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11 件の小説
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作家、水引アーティストとしても 活動中のcherryです。 よろしくお願いいたします🐈‍⬛🌙

犯人はもう死んでいる(続編)

相沢は思わず写真を取り落とした。 乾いた音が、静まり返った捜査一課に響く。 「どうした?」 先輩刑事の声にも答えられない。 写真には確かに、自分が写っていた。 今日着ている紺色のネクタイ。 左手首の腕時計。 ポケットから少しだけ覗く黒い手帳。 すべて今この瞬間の姿だった。 「……あり得ない。」 急いで現像所へ鑑定を依頼した。 結果は翌朝には出た。 「加工の痕跡はありません。撮影されたのは少なくとも二十年以上前です。」 その言葉に、部屋の空気が凍りつく。 二十年前。 相沢は、まだ生まれてすらいなかった。 その夜、自宅へ戻る途中。 駅のホームで、背後から低い声が聞こえた。 「六人目を探すな。」 振り返る。 誰もいない。 電車が通過し、風だけが吹き抜ける。 しかし足元には、一枚の紙が落ちていた。 そこには老人の筆跡と一致する文字で書かれていた。 『時計を見るな。』 反射的に腕時計へ目を落とす。 時刻は午後十一時五十九分。 その瞬間だった。 秒針が止まる。 カチ… という音を最後に、一秒たりとも動かなくなった。 同時に駅構内の照明が一斉に消えた。 暗闇。 ざわめく乗客。 非常灯だけが赤く点滅している。 その赤い光の中に、一人だけ動かない人影が立っていた。 リビングの写真に写っていた”六人目”。 輪郭だけがぼんやりと浮かび上がる。 顔だけは、どうしても見えない。 相沢は恐怖を押し殺し、一歩踏み出した。 「お前は誰だ!」 人影は静かに首を傾ける。 そして、口だけがゆっくりと動いた。 「犯人は、もう死んでいる。」 聞き覚えのある声だった。 それは法廷で証言した、事件の第一発見者の声。 だが、その人物は昨夜、自宅で首を吊って死亡していた。 照明が戻る。 眩しさに目を細め、再び前を見る。 人影は消えていた。 代わりにホームの床には、小さな鍵が一つだけ落ちている。 鍵には番号が刻まれていた。 ――「306」。 翌朝、その番号を手がかりに市内の古い貸倉庫を調べた相沢は、306号室の扉を開ける。 中には埃をかぶった古い家具が並んでいた。 壁一面には、老人の家族写真が貼られている。 一枚、また一枚。 どれも少しずつ違う。 ある写真では妻が消え、別の写真では長男が消え、さらに別の写真では孫娘がいない。 そして最後の一枚。 そこには誰もいなかった。 空っぽのリビングだけが写っている。 写真の裏には、赤黒いインクで一文だけ。 『存在を忘れられた者から、この家族写真は書き換わる。』 その瞬間、背後で倉庫の扉が勢いよく閉まった。 重い金属音が響く。 暗闇の中、誰かが相沢のすぐ耳元で囁いた。 「七人目が来た。」

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犯人はもう死んでいる(続編)

白い百合は最後に笑う(続編)

