日和菜
8 件の小説Not fiction
生徒会長である私の幼馴染は、向いていないことをしたがる。 運動神経と負けん気だけは強いが、いつも自信なさげで、自分に自信をつけるために生徒会長になるような人間だ。 ここまではまだいい。完全には否定しない。 でも、高校の生徒会は甘くない。 特に私の代は変人やら秀才やら問題児やらが見事に集まった代だ。 その子が生徒会長になったら、生徒会が崩壊してしまう。 生徒会内では誰の目にも明らかだった。 その子も一年生から所属しているので、そこは分かっていると思っていた。…私が馬鹿だった。 その子は会長になるだけで、無条件にそれに相応しい人間にもなれると信じていた。 皆、そう扱ってくれると信じていたと言った方が合っている。 案の定、その子が会長に決まって少しして、生徒会内では9割の人が辞めると言い出していた。 きっかけは私の「やめよっかな…。」と言う一言。 私もそこに行き着くまでに、一応様々な努力をしたのだ。 私は選挙が始まる前に、その子と約束をした。 「会長は生徒会の顔だけど、それは一般生徒じゃなくて、生徒会内に向けてどんな行動をするかだよ。 会長として信用されないと、みんな働いてくれないし、運営が円滑に回らなくなるからね。 しかも、うちの代は自我が強いから簡単にはついてきてくれないよ。 圧倒的な統率能力か、ひとりひとりと向き合っていくしかない。 でも、あなたは自分でもわかると思うけど圧倒的な統率能力はないから、空き時間に少しでも話して観察して、みんなのための会長になるんだよ。 じゃないと、この生徒会ではうけいれられないよ。 会長ってみんなを包む屋根みたいな仕事だからね。」 この約束をして一ヶ月の間で、何度問いただしただろうか? 一週間経っても、一ヶ月経っても、まるで変わる気配がしない。 信用は落ちていく一方だ。 会長になったら、変わるかな?と思ったが、無駄だった。 全校集会の整列指導でも、マイクを持っているくせに、何も喋らず、後ろでうろうろしているだけだ。 そのくせ、生徒代表挨拶だけはしっかりと読み上げる。(棒読み) 全校生徒は選んだ後は知らぬ存ぜぬ。 私の仕事に埋もれながらの必死のフォローも無駄であった。 そこで、私の中で何かがプツンと切れた。 (そういや、フォローする義理なんてないじゃん。) 「やめよっかな…。」そこから次々と辞めたい人が増えていった。 …それでも、先生たちの必死の説得により結局続けてしまった。 「会長らしくない。」 そんな声がとうとう本人の耳にも入った。 しかし、私たちと彼女で、「らしくない」の意味が違ったようだ。 私たちが言っているのは、生徒会の代表として自信を持って、「自分たちの代表です」と出せないことや、自分たちのことを全く理解しようとしない、自分本位なところが隠そうとしても、隠しきれていないことだ。 だが、その子は何を思ったのか、「私にみんなが情報を共有してくれないから、私が会長らしく責任を取れないんだ。」という風に受け取ったらしい。 私たちの代は問題が山積みで、たくさんのトラブルが起こった波乱の代だった。 しかも、個人的な人間関係の。 彼女は「当然会長である私に相談してくるべきだ」と考えていた。 そんなもの、自分本位な彼女にみんな話そうとするはずがない。 「どうして相談してくれないのか、もう少し考えたほうがいい。」 そう言って手元にある案件を、いくつか共有しようとしたが、ふと思った。 私だったら、彼女に言って欲しくない。と。 それに、個人的な相談を共有してなんになると言うのだろうか? そもそも関わる気がないのだから、情報を共有せずとも、彼女の仕事に支障は出なかった。 そう振り切ってからは、早かった。 私は普段の業務に加えて、 ①各行事ごとのすべての人事 ②トラブルの仲裁、後処理 ③児相に行って学校に来ていない子との連絡 ④メンタルが不安定な子のメンタルケア ⑤先生と生徒会との繋ぎ ⑥エラーチェック ⑦ミスへの対処 などなど、本当にたくさんの仕事をこなした。 