湊星
86 件の小説第五話 混血の魔神族
カルディア国を出て半年。 敵を倒し力を付けながら火山を降りて行き、四人は 遂にレイブン貧民街に辿り着いた。 「ここはかつてアステリア王国に隣するレイブン街と言う 栄えた街だった。しかしアステリアは今は亡き魔神族に よって襲われ窮地に立たされた。 だから国を護る為にレイブン街を国から切り離した。 その結果貧民街となり、後の魔神族再襲撃でアステリアも 崩落し国民は絶滅した。」 「千年前の話はいつ聞いても驚かされるな。」 「でもここって、S級がたどり着ける果ての地なんだよね?」 「そうだな。A級モンスターがうようよ居る。大体 今の国民のレベルが落ちているだけであって、千年前は 当たり前のように人が行き交っていた。」 「グレイがいなければ一生塀の中暮らしだったよ。」 「お前達が最後まで着いてきたら、凄い物を見せてやるよ。」 「えー!気になる!」 「とりあえずこのままアステリア国跡まで突っ走るぞ。」 「おい、あそこに誰かいるぞ?」 「S級冒険者か?でも一人しかいない。」 「声かけてみようよ。」 「俺が行く。後ろ着いてこい。」 グレイは謎の人物に近付いて声をかけた。 「お前、ここで何をしている?」 謎の人物が振り返って言った。 「僕はロキ。」 「お前はアウラが殺した魔神族!!何故生きている!」 「僕は魔神族から追放された。」 「何だと!?じゃあお前はここで何をしていた!」 「ここは僕の親が死んだ場所なんだ。」 「魔神族は繁殖生物だったのか?」 「ううん、魔神族は魔神王からしか創造されない。 でも僕の親が千五百年前に禁忌を犯して、人類と恋を してしまった。それで産まれたイレギュラーが僕。」 「そんな事があり得るのか。それでお前はどっちの味方だ?」 「親は魔界から逃げてこの地に隠れて住んでいた。 でも産まれてすぐ親がここで殺され、僕は魔神族に 育てられアウラが僕を殺すまでは魔神族第三戒位として 人類を滅ぼし続けてきた。」 「何故人類を滅ぼせたのだ!」 「魔神族第二戒位の支配権能に支配されていた。 でも、英雄アウラとの戦いで浄化を受けた。」 「アウラの浄化は魔神族には効かなかった。精々火傷を 負わせるぐらいで味方にしか効果は現れなかった。」 「そう。僕には半分人間の血が流れている。だから浄化が 効いて魔神族の支配から抜け出せたんだ。魔神族滅亡から しばらくしてある人が魔神族を蘇生させた。それで僕が 半人類になっている事がバレて追放され、今に至る。」 ロキは魔神族を裏切って人族を選んだのだ。 「なるほどな。ロキ、お前はこれからどうする。」 「僕は親を殺した魔神族を次こそ消滅させたい。」 「やはり魔神王は生きているのか。」 「うん。英雄は一人の犠牲を以て魔神王を殺したけれど その後蘇ったんだ。」 「やはり皆は勝ったんだな。しかし誰が蘇らせたんだ?」 「それは魔神王しか知らない。」 「そうか。ロキ、俺たちと一緒に来い。目的は今 お前と同じになった。」 「ありがとう。着いていくよ。」 ロキは正式にグレイの仲間となった。 「おーい、三人とも!来ていいぞ!」 「どれだけ待たせるんだよグレイ!」 「その人は誰なの?」 「ねぇ、その人の右眼、黒いよね。」 「紹介する。元魔神族のロキだ。」 「魔神族ってグレイが千年前に戦ったあの?」 「そうだ。でも今は人間の味方だ。安心しろ。」 「信じても大丈夫なの?」 「ああ。」 「グレイがそう言うなら、ロキ、よろしく。」 「皆、よろしく。」 そうしてロキが仲間となった。 「それでみんなはどこに向かっているの?」 「そう言えば皆には雪月草としか伝えて居なかったな。 俺は古代族が封じた古代魔法を取りに行く。」 「そう言えばグレイは無能力のままだもんね。」 「それを言うな。大魔導師の名にかけて千年前より 強くなってみせる。」 「グレイ、言っておきたいことがあるんだけど、最近 謎の組織が人族を殺して回っていると聞いた。 恐らく僕と同じ旧魔神族だと思う。」 「他にも追放者がいるのか?」 「うん、魔神王が魔神族を争わさせ、より超越した 十人を新たな十戒位に任じた。 あいつらは、戒位を失い、人族を攫って生贄に力を 蓄えているはずだ。魔神王の座を奪うつもりだろう。」 「厄介な問題が次々と…。ゆっくりしている場合ではないな」 「うん。早く進もう。」 「僕の黒雷の能力でこの辺りのモンスターは一掃出来る。」 「そうだな。お前らのレベルでももう問題無さそうだ。」 五人はレイブン貧民街を颯爽と超え、アステリア国跡に 辿り着いた。 「何だか段々とバケモノになっている気がする。」 「魔神族を相手にするにはまだまだヒヨッコだな」 「やっぱり英雄は凄かったんだね。」 「確かに。対抗できた英雄は凄いよ。」 「お前達はそんな程度で留まる器ではないぞ。」 「英雄は本当に強かったよ。」 ロキが懐かしそうに話す。 「アステリアはA級モンスターがうようよ居るな。」 「アラクネとハイスコルピオは厄介だな。」 「アラクネは集団で襲ってくるんだっけ」 「そうだ。気をつけろよ」 五人がそれぞれ能力を使いモンスターを討伐して進む。 「降り注げ!!黒雷!」 ロキが圧倒的な力を見せつける。 「俺らの出る番なしだな。」 モンスターはあっという間に殲滅される。 「意外と何なく進んでこられたな。」 「お前ら既にA級レベルに達しているぞ。」 「たった半年ぐらいでA級になれるなんて。」 「ほとんど僕のおかげだね!」 「確かにロキが仲間になったのが大きいね」 「さあ、アステリアを早く越えよう。」 一週間歩き続けて、五人はアステリア領を遂に超え ノラン海岸へ辿り着いた。 「すごい。こんな場所まで来たのは僕たちが初めてだ。」 「ここからは魔神クラスがうようよ居ると思え。 ノラン海は千年前も謎の多い場所だった。」 「どうやって海を渡るの?」 「レオンの術式構築に俺のマナを与える。」 「グレイの肉体にマナがあったの?」 「いやこの半年、ずっとマナを練ってきた。レオンが魔導船を構築し、俺が安定してマナを送る。」 「落ちたら…死ぬよね?」 シエルが心配そうに聞いてくる。 「そうだな、間違いなく。」 「頼むぞ!レオン!」 ルークが冷や汗をかいて言う。 「そうだね。ここを越えなければ大魔導師にはなれない」 「レオン、長い戦いになる。行くぞ。」 「…うん。」 レオンは魔術で魔導船を創造し、五人は乗り込んだ。 そして船はノラン海岸を出発して進み出した。 「このペースで約三ヶ月かかると言ったところか。」 「三ヶ月マナを消費し続けるの!?」 「大丈夫だ。その為に俺が居るからな。」 「モンスターは僕に任せて!!」 「いや、ここで能力を使ったら僕達感電死しちゃう」 「そうだな。ルークとシエルに任せる。」 「そんなぁー。」 ロキはがっかりしている。 しばらく航海していると、海竜レギオスが現れた。 グオオオォォォォ!! 「レギオス、海の帝王か。厄介な奴に見つかったな。」 「俺が斬り落としてやる!!」 「あいつはS級レベルだぞ!気をつけろ!」 「分かっている!!でも絶対負けない!」 