第二章 「差出人不明」 深夜二時。 震える指で、私は玄関に置かれた白い百合を拾い上げた。 花はまだ新しい。 誰かが、ほんの数分前までここにいた証拠だった。 添えられた紙には、ただ一行。 「次は、あなたの番。」 私はすぐにドアを開けた。 廊下には誰もいない。 非常階段も、エレベーターも静まり返っている。 なのに、どこからか視線を感じた。 まるで暗闇そのものが、私を見ているようだった。 ⸻ 翌朝。 私は警察へ行こうか迷った。 だが、何を説明する? 「百合が置かれていました。」 それだけでは、ただのいたずらだと思われるだろう。 そう自分に言い聞かせ、花をゴミ箱へ捨てた。 その夜だった。 スマートフォンが震えた。 差出人不明。 動画が一つだけ届いている。 再生すると、私の背中が映っていた。 スーパーで買い物をしている私。 信号待ちをしている私。 昨日、百合を拾う私。 すべて、誰かが至近距離から撮影していた。 最後に画面が暗転し、白い文字が浮かぶ。 「今度は逃げられない。」 私は息を呑んだ。 誰かが、ずっと私を見ている。 ⸻ それから奇妙な出来事が続いた。 鍵を閉めたはずの窓が開いている。 誰もいない部屋から足音が聞こえる。 鏡には、指でなぞったような文字。 「復讐は楽しかった?」 私は何度も拭いた。 それでも翌朝になると、また同じ文字が浮かんでいた。 眠れない夜が続いた。 食欲も消えた。 神経は限界だった。 ⸻ ある日、郵便受けに古いUSBメモリが入っていた。 恐る恐るパソコンへ差し込む。 画面には監視カメラの映像が映し出された。 蓮が一人、人気のない公園を歩いている。 撮影日は―― 私が彼と最後に会った翌日。 突然、黒いフードをかぶった人物が現れる。 蓮は何かを叫び、逃げ出す。 映像はそこで途切れた。 最後に画面へ文字が現れる。 「あなたは本当に彼を最後に見た人ですか?」 私の心臓が止まりそうになった。 あの日、私はホテルを出た。 その後の蓮のことは知らない。 ……本当に知らない。 なのに、どうして。 どうして私が疑われるような映像を持っているの? ⸻ 震えながらパソコンを閉じようとした、その時だった。 画面が勝手に切り替わる。 そこに映ったのは、私の部屋。 今、この瞬間の映像だった。 私は椅子に座り、青ざめた顔で画面を見つめている。 その映像の右端。 カーテンの陰から、黒い手袋をした誰かの手が、ゆっくりと現れた。 私は反射的に振り返る。 誰もいない。 しかし、カーテンは風もないのに、ゆっくりと揺れていた。 その瞬間。 耳元で、かすれるような声がした。 「ようやく、気づいたね。」 私は悲鳴を上げた。 けれど部屋には、私以外、誰もいないはずだった――。 (第三章へ続く)

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白い百合は最後に笑う(続編)

最後の着信

祖母が亡くなって、一年が経った。 部屋を片付けていると、古いガラケーが引き出しの奥から出てきた。 充電してみると、画面には一件だけ保存されていない留守番電話が残っていた。 日付は――祖母が亡くなった翌日。 「そんなはずない…」 震える指で再生する。 ザーッという雑音のあと、聞き慣れた祖母の声がした。 「もしもし。あんた、ちゃんとご飯食べてる?」 私は息を飲んだ。 亡くなった人の声なんて、あるわけがない。 「泣いてばかりじゃダメだよ。」 そこで音声は切れた。 背筋が凍った。 誰にも話せず、その夜は眠れなかった。 翌日、携帯会社へ行き調べてもらったが、その留守電が届いた記録は存在しなかった。 「データが壊れていたのかもしれませんね。」 そう言われても納得できない。 あの声は間違いなく祖母だった。 怖くなってガラケーをしまい込んだ。 それから数日後。 母が古いアルバムを持ってきた。 「これ、おばあちゃんの若い頃。」 何気なくページをめくる。 すると、一枚の写真の裏に小さなメモが貼ってあった。 「もし私が急にいなくなって、この子が泣いていたら、この録音を聞かせてあげてね。」 写真の袋の中には、小さなSDカードが入っていた。 再生すると―― あの日、ガラケーから聞こえた声とまったく同じだった。 「ちゃんとご飯食べてる?」 「泣いてばかりじゃダメだよ。」 祖母は、自分の死を予感していたわけではない。 ただ、病気で入退院を繰り返していたから、もしもの時のために家族へ録音を残していたのだ。 母は静かに笑った。 「おばあちゃんね、このSDカードを探してたんだけど、最後まで見つからなかったの。」 私はその場で泣き崩れた。 あの日の留守電は、心霊現象ではなかった。 きっと偶然、古い携帯に残っていただけなのだろう。 でも―― あの時、私は「怖い」としか思わなかった。 祖母が本当に伝えたかったのは、恐怖ではなく、愛だった。 人は分からないものを、すぐに「怖い」と決めつける。 けれど、その正体を知った瞬間、それは誰かの優しさだったと気づくことがある。 だから私は今でも思う。 本当に怖いのは、幽霊じゃない。 誰かの愛に気づけないまま、生きてしまうことなのかもしれない。

