兎兎
2 件の小説もしもし、お月さま
お月さまへ あなたが夜、一番綺麗に輝く季節になってきましたね。 あなたのことだから、ヨンネルが気になって仕方ないのでしょう。 いつもあなたはヨンネルを見下ろしているのに。 ヨンネルは今日、森に木の実を取りに行きました。あなたとわたしと一緒に食べるためと言っておりましたよ。 でもあなたの好物が分からないと知ってヨンネルはどうしたと思います? なんと見えた木の実を片っ端からかごに入れていったんですよ。そのおかげでかごはいっぱい。帰るのが大変でしたよ。 今度わたしが届けますね。もちろんヨンネルも連れてきますよ。三人でお茶会しましょう。 今後もヨンネルをよろしくお願いします。どうかお身体にはお気をつけて。 追伸 なぜわたしの耳が聞こえないと知っていながら「風見鶏」なんていう名前をつけられたんですか? ぜひ今度筆談で教えてください。 風見鶏より
はなはだしく話す
ある朝、顔を洗うために鏡を見た私は、自分の鼻の頭が真っ赤に腫れ上がっていることに気づいた。 昨日鏡を見た時はこんなものなかったはずだ。 なんで今まで気づかなかったんだろう。 絶対にバカにされてしまう。 腫れは指でつまめるくらいには大きく、触ってみるとぶにぶにしている。触った後の指にはべたっとした皮脂の感触だけが残った。重さは全くなく、感覚はいつもと変わらない。 こんなものが鼻にくっついているのに学校なんて行けない。どうしよう。 そこで私は最悪なことを思い出した。今日、母は仕事に出ていて今はもう家にいないのだ。 つまり学校を休めない。 私は仕方なく学校に行くことにした。 とりあえず顔を洗って昨日の残りのシチューを温めて食べ、長袖の制服に袖を通し、髪は結ばずに家を出る。 私が通っている学校は家から遠く、バスを使う必要がある。 歩いて行く人たちよりバスは楽でいいなーなんて思っていたが、私は今日初めて歩いて登校したいと思った。 バス停に着いた途端、スマホに目を落としながら談笑していた男子四人のグループが私のことを見てこそこそと何か言っている。 案の定聞こえてきた内容は「あいつの鼻やばくね?」「せめてマスクくらいしろよ気持ち悪い」とかいった、大体予想通りのものだった。 鼻が気持ち悪いことくらい私だって分かってるよ。 私の家にマスクはないんだよ。そんなにマスクさせたいんだったらお前たちがマスク持ってこいよ。 そう思っていても口には出せず、彼らの声が耳に入って私を興味津々に見る他の生徒たちや、さっきの男子四人グループに笑われるだけに終わった。 いくら予想通りでも悪口は嫌な気分にしかならい。 というかいいかげん寒くなってきた。十二月だからか長袖を着ていても風が冷たい。運転手は何をしてるんだ。 少し待っているとバスが来た。みんなぞろぞろと乗り込んでいく。そのおかげで私がバスに乗った時には座席が半分ほど埋まっていた。 たまたま余っていた一人席に座り、私を最後にバスのドアが閉まる。 このバスは各地区のバス停で生徒を拾い、学校に向かう。そしてその地区も私たちがいたところが最後だ。なのでこのバスはもう止まって客を乗せることはない。 私に向けられているだろうくすくす笑いを横目にしばらくまどろんでいると学校に着いた。 私は、今度こそはと思いスマホで料金を払って一番に降りる。そして速やかに学校に向かう。もうこれ以上笑われて不快になりたくない。 しかし、学校に着けば笑われないなどと誰が保証しただろうか。 最悪なことに学校ではさっきの五倍くらいの笑いが私を待っていた。 みんなが私を見るたびに、クスクス、アハハ、ゲラゲラと、笑う。 先生でさえも教室に入ってきた時に吹き出す。 なんとかこれを耐えて、昼休みに入った頃。 教室がガヤガヤと騒がしい中、私はお弁当を取り出して図書室に行こうとした。 あそこなら誰もいないはずだ。 そして席を立って教室の扉に向かう途中、一人の女子が私にこう言った。 「その鼻、ピエロみたーい」 それを聞いてみんなが笑う。 私は「あ、あはは、やめてよー」と、少し抵抗をすることにした。もしかしたらやめてくれるかもしれない。 しかし私が抵抗の言葉を言った直後、腫れた鼻の赤い部分が、パン、と風船が割れるような大きな音を立てて爆発した。 爆発した鼻から出てきたのは血や膿みではない。そこから出てきたのは色とりどりの紙吹雪だった。 赤、青、黄色。まるでサーカスにいるようだ。 周りのみんなが目を丸くしている。そして大笑いしだす。 私はそれが嫌で叫んだ。 「やめろやめろやめろやめろ!!私を笑うな!!黙れ!!私を見るな!!」 しかし私の叫び声が聞こえないかのように、今度は一人の男子生徒が言う。 「またいつもの仕掛けか〜?毎度毎度手が込んでるなあほんと。その叫び声も演技だろ?お前ってピエロみたいだよな〜」 その声を聞いた瞬間、私は私の体を自由に動かせなくなった。なぜか自由に声も出せない。 だが勝手に私の喉がこう喋る。 「いや〜よく分かったね。徹夜して準備したのにこんなに早く見破られるなんて。ピエロみたい?ありがとう」 その後も私の意思とは反対に会話は進んでいく。 「なあなあ、もっと面白いことやってくれよ。いつもみたいにさ〜」 「いいよ。次は何が見たい?」 こんなことを話している間に私の周りには大量のクラスメイトが集まっていた。 さっきの紙吹雪といい、今の状況といい、まるでピエロみたいだ。 そういえば誰かそんなことを言っていたっけ。 こんなことも思い出せなくなったのか。 気が狂いそうだ ああ、あ、うぅ 違う私は演技なんてしてない私は徹夜なんてしてないお前たちのために準備なんてしない黙れうるさい私はピエロじゃない私で笑うな誰だお前らは私と話したこともないくせに私に近寄るな私は平凡に生きたいんだ放っておいてくれこっちにくるなこっちにくるなこっちにくるなこっちにくるなこっちにくるなひとりにしてくれ もう何も見えない 空腹も感じない そういえばお弁当を置き忘れたっけ 体の感覚もない なのに笑い声は聞こえる 女性の、男性の、子供の、老人の、たくさんの笑い声が そうしてずっと私は笑い声に晒され続けた 発狂しても、何も感じなくなって無言で立っているだけになっても 私はずっと笑われていた。