ルークが船を飛び出して斬りかかる。 シエルがレギオスの打った竜砲を反転し撃ち返す。 「よし!喰らえ!コロジオンファンドル!!」 剣はレギオスに斬りかかる! しかし海竜の鱗は硬く腐食剣が弾かれた! 「なに!この攻撃が効かないだと!?」 海竜のブレスがルークにモロに食らった。 「ってぇぇー!!」 更にシエルがまた別の海竜に襲われた。 「…!これはまずい!」 「さあ、お前らどうする」 海竜はルークを飲み込み、シエルは海に落ちていった。 「お前らなら海竜ごときに負けないだろ。」 そう言うと海竜の腹を斬り裂いてルークが現れた。 「表皮が硬くても内臓は誰だって柔いもんなんだよ。」 そしてシエルは水流に反転を使い水砲のように出てきた。 「ここで死ぬようでは魔神には敵わない。」 シエルはルークが開けた傷穴に魔法をかけ心臓の動きを 反転させ海竜を殺した。 「何とか、A級モンスターに勝ったぞ。」 「流石に焦った。」 「お前ら良くやった。この調子で海を越えるぞ」 「僕も戦いたかったなぁ」 「ロキが能力使ったらみんな死ぬって!」 「そうだ。ロキは力を温存しておけ。」 そうして海を渡り三ヶ月が経った。 「ようやく陸が見えたぞ!」 「ここまで来ると、もはや人の手が入って居ない完全なる 自然地帯だな。」 「確かに、目の前は樹林がひたすら続いているね。」 レオンが言った。 「ここはシキ樹林。S級でもここは相手にならない。 俺の武力もここでは無能にすぎない。でも、お前達が 結集すれば倒せると思っている。」 「遂に前人未到の地、気合い入れるぞ!」 ルークはやけに目を輝かせている。 シエルとレオンは少し心配そうにしている。 五人はシキ樹林に足を踏みいれた。
第四話 火山の主ディアボロス
「ここだ。ここが秘密の部屋だ。」 目の前はただの洞窟の岩肌だ。 「これのどこが秘密の部屋なんだ?」 「ただの行き止まりじゃない?」 「カイゼルの全能の書なんて嘘なんじゃ…」 「まあ落ち着け。呪文が必要なんだ。」 ミカルドサカツチイエ 呪文を唱えると、ただの岩肌が分裂し扉が現れた。 「カイザー…、久しいなぁ。」 「おい、カイザーと言ったか?英雄の名がどうして…」 「もしかして…?」 グレイは扉を開いた。 その先は、古びた小屋のような部屋が広がっていた。 「この部屋は、お前と若い頃に過ごした部屋そっくりだな」 「グレイ、何を言っているの?」 「いや、何でもない。」 四人は部屋を見て回ったが、これと言って何もない。 「なんだ、驚くほど何もないぞ?」 「いや、部屋はまだある。俺にしか分からない。」 そう言うと、本棚の前に立った。 「お前の名前を鍵にしたんだったよな。お前の名は、 カイザー・アルヴィセンハイト すると、本棚は開き奥の部屋が現れた。 「英雄は、本当に存在したのか…!?」 「なあグレイ、お前は何故知っているんだ!?」 「グレイ、貴方は一体…」 「千年経っても綺麗に残っているな。」 机が一つだけ置いてある。 「これは…」 「その黒剣はなに?」 「これは俺が使っていた魔導杖だ。」 「どう見ても剣にしか見えないけど」 「これは魔剣アズラクティス。普段は黒剣だが、変形し 幾何学模様の魔導杖にもなる世界最強の魔剣だ。」 「グレイ、説明して。あなたは何者?」 「…かつてこの世界には五人の英雄がいた。」 「四人じゃなくて?」 「ああ。世界から忘れ去られた五人目の英雄がいた。 彼は歴代最強の大魔導師で魔剣を以て四人の英雄と 共に魔神王に立ち向かった。 かつては世界を脅かす魔神族とそれを率いる魔神王が 存在し、人類は戦いを避けては通れなかった。 そんな中で五人の英雄は魔神王に立ちはだかった。 大魔導師は絶対行使能力を持つ無敵の魔神王を弱らせる 為、生命を犠牲に禁忌の術を使い、魔神王を弱らせて その人生に幕を閉じたのであった。 …しかしどういう訳か、目が覚めたら千年後の世界の 最弱の男と呼ばれる無能力者に生まれ変わっていた。」 「それが、グレイお前だっていうことか。」 「ああ。私は忘却されし五人目の英雄、大魔導師グレイだ。」 「ここに来て納得した。」 「グレイが英雄だったなんて。でも何で一人だけ忘れ 去られてしまったんだろう。」 「それは私も聞きたいところだ。」 「とりあえず、全能の書はあった。」 「それじゃあ、一人ずつ全能の書に触れろ。」 「まずは俺から。」 ルークが本に触れると、本は勝手に開き文字が現れた。 「…おい、ルーク…、おい!」 「ハッ!?俺はなにを…?」 「能力を覚醒させる方法が脳に直接与えられただろう。」 「うん、能力の真価が分かった。」 そうして二人も全能の書に触れた。 「ルーク、お前はどうだ?」 「うん、錆化は腐食の能力へと覚醒した。剣で斬った 者を腐食させる能力だ。」 「シエルは?」 「私の反転は、概念反転へ覚醒した。対象に捉えた者に あらゆる反転魔法を与える。」 「レオンは?」 「僕は解体の能力は頭脳を以て術式解体へ覚醒した。」 「これでお前らのランクはB級に達したようだ。」 「グレイ、感謝する。」 「お前らはSランクを余裕に越えるだろう。」 「本当に?僕たちが国家権力級になれるの?」 「ああ。この旅が終わる頃にはな。」 「グレイの言う事だから、俺たちは信じて頑張ろう」 そうして四人は秘密の部屋を後にした。 「少しノヴァーズが心配だ。上に行こうか。」 「確かに、無事だといいけど…」 「ディアボロスは火山の主だ。かなり強い。」 「あの四人なら何とかなるんじゃ…」 「急ごう。」 同じくしてカルディア国内王宮にて 「失礼します。」 国家所属異能軍エリクフォース隊長ルシアが王宮に帰還した。 「要件はなんだ。」 王の補佐官アヴァロが訊く。 「西のバイルン跡地にて謎の組織に襲撃され、二十五名が 殉職しました。」 「そうか。ではその襲撃者の調査に何人か派遣しよう。」 「しかし補佐官、S級の私ですら命の危機を感じる程に 相手は未知数の強さを誇っています。」 「S級を越える者が居るとでも?」 「アヴァロ、私が出よう。」 王エリックが話を聞いて現れた。 「国王陛下…!」 「この世界は殆どが人の立ち入れない程に危険だ。 モンスターと我々人類の他に種族が居てもおかしくない。 S級を結集させ調査に向かうように。」 「…は!承知致しました!」 アヴァロは王宮を後にした。 「…エリック王、まだ真相を国民に打ち明けなくて宜しい のですか?」 「アヴァロ、全ては"あの方"の判断に委ねる。 それにまだ国民は知るべきではない。」 「承知…致しました。」 しばらく経ってグレイ達は洞窟を出て火口に到達した。 「レオン、術式解体再構築が出来るなら、炎耐性を 俺達に付けてくれ。」 「分かった。」 すると魔法陣が現れ、四人にバフがかけられた。 「レオンは俺を越える大魔導師になれるかもしれないな」 「まだ上位魔法は複雑すぎてできる気がしませんよ…」 「俺が教えてやるから安心しろ。じゃあ火口に入るぞ。」 「分かった。」 四人は中に落ちていく。 「おい!あれ!!」 ルークが指差した方向にノヴァが居た。 