シュウア
21 件の小説女子学生の日常 2
「でね、まんまるのリンゴができちゃって、、、」 「それは魔法陣の右上、外から2番目の環の記号を描き間違えたんじゃない?あと、魔力の糸が太かったとかね。」 「うぅ、あの記号最後の線突き出すだけで意味変わるのトラップだよぉ、、、。」 「基礎練の一つなのだから魔法記号ドリルを欠かしちゃだめよ。おかあさんだって週に1度はやってるのよ?」 魔力の糸を菜箸のように2本の棒に成形し、私と棒を繋ぐ魔力の糸を切らないで繋いだままにする。 この状態だとこうやって、、、! 成形した菜箸で大皿にあるサラダのトマトをひょいとつかんで私のお皿に持ってくる。 「こら。普通に自分で取ればいいでしょ。なんでわざわざ魔力を使うのよ。」 「おかあさんだって料理の準備は魔法使うじゃん。」 「おかあさんが使う魔法は最近仕事で作った魔法で、実用化できるのか実験を兼ねてるの。」 「ゴーレムは?」 「ゴーレムは、、、大して魔力を使わないからいいの。」 おかあさんをじーっと見つめる。 「わかったから、ごめんなさい。食べ終わったら練習手伝うわ。」 「やったぁ!」 急いでご飯を掻き込む。 「そんなに急がなくたって私は逃げないわよ。」 「はやくやりたいもん!時間取れるし。」 「勉強熱心ね、、、。私に似て。」 鮭、最後の一欠片を口の中に放り込んで。 「ごちそうさまでした!」
女子学生の日常
羽ペンを持ち、参考書を見ながら魔法陣を空に描いていく。 「あ、ちょっと歪んだ、、、最悪。」 明日は実技テスト。 魔法陣の補助アリなのがまだ嬉しいところだけど。 最後の記号を描き終え、魔力を込める前に少し下がって参考書と見比べる。 「うーん、、、。やっぱり歪んでる。どうやれば上手くできるのかな。」 クラスで一番の子はすらすらと描きつつ、歪みのない美しい魔法陣を空に描き上げる。 先生も含めてみんな惚れぼれとする出来栄えで、憧れだ。 明日のテストは魔力を編んでリンゴを作るテスト。 この魔法陣は紡いだ魔力の糸をリンゴの形に編んでくれるもの。 魔法陣が歪むほど出来上がるリンゴが歪に、崩れやすくなる。 浮かぶ魔法陣の線に合わせて魔力の糸を乗せていき、魔法陣の中心部に魔力の糸が行き着く。 そこに少し多めに魔力の糸を盛り、呪文を唱える。 『アプリフィケンション』 魔法陣が強く輝き、光が消えると、赤いボールが出てきた。 否、ボールではない。 まんまるな真っ赤なリンゴだ! 「やっぱり失敗だよ、、、。」 こんな状態で明日のテストを迎えると大恥をかきそうだ。 「寧々ー!ご飯の用意手伝ってー!」 もうこんな時間!? 食べ終わってから続きをやろうっと。 − 階段を降りてキッチンを覗くと、キッチンで数々の魔法陣を描くおかあさんの姿がいた。 私のおかあさんは国立の魔法大学を首席で入学したすごい人。 だからああやって利き手じゃない方の手でも魔法陣を描いて発動させることができる。 「ねぇ、おかあさん1人で準備終わりそうだよ?」 「そんなことないわ。ほらゴーレムとお茶碗とお椀持っていって。」 ゴーレムの呼び出しは魔法陣が不要なほど初歩的な魔術、、、ではなくて。 家事に役立つからって、幼少期から徹底的に叩き込まれていただけ。 だから魔法陣を挟まなくたって魔力を編むことができる。 「ゴーレム、いつも通りお願いね!」 ゴーレム達と一緒にご飯の用意をして、席に着く。 「今日は鮭だ!いただきます!」
悩み
