に浮き、息ができなかった。 「ぁ…っ…は…なせ…っ…」 「俺に歯向かうなんざいい度胸してやがる。素直に金を渡してくりゃ殺さねぇ…どうするよ」 苦しいながらに見た鬼は、ニヤケていた。その笑顔が気持ち悪く感じ、それが自分の中での反逆心を一層掻き立てた。 「い…や…」 「……残念だ。 命乞いしてやったのによ」 要望を拒否すると、首を絞める力が強くなっていった。それに合わせて、意識が段々と薄れていく。 頭のなかに浮かんできた母親の顔。 ああ、走馬灯が見えてきた。 俺はこんなとこで終わりか。 お母さんに会いたかった。 会いたかった………な…… 意識が途切れそうな時、声が聞こえた。

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僕は鬼。

僕は鬼。 でも見た目は別に、皆が想像するような鬼の見た目はしてない。 普通の人間の見た目。 目があって、鼻があって、口があって、髪の毛があって、眉毛があって・・・って、鬼もこれくらいあるか。 唯一違うといえば、そうだなぁ。 あ、角がない。 そう、僕には角がないんだ。 でも、じゃあ、なんで鬼なんだろうって思うよね。 それは、僕が、ある人にとって鬼みたいな存在に見えてるかもしれないから。 でも僕は全然その人と普通に話したり、一緒に遊んだりする。 だから僕は一度も自分の事を鬼と思ったことは無いけどね。 だけど時々、その子は僕をこの世のものではない何か、それこそ鬼を見るような目で僕を見てくる。 恐怖に満ちた、そんな目で。 その度に僕はその子に聞くんだ。 「なんでそんな目で見るの」って。 そしたら、その子は少し怯えた目で涙を流しながら、僕を見つめるんだ。 「気づかないの?」って言いながらね。 気づく?僕はもしかして、何かをやらかしているのかな? でも僕は何もしていないよ。 綺麗で美しいものをずっと手元に置いておきたいと思うのは普通の感情でしょ? みんなだって、大切な人からもらった指輪とかネックレスとかそういうの大事にするでしょ。 それと同じだよ。 なのにその子はその感情を否定するかのように僕をいつも鬼でも見るような目で見つめてくるんだ。 そんな汚い目なんて、僕は1度も望んだことない。 泣いてる顔のまま死んでくれたら、ずっと美しい状態のまま保存できるかなぁ。 ダメだ。 こんな考え。 その子は生きてるからこその温かみがあるから美しいんだ。 まだ、その子は死なせちゃいけない。 綺麗なままでいて欲しい。そのために、僕が危険なものを全部全部無くしてあげないと。 さぁ、今日もその子ためにひと仕事しますか。

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無題

およそ50回目であろうアラームの音でやっと目が覚める。 起き上がって大きく欠伸をすると、くたびれた布団から抜け出して顔を洗う。そして、適当に髪とかを整えたら、必要な荷物とスマホを持って外に出る。 イヤホンをスマホに繋げて、スピード感のある音楽をながす。誰とも話すことなく電車に乗り、駅を出て、途中でコンビニに寄り、少し薄暗い路地裏に入り込む。 ここからは、音楽を消す。 イヤホンもしない。 いつ誰に狙われるか分からないから。 両サイドには全てに飢えた人達がネズミのように地面を這いつくばり転がっているが、それには目もくれず、ただひたすらに道を歩き続ける。 そして随分と歩いた先に、だいぶ古びている2階建ての建物が見える。 後ろに誰もついてきていないことを静かに確認して建物の中に入る。 「お、今日も重役出勤やなぁ」 階段を登った先にある扉を開くと、特にこちらを見ることも無く新聞を読んでいるこの会社の社長の天信さんがそういった。 「今日は何回目のアラームで目が覚めたん?30?」 「いや、50です」 特に表情をつけることもなく淡々と言うと、やっとこちらを見た天信さんは「、、、、、、もうわざとちゃうん? 日に日に増やさんでええねん」と静かに怒った。 「いや、わざとじゃありません。何故か増えてしまいます」 そう言い訳すると、「もうええわ」と諦めた表情をしてまた、読んでいた新聞に目を落とした。 自分も持ってきた荷物を机に置いて、とりあえずアイツが帰ってくるまで朝メシでも食べようと思い、コンビニで買ったおにぎりを頬張る。 「あ、そいえば相棒、もう先に仕事いってもうたで」 「どんな顔でしたか?」 「言わんでも分かるやろ」 社長はそう言いながら、頭の上に指でツノを作った。 あ、これはアイツが帰ってきたらシバかれるな、今回は何分ぐらいかな。と呑気に思いながら、残りのおにぎりを一口。 「最近多いなぁ。行方不明者。」 不意に、天信さんが口を開く。 「そうですね。 人体実験の被検体としてまわされてる人もいるとかいないとか」 「乙矢はどう思う?」 「この事件にアイツらが関わってるか、という事ですか?もしそうだとしたら、行方不明者は救って残りは潰すだけです」 「乙矢らしいわぁ」 天信さんがそう言ったところで、会話が途切れる。私はもうひとつのおにぎりを食べながら、昔の記憶を思い出していた。 自分だけの妄想世界と言うので、一度こんな暮らしをしてみたいと思っていたものを自分自身を主人公にして殴り書きしました。エセ関西弁だし、所々文章がおかしいのもそのせいです。 裏の世界の仕事って、普通に生きてたら関わることは無いし、この世界じゃ警察に捕まった自分を想像して出来ないけど、もし、二次元の世界に行けるなら、ぜひ一度は自分の身を自分できちんと守ってみたいなぁと思います。 今回は、裏の世界で起きる厄介な面倒事や事件を力技で解決する組織を書いてみました。 本当にてきとうに書いたので、作品化はしませんが(多分)、書いていて、とても楽しい募集内容でした。