「あいつらまだ戦っていたのか!」 「おい、ノヴァ!無事か?」 「はぁ…!グレイ…!!助けてくれ…!」 「どうした!」 マリアが命を挺してノヴァに治癒魔法をかけている。 「だめ…。もうマナが持たない…!!」 「おい!他の二人はどうした!」 辺りを見渡すと、ゲンスイは壁に埋め込む形で意識を 失っており、アイゼンはディアボロスの足元で倒れていた。 「アイゼン!!ゲンスイ!!」 ルークが駆け寄る。 「大丈夫!生きていれば私の能力で救える!!」 シエルがゲンスイの元に駆けつけた。 「リバーサル!!」 そう言うとゲンスイに蓄積されたダメージが黒い澱みと なり、体外に放出された。 「…我は一体どれだけ眠っていた!!」 「私はアイゼンの元へ行きます!」 シエルは走ってアイゼンの方へ行った。 「おい!ディアボロス!俺の異形の剣でお前を殺す!」 「ディアボロスで力を試してやる。」 ルークとレオンが立ち向かいディアボロスに襲いかかった。 「お前ら!!危ない!!」 「大丈夫、あいつらは一週間で遥かに強くなった。もう今はB級にも負けを取らない。」 レオンの術式でペルマフロストが発動した。 瞬く間に火口のマグマ地帯に永久凍土が襲いかかり ディアボロスは凍りついてしまった。 「トドメだ!コロジオンファンドル!」 ディアボロスは斬り裂かれ、腐食で灰となって行った。 「…凄すぎる。」 「グレイ!やったぞ!俺らの勝ちだ!」 「僕がこんな魔法を使えるなんて信じられない!」 グレイはノヴァ、ゲンスイ、マリアと迎え入れた。 「待って!アイゼンが…」 離れた場所でシエルが言った。 「アイゼンがどうした!!」 みんながシエルの元へ駆けつけた。 「アイゼンが…、死んだ。」 「嘘だろ!?」 「私が来た時には…。」 「そうか。命を蘇生させる魔法は無いからな。」 「アイゼン!!どうして!!」 ノヴァーズは酷くショックを受けた。 しばらく経って七人は落ち着いて話した。 「死者を連れて街へ戻るには遠すぎるな。せめて 火山の頂上で弔ってやろう。」 「そうだな。この感じだと火山は当分機能しないしな。」 七人は火山の頂上へ行き、墓を建てて弔った。 「お前達はどうするんだ?」 「俺達は新たなメンバーを募集する為に街に戻るよ。」 「絶対にS級になって国を護る最強パーティを作るんだ。」 「吾輩もそのつもりだ。」 「そうか。じゃあここで解散だな。」 「ありがとう、助けてくれて。」 「元気でな!!」 「お前らもな!!」 そう言って三人は平原の方へと降りていった。 「俺達はそろそろレイブン貧民街へ向かおう。」 そう言って火山を降りていった。
第三話 能力の真価
三ヶ月後 「よし、お前ら少しはまともになったな。お前達が 強くならないと雪月草には辿り着けないからな。」 「まぁ平原のモンスターだから何とかなるけど。」 「この先に進むには弱すぎるよね。」 「僕とシエルは無能力魔法しか使えないし。」 「大丈夫だ。そろそろ平原を超えて火山を越えよう。」 「ベルフォード火山、サラマンダーや炎虎がいるんだよ。 クエストだと麓ですらC級、火山はB級だよ。」 「そうだな。F級には命を捨てるのと同じようなものだな。」 「そうだよ。まだ行けるような場所じゃないよ。」 「聞いてくれ。この火山の洞窟内に、ある人が遥か 昔に作った秘密の部屋があるんだ。」 「ある人って誰?あの火山にそんな部屋があるのか?」 「ああ。そこにカイゼルの書と言う全能の書があるんだ。 能力者が触れると、その能力を最大限活かす方法が 記し出されるとされている。」 「それが本当なら凄いよな。」 「でも英雄なんてただのお伽話だよ。」 「僕は信じているけどね。その話は信用できないな」 「取り敢えず火山に向かうぞ。」 しばらく歩いてベルフォード火山の麓に到達した。 「お前らの能力だと、ここでC級と戦うより先にカイゼル の書を目指した方がいいな。」 麓にいる火猪や熱血蟲をグレイがいとも容易く討伐して 火山を登り始めた。 「お前ら!こんな所で何している!!」 後ろからやってきた別のパーティに声をかけられた。 「お前達は何者だ?」 「俺達はC級パーティノヴァーズだ。」 「C級だと!?」 ルークが驚いている。 「私達はF級パーティルシオン。」 「パーティ名など初めて聞いたぞ?」 グレイが笑って訊き返す。 「いや、別に聞かれなかったからさ…」 「お前らF級がなぜこんな場所にいる。」 「雪月草のクエストを受けた。」 「は?あのクエストをか?馬鹿げてる。」 「お前らには関係ないだろ。」 「まあ良いや。これも何かの縁だな。俺達は火山に用が あってここまで来た。上まではお供しよう。」 「分かった。」 四人はノヴァーズの四人と行動を共にした。 「俺がリーダーのノヴァだ。能力は核縮を使う。」 「私はマリア。治癒を使う回復士よ。」 「吾が名はゲンスイ。忍者という能力である。」 「私はアイゼン。血を操る魔導師だ。」 四人も自己紹介をした。 「それで、お前らの目的は何なんだ?」 グレイが聞いた。 「俺達は火口に居るとされるB級ボス、ディアボロス の討伐だ。」 「ああ。あの悪魔もどきか。」 「知っているのか?」 「あいつは炎を纏うモンスターだな。角を狙えば良い」 「よく知っているな。参考にさせてもらう。」 「俺達は火山洞窟を越えてレイブン貧民街を目指す。」 「そうか。それなら中腹まではよろしくな。」 ベルフォード火山は国境境界線とも言われるほど大きく 高い山だ。山を登るのに1週間はかかると言われる。 八人は着々と山を登り続けた。 モンスターはノヴァーズが容易く倒して行った。 そうして一週間が過ぎた。 「みんな、ありがとう。みんなのお陰で生きてここまで 来ることができたよ!」 レオンが歓喜した様子で言った。 「本当に助かったよ。」 シエルも涙目で続いて言った。 「お前ら、絶対死ぬなよ。」 ノヴァは心配そうな目で見ている。 「大丈夫だ。カルディア国に戻ったらまた会おう。」 「そうだな、楽しみにしているぞ。」 四人は洞窟前で四人と解散した。 「ディアボロスか。心配だな。」 今の国のレベルではA級ですら危ういレベルだ。 「それで、秘密の部屋とやらはどこにあるんだ?」 「ああ、それは任せておけ。」 「ここはモンスターは出ないの?」 シエルが心配そうに聞いてくる。 「ああ、安心しろ、C級のフレアコブラぐらいだ。」 「安心できねー…」 三人の顔が引き攣っている。 そんなことを言っていると、目の前からフレアコブラが 襲いかかってきた。 「シエル、お前は一回アイツの毒を喰らっておけ。」 「えー、絶対苦しいじゃん。」 「よーし、俺たちの力を見せてやろう!」 「そうだね。フレアコブラ!喰らえ!」 三人は一斉にフレアコブラに襲いかかった。 ルークの剣は胴体に斬りかかったが無傷だった。 シエルのライトニングは無かったのように無反応だ。 そしてレオンのマジックミサイルも傷一つ付けられない。 フレアコブラは炎を纏いルークの身体に巻き付いた。 「つっっ!!熱い!!助けてくれ!」 ルークは巻き付いたフレアコブラの炎に焼かれていく。 