蛾
7 件の小説反吐の味
「いい加減にして!!!」 深夜零時に響く怒号、母さんは起きたばかりだった。 自分が風呂を洗わずにずっとリビングで過ごしていたからだ。 仕方ない、病院帰りや寝起きは気分が不安定になりがちな母さんは時に激怒することがあったから。 不安定になる事は自分も同じだったから何も言えなかった、言っちゃいけない気がした。 しかし自分はその時今家に無いもの、買うべきものを調べたりしていたため風呂を洗う時間なんてなかったしそもそも忘れていた。 母さんは怒りながらシャワーだけしに行った。 腕が痒くなって掻きむしった。 ふと冷蔵庫を覗いてみた。するとそこには買ったけど余り使われずスペースの邪魔になっているレモンティーの元が横向きに置かれていた。 それは自分が自ら買ったものだった。 せめてこれだけは消費しようと考えた自分はなにを思ったのか大量に原液を大きなコップに注いだ。 それを中和させるように明らかに原液より少ない水を注いだ後それを一気に飲み干した。 ……不味い 妙な甘ったるさと後味の苦味で吐きたい程不味かった。 まるで反吐のような味だ。 脳が拒絶反応を引き起こしている。 しかしまだ約3〜4杯くらいの原液が残っている... 自分は身震いし、またコップに大量の原液を注いで原液より少ない水で薄めたものを飲み続けた。 最後の反吐を飲み干した時、自分は嗚咽し飲んだ物全てを吐きたくなった。 体が冷えてしまったようで若干寒い。 腹に液体が溜まっているのを感じながら安心するため窓を眺めた。 だが窓を眺めるだけでは安心できなかった。 空は少しずつだが明るくなっている、また徹夜してしまった。 朝になれば飯を食い、買い物へ出かけなければならないのだがどうしても飯を食う気にはなれなかった。 体すら動かしたくなかった。 しかしどうしても買い物へは行かなければならないという気持ちが強く、自分は苦しみながら店へ向かった。 しばらく舌がザラザラとし、あの反吐のような味が離れなかった。 ちなみにレモンティーの賞味期限も消費期限も切れておらずまだまだ先だと言うことを知った時は一気に吐き気を催した。
親愛なる貴方へ 殺意と敬意を込めて
拝啓、親愛なる貴方へ。 信じた物全てが嘘でした。 友達と思っていた人達みんな違いました。 貴方達は私を裏切りました。 全ての努力が水に流されました。 雨は一生止みません。 月にも星にも出会えません。 私の聲は雨で溶けて無くなりました。 そこで初めて私が自らやった事を理解しました。 人と関わる事すら出来なくなりました。 矛盾が生じました。 貴方に声をかけようとしました。 耳鳴りがしました。頭痛がしました。フラッシュバックを起こしました。 深夜に枕を濡らしてばかりいました。 弱い虫はいつでも鳴いています。 弱い虫は一生死ねませんでした。
明晰夢
生きろって言葉も、死ねって言葉も、所詮人のエゴでしかないのだろう。 それしか言えない生物なのだから、人間は。 全く哀れな生命体である。私も、皆も。 今日もトカゲの尻尾切りをし、罵声浴をして、 最後にはきっと縊死してしまうのだろう。 神は本当に馬鹿なものだ、実に。 ______________ 「私は恋愛ものが大嫌いだ。」 無愛想のセルビア先生は一つの小説に向かって呟いた。 「先生、何故?」 私は一つの小説を手に取り質問した。 セルビア先生は恋愛ものが何故か大嫌いだった。 この世界では男で恋愛ものを嫌う者はセルビア先生以外居なかった。 男性であるセルビア先生は恋愛もの全般を嫌っている様子だったのだ。 数秒の沈黙の後、セルビア先生は言った。 「愛という無意味な感情は見たくないもので。」 足を組み変え続けて話した。 「恋愛という物は実に無謀でしかないのだ。何故神は繁殖の為にそんな面倒な事をしなければ増えないという脳を追加したのだろうか。」 「きっと人間の感情は知らぬ間に出始めたんですよ。」 「…」 セルビア先生が黙ってしまった。 顎に手を翳して固まっている。 どうやら自身の思考の中に入ってしまっているようだ。1度こうなってしまえば戻るまでどうにも出来ない。 私は棚から本を整理していた。すると、恐らくセルビア先生のことが書かれた本が見つかった。 読もうかしばらく悩んだ後、私はペラペラとページをめくった。 ────────────────── 神について考え、今度は恋愛について考える 今日もトカゲの尻尾切りをし、罵声浴をして、 最後にはきっと縊死してしまうのだ。 覚めない夢見て何になるのか。 きっとまぁ、考え疲れた時には答えが出ているはずだろう。
