ららのーと
32 件の小説思った数は距離
戸は閉じられた。 そこに意思はなかった。 多分、私は何も知らなかった。 食事はあった。 よく眠れている。 私はただ時間を持て余していた。 部屋には本しかなくて、 でも、机の上には重なる紙束。 結局、紙しか、ないみたい。 その紙でしか、 その束こそが、 小さな小さな変化だったんだと思う。 「最後に、それならきっと。 これは想像のお話。 僕はこれからも覚えていきたいのです」 『ここは自給自足の世でした。 働く分だけ、長くなる。 それだけは利点でした。 そんな短い日々の、大きな川の、 小さい家の、大きな家族。 そこに僕はいました。 しかし、働ける日と働ける人は、 限られています。 もちろん、天候にも左右されることです。 それでも、何とか分け合って、 伸ばしていくのが当たり前。 それでも結局、訳あって 成果と生家は保てない。 そんな理不尽。 1度目でした』 『そこは王国の隣町です。 ただただ、お腹を空かせて、 行ったり来たり。 家族は居ません。 逆に、守るものがないと考えることにします。 でもそれは結果の裏返し。 楽になったと思うのです。 畑ではなく運びが仕事。 よく分からない金属でまた、日々を伸ばしていきました。 記録をつけてみます。 最近、近道を見つけました。 少し暗い道だったはずです。 暗い道は行きは通らない方がいいな。 次の日の僕は、そう反省していたのです。 これが、2度目です』 『戦争が起きていました。領土の問題だそうです。 石油や鉄、労働力など 欲しいものはキリがありません。 食料などもちろん、ありません。 国のために頑張ってる人がいるのですから。 僕ら一同、生産者。 いつ死ぬのか分からない中で 恐怖を力に変える人。そんな話を想うのです。 いつか目の前に現れて僕らを颯爽と助けていくのです。 1ヶ月、普段ならもう満ちています。 しかし日課は変わっていません。 何も分からない。なんで終わらないのだろう。 鳴り止まない音が、どこから聞こえるのか。 それすら分からず、聞こえなくなりました。 それこそが、3度目なのです』 『スマホが普及し始めました。 多分ですが、手紙はもう古いかもしれません。 それより聞いてください。最近気がついたんです。 普段と違うことをした方が、長くなるんです。 なぜ気がついたかと言うと、実際にやってみたからです。 それは君にも分けてあげたいのです。 最初は日にちかと思っていました。 でも違ったんです。 あなたなら何を書きますか? 書いてくれると嬉しいです。 あとは、読んだ本の感想などもいいかもしれません。 僕はもう協力出来そうにありませんが、君ならきっとできます。 君が、もし、やめたくなった時は、 また僕が届けられるよう、話を作りに行こうと思います。 そしてこれが4度目になります』
紙
紙だって指を斬る。 僕達だってできるはず。 僕らはとても、弱かった。 弱いは逃げる、理由じゃない。
無くし物、探し物
きっとだって言う流れた日 それはずっとだってね笑う君 僕も笑顔になった流れ星 このまま夢を探すだけの日々 この先の君はどう生きてくの? 僕はやりたいことがないんだよ まずどこにいるのか教えてよ 歩く場所も確かなものじゃない 夢っていつか言ってたね 僕は君の夢すら分からない でも、分からないままでいたくない だから探させて、君のこと ありがと
彼岸花が似合う君へ
霧の濃い川にいた。僕はそこで船に乗っている。ふと、霧のなかに動く影があり目を凝らしてみると女性だと気づいた。その頭に花のアクセサリーを付けた女性は陽気に歩いていたが、こちらに気づいたとたん驚いたのち、大声を出して叫んでいた。 目が覚めると知らない天井が目に飛び込んできた。あたりを見渡すとここが病院であることがわかる。近くにいた看護師に聞いてみると僕は交通事故にあったらしい。不幸中の幸いというべきかそこまでの重症ではなく、一週間ほどで退院することができるそう。僕は、リハビリするとしよう。 数日後、実際に退院することができたので、家に帰ることになった。鍵を開け、扉を開ける。そして、中に入り荷物を置こうかとリビングに入った時、机の上に身に覚えのない赤い何かがあることに気づいた。また、それが彼岸花であることに気が付くのに時間はかからなかった。僕は一人暮らしなので、家に誰かが入ってくることは基本ない。さらに言えば、家の中が荒らされた様子もなければ取られたものもないときた。実害があるわけでもなさそうだし、もしかしたら、事故の衝撃で忘れているだけかもしれないので、気にしないこととした。 赤の彼岸花の日から三週間くらい経っただろうか。朝起きるとまた、彼岸花がおかれていた。前回は赤色だったのに対し、今回はくすんだような白。