いつからだろうか。 小学校を卒業したあたり? いいや、4年生になった頃だろうか。 …私は信じられなくなった。 生活には支障はない、はず。 ただ、家族のことがわからなくなった。信じられなくなった。 オーブントースターを開けるとふわっと辺りにパンの香りが広がる。 子供が自ら朝食を用意する行為はどうやら世間一般的に普通じゃないそうだ。 いや、それがなんだ。そう言ってしまえばそれで終わりの、そんな小さなささくれ。 そのささくれを何度も触って痛みを感じている私は一体なんなのだ。 被害者ぶっていたいだけ。 可哀想でいたいだけ。 …。 電気もついていないリビング。 母親はもう仕事。兄弟は学校。父親は在宅ワークの為、まだ寝ている。 「もう、こんな時間。急がないと。」 今日は自分も学校だ。 こうやってぼぉっとぐるぐる考えている訳にはいかないのだ。 − 学校からの帰り道。 いつもは部活の子と楽しく話しながら帰るのだが、今日は朝から引き摺っているから一人で帰ることにした。 大きな枯れ葉を音を立たせながら踏み潰す。 よく両親と兄は喧嘩をする。 私と兄の歳の差は10歳差だ。 両親は共働きで、小さい頃からずぅっと一緒にいた兄。 無条件の信頼を寄せたくなる両親。 私が信じていた考え方同士が対立している。 私はどの立場にいるべきなのか。 今を生きる兄の意見に賛同するべきか。 昔の教訓と大人の目線をより持っている両親の意見に賛同するべきか。 …あぁ、わからない。 ぐちゃぐちゃになって崩壊していく思考のように、兄と両親の喧嘩もさすが親子と言ったところだろうか。性格が似ているせいで意地を張るところが同じでずっと終わらない。 そんな喧嘩の仲裁に入って双方を宥めるべき? そもそも私が中立で居れるのだろうか。 心臓をギュッと掴まれる。 針でさらに心臓を撫でる。 横の景色をチラリとみると昔よく遊んでいた公園だった。 思い出される記憶に両親の姿が少ない。 そもそも私はきちんと両親に見て、育てられているのか。 撫でるで済んでいた針が勢いよく心臓に突き刺さった。 胸がずくりと痛む。 まるで、心をリスカしてるみたいな。 転がっている木の枝を軽く蹴り飛ばして前を見るともう家に着いていた。 今日もこれで終わりだ。 ...私はこの納得できない問題をまた先送りすることを選択した。
状況の変化 ❶
憎らしい容疑者が嫌いなはちみつ入りのレモンティー。 ストローに触れる。 からから 氷が場にそぐわぬ音を立てる。 私はそのレモンティーを勢いよく容疑者の前に置く。 「これ、あげる。私の気持ちどうか受け取って?」 お財布からレモンティー分のお金を出してテーブルに置く。 あくまで私が正しいという主張を崩さぬように焦らず立ち上がった。 「ばいばい。」 店員に軽く会釈をして、お店を出た。 からん ドアベルがドアが閉まると同時に鳴る。 もう聞こえるはずがないのに、静かに息を吐く。 「家、帰って、一回落ち着かないと。 まだ、気のせいかも、しれない。」 そんな希望的観測を抱いて、重い足を無理やり動かしながら家路についた。
5回N1の感想回
予選の方の話 皇帝のあの話は見ての通り「帝国」がテーマでした。 両親が優秀で自分は必要無いんじゃないか。というような気持ちを抱いていた主人公が国民のために成長する物語です。 裏話− ラストはかなり迷走しながら書いてました。 歴史学者からルージェランカのその後を語ってもらうことは決めていたのですが、どういう経緯なのかを決めていなくて、大変でした。 皇帝の物語の舞台は趣味でメモに溜めていた異世界設定集から引っ張ってきたもので、気候の特徴や地名、宗教に関することは予め決まっていたので書きやすかったですね。 決勝の方の話 赭、「あか」と読むんですが、そっちの方は「自業自得」がテーマでした。 常識に欠けた主人公が周りの人から裏切られてそのまま生きる理由を見失う。みたいな物語です。 警察が疲れてたのは前日の夜からノンストップで捜査していたからです。 途中で思い出した記憶とは、高校時代、同級生が死んだショックで一部記憶が飛んでいた部分です。 その死んだ同級生は主人公のいじめによって自殺していて、多田華奈はその子と仲が良かったです。 同級生が死んだ後、八つ当たり的な感じで多田華奈がいじめられていました。また多田華奈はそのとき精神病を発症していました。 親友は小学校高学年の時に主人公に容赦なくいじめられていました。 あるとき多田華奈から連絡をもらって、精神が限界で…などの理由で親友が殺した訳です。 