柚子風呂。

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柚子風呂。

ふと感じたことから物語ってます

大好きで大嫌いな君へ

2012/10/15 僕は君の一番になれやしない 君の隣はいつも決まってる 君の隣が決まってない時は僕がいつもいたのに 君はいつの間にか勝手に隣を決めていた それからは僕といるのが気まずいのか 僕と話してもその子より面白くないのか 僕が何か怒らせることをしたのか 僕と話さなくなる でも僕が近くを通ると たった今気づいたのか笑顔で話しかける ほんの少しだけ話しかける 僕がどんなに一人でいようとも 僕が君と目が合おうとも 僕の隣に来て話しかけてくれない 今まで仲良くしてくれたのが 夢だったかのように感じるほど 君は遠くに行ってしまった 仲良くしてくれないのに どうして僕と話してくれないの 僕と仲良くしてくれないのに どうして僕に一瞬でも笑顔を見せたの 一緒に行った花見で見せてくれた麗な笑顔も 一緒に遊んだ海での水を掛け合った無邪気な笑顔も 一緒に歩いた紅葉の森の中でのしとやかな笑顔も 一緒に走った雪の中での鼻まで赤くなった可愛らしい笑顔も 大好きだった君が今では大嫌い 君の目には あの頃のように恋焦がれた僕はもう現れない なのにどうして気づかないの?

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大好きで大嫌いな君へ

最後のデート

5年前の2人で君とドライブしている最中 信号待ちをしていた俺は1人でいた時の癖でタバコに火をつけた その時初めて君に怒られた 「タバコ⁉︎そんなのやめなよ」 今まではタバコでしか気分転換が出来なかったのに 君のその一言のおかげで初めてタバコをやめようと意識した そして灰皿に付けたばかりのタバコを押し付ける それを見て微笑む君 それに答えるように微笑む そして信号が青になり車のアクセルを踏む 途端に横から大型トラックが突っ込んできた しかも君のいる方から 俺らの乗る車は横転し何度も転がった しばらく意識は無かったが突然俺の意識は戻った 俺らは逆さまだった 散らかった車の中で目を瞑る君 俺が声をかけても目をこちらに向けない 俺は君に手を伸ばしたがシートベルトに 体を締め付けられているので上手く体が動かない 君の頭から出る血が重力にしたがって流れ額から垂れる 俺の視界の一部も赤くなる 俺の目に血が入った その血が自分のだと認識するのに時間がかかった 俺はまだ驚きのあまり現実を正しく認識できていなかった 俺はただ慌てふためいていた すると微かに君が動いた 「奏多、死なないで」 君に俺の思いが届くようにしっかりと伝える 何もできなくても君のそばにずっといたかった 君は俺の言葉を聞いて微かに微笑んで口をぱくぱくさせる 「ありがとう将太、将太も死んじゃだめだよ」 俺は血と涙を流して目を瞑りそうな奏多に伝える 「ずっと愛してるから…」 奏多はそれを聞いて微笑んでくれた 「僕も愛してるよ」 もう一度でいい 一回でいい だからもう一度君と話したい 君に言いたい 俺は眠る君の右手を握り口付けをする 頬を伝う涙 君の手に落ちる俺の涙 ぼやける視界 弱々しい声色で囁く 「愛してるよ」

