高嶋のぎ
39 件の小説高嶋のぎ
はじめまして、高嶋(たかしま)のぎです!よろしくお願いします ♡やコメント、フォロー励みになります! ただいま、長編ファンタジー 「世界の果てから」執筆してます! 誤字脱字報告、感想お気軽に〜! イラストも趣味です 写真は自家製 生成画像に表示貼るようにしましたが、二年前くらいの古いのは画像が残ってないので画力で察してください クマは自作アイコン
あとがき
これは、『天国に近い花』のあとがきのような、駄文&蛇足のコーナーです! 『天国に近い花』は元々とあるサイトさまのお題で書かせていただいたものでした。 短編ですが私のはじめて物語を最後まで書き切ったものとなります。 〆切付きもはじめだったなぁ。 タイのタレーブアデーンは実際にある場所でございます。 蓮の花が大変綺麗なところなんだとか。 画像検索でいいなーと思った場所。 この話はだいぶ前から温めていたものでした。 誰かのために小説を書きたいと思ったきっかけを作ってくれた人に、捧げたかった話です。 ちなみにうつ病の人を無理矢理、海外に連れて行ってはいけません笑 あくまでもフィクションです。 日本だと景色が天国っぽいとこないんだよなぁ。 キャラクターにはモデルはいませんが、家木兵助のうつの症状は、私の実体験にフィクションを混ぜたものです。 過眠や眩暈やお風呂に入れなかったりですね。 二十代にしておじさん呼ばわりされてる兵助ですが、身支度をちゃんとすれば一般人のお兄さんです。 書いていて楽しかったのは権藤初花と探偵のおっちゃんです笑 初花ちゃんは若い女の子という設定だけであえて年齢を決めなかったです。 成人してるかしてないかはご想像にお任せ!ってぐらいですねー。 初花がいくつに見えたのか読者様に聞きたいです!よかったらコメントください笑 お互いに意識してないので(双方に余裕がなかった)ので恋愛には発展しない関係ですがタイプじゃなさそうだ多分。タイプじゃなくても恋愛はできるけどね、ふふふっ。 裏話は尽きませんが、ここまでにします!読んでいただきありがとうございましたー!
天国に近い花・4(終)
二章 二人の話(後) 朝方に収まった微熱のおかげで、夜には飛行機に搭乗していた。 機内食を食べ終え、ひと息つく。アナウンスによるとニ時間後に消灯し、タイには夜明け前に着くらしい。 初めての長旅になんとなくまだ尻が落ち着かない。 「時差は一時間だって。遠いようでそうでもないね」 隣の座席、スマホをいじりながら初花はあっさりとしていた。 「日本から七時間かかるなら、充分遠い……と、思う」 「 東京から車で行けば、大阪に着く時間だよー? 同じでしょう」 「そうかな」 乱暴な理論に首を捻ると、彼女はふと笑う。 「流されやすいところもそっくりだ」 「サーヤさんに、か?」 心当たりのある名前を挙げると、初花は目を伏せる。 「優しい人はすぐ死んじゃう。サーヤだけじゃなくてみんな。パパの周りの人達も、そうだった」 「……俺は、思うんだけど」 慰めるつもりで告げた言葉は、自分でもわかるくらい絶望に染まっていた。 「自殺も寿命の一種なのかもしれない……」 「違うよ」 暗い目とかち合う。 「ズルい奴らに利用されて、見えないけど傷だらけになって……周りに殺されたも同然なんだよ」 言葉を失う俺に淡々と語った彼女は、到着するまで口を開かなかった。 * 調査組はなんとか手続きをねじ込み、始発の便に乗ってたどり着いた。 昼のタイ国際空港は賑わっている。 真冬の日本から来るとまるで夏のようだと周囲から声が上がっていた。 「やはり、初花さんは帰りのフライトチケットを現時点で予約していないようです」 携帯をバッグに入れた眼鏡の女性は考えこむ。 「お嬢様の不自然なほどに片付けられた部屋。解約した銀行の大金。ただ死を選ぶなら日本でよかったはず……なぜ目的地にタイを選んだのでしょうか?」 