高嶋のぎ
10 件の小説高嶋のぎ
リハビリ中。つい文字が長くなる。 うっかり厨二病引きずってる大人。 日本語おかしかったり誤字脱字があったら優しく教えてください! 風景のサムネは写真かAIイラス トを使用しております。クマは自作。
貴方の文章
ある程度作品を読むと文章を読むと人柄が見えてくるというが、私の場合はちょっと違う。 文章のクセを色や香り、モノで例えたりする。 若い人の文章だとそれが顕著にあらわれて見えたりする。 例えば、仄暗い文章の中に純粋さが見えるあの子の文章はどこか文学的で桜の香りがする。 例えば、2次創作を元に発想を飛ばすあの子の文章は面白くて、黄色いセロファンが蓋のプレゼント箱みたい、とか。 例えば、創作の世界を自由に作るあの子の文章は可愛らしくて儚げで、薄水色のビー玉みたい。 あくまでコレは私の脳内でのイメージだから、言ったりはしないけどわりと楽しい。 貴方の文章はどんな色でどんな形でどんな匂いがしますか? (男の人はわりと黒色多めな感じがします)
もういいや
理解してもらいたいわけじゃない。 辛くて孤独でひたすら、自分がこの世に居ないほうがよくなる世界の妄想に浸っていた。 他人の邪魔でしかない自分が憎い、動けなくて惨めで排泄物でしかない自分が邪魔だった。 ようは自意識過剰がとち狂っていたが、気づいていなかった、正気じゃなかったので。 (よし、じゃあ殺すか) 自殺ではなく自分を殺害するという明確な殺意で、能無しの頭を動かしてみる。 2階の自室で1人、なにができるかを携帯片手に思いつくまま。 まず思いつくのは定番の首吊り。 否、却下。 うちは大家だ、ダメ事故物件。 それで家中でできるモノに軒並み脳内で✕をつける。それにどれだけ努力しても死に方が汚い。 次は、電車。 調べたらけっこう事故の後始末の値段に肝が冷えた、うちにそんな金はない。 あったらいいかという話でもなく、単純に方々に迷惑かける。 あとは、飛び降りか。 失敗する確率を考えて、なるたけ高いところがいい。立地からいくと高層ビル、高層マンションが理想だが。 普通に考えてカギかかってるよな。そんな場所。 最初から行けないように工夫されているようにしてある場合もあるし、手当り次第セキリュティの甘いところを探してたら不審者で捕まりそうだ。 ……自殺の名所があるけど、どうなんだろう。 青木ケ原樹海とか、よく犯人が最終的に飛び降りる崖とか。 調べたら樹海は今はパワースポットとしてイメージアップに力を入れているらしい。なんか嫌だ。 崖とかも地方すぎて行くのが大変すぎる。密かに行ける範囲ではない、完全に旅行じゃないか。 もういいや。
うつ
思考回路の坩堝に溺れる 後悔と懺悔のフラッシュバックに脳裏を焼かれて、苦しみあえぐことでしか生きる実感を味わえない身体に 何度も、何度も、短い人生の間違い探しをさせられ 自責に押しつぶされて息もままならない 指先は冷たいまま、あっけなく空を描く それでも…もがけ、もがけ、と鼓動は囁き、泥沼を歩かせる できることは、ただ、薬で思考を鈍らせるだけ 今日も私は呼吸をしている ……今日もただ私は呼吸をしている
骨の味
父の葬式が終わって49日目。 墓に埋葬する日取りを決めるために姉が家に帰ってきた。 年が離れた姉は、千葉に嫁に行ってから主婦らしくなり丸い柔らかな輪郭の体になっている。 「やー、実家はやっぱ落ち着くわ」 「お茶飲むでしょ?」 「うん!」 コタツにみかんと定番を味わいながら母に元気よく返事するところは変わらずである。 「ああ、そうだ。お姉ちゃん、棚の左にあるお菓子全部持ってって」 「お客さんの?」 「そう、食べきれないからさ」 父へ線香をあげに来てくれる、遠方からのお客からの手土産は甘いものが主だ。 糖尿の気がある母は手をつけられない。かといって、私ひとりで食べられる量ではない。 食べ盛りの子供がいる姉は喜んで土産をもらう。 「みーちゃん、お線香まだあげてなかったわよね。お茶飲み終わったらお願いね」 「あ、お父さんに挨拶してなかった!」 みーちゃんこと、姉と慌てて私もお茶を飲んで仏間に向かう。 