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最後の着信

彼女の香水

「その香水、誰にもらったの?」 彼は少し困ったように笑った。 「昔付き合ってた子。」 冗談半分で聞いたはずなのに、その答えが妙に胸に引っかかった。 彼は今でも、その香りだけは手放さなかった。 甘くて、どこか懐かしい花の香り。 デートのたびに、その香りがふわりと漂う。 「未練でもあるの?」 そう聞くと、彼は首を振った。 「違う。ただ……捨てられないだけ。」 それ以上は何も話してくれなかった。 ある夜。 彼の部屋で古いアルバムを見つけた。 そこには一人の女性。 笑顔が眩しく、とても綺麗な人だった。 写真の裏には、震えた文字でこう書かれていた。 『来世でも、あなたの隣にいる。』 背筋が冷たくなった。 その瞬間。 部屋いっぱいに、あの香水の香りが広がる。 彼は青ざめた顔で立ち上がった。 「帰ろう。」 そう言った声は震えていた。 玄関へ向かう途中、閉まっていたはずの寝室のドアが、ゆっくりと開く。 誰もいない。 ……はずだった。 鏡に映っていた。 白いワンピースを着た女性が、彼の肩にそっと寄り添っている。 振り返っても誰もいない。 でも鏡の中だけでは、彼女は私を見つめて微笑んでいた。 彼は泣きそうな顔で呟く。 「ごめん……約束を守れなかった。」 その夜、彼はすべてを話してくれた。 事故で亡くなった恋人と交わした最後の約束。 「ずっと一緒にいよう。」 別れ際、彼女は自分の香水を彼に渡した。 「この香りが消えたら、本当にお別れね。」 彼は怖くて、一度も使わなかった。 だから香りは、終わることがなかった。 翌朝。 彼の部屋から香水瓶だけが消えていた。 代わりにテーブルには一枚のメモ。 『ようやく、あなたを許せます。』 それ以来、香りは二度と漂わなくなった。 私は安堵した。 ……けれど一年後。 彼のクローゼットを整理していると、小さな箱が落ちた。 中には、あの香水瓶。 封は開いていない。 なのに、部屋中へ甘い花の香りが静かに広がっていった。

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彼女の香水

白い百合は最後に笑う

「あなた以外、もう誰も愛せない。」 そう囁いた彼の声を、私は今でも夢に見る。 彼――蓮は、誰よりも優しくて、誰よりも残酷な男だった。 私は彼のために仕事を辞め、友人と距離を置き、未来さえ捧げた。 「結婚しよう。」 その一言だけを信じて、生きてきた。 だけど、その約束は嘘だった。 ⸻ ある雨の夜。 仕事帰りに立ち寄ったレストランで、私は見てしまった。 蓮が若い女性の肩を抱き、楽しそうに笑っている姿を。 「君だけだよ。」 その言葉を、私にも言っていた。 胸の中で何かが音を立てて壊れた。 問い詰めると、彼は笑った。 「重いんだよ、お前。」 たった一言だった。 その一言で、私の愛は静かに死んだ。 そして、復讐が生まれた。 ⸻ 私は泣かなかった。 怒鳴らなかった。 ただ笑って別れを告げた。 「幸せになってね。」 彼は安心した顔で去っていった。 その笑顔が最後になるとも知らずに。 ⸻ 私は彼を壊すことに決めた。 まずは、彼の嘘を集めた。 昔の恋人。 会社での横領。 取引先への裏切り。 誰にも言っていない秘密。 彼は自分が完璧だと思っていた。 だから足跡を消していなかった。 私は何か月もかけて証拠を集め続けた。 そして最後に、一通の招待状を送った。 「久しぶりに会いたい。」 指定した場所は、彼が新しい恋人へプロポーズする予定だったホテル。 ⸻ その夜。 会場の照明が落ちる。 大型スクリーンに映し出されたのは、美しい思い出ではなかった。 浮気の写真。 録音された暴言。 横領を認める音声。 女性たちへ送った甘いメッセージ。 一つ、また一つ。 静かな会場が悲鳴に変わる。 恋人は指輪を床へ落とした。 会社の上司は席を立つ。 招待客たちはスマートフォンを向ける。 蓮だけが真っ青な顔で立ち尽くしていた。 「違う……これは……!」 誰も信じなかった。 彼はその夜、すべてを失った。 仕事も。 信用も。 未来も。 ⸻ 数週間後。 私は何事もなかったように花屋で白い百合を買った。 店員が微笑む。 「贈り物ですか?」 私は首を横に振った。 「お墓参りです。」 もちろん、亡くなった人のお墓ではない。 私の中で死んだ”彼”へ贈る花だった。 ⸻ それから一年。 ある日、街角で蓮を見かけた。 髪は乱れ、痩せ細り、誰にも気づかれないように俯いて歩いていた。 彼は私に気づき、震える声で言った。 「……やりすぎだ。」 私は静かに微笑む。 「私は何もしてないわ。」 「あなたが積み重ねた嘘が、あなたを壊しただけ。」 彼は何も言い返せなかった。 ⸻ その夜。 私は鏡の前に立つ。 ふと鏡の奥を見ると、一瞬だけ黒い影が私を見つめて笑った気がした。 疲れているのだろう。 そう思って目を閉じる。 でも、部屋には誰もいないはずなのに、背後から小さな声が聞こえた。 「これで、本当に終わり?」 振り返っても、誰もいない。 私はゆっくり笑う。 「終わったわ。」 そう答えた瞬間、玄関のチャイムが鳴った。 深夜二時。 モニターには誰も映っていない。 なのに、ドアの向こうには白い百合が一輪だけ置かれていた。 その花には、小さな紙が添えられていた。 「次は、あなたの番。」 私は初めて、自分の背筋を冷たいものが這い上がるのを感じた。 復讐は終わった。 そう思っていた。 だけど本当に終わったのは、愛だったのか。 それとも―― 私の人生だったのか。