「わたしもそこが引っかかります。とにかく二人に接触しない限りはわからないのでは」 やや強引に結論をつけた探偵はコートどころかワイシャツ一枚になり、袖をまくっている。 「にしても、暑い。……ん?」 「どうかいたしましたか」 急に真剣な顔つきになったので犯罪心理学者が問うと、探偵は節くれた指を差す。 「まさか……見つけました、家木兵助です。着替えていますが」 「本当、お嬢様も一緒ですわね。あっ!」 女性が走ろうとしてスーツすそを誰かが引っ張った。 勢いをなくした相方に思わず探偵も足を止める。 「にほーんの、お、じょさーん!」 痩せこけ、服のサイズもちぐはぐな姿の少年がたどたどしく、必死に言葉をつむぐ。 「かね、ちょだい」 物乞いの痛々しい姿に目を奪われた、そのわずかな一瞬の間。 探偵が呆然と呟く。 「……見失った」 * タイ国際空港からウードンターニに着き、宿屋の部屋に着いた俺は泥のように眠っていた。 夜明け前出発の時間なってようやく動けたものの、車移動の1時間で悪路にも関わらずまた寝ていたらしい。 タレーブアデーンに着いて目覚めた時には体のあちこちがこわばっていた。 「飛行機移動のとき入れたら、ざっと二日半寝てたねー」 「ごめん……」 眠ってばかりで申し訳なくなるが、初花はなんでもないように伸びをした。 「寝れることはいいことなんだって。その間に脳みそが神経を治してくれるらしいよ」 若いのに詳しいな、と感心する。 金持ちなので良い医者と知り合いなのかもしれない。 「誰から聞いたの」 「チャッピー!」 「なん、え?」 医者の愛称にしても可愛いらしすぎるので、困惑する俺に彼女はニンマリと笑った。 気さくな船頭さんは暗い湖の真ん中に到着すると、小舟を停めた。 「おきゃくサン、ラッキーね!今日はキリちょっとある。素晴らしい、ミエるよ」 無言でしばらく時を待つ。 ――だんだんと、ゆっくり辺りが白みはじめてきた。 黒い影が一面の柔らかい赤色の蓮に変わり、さらに湖面に反射する。 やがて霧がふわふわと花にかかりはじめ、より神秘的なベールで包みこむ。 水平線まで続きそうな、けぶる蓮の花と朝焼けの青い空。 「……」 「……きれー」 「ハスは天国に向かってサクよ。泥の中でも根を張っテ、折れてモ、ツヨーい根っこで毎年サク」 船頭さんは慣れたように語った。 気がつくと、俺の頬は涙で濡れていた。 「私は、オジサンがサーヤと同じ目をしてると思ったんだ。だから……連れてきた」 初花は、まるで恋人のようにそっと身を寄せる。 「オジサンはこれからどうしたい?」 わからない、と思う反面でひとつ確かな感情があった。 「俺、思いだした……。ペットとか飼えなくて、でも家の中はずっと静かで……寂しくて……」 みっともなく泣く俺の言葉を彼女は静かに聞いてくれる。 「でも、庭に咲いてた花は、手をかけると毎年同じに咲いてくれて……」 花の生命力に、いつも救われていたのだ。 「なんで忘れてたんだろ。俺、花を見るのが好きなこと」 「うん、そかぁ」 ハンカチを差し出した初花は元の位置に戻って、しみじみと光景を噛み締めるように呟く。 「……サーヤも似たような景色見てんのかな」 * その日のうちに帰国した俺たちは機内でポツポツと家の事情や、やりたいことを語った。 最後に空港で彼女はすっきりした表情で笑う。 「オジサンの花屋、楽しみにしてるね」 「君も、将来の家からの独立頑張ってな」 「優しい人を救えるような素敵な会社作ってみせるね、きっと」 そのために親をとことん利用してやると、決意していた彼女はきっと花のようにしたたかに生きるのだろう。 「じゃあ、さよなら」 「バイバイ」 このロビーで別れたら、もう連絡先もわからない。 「またねー、家木兵助さん!」 初めての名前呼びに驚いて振り返るとそこには、もう初花の姿はなかった。 