ごご茶

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ごご茶

主にTwitterで投稿した創作を小説サイトにあげていってます。暗い話とふざけた話が好きです。 https://twitter.com/teagogo5

母の愛

 前を走る白い軽自動車が蛇行運転している。警ら中の俺は停車を指示した。  パトカーを降り、路肩に停まった車に近づくと運転席には誰もいない。髪の長い女が運転していたように見えたが…。  後部座席に目をやると、ガリガリの幼児がぽつんと座ってこちらを見ていた。保護者の行方を問うと 「ママはね、オバケだけど僕を助けてくれたの。」  調べると幼児の母は1年前に病死しており、幼児は父と父の恋人から日常的に虐待を受けていたことが分かった。  死してなお我が子の幸せを願い守ろうとした母の愛を思い、俺はガラにもなく胸が熱くなった。田舎のおふくろを思い浮かべる。今年の正月は久しぶりに実家に顔を出そうか。  ___数日後、幼児を保護していた施設から連絡が入った。幼児がいなくなったというのだ。  防犯カメラを確認する。深夜、施設前に音もなく停まった白い軽自動車。誰もいないのに後部座席のドアが開く。そしてそこへフラフラと幼児が現れ乗り込む。誰も触っていないはずのドアが閉まり、車は画面の外へ走り去って行った。  それきり軽自動車の行方は全く掴めない。結局俺はその年の正月も捜査に明け暮れ、実家に帰らぬまま過ごした。

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母の愛

子供たち

 小さい頃、母は怒ると凄い剣幕で怒鳴り、私を締め出し鍵をかけた。このまま棄てられるかもしれない…という絶望と恐怖。何が怒りのきっかけになるか分からないので常に怯えて過ごした。  やがて私は大人になり母になる。我が子に決してあんな思いはさせまいと誓った。叱る時も丁寧に理由を説明し、常に努めて冷静に対応した。それでも息子はヤンチャ盛りでなかなか指示が通らない。育児で悩む事が増えた。昔の私はあんなに怯えていたのに、この子は何故こんなのびのび過ごしているのだろう。たまに息子が羨ましくなる。  その日、ふざけた息子は私が回覧板を回しに出たその一瞬で、玄関に鍵をかけた。  チャイムを連打し、ドアの前で 「開けて!開けて!」 と叫ぶ。中から息子の無邪気な笑い声。  遠い記憶の自分と今の自分が重なる。気付けば泣きながら 「開けてぇぇぇ!」 と絶叫していた。  驚いて鍵を開けた息子。私はすかさず玄関になだれ込み、大声で喚きながら息子を突き飛ばす。 「なんで閉めたの!なんで⁉︎なんで⁉︎」 一度溢れ出た感情は止まらなかった。  そしてどこか冷静な頭の片隅で気づいてしまった。ああ、私は大人でもお母さんでもない。まだこんなにも子供のままだったのだ。子供が子供を育てられるわけないよ。  母に、自分よりも大きな存在に、思い切り寄り掛かりたかった。抱きしめてほしい、励ましてほしい、「きっと大丈夫だ」と力強い言葉で導いてほしい。だが今は私がそうするべき立場なのだ。こんなにも、こんなにも子供なのに。きっと母もあの時、子供のままだったのだろう。  横では息子が泣きじゃくっている。私は途方に暮れ、薄暗い玄関でいつまでも胎児のように膝を抱え続けた。

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子供たち