「お父さんただいまー」 神妙に仏壇の前の父の遺影に挨拶するのを横から邪魔しないように、ロウソクに火をつける。 母も見計らったように仏間に着くと姉を先頭に正座した。 「このお線香、なかなか火がつかないなー?」 「つきやすくても困るよ、火事の元になっちゃうし」 と、ようやく先端が赤く灯った線香を灰の中に横たえる。 手を合わせて3人で黙祷し、ロウソクの火を手であおいできっちり消した。 「四十九日法要ってなんか特別なことやるんだっけ?」 「なんだっけ、たしか閻魔様がどうたら?」 たしか、どこかで聞いたが記憶がさだかでなく首をひねる。 「閻魔様の裁判が全部終わるのが四十九日だから、今日はお父さんが地獄に行くか天国に行くかが決まる日よ」 「じゃあ、特にやることはないんだ」 「他所は知らないけど、そうね」 「じゃあ、もうここに魂はないんだね」 言った瞬間に、某、魂が風になったテノールの歌が頭をよぎる。 「お父さんは埼玉のおばあちゃんとこのお墓に埋葬するんだよね」 同じ事を思ったのか、ぷっと笑った姉を無視して話しを進める。 「おじいちゃんもおばあちゃんも同じお墓だし、お父さんも喜ぶんじゃないかしら」 「えー。埼玉遠いよ、こっちで分骨できないかなぁ」 「みーちゃん、もういっこお墓買う気?」 「いや、しないけどー」 「あそこのお寺なんか暗いしね」 なんか、遠くて嫌って気持ちはわかる。 明るいお墓でっていうと最近のチラシとかである、個別に自動扉がついている最終的に合同葬されるやつだろうか。 「いっそうちに埋めたい」 「みーちゃん……」 「あー。なんかTVであった。ちっちゃくて煌びやかな観賞用の骨壷」 「どっちかというとネックレスにしたい」 思ったより姉は父への愛が重いらしい。 母は完全にドン引きしている。 とある昔の芸能人の話を思い出した。 「誰だったか忘れたけど、俳優の男の人で、悲しすぎて親の遺骨をかじった人いたっけ」 「それだ!!」 「えっ」 「お父さんの骨、ちょっとだけ食べる!」 「え。お母さん、お姉ちゃんを止めてっ」 「お父さん喜ばないわよ、そんなことしても」 むしろ不思議そうに姉はお母さんはそういう気持ちにならないの?と聞く。 「ならないわよ」 「ないよ、普通」 思わず私も一緒に突っ込む。 「でもなー、なかなか墓参り私行けないしな。お父さんもいいって言うよ!」 「ないと思う。むしろお父さんはやめろーって全力で止める」 ひとりを好む変な父だが常識はあった、そういう人だ。 「でも……寂しいし」 すねたような姉の表情に、母と顔を見合わせる。 わがままを突き通す珍しい姉だ。 元から、わが家にもなかなか来れない。 父との踏ん切りもつかないのも当然かもしれない。 「お母さんは見ないわよ」 「ひとりで骨壷って開けられるの?」 「……ありがとう!」 姉はいそいそと骨壷の包みを解く。布のすそを触ってみると絹より柔らかい生地を感じる。 「あ、コレふた開かない!」 「とりあえず桐箱ごと下に置き直そうか」 カーペットの床に真四角の桐箱を置く。 それなりに重みを感じた。 つるりとした、真白い壺の蓋が存在を主張している。 「コレが開かなくて、出していいかな壺」 「まず持ち上がるかな…」 試しに桐箱の角に手を入れると狭くて底まで指がいかない。 すかさず姉が手助けして、白い壺が現れた。 これに、父の骨が入っている。 「蓋どうやって開ければいいんだろう?さっきダメだったんだよね」 「密封してなかったら開くはず……っ、と」 適当に蓋をクルクルと回すとゴッ、と鈍い音がした。 「開いた……かも」 「お父さん、開けるねー」 嬉々として骨壷に話しかけている姉に場所を譲る。 「やだ、本当に開けちゃうの?」 いつの間にか母が好奇心に負けている。 「開けちゃうよー!」 ゴトン、と蓋を取る。 焼き場でもみた、白と灰色のお父さんだったもの。 「私、思った以上に何も思わないな、お父さんの骨見ても」 「みーちゃんほどじゃないけど、ちょっとはなんか思ってあげて」 自分でもびっくりするくらいに感情も、感想も浮かばない。 「あ、蓋に骨の粉ついてる。ここ舐めたらいいんじゃない?」 「ナイス」 「良くないわよ、まったく」 常識的ではないけど、丸く収まるならそれでいいと思う。