篠俣 由子

3 件の小説
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篠俣 由子

頭の片隅にあるもの

三羽という女の子

「今日の授業はこれにて終わりです。みなさん、くれぐれもサメには気をつけて帰ってくださいね」 最近は帰り道によく小魚の群れを見る。  小魚の群れについて行こうものならあっという間に道角でサメに頭から食われる。  数日前、クラスの三羽という女の子が被害にあったのだが、サメに頭を食われながら登校を続けている。  頭から肩あたりまでサメに食われたまま、サメと登校しているのだ。  三羽曰く、これは食われているわけではなく、守ってもらっているのだという。  サメが食らいついていることにより、他の恐怖からは守られているのだとか… 「食事とかどうしてるの?」 「サメの内側を少しずついただいてる」 歯で肉を削り取りながら生きているのか、なるほど。 「わたしもうピアノ教室に行かなきゃ、またね」 三羽は足早に教室をサメと一緒に出て行った。  半分サメの女の子がピアノ教室にいてピアノを弾く姿を想像してみたらなかなか面白い絵面になるな…と笑いがもれた。  わたしも帰りに何か便利な魚に会えないものか… できれば楽に帰りたいし、運良くイルカの群れがいればいいのに。  −頭の片隅のメモより−

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イチゴ

ショートケーキ。  甘ったるいクリームがスポンジにふんだんにまぶされたケーキ。  上には白いクリームで際立つイチゴ。  いわばクリームやスポンジはイチゴの引き立て役なわけだ。 「クリーム、スポンジ、わたしの大事な引き立て役。綺麗に綺麗に白くいなさい」  子供はショートケーキならまずイチゴに手を伸ばす。 大人も似たようなものだ。  わたしの赤い美しさには敵わない。  さあ、わたしから食べなさい。  わたしはあなたの大好きな甘くておいしいイチゴよ。 「ママ、これいらない」  「どうして?イチゴ嫌いなの?」  「うーん。わたしをいじめてくる女の子に似てるから…。イチゴは主役で、あとは引き立て役なんだって。」  「何それ、酷いこと言うね。イチゴを支えてるのは下のクリームやスポンジだということをその子は知らないのね。イチゴもクリームもスポンジもみんな主役なのにね。」  イチゴは思い出しました。  自分がイチゴの仲間と一緒にいる時は一番小粒で、一番の出来損ないだと言われたこと。  とても寂しく、悔しい思いをしたこと。  そして、今の自分があるのはクリームやスポンジが下にいてくれるから。 特別に見えるものはそれを特別と言ってくれる誰かがいるから「特別」なのだ。 −お題「ショートケーキ」−

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空の魚

私は死にました。  死んだと思った理由は、空に魚が見えたからです。  無数の小さな魚がキラキラと青の中で瞬いて、わたしの目の前を去って行きました。  昔夢の中で見た光景と似ていたのでふと口角が上がり、なんだか満ち足りた気持ちにもなって死ぬことも悪くはないと思えたのです。  さようなら、空に鳥が飛んでいた世界。 こんにちは、魚が空に泳いでる世界。  キラキラ、キラキラ、美しい世界。 お母さん、海はこんなに綺麗だったよ。  連れてきてくれてありがとう。 お母さん大好き。

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