シエルが攻撃しようとするが毒を吐かれて毒されてしまった。 「何これ…!痛い!内側から毒されていく!!」 レオンがマジックミサイルを何度も打ち付ける。 それを避けてフレアコブラがレオンに噛み付いた。 「グレイ…助けて…!」 しかしグレイは動かない。 「グレイ…!助けてくれ…、死ぬ…」 ルークが燃えながら言う。 「お前らの本気、そんなもんか?」 命の灯火が弱まる三人は気付いた。 能力が弱いからと、能力を使うことを諦めていたことに。 「能力を使わずとも既にお前らはE級レベルには達していた。 しかし、能力を使えばC級にも勝てる可能性は大いにある!」 三人は死を目前に考えた! 「俺は…!この鉄剣に錆化を使う!!」 そう言うと手袋を外し剣を信じて触れた! すると鉄剣が急激に錆び内なる剣が顕になると、錆を 吸収し異形の剣へと変貌を遂げた! 「私は…!痛みを力に!!」 シエルは痛み(黒の澱み)を反転させ、体外に放出する 事で攻撃する術を手に入れた! 「僕は…!頭脳で解析を使ってみせる!」 レオンはマジックミサイルの術の繋ぎ目(魔法数式)を 視覚化し、書き換える事で強化術を使ってみせた! おおおおお!!!! 三人の結集した力はフレアコブラを消滅させた!! 「お前ら、よくやったな。」 グレイは三人にポーションを与えた。 「今のお前らはC級に匹敵する。」 「本当か…?俺らがC級…だと?」 「夢みたい。ずっと最弱扱いされてきたから。」 「僕たちが強くなれるなんて思ってなかった。」 「お前らならもしかしたらディアボロスを倒せるかもな。」 「ノヴァーズが言っていたモンスターか。」 「だが、全能の書を使えば更に覚醒が見込める。」 「どうしてそこまでしてくれるんだ。」 「お前達には、この旅が終わるまでにS級になって 貰おうと考えている。」 「S級!??」 「この国にS級は十人しかいないんだよ?」 「大丈夫だ。今の時代のS級なんて大した事ない。」 「いやいや!そんなわけない!」 「ちなみに雪月草はどこまで行ったらあるの?」 「あぁ、言ってなかったな。ノースレット神叢山脈だ。」 「え!?北の果ての山と言われているあのノースレット?」 「そうか、今は知られていないのか。ノースレットは 果てではないぞ?」 「まだ先があるっていうのか。世界は未知数だな。」 「とにかく、まずは秘密の部屋へ急ごう。」 四人はフレアコブラを倒しながら先へと進んでいった。
第二話 最弱パーティ
翌日、グレイはギルドに向かった。 現在の国民のランクでは国外は極めて危険だ。 だからパーティを組んでクエストを受注してからでないと 国外の地に行く事は許されていない。 「いらっしゃい!ご用件は何でしょうか?」 ギルド嬢が話しかけてきた。 「パーティを組みたい。」 「ではあなたのランクに合わせて探させて頂きます。」 「分かった。」 暫く経っても応募者は現れなかった。 「一人で行くのは駄目か?」 「死にますよ?まだ謎の多い国外ですから。それに法律で 捕まってしまいますよ。」 「そうか、では一旦失礼する。」 グレイが諦めて引き返そうとした所…、 「あのー、応募を見てきました…。」 三人のパーティがやって来た。 「俺はルーク、剣士をやっている。」 「私はシエル、僧侶です。」 「僕はレイン、魔法使いです。」 三人はF級パーティだった。 「…俺はグレイ、今は無能力だ。」 「無能力?あの世界唯一の無能力者ゼロ?」 「そうだ。だが武術はある程度出来る。」 「でもモンスターに唯の武術は通用しないよ?」 「しかも僕達はF級パーティだよ?無理だよ。」 三人はひどく外の世界を恐れている。 「大丈夫だ。怖くなったら逃げたら良い。一生F級止まり になるだろうがな。」 「まあ落ち着けって。でも何のクエストを受注するの? せいぜいF級なんて、西のソニア平原の薬草取りか スライムやゴブリンの討伐だけだよ。」 「そもそもソニア平原かオーダン平原しか冒険者は 行けないし、S級でもアトラス海しか行けないんだから。」 「は?なんだと?」 グレイは驚きを隠せない。 あまりにも弱い国民に驚いていたのだ。 「今回は、雪月草のクエストを受ける。」 「雪月草って!そんな無茶な!!」 雪月草は遥か北の地にあるとされる伝説の花だ。 しかし過去百年間で一度も見つからず、受ける者も リスクから居なくなり、S級クエストからF級へと 落ちて長年放置されていたらしい。 「そんなものあるわけない。それに死ぬ気ですか?」 ギルド嬢が言って来た。 「あるさ。私が山に植えたのだから。」 「は?何を言っているんだ?」 ルークが呆れた顔で言った。 「私はこんな無茶をして死にたくはない」 シエルも同じく呆れている。 「でも、僕達をパーティに入れてくれる人なんて居ない。 賭けてみるのも悪くないのかな。」 「レイン、本気で言っているのか?」 「うん、だってこのままだと一生最弱パーティだよ。」 「確かにそれは一理あるかもしれない。」 「シエルまで!そこまでゼロに賭ける価値はあるのか?」 「私はグレイだ。必ず三人を殺させはしない。」 「あーもう、分かったよ。」 遂にルークも折れて納得した。 「私は知りませんからね。」 ギルド嬢は困った顔をしている。 「ああ。ありがとう。」 「ちなみに、北の最到達点はレイブン貧民街という場所 だと記されています。」 「大丈夫だ。ルーク、シエル、レイン、よろしくな。」 「よろしく。」 「見つかると良いですね、雪月草。」 「よろしくお願いします。」 四人はパーティを組んでギルドを後にした。 「そういえばお前らの装備と能力は何だ?」 「俺は鉄剣ロックソード。能力は錆化だ。」 「私は十字架クロスハート。能力は反転です。」 「僕は魔杖リベリオンです。能力は解体です。」 「そうか。レベルに反して物は良いな。」 「一言余計だ。というかお前は手ぶらじゃないか!」 「私は能力を持っていないからな。」 「本当に大丈夫かよ。スライムすら倒せなさそう…」 「それより旅は長くなるぞ?大丈夫か?」 「どうせ私達は最弱パーティだからね。」 「そうだよ。僕達に仕事は来ないからね。」 「それなら良かった。」 やがて四人は国境へ辿り着き、国外へと踏み出した。 「グレイ、オーダン平原だよ。」 「ああ、強くなりながら進んだ方がいいから、積極的に モンスターを倒して行こうか。」 「そうだね」 「お前らの能力は使えるのか?」 グレイが三人に問う。 ・・・ 「えーと、俺の錆化は武器を錆びさせる。手袋をつけて 剣を扱うけど剣の能力は引き出せない。」 「…ただの剣使いって事か。」 「私は反転で怪我を治すけど…、受けた怪我は私に 返ってくる。等価交換の掟があるの。」 「それは痛みをお前が受けるだけじゃないか。」 「僕は解体。物をバラす事しか出来ない。」 「なるほど、最弱パーティの意味が分かった気がした。」 「だろ?だから頼むよグレイ。強くあってくれ!」 「大丈夫だ。」 「本当かよ…。」 三人はまるで信じていなかった。 そして四人はオーダン平原でF級モンスターを倒して 進んで行った。 「おりゃー!!」 