やっぱり、玄関の鍵はかかっているし部屋に人が入った形跡もない。そこにただ、白い彼岸花があるだけ。その花を不審に思いながらも片付けようとしたとき、あの夢のことを思い出した。そう、病院の時に見た霧の夢。僕にはある一つの可能性が浮かぶ。いや、限りなくありえないことなんてわかってる。僕は慌ててスマホを取り出し検索欄を開く。・彼岸花 花言葉・検索結果はすぐ下にでる。彼岸花は、色によって花言葉が違うらしい。赤色の彼岸花は「悲しみ、悲願」白い彼岸花は、「また会える日を楽しみに」僕は家を飛び出して走っていた。ほんとにそうかはわからない。けど、三年前に僕の元を去っていった彼女としか思えなかった。彼女は花が好きで、何かあると想い花にのせて送ってくるような人だった。そして、彼女は落ち込むと必ず近くの海にいた。 「やっと来た?遅いよ」 曇り一つない笑顔で僕に言う。 「だからわかりにくいって」 「ごめんごめん。でも、それしか方法がなかったの」 三年前、確かに死んでしまったはずの彼女が今、目の前にいる。どうして、と聞きたい気持ちもある。だけども、必要ないかなと考え聞くことはなかった。 「どうしてだろうね、君が事故にあったって知って強く願ったら来れちゃった。」 見透かしたように儚く笑う。 「でも、長くはいられないみたい」 「…そっか」 僕らは、他愛ない話をゆっくり、一秒一秒をかみしめるようにした。何の奇跡かわからないけれど。 翌日、机には黄色い彼岸花があり、きみはどこにも見つからなかった。
バナナだって武器を持つ
「なあなあ、バナナの花言葉って知ってるか?」 前の席の佐藤がこっちへ振り返っていった。 「いや、知らないけど」 「あぁ、知らないな」 そういうと佐藤は、得意げに続けた。 「バナナの花言葉は、風格っていうんだ。ちなみに、バナナの別名は芭蕉っていうんだ」 「へぇ…。っていうか芭蕉ってあの松尾芭蕉とかの?」 「そう、松尾芭蕉の芭蕉はバナナから来ているんだ。なんでも、弟子からもらった非食用バナナが大きく育ったことから、芭蕉という名を使い始めたみたいだ」 一緒に聞いていた隣の席の瀬戸がつぶやく。 「つまり、松尾バナナってことだったのか」 それもいたって真顔で。 「ちょっと真顔やめてw」 私は、思わず吹き出す。すると、佐藤が続けて口を開く。 「この話には誰も知らない続きがあるんだが、聞くか?」 私たちの回答は当然YESだった。 松尾芭蕉の本名は宗房という。ここでは、芭蕉と名乗り始めるときから最後の時までを大雑把に語っていくとする。宗房は弟子からもらったバナナを庭で育て、無事大きくすることができた。朝、いつものようにバナナを見に行くと、バナナが一本、木のそばに落ちていたそうだ。少し様子がおかしいようで、しばらく見ていたのだが、なんとバナナが動き始めたという。バナナは起き上がって一歩、また一歩と縁側に向かって歩き出す。やがて、宗房の足元まで来たバナナは、 「ここまで育ててくれて大変ありがたい限りである。折り入って一つ頼みがある。私を弟子に取ってはくれないだろか」と。 即答はできない宗房であったが、結局弟子としてとることにしたらしい。また、その時から芭蕉という名を使い始めたという。 バナナは月日を経ていくほどにたちまち大きくなり成人男性の腰ほどの高さになっていた。ある日芭蕉が小説のため旅をすることになった。その時バナナは、芭蕉にいった。 「武器をいたがけませんか?もしいただけたら必ずあなたを守りましょう」と。 そうして、武器を持ったバナナを連れて、芭蕉は旅を始めた。道中、暗闇に乗じて襲い掛かって来る人もいたようだが、なにせ隣に武器を持った巨大なバナナが動いているもんだから、襲い掛かってきた連中は腰を抜かして去っていくのだった。こうして、やっとのこと完成した小説『奥の細道』が完成し、その後すぐ、芭蕉は病によってなくなってしまった。行く場所をなくしたバナナは、自らの身を切り刻み土に埋まり、また新しいバナナとして生まれ変わり続けているのでした。 「確かに風格、ありそうだな」 瀬戸は真面目にそうつぶやく。またしても真顔で、だ。 「だから真顔やめってってwそんなわけないでしょw」 私たちはしばらくこの話題で大盛り上がりだった。 家に帰りおなかがすいていたので何かないかとキッチンへ行ってみるとバナナスタンドから一本落ちていることに気づく。まさかとも、思ったがさすがにありえないので気にしないこととした。
顔上げぬアサガオは涙を知らず
朝、落ちてく花に気づきもせず、手を振る元へ、考え無い。空が群青?夜明けの残像?経済、現在、連帯、惨状。ただ回る。 回ればいいと思ってる。意味なんて求めたことがなかったんだって。逃げればいいと思ってる。寝れたらいいなと思ってる。それの何がだめなんだ?