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恋路の果て

『昨夜、大分県大分市内で連続無差別殺人事件の犯人が逮捕されました。』  テレビをつけると出勤前にいつも確認するニュース番組でそんな報道がされていた。 これは今日も忙しくなりそうだな、なんて被害者の事よりも、今日片付けなければいけない仕事のことが頭によぎった。   『職業不明 早乙女爽愛容疑者は、先月から各地で起きている連続女性殺人事件に関係があるものと見られています』  インスタントコーヒーの封を開けマグカップの中へと入れる。そしてお湯を注ぎながら、昨日の夜逮捕した容疑者の顔が浮かぶ。   早乙女 爽愛。 先月から九州だけでもたくさんの被害者が出ている女性殺人事件の犯人。一ヶ月ちょっとで、五十人以上という異常な数の死者を出していて、警察もこの事件を綿密に調査していた。 女を誘惑して、好意を抱かせ、ある程度いい関係になったら殺しにかかる。 あぁ、嫌だ。 考えるだけでも反吐が出そうだ。  捜査から数ヶ月後の昨日の晩、決定的な動かぬ証拠を私の部下が見つけたことにより、彼は呆気なく逮捕された。 夜食のラーメンを食べようとしていた時に証拠が見つかってしまい、麺が伸びてしまったのはなんとも言えないが、今日にでも部下を飲みに誘うのも悪くない。 『早乙女容疑者は昨夜』 そう聞こえたところで、音が止む。 正確にはリモコンで強制遮断した。この次にはどうせ、事件の概要が報道されるんだろう。 そんなの私たちが持っている情報の一部に過ぎないのに、世間はそのたった一部の情報に、まるで手綱を握られた馬のように振り回される。 この世界の人達は、本当にどうかしている。 お湯が注がれたコーヒーに砂糖を入れて息をふきかける。     (どうかしている、といえば、、、)    昨夜の記憶が蘇る。 早乙女爽愛は逮捕されて連行される時に嫌な笑顔を浮かべていた。こういう犯罪には珍しい、清潔さがある短髪で嫌味なくらいに顔が整っている、そんなタイプ。 でもその顔で多くの女性を騙し、傷つけ、命を奪った。 「爽やか」や「愛」からは程遠い、そんな人。 アイツは手錠をかけられた時、一言「これで望み通り」と零した。 職業柄、変人という変人には嫌と言うほど出くわしたが、あれは変人と言うには少し違う気がした。 狂人。 そう呼ぶのがきっと一番腑に落ちるし、昨夜のアイツはそう呼ぶのにふさわしいぐらいだった。 (何が望み通りだ、不潔な短髪オス野郎。余裕かましてる暇があったら更生でもしてとっとと署から出ていけよ) 不意にどこからか湧き上がってくる怒りに心が支配されていく。湧き上がる怒りと抑え、カップに残ったコーヒーを飲み干して、出勤準備に取り掛かる。 飲み干したコーヒーは砂糖の分量を間違えたのか何故だかいつもより甘ったるく、それでいてどこか苦さも感じる、変な味がした。 でも、思う。 こんな私が、まさか、あんなヤツと、恋に落ちるなんて誰が想像出来ただろうかと。