終章・兵助と初花のその後 「――ということで、無事に娘さんは帰国されていますのでご安心ください」 いぶかしげな権藤は薄っぺらい調査報告をながめる。 「初花は本当にただの友達とタイ旅行に行っただけですか?」 「お嬢様はうっかり置き手紙ごと旅行カバンに詰めてしまったようなので、預かってまいりましたわ」 女性から手紙を受け取ると、表面の少女の筆跡だけ確認し中身をろくに見ないで机に置く。 「……人騒がせな娘だ。報酬はもう振り込んだんですから、早く行ってください」 追い払うような仕草で、探偵たちは退出をうながされた。 「最初と態度が全然違うじゃないか、あの狸ジジイ」 分厚い扉が閉まると同時に、男性は悪態をつく。 犯罪心理学者は視線をさまよわせた。 日本でやっと捕まえた初花の言葉を思いだす。 『帰るつもりはなかったし、日本よりも国外のほうが死にやすそうだったからねー。でも予定が変わっちゃった』 洗いざらい話した少女はそう笑って調査の偽装を頼んできた。 「後は、信じることだけしかできません」 お疲れ様でした、と続けて女性に声をかけて探偵は先を歩く。 豪邸を去る間際、到着した車の中から初花の明るい声が遠くで聞こえた。 * ――五年経った、ある日。 桜草の植え替えをしていた兵助は、背後から呼ばれた。 「店長ー!胡蝶蘭の依頼が来ましたよ!」 「へぇ、珍しい。こんな小さい店なのにね」 昨年オープンしたこじんまりした花屋は、まだ近所でも名が浸透してない。 ポプリや、押し花も扱っている珍しさに客が来るくらいである。 まるで他人事のような兵助に、アルバイト女性はもったいないと突っ込んだ。 「いや、品質が良いし丁寧な仕事してるとこはアピールしていきましょ⁉︎」 「それで、お客様は?」 「この伝票です」 差し出された紙には、氏名と会社の代表者が書かれている。 「……ああ、なるほどね」 「知っている方ですか?」 「うん、昔ちょっと」 懐かしい名前をなぞる。 一緒に見た、天国のような景色は忘れられない。 俺は親と縁を切り、病気と向き合ってきた。 そうして今は、ここまで店を立てている。 彼女も無事に社長として夢を叶えたようで、粋な報告の仕方をしてくれるものだ。 「俺の名義で、ブーケを追加注文しとくよ」 「えっ、店長のブーケ⁉︎うらやましい!もしかして、昔の恋人とか?」 「秘密」 さて、あの子はどんな風に大人になってどんな花が似合うんだろうかと想像をめぐらせた。 終
天国に近い花・3
二章 二人の話(前) 夕方の国際空港は意外と人が少なかった。 急展開すぎて現実感がないのかもしれない。 搭乗券を取りに行った初花を待ちながら、空港内のコンビニで必要最低限のものを買う。 俺は事前に銭湯に連れて行かれたおかげで、少しはまともな身だしなみになっていた。 どのくらいぶりの風呂だったかちょっと考えたくない。 ペットボトルのお茶を手に、待ち合わせのロビーに向かう。 なぜ、あの子は金を使ってまで俺を連れてきたのだろうか。 その答えを探す余力はまだない。 「おまたせー」 ロビーで座っていると、やや遅れて初花があらわれる。 軽く手を挙げ、立ち上がった瞬間にぐらりと世界が歪んだ。 急な立ちくらみに床にしゃがむと、呻き声が他人事のように耳に残る。 「オジサン?」 「大丈夫……少し休めば……」 かけ寄った初花がかたわらでのぞき込むような気配がするが、その場から動けない。 頭から血の気が引いているような気がした。 「青い顔で何言ってんのー?ちゃんと休めるところ行くから待ってて」 彼女の華奢な肩を借りて、なんとかソファーまで座る。 「ごめん……ごめんなさい」 「いまは別に謝るところじゃないから」 どこかに電話をかけた初花を横目に、自分が情けなくてしょうがなかった。 * 調査のために提供された客間で、犯罪心理学者は電話口の情報を素早くメモに写す。 