ルークはロックソードでスライムに斬りかかる! しかしスライムの復元力には効果がない。 「ルーク、スライムの核を突け。」 「分かっている!!」 実質無力化されているルークの剣術はあまりにも酷い。 「僕がリベリオンで援護をします!」 しかし彼は無能力魔法マジックミサイルしか打てない。 「命中率が低い上に威力が弱すぎる。駄目だな。」 「私もクロスハートで護ります!」 しかし彼女は身を削る反転術しか出来ない。 唯一の無能力聖魔法ライトニングは目眩しにしかならない。 「お前はタイミングを考えてライトニングを出せ。」 「分かっています!」 あまりにも弱すぎる。 「これでは古代魔法どころか雪月草すら程遠いな。 よしお前たち、ここで暫くレベルを上げるぞ。」 「偉そうな事言うんじゃねえ!」 三人が戦いながらグレイの方を振り返る。 ドン!ボカーン!ズドン! グレイは仁王立ちしたまま襲ってくるスライムやゴブリンを 一撃で撃退していた。 「無能力になったとは言え、こいつらは弱いな。」 「俺らが三人でやっとなモンスターをこうもあっさりと…」 「こういうのは知識と力が物を言うんだよ。」 「くそ、負けてられるか!!」 グレイのアドバイスを聞いて三人は着実に技術を上げて 行き、低級モンスターを次々と倒していった。 ルークは敵を熟知し、一撃で倒すようになり、錆化で ゴブリンが落とす短剣を壊して回った。 レインはマジックミサイルの命中率を格段に上げ、 解体の能力をモンスターの落とした物に使っていった。 シエルはライトニングでサポートに徹し、またポーション を使って反転の能力に慣れて行った。 能力とは使えば使うほど覚醒していく物だからだ。 そうして四人が平原で過ごして3ヶ月が経った。
一話 五人目の英雄
『昔々この世界に四人の英雄がいた。 聖騎士ルシウスは時を司る光となり人々を救った。 大賢者カイザーは全知全能を以て法則を書き換えた。 大巫女アウラは神聖な力で世を浄化していった。 大武師ギルバートは重力を操り武神として降臨した。 彼らは世界を脅かす魔物を倒し、世界を護ったのだ。』 「…おい…」 「おい!起きろ!!」 ハッと目覚めたグレイは目の前の状況を飲み込めなかった。 「…ここは?」 段々と思い出した。 ここは魔法学校エコール。 この世界では十歳になると神殿で能力を授かる。 戦闘系は魔法学校で技術を高め冒険者となる。 冒険者は国を脅かすモンスターの討伐に向かう。 冒険者にはランクがあり、F級からS級まである。 十五歳のグレイ。 英雄に憧れ、魔法学校に入ったのだ。 グレイは世界で初めての無能力者だったのだ。 「もう一発喰らいたいのか?早く起き上がれ!」 目の前にいるのはグレイを虐めている炎の能力のジン。 「…私は…何を…」 「おい!聞いているのか?ゼロの分際がよ!」 グレイは無能力者と言う事からゼロと呼ばれている。 「…私は一体…」 グレイにはもう一つの記憶があった。 「良い加減にしろ!」 ジンがグレイを炎拳で殴ろうとした。 ドン!! 「…はっ?」 気付けばグレイはジンを殴り返し、ジンはその場で倒れた。 「お前、今は何年だ?」 「…おい、お前誰を殴っていると…」 「何年だ?」 グレイは倒れているジンに訊き返す。 「…二千年六月八日…」 「そうか。分かった。」 そう言うと彼はジンの元を去っていった。 グレイは頭の整理をする為に寮に戻った。 「おお!おかえり!」 迎えたのは同じ寮で二番目に最弱と言われるユーリだ。 「ああ。」 「グレイどうした?いつものお前らしくないな」 「知りたい事がある。教えてくれ。」 「良いけど、本当にどうした?」 グレイの肉体の記憶には今までの記憶があった。 しかしそれでも理解できない事は山ほどあった。 「虚言だと思ってくれ。私は、千年前の英雄グレイだ。」 「何だよそれ。そんな英雄は居ないだろ?」 ユーリは四大英雄譚の本を渡してきた。 「お前、何度も読んだだろ?これ。四大英雄みたいな 世界を護る英雄になるんだって言ってたじゃないか」 グレイは思い出した。 「…そうだ。この肉体のグレイはな。」 「何を言ってるんだ?」 「私は千年前の英雄、大魔導師グレイだ。私は魔神王を 弱体化させる為に命と引き換えに禁忌の術を使い死んだ。」 「そうだとして、なぜその身体に宿ったんだ?」 「わからない…。気付けばこの肉体で目覚めていた。」 「じゃあ、その魔神っていうのは何なんだ?」 「は?魔神を知らないのか?冒険者は何をしている?」 「そりゃ、モンスターから国を護るためだろ。」 「千年で色々と変わってしまったようだな。 この世界には魔神族という種族が居た。それを率いるのが 魔神王だ。奴は千年前にこの世界を支配しようとしていて、 それを我々英雄は阻止する為に立ち向かったのだ。」 「信じてやるよ。でも英雄なら魔法を使ってみてよ。」 「それが肉体が変わった事で能力が使えないのだ。」 「うーん、信じ難いが妙に信憑性がある話だな。 よし、信じよう。」 「正体は明かさないようにしよう。」 ユーリとグレイはその後も話を続けた。 「それで、グレイはこれからどうするんだ?」 「そうだな。まずは能力を手に入れるか。」 「でも神殿で授かれるのは一度きりだぞ?どうするんだ?」 「古代族が遺した古代魔法を手に入れる。」 「古代族?古代魔法?なんだそれ」 「そうか、今の人類は人族とモンスターしか知らないのか。 この世界には人族の他に魔神族、古龍種、そして 古代族が存在する。」 「龍もこの世界に居るのか!」 「ああ。今の人類は弱すぎて辿り着けないだろうがな。 この世界には三種類の掟というのがあり、三種族が 存在する。しかし古代族は神の目を欺いて人知れず 生きている最古の種族だ。」 「へぇー、そんな種類がいるんだ。」 「ああ。私が英雄だった時代には既に古代族は文明を 失い隠れて生きていた。そんな彼らは高度な文明を 持ち、古代魔法を生み出した種族でもあった。 しかし、魔神族に奪われる事を恐れ、世界各地に封じ たのだ。後にダンジョンと呼ばれ古龍種が護るように なったのだがな。」 「そこに古代魔法があるということか。でもお前、今は 無能力者じゃないか。どうやって行くんだ?」 「経験は忘れていない。それに古龍種とは縁があってな。」 「学校はどうする?」 「辞める。当分は帰ってこれないからな。」 「分かった。俺から伝えておくよ。」 「ユーリ、感謝する。」 「生きて帰ってこいよ。」 「もちろんだ。」 朝になるとグレイは寮を後にした。
第三話 白旗乃縊鬼遮那王