裏話− 個人的な意見をもりもり入れて親友に喋らせてます。 特に謝られたくないから思い出さなくていいっていう部分です。 謝ってほしいけれど、そんな言葉だけで全部済ませられたくないという感情ですね。 さて途中でできた駅、真赭駅は「まそお」と読みます。赤色の一つで、ちょっと暗めなオーロラソースのような色です。 タイトルの赭は「あか」以外にも「そお」と読めるんですが、これも赤色の一つです。こっちは暗い朱色のような色で赤土の色でもあります。 どちらも古来からある色で風情を感じるので是非調べてみてください。 最後に− まだ順位は出ていませんが、楽しく書けたので参加してよかったです。 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
赭(※きつめの内容入ってます。)第5回N1決勝
「今日の天気は晴れです!ここ最近雨でしたので、久しぶりの洗濯日和で助かりますね〜…」 鏡と睨めっこをしながら朝のニュースを左から右へと聞き流す。 「よし、今日も完璧…!」 ヘアセットよし。メイクよし。スーツよし。 あたしのビジュよし! そんなことをしているともう出る時間。 「お母さん!行ってくるね!」 「はい、気をつけてね。」 − 今日は金曜日。明日は週末! 時に日曜日は…。 ピロン 軽快な音が電車に響く。 「あ、ラインだ。」 急いでスマホを開くと、高校時代の同級生で今も仲のいい子からの連絡だった。 【日曜の飲み会、どこ集合だっけ?】 そう、日曜日は近況報告会と称した飲み会なのだ。 【確か、真赭駅の広場だった?】 【信用ならないなぁ…w】 「全く、なんで聞いたのよw」 少しくすくす笑っていると、会社の最寄り駅である真赭駅に着く。 「やっば!」 ただ、いつも通りそれに気づくのはドアが閉まるギリギリで、慌てて電車を飛び出たのだった。 − 「きゃあああああ!」 仕事が終わり、夜食を買おうとコンビニに向かう最中。突如駅の広場に叫び声が響いた。 「なんなの…うるさいなぁ。」 「まぁまぁそんなこと言わない、ね、紗枝?」 そう言って話しかけてきたのは、小学校からの親友だった。 「夜食選んでるところ邪魔されたんだよ?至福の時間を!」 あたしが心から信頼している唯一の友達。 「…まだ、だめなの?」 「あたしだってこんな風に思ってたくないけど、何故か不安になるんだ。 突然、みーんな、あたしのこと裏切るんじゃないかって。」 二人の間に赤色の光が差し込む。 彼女の頬が真っ赤に照らされる。 パトカーだ。 「…夜食はやっぱいい。帰ろ。」 「そうだね。早く帰ろう。」 − ピーンポーン 「は…い!け……、え!」 「お母さん、どうしたの?」 廊下をどたばたと音を立てながら走ってくるお母さん。 「警察!県警が紗枝ちゃんに用事だって!」 へ…? あたし何かしたっけ…? 少し不安を覚えながら玄関まで行くと、疲れた表情をしている警察官がいた。 「須賀紗枝さんでお間違えないですか?」 「はい…。あ、あの…あたし、何かしましたか?」 重そうな瞼を大きく開けたかと思ったら、またすぐ戻して、一言。 「質問をいくつかしますから、それに答えてください。」 は。 今の警察ってこんなんなの? ありえない。 あたしが聞いてるってのに……! 「須賀さん?聞いていますか?」 「……。はい。質問をどうぞ?」 手元のメモらしきものに何かを書き留めながら質問を投げかけてくる。 「多田華奈さんをご存知ですか?」 多田、華奈? あぁ、いた。そんな女。 あたしが嫌いな高校の同級生。 「えぇ、多田がどうかしたんですか?」 「昨夜はどちらに?」 また? あんたは質問するっていうのに、あたしは質問をしちゃいけないっていうの? ほんと、腹立つ…。 「いつも通り会社から真っ直ぐ帰宅しましたが?」 「質問に答えてください。会社からどのようなルートで帰宅したかを聞いているんです。」 「…もう、質問には答えない!帰って!」 