ヘキテゴン

3 件の小説

ヘキテゴン

よくある夏の日常

肌を焼くように照りつける太陽、蝉の大合唱、肌にまとわりつく嫌な暑さ、夏を彩る最悪の3点セットを味わいながら棒アイスを頬張る。 食べ進めるごとに内側から冷えていく感覚がするがそれも一瞬で、次には暑さが勝ってしまった。 気づいた時には一本食べきってしまった。 足りない、かといって店に戻ってまた買うのもめんどい。 悩んでいる内に、思考までアイスのように夏の暑さに溶けてしまう。 アイスの棒と太陽を2、3度見比べ、ため息を吐ながら家に歩を進めた。 手を扇のようにしてパタパタとさせるが、ぬるい風しか来ないのですぐにやめた。 トボトボと帰る途中、遠くから他校の陸上部らしき人たちが走っているのを見かけた。 こんな灼熱の中走るのはどんな気持ちなのだろうか? 自分だったら、辛いとかこんなことさせる顧問を妬むとかしてただろう。 それなのに先頭を走る部員は、汗をかきながら、苦しいはずなのに歯を見せて笑っていた。 この一瞬に全てを懸けているような走りだった。 邪魔にならないように端により、走っていく陸上部に目礼する。 そういえば、あの笑顔の部員の顔何処かで見たような⋯⋯? あ⋯⋯そうだ。 インターハイ入賞した後、インタビューで号泣してた選手だ。 偶然テレビで見たインターハイの時の表情と、少しも変わっていなかった。 今思うと、あの選手本人だったのかもしれない。 ⋯⋯ま、だからなんだって話だけど。 そして、陸上部との遭遇から少し歩くと自宅が見えてきた。 家は砂漠の中にポツンと現れたオアシスのように見えた。 自然と、家へ向かう足が速くなった。 帰ったらゲームでもするか、小説の続きでも読むか。 ⋯⋯いや、まずは風呂だ。この汗のままじゃ無理だ。 玄関のドアノブを握った。 ドアを開いて「ただいまー」と声をかけた。 かえってきたのは愛猫の鳴き声だった。

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告白

放課後の教室、その右奥の席で、私は外の景色を見ながら座っていた。 夏の風がカーテンをひらひらと揺らし、私の頬を撫でるように通り過ぎて行く。 緊張で逸る心を押さえ込むように、ギュッと胸の前で思いを込めた告白の手紙を握る。 何度も何度も書き直してできた言葉。それでも先輩への『大好き』という気持ちは詰め込んだ、大事な手紙。 気持ちを落ち着かせるように、また窓の外を見る。 蝉の鳴き声、部活動で励む男子の声、風のヒューという音。その全てが私の心臓の鼓動にかき消されそうだった。 ガラガラと教室の扉を開ける音が聞こえた。 視線を向けると、大好きな先輩がいた。 椅子から立ち上がり、少し震えながら先輩の前に立つ。 緊張で声を発することが出来なくなりそう。でも、今しなければ、もう想いは永遠に伝えられない。 「私⋯⋯は、先輩のことが、好きです。」 「先輩のことを、好きになった⋯⋯のは、去年の⋯⋯夏祭りです。」 「先輩は⋯⋯私が逸れないように、手をつないで、くれました。」 「そこで私は⋯⋯私は、先輩のことが、好きなんだって⋯⋯気づきました。」 「先輩、好きです。付き合ってください。」 そう言って手紙を震える手で差し出す。 心臓が早鐘を打つ。息も荒くなってきた。 今、自分が本当にこの場所に立っているのか、それすら曖昧になっていく。 先輩が手紙をそっと受け取った瞬間、私は現実に戻ってきた。 先輩は手紙を大事そうに、胸に抱き寄せた。 私の部屋の机には強く握りしめた跡の残る手紙があった。 その手紙の上にはハナビシソウの花が一輪、静かに添えられていた。

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盆帰り

雲一つない晴天の空。太陽が容赦なく照らしつけていた。 縁側に座っていた私は、左手を額に当て目の周りに影を作る。 汗は出ないが、鬱陶しいことには変わりない。 どこまでも燦々と輝く太陽を見つめながら、右手に持っていた氷の入った冷たい麦茶を飲み干す。 立ち上がると、すぐ隣の居間に行った。 居間は生活の気配がなかった。机に氷だけになったグラスを置いた。 机には赤いペンと皿がもう一つあり、そこにはきゅうりと茄子があった。 居間の隅には、小さな仏壇がひっそりと佇んでいた。 仏壇へ歩み寄ると、制服姿の人物が微笑む遺影が一つ飾られていた。 それを見つめると、なんだか懐かしい気持ちになると同時に胸の奥が少しチクリと痛んだ。 遺影から目を離し、カレンダーを見ると8月12日に赤いばつ印が付けられていた。 赤いペンを机から持って次の日に丸をつけた。 歪な形の丸に、思わず苦笑を漏らした。 そして私は軽い足取りで玄関の扉を開けた。 燦々と降り注ぐ日差しの下で一列に並んだ向日葵。そしてまだ開花時期ではないはずの真っ赤に咲き誇る彼岸花。 遠くに見える茜色の空は、こちらとは違う時を刻んでいるようだった。 茜色の空の向こうに、灰色の煙が見えた。 煙を見ると、自然と口角が少し上がったのを感じた。 灰色の煙に導かれるように、私は扉を閉め歩き出した。 誰もいなくなった居間にはグラスの氷が溶けてカランと音が鳴った。

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