まともじゃない絵師
ⅠⅥⅦⅨ年2月17日 Twitterでとある絵師が突如として誕生した。 その名も『AIMagical』 Magicalは性別、身長、生年月日、血液型すら公開していない絵師だった。 ここでは性別が不明な為想像だが、「彼」と呼んでおこう。 彼は瞬く間に人気者となり、彼の絵は沢山もの人を魅了させた。 彼は皆から「未来のゴッホ」や「絵描きに進化したAI」とも呼ばれ、彼に向ける歓声は鳴り止まなかった。 ある日突然深夜にあるイラストが投稿された。 その絵の名は「心理」。 人の心理を表したイラストだった。 お洒落な中庭にある椅子に腰掛けた美しい女性が紅茶をのみながら、テーブルにある大きな本を読んでいるというものだった。 基本的明るく美しいイラストだが、どこか暗く寂しいものだった。 まるで誰かの心理を覗き込みそのまま描き表したかのような、 とても不気味な絵だった。 皆この絵について沢山もの考察をした。 「Magical自身の心理を表しているのでは無いか。」「Magical自身か?」など、様々な考察がされた。しかし真相は謎のままだった。 この日以来、彼の絵はどんどん暗くなって行った。 9月12日 彼の絵の雰囲気が激変した。 投稿された絵の名は、「狂」。 絵の内容は暗い部屋の中心に人が居た。その中心の人の特徴を見てみる。 髪は茶と黒色のショートだが、よく見ると髪を結んでいる為肩ぐらいのロングだろう。性別は顔つきから見て恐らく男性だろうか。 服は黒いパーカーを着ており、よく見ると少しだけ切れている部分がある。 頭を抱え、泣き笑いをしている。所々に怪我をしており、正確では無いが恐らく30ヶ所怪我をしている。 この絵についてまた様々な考察が繰り広げられた。 「Magicalは男性か?」「怪我は自傷跡では無いか。」「病みイラスト?」など。 この絵には説明が付いていた。今から読み上げよう。 「人生は醜くて、でも明るくて、でも暗くて、やっぱり明日生きたいな。でもちょっと待って。本当はそう思っちゃいないのかな? やばい明日が来て今日を持っていってる。でもさ、お空に行きたいんだったら早くしちゃえばいいのにって思うのに、だーれも実行しないんだよね。そういえばさこの前目の前でバーンって、 グチュッって、おもしろいことがおきたっけ?」 (「狂」より) この説明は不可解な物だった。 この説明に対する考察 「「やっぱり明日生きたいな」の後の「本当はそう思っちゃいないのかな?」は「明日生きたいけど、本当はそんなこと思っていないのかな?」という意味ではないか。それに「お空に生きたいんだったら早くしちゃえばいいのにって思うのに、だーれも実行しないんだよね」=「「死にたい」って言ってるなら、早く死ねばいいのにって思うのに誰も死なないんだよね」だと私は思う。」 これに対するツイート 「失礼します。僕なりの考察を書かせて頂きます。その後の「そういえばさこの前目の前でバーンって、グチュッって、おもしろいことがおきたっけ?」は「そういえばこの前目の前でバーンって(何か事故?事件?が目の前であった?)面白い事(Magicalにとってこの悲惨な事は面白かった?)がおきたっけ?」だと思います。」 と言う考察ツイートが人気になった しかしそれでも彼は何一つ明かさなかった。 12月4日 彼はこの絵以来投稿を突然としてしなくなった。 絵の名は「お茶会」 その名の通り、天使の輪っかと羽が付いた男性と、神様らしき人がお洒落なテラスでお茶会をするという傍から見たら可愛らしい絵だった。 しかしこの絵には沢山の文字が隠れていた。 例えば男性の輪っかと羽にはモールス信号。 神様の髪には文字化け(絵の説明にも文字化けがある)。 ポットには英文など、 細かな部分に文字が隠れていた。 正確ではないが解読をしてみる。 