武田慶喜
31 件の小説お似合いの2人に祝福を(10秒ショート)
「俺がいちばん辛い時に支えてくれたのは、お前じゃなかった」。 それが、別れの言葉。 毎日寄り添って、 愚痴を聞いてあげたじゃない。 でも私も辛かった。 休憩しないと私まで潰れちゃいそうだったんだよ。 今の貴方の彼女はね、 こう言ってたよ。 「聞いてるフリしてるのが丁度いいのよ」って。
世界に1人の大切な私へ(10秒ショート)
派遣契約を切られた。 元夫と子供には新しい家族が。 友人達は私抜きのBBQ写真をアップ。 私は「世界に1人の大切な存在」なんかじゃなかった。 今私がいなくなっても、どこで何をしようと……誰も気付かない? ひゃっほぅそれって最高では!? 私は諦めていたオーディション用の写真を撮った。
運命は君の中に(10秒ショート)
重要機密の収められたUSBを紛失してしまった。 職場を追われ、街にもいられなくなった俺を、彼女だけは明るく献身的に支えてくれた。 海外の田舎で一緒に暮らした。 貧しくても幸せだった。 火葬のあと、彼女の中から懐かしいあのUSBが出てくるまでは。 そっか。 運命は君の中にあったのか。
忍び寄る幸せの声(10秒ショート)
「オギャーオギャー!」 お隣から毎日聞こえる可愛らしい声。 私たち家族は喧嘩しても、この声でなんとなく和んで仲直りしたものだ。 「オギャーオギャー!」 あれから20年。 夫とは離婚、子どもは巣立ち、すっかり寂しくなった我が家。 お隣はいつまでも変わらず幸せそう。 うらやましいわぁ。
どうして泣いてるの?(10秒ショート)
「ぐすぐす」 「どうした」 「この映画が悲しすぎて」 「あら」 「泣くのは癪だから我慢して歩き回ってたらタンスの角に小指ぶつけて」 「あら」 「悶絶して気を紛らすために歌ってたらお隣さんに聞かれて」 「あら」 「お隣さんプロデューサーだったみたいで、今スカウトされた」 「おめでとう!!」
奇妙で微笑ましい二人(10秒ショート)
いつも手を繋いで仲睦まじく歩く二人。 そして微笑ましく見守る町の人たち。 「お似合いのカップルだな」 「姉妹でしょ?」 「いやいや親子だろ」 「犬と飼い主にしか見えないけど…」 微笑ましいことには変わりはない。 誰もを幸せな気持ちにさせる奇妙な二人は、今日も寄り添いあって歩く。
バカな夢だったの(10秒ショート)
目覚めると、誰もマスクをしていない世界。私は泣いた。 「ウイルスに怯えて、マスクをしないと非難されて、ワクチンを強要されて……そんな世界の夢を見たの」 「ふふ、バカねぇ」 食卓には注射器。 そしてベロリと顔マスクを外し青白い素顔を曝け出す母。 「大昔の夢なんて見て。さ、ご飯よ」
伝えたい想い(10秒ショート)
「先生はどうして小説を書き始めたのですか?」 「聞いて欲しかったのです。ちっぽけな私が何を言っても、誰も相手にしてくれません。でも小説でなら、多くの人が理解し共感してくれる。そう思ったのです」 「その通りですね。私も先生の作品『巨乳より貧乳』に感銘を受けた一人です」
大切なものは目に見えない?
「大切なものは目に見えないってよく言うけど、目の前にいる大切な人は、大切じゃないってことなのかな」 「そうじゃないよ。お金や物質なんかじゃない。一緒に過ごす時間にこそ価値があるってことさ」 「じゃあ僕は君と、そんな価値あるものを手に入れたいな」 「ありがとうございます。1日3万円になります」
犯人はどうしても高橋
犯人は十中八九、高橋だ。 しかし証拠がない。 しっかり犯行現場を観察しよう。 ん?これは澤田のペン。 ん?これは澤田の指紋。 ん?なんだか苦しそうな声がする。 ん?あれは、澤田が高橋を刺している!? なんだと、それじゃあ犯人は高橋じゃないというのか!? 全ては振り出し、迷宮入りだ……