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白い百合は最後に笑う

天の川でまた会おう

七夕の日だけは、雨が降らないでほしい。 それが、私のたった一つの願いだった。 高校二年の夏、私は病室の窓から空を見上げていた。 隣の病室に入院してきた男の子――蒼(あおい)は、どんなにつらい治療の日でも笑っていた。 「ねぇ、知ってる? 七夕の日に流れ星を見つけたら、願いは二人分叶うんだって。」 「本当?」 「さぁ?俺が今、作った。」 そう言って笑う彼に、私は何度も救われた。 二人で折った折り紙の星。 病院の中庭に咲く朝顔。 消灯後、小さな懐中電灯で照らした短冊。 そこには同じ願いが書かれていた。 『来年も一緒に七夕を迎えられますように。』 だけど、願いは届かなかった。 秋が来る前に、蒼は静かに旅立った。 最後まで誰にも泣き顔を見せず、 「また七夕で会おう。」 そう言い残して。 ⸻ それから十年。 私は看護師になり、毎年七夕になると病院の笹に短冊を飾る。 今年も子どもたちが楽しそうに願いを書いている。 ふと、一枚の短冊が風に揺れた。 『大切な人とまた会えますように。』 その文字を見た瞬間、涙があふれた。 仕事を終え、夜空を見上げる。 天の川が、静かに輝いていた。 「あの日みたいに晴れたね。」 そうつぶやくと、どこからか夏風が頬を撫でる。 その風に乗って、聞き慣れた声がした気がした。 「泣き虫だな。」 見上げた空に、一つだけ流れ星が流れる。 私は笑いながら泣いた。 「会いたいよ、蒼。」 その瞬間、胸ポケットに入れていた古い短冊が風に舞い上がる。 拾おうと手を伸ばいたけれど、短冊は空へ空へと昇っていった。 まるで誰かが受け取ったように。 翌朝。 病院へ向かう途中、小さな女の子が私に声をかけた。 「お姉ちゃん、これ落とした?」 差し出されたのは、昨日空へ消えたはずの短冊だった。 裏返すと、見覚えのない文字が増えている。 『来年も、その次の七夕も。君が笑っていてくれたら、それでいい。』 その字は、間違えるはずもない。 蒼の字だった。 私は空を見上げる。 青く澄んだ空の向こうでは、今年もきっと織姫と彦星が再会している。 会えない時間が長いほど、 会えた一瞬は、何よりも尊い。 私は短冊を胸に抱きしめ、小さく微笑んだ。 「また来年ね。」 天の川は、今日も変わらず、 大切な人を想う心を、静かに結び続けていた。

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天の川でまた会おう

犯人はもう死んでいる

「犯人は、もう死んでいます。」 その一言で、法廷は静まり返った。 誰もが耳を疑った。 被害者は資産家の老人。 密室で刺殺され、凶器には一人の男の指紋しか残っていなかった。 その男は事件の三日前に事故で死亡している。 「死人が人を殺せるわけがない。」 誰もがそう思った。 だが、新人刑事・相沢だけは違和感を覚えていた。 遺体の腕時計だけが、事件当日の午前零時で止まっていたのだ。 鑑識は 「衝撃で止まっただけでしょう」 と片付けた。 しかし相沢は、老人の家族写真を見た瞬間、背筋が凍る。 写真には五人写っている。 妻、長男、長女、孫娘――そして老人。 だが現場のリビングに飾られていた写真は、同じ構図なのに六人いた。 誰だ、この一人は。 家族全員が口をそろえる。 「そんな人、知りません。」 写真を詳しく調べると、合成ではなかった。 さらに調査を進めると、その”六人目”は住民票にも戸籍にも存在しない。 存在した痕跡だけがあり、存在した記録は一つもない。 その夜。 相沢のデスクに、差出人不明の封筒が届く。 中には一枚の古びた写真。 裏には震える文字で、こう書かれていた。 『次に消えるのは、君だ。』 相沢は息をのむ。 写真に写るのは、事件現場のリビング。 そして六人目の隣に立っていたのは―― 今日の自分だった。

