夜空の多数人格者

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夜空の多数人格者

小説を書くことは上手くは無いですが…まぁ、思いついたら投稿すると思います! 長めの小説を書きます…なのでジックリ読みたい方にオススメです! ハッピーエンドとは限りません… 夜などをモチーフに頑張ります!

1人と5人のお茶会

何回かに分けて書こうと思います…ぜひコメントで「続きが気になります!」など、書いてくださればモチベに繋がります……! 1章:不思議なお茶会 俺はここ数日、不思議な夢を見続けていた。目覚めたときにはぼんやりと覚えているけれど、現実に戻るとすぐに霞んでしまう。だが、今夜の夢は、いつもと少し違った。胸の奥がざわつくような、不思議な予感があった。 目を開けると、俺は見知らぬ広い場所に立っていた。太陽の光が差し込む場所は、どこか懐かしいようで、でも現実にはありえない空間だった。木も草も、輪郭が柔らかく揺れているように見え、まるで世界そのものが夢の中で息をしているかのようだった。 その中心には長いテーブルがあり、すでに五人の人物が向かい合って座っていた。皆、笑顔で談笑している。どこか現実味を帯びた表情をしているのに、どこか非現実的で、揺らぐ光の中に溶け込んでいるようでもあった。しかし、テーブルの端にはぽっかりと空いた席があり、その場所だけが俺のために用意されたかのように思えた。 毎回、この席に座るよう促されるのだ。夢に呼ばれているのか、俺が誘われているのかはわからない。ただ、座らなければならないという漠然とした圧力があった。五人の顔を順に見渡す。真ん中の席に座っているリーダーっぽい男性は穏やかに微笑み、視線はどこか遠くを見つめている。若い女の子は、手を叩きながら笑い、楽しげに会話に参加している。背の低い男は酒を片手に揺らし、挑発的な笑みを浮かべている。小さい男の子は、静かに本を読みながら時折小さく笑い、目を細めて俺を監査している。その隣ではしゃいでる男は大きな身振りで楽しそうにお菓子を配り、その場を盛り上げている。 「座らないのかい?」 真ん中の席の人物が、やわらかく声をかける。俺は息をのむ。座るべきか、ためらうべきか。しかし、その声には抗えない引力のようなものがあった。そっと椅子に腰を下ろすと、周囲の喧騒がすっと静まり、空気が落ち着いた。 真ん中の人物は手に持っていたカップをテーブルに置き、静かに口を開いた。 「さぁ、みんな揃ったことだし、新入りくんの話でもしようじゃないですか」 俺は戸惑いながらも、口を開いた。「えーっと…何を話せば?……」 すると、若い女の子がからかうように声を上げた。「新入り〜?!つまんない顔してんね〜!」
その軽やかな声に、俺は顔を少し赤らめる。どう返せばいいのかわからず、しどろもどろになった。 「こら、そんなこと言わない」 真ん中の人物が穏やかに諌めると、女の子は「ちぇ〜、はーい」と口を尖らせて返す。周囲から笑いが漏れる。俺は胸の奥がざわつき、夢なのに緊張している自分に気づいた。 その後俺は少し緊張で声が出せなくなった… そんな俺を見て真ん中にいる人物は微笑みを浮かべ、俺の視線に応えるように言った。「まぁ、僕らのことは後々知っていってくれればいいよ」 その言葉に俺は「え?!教えてくれないんですか?!」と不意に口からでてしまった その時、背の低い男が酒を揺らしながら挑発的に言った。「あ?そんな簡単に分かっても面白くねぇだろ?」
