千莵

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千莵

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「先生、今日もお見舞いありがとう。」 そう言って病室で微笑む彼女は本来なら同じ教室にいるはずだった僕の教え子だ。 「先生、今日は何を教えてくれるの?」 「今日はね…」 最近はいつもちょっとした授業をしていた。というのも数ヶ月前、彼女から「いつでも学校に戻ってみんなと授業を受けられるように少しずつでいいから勉強を教えて」と頼まれて、それを承諾した結果だ。 「……今日はこの辺で終わりにしておこう。続きはまた今度ね。」 彼女にそう告げると、 「はい、先生さようなら。」 とにっこりしながら軽くお辞儀をした。その様子を確認して僕は病室を後にする。この流れだっていつも通りのことだ。 でも、僕が次に会話をしたのは1ヶ月以上も後のことになった。 「先生、こんにちは。今日は授業じゃなくてお話をしたいな。」 僕は椅子に座って彼女が話し出すのを待った。 「最近よく考えるんだよね、もしもみんなと一緒に授業受けたり、遊んだり…そうゆう日常が私にまた戻ってきたらみたいなことを」  …君は、何をしたいと思ったの? 「そしたら友達と色々お話ししたいし、部活にだって入ってみたかったけどね。何より、教室でみんなと先生の授業を受けたかった。」 そう話す彼女の声は震えていた。 「私の残りの時間が少ないかもって思ったら、もしかしたら私の想像は想像でしかなくなるのかなって考えたら、悔しくて……でも、だからこそ今のうちにやりたいことをしなきゃって。」  そっか、…僕にも手伝えるかな? 「私がやりたいことはね、お世話になった人たちにありがとうって伝えるの。だから、今、先生にも言うね。」  うん。 「先生、私を1人の生徒として接し続けていただき本当にありがとうございました。私はとても嬉しかったです。残りわずかの時間ですが、もう少しだけ私に授業をしてください。」  こちらこそありがとう。 「本当は直接言えたら良かったんだけれど、恥ずかしくて録音しちゃった……これでも伝わるのかなぁ?」 ここで彼女の話は終わってしまった。 カチッとラジカセは音を立てて、開いたところからカセットテープが見えた。 それを手に取り眺めていると、ラジカセが涙で濡れていた。

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