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犯人はもう死んでいる

君がくれた明日

「桜が咲く頃には、また一緒に歩こう。」 病室の窓から見える冬空を眺めながら、君はそう笑った。 私は「約束だよ」と、小指を差し出した。 君の指は少し冷たくて、少しだけ震えていた。 春は来た。 街には桜が咲き、人々は笑い合い、新しい季節を迎えていた。 でも、その約束の日。 待ち合わせ場所に来たのは、私ひとりだった。 君は、その一週間前に静かに旅立っていた。 最後まで私に心配をかけないように。 最後まで「またね」と笑って。 悲しくて、苦しくて、何度も君を探した。 桜並木を歩くたび、隣に君がいる気がした。 風が吹くたび、 「泣かないで。」 そう囁かれた気がした。 一年後。 私はあの日と同じ桜の木の下に立っていた。 もう泣いてはいなかった。 君が教えてくれた。 愛は、一緒にいる時間の長さじゃない。 誰かの心に、 どれだけ優しく生き続けられるかなんだと。 私は空を見上げ、小さく笑う。 花びらが風に舞い、一枚だけ私の手のひらに落ちた。 まるで君が約束を守りに来てくれたみたいだった。 「ただいま。」 そう呟くと、春風が優しく背中を押した。 あの日つないだ手の温もりは消えてしまった。 でも、君がくれた愛だけは、 これから先も、私の明日を照らし続ける。

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君がくれた明日

最後の既読

「もう返信しない。」 そう決めて、画面を閉じた。 好きだった人とのトーク画面は、 「既読」の二文字で止まったまま。 何度も開いては閉じ、 何度も名前を見つめて、 何度も”オンライン”の文字に期待した。 でも、あの日気づいた。 私が待っていたのは、 あなたからの返信じゃない。 「もう一度、大切にされる私」だった。 スマホの電源を落とし、 空を見上げる。 夕焼けは驚くほど綺麗で、 世界は私が泣いていても、 ちゃんと明日に向かっていた。 数か月後。 あなたから一通だけ届く。 「元気?」 私は通知だけ見て、 そっと消した。 未練は、 誰かに消してもらうものじゃない。 自分で終わらせた時、 初めて過去になる。 そして私は、 新しい物語の一ページをめくった。   「あなたなら、このメッセージに返信しますか?」 💬

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最後の既読

艶やかな日

『最後まで、愛だった』 「愛してる。」 あなたは毎日そう言った。 朝も。 昼も。 眠る前も。 その言葉は、最初は優しかった。 「誰よりも大切。」 「ずっと一緒。」 それだけで幸せだった。 でも、いつからだろう。 「今どこ?」 「誰といるの?」 「どうして返信が遅いの?」 愛は少しずつ形を変えた。 「心配だから。」 その一言で、私は何も言えなくなった。 友達と会うことも減った。 家族との連絡も、 「俺がいるだろ?」 その言葉で途絶えた。 あなたの世界だけが、 私の世界になっていった。 ある夜、鏡を見た。 笑っていない私がいた。 「こんな顔だったっけ。」 そうつぶやいた瞬間、 背後からあなたの声がした。 「誰のために笑う必要があるの?」 振り向くと、 あなたは優しく笑っていた。 その笑顔が、 一番怖かった。 怒鳴られたほうがいい。 殴られたほうがいい。 優しく微笑みながら、 少しずつ心を閉じ込めていくその愛は、 逃げ道すら見えなくしてしまう。 私は決めた。 この部屋を出よう。 荷物をまとめ、 静かに玄関へ向かう。 鍵に手を伸ばした、その時。 カチリ。 玄関の鍵は外から閉まった。 聞こえた。 「どこへ行くの?」 耳元で。 振り向いても、誰もいない。 震える手でスマホを開く。 画面には通知が一件。 『ずっと見てるよ。』 送信者は—— あなた。 でも。 あなたは三日前、 私がこの腕で見送ったはずだった。 最後まで。 あれは愛だったのか。 それとも、 愛という名の恐怖だったのか。 今も答えは分からない。 ただひとつ分かるのは—— 今夜も、廊下を歩く足音が、 私の部屋の前で止まるということだけだった。

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艶やかな日