「何処にいるかとかって分かるの?クロエは」 「私の能力の一つは霊の強さ位置なんかを見通せる。」 「す、すごいね。」 「遼夜の方がもっと凄い可能性を秘めている。」 「うん、頑張る。」 「ところで猫の置物はどこいった?」 思い返せば幻覚の中で柚葉は猫の置物を失っている。 「大丈夫。ランクが低いから既に遼夜の中に取り込ませて おいたから安心。」 「え!??僕の中に…!??」 「呪物ってそのままで使えないの?」 「説明しておく。霊と呪物は強さが比例する。」 霊には死霊、悪霊、怨霊、荒魂、神霊とランクがある。 死霊ー未練のある浮遊霊。人に影響を及ぼす。 一般呪物も該当する。五級呪物が出る。 悪霊ー心霊スポットレベル。土地に影響を及ぼす。 早良親王、井上内親王、藤原広嗣が代表例だ。 霊媒師、住職、神主が制圧・管理している。 三・四級呪物が出る。 怨霊ー壊滅的影響を及ぼす。社会に影響を及ぼす。 日本三大怨霊も属する。陰陽師が管理している。 一・二級呪物が出る。 荒魂ー祟り神。鎮めば護り神になるが厳しい。 古くから封印されている。国家に影響を及ぼす。 須佐之男命、天照大御神、大物主大神が属する。 和魂を持つ者しか封印出来ないとされている。 特級呪物が出る。 神霊ー地球が滅ぶレベルの災厄。伝説の禍神。 空海によって封印されたと言われる禍津日神。 伊弉諾伊奘冉から産まれたとされている。 空海は神直毘神、大直毘神連れて封印した。 「呪物はそのままで使えるが、吸収した場合本来の能力を 最大限に使え、倍近くの能力を発揮できる。その代償に 黒い蝕化が進行するけど。」 「ちなみに猫の置物の能力は結局なんだったの?」 「その猫は特級呪物欠けた猫の贋作だった。」 「偽物ってこと?」 「ただ、五級呪物に成り上がるほど念が籠っていた。 能力は相手に確率で災いを発生させる悪運だ。」 「そんな中途半端な…」 「私がいるから大丈夫だ。」 そんな話をしていると、前に池が出てきて、真ん中に 小さな祠が建っているのが見えた。 「気をつけろ。相手は悪霊の中でも名高い奴だ。」 白旗乃縊鬼遮那王(しらはたのいき しゃなおう) 首を縄で縛られた騎士遮那王が骸晒しになっている。 「奴の能力は無間瀑布首塗ノ儀。池の水、奴の血 全て触れたら切れて滑り堕ちる。」 「近付けない上に奴のテリトリーに居る訳か。」 「私が何とかする。二人は逃げて。」 「絶対に発動させてみせるから!」 クロエは微笑み、二人は後ろへ下がって発動を試みた。 『ほぉ、お主は女子(おなご)であるのに強いな。』 「喋る余裕は与えない。行くぞ、大嶽丸。」 クロエの宿した一級呪物大嶽丸が神通力を現した。 『凄いでは無いか。しかし私には効かん』 大嶽丸は二枚の刃を出した。 雷を宿す大通蓮と雨を宿す小通蓮。 クロエは斬りかかるが池を支配する遮那王には効かない。 「くそ、相性が悪い。」 しかも遮那王の攻撃は一度でも喰らえば終わりだ。 何度も斬りかかるが倒せる未来が一向に見えない。 そんな時、遮那王の水飛沫がクロエの左腕を掠った。 間一髪でクロエが左腕を押さえたが、遅かった。 ヌルリと切れた腕が滑り堕ちた。 『その命、貰った。』 機会を逃すまいと遮那王が斬りかかってきた。 「当たれ!招肉の歪猫!」 背後で光が差し、クロエが振り返ると遼夜が猫の呪物を 発動させていた! 『なに!五級呪物の分際で!!』 遮那王が護るより早く、猫の呪物は黒い雨を降らせた。 クロエは間一髪で遼夜が助けた。 『その能力は…!!…神の…』 遮那王は話し終えるより前に黒い雨に溶かされ、瘴気 となって消えていった。 「クロエ!大丈夫!??」 「左腕は失ったが大丈夫。それよりも呪物を。」 遼夜は池に残った呪物を取ってきた。 「遼夜、遮那王の呪物を取り込んで。」 「いいの?」 「私は新たに取り込むことは出来ない。」 「分かった。」 そう言うと遼夜は遮那王の呪物を胸に取り込んだ。 「どう?使える?」 「うん、血を操る能力みたい。ちょっと使ってみる。」 そういうと遼夜は池の淵に立ち言い放った。 無間瀑布首塗ノ儀! すると、池の中から散り散りに砕けた肉片が集まり、 クロエの左腕の形を取り戻した。 そしてクロエのちぎれた腕と融合した。 「これは…!!?」 「あの能力の根源が液体を刃の様に扱う事だったから 逆に集めて形成してみたんだけど、大丈夫?」 「う、うん。ちゃんと動く。」 「遼夜って頭だけはいいもんね。」 柚葉が笑って遼夜に問いかける。 気付けば夜は明け始め、綺麗な街並みが見えていた。 「こんなに綺麗な場所だったんだね。」 「そうだね。」 「これから呪物を集めていけば、報われることも沢山 あるだろう。頑張ろう。」 「そうだね。よろしくね、二人とも。」 「私も頑張るからね!」 三人は笑って歩き出した。 「そうだ、さっきそこで拾ったんだけど。」 凌夜が一枚の札を見せた。 「あ、それ滝の麓にも貼ってあったね。」 「一応写真に撮っておこう。」 疑問が残りつつ、三人は帰路に着いた。 ーしばらく経った頃ー 「へぇー、遮那王を倒したのか。凄いじゃん」 帽子と眼鏡をかけた謎の男が言った。 「そろそろ準備されては如何ですか」 隣で老婆が言った。 「分かってる。あの陰陽師は処分しておけ。」 「仰せのままに。」
第二話 源氏の滝
ー翌日夕方ー 「それで、柚葉サン、一体何処へ向かってるの?」 柚葉が車に遼夜と真を乗せて走らせている。 「ふふーん、聞いて驚け!源氏の滝だー!」 「え、どこ?」 「本当に遼夜は無関心だなー。先輩は知ってるよね?」 「うん、大阪で有名な心霊スポットの一つ。滝壺辺りで オーブが撮れたり子供の霊が出るって噂だよね。」 「そうそう!猫の置物を使う初陣にもってこいだ!」 「流石に先輩も怖いですよね。心霊スポットなんて」 遼夜がビビりながら真に問いかけた。 「いや、初陣がAランクスポットなのが怖い…。」 「ランクってなに?」 柚葉が笑顔で聞いてきた。 「やっぱり!君達ランクを知らずに来たでしょ! まぁ僕らみたいな一般人が行っても何もないと思うけど」 柚葉が遼夜の方を向いて言った。 「あそっか、遼夜の霊媒体質を実際には見てないもんね」 「…え?」 そんな中、車は源氏の滝の麓まで辿り着いていた。 「もうすぐ着くよー!」 「いや、なんか、違くない?」 真が何やら震え出した。 「僕が来るとこうなるんです。」 遼夜が冷や汗を流しながら真に言った。 「それにしても、こんなに霊が居るのって初めてじゃない?」 柚葉も違和感に気付いている。 「確かに…。引き返した方が良いんじゃ…」 「…そう思ったんだけどね、車が止まらない…。」 「え??」 二人は聞き返した。 「もう物理的な霊障に遭っている。」 二人が運転席をよく見ると、アクセルを浮遊霊が 押し込んでいる。 「物理的に干渉してくるレベルは初めてだ…。」 「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」 遼夜が言い返した。 「お願い!止まって!!」 柚葉は全力でブレーキを踏み込む! 制御の効かない車は源氏の滝の正面へ近付いてきた! 「………!!」 車は滝の手前で無事止まった。 「…死ぬかと思った…」 「本当だね、アトラクションより怖かった」 「柚葉、呑気な事言ってる場合じゃないでしょ。」 「…いや、本当に油断してはいけないよ。」 真が立ち上がって言った。 「わざと誘導され、わざとここで止められたと考える 方が良い。罠に嵌められたんだ。」 「そんな…。」 三人が驚いていると、辺り一面に霧がかかり始めた。 「二人とも、手を繋いで。」 