故人を悼む気持ちのおさめ方は人それぞれだ。 「いただきます」 姉は白い粉を指先につけてぱくりと食べた。 「………どう?」 「味がしない。じゃりじゃりする」 さりさり、と味わう音がこちらにも聞こえる。 砂利にも近い、そんな音。 「お父さんの骨食べたの、もちろんこれは誰にも内緒だよ」 今更な話しだ、言ったところで親戚にも非難の雨あられだろう。 「変なの食べちゃったんだから、みーちゃんも口直ししたいでしょ。お茶淹れるわよ」 リビングのコタツに戻り、一服する。 姉が小さい声で、私を呼ぶ。 「お茶飲んだらわかったんたけど」 「うん?」 「後味は血の味がするかも」 食べちゃいたいほど好きな人がいる、を体現している。正直うらやましいかもと思う。 そこでようやく、私の姉は父の骨を食べた事を実感した。
遠くのまち
−−−窓を開けると、前髪を押しのけ春風がかけ巡る。 鼻をくすぐる花の匂いはここからほど近い公園から来ているのだろう。実家で慣れ親しんだ隣の中華屋の匂いとは情緒感がえらく違った。 1Kの部屋に設置出来たばかりの真新しい家具たちを見回し、明日から着る予定の制服に胸が期待で膨らむのを感じる。 とりあえず、近くのコンビニへ偵察がてら散歩にでも行こうと、鍵とスマホをとり、馴染んだジャンパーを着て玄関へ向かう。 ここは、自分を誰も知らない遠くのまち。
生きる意味
人生ゴミ溜めの中で生きているようなものだ。 廃棄されるゴミのなかで、金に少しでもなりそうな廃材を探してはかき分けてハエと共に目をこらす。 大人はおいぼれた爺さん、後は私のような子供ばかりが、重機で運ばれてくる大量のゴミに群がる。 父さんは出稼ぎに出て、そのまま行方不明に。 母さんは病気で寝たきりで、高い薬代は払えないから医者に見せられない。 幼い弟はまだこの場所には早すぎるから、日が暮れるまで物乞いとして路上でうずくまっている。 そんな私の家庭事情なんかここにはゴロゴロいるし、もっと悲惨なのも珍しくない。 薬の売人に家族赤子見境なしに薬漬けにされてるなんてありふれた話、ここではしない。 私はまだだが、これから『女』として見られたらさらに将来は自由などなくなるのだろうなとぼんやり思う。 そうなる前に、あの重機に轢かれてしまおうかとも思った瞬間があった。 だけど残される家族の金の心配と、将来もらえるはずの結婚による結納金を考えると、踏み切れなかった。 小さな乙女心より先に私は金銭欲が勝ってしまったのだ。 「ため息ついてどうした、ルカ。」 「私……何のために生きてるのかなって、思って。」 簡単にいきさつを説明するとカラカラと爺は笑う。 「ルカは家族と金の為に生きてるんじゃないのか?」 「そうだけど、そうじゃない。それに振り回されて生きるのが辛いんだよ。」 「大きくなったなルカよ。」 「爺はなんで生きてるの?辛くならないの?」 「生きているのは辛いよ、誰でも。生きてる限り何人たりともその辛さからは逃れられない。」 「よくわかんない。」 そもそも、と爺は語り始めた。 人はただ死ぬ為に生きているのではない、ただ生きて産まれたからこそその意味を問う生き物なのだ。 だから辛いのだ、ただ生きているだけで満足できる人間もいるが何故かただ辛く不幸になる。 その意味を問う人間は辛い分誰かを助けてあげられる幸運を知るのだ。 「それって自己満足じゃ無くて?」 「なかなか痛いとこつくのう……。」 「私も誰かを助けられるってこと?家族以外に。」 「お前もわしもひとりで生きていきてはいけない、誰かに生かされているということさ。逆もきっとできる。」 やっぱりよくわからない、と私が言うと爺は優しく笑っていた。
愛と平和
『こちら、なんと今ご購入いただきますと愛と平和が手に入ります!』 『まぁ!愛と平和、素晴らしいですねっ』 ブッツン! どこかヤケクソ気味な深夜のテレビショッピングを垂れ流すモニターの電源を消した。 世界は戦争をはじめ、地震災害、水害、台風などの自然災害で混沌とし、毎年のように更新されるウイルス汚染、政治家の汚職にともなう治安悪化。 子供がひとりで外を歩いた日には人身売買されるか、親が虐待で通報される時代だ。 「愛と平和なんて、買えるものなら欲しーっつの」 防犯用の銃の手入れをしつつ、そう呟いた。 ここは20××年の日本東京都市。