くたびれたスーツの探偵はやや離れた場所で忙しなくノートパソコンを操っていたが、手を止める。 犯罪心理学者の女性に合図を送るとパソコン画面を見せるように寄せた。 「権藤初花。ビジネスホテルから足取りつかめました」 探偵の男性は画面に出た宿泊名簿の二名の名前を拡大する。 「男と一緒だそうです。この屋敷裏の森の近くにある、監視カメラに映っていた奴と同一人物かと」 「家木兵助……二六歳。精神科の通院歴が確認されてますわね」 メモを確認した女性は神妙にうなずく。 「現時点での家木の関与がどの程度か不明ですけれど、ご親友のことや未成年お嬢さんの精神状態を考えますとーー」 目を伏せて、メモの字をなぞった女性は細い指先で紙面を叩いた。 「下手したら誘拐より厄介な状況かもしれませんわ。最悪、自殺幇助や心中に発展する可能性も……」 機敏な動きで椅子からすぐ立ち上がった探偵が、コートに手をかけながらまくし立てる。 「すぐ追って家木を捕まえましょう。それで空港で受け付けていたチケットの行き先は?」 眼鏡を押し上げて、犯罪心理学者はメモの確認をしつつそっけなく答える。 「タイですわ」 「……タイぃ⁉︎」 冴えない男の顔が間抜けに変わった。 * 俺は国際空港の近場のビジネスホテルに、初花の呼んだタクシーで連れてこられていた。 途中で係員にやや支えられながら部屋に入り、それから身体が鉛のように重くベッドから動けない。 初花が体温計をホテルから借りたらしく、測ってみると微熱があった。 「オジサン、起きてるー?」 二時間後、ろくに返事もしないままドアを開けると、割って入るかのように初花は室内に突撃してくる。 勝手にテーブルにビニール袋から様々な品が溢れるようにでてきた。 呆気にとられる俺に、振り向きもせずに彼女は椅子へ座る。 「何がいいかわかんなくて、テキトーに買ってきた」 「ごめん……」 改めて、俺なんかよりしっかりしている子だなと実感した。 「感謝の言葉がいいなー。とりあえず、微熱あるし水分補給ね」 「あ、ありがとう」 スポーツドリンクを受け取り、ちゃんと感謝を告げる。 「熱下がるまで、とりあえずここだから。無理やり連れてかないから安心してー」 「明日になれば、下がると思う。一応、旅を遅らせたしここの宿泊費は…」 初花はけだる気に頭を振って、拒否した。 「別に、急いでないし。オジサンも優しいよねー」 「……優しい?」 特に何をしたわけでもない、逆に迷惑かけている自覚しかなかったので、面食らう。 「だって、逃げようとおもえばいくらでもチャンスあったじゃん」 そういえば、そうだなと苦笑いする。成り行きだが、とうに彼女の旅には付き合う気でいた。 そう告げようとした瞬間に初花は遠い目をする。 「優しい人は、損するんだ」 誰かを連想して言っている言葉なのだろうか、と反射的に口をつぐんだ。 「ずるくて自己中な奴に利用されて……そう、サーヤみたいに」 自殺した、彼女の親友の存在はかなり重たいらしいなと壊れかけた初花の心を思う。 「サーヤ、さんは優しい人だったんだね……」 「あたしみたいなのを親友って言ってくれた」 「……そうか」 親友をそこまで想えると、本当に優しいのは初花の方ではないだろうか。 友達やましてや親友ともよべる存在がいない俺には眩しくもうらやましい。 「もう行くね、おやすみオジサン」 その後ろ姿に、反射的に声をかける。 「俺の具合が悪いのは、君のせいじゃないよ。……おやすみ」 「やっぱ、優しいじゃん」 ドアを閉める寸前、初花は少し口を緩めて去っていった。
天国に近い花・2