怯えていた真が真剣な声色で言って手を伸ばした。 二人は頷き、手を握り合った。 「よし、猫の置物!助けて!」 シーン… 「ダメだ。調べたけどさっぱりわからない。」 「呪物には発動するための言葉、呪禁を言わないと ダメだって聞いたことがある。」 「でもそんなのわからなくない?」 「とにかく手を繋いだまま進もう。」 真が先頭となって二人を導こうとする。 「気をつけてね、遼夜。」 「…」 「あれ、遼夜?」 柚葉が振り向くと遼夜が消えていた。 握っていた手を見ると… 「キャアアアアア!!」 柚葉が握っていた遼夜の手は日本人形に変わっていた。 「先輩!!助けて!!遼夜が!!」 そう言って真の方を見ると、真も日本人形に変わっていた。 「うそ…そんな…」 ー遼夜ー 「二人とも!!どこに行ったんだ…!!」 突然二人の手の感触が消え、一人になった遼夜は焦って 走っていた。 おぎゃあ…おぎゃあ… 赤ちゃんの泣き声が聞こえて来た。 「いや、こんな場所に赤ちゃんがいる訳がない。 これは幻聴だ…そうだ…。」 何とか惑わされずに進もうとしたが、足元が絡んで転倒 してしまった。 足元を見ると、赤ん坊が眼をひん剥いてしがみ付いている。 「う…うわぁぁぁああ!!」 遼夜は必死に逃げようと抗っていた。 ー柚葉ー 「二人ともどこに行ったの…!!りょうやー!! せんぱーい!!助けてー!」 今まで霊障に遭わず中和していた柚葉だが、ここでは 霊障を中和できずにいた。 「これは、私がここの霊より弱いって事だ。」 すると、霧が晴れて目の前に源氏の滝が現れた。 「…これはまずい…!」 柚葉は全力で走って逃げようとするが、どれだけ走っても 何故か源氏の滝の前に帰ってくる。 「閉じ込められた…。どうしよう」 柚葉は走って逃げる事しか出来ずにいた。 ー真ー 二人の気配が消えて霧が晴れると、森の中にひとり 佇んでいた。 「あれ、ここは…」 真は分かっていた。ここは滝森と言って、これは幻覚の 中でも最悪の場所。現実世界では滝に堕ちたと言う事だ。 源氏の滝には呪いの番がある。 その一、霧に囲まれる。幻覚の始まりだ。 その二、霧が晴れて滝が姿を現す。 その三、すでに滝に堕ちて滝森に囲まれる。 「早く幻覚から醒めないと。でもどうすれば…!」 絶対絶命の状況で真は死を覚悟した。 そこに見知らぬ少女がぼやっと現れた。 若草の刺繍の入った赤い服を着ていて不気味だ。 彼女の腕が黒い痣を纏っていて尚不気味さが増している。 「…お前…、厭…。」 彼女がそう言うと意識が遠のいて行った。 同時刻、柚葉の方にも彼女が現れた。 「…お前か…?いや違う…。」 「貴方は…誰?」 柚菜は尋ねたが直後に意識が遠のいて行った。 遼夜は何とか力づくで足にしがみ付いている赤ん坊を 蹴飛ばして、立ち上がって足を踏み出した。 「はぁ…はぁ…くそっ!」 その瞬間、霧が晴れ足元に滝が姿を現した。 「う…うわあああぁぁ!!」 「遼夜!!」 振り返ると柚葉が手を伸ばしていた! 「柚葉…!!」 間一髪で遼夜は引き上げられた。 「はぁ、ごめん、助かった。」 そこに謎の少女がやってきて遼夜の胸を掴んで言った。 「お前か。こんな所で何をしている。」 「いや、僕たちはオカルト部で…、」 遼夜は驚いた様子で二人をチラチラと見つめる。 柚葉「ねぇ、君。ちょっと…」 柚葉は少女に経緯を説明した。 「私はクロエ。世間で言う霊媒師みたいなものだ。」 「僕は、遼夜。」 「遼夜。お前のそれは呪いどころではない。」 「え?でも霊媒体質で…。」 「今日あった事は、お前の能力と私の能力が引き合わせ 霊障を吸い寄せたんだ。」 「能力?ただ僕は…」 「遼夜は、呪物を取り込める完全なる器"呪胎なのだ。」 「僕が?呪胎…?なんだよそれ」 「私も同じく呪胎だ。でも不完全だった。だから、 能力を使う度に身体が黒い痣に蝕まれ、やがてそれは 全身を蝕むと灰となって消えていく。」 そう言うと彼女は腕の痣を見せた。 「私は過去の記憶が無いが、初めから体内に呪物を宿していた。しかしお前は違う。呪物を無限に取り込める 器なのだ。」 「だからなんだよ器って。」 「そもそも呪いを中和するだなんて聞いたことがない。 柚葉は遼夜の呪いを中和する為に産まれたのではないのか」 「いやいや!私は至って普通に生きてきた!」 「遼夜は養子だと聞いた。本当の親を知りたく無いか?」 「それは、そうだけど。」 三人とも理解が追いつかない。 「私は記憶を取り戻したい。遼夜達の普通の生活を 取り戻すと言うのも協力しよう。だから、一緒に 呪いを払わないか?」 「確かに君が居たら遼夜の呪いの事も分かるかもしれない」 「僕も、自分の力を制御して、呪いを解きたい。柚葉に 普通の生活を取り戻させてあげたい。」 「ありがとう。早速だが、ここの霊を対峙しよう。」 「え!?そんな突然…!」 「柚葉の中和する力、神聖力をサポートできる。」 「そうなの?神聖力って言うんだね。」 「今適当に名付けた。」 「あ、そうなんだ。」 「あの…、」 真が立ち上がって言った。 「悪いけど僕は帰るよ。」 「え、どうして?」 「怖いんだ!もう行きたく無い。名前だけは残すから、 僕をもう放っておいて!」 そう言うと真は走って帰っていった。 「真は死ぬ間際だった。逃げてもおかしく無い。 それに真は霊障に耐性が無い。かえって安心だ」 「とりあえず、三人で行こう。」 「クロエ、よろしくね」 「二人とも、覚悟して。」 三人は滝の隣の階段を登り始めた。
第一話 廃部寸前のオカルト部
桜が咲き誇る四月の朝。 まるで桜が散るかの如く、下を向いて怯えて歩く遼夜がいた。 「りょうやー!!おはよう!!」 そこに、真反対で明るい柚葉が現れた。 「あ、柚葉、おはよう」 「相変わらず暗いねー。そんなんじゃ友達出来ないよ?」 柚葉が顔を覗く様に語りかけてくる。 「いいよ、どうせ柚葉以外に友達ができた事なんて無いし。」 「もー、新学期なんだから元気出そうよ!ね?」 「だって…、」 二人は小学校からの幼馴染。 霊群遼夜には両親がおらず、幼い頃に養子に出されて この街に来たらしい。 しかし彼はどこか普通ではなかった。 「だって、僕と仲良くなったら呪われるから。」 遼夜は超が付くほどの霊媒体質だった。 霊を寄せ付ける体質で、しかし遼夜は霊障に強い為周囲の人間に影響が及ぶと言った所だ。 「それはこれから解決しよっ!」 神崎柚葉は異例だった。 唯一、霊障や呪いを一切受け付けない存在だった。 それどころか遼夜についた呪いを無意識のうちに中和 する程だった。 「この学校には関西で唯一のオカルト部があるんだって。」 「大丈夫かなぁ…」 「きっと何かわかるはずだよ!!」 柚葉のその自信はどこから来るのか。 二人は学校へ足を進めた。 しばらくして始業式が終わり、新入生歓迎会が開かれた。 「あれー?オカルト部ってどこ?」 二人はどれだけ探しても見つからない。 「無い方が良い…」 遼のは乗り気では無い。 「おお新入生!オカルト部を探しているのか?」 吹奏楽部の先輩が声をかけてきた。 「そうなんです。