しかもうちの代の人事は一筋縄では行かない。 すぐに人間関係でトラブルを起こすので、課長を任せられる人間は非常に少なかった。 なので私は行事のたびに、3個も4個も課長を掛け持ちする必要があった。 後輩からはどうやってそんな量の業務をこなしているのか、とどん引かれた。 私だってやりたくてやっているわけではない。 児相とか行くなよって思うし、なんで副会長同士がハメ撮りの流出とか、未成年飲酒とか未成年喫煙とか噂流して足引っ張りあってんの?って思うし、息を吐くように嘘をつく人がいたおかげで、ずいぶん引っ掻き回された。 でも、やるしかなかった。生徒会が崩壊してしまうから。 別にぶっ壊してしまっても良かった。 しかし、最後まで私たちの代を心配してくださっていた先輩たちのことを思うと胸が痛んだ。 問題だらけなので当然、時には全員が聴取されることもある。 「君はだいぶみんなに信用されているし、一番客観的に物事を見れているから、よろしくね⭐︎」 は?よろしくって何?あんたらは介入する気ないのかよ。 てめーらが生徒の問題解決して、メンタルケアまでしとけよ。 そう思ってたけれど結局、会長のお世話までさせられた。 何も知らない彼女は、聴取で何も言えなかったことにまた自信をなくす。 …そんなのも、今日で終わりだ。 最後のお別れ会で、彼女が後輩に言った。 「『なんとかなる』って言葉が私嫌いなんよね。問題からは逃げんで向合わんと。」 なんであなたがそんなこと言うの? あんたが逃げてきたんじゃん。会長の責任も果たさずに、権力だけ持ってる気になって。 この仕事が溢れた生徒会において「なんとかなる」って言葉がないと、逃げ道がないと、やってられない。 後輩の逃げ道まで奪わないで。 終わった後まで、後輩にまで、迷惑をかけないで。 「私たちの代は問題児が多かったですけど、なんとか終わることができました。」 って…。お前のせいだろ? 無事に終われたのは、お前以外が頑張ったおかげだよ。 鳥のヒナみたいに口だけ開けて、情報が入ってくるのを待ってただけのくせに。 何最後に「無事に終わって良かった」みたいに平穏に終わらせてるんだよ。 私のやってきたこと、全部なかったみたいに。 同級生や後輩たちが助けを求めるように、こちらを見る。 私だって、全部ぶちまけたいよ。こいつの耳かっぽじって。 でも、こいつ泣くだろ?そしたら私がいじめたことになるんだよ。 こっちはもう話したくもないんだよ。 もうなんでもいいから、私たちの前から消えてくれ。 お前は生徒会の恥だ。
錯綜(お題#2)
「錯綜」:①物事が複雑に入り組んでいること。 ②入り交じって混乱すること。 この言葉を自分の性格に対しても使っていいのならば、まさに今の私の人格は錯綜している。 多重人格とか、そういうわけではないけれど、確かな自分の感情がどこにも見当たらない。 幼少の頃より、武道の習い事で「正しい考え方」というものを教え込まれた。 「感謝」するにしても、感情より論理が先走って、「この場面では感謝の気持ちを抱くべき」だから「ありがとう」を言おう。 私の感情は全て、この考え方に支配されている。 感じること全てに正解を求めてしまう。 「この感じ方は合っているのかな?」 「人と違ったりしていないかな?」 普段は生徒会で会長を凌ぐ完璧人間を演じている私。 しかし、本当は自分のことさえわからない、 こんなにも未熟な人間だなんて誰も思わないだろう。 生徒会の人間は、個性的で面白く、退屈しない。 反面、無能で馬鹿で、見捨てたくもなる。 どちらも、感情のような顔をして私の中に居る。 良い子を演じているだけなのだろうか? それとも、私の脳みそが見捨てるべき人間だと判断したのだろうか? 自分の感情をはっきりをさせようとすればするほど、私の感情はこう返してくる。 「どっちでもいい。」 それが私の唯一の感情だなんて、悲しすぎやしないか?