悪夢。
僕の環状線が絡まって、もう戻れないなんて笑ったね。 君が行燈、待って行かないで、そう叶わないなって逃したの。 目の前の水に浮かぶもの、花、雲、空とセンスの欠片。 不安定、揺れるはそれらといつか消えると思っていた夢の意思。 許され許せるの曖昧、わかんない、際限ない。 灯りはどこなんだよ、きっと消えんだ。 最初がなかったなんてなんでなんだんだって。 だから待って、わかって……。
夜の纏まり
「プロローグ」 あなたは、夜ってなんだと思いますか? 突然すみませんね、少し気になってしまって。 ···そうですね、では、一緒に一片の夜を見てみませんか? 短い短い夜の冒険です。 1『限られるからこその』 僕は幼い頃、飼っていた金魚とメダカの水槽を見て「夜みたいだ」なんて思ったことがあるのを覚えている。でも、なんでなのかはぼんやりでただ自由だなってゆっくりだなって思っただけなのかもしれない。夜は自由なものだ。新しい世界なんだ。そんなことを考えていた時期が確かにあった。でも、ある程度成長してきたら気づくことは多くある。世の中なんて制限だらけだってこと。そりゃあもう昼だけじゃなくて夜もね。 だけどね、それ以外にも色々気づくもんさ。何にも縛られない世界だったら? 例えば、僕は今通り過ぎた名前も知らない人に殺されているかもしれない。例えば、誰かひとりが食料を独占して、僕は何も食べれないかもしれない。限られた世界だからこそ、得られる自由があることに僕は気づいてしまったんだ。でもそれは戸惑いも生んだんだ。 「じゃあ僕は何を目指せばいいんだろう?」 「何かを目指さなければいけないのだろうか?」 夜は暗いけど、それでも光を放って生きていく。そこに座ってる人は疲れているね。あの人は泣いているね。でもやっぱり、夜は自由なのかもしれない。ゆっくりの世界かもしれない。 ···なんて、カッコつけて綴ってみた。 2『親』 身近に犯罪者がいる確率ってどのくらいあるだろう?それが知り合いだったら?そんな確率、低いことだと思う。でももしかしたら、結構多いのかもしれない。 苦手だったブラックの缶コーヒーをあけながら星1つ見えない空を見上げてみた。特に何も思うことなんてこれっぽっちもない。 この世界は、1日にして···いや、一瞬にして変わってしまう。僕だって普通に生きていた。なんにも変わらず平凡に生きていくものさなんて、小学生のくせに生意気に思っていた。それがもうあんなにあっさりと崩れ去るもんだとはね。 僕の父親は、ある日、殺人を犯した。でもそれは、父は僕を守ってくれたんだ。僕が、目の前の死体に殺されかけたんだ。 次の日、どこから聞いたのか、クラス中からお前のとーちゃん殺人鬼!って聞こえてきた。あの日以来、僕と関わっていた人少し距離をとるようになった気がする。学校以外でもそうだった。 称号、人殺しの息子。 イメージというものは払拭しようとすれば広がり、逆効果。先入観にまみれてとっくにダメだねこの世界。 嫌なことを思い出した。今日は帰って終わりにしよう。明日は何をしよう。することなんてないしな。なんでもいいか。 僕はなんとなく、価値の消えた缶コーヒーは捨てなかった。 3『どこかで見たテンプレ』 なんとなく、どこかで見たなーなんてものが溢れている。よく覚えてないけどなんかよく覚えてる。そんなものが結構あると思う。 型にはまる。これが一番理想だと、私は信じて生きてきた。周りに愛想つかされないように笑顔で、大人に呆れられないように、真面目に。 でも私は元々期待なんてされていなかった。期待の対象が、大きな存在が近くにいたから。私が変わった理由は、変わろうと決意した理由は、私の大好きな、自慢の姉の綾香の死だった。 勉強もスポーツもなんでも出来て、期待されて、誰もがあの子ならと思っていた。