俺は思わず目を見開く。夢の中で、これほどまでに個性豊かな人物たちが揃うとは想像していなかった。全員が目の前で生き生きと存在している。夢だから、という言い訳も通用しない。 真ん中の人物は微笑みを浮かべ、俺の視線に応えるように言った。「今はただ、みんなが集まったこの時間を楽しもうじゃないか」 その言葉に、俺は少し安心し、でも同時に好奇心が胸の奥で弾けた。何を知ればいいのか、何を見せられるのか、すべてが未知で、胸が高鳴る。 だが、時間はあっという間に過ぎる。真ん中の人物がカップを手に取り、静かに言った。 「もう君は目覚める時間だね……また明日の同じ時間にここに集合だよ……」 俺は「え?」と口を開いたまま、次第に瞼が重くなり、意識が遠のく。音も光も、すべてが淡く溶けていき、夢の世界から引き剥がされる感覚があった。 気づくと、俺は自分の部屋に戻っていた。目の前の時計は現実を示している。だが、夢の余韻はまだ消えず、胸の奥でざわめいていた。今回の夢は、以前とは少し違うルートを辿った気がする。俺はそっと呟いた。 「また、あの夢を見るのかな……」

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星降る夜の案内人

長いっす…ぜひ頑張ったので、最後まで読んでくださると嬉しいっす…… 第1章「出会い」  夜は、いつも静かだ。  街の灯りは遠くで瞬き、ここまで届くのは救急車のサイレンだけ。  この病室で聞こえるのは、時計の針が進む音と、自分の呼吸音くらい。  何年もこんな夜を繰り返してきた。  ベッドから立ち上がり、窓際へ歩く。  冷たい窓枠に手を掛け、ゆっくりと開けると、ひやりとした夜気が肌を撫でた。  肺の奥まで刺すような冷たさが、逆に心地よい。  ——もういいだろう。  この体は長く持たない。  検査結果はいつも悪い方へ傾いていて、医者も親も「頑張ろう」としか言わない。  それは励ましじゃない。現実から目を逸らすための言葉だ。  僕は窓枠に片足を掛けた。  街の灯りが遠くに瞬き、小さな粒となって広がっている。  そこへ飛び込めば、一瞬で終わるだろう。  足をさらに外へ—— 「やめろ」  低くも高くもない、不思議な声が背後から響いた。  驚いて振り返ると、そこに一人の人影が立っていた。  白金の髪が夜風に揺れ、月明かりを受けて淡く光っている。  性別も年齢も分からない。  ただ、その目だけは真っ直ぐで、逃げ道を与えない光を放っていた。 「君の時間は、まだ終わらない」  その手が、僕の手首を掴む。  氷のように冷たくて、でも確かに温もりを感じた。 「……誰だよ、お前」 「——天からの使者だ」  笑っているのか、怒っているのか、表情は読めなかった。  けれど、その目はまるで、僕の心の奥底まで覗き込んでいるようだった。  しばらく無言が続いた後、天使は僕の足を窓から引き戻し、カーテンを閉めた。  その動作はゆっくりで、優しさと命令の両方を含んでいるようだった。 「人間は、自分の終わりを決められると思っている。でも、それは——間違いだ」 「何様だよ」 「ただの“案内人”だ。君が行くべき道へ、正しい順序で送り届けるための」  案内人——?  意味が分からない。けれど、その言葉の響きが耳から離れなかった。 「……今日は、まだその時じゃない」  そう告げると、天使は僕の頬に触れた。  指先は驚くほど冷たいのに、なぜか心の奥にまで温かさが届く。  その感覚に戸惑う間もなく、天使の姿はふっと消えた。  残されたのは、閉じたカーテンと、手首に残る冷たい痕だけ。  ——夢だったのか?  でも、心臓は確かに早く打っていた。 ⸻  翌日。  昼間の病室は、いつも通りだった。  看護師が点滴を替え、母が笑顔で「今日はいい天気だよ」と言う。  僕は笑顔を作って頷く。  でも、昨夜の出来事が頭から離れなかった。  そして日が沈む頃——  窓の外が深い藍色に変わると、胸の奥がざわつく。  期待なんてしていない。していない……はずだった。  カーテンの向こう、薄暗い病室の中に、白金の影が現れた。  昨夜と同じ、夜の闇に溶ける姿。 「……やっと来たな」 「待っていた」  そのやり取りに、自分でも驚く。  待っていた——なんて、どうして口にしたんだろう。 「昨日のこと、覚えているか?」 「ああ」 「君は、まだここにいる。まだ、終わりじゃない」  天使は僕の正面に立ち、目を逸らさない。  