お金で買えないもの
「お金で買えないものってなんだと思う?」 「塩」 「品性。……しお?」 「味付けの基本!塩が無ければ味気ない!」 「塩はお金で買えるじゃん。はい、論破」 「塩自体がなければそもそも買えないもーん」 −−バカバカしい会話をする友達も時間も今思えば大事なものだったんだなって大人になってから気づく。 3人の高校生の会話を横目に俺は喫茶店の席を立った。 思い出、人間性、要領の良さ、俺だったらこのあたりを答えるだろうなと思いながら。 金で買えるものは沢山ある、金で買えないものも沢山ある。 大抵の目には見えないものは金より大事な物だったと、失ってから初めて気づくのだ。 生きる時間の残り少ない俺には、高校生達のじゃれあいすら眩しくてしょうがなかった。
過ぎ去った日々。
涙を流したって、報われない。 どうして、なんてわかりきっている。 過ぎ去った日々は戻らない、どんなに後悔しても。 「太ったぁ……」 体重計の針は戻らない、美味しかった記憶と共に。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 別所で書いてた短編です、これはギャグで申し訳ないですが個人的にお気に入り。
世界の果てから
“世界の果てには神様がいて、どんな願いでも叶えてくれる” 古いお伽話の歌にそんなものがあった。 バカバカしいと笑う僕に真剣にネヴァ……彼女は言った、なんでも知ってるふりをして、確かめることをしないのはバカのすることだと。 僕達は初めてそれでケンカをした。 子供の小さいケンカ。 ………でもそれが彼女と最後の会話になった。 町に出かけた彼女が誘拐されたのだ。 この辺りでは珍しくない出来事だった。 アテカの戦争で治安が悪くなって人さらいや強盗やらが増えている。 彼女は、たしかに誰がみても可愛かった。 僕も含めて村人総出で彼女を探したけど、小さな靴しか見つからなかった。 結局あきらめた大人たちは彼女を見捨てた。 泣きながら村長にすがったけど首を横に振られる。 「大人達に無理ならお前には無理じゃ。あきらめなさい。」 無理なんて決められてたまるか、と歯を食いしばりながら大人を呪う言葉をのみこむ。 家族にこっそり手紙を残し、準備した小遣いを全部とありったけ思いついた物をカバンに詰め、深夜に村を抜け出した。 町々と言わず、違う村々の出会う人という人に手当たり次第に彼女のことを聞いて回った。 時には邪険にされ、時には騙され危険な目にあったりしたりもした。 でも多くの人が同情と暖かい励ましの言葉をくれたのだ。 僕は次第に成長していき働くこともしたが、彼女のことをあきらめずにこの放浪を続けた。 そして、やっと手がかりがつかめた。 当時の売られた子供のリストが手に入ったのだ。 手汗をぬぐい、彼女の名前を慎重に探すと西国の端にある家の富豪の娘になったらしい。 急いで給料と貯金をかき集め、西国向かった。 そして、彼女はいなかった。 「娘は残念だけど、病気で死んだよ。一昨年のことだ。売られて来た時にはもうわずらっていらしくてね、可哀想に」 そう言う富豪の主人に追い出された。 何度も、使用人の者から確かめたし、汚い手をつかってもみたが、本当のことらしい。 ぼうぜんと、たったまま何も考えられなかった。 僕は、ただ、一言、ごめんと謝りたかっただけだったのに。 ケンカしてごめんと。 本当に?彼女がこの世にいないのか。本当に…。 気がついたら涙が溢れていた。 彼女が好きだったってことに今さら気づく。 人目もはばからず泣いて、泣いてそこを去った。 あてもなくさまよい歩いて、路地から子供の声がした。 “世界の果てには神様がいて、どんな願いも叶えてくれる” 西国にもこの歌が伝わっているのかと驚くと同時に彼女の言葉がよみがえる。 「知ったフリをして、確かめないのはただのバカか……」 行き先は決まった、故郷には未練もない。 