その場を動こうとしない警察に、怒りをぶつける。 「あたしの質問には答えず、図々しく文句言わないでよ。警察だからって人のこと見下してんじゃないわよ!」 「…職務を遂行しているだけなのですが。 …。後日また来ます。ありがとうございました。」 ばたん。 冷たくドアが閉まる。 「ほんと、なんなの。」 文句を言うためにSNSを開こうとするとネットニュースが目に飛び込む。 【昨夜、〇〇県真赭駅で二十代の女性が刺殺される。犯人は現在も逃亡中。】 記事をタップして、ざっと読む。 「は…あ、あ…あぁ………。これっ…。」 口から息と掠れた声が洩れる。 「被害者、あの多田なんじゃ…。」 「っあ。」 あの警察、あたしのこと、疑って、る…? − 日曜になった。 気分は晴れない。 けど…! 「かんぱーい!」 今日は飲み会! 枝豆をつまみながらみんなの話を聞く。 「うちの彼氏さぁ、会社のきもい後輩に誑かされててさ?この前、その後輩にお弁当貰ってたのよ!」 「えー、流石に浮気じゃない?」 「やっぱそうかなぁ?別れよっかな。」 愚痴話で盛り上がっているところに新たな燃料を投下する。 「あたしのとこに昨日警察きたんだけど、態度がやばくてさぁ。」 からん。 氷がグラスにぶつかる音だけが耳に入る。 「ケーサツ?あんたなんかしたの?」 諸々の事情を説明をする。 「えー!そのケーサツやばいねw」 その反応にあたしは密かに胸を撫で下ろした。 それからしばらくして、盛り上がっているところに入る。 「あたし、トイレ行ってきていい?」 そう言って席を立った。 − あれ、ハンカチ置いてきた? 「…やばいよね…“紗枝“。」 「そーねw」 「てか思ってたけど。紗枝、多田のこと忘れてるよねw」 「“いじめ“てたってのにねぇ?」 いじめ…? 「そりゃ警察も疑うし家くるよね。そのうえ文句言ってるとか…ね?」 「“自業自得“なのにw」 声が、遠くなる。 「…う、げ。きもぢ…わるっ…」 口を手で押さえて急いでトイレに向かう。 「おえ“っ…はぁ…うっ…う“…。」 あたしは、何も、してない。 違う。 ちがう。 ちがう。 ちがう。 ちがう。 ちがう。 みんなが裏切ったんだ。 ちがう。 あたしは多田にいじめなんかしてない。 してないんだ…! ピロン 【私の家で二次会しない?】 それを送ってきたのは親友だった。 今のあたしにとって女神のような存在。 【今行く。】 そう返信し、喉に溜まった胃酸を吐き出してからトイレを出る。 「戻んなくちゃ。」 バックは取らないと、帰れないから。 「帰る。」 部屋に入ってすぐそう言ってバックを取る。 「…。っあ!も、もう帰るのっ?」 全くあたしの事なんか気にも留めていないと言わんばかりの反応に絶望感を味わう。 「…。じゃ。」 ドアを開け、一言だけ呟いた。 はやく、離れなきゃ。 あたしは無我夢中で走った。 − 生臭いにおい。 眉を顰めたくなるようなにおいに目を覚ます。 「ここ、どこ?」 真っ白で不気味な部屋には、マネキンのようなものがあった。 立ち上がって、近づくとにおいが強くなったのを感じる。 また、マネキンの周りの床が少しピンク色に染まっている。 「……………ぇ。」 マネキンの顔をこちらに向けようと触ったときの感触、それは正しく“人間“のものであった。 好奇心か、怖いものみたさか、現実を飲み込めていなかったのか。あたしはもう一度触れて、顔を見た。 記憶が暴れだす。 頭がぐるぐるしていたい。 ……。 ……。 数秒を数時間と感じさせるほどの痛みを感じた。 ガチャ ドアが開く。 人が入ってくる。 「人ごろしさん。」 「その様子だとやっと高校の時のこと思い出したんだ。は、おっそ。」 「どう?昔いじめた多田のその顔。幸せそうでしょ?」 「何その顔、あはは。多田を殺したのは私だよ。 紗枝の親友である私がね。」 意識が、遠のく。 「ねぇ!なんで寝ようとするの?せっかく高校のこと思い出して、昔あんたが殺した子を思い出して、多田のことだって思い出したっていうのに。」 