その存在感は不思議で、怖くもあり、同時に安心もする。 「お前……夜にしか来ないのか?」 「夜は、人間の心が最も脆くなる時間だ」  その声は静かで、どこか悲しみを含んでいた。  僕は何も言えず、その場で天使を見つめるしかなかった。  気づけば、さっきまで感じていた孤独が、少しだけ薄れている。  ——今夜だけは、孤独じゃない。 ⸻  「お前、本当に天使なのか?」 「そう呼びたければ、そう呼べばいい」  天使は窓辺に腰を下ろし、外の夜景を見下ろした。  その横顔は、現実味がなく、まるで絵画の中から抜け出したみたいだった。 「君の心は、まだ生きたいと叫んでいる」 「……そんなことない」 「なら、どうして僕を見つめる?」  言葉に詰まる。  自分でも、理由は分からなかった。  ただ、この存在を、失いたくないと思ってしまったのだけは確かだった。 「……君は変な人間だ」 「お前に言われたくない!!」  そのやり取りの後、ほんの一瞬、天使の口元が緩んだ。  笑った?  その小さな変化に、胸がきゅっと締めつけられる。  そして、天使はふっと立ち上がる。 「また来る」  短くそう告げ、姿を消した。  静まり返った病室で、僕はひとり残される。  でも、不思議と、もうあの窓から飛び降りようとは思わなかった。 第2章「約束」 ⸻ 夜の帳が街を包み込むころ、僕はベランダに立っていた。 昼間の暑さはとうに引き、夜風は少し冷たく、肺の奥まで染み込む。 この感覚すら、僕にとっては久しぶりだった。 体調のせいで、外の空気を吸うのも億劫だったのに──今はなぜか、この夜を待っていた。 理由は簡単だ。あの天使──いや、本当に天使なのかどうかも分からないけど──に、もう一度会いたかったからだ。 あの日、僕は確かに死ぬつもりだった。 だけど、あいつの言葉と、あの不思議な温もりが、僕を足止めした。 理由なんてうまく説明できない。ただ、気づけば、もう一度あの声を聞きたくなっていた。 「……来ないのかよ」 時計は午後十一時を回っていた。 僕は溜息を吐き、夜空を見上げる。 都会の空なんて、星なんかほとんど見えない。 けれどあの日、あいつは僕に、空いっぱいの光を見せてくれた。 そんなことを思い返していたときだった。 「……君、まだ待ってたの?」 背後から声がした。 振り返ると、そこにあいつが立っていた。 相変わらず中性的な顔立ちで、風に髪が揺れている。 月明かりだけで、存在がはっきり見えるなんてやっぱりおかしい。 「遅ぇよ」 思わず口を尖らせる。 天使は小さく笑って、「ごめん。ちょっと用事があって」と答えた。 「天使も用事とかあるんだな」 「“天使”って呼ぶの、やめない?何回も会ってる訳なんだしさ〜」 「じゃあ何て呼べばいいんだ」 「……好きに呼んでいいけど、名前を教えるのはまだやめとく」 はぐらかされた。 それでも、再び会えた安堵感が胸を満たしていく。 天使は僕の隣に立ち、夜空を見上げた。 そして小さく手を上げると、空がざわめくように星が瞬き始めた。 ありえない。街の明かりがこんなにあるのに、星が──いや、流星まで降ってきている。 「……なんで、こんなことができるんだ」 「僕は、君の命の重さを変えられるから」 その言葉は、静かな夜にやけに鮮明に響いた。 「命の重さ、ね……じゃあ、俺の病気も軽くしてくれよ」 冗談めかして笑った僕に、天使はふっと視線を寄越した。 その瞳は月よりも冷たく、それでいて温かかった。 「……約束しよう」 僕は思わず息を呑む。 けれどすぐに、天使は何かを言いかけてやめた。 「ただし──」の後が続かない。 「なんだよ、条件付きか?」 「……まあ、そんなとこ」 「怪しいな」 「君はまだ知らなくていい」 天使はそう言って、窓の縁に腰掛けた。 僕らはしばらく、何も話さずに夜空を眺め続けた。 風が頬を撫で、時折遠くで車の音が聞こえる。 ただ、それだけの時間が、なぜか心地よかった。 そして気づけば、天使の姿は消えていた。 