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待つ君

俺は君のいる場所へと車をとばす しばらく運転して退屈になり車の窓を開ける 信号待ちの時間に器用にタバコを取り出し 火をつけ静かに燃えるタバコを咥える 窓からの風で煙草の煙が外に流れ青空に溶ける 煙を吸い込み ため息とともに煙を吐く それは俺の周りに漂うことなる流れる 肺のなかに充満する煙 口の中の苦味と酸味 どこからか湧いてくる胸のくるしみ 俺は全て無視して君のもとに走る 信号が青になり俺はアクセルを踏む すると横断歩道から飛び出す子供が俺の視界に入る 子供は無邪気な笑みを浮かべて走っていた 俺は焦りブレーキを思い切り踏む 焦りと緊張で汗だくになった手で ハンドルを強く握り身体が強張るのを弱める 冷や汗をかきながら落とした視線を子供に戻すと 母親らしき人が走ってきてお辞儀を何度もして 歩き去っていった 何事もなく安心したはずなのに俺の息が上がる さっきまで心地よかったタバコが気持ち悪くなる 車の助手席に見えない影が見える 「海楽しみだね」 不自然な程に流れる大量の汗 見開く俺の瞳 それらをバックミラーでやっと認識する 俺は息を整え外の風を浴びながら 再びアクセルをふむ さっきよりも弱々しく前に進む 嫌ながらも癖で再びタバコを口にする あの頃のように新鮮な感覚はもうしない タバコを吸ってもあの頃を思い出すだけなのに 「タバコなんてやめなよ、健康に悪いよ」 俺は助手席の方を向く そこには君にあげるための花束だけ 再び前を向き外の風に溶け込ませるように煙を吐く 風はさっきと変わらないのに さっきよりも煙がしつこく俺の周りを漂っていた 君のもとにやっと着き、君のいる建物に入る その建物の香りで君を鮮明に思い出す 懐かしいようで居心地の悪い香り 一直線に伸びる長い廊下を一人で歩く たびたび人とすれ違うが みんな清潔な白い服を着ている 103と書かれた扉 その扉を開けると 部屋には6つのベッドが並んでいた その1番窓からの光を浴びるベッドへ向かう そして君と俺を遮るカーテンを開ける 君は太陽の優しい光を浴びていた 君の閉じた瞳 微笑む口元 組まれている手 君の眠るベッドの横にある椅子に座り君を見つめる 君の温かさを感じさせない額を触る さらさらな肌 俺の手の流れに合わせて動く髪 俺が久しぶりの君を味わっていると 反対側のカーテンから看護師が現れた 「まだ目を覚まさないんですよ」 俺は看護師さんの投げかけに返事もせず 窓の外を見る リハビリで外を歩く病院の服を着た少年  外のベンチで話をしているおばあさんと看護師さん 車椅子のおじいさん せわしく動く救急隊 「5年ですか」 さっきの看護師が話しかける そうですね、なんて自嘲気味に返事をする

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閉じ込めた思い出

「もしもし」 会いたくなって君に電話をかける 手紙だけでは満足出来なかった 君と話がしたくて 君と顔を合わせたくて 君と一緒の空間にいたくて君に電話をかける 君はいつも電話にでてくれない 君の声ですきと言って欲しいのに 俺がどんなにすきだと言っても君は俺もだよ、なんて答えてくれない 俺はその言葉がほしかっただけなのに 来年27になる年だってのに 青春真っ只中の青年みたいなことを考える 電話に出ない君のせいで余計に君に会いたくなる 君の声が 君の表情が 君の熱がほしくなる そんな欲望に近い願望を胸に抱えて君からの手紙を読む 純白の封筒に入る俺宛の手紙 いつ読んでも君へのすきで心が埋まる手紙 君の特有な丸い文字 鉛筆特有の文字の温かさ 紙特有のこの香り それのせいで君への想いは募るばかり やっぱり君に会いたいな 寝起きで暗い部屋に閉じこもっていたのでカーテンを開ける 日光は寝起きの俺にはきつく目が反射的に閉じた 起きたばかりだと言うのに太陽は高く昇っていた それが暖かくて優しくてうっとおしかった 俺は着替えの入っているクローゼットに足を運び着替えの入っているクローゼットを開けようとする だがその隣にあるもうひとつのクローゼットに目が行きそっちのクローゼットを開ける 中には部屋の散らかりようとは裏腹にオシャレな大学生が着てそうなオシャレな服ばかり もともと服に興味は微塵もなかったが 君のおかげで服に興味が湧いた 君との初めてのデートの日 母に選んでもらったカッコ悪くない服で出かけた そんな俺を見て君は俺をコーディネートしてくれた やっぱモノクロが似合うのかな、 もとが細いからなんでも合うね、 ネックレスつけてもいいんじゃない、なんて デートの度に違う服を選んでくれた そして色々な服をクローゼットにしまって 君とのデートの思い出に毎日浸っていた 君が来た日にその服を着ると似合ってるよ、なんて褒めてくれるから嬉しかった でも君が服の話をしなくなってから 俺は服をクローゼットにずっと閉じ込めていた 君との服の思い出も一緒に 君が話さなくなったものは全て クローゼットにとじこめた 君が好きだったアーティストのCDも 君が俺に薦めてきた人気の漫画も 君と一緒に選んだクッションも 君と育てていた植物も それらを虚ろな目で見つめ扉を閉じる 君とのかつての思い出を連想しそれを断ち切る これから会うんだから もうひとつの俺の着替えが入っているクローゼットを開ける 同じような服ばかり その中から一つだけを手に取りそそくさと着替える 部屋を出て靴を履く 前は靴は色んな種類があったのに 君の好きだった靴もしまってしまったからガラガラだった いまでは俺がいつもはくスニーカーとサンダルだけ それが当たり前になったはずなのにどこか寂しげだった 俺はスニーカーをはいて扉を開ける さっきよりも昇った太陽は俺が外を出るのを拒んでいた でも君への俺の想いは太陽の光で浄化されなかった