「自分の行動に責任を持たず、人を殺したショックで罪を忘れる?そんなの許されるわけないでしょ。」 冷淡な彼女の瞳があたしの心臓を貫く。 ぱしん。 頬を叩かれた…? じーんとした痛みを感じる頬を抑える。 「まぁ、あんたの事だから私のことだってまだ思い出してないでしょ?」 なんのこと…? 「いいよ、思い出さなくて。 だからずっとこうやって。」 ばちん。 鞭で打たれる。 「痛みを味わって?」 − あれから3日ほど経った…はず。 ようやくあたしは状況を理解できるようになった。 「まず、多田は彼女に殺された。 あたしは彼女に監禁されて、暴力を振るわれている。 あたしは高校生の頃、人をいじめていたらしいってこと。 ご飯は1日二食、って足りないよね。」 いじめ、か。 別にあたしそんなことしてないんだけど。 相手があたしの気に障るようなことしたから、それの対価を支払った。それで勝手に人が死んだ。 ただそれだけなのに。 ガチャ ドアが開くと予想通り彼女が入ってくる。 「……目がいつも通りに戻ったね。そう、その反抗的で人を苦しめる目。 はぁ、やっとだ。これからが本番だから。」 いたい。 いたい。 いたい。 やだ。 やだ。 やめて。 あ。 赤。 紅。 赭。 あかを最後に意識が途絶えた。 − この部屋でどれだけの時間を過ごしたのだろうか。 「……。なにしよ。」 ピンク色の床に寝転んで、包帯を弄る。 ごはん食べたらもう、やることないな。 ドアをぼーっとながめる。 左手に巻いた包帯がはらりと落ちる。 「まだ、あかい。」 傷に触れて肉を感じる。 あたらしいほうたいどこだっけ? 部屋の隅っこに置かれた救急箱に近づき、包帯を取り出す。 丁寧さの欠片もなく、雑に、無心で包帯を巻いた。 ガチャ 「今日で最後だから、これあげる。」 入って早々そう言って何かを投げられる。 「ナイフ。太腿に仕込んで。」 一緒に投げられたベルトを使って唯一包帯のない太腿にナイフを仕込む。 「それ使って、後で死んでよ。」 語尾は弱かった。 彼女があたしの前まできてしゃがむ。 「最後まで、思い出さなかったね。」 「私もあんたにいじめられた、被害者だったのに。」 ぼやぁとした頭は働かず、彼女の命令以外を処理しない。 「でも、いいや。あんたが最後まで悪者でいてくれたお陰で、私も遠慮なく他の子の代わりも務められた。」 「きっと私も地獄行きだね。」 「...。あんたなんか、もう2度と見たくない。」 すくっと立ち上がって彼女は去っていった。 …そのあとすぐ警察がきた。 救急車に乗せられて。病院に搬送された。 色んな人から慰められた。 でも、もうあたしには遅いんだよ。 ベットの上でナイフを握る。 別に彼女の言うことを聞くのは罪を反省しているから、とかじゃない。 ナイフの銀色で恐怖感が芽生える。 それでも止める理由はなかった。 彼女も、友達も全員いない。 “いじめ“をしたって言われたんだからもうあたしにはどうすることもできない。 生きたって、幾らあたしが正しくたって! 社会はあたしを殺す。 だからあたしは。 銀色を浴びることを選択した。
第5回N1 皇帝になる
私はこの国の最高権力者だ。 嘘だ。 こんな重要そうな会議でも私の仕事は意見を出すことではなく、頷くだけだ。 「皇帝陛下、メルムバーレイでの今年の秋の豪雨、洪水対策はこちらでよろしいですよね?」 「ぁ、…構いません。」 少し“護り”に頼りすぎた、メルリー教がまたつけ上がりそうな内容に違和感を覚える。 が、この公爵の言葉は両親以外覆せない。 私が言う意味はない。 私には何もすることのない、お飾り皇帝だ。 書類は先帝である両親とあの公爵たちが行う。 視察では私は馬車に引きこもって報告を聞くだけ。 もちろん誰かや自分を護れる神からの授かりもの、“護り”も持っていない。 役立たずな私が皇帝を務める意味はあるのだろうか…。 − 「聖地の視察、ですか?」 「あぁ、まだ行ってないだろう?