今度は足取りもしっかりと歩きはじめた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 生き物に出会わなくなって何日目なのか、砂漠に倒れ、ぼんやりと考える。 老いて枯れた体でどこまで行けたのだろか。 空はずっと暗くどんよりとしている。 (もう、いいだろうか。終わりにしても…) 何のためにここまで来たのかすらもう覚えていないが、ひたすらに世界の果てを目指した。 ふと、思い出すのは歌だ。 “世界の果てには神様がいて、どんな願いも叶えてくれる” この歌はどんな国にも、メロディーや詩が多少に変わっても伝わっていた。 (もし、本当にいらっしゃるなら……神様。どうか……) −−知りたい、確かめたい。 まぶたが下りかけたその瞬間。 【ほう?私を呼んだか。大したものだ、死にかけ。】 低い男の声と高い女の声と獣のうなり声がひとつの喉から出たような、不思議なざらついた声が降ってくる。 (な……に……?……) 乾いてひび割れた喉からかろうじて、ひゅうひゅうと音が出た。 気配はするが、人ではない。 もっと大きなモノの気配がする。 【このまま息を引き取りそうな有様だな。少し寿命を延ばしてやろう。】 そのざらついた声が楽しそうにするがいなや、瀕死の体が軽くなる。 ギョッとして目を開くと、皺だらけだった手がみるまに若返っていった。 「あ、あなたは……。」 声も若く、少年のようで思わず喉を押さえてしまう。 視線を向けるとそこには黒髪が見たことのないほどゾロっと長い、人のカタチをしたナニかがいた。 人よりも、もっと大きな身長、3メートルくらいだろうか。 水かきと鱗が手にあるが足は人であるようだ。 耳には黒い羽根が生えており、鴉のように妖艶に濡れ光っている。 そして、その顔。 不自然なほどにつるりとした白肌は高名な人形師が丹精込めて作ったようで、天使のように中性的で美しい。 しかし、目が禍々しまでの存在感を放っていた。 白目は血のように赤く瞳は金、瞳孔は5つ。 さらに額にもう一つ目が存在していた。 「あなたが世界の果てにいる神様……ですか?」 若返った感覚にまだ慣れずにぎこちなく起き上がり、姿勢を正す。 【お前たちが勝手にそう呼んでいる。私と同じ存在はこの世にはいない、そう呼んでも仕方ないがな。】 本当に世界の果てにたどり着いたのだという実感は湧かないが、じわじわと喜びが湧いてくる。 【お前が私を呼んだ。さぁ、願いはなんだ?】 言われて気づく、具体的な願いごとがないことに。正直に告げた。 「……願いはないです。ただ神様が存在するかを確かめたかったので叶いました。」 【それはお前の本当の願いではないな。】 「そんなことは……どうしてそうおっしゃるのでしょうか!」 思わず怒鳴ってしまうと、神様は近づいて来た。 【私を呼べるほど強い願いには、それこそ理由が必要だ。お前の心にはそれがある、まだ消えていない】 トンと指先で胸を触れられる。 「見えるのですか?」 【感じる。それがこの場と私をつなぐ糸になるのだ】 ふっ、と糸を摘むような仕草をした神様が僕を見る。 (強い理由、なんで、ここに来たかったのか…?違う、神様に会いたかった、理由……?) 頭を抱えて目をつぶる、何かが引っかかるのにわからない。 「……思い出せない。なにか、なにか大事なことがあったのに……」 アゴをつかまれた、目の前には神様の五つの瞳。 【……お前の名前は、なんだ?】 頭がぼんやりとして名前が、とっさに出てこない。あえぐように口が勝手に動く。 「ネ、ネヴァ……です」 僕の名前は、ネヴァ、なはずだ。だというのに名乗るとかすかに頭痛が走った。 【歪んでいるのか、なるほど。】 「今なんと?」 【お前には、歪みがある。それを無理に正すと精神が耐えられずに願いを叶える前に死ぬ。】 次から次に言われて絶句する。 白く不気味で美しい顔がこちらの目をまだ覗き込んでくるので、思わず一、二歩ほど引く。 【そうだな……面白い趣向を思いついた。お前は私のところに来い、そのうち思い出すこともあるだろう。】 腕の中に抱えられた瞬間に僕の意識が真っ暗になる。 −−そうして砂漠には跡形もなく、なにも居なくなった。