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チューインガム

君が好きなチューイングガムをいつも噛むみたいに 君のお気に入りになりたくて 毎日君の好きなタイプのように装う 君の好きな味であるように装う そうして君に好きになってもらえるように 僕は好きでもないゲームの話も君のためにできるし 僕は嫌いなカラオケに君となら何時間でもいれるし 僕は苦手な電話も君となら何時間でもできるし 僕は嫌いだった雨も君との相合傘でなら平気なのに なのに君は思い通りな僕がすきじゃない 予想のできない刺激のある女が好きみたい 自分の知らない味に惹かれるみたい だから僕は 飽きられたいつもの味のチューイングガムは すぐに吐き出されて捨てられちゃうんだ どんなに君を追っても どんなに安いチューイングガムになっても 君は一緒にいて楽しい人に 噛んでて楽しいチューイングガムに惹かれる 君に捨てられたいつものコーラ味のチューイングガムをコンビニで買う 僕も君を思ってチューイングガムを噛む でもやっぱり平凡な味しかしなかった

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いつもの

夕焼けの日が差す美術室内に頭が曇るような油の匂いと布と筆が擦れるかわいた音が満ちる 俺はそこに何時間もいることを自覚すると気が狂いそうになるが窓の外から聞こえる他の部活の生徒の声を聞くと青春を感じ少し気が軽くなる 「そろそろ帰る時間だよ」 先生のその一言で皆が一斉に時計を見ていそいそと油絵の片付けを始める 俺もそろそろ帰るか、と自分の絵を写真に撮ってから片付けをする こうしていつも写真に取り記録している 筆に染み込んだ油絵具を新聞で拭き取り筆洗油で洗う 溶けていく絵の具をぼんやりと眺めながら手だけを動かす 俺が片付けている間に美術部員はぽつぽつと騒がしくなることなく帰っていく 美術部は個人活動が多く好きなタイミングで帰れるぐらいに自由だから人との関わりが苦手な俺にとっては最高だった 俺も片付けが終わり帰る準備をして、最後の生徒だったので窓を施錠しリュックを背負い美術室を出る 廊下に若干響く教室から漏れる生徒たちの話し声がどことなく秋の虫が鳴いているような音と頭の中でリンクして心地よくなる 階段を下り昇降口に着くと何人か生徒がいた 知り合いと会いたい気分では無く少し帰る時間を遅らせようかと思ったが全員知らない人だとわかった途端足を早めそそくさと靴を履き学校を出る さっきまで太陽が照っていたのに日はさらに傾き既に没していた 俺は誰かと競走しているかのような速さで歩く 母に誕生日に買ってもらった流行りの厚底スニーカーと昨夜の雨で湿った地面がぶつかる湿った足音が誰もいない夜の道に響く それに合わせて俺の背負うリュックの金属部分同士がぶつかるかわいた音も鳴り少し騒がしいように思う 俺はその音を聴きながら家に帰るための駅を通り越し大きな十字路を曲がった先にある喫茶店に足を運ぶ 俺がその喫茶店に入ると客の入店を知らせるドアに着いたベルが心地よい水分を含んで音を鳴らす 喫茶店はテーブルとカウンターがあるバーのようなお洒落な景観で、飲食店特有の騒がしさはなくお洒落なクラシック音楽と客の少しの話し声だけが鳴っていた 俺が店に入るなりカウンターに立つ男性店員の宮さんは俺の方を見る 「いらっしゃい」 いつもの優しい笑顔で俺を出迎える 俺は定位置となっている宮さんの目の前のカウンターに座りいつものようにパンケーキとアイスティーを頼む 宮さんは「いつものね」と静かに微笑みながら注文表を書き調理を始める 俺はいつもみたいにリュックからルーズリーフを取り出し次描く絵のアイデアを考えていた いくつかの四角を描きさらさらとラフの絵を描いているといつの間にか俺の横にいる宮さんに気がついた 「部活?」 率直な質問に俺は笑顔でうなづき話し出した。 「いろんな作品のアイデアを出してるんですよ。そうしたら後から楽なんで」 宮さんは我が子を見るように愛おしく俺を見つめていた 「部活なんて青春じゃん」と微笑んで相槌を打ち俺のラフの絵たちを見る 店のことはいいのか聞くと「お客さんあんまいないから」と自嘲気味に返事をする 周りを見るとさっきまでいた人達は日が暮れたことと閉店時間が近いのがあり、ほとんど居なくなっていた 時間ギリギリまでいることへの申し訳なさが押し寄せる俺に宮さんは俺のラフを指さして「これはどういう絵なの?」と目を輝かせて話しかけてくる 俺は宮さんを独り占めできているという優越感もあり普段しないような笑顔で宮さんと話す 「これは海と電柱の風景で、こっちは夜空を漂うクラゲで、こっちは夕焼け空と烏の風景です」すると宮さんは不思議そうに首を傾げる 「風景すきなの?」 俺は少し戸惑って口をすぐに開けなかった いつもはあんまり人と長く話すと戸惑ってしまう だがいつも相手が宮さんだと俺が俺じゃないと思えるほどに話せるのでいつもそれが嬉しく俺は口を開く 「学校とかつまんないとこじゃなくて、こういうところに行きたいな、とかを絵にしてるんで…。そうなると風景が好きなのもあながち間違ってないですね」 俺はいつもと同じ不器用な笑顔を浮かべ宮さんを見る 宮さんは不思議そうにするのと笑顔でいるのを並行して俺の事を見ていた 俺はそんな宮さんを見て心臓が締められるような感覚と身体が火照るような苦しさを一瞬感じ胸を手でさする 「そういった感性も絵にはいいのかもね」 不思議そうにする俺に宮さんはいつもの笑顔に戻って返事をした 同じことを色んな人に言われたが宮さんに言われると説得力があり不思議だった 俺はいつも宮さんと話すと他の人と話しているような感覚がなくなる 宮さんだけ特別みたいな、そんな感覚だった。しばらく宮さんと話をして店を後にした 店を出て振り返ってもしばらくいつもみたいに俺に手を振り続けてくれる宮さんに俺は照れ臭くなりぶっきらほうにお辞儀をして早足で交差点を曲がった 宮さんが見えなくなり冷静さを取り戻し頬が紅くなる この火照った熱さだけはいつもと違った 俺は男である宮さんが好き、そんな最近自覚した事実を思い出し手に汗が滲む ああして宮さんといつも通り話しているが心の中では時々恋する乙女のようなことと思春期の男子高校生のようなことと普段の人とあまり話したくない自分が混在する時がありその度に頭をいっぱいにされる 俺はなるべく宮さんを頭から離すために自販機で炭酸飲料を買いその場で飲み干しペットボトルをゴミ箱へ投げ入れた ふと顔を上げるといつもの星が浮かぶ夜空と人の乗る電車が瞳に映った。