伝え忘れていたが皇帝になったら聖域に行かなくてはならないんだ。」 両親ととも食事中に、お父様が私に突然仕事を振ってきた。 聖地。初代皇帝が神と作った箱庭で、皇帝しか入れない場所だ。 かんっ お母様のカトラリーが音を立てる。 「なぜ今なのです?もうすぐ雨季で民にとっては皇帝の存在が必要になるでしょう。」 皇帝の存在なんてもの、意味がない。 国土をローマリ地域まで広げ、支持を得た両親の方がよっぽど存在感があって、民を安心させることができる。 「それにルージェランカ、あなたはいい加減その敬語をやめなさい。全く。聖地なんかよりも民を優先し宮殿に留まるべきよ。」 かん、かちゃ… 私は急いで食事を胃に収めて、食堂から足早に立ち去ろうとする。 「ルージェランカ!あなたは皇帝なのよ?民から逃げないでちょうだい。」 そんな発言にカッと頭が熱くなる。 「だったらなぜ私に皇帝の座を早々明け渡すことを認めたのです!?私の行動が気に食わぬのならばお母様が代わりに皇帝になれば良いでしょう!」 − がたん 馬車に揺られる。 私は聖地に向かっている。 あんな両親がいない、初代皇帝と神の遺産、聖地へ。 ...聖地のあるメルム山脈北部は非常に川が多く、年に数回、数日ほど豪雨に見舞われるため、洪水が起きやすい土地だ。 そんな土地を神から分けてもらった“護り”でメルム山脈北部一帯を洪水から護った初代皇帝は統治者となったそうだ。 だからこの国の固有の土地はメルム山脈以北地域のみである。 「皇帝陛下、つきました。」 侍女の手助けを借りつつ、馬車から降りて聖地を囲む塀に近づく。 「虹色、“護り”の能力で出来ているようですね。」 虹色は神の色。つまり虹色を纏う“護り”の能力を持つ。 “護り“を持った初代皇帝が作った聖地。つま つまり薄い虹色の膜を張っているこの塀は初代皇帝が作ったものだと考えられる。 「...。」 一瞬のためらいの後、少し好奇心が湧き、私は手を伸ばして触れてみた。 すると視界がぐにゃりと歪み虹色に包まれていく。 「だ、だれか、!、、、眩しい、、、。」 やがて私の視界は暗転した。 − 強烈な土の臭い。 その不快感に私は起こされた。 「っは!…ここは…農村?」 周りは全て畑で、私もその景色に馴染ませるかのように農民の服装だった。 「アンタ!ほらぼさっとしてないで収穫するんだよ!冬の前に街に行かないといけないのを本当にわかっているのかい?」 見知らぬ…お母様と同じ年代らしき女性が私の前で仁王立ちする。 彼女も農民だろう。 「あ、あなた、誰に物を申しているのですか?」 それでもお母様を想起させる年齢感に少し声が震える。 「アンタこそだよ!仕事をサボってぼけぇっとしてるやつなんざに言われたくないわ! は、どうせ役立たずなんだから最初から家に閉じ込めておけばよかった。 ほら先に帰って夕飯作ってくるんだよ!」 「は、はい。」 あまりの圧に私は呆気なく屈し、おとなしく彼女が指差した家に向かいながら、今の状況を整理することにした。 − 広大な畑にぽつんとある家の周囲には汚物は見受けられない。 確か2代前が汚物処理に関する法を制定された後、、、か。 またさっきの彼女が身に纏っていた服はメルムバーレイ、そうメルム山脈以北の地域の伝統衣装。 聖地から場所はずれているがメルムバーレイはこの国固有の土地。 纏めると、 聖地の力で現代のメルムバーレイの何処かへ農民として飛ばされたと考えられる。 考えをまとめて終えると、ちょうど家にも着き、恐るおそるドアを押してみる。 きぃ… ドアが開いて音を出すと同時に家の中から少女が飛び出してきた。 「おかえり!ルージェランカ!ママ、、、?ねぇ、ママは?」 服の汚れを気にせず足に抱きついてくる少女に戸惑いを隠せない。 「お母さ、んはまだ、です。先に夕飯を作るために先に帰ってきたんです。」 「なんで、“です”なの?ルージェランカ、賢くなった、、、!?」 少女はパッと足から離れて私に向けてにっこり笑った。 