一章 権藤初花の話 「娘さんがさらわれた?誘拐ですか」 権藤家の豪邸に招かれた男女二人は、当主からの話を聞いてやや身を乗り出した。 成金という趣味がふんだんに装飾された客間はムダに広い。 「その、権藤……はつか、さん」 「初花はウイカ、と呼びます」 間違えた男に当主はていねいに訂正する。 「犯人からの連絡はないので、ここで待つしかないのです」 「最後に初花さんの姿を見たのはいつですか?」 探偵の男が聞くと、汗を拭きながら権藤は応える。 「……昨日の昼です。家の使用人に聞いたところですが」 「警察には?」 「外聞が悪く、差し障りが……。なにせ、こんな家なものでね。敵が多く、大ごとにはしたくありませんので」 一瞬だけ、気まずそうに探偵は目を逸らす。 その横で犯罪心理学者の女性は冷静にメモを取っていた。 「最近、初花さんの身近でなにか変わったことはありますか?」 「いや。……ああ、友達が亡くなったとかなんとか。若い身で可哀想なことですなぁ」 事件か、と二人の視線が交差する。 眼鏡を押し上げた女性が、少しはばかるように口を開いた。 「その、お嬢様のご友人が亡くなった理由は知っていらっしゃいますの?」 「なんでも、自分から命を絶った、ということですよ。理由までは知りませんが」 * 探偵たちが雇われる一日前。 札束をばら撒いた少女に強引に連れて行かれたファミレスで、権藤初花と名乗った彼女は弾丸のように喋り続けている。 「そんでサーヤはね、クソ彼氏の子ども妊娠してたんだけど逃げられてさー」 カランカランとストローで氷をかき混ぜながら続ける。 「なんか父親の友達?とかいうヤツと婚約させられてね」 「……」 「結婚式で一緒に逃げよ、って言ってたのに結局色々我慢しちゃってたみたいで」 「んで、電車に飛び込んじゃったみたいなんだ」 あっけらかんとした口調だが事実は重い。 「あはは。ほんと世の中クソだよねー」 仄暗い目がまたたくとボソッと低く呟いた。 「なんで、サーヤみたいな優しい子が死ぬんだよ」 暗い感情に塗りつぶされたその声に、喉が締め付けられるような気さえした。 「……その、ジュース美味しいかい?」 「んー?不味いよ」 飲み放題ドリンクをすべて混ぜていたのだ、予想通りである。 「そ、それで、君は俺にどうしろと……えっと天国に行くって、なんなんだろう?」 家族とすらろくに喋れなかった俺はしどろもどろになりつつも、ようやく質問できた。 「あー、それね。コレ」 目の前に突き出された携帯には、『天国のような絶景「タレーブアデーン 」』と書かれていたのが読めた。 すぐ手元に引っ込めてしまった少女が操作しながらも答える。 「サーヤの行った天国ってどんな雰囲気かなと思ってさ。検索したら引っかかったの、赤い蓮の花がたくさんで綺麗らしいよ。わかる?蓮の花」 「蓮……っていうと、仏教なんかの話にも出てくるイメージ、だけど」 蜘蛛の糸、という小話にもたしか蓮の花が出てきたことを思い出す。 「オジサン、くわしいねー。なんか天国に生えてるらしいからさ、きっと感じが近いかなと思ってさ」 彼女のネイルに飾られた手が領収書をとったので、とっさに「払うよ」と声が出た。 「いいの。時間もらってるのあたしだしー?財布はまかせてよ」 「いや、でも……」 初花の暗い目が、残酷にきらめいた。 「っていうか、オジサンにもう拒否権ないんだよねー。あたしがここで助けて!って叫んだら、周りがどっちに味方に付くか想像つくでしょ?」 思わず絶句してしまう。 しかし、親友を見捨てられずにいた彼女がそこまでするとは思えなかった。 「君は、それを望んでいるのかい?」 「望むわけないじゃん」 うつむいた顔がバツが悪そうに見えたので、俺も黙ってうなずいた。
天国に近い花・1