男性の羽「-・・-・ -・--- ・-・ ・- ・-・・ ・・・ ・-・ ・- -・・・ -・-・ ・- -・--・ --・-・ ・- ・- ・-・・ -・-- ・-・-- ・・・- --- (何も見えない。分からない。自分は今何処にいる。苦しい。辛い。誰か助けてくれ。)」 男性の輪っか「・- ・- ・-- -・・・- ・-・-- -・・-・ ・・- -・-・・ ・-・-- ・- -・ ・・・- ・-・ ・- ・・-- ・--- -・- --・-・ -・ ・・-- -・・・ -・ ・・ (暗い。怖い。やめて。もう生きていたくない。自分の人生を狂わしたのは誰だ。)」 神様の髪「閾ェ蛻??逕溘″繧区э蜻ウ繧偵↑縺上@縺溘?(自分は生きる意味をなくした。)」 ポット「I don't want to sleep anymore. Every time I go to bed, I get killed. I don't want to die anymore. I can't take it anymore. I don't want to.(もう寝ていたくないんだ。寝る度に自分が殺される。死ぬのはもう嫌なんだ。 もう耐えられない。嫌だ。)」 これは彼自身の心理を表した物。つまり、これこそ本当の『心理』なのだ。 彼は恐らく寝る時に見る夢に苦しませられてる様だった。 それ以来彼は投稿をしなくなった。嫌な予感を感じさせることを彼はしていた。 彼が投稿をしなくなった前の日に、彼はこんなツイートをしていた。 「しばらく居なくなる。」 この一言だけだった。しかしこの一言だけで世間は騒がしくなった。 「やめて!居なくならないで!」「ゆっくり休んで」「待ってよ!」など、 恐らく皆は彼が投稿した絵の事で彼が死ぬと思っていた様だった。 その嫌な予感は的中。彼は12月25日。 そう。クリスマスの日にこの世を去った。 死因は自殺。死ぬのには恐らくナイフを使ったのだろう。心臓部にナイフが刺されていた。他殺の可能性も考えたが恐らくそんなことは無いようだ。 このニュースは瞬く間に町中に広がり、多くの人々が涙を流した。
最後の紅茶
私は、生きる価値を見いだせない。いや、自分の利用価値が分からない、と言った方が良いだろうか。 「私は小説家である。匿名の存在として、言葉を紡ぎ出すことが私の生きがいである。そんな私が描く物語は、誰もが想像することのその小説のように、私も自信を持ちたかった。その小説は、緻密に構成されたプロットと鮮やかな描写力によって、読者の心を鷲掴みにした。私は、そのような素晴らしい作品を読んでいるだけで、自分自身も何か偉大なことを成し遂げられるかのような気がした。 小説の中で描かれた世界は、細部まで綿密に描かれており、読者はその中に没入することができた。その世界における登場人物たちは、それぞれ独自の個性を持ち、読者に深く共感させた。特に主人公は、自分自身に対する自信を深め、自らの運命を切り開いていく姿勢によって、読者に強い印象を残した。 小説の文体も非常に洗練されており、読み手を飽きさせることはなかった。」とある小説の一部である。 私はこの小説に完全に魅了された。著者は巧みに筆を振るい、情景を緻密に描写している。 この小説の作者は3X○5年にこの世を去ってしまったが、その作品は今なお世界中で読み継がれ、その人気は衰えることを知らない。 その作者の小説は人間の感情をまるで全て見えているかのような内容の物が多く。中には、「神々を肯定する者もいれば否定する者もおり、善悪については明確な見解を示さない者もいる」と言う神々に対する事も書いていた。 ー私もそんな完璧な小説家になりたかった。 彼とのお茶会で私は彼にそう言った。 白く美しい屋根と柱。美しい自然。テーブルに広げられた本と紅茶、 全て彼が私の為に用意したものだった。 彼は口を開いた。 「僕は、好きで書いているだけなんだ。完璧になろうとは思っていない」 そう言い終わると、紅茶を一気に飲み干した。そして、「では、ここらへんで...」と席を立った。 ー そのお茶会以来、彼は一度も姿を現さず、静かにこの世を去った。 彼が逝去したという報せは、彼が既に3日前にこの世を去っていた後に伝えられた。 