「あっルージェランカ、ご夕飯、でしょ?いっしょにつくろ!」 少女の笑顔、言葉に心が揺れる。 私は今どんな気持ちなのかわからなかった。 − 突然飛ばされたあの日からもう7日経った。 だいぶ暮らしにも慣れた。 いや、まだまだだが最初の3日間のような毎日知らないことを知っていくような日々は流石に過ぎた。 そんな日々で一つ気づいたことがある。 それは『国民も生きている』ということ。 当たり前のことではあるけど、膨大な人を抱えるこの国では私が見るのは基本的に数字で、人そのものではなかった。 笑って、食事をして、家族と話して。そんな当たり前の生活を国民が持っていることを実感したのだ。 「視察、していればよかった。」 あの視察は国民のことを考えさせるためにあったのではないのだろうか。 それでも、お母様のいうことは納得できない。 「ルージェランカ?また考えごと?」 「いいえ。今日は編み物をするの?」 「うん!あたしは帽子編むんだ!」 少女と二人で編み物をする。 実は編み物は多少嗜んでいた。 私に弟ができて、私は皇女として一生を終えると信じてやまなかったから。 ちまちまと、たまに遊びで模様を入れつつセーターを編んでいると少女が近づいてくる。 「わぁ!そのセーター、お貴族様が着てそうなぐらい綺麗な模様だね!ルージェランカ、もしかしてお貴族様?」 とんっ その無邪気且つ鋭い指摘に編針を落とす。 「そんなわけないです。」 それ以上言葉は出てこなかった。 「うーん、じゃああたしがルージェランカをお貴族様に任命します!」 「貴族は任命するものじゃ…あ。」 「ルージェランカ?」 「いいえ、ありがとうございます。」 出来るわけ、ないか。 − 「ルージェランカ、起きて!」 「もぅ、朝なんですか?」 「違うの、今日は雨の日だったの!はやく、川からお水が出てくる前に逃げなきゃ!」 私は勢いよく体を起こして窓に駆け寄る。 視界がかなり不良になるほど激しい雨が降っている。 ぼとっぼと と雨が屋根を痛めつける音が家中に響いていることにも気づく。 「に、逃げましょう…!!」 そうやって慌てて荷物をまとめて外に飛び出すと、もう家付近の道は水没していて避難用の村の高台までかなり時間が掛かりそうであることが伺える。 「ルージェランカ…あたし、怖いよ…。」 少女があの日と同じように足に抱きつく。 「アンタたち、そんな余裕あるんだったらさっさと着いてきなさい。」 女性、少女の母は確かな足取りで水を踏んでいく。 彼女に任せておけばきっと大丈夫。そう思った瞬間。 轟音があたりに鳴り響く。 「もしかして、川の堤防が?」 彼女がぼそっと呟くと、大きな水音が聞こえる。 「絶対に手を離さないで。急ぐよ!」 安全の保証はないであろう道を彼女はズカズカと歩く。 さっきよりかは速いが、水には負けるような速さで進み続けている。 どうすれば、。 「ルージェランカ、怖い、こわいよ。あたし、死んじゃうの?ルージェランカ、助けて、くれない、の?」 目に大粒の涙をいっぱいに溜めてこちらを見上げてくる少女。 私は、皇帝なのにこの少女すら救えないのか。 痛いほど強く打ちつける雨。 足に絡みつく泥水。 思わず立ち止まる。 このままでは少女の明日はないだろう。 それを知ったところで、何が出来るのか? 「…ルージェランカ…助けて…!」 「!」 少女は畑に足を滑らして落ちてしまったようで、 泥まみれ、びしょ濡れになりながら畑でもがいている。 私が目を離した、せいで…? 少女を護らねば。 私は一生皇帝ではない。 皇帝になる資格はないのだ! そう少女に手を伸ばした一瞬。 世界は虹色に塗り替えられた。 打ちつけていた雨は止み、水の音が止まる。 足元に絡みついていた泥水はさらりとした土のみになり、水があらゆるところから消えた。 「今の、ルージェランカがやったんだよね! 手、虹色できらきらしてて空と同じだもんね!」 少女が興奮した様子で、笑う。 「良かった、。良かった。助かって、良かった。」 