しおむすび🧂🍙
4 件の小説鉄と心と夢と歯車 第1章
歯車の動く音と、蒸気の吹き出す音。あとは、数人の人の声。 「この船の外には、絶対に出てはいけないし、出られない。」 いつか、このちっぽけな世界から飛び出してみたい。この船の外にある世界を見てみたい。 幼き日の夢は、記憶の奥底に沈んでいった。 〈第1章 鉄くずに埋もれた夢〉 拝啓、お父さん、お母さん。 僕、多分死にます。 「いやぁぁぁああああっ!!!」 必死に手足をばたつかせるけれど、僕は鳥でも飛行機でもないのだ。重力には逆らえない。 下の階層に繋がるという大穴を興味本位で見に行ったまでは良かった。問題は、覗き込もうとして足を滑らせたこと。 「神様仏様!!どうかお慈悲をっ…!!」 僕の記憶はそこで途絶えることになる。 …壁から飛び出していた鉄板に、頭をぶつけることによって、だ。 「……ここは、天国?……にしては地獄みたいな場所……。」 一体どこまで落ちたのか。僕が普段生活しているのは2層だから…大穴の大きさから考えるに、3層の半ばくらいまで降りてきてしまったに違いない。 頭は痛いけれどギリギリ命は持ち合わせている。が、3層からは怪物が出るなんて噂もある。拾った命も落っことしかねない。 「ひどいや…こんな場所にか弱い少年を1人にするなんて…。」 とにかく、早くこの階層から上に上がらねば。 何か使えそうなものはないかと、自身のクッションとなってくれた鉄くずの山を漁り始める。 大穴にゴミを捨てているやつがいたらしい。本当は良くないことだが、この状況ではありがたい。 本当に色々なものが落ちている。鉄板、パイプ、ガラス、机に椅子まで…あとは、壊れかけのロボットなんかも落ちている。 「運良く動かないかなぁ、なんて。」 埋もれていた中でも原型を保っていたものを拾い上げ、コツコツと叩いてみる。 にしても、見たことの無い機種のロボットだ。身長も同じくらいだし、鉄の皮を被った人間だったりして。 『…さ……ます……』 「え?なんて?」 『___再起動を、開始します』 驚いた、まだ動くのか。声も同年代くらいに聞こえる。…ちぎれたコードから火花がバチバチとんでいて、とても動きそうには見えないんだけど…。 『___328号、再起動成功。___生命反応を確認。___リンクを開始します。』 思わず後ずさりした。暴走しないとも限らないし、そもそもこんな暗い場所に捨てられていたロボットだ、絶対に何かある。 けれど、けれど 「好奇心には、抗えないよねぇ…!」 1歩、また1歩とロボットに近づいていく。 目の前まで行くと、ロボットのコアが剥き出しになった。 震える手で、そっと、青色に光るコアに手を当てた。 『___個体名 ティル とのリンクが成功しました。』 ふわり。淡い水色の光が僕を包み込んだ。 ゆっくりと瞳が開いた。引き込まれるような澄んだ青色。 なんて言えばいい?こういう時は…。 「は、初めまして!僕の名前はティル!君の名前は?」 『……名前。私の、名前は……』 ー第2章へ続くー
哀哭のメトロノーム
カチ カチ カチ カチ カチ カチ カチ カチ 静かな部屋に、あなたの笛の音が響きました カチ カチ カチ カチ 正確かつ落ち着いた音 カチ カチ カチ カチ あなたの笛の音が止んだ時が、私の役目が終わる時 カチ カチ カチ カチ そしてその時、あなたは決まってこう言うのです 「またダメだった」 と カチ カチ カチ カチ あなたは何を思ってその笛を吹くのですか? カチ カチ カチ カチ あなたは誰に向けてその笛を吹くのですか? カチ カチ カチ カチ あなたは、なぜそんなにも悲しげな顔をするのですか? 私にそれを問う権利はありません カチ カチ カチ カチ カチ カチ カチ カチ あの日は空が綺麗でした あなたは、いつもと違う、緊張した顔つきで私の前に立っています あなたの横には、あなたと同じ思いをもつ仲間たち カチ カチ カチ カチ カチ カチ カチ カチ 次にあなたの、あなたたちの笛の音が止んだ時 その時が、私の役目が本当に終わる時 中学三年生の夏、最後に見たのは、金色のトロフィーを囲んで笑い泣くあなたたちの顔でした
空が綺麗だから死ぬことにした
今日は快晴 雲ひとつない 青い空を見ていたら、ふといい考えが浮かんだ “自殺しよう” 別に何か悲しい訳ではない 彼女は元々いないし、家族もみんな健康だ 勉強は面倒くさいけれどどうということはない 友達もいる、飯も食える、ベッドで寝られる なぜこの考えに至ったのか、自分でも不思議だ ただ、青く澄んだ空を見ていたらふとそう思ったのだ 思いついてからは早い もう遺書は書いたし、身の回りの整頓も済ませた 太くて頑丈なロープも買った どうせなら空を見ながら死にたいので、 タクシーを呼んで山奥に向かった 山に連れて行って欲しい、と言った時にすごく嫌な顔をされたが、俺の人生最後の願いくらい聞き届けて欲しい 会計を済ませ、外に出てみればそこには大自然が広がっている 頑丈そうな木の枝にロープをくくりつけた 首吊りのロープの結び方が分からず苦労したが、何とか出来た 空が綺麗だ 足場に持ってきた脚立に上り、 ロープに首を通した 今日は快晴で、雲ひとつない 春風の感じられる晴天の日 俺は脚立から飛び降りた
夢を叶えて
夢があった 誰にも話さず、孤独に追い続けてきた けれど、君になら受け入れて貰えるかもと 淡い期待を抱いた 僕がそれを打ち明けた時、君は僕を笑ったよね そして、僕に一輪の青い薔薇を差し出したんだ 「花言葉は『不可能』。お前にピッタリだよ」 僕は君を殴った 君は驚いた顔をしていたけれど、そんなこと気にする余裕もなくて 「信じてたのに」 口から出てきたのは、弱々しい言葉だった そんな自分に嫌気がさす (もっと言い返してやれば良かった) 夢を叶えて、幸せを掴んだ今だって 時折君の顔を思い出す 少し捻くれていたけれど、優しくて情に厚かった君 (今頃、何しているだろう) 花屋の前を通る度、視界をチラつく青い薔薇 僕の視線に気がついたのか、新しく入ったらしい店員さんが話しかけてくる 「この薔薇が気になるのですか?」 「……ええ、少し……印象深くて。」 人懐っこい犬のように、店員さんは話を続ける 「青い薔薇の花言葉はご存知でしょうか?」 「……はい、『不可能』ですよね?」 「良くご存知ですね!けれど、青い薔薇の花言葉はもうひとつあって……」 その先の言葉を聞いて、僕は走り出した 昔2人で良く遊んでいた公園に そこには、昔と変わらない君がいて、 「よっ、久しぶり」 なんて、10年前と同じ笑顔で手を振っていた ”もうひとつの花言葉は、『夢叶う』ですよ!”