そんな優秀な姉を何も出来ない私は勝手に自慢に思っていた。 親はもちろん、私の事なんて興味は無いし、姉のことだけだったけど、それで良かった。姉は私を気にかけて、優しくしてくれて、ほんとに大好きだった。 ただ私は代わりになろうと、強く決意した。 でも、やっぱり、代わりになろうなんて無理だった。 確かに、親や先生、友達は期待してくれていると思う。だけど、私は脆い。何かを頑張れば、何かが出来なくなる。頑張り続けて、体を壊す。いつしか、夜、眠れない日が続いた。 ふと、窓の外を見た。月も、星もなんにもない。綺麗とは言えないそんな空。 だけど、何故か私はそんな空に惹かれて、私にしては思いつきで行動したなと今になって思う。 靴を履いて思いきって外に出る。風は冷たい。でも何か心地いい。 しばらく歩いていると、隣で泣き声が響く。 「ごめんなさい、ごめんなさい」っていう声。もう1人の女の子は泣いている女の子を、困ったように、嬉しいかのように、撫でていた。 その日から私は時々、夜抜け出して歩くだけ、そんな時間を過ごした。 落ち着くこの時間。私はとっくに消えているけど、この時間だけは、何か違うような、そんな感覚に陥ることが出来る。 「こんな時間に出歩くなんて感心しないな〜君、綾香の妹ちゃんでしょ」 完全に油断をしていた私は驚きを隠せず、 「あ、あなたはだだだれですか」 「私?んー君の姉の友達かな」 私の姉には友達が沢山居た。常に笑顔で、かっこいい姉だった。 「そそ、そうですか。私になにか用ですか」 「あーいややっぱり似てるなーなんてね」 「な、何がですか」 「ねぇ、踊ろう」 「え、ほんとに何を言っているんですか」 そういうと、友達を名乗る女性ははぁと溜息をつき、 「君。空っぽでしょ、踊ろう?」 「い、意味がわかりません···それに空っぽだなんてなんの」 「空っぽ、うん、空っぽ。いいと思うなー私。空っぽってことは軽くて沢山響いて、踊りやすいね。そして、これから色々詰め込める。まぁどこかで聞いたことだけどね」 なんの飾り気もなく目の前の女性は笑う。 私はたったその一言に涙が止まらなかった。 4『ありがとう』 夜は海。暗く染まった空気を泳ぐ幻想的な魚。私はそれを想像してうきうきしていた。でもそれは私の手でかき消してしまうのだった。またそれは4年前の事だった。 きっかけはほんとに些細なこと。ただ羨ましかった。可愛くて、性格も良くて私の大好きな親友。でも、でも、羨ましかったんだ。私だってかわいくなりたい。好きな人に振り向いて欲しい。そんなことしか考えてなかった。 そんな私のしょうもない感情で、喧嘩になってしまったんだ。 「ごめんね···」 そう声がして、肩にぽんと手が触れる。彼女はやっぱり優しくて、私が悪いのに先に謝ってくれて。だから、自分が嫌になって、嫌いになっていって。肩に触れていた手を軽く払ってしまった。 でもそれは、自分のことしか考えられてなかった私は力が入っていたのかもしれない。手を払われて体勢を崩した彼女は、階段の踊り場で動かなくなった。 私はパニックになって慌てて人を呼び大人には、 「あとは私たちがやるから、あなたは帰りなさい」って。 彼女は学校に来なくなった。大人達は、それからも私に何も言わなかった。私が、私のせいで···。 どこかで見た本の1文を思い出す。 『涙はとっくに枯れて·····』 こう書いてある本はだいたいクライマックスでその子は涙する。 私は、泣くことすら許されてはいなかった。泣くのは、泣きたいのは、私じゃない。もっと、もっと。 夜が新鮮じゃ無くなったのはいつからだろう。もう学校に行かなくなってからどのくらいだろう?夜は長い。 缶コーヒー片手に空を見つめる少年がいた。私と同じくらいだろうか?もっと下かもしれないな。なんてぼーっとしていたら、 「落としましたよ」 と肩に手が触れた。 