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釣りのマニュアルブック

※釣りは二人以上で行くことをお勧めします。 ① 竿の先に小切手を数枚ほど引っ掛け、思いっきり釣り竿を振り投げます。 ② 竿に反応があるまで辛抱強く待ちます。 (通常時、所要時間約1分未満) ③ 獲物がかかり、竿に反応がある場合、力強く竿を握り、リールのハンドルを回します。 (途中釣り糸が切れてしまった場合は、最後のページに載せられている対処法をお試しください) ④ 表面近くになり、獲物が見えてきたらタモ網で掬いあげます。 これで、“金の亡者”を釣り上げることが出来ます。 釣り糸が切れた時の対処法 ⒈ 糸の端を結び直す 結び方は、ブラッドノットや固結びなどが挙げられます。 ⒉ 切れた糸を交換する 結び直しが難しい場合、新しい糸に交換する事を推奨します。

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休憩でもいかが?

少し休憩でもいかがですか? 今日もお仕事、お疲れ様です。 今日は、疲れに効くアールグレイを入れて、あなたが前に好きだと言っていたケーキやクッキーを買ってきました。 ぜひ召し上がってください。 今日は、お仕事どうでしたか? 小さなミスを繰り返して、少し落ち込んでますか? それとも、段々と仕事を覚えてきて少し嬉しくなった一日でしたか? どんな1日であったとしても、このイスに座ったら全てを忘れてください。 しなければいけない事や、したい事も、一旦忘れて、今だけはこの紅茶やデザートを味わってください。 どんな本だったか。 前にこんな言葉を読みました。 「両手​いっぱい​に​仕事​を​持つ​の​は​風​を​追う​よう​な​こと​だ。それ​より​も,片手​は​休息​で​満たす​方​が​よい」 良いですよね。 この言葉。 日々生活は苦しくなって、お金が無いとどうしようも出来なくなりそうなこんな世界で、仕事をつい優先してしまって自分を休める大切さを忘れてしまいがちです。 でも、もちろん仕事も大切だけど自分をゆっくり休ませてあげることも実は同じくらい大事なんですよ。 どうですか? ちゃんと休めてますか? あぁ、でも勘違いしないでくださいね。 無理してまで休ませる必要も無いんですよ。 少し休みたいなって思った時に、一旦手を止めて目を閉じ休んでみる。 それだけで十分です。 あら、そろそろ眠くなってきましたか? 今日も一日お疲れ様でした。 今日は何も考えずに、ゆっくり眠ってくださいね。

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違うのも、いいかもね

⒈お母さんと私 私のお母さんは行動力がある。 でも、歩くのがちょっと遅い。 私はお母さんみたいに行動力がない。 でも、歩くのはお母さんよりちょっと速い。 お母さんは高いものが好き。 物も服も食べ物も、買うのは基本ちょっといい値段のものが多い。 だから大事に物を扱うことをよく知っている。 私は高いものに興味が無い。 買うのは100円ショップやフリマサイト、古着屋ばかり。 だから大事に物を扱うことをよく知らない。 私のお母さんは、家の中でゆっくり過ごすことが苦手。 でも畑仕事やガーデニングの知識はいっぱい持っている。 私は、家の中でゆっくり過ごすのが得意。 でも畑仕事やガーデニングの知識はこれっぽちもない。 私のお母さんは、料理がとても上手。 お母さんの作るグリルチキンは絶品で、おにぎりなんかは塩加減がすごく丁度いい。肉じゃがも、とても美味しくて、人参の柔らかさだって最高。 私は、料理が下手。 グリルチキンはもちろん、塩加減が丁度いいおにぎりなんか作れない。 それでいて、料理を作っても人参を茹でるのを忘れてしまうため、人参は硬いことが多い。 どれも正反対な親子。 それもいい。 お母さんはどんなことにも効率を重視する。 私も効率を重視する。多分お互い頭の中で色々考えてる。 お母さんはファミレスが好き。 たまにだけどお母さんと行くファミレスは、兄姉だけで行くのとは違う楽しさがある。 私もファミレスが好き。 お互いファミレスの新作には意外と目がない。 お母さんは掃除が好き。 私も掃除が好き。 お互い気になったら取り敢えず掃除を始めてる。 お母さんはお菓子作りが好き。 私もお菓子作りが好き。 お互いクッキーやパウンドケーキをよく作る。 似てる親子。 それもいい。 好きな物とか、価値観とか、全然違う親子。 でもたまに似てたりする親子。 多分、きっと、どちらもいい。 どちらもいいんだろうな。

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