夢だったのかと錯覚するほどに。 ──翌朝、目が覚めたとき。 僕はいつもより体が軽いことに気づいた。 階段を降りても息切れがしない。 医者は「偶然だろう」と笑っていたが、僕は違うと分かっていた。 夜が来るのが、待ち遠しくてたまらなかった。 第3章「翳り」 ⸻ 夜十時。 今日は妙に胸がざわついていた。 昼間から理由の分からない焦燥感があって、勉強中も頭に入らない。 僕はずっと、夜のことばかり考えていた。 寂しい夜の窓際には、あの天使が来る ──はず。 だけど、その夜は、いつもより遅かった。 時計の針はもう十一時半を回っている。 「今日は来ないのか……」 そう思いかけた瞬間、背後で衣擦れの音がした。 「……こんばんは」 振り向くと、そこにあいつはいた。 でも、いつもより表情が硬い。 笑顔が少しだけ、作り物っぽく見える。 「どうしたんだよ、遅かったじゃん」 「……ごめん。ちょっと……いろいろあって」 その“いろいろ”の意味は、最後まで言わなかった。 僕が聞き出そうとしても、天使は夜空を見上げるだけ。 そして、ふっと手を上げた瞬間──空から光の雨が降り注いだ。 ただの流星じゃない。 白銀の粒が、雪みたいに降ってきて、触れると指先に溶ける。 「……何これ」 「君のための時間」 「時間?」 「そう。僕が……削った時間」 言葉の意味が理解できず、僕は黙った。 でも、そのときふと気づいた。 天使の指先から、淡い光が漏れている。 まるで、自分の中身を削っているように。 「……お前、それ……」 「平気だよ」 「平気なわけあるか。なんか、お前……」 言いかけて、言葉が喉で詰まる。 月明かりの下、天使の姿は少し透けて見えた。 風じゃない。光でもない。 存在そのものが、少しずつ薄れていくような── 「……僕はね、君に“全部”をあげることはできない」 「全部?」 「そうじゃないと、僕が消えちゃうから」 天使はそう言って笑った。 でも、その笑顔はどこか寂しくて、胸が締め付けられる。 「なあ……夜だけしか来ないのって、なんでなんだ?」 僕はようやく聞いた。 ずっと疑問だった。 天使は少し黙って、視線を落とす。 「……僕は、昼間は存在できない。陽の下では、僕は君から遠ざかってしまう」 「なんで……」 「それ以上は、まだ話せない」 そして天使は、僕の手に何かを握らせた。 冷たいけど、心臓の鼓動みたいな脈を感じる、小さな銀色の欠片。 「これを持ってて。……君が昼間でも僕を思い出せるように」 そう言うと、天使はまた空へ溶けていった。 残されたのは、手の中の欠片と、胸の奥のざわめきだけ。 ──あの日から、僕は昼間にもよく天使のことを考えるようになった。 でも同時に、“この存在は、永遠じゃない”という予感が、少しずつ大きくなっていった。 第4章 消失 ⸻ 夜の窓辺に腰を下ろしてから、もう何日になるだろう。 あの天使が、来ない。 銀色の欠片は机の上で、かすかに光っている。 けれど、以前のように温もりを感じることはなくなった。 手のひらで包んでも、ただ冷たい金属片の感触が返ってくるだけだ。 最初の夜は、「たまたま来られなかっただけ」だと思った。 二日目も、少し不安になりながらも信じて待った。 三日目、四日目…… 窓の外は、冷え切った闇と街灯の滲む光だけが広がっている。 「……どこに、行ったんだよ……」 声に出すと、胸の奥がきゅっと痛む。 それは、心臓そのものの痛みなのか、それとも別のものなのか、自分でもわからなかった。 病気は物心つく前からの付き合いだ。 走れば息が切れ、階段を登れば心臓が暴れる。 無理をすればすぐに倒れる。 それでも、あの天使が来てからは―― 夜が楽しみになった。 初めて、心臓以外の理由で胸が高鳴った。 なのに今は、その夜がただ空っぽに過ぎていく。 ⸻ 五日目の夜、欠片の光は、ほとんど消えていた。 それを見た瞬間、背筋に冷たいものが走った。 同時に胸が強く締め付けられ、呼吸が乱れる。 