「え、あ、すみませ」 振り返り私は絶句する。 「なんで···」 「なんでって勝手に殺すなって話よ」 確かに4年前··· 「···さい。ごめんなさい」 この4年間ただその言葉を私は言いたかった。 「ほらほら泣かないの」 「私···羨ましくて···可愛くて優しくて···憎くて···それで自分が嫌になって···もう私と」 「そんなに私、可愛いか〜ありがとね!」 ほら、やっぱり彼女は優しい。 それはもう怖いくらいに。 そして、大好き。 「エピローグ」 私たちはみんなどこか歪んでる。 きっと何かおかしい。 だけど、そんなおかしい人達一人一人で今を作ってる。 奇跡みたいなものなのかなって。 何が言いたいって··· あなたが生きていてくれて、嬉しいってこと。
揺れた幻想、写せ幻灯
秋、僕らは2人で景色を撮って歩いていた。ほんとは他にすることがあるかもしれないけど、した方がいいことなんていっぱいあるかもしれないけど、僕はこの時間こそが生きるということ。 突如、慣れない冷たさを纏う鋭い風が景色を揺らす。生きている世界を、楽しむような、そんな風。揺れる木々。僕は迷わずシャッターを切る。保存した景色のすみに、空を眺める君がいた。笑顔が綺麗で、見とれるほどに景色と重なり揺れていた。 「残せるものなんてあるか分からないので」 君が言ったその言葉がやけに心に残り、どういう意味なのか、何を思って言ったのか深く悩んでしまう。君は笑って、 「なんでもないよ」 と呟いた。 冬、君は横にいることが多くなった。前までは自由に走り回って僕も自由に写真を撮っていた。今ではどこか行くたびに思い出として見返したいからと写真を撮って欲しいと言われていた。僕らは隣を歩いた。 進み続けられる、そんな期待をして。君は黙る日が多くなっていた。いつも笑顔で元気な彼女はいつからか、儚さすら纏っている気がした。 「なんにもないよ、ありがとう」 信じた言葉。何が正解? 春、期待の膨らむ優しい季節。今まで見たものを彼女は大切そうに抱えていた。彼女は少し忙しそうにしていた気もしている。会う頻度も減って、会う時には少し疲れ気味でいて。僕は大変そうだからなにか手伝いたいと言ったけれど、 「そんなところが好きだよ」 なんてサラッと言い流すものだから、僕は何も言えずに、抱きしめた。 数週間後に倒れるなんて思わなかった。思えなかった。 夏、震える指で捉えたのは他でもない君。治ったんだって、もう大丈夫だよって、喜んでいるような泣いているような笑顔で微笑んで、手で僕のカメラのレンズを覆う。 「もうないんだって」 「な、何が……?」 「なんなんだろうね、……ね」 消え入りそうな声で何かを呟く。あまりにも弱々しいその声は僕に届くことはなく、空間だけが聞いていた。 秋、彼女は動けない。動いてはいけなかった。それでも笑って。笑って、笑って、そばに居てくれた。きっと泣いて泣いて泣いて、寂しかったと思う。苦しかったんだと思う。ありがとうなんて言葉じゃ足りないかな? ごめんね、ずっと大好きだよ」
博識
分からないことを埋めたくて、 知らないことを知りたくて、 僕は視界いっぱいに白い月を捉えていた いつも追いかけていた君は どこにいるのか知らないけれど 1歩、また1歩進んでいけばまた会える そんな気がして 僕からすれば 全てを知っているとも見える君は いつも儚く笑ってみせた 世の中には知ることで 初めて楽しめる物事が沢山ある その反面、知らない方が良かったとも 思えるものも数え切れぬほどあった 君は何を想っていたのだろう? 何を考えていたのだろうか? 君の感情を知りたいと思うのは おかしいだろうか? そのためにも僕は進むと決めた いつまでかかるか分からない 辿り着けないかもしれない それでも、君にあって 伝えたいことがあるから