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僕の中の空白

雨が降る中 君は傘も差さないで僕に別れを告げた 「貴方とはもういたくないです」 他人行儀なその言葉に 今までの親しくしてくれた君と目の前にいる君は 全くの別人とも思えてしまった 「いかないで」 僕がそう言っても君は僕の方を向かない 決して僕の前で足を止め抱きしめてくれない 目の前の雨が止むこともない 別れる前 君は僕の言葉が嫌いだと言った 僕はそんなことを言う君をブってしまった 「僕は君のことを嫌いなんて言ったことないのに」 なのに君は僕を睨め付ける その目に覚えがあった  僕が君に文句を言った時と同じ目だった あの時は思ったことをそのまま言っていたが 今になって考えると どうして昔の僕はあんなに君に意地悪したのだろう 僕は誰の料理と比べて 君のご飯を不味いと言ったのだろう 僕は誰の字と比べて 君の字を下手くそだと言ったのだろう 僕は誰の接待と比べて 君のことを気の使えない奴と言ったのだろう 僕の中の君が曖昧になってゆく 僕の中にあった基準がわからなくなると 君のご飯の味も 君が書いてくれた僕の名前の形も 君がいつもしてくれたマッサージも 君の笑顔も 全部ボヤけて霧のようにいなくなってしまう 君が雨の中へ消えていくのと同じように 君の髪の艶も 君の頬の赤みも 君の優しい肌ざわりも 君の愛しかった声も 全てが水で流され消えてしまう 僕がどんなに消えて欲しくないと願っても 水は流れていき僕の中の君の記憶を蓄積して すべてもっていってしまう 僕の中に君の輪郭だけを残して空白が生まれる そしてこの空白の輪郭に近いものを求めてしまう 何度も埋め合わせた 今まで埋め合わせた人の輪郭が重なり 元の輪郭が消えていってしまう 君の輪郭はもう消えてしまった また僕の中の空白だけが増えただけだった どうしてこの不幸を知っているのに 僕はいつの記憶の幸せと比べて 君との時間を幸せだと思えなかったのだろうか

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