「……っ、は、ぁ……」 視界がぐらりと揺れる。 額から汗が滲み、指先が冷えていく。 息を吸おうとしても、空気がうまく入ってこない。 気づけば床に膝をついていた。 銀色の欠片が手から滑り落ち、硬い音を立てて転がる。 「誰か……」 その声が誰に向けられたものなのか、自分でもわからない。 ⸻ 気がつくと、白い天井があった。 消毒液の匂い。 耳の奥で、規則正しい電子音が響く。 「……ここは……?」 酸素マスク越しに漏れた声は、自分でも驚くほどかすれていた。 腕には点滴、胸には心電図のコードが繋がっている。 目を閉じると、すぐに意識が深い闇に引き込まれていく―― ⸻ そこで、あの声がした。 「……やっと会えた」 振り返ると、夜空のような背景に天使が立っていた。 以前と変わらない姿。 けれど、羽は透けるように薄く、光も弱い。 「どうして……来なかったんだ」 問いかけると、天使は一瞬だけ目を伏せた。 「これ以上、近くにいると……君が」 「……僕が?」 「……消えてしまう」 意味がわからなかった。 いや、わかりたくなかった。 「そんなの、どうでもいい……だから、そばにいてくれよ」 手を伸ばす。 けれど、天使の輪郭は指先からすり抜けていく。 「ごめん……」 その言葉を最後に、天使は光の粒となって闇に溶けた。 ⸻ 目を開けると、病室の天井がまたあった。 頬が濡れていることに気づく。 握りしめていた銀色の欠片は、もう完全に光を失っていた。 「……行かないでよ……」 掠れた声が、静かな病室に消えていった。 第5章「その後」 ⸻ 朝の光が、病室の窓から差し込む。 僕は目を覚ました。 呼吸は規則正しく、胸の痛みもない。 夢……だったのか? いや、違う。手にはまだ銀色の欠片が握られている。 でも、その光はもう、ほとんど消えていた。 窓の外は青く澄んでいて、街は朝のざわめきに満ちている。 僕は深呼吸をする。 病院の白い天井に、もう酸素マスクもコードもない。 「……生きてる」 笑みが、勝手にこぼれた。 あの夜の恐怖、胸の痛み、天使の消失——すべてが、現実の中に吸い込まれてしまったようだった。 ⸻ 退院してからの日々は、ゆっくりと過ぎていった。 昼間の街を歩くのも、買い物に行くのも、階段を登るのも、以前よりずっと楽になっていた。 母は少し泣きそうな目で嬉しそうに笑い、友達も久しぶりの僕に色んな声をかけてくれる。 でも、夜になると—— 窓辺に座って空を見上げても、あの天使は現れない。 「……もう、会えないのか」 心の奥で、ぽっかり穴が空いたような感覚。 銀色の欠片を握りしめると、かすかな温もりが指先に伝わった。 夢の中だけで、まだ存在してくれているのかもしれない。 ⸻ ある晩、布団の中で目を閉じる。 夢か現実か分からない世界の中で、天使が現れた。 「…また会えて良かった」 微笑む姿は、変わらず優しく、でもどこか寂しげだった。 「……でも、どうして消えたんだよ?」 「僕が近くにいると、君の命の重さが危うくなる。だから離れたんだ」 涙が止まらなかった。 夢の中で抱きしめても、現実ではもう触れられない。 でも、この世界で僕は、生きている。 目を覚ますと、窓の外には朝の光。 銀色の欠片は、手の中で微かに光るだけだった。 僕はそっと笑った。 生きていること、それだけで奇跡だ。 そして、胸の奥で確かに感じる。 ——あの天使は、どこかでまた、新しい命を救っている。 ⸻ でも、ふとスマホの写真を見返すと、僕一人しか写っていない。 誰とでも会っているはずの瞬間に、あの天使の姿はどこにもない。 「……あれ、俺、ひょっとして……」 涙が頬を伝い、けれど笑顔が消えない。 生きていることの喜びと、触れられない存在の寂しさ。 夜空を見上げると、星はいつも通りに輝いていた。 それはきっと、天使からの、小さな約束の光だと思った。 「君だけは生きてて欲しかったのにな〜」

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