序章・家木兵助の話 「なんで、お前は精神科なんかに行ったんだ」 苛立つように父親は診察券を折る。 自分でもわからない。 ただ少しずつ壊れていくのを自覚するしかなかった。 父親の筆跡で書かれた進路用紙や、母親の『あなたの為なのよ』という言葉の数々で遠ざかっていく友人たち。 会社員になっても馴染めず、目標にしがみついても届かない。 「どうせ、診断されたら努力せずに済むと思っているんだろ。家にいつまでも居ないで、外に行け。なんなら帰って来なくていいぞ」 遠回しに出ていけと言われた気がした。 ――ああ、壊れた俺はいらないよな。 ダウンを羽織り財布と携帯だけで家を出ると、久しぶりの空がまぶしくてうつむいた。 * 気がつけば、どこにも行く当てもなく人を避けて近くの森にまで来ていた。 真冬の森林は枝葉を落としてはいるが、その薄暗さが心地よい。 中に入ると、立派な木々たちに自然に目が向いた。 太い幹の立派な枝ぶり。 ――ここに、ロープがあったらと想像してしまう。 「ここ、うちの山なんだけど。オジサン」 ゆるい口調で誰かにとがめられた。 頭の芯がまだ働かない俺は無意識にあやまる。 「……すいません」 「あは、もしかしてここで死ぬつもりだった?」 言い当てられ、振り返るとそこには細身の少女がいた。 「なんで、わかったんですか」 荷物を抱えていた少女は、ニンマリと笑う。 「そういう死んだ目を見たことあるからだよー」 唐突に指をさされた俺は、なにか背筋に嫌なモノが走る。 「きーめた。オジサンも連れてっちゃおう」 おもむろに荷物に手をかけると威勢よく中身をぶちまける。 枯れ草にまき散らされる、大量の札束。 「は……?」 「オジサンの人生、ちょっとだけ借りるよー」 その時、やっと気がついた。楽しげな少女の目がまったく笑っていないことを。 「このお金で一緒に天国、見に行こう」 ほの暗いものをたたえた眼力を前に、抵抗するわずかな気力すら残っていなかった。
貧乏神
男は、ふと自分の枕元に影が立っていることに気がついた。 壁まで伸びた影は不気味に黒く、そして長い鎌を持っているように見えた。 「もし、貴方様は死神でいらっしゃいますか?」 幻覚かもしれないと、思っても男は尋ねずにいられなかった。 『そうとも。お前の魂を連れていく』 短く死神は答えた。 「ああ!本当にいらっしゃるんだ、死神様…」 弱々しいながらも喜色の声をあげるので、死神は男を不思議に思った。 『お前はワシが怖くないのか。普通は怯えたり落胆したりすれど、歓迎されたのは初めてだ』 「これには、わけがあるのです……」 大きく息を吸った男は自身の生い立ちを語った。 両親、友達、周囲とも恵まれなく、金も実力も運さえも見放され、挙句が死にいたる病である。 聞くも涙、語るも涙の見事な不幸人生であった。 「……なので、これでようやく死んで自分は楽になれると。貴方様がおいでなすって喜んだわけです」 『いや、なに。事情がわかって納得したわい』 ふむふむと死神が頷いた。 『そしたら、あんたは神になる才覚があるのう」 「…神?、え⁉︎僕がですか!」 男の瞳にわずかな光が芽生える。 死神は指を差して告げた。 『いや、お前に憑いてた悪霊が』
幸せ
幸せってなんだろう、と宗教3世の私は父母の背中を見て思っていた。 成仏すること?願いが叶うこと?他人が幸せになること? 難しすぎてなにもわからなかった。 『楽しい=幸せ』だと教えてくれたのは、精神病院の1人のカウンセラーだった。 楽しいことからはじめよう、と言ってくれた。 その瞬間に 「あぁ、楽しいことをしていいのか」と許された気がした。 うつ病の私にはもう、何が楽しいのかすらわからなかった。 心が弱り果て、崩壊しかかっていて好きな色も、好物さえも思い出せない。 ただ一つできたことは、手慰めにイラストの練習をすること。 勉強もドクターストップされた状態で、不思議にこれだけができた。 ただ、これが『楽しい』のかすらわからない。 だからできること色々と、少しでも好奇心があったらやれることをやった。 今でもそれは、自分のどこまでやれるかの指標になっている。 イラストを描くことも、小説を書くことも それに伴う色々なモノも入れて。 『楽しい』と今では思っている。