崩れそうになりながら、よろよろと少女に近づいて、抱きつく。 「ルージェランカ、助けてくれて、ありがとう。」 あぁ、今までの皇帝は、お母様は、この、 「ありがとう」 の一言だけのために頑張ってきたんだ。 分かった。 空に手を伸ばす。 虹色の空が広がっているのはここだけ。 …皇帝というものは、最初からあったのではない。 それはどの皇帝だって同じだった。 でも民を思い、民からの一言のために働き続け、民を思うが故の言動が皇帝の存在を生み出す。 今、私は最初の第一歩を踏み出す。 民を思い、民からの一言をもらう為に、働く。 そんな偉大な皇帝の一人への第一歩を! 先ほどより強い虹色に包まれて、灰色を塗りつぶしていく。 やがて虹色が収まり、美しい秋の青空が広がるのを見届けると私の視界はまた暗転した。 − ぱたん この本を貸してくれた主に声をかける。 「“あの”偉大な女帝がこんな人物であったなんて信じられないな。どこにあったものだい?」 「皇帝である僕が貸した本を疑うなんて、ねぇ? 、女帝が纏めた書類の中に紛れ込んでいたんだ。」 「あ、そう。功績を纏めた方は?」 「さすが歴史学者だな!現代の皇帝には興味がないらしい。…ほら。女帝直筆ではないが側近が書いたそうだ。」 “ルージェランカ帝の政策” という本を貰い、ページを軽く捲る。 「ほぅ。口伝と違う部分は殆ど無さそうだ。 …?このページは…?」 一番最後のページ。 青空? 「いや、これは虹色の空だな。」 「虹色?何故…あぁ。」 女帝が、皇帝になったときの、空だ。 「聖域、途中まで付いていくから、ちゃんと行くんだぞ。」 「…あぁ。僕も皇帝にならなくちゃいけないからね。」 書庫唯一の窓に目を向ける。 この青い空があるのはきっと歴代の皇帝が皇帝になったからだろう。 「歴史書、沢山書かせてくれるんだよな?」 空気を無視して軽口を叩く。 「勿論だとも。目を離さぬようにな。」 そうやってお互い口角を上げて書庫から出る。 彼もきっと偉大な皇帝となるだろう。 今から楽しみだ。
新しい日常❺
私を引き止めようとする声を撒いたのは1ヶ月も立たないうちにだった。 「どうせもう彼女には言ってあるんだし、。」 一番信頼している彼女に話したときの反応だけじゃまだ全員の反応は測れない。 でも、このまま停滞していたくはない。 土曜日。 最近は外食を控えているから、カフェに行くことも減っていた。 だから私から今日の話はみんなでよく行くカフェに誘った。 がりっ これから甘いものを食べるというのに口に放り込んだはちみつ飴を思いっきり噛み砕く。 「は、。準備しよ。」 − 「みんな頼んだもの来た?」 「うん、みんなバッチリ!」 深呼吸をする。 「今日はね、みんなに私の病気のことを話そうと思うったの。」 やけに店のBGMが大きく聞こえる。 「ダメだ。」とまだ引き止めようとする声が聞こえる。 私はそれを振り払った。 意を決した。 口を開いた。 口を 閉じた。 それは。 「あ〜!あれでしょ?“花喰い病”ってやつ。」 「あ!それだ!よく覚えてるね?」 私は容疑者に目を向ける。 笑って、いた。
ピアス
雑貨屋にてふと目に留まったアクセサリー。 自分好みで綺麗なデザインのそれは、 「やっぱりピアス。」 右耳の耳朶を触っても自分の耳にはピアスホールはない。 冬場の乾燥でできたひび割れを覆う絆創膏を撫でる。 痛いのは嫌いだ。 どれだけデザインが好みでも穴を開ける痛みには敵わない。 「こっちにしようかな。」 いつものようにピアスから目を外してイヤリングを手に取る。 今日もまたきっかけは消えていった。
秋
ゆれる ゆれる ゆれる ゆれる ゆれる ゆれる ゆれる ゆれる 木がゆれる 葉がゆれる 雨が降る あかいろの雨が降る きいろの雨が降る 視界を彩る枯葉 道端に倒れる枯葉 木と別れようとする枯葉 かぜが 起こして 背中を押して 私の視界を彩る娯楽となる 秋 生物にとって死の前兆の季節 秋 枯葉を踏んだ。