でも無くて。」 「そうか、知らないのか。オカルト部は今月で廃部に なるらしいぞ。」 遼夜の安堵とは裏腹に柚葉は驚きを露にした。 「えー!?なんで?どうして?」 「最低部員数の三人を下回ったからだよ。」 後ろから別の先輩が声を掛けてきた。 「一応部長の國光真(まこと)です。」 「僕たちは…」 「私!私と遼夜が入ります!!」 「え、僕も?」 「当たり前じゃん!ね!これで足りる…」 「三年生が卒業して、俺しか残っていない。」 「先輩が唯一のオカルト部員…?」 「俺も辞めようと思っている。」 先輩は視線を逸らして廊下の先を指差した。 「あそこ、部室だった場所。」 そこは木の板で杭を刺されて封鎖されている。 いかにも何かが出そうな異質な空気感が漂っている。 「ある日先輩が持ち帰ってきた呪物を置いてから、 霊障が絶えなくて当時の顧問が封鎖した。」 二人は驚きを隠せない。 「柚葉、やっぱり辞めよう。」 「いや、私に任せて!!」 柚葉がそう言うと、鞄からバールの様なものを出して 木の板を外し始めた。 「何でそんなものを持っているの?見つかったらまずいよ…」 「そんなの何かあった時の護身用に決まってるじゃん!」 「や、辞めた方がいいって!」 先輩が叫ぶ。 「先輩、大丈夫です。柚葉はああ見えて…、」 柚葉は扉をこじ開けて、中に置かれたままの呪物に 手を出した。 そこにあるのは、オカルトでは有名な猫の置物。 柚葉は躊躇いなく猫の置物に手を出した。 すると、禍々しかった異質な空気は消えていった。 「柚葉は呪いを受けず中和出来るんです。」 「すごい…、消えた。」 「ぶい!」 柚葉がピースしている。 「でも、三人じゃまだ使えないな」 遼夜もうなずく。 「よし!一人連れてくるから待ってて!」 そう言うと柚葉は走ってどこかへ行ってしまった。 「…帰りますか…。」 「え、でもあの子は大丈夫?」 「はい。よく飛び出してどこかへ行くので。」 「それなら…」 先輩の言葉を遮る様に柚葉が戻ってきた。 「連れてきたよー!!」 柚葉が連れてきたのは同級生の清明依代梨(いより)。 「数合わせだけだからね?部活動には参加しないから」 「いいよね!先輩!」 「まあ、いいけど何でそこまでして…」 柚葉は目を見て言う。 「私は、遼夜の霊媒体質を治したいの。私の打ち消す 力が何なのかも知りたいし。だからオカルト部なら 何かわかるかもって思ったんだ。」 「でも廃部になるほどの部活だから。」 真は顔を逸らして小声で言った。 「でも、ここでなら何かわかるかもしれない。」 「そうだよね!遼夜!」 二人は微笑んだ。 「それなら僕も協力するよ。」 「でも何をすれば…」 「心霊スポットに行ってみたら?」 依代梨が言った。 「心霊スポット?危なくない?」 「霊媒体質は受け入れるか使える程強くなるしかない。 今後も霊障に遭い続けて周りの人に被害を与えるか、 霊より強くなって霊障に遭わなくするか。 今の君達は一般の死霊にすら劣っていて、既に遼夜には沢山憑いている。」 「でも私が中和するしか出来ないけど」 「柚葉の中和は中でも弱い浮遊霊にしか対応出来ない。 強くなりたいなら、心霊スポットを巡って呪物を集め 使える様にする事だね。猫の置物みたいに。」 「君、猫の置物を知っていたのか」 「私の家系は霊媒師を輩出する家でね。」 「そうなんだね。」 「猫の置物は柚葉の中和力に負けた。それだけ。 呪物の中でも底辺だから制圧できた。」 「ありがとう。とりあえず部活動の目的は決まったね!」 「いや、どうやって対峙するつもり?」 「何とかして猫の置物を使うよ!」 「何とかしてって…、何て計画性の低さ…」 「まぁとにかく!部室も部員も確保したし!明日から 部活動開始するよー!!」 柚葉が三人に向かって言った。 「私は遠慮しとくわ。」 依代梨は颯爽と帰っていった。 「じゃあ先輩!また明日!!」 「うん、またね。(僕が部長なんだけどな…)」 「ほら遼夜、帰るよ。」 「わかってるって。」 二人は学校を後にした。
天才
僕は三十歳の今、Barでピアニストをしている。 この三十年間、音楽に膨大な時間を尽くし、気が狂う程 練習を積み重ねてきた。 産まれる前から両親にクラシックを聴かされ、生後は 英才教育を受けさせられた。 親は会社を受け継がせる野望と、芸術家として成功させる 野望の両方を押し付けてきた。 思春期には反抗したものの、それまでの努力を無駄に するわけにもいかず音楽と勉強を無心で続けた。 こういう完璧な人間は何て言われると思う? 『天才でいいね』 羨ましいと思われて当然だ。 しかし心のどこかでは亀裂が着々と広がっていた。 結局親の理想通りに生きたが親の基準は到底満たせず、 そのまま社会人になり、大手企業に就職した。 音楽は切り捨て、ひたすら仕事で成果を出そうと尽力した。 しかし親の言いなりに生きてきた自分には目標も何も なく、結局続けられずに辞めた。 親は心底失望し、家族を失った。 そこでピアノを始めた。 それまでの25年分の経験値があったからすぐに弾けた。 コンサートを開いたり、テレビに出たり、それなりに 楽しんだし知名度も上がった。 しかし世間はまた僕をこう言った。 『天才で羨ましい』と。 他人からすれば、たった数年でピアノで実績を残せる 僕が羨ましかったのだ。 友人やSNSで虐められるようになった。 幼稚園から孤立し虐められていた自分にとって、慣れた 事のように感じたが本当は辛かったのだろう。 世間から誹謗中傷を受け、居場所を失った気がした。 『努力もしないで何でも出来るってずるい。』 なんて言われた時には息が詰まりそうになった。 どこに行っても、誰と出会っても言われる言葉は ずっと同じだった。 親の言いなりに生きてきて、それなのに親を失望させて 破門になって、世間からも除け者にされて、近付いて きた友達も悉く離れていった。 寂しかった。天才でいる事が苦しかった。 普通でありたかった。 完璧で居続けるのが辛かった。 せめて、ただ一言、 『頑張ったね』と言われたかった。 そんな天才という言葉に苦しみ苛立ち忌み嫌った、 あるひとりの男の子の物語…。
十年後の私へ
20代はあまりにも苦しかった。 詐欺に遭って多額の借金を得たこと。 鬱になって会社をクビになったこと。 その先で友達が居なくなったこと。 彼女が突然の失踪を遂げたこと。 そして、余命10年と宣告されたこと。 ドラマの様な話だけど全て実際に起きたこと。 正直未来が見えない。 何も残せず誰にも必要とされず、暗闇で死んでゆく事が 怖くなって、最近は夜も眠れない。 後悔だけが心を埋め尽くす。 だから10年後の自分に手紙を残すことにした。 『十年後の私へ 生きていますか? 借金は返せましたか? 何かこの世界に遺すことはできましたか? 友達はできましたか? 失踪した彼女は元気で暮らしていますか? その人生に、悔いはありませんか? 孤独に死ぬ事だけが怖いです。 どうか生きた証を残していてくれたら嬉しいです。 二〇二六年の私より』 この手紙を、未来の私に向けて遺す事にした。