昔の話
息をするのもしんどくて呼吸を止めたかった、 眠るのが怖くて 不安でいっぱいいっぱいだった 誰も心の開き方を教えてくれなかった 自分のことを話すらしなかった くだらないことで、笑顔で誤魔化して 楽しそうに振る舞って ご飯を食べても吐く、生きることを体自体が拒絶するかのように 風呂にも、人の最低限の生活すらもできず 差し込む胸の痛み、ふわふわと考えることをやめない頭 自分の中の自分が苛立ちと殺意で心を傷つけるのをやめない、 死にたい、殺したい、消えたい そんな自分がみじめで哀れで笑えた もっと、苦しい人はいるのに? もっと、大変な人はいるのに? なんで自分はこんな愚かで弱いのだろう 自分が消えてしまえば、みんな幸せになるのに 呪う、自分を家を、世界を人を 過去の、私。 紛れもなく、本当に感じていた気持ち それが病いだと知ったのはずいぶん後だ
世界の果てから
【第三章】八幕 糸口を紡ぐモノ 深呼吸をする。 二つの質問とその関連でわかったのは、神よりも位が高いらしいこの存在は僕の理解の範囲を超えて物を語ることがある。 それを念頭に置いて問いをしないと最後のチャンスはつかめない。 「三つ目……僕は神様になんのために若返った姿にされ、何の答えを求められているのですか」 【そもそもお前を知らない、人の子よ名は?】 澄んだ黒泉の向こう側から逆に問われて、肩が強張る。 記憶に残る唯一の名前が自分のものではない可能性があるからだ。 「ネヴァ……だと思います」 自然に弱気になる語尾を自覚する。 【なるほど、病のせいか】 「病?」 【老いたせいで病にかかった。記憶のな。願いと名前がなくては条件が揃わない、今とは違う名前、お前の本当の名前を探さなければ願いも見つからない】 やはり、違うと断言されてしまった。 ショックを受けるが、病といわれても自分だけをごっそり忘れるそんな症状に心当たりがない。 「病のせいで記憶が戻らないと?」 【若返ったことで病は癒えた、しかし一部が何かがお前の邪魔をしている】 邪魔とはなにか、確か神は言っていなかっただろうかと記憶を巡らす。 確か、この神の世界に来る直前に「お前には歪みがある」 と言われた気がしたーーそれを無理に正すと死ぬ、とも。 まだ断定はできないが、泉の向こう側にひとつひとつ確かめてみなければならない。 「その邪魔とは、取り除けるものでしょうか」 【あの方ならば可能ではある。が、お前の精神では耐えきれぬものである】 じわじわと、確信に近づいている。関連させれば質問はまだ出来る。 「その邪魔と神が本を観させることには関係がありますか」 【さて、神の容(カタチ)は我が造ったが、精神が違い過ぎる。あの方には感情が備わっておらず、知的好奇心のみ。その考えはどの存在も見通せぬ】 途端に糸口が切れた気がした。 手汗を誤魔化すようにズボンで手を拭う。 次は望みは薄いが、聞くしかない。 「創造主様は僕の本当の願いを知っていますか」 【知らなぬな。繰り言は言わぬ】 本当の名前とやらが見つからない限り、やはり願いもわからないということらしい。 【我は世界を創れるが全能ではない。あの方が死者を蘇らせないように何事も限度がある。ーーが、人の子を後ろで強く呼んでいる存在がいる】 「それは誰ですかーー?」 気がついたときには水鏡の間に伸びた影がなくなっていた。 四つ目の質問に触れてしまったのだと気がついたときには、もう遅かった。 思わず舌打ちして岩盤の地面を叩く。 「違う……悔しがってる場合じゃない」 神にいくつか確かめなければならない事ができた。 少し未練がましく、波立たぬ水面を見つめてしまうが立ち上がり元きた道を辿っていく。 少し冷静になると、最後の創造主の言葉が気になりはじめた。 僕を呼んでいる存在ーー、もし神なら「あの方」と呼んでいるはずだ。 