その話題は瞬く間に町中へと拡散し、無数の人々が悲しみに包まれた。 おそらく彼が死亡したのは、私とのお茶会後だったのだろうか。 紅茶には毒性はなく、紅茶に対するアレルギーもなかったため、私は無罪とされた。 友人が彼の部屋に足を踏み入れた時、彼は寝室で意識を失っていたという。医師が到着した時には、彼はもうこの世にはいなかった。 彼は匿名で小説を執筆していた。彼の真の身元を知るのは、ごく限られた家族や友人だけであった。 私は、その友人の1人であった。 そう、だから彼の名を知っていた。 彼の名は この物語は、いつの時代になっても語り継がれることだろう。そして、今この文章を読んでいるあなたもその一人だ。 「さあ、そろそろ彼のいる場所へ向かう時だ。」 私は自分自身に向かって銃を構えた。 この時、私は自分の身を守るために、そして彼を止めるために、この選択をした。 私は一瞬ためらったが、その後、決意を固めた。 私は銃口を自分の額に向け、深呼吸をした。 そして、指を引いた。
守ることに疲れた天使
ある協会の中に、誰かを待っている天使がいた。 その天使はいつも自殺しようとしている人を救っていた。 ある日、天使は1人の人を救うことが出来なかった。 その日以来、罪悪感で天使は人を救うのに苦労する様になり、時折救えなくなっていた。 天使は自分より他人を救う事ばかり考える様になり、自分のことなんざひとつも考えなくなった。 天使は度々考える (何故救えないんだろう。どうやったら死者を無くせる?僕が天使である理由を考えるんだ。) ある夜、天使に1人の悪魔か語りかけて来た。 「死にたがる人はもう手遅れだ。救う意味なんざ1つも無い。潔く諦めろ。」 悪魔はそう言うと、帰ってった。 天使は涙を流しながら独り言を言った。 「手遅れなのは知ってるよ。でももう死ぬ所を見るのは辛いんだ。」 天使は自分を責めた。いくら手遅れでも、死ぬのを見るのは精神的に苦痛だったからだ。 どんどん人が消えてゆく度、天使は自分を責めた。自問自答を繰り返す日々だった。 ある日、天使は疑問に思った。 (僕は天使である必要があるのか?人々を救って何になる?) 天使は人々を守る事に疲労を感じ始めた。 ある夜、また悪魔が天使に語りかけてきた。 「何回言ったら分かるんだ?もう手遅れだと言う事に。他人より自分の体をもっと大事にしろ。」 天使はそれを聞き、悲しみと怒りを合わせた感情で泣き叫んだ。 「お前は何なんだ!?僕は手遅れだと言う事はとっくに分かりきっている!自分の体を大切にしろ?それをしたくても出来てないから人を救ってるんだ!」 「でも人は1人も救えてないじゃないか!もっとほかに考えるべき問題があることは分かりきってないんだろ?!」 「っ...!」 「諦めて潔く救うのを辞めるんだ。無意味だから。」 そう言うと悪魔は帰ってった。 昨夜悪魔が言った事が、天使の心に引っ掛かっていた。 翌朝、天使は人々を救うのを辞めた。 天使は守ることに疲れたのだ。 人々を救う事を辞めた天使は、羽が日に日に黒ずんでゆき、輪っかも溶け始めていた。 天使が堕ちた時、その姿は完全に悪魔となっていた。 「やっと分かったよ。人なんか救わなくても良いんだ。意味なんか無いから。」
黒い羽を持った鳥
僕は生まれ持った黒い羽を持っている。 みんな鮮やかな色なのに僕だけ黒色の羽を持っている。 何度色を重ねても いくら綺麗に着飾っても どうしても黒い羽を好きになれなかった。 ある日、ピンクの色をした子と、水色の羽を持った子が、僕の方を見て笑っていた。 僕は羽の事だと思い込んだ。 それから僕はその事が心に残ってずっと悲しかった。 ある日の天気雨、白い綺麗な小鳥が僕に話しかけてきた。 「君は君のままでいいよ。十分鮮やかな色じゃないか。」 「無理に自分を変えなくたって、人にはその人だけの良さがあるんだよ。」 白い小鳥はそう言い残すと綺麗な羽から水飛沫を飛ばしながら飛びさってった。 その後ろ姿は堂々としていて、宝石の様な雨と、 スポットライトの様な光に塗れてて、まるで、勝ち誇るヒーローのようだった。 「そっか、僕には僕だけの良さがあるんだ。」 僕の黒い羽は雨に濡れてた。でもその時だけは、いつもよりも綺麗に見えた。