あかり

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あかり

最高で贅沢な罰を

お姉ちゃんと海兄の口癖はよく似ている。恋愛観だと特に。何かを諦めた様な、蓋をするところとか。お姉ちゃんと海兄の好きな人は知っているけれど千兄の好きな人は聞いたことが無い。もちろん検討もつかない。そんなある日、千兄に彼女ができた。高校のサッカー部のマネージャーらしい。最悪だ。 千に彼女ができた、らしい。ワタシはその話を一方的に聞き、おめでとう、今度会わせてよ。とその日最大級の“ワタシ”で、今までに無い程の嘘を吐いた。 千はあまり自分の話をするのが得意な方では無い。いつも陽菜乃や海斗の話を聞いている。 あの日から4ヶ月程たったある日、彼女の誕生日プレゼントを買いに行くのに一緒に来て欲しいと千からお願いされた。久しぶりに千と二人で出かけられる、と喜びの反面、彼女の誕生日プレゼント──か。と一喜一憂した。千と買い物に行き、プレゼントを選びワタシはその時間を楽しんだ。家に帰って自分の部屋で今日のことを何度も鮮明に思い出した。その度に早く大人になりたい、と思った。その想いが子供なのだと気付くにはそう時間はかからなかった。 「海兄、ちょっといい?」 陽菜乃が珍しく真面目な雰囲気で呼んできた。 「どうしたの?」 「お姉ちゃんのことなんだけど……」 ドキッとした。お姉ちゃん、とはかりんのことか。もしかして、喧嘩でもしたのか?いや、この二人に限ってそんなことは無いはずだ。 「お姉ちゃんのこと、まだ好き?」 想像も付かない質問に驚きを隠せなかった。なにを、言ってるんだ。まだ、とはどういうことだろう。好きとはどういう意味だろう。考えれば考えるほど分からない。 「どういう、意味?妹としてならもちろん好きだけど。」 上手く隠せたつもりだった。早口になっていることにすら気付かないくらい動揺していたのだから。 「気付いてる癖に。海兄も隠すんだ。ひな、ずっと知ってるんだよ、お兄ちゃんとお姉ちゃんのことよく見てたから。早く三人と同じように遊びたかったしひなだけこっちね〜は嫌だったから。」 俺と陽菜乃でさえ六個差、陽菜乃と千夏は九個差だ。確かに一緒に遊ぶには年齢差があるからいつも陽菜乃だけ母親たちと遊んでいたのを思い出す。もう、隠せない。陽菜乃には隠せない。 「そうだよ。あの時からずっと好きなままだよ。でも誰にも分かって貰えないと思うから。」 やっぱりこの二人はよく似ている。家族間で恋愛感情を抱かせるなんて神様はなんて意地悪なのだろう。 いや、これも運命と捉えるよりほか無いのだろうか。

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最高で贅沢な罰を

   何も変わらないままで居て欲しい。本気でそう思ったんだ。キミだけは───。  今からこれを読むキミへ。この話は幻想でも現実でも無い、ワタシの思想だ。  平成十八年 七月二十九日  ワタシは生まれた。「灯」と書いてあかりと読む。ワタシはこの名が気に入っている。父と母、千夏お兄ちゃんはあかり、双子の兄はかりんと、幼馴染のアイツはかーりーと、それぞれ皆違うふうにワタシを呼ぶ。ワタシはきっと暖かな家庭で平穏な日々を過ごしていた。  六年後、妹が生まれた。「陽菜乃」という。ワタシは六人家族だ。  幼少期の記憶は全くと言って良い程無い。あるとしたら千夏お兄ちゃん……‘せん’の事が好きなあまり、幼稚園バスに乗ると泣いていたことかな。今となっては恥ずかしい。ワタシは小学生一年生になり双子の兄、海斗と幼馴染の優真と三人仲良く同じ小学校に入学した。ワタシだけ違うクラスだったが、登下校は三人一緒だった。そのまま二年、三年へと学年が上がり、中学校へ入る頃にはワタシは二人とは一緒にいなくなった。嫌いになったわけではない、喧嘩をしたわけでもない。ただなんとなく自然に離れていったのだ。ワタシも女の子の友達といる方が楽しかったし向こうもそれは同じだっただろう。小学二年生から二人はサッカーを習っていた。  中学校での部活動は、案の定二人はサッカー部。ワタシはバスケットボール部に入部した。ワタシは運動神経が良いわけでは無いのでスタメンに選ばれることは少なかった。海斗と優真は運動神経が優れていて、特に海斗は一年の時からレギュラー入りしていた。ワタシも何度か二人の試合を観たことがある。素人にも分かるくらい二人は上手い。そんな二人を好きな人はとても多かった。海斗も優真も運動神経が良いだけでなく、頭も良い。常に学年の上位五位以内には名前が入っている。そんな二人の事を皆はこう呼んだ‘天才’だ、と。誰も二人の事を努力家だとは言わない。ワタシは知っている。海斗がサッカーから帰ってきた後に勉強しているのを。分からない問題をワタシに聞いて、理解するまで何度も何度も繰り返し解いていることを。夜遅くまでランニングをしていることを。海斗は天才では無い。秀才だ。それを知っているのはワタシと千だけ。   「好きなのか?かーりーのこと。」  一瞬時が止まったかのように思えた。一体何を、話しているのだろう。聞き間違いなわけ無かった。ワタシはこの耳でちゃんと聞いたのだ。いや、聞こえてしまったのだ。十秒も無い沈黙の後、立て続けに聞こえた。 「好きだよ、出会った時からずっと。きっと誰にも分かって貰えないと思う。」  聞きたくなかった、知りたく無かった。今までワタシは知らないふりをして逃げていたのに。でもまだ逃げられる。ワタシはこの話を聞いていない。家に帰ろう。帰ったらいつも通りに接するんだ。家に帰るなり、陽菜乃のいつもの恋バナだ。ワタシは何気に陽菜乃の話が好きで毎日聞くことが日課になっている。 「おかえりお姉ちゃん!今日は奥山くんに下の名前で呼んでも良いよって言って貰えたの!あ、奥山くんって言っちゃったー、伊織くん…なんか呼ぶの恥ずかしいよ〜。」贔屓なしで見てもワタシの妹は可愛い。コロコロと変わる表情は毎日見ていても当然飽きない。 「ねえ!お姉ちゃんはどうなの?前少し話してくれた年上の人とはどうなったの?進展あったの?」  痛いところを突かれる。もちろん進展なんてあるわけが無い。あってはならない。 「お姉ちゃんの話は良いの。それよりもうすぐご飯の時間じゃない?お風呂入った?また後でひなの話をもっと聞かせてよ。」上手く話を逸らして逃げる、これもお決まりのパターンとなっている。「うん!」と元気よく二階にあがりお風呂の用意をしている。微笑ましく思っていると千と海斗が帰ってきた。「ただいま」「おかえり」いつも通りの挨拶をし、内心ホッとする。二人一緒に帰ってくることは珍しく無い。今更あの言葉が頭に浮かぶ。  きっと誰にも分かって貰えないと思う──。嗚呼、苦しいな。 「あお兄ちゃんたちおかえりなさい!ひな、今からお風呂〜。先入る?疲れたでしょ?」「おー、ただいま。いや、いいよ。先入りなー。」  「ありがと!海兄!」  笑顔で言った。静かな脱衣場の中で"お姉ちゃん、私知ってるよ。誤魔化さないでいいんだよ。"小さな声でそう言った。お姉ちゃんの好きな人はもう知っている。

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