ハンディファン(お題 #1)
蒸し暑い縁側で、黄色いハンディファンは 2人分の熱を冷まそうと、必死に低く唸っていた。 「…黄色って、あなたの一番嫌いな色じゃなかったかしら?」 布一枚を挟んで触れた、僕の背中に、彼女の声が響いてくる。 「黄色いやつしか無かったんだよ。」 僕は首にできた赤いアザに、さりげなく触れてみる。 「ふーん。…そんなこともあるのね。」 「うん…。」 黄色いハンディファンを見つめる彼女の黒い瞳には、向日葵が咲いてるみたいだ。向日葵は全てを知っているように僕を見返す。 「…最近、買ったの?」 「うん。…急に暑くなったからね。」 目を閉じると、遠くで彼女の心臓の音が聞こえる。 「…どうりで、あなたの香水の匂いがしないと思ったわ。」 「……そっか。」 自分がつけた覚えのない 僕の首のアザに、彼女は気づいていただろうか? 「……私、」 珍しくまっすぐな声で彼女が言う。 僕は肺いっぱいに深呼吸をして、ゆっくりと目を開ける。 「………。」 彼女の瞳にはもう、向日葵は咲いていなかったが、 僕を見つめる瞳は吸い込まれそうなほどに綺麗だった。 …今聞こえている心臓の音は、いったいどちらのものだろう。 「私、用事思い出しちゃった。」 「帰るね。」 言うなりするっと僕の腕から抜け出て、バッグを持った。 呆然とする僕を置いて彼女は一言 「ばいばい。」 そう言って二度と振り返らない。 彼女が僕の腕から抜け出る直前、 僕の首のアザに何かが触れたような感覚は 彼女の瞳に咲いていた向日葵の悪戯だろうか。
筆やすめ
これは誰も知らない小さな告白 「好きな人がいるんだよね」 誰?って…。アホ面で聞いてくるもんだから 「最近一緒に帰ってる人」 「みんなが認める変人で、自己肯定感バカ高くて… さらっと純粋に褒めてくれて、 それはもう変人で、変人で。…退屈しないよ」 疲れていても、見かけるだけで笑顔になれるから 疲れているほど、どれだけ好きなのか実感する。 幸せだったけど、切なくて、辛くて、辛くてたまらなかった 「一緒にあそこのカフェにも行ったんだ」 通学路脇のカフェを指差して言う そっと顔色をうかがってみるけど、変化はない。 (そろそろ、潮時かなぁ…) (ばいばい。私の初恋) 「あのさ、明日から一緒に帰れない。ごめん」 「分かった」って… ばーか。 なーんも分かってねーじゃん。 …ばーか 『すきだったよ』 風にさらわれた言葉は、どうしたってもう 届かない
花に鳳蝶 #3
「…ま、間に…合った……。」 倭花が息を切らしながらやっとのことでそれだけ言うと 「まだ5分前だよ。 それにしても、寝坊?珍しいね。」 不思議そうに言ったのは、会計委員長の雪街悠吾だった。 「わかも一応人間だからねー。」 と言う、もう一人の書記である雪消菜空はなぜか嬉しそうだ。 (私は人間だと思われてなかったのか…?) 「はぁー。やっぱり集合時間にはみんな揃わないかー。」 七夜の言葉で集合時間なのに人数が集まっていないことに気づいた。 「いつも通りだけど、電車の時間は大丈夫?」 菜空は少し困った様子で言う。 「もうなんとかしてるから大丈夫。」 (やっぱりな。あいついつも3分から15分くらい遅刻してくるんだよな。でも、15分前の時間を伝えてるから大丈夫でしょ。) と、そのとき 「すいませんでしたぁー!」 鳥待が倭花の前に土下座で滑り込んできた。 「…………。」 「ごめんなさいぃー!」 鳥待がさらに深々と頭を下げる。 「早く立ちなさい。制服が汚れるでしょ。」 しょぼくれた様子で立ち上がるので、流石に可哀想で制服に着いた土を払ってやる。 「うぅ。ほんとに申し訳ないです。姉御…」 「どうせ今日も遅刻してくるんだろうなって思ってたから、15分前の時間で集合かけてたの。」 「姉御ぉ〜。いや、月不見様ぁ〜。」 「あんたには説明会頑張ってもらわなきゃだから。」 「はい!なんでもいたします!」 許される雰囲気にちょっと調子に乗ってきたようなので。 「じゃあ今日、説明会での面白い自己紹介、楽しみにしてるから。」 「は、はは、姉御…。今日が本番っすよ?なかなかハイレベルっすね。」 「あと、来年に向けた学校説明会の後輩への引き継ぎ、鳥待に任せるね。 ちょうど『仕事なくって暇ぁー』ってこの間騒いでたじゃない? きっと、説明会の資料も読み切って全部頭に入れてしまったんだろうなぁ。すごいねぇ。」 自己紹介はまだしも、先生やら学校同士やら、複雑な問題を抱えた学校説明会の引き継ぎという話に、その場の空気は凍りついてしまったとさ。 「ほら、駅行こ。今から行けば私たちが1番早いかもね。」 続く
