あいうえおむらいす

3 件の小説

あいうえおむらいす

家族     いみこわ

「ガタン」  大きな音がして、私は目が覚める。  誰かがやってきて私を持ち上げて歩き出す。  私には視覚というものがない。 『ピンポーン』と、何かが鳴り響く音がした。私はすかさずインターネットに接続、この音の正体を探る。  類似した音を見つけ、分析した結果、インターホンだと判明した。  こうやって、私は真っ暗な世界で生きていく。 『ドタドタドタ、』 『ガチャン』 「こんにちは、○○宅配便です、お荷物お運びしました」  どうやら目的地に着いたようだ。  ここで今日から私は働くことになる。 「ありがとうございます」 「ここに受け取りのサインをお願いします」 「わかりました」 『サラサラ』何かを書く音が聞こえる。                      文脈的に、受け取り主がサインをしたのだろう。 「ありがとうございました」 「わーい、やったー!ついに届いたよお母さん!」 「よかったわね、お父さんにも教えておいで」 「おとうさーん‥‥…」  どうやら私は三人家族に購入されたようだ。  私には人の言葉の波長を分析し、登録していく機能がある。その機能が勝手に起動し、三人の音声をデータ化して、保存する。  私はどうやらテレビの横に置かれたらしく、毎日ものすごい数の人物の音声データを記録する羽目になってしまった。  何日か過ごしてきてわかることがある。  音声データbの人物と、音声データcの人物は毎日のように私に話しかけてくるため、会話のパターンや、癖が聞き分けれるようになって行った。  しかし、音声データaの人物は、滅多に話すことがなく、声が聞こえたとしても十二時過ぎにつぶやく声が聞こえる程度だった。  そんなある日、突然叫び声が聞こえてきた。音声データbのようだ。  それに続き、音声データaの人物が声を荒げている。また、音声データcの人物が泣いているのもわかる。 「キャー、」『グサッ』『ドサッ』  激しい悲鳴と共に、何かが落ちる音がした。音声データcの泣き声がより一層強まる。 『グサッ』『ドサッ』  先ほどと同じような音が聞こえた。 『スタ、スタ、スタ、スタ』  足音がこちらに近づいてくる。 「そうか、お前は見えていなかったか。でも聞いてしまったなら仕方がないなあ」 『バキッ、バキバキ』 ものすごい破壊音と共に私の意識が消えていく。  消えゆく意識の中で聞こえた冷たい笑い声は、間違えなく音声データaのものだった。    

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親友 いみこわ

 東京に行っていた友人が福岡に帰ってくる、そんなわけで私はワクワクしながら、家の近くの喫茶店に向かっていた。  彼とは小学校時代からの同級生で、毎日一緒に、笑って、泣いて、遊んで、周囲からは兄弟のようにみられていた。  しかし、中学、高校と時間が経つうちに彼といる時間も少なくなった。それでも、たくさん悪さをしたり、部活に励んだり、恋をしたりと青春を楽しんでいた。  彼はたいして勉強もしてないのに頭がよかった。そのため、ちょっとの勉強だけで、東京の某エリート大学へ行ってしまった。それでも、彼は自慢することもなく、とてもカッコよかった。(少し悔しかったが…)  気づくと、喫茶店に着いていた。スマホを見ると、午後十二時過ぎだった。  約束の三十分までには少し時間があるので、コーヒーを注文し、スマホを眺めながら待つ。  約束の三十分になった。  彼はまだ来ない。   私は怖くなった。  彼は昔から時間は絶対に守る人で、遅刻してきたことなどは一度もなかったからだ。  心配になってLINEを送ってみるが、既読はつかない。 「彼に何かあったんじゃないのか?」  電話をかけようとした時、不意に誰かが呼びかけてきた。 「○○、久しぶり!」 私の心配をよそに元気な顔で彼は隣の席に座る。 「□□、久しぶり!遅刻するなんて珍しいな。」 「ごめんごめん、懐かしの故郷で思い出に浸ってたら遅れちゃて…」 「そんないいとこでもねえだろ、ここは笑笑」 体育会系だった彼だが、肌も白くなっていて、少しおしゃれに見える。 「ところでここらへんだいぶ変わったなあ、昔は田んぼしかなかった気がするけど」 「そうだよなあ、最近でっかいビルばっかり建って、政府もそんな金があるなら俺たち貧乏学生に金回せっつーの」  コーヒー二杯だけで居座る私達をみて、店員が流石に迷惑そうな顔をしていたので店を変えて、家の近くの居酒屋に行こうということになった。 「この居酒屋、昔から親父に連れられて行っていたけど、酒飲むのは初めてだな」 「そうだよなあ、ところでお前今日どこに泊まるんだ?」 「今日は、オンボロの実家に帰ろうと思ってるけど……あ、忘れてた。今日通夜だわ。ごめん、そろそろいかねーと」 「通夜ってお前、その格好で行くのかよ」 彼は、ジーパンにワイシャツという格好をしている。 「大丈夫だって、誰もみてないから笑笑」 「てかお前だいぶ酔ってんじゃん、気をつけて行けよ。あと、今日は俺の奢りな!」 「おお、ありがとう!またな!」  そういうと、彼はふらつきながら店を出て行った。  まだ午後七時前なので大丈夫だろうと思い、代金を支払う。酒のせいでだいぶ料金がかさばってしまった。  薄っぺらくなった財布を持って家に帰る。  途中、コンビニに寄って口直しにアイスを食べる。  家にたどり着き、TVをつける。この時間帯はちょうど夜のニュースがあっているはずだ。 「続いてのニュースです、本日七時ごろに福岡県△△市で自動車と歩行者が絡む事故がありました。被害に遭ったのは東京都在住の□□さんで、病院に搬送されましたが三十分後に死亡が確認されました。なお、自動車を運転していた男性からは基準値の四倍を超えるアルコールが検知……………」  俺は頭の中が真っ白になった。  もし居酒屋でもっと飲んでいたら、もし居酒屋に行かなかったら、もし今日彼と会わなかったら、 『彼は死ななかったのに』  しかし、頭が回り出すと私は大笑いしながらベットに倒れ込んだ。  

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