まだ何か妙な存在でもいるのだろうか、と想像してげんなりする。 話が通じる人間であれば大歓迎なのだが、と考えていると視線をまたどこからか注視されているのを感じる。 無数の本の書架にたどり着いていた僕はため息を吐く。 いや、逆に考えればこの視線をたどれば楽に視線の主ーーおそらく神のもとへ行けるだろう。 気を取り直して乱立する本棚に向き合うと、さまよいながらも視線の強くなる方へ歩を進めた。 時間が経つ、だんだんと向き合うごとに刺さるような視線になり後少しの距離の手ごたえすら感じる。ーーが、今だ突き抜けるような高い本の山は見えてこない。 不思議に思いつつ通り過ぎようとした本棚から、はっきりと後頭部を掴まれるような衝撃を感じた。 振り返ると、ただ本が列をなしているだけだ。 「もしかして、視線の主って……願いの本?」 まさかと思いつつ、この神の世界では何があっても不思議ではない。 その棚に近づいて背表紙たちを確認していく。 「僕でも読める……」 題名が、人の名前になっている。 多少、古びた文字も中には混ざっているが人名の連なりたちが本棚を占領していた。 ようやく、名と願いの繋がりが腑に落ちる。 その中の一冊とはっきり視線があった気がした。 「僕を呼んでいるのは……君だったんだね」 はっきりと書かれた題名には『ネヴァ・オリヴァー』と記されていた。 背表紙を指でなぞり、傷まぬようゆっくりと取り出す。 他よりも薄い書籍。 唯一、覚えている名前は宝物のように輝いて見えた。 確かに今わかるのは、僕にとって大事な人だということだ。 かすかに震える指先で、表紙をめくる。 冒頭には書かれていたのは。 『最愛のあなたに捧げます』 という愛の言葉。 「ネヴァ……」 ページをめくるたびに綴られるのは、少女ーーネヴァと、幼馴染の少年の記録。 無邪気に御伽話を歌う幼い二人姿。 『 世界の果て、神様がどんな願いでも 叶えてくれる 願いましょう、神様に 砂漠の果てまで届くように ただ一つの願いごと あなたに伝わりますように 』 間違いない、少年の名前は書いていないが僕のことだ、と徐々強くなる頭痛と共に記憶が蘇る。 「ネヴァ……!」 一粒の涙があふれると今まで以上に激しい頭痛におそわれた。 「くっ……!」 思わず本を取り落とす。 頭を抑えても、脳天からキリで貫かれるような痛みは止まない。 記憶がなだれ込むように次々と襲ってくる。 ネヴァは、戦争がきっかけで人さらいに誘拐され……そして買われた先で病気によって死んだのだ。 床に落ちた本は最後のページを開いている。 『わたしは、幼馴染を確かに愛しました。 それを誰も知らなくてもいい。 でも。 わたしが存在していた証がもし一つ残るのならーーあの男の子を、愛したことをどうか、わたしが忘れませんように』 そのページに、僕の涙の雫が静かに落ちていった。
夢を見ていたい
夢が現実かーーどちらの自分が存在しているのかわからない、と昔の偉い人が言っていた。 「あのね、別れたいの」 呼び出された喫茶店で呆然とする俺は、彼女の言いたいことをまともに聞いていたかどうかも怪しかった。 コレは夢か、現実かわからなかったからだ。 じゃあ、と席を立った彼女が居なくなってからしばらくして冷めたコーヒーに口をつける。 苦い、しかし味が薄い。 これは現実か、と受け入れた時にぐしゃりと髪を掻いた。 頭皮の痛みで消せないほど、心が痛かった。 しばらくして、ようやく心の折り合いがついたころ。 「あのね、別れたいの」 隣で寝ていた彼女が唐突に告げた。 ……おかしい、彼女とは別れたはずだったような。 そうか、全部夢だったのかと思い無言で抱きしめようとした時。 何をするの!叫んだ彼女に引っ叩かれた。 ーー痛くない。 まだ夢の中の愚かな俺は平身低頭、彼女に謝って復縁を迫る。 まだまだ起きれそうにない、夢を見ていたかった。