筆やすめ
「それでも人を愛しなさい」 思い出せないけど なんとなく聞いた覚えがあって なんとなく 覚えてた べつに わたしに向かって言ってるわけじゃない それはわかってる だけどなんか うしろめたかった なかなか自分から人のこと好きになれない なれないってゆうか どうせ誰の一番にもなれない おんなじだけの感情を返してくれるわけじゃない みんな嫌いってわけじゃないんだけどな なんかわたしにとっては 一生孤独だぞって 言われてるみたいで うしろめたかった 本当は自信も何もないわたしを見透かされてるみたいで
花に鳳蝶 #2
突如、頭を殴られた気がして目が覚めた。 鼓膜が破れそうな騒音に盛大に顔をしかめる。 (ん…、んう?) (あー。そっか…もう、朝か…。) だんだんと意識がはっきりしてくると、目覚まし時計が自分の耳元に落ちていることがわかった。 時計の指す時間は7時30分。 (今日は学校説明会か…。確か集合は学校に8時って菜空ちゃんが…) さらに意識がはっきりして、倭花は目の前の最悪な現実をほっぽり出し、幸せな眠りの中に沈みたくなった。 (あ〜。もうサボりたいな。サボろうかな。菜空ちゃんいるからいいよね。 あ、でも資料私が全部持ってるんだった。LINEで送るのじゃだめかなぁ。) そうは言っても、学校説明会に片方書記がいないのもよくないだろう。 それに今回は、初めて三年生抜きで行う仕事なのだから、なおさらだ。 (大丈夫。学校まで自転車飛ばせば20分で着く。…はず。) (よし。) 布団から飛び出した倭花は洗面台に行き、顔を洗って制服に着替える。 (髪の毛は櫛だけ通して…。資料とかは、カバンの中に入ってるはず。) (あとは、朝ごはんはまぁ…食べなくても死なないしいいかな。) (オッケー。準備完了。) 玄関で靴を履きながら時計を見るとまだ時計は7時36分を指していた。 (そういえば、今日イケメンいるって桔咲ちゃん騒いでたな。) (…偶然の再会…) 「そんなの、あるわけないじゃん…。」 倭花は目を細めて倒れた写真立てのひとつをちらりと見る。 (少女漫画みたいな、妄想ね…。) 「はぁー。」 ため息ひとつ。 「行ってきます…」 「行ってらっしゃい」と返す人はどこにもいない。 そんな人は皆、倭花を置いて離れていった。 そして、いつしか倭花の心のなかで死人も同然となっていた。 しかし、写真たての下の愛すべき死人だけは、倭花が唯一離れたくないと願った人だった。 続く
花に鳳蝶
“出会わなければよかった。” そう思うのも、恋でしょ? 最期の夏、僕たちは2度目の恋に落ちた。 ある日の生徒会室。ふとした会話に、伏線が息を潜めていた。 「ねぇねぇ。」 「ん?」 倭花に声をかけてきたのは副風紀委員長の七夜桔咲だった。 「説明会のリハ一緒にするH高校ってあるじゃん。」 「うん。それがどうしたの?」 「その高校の生徒会にイケメンいるらしいよ!」 倭花は説明会の資料を作る手を止めずに答える。 「へー。そうなんだね」 「イケメンに興味ないんだねー。わかちゃんは。」 「そりゃそうだろ。興味なんかなくてもあっちからよってくるんだから。姉御はなぁ。」 どこからか、執行部員の鳥待花太が会話に入ってくる。 「ゲーム中毒は会話に入って来ないでくださーい。」 「ひっでぇーなぁ七夜はぁ。そんで、姉御はほんとに興味ないの?」 鳥待が無邪気に尋ねる。と、 「……興味なくないよ。ただ」 倭花はようやく手を止めて淡々と返した。 「だれもイケメンと思えないだけ。」 それだけ言うと、また作業に戻ってしまった。 「ありゃりゃ。姉御が作業中にまともな返答するなんて珍しいこともあるもんだなぁ。」 「そうねぇ。地震でも起きるのかしら。」 鳥待と七夜は顔を見合わせた。 「てか、なんで姉御呼びなのよ。」 「だって姉御っぽくない?」 「わかはなんて言ってるのよ。」 「別にいいんだってさ。」 「それ多分『どうでもいい』の『いい』よ。」 (呼び方なんて、どうでもいいじゃん。…よっぽど酷いあだ名以外なら。) (あ。そういえば一人だけいたな。イケメン) 倭花は、もう顔も忘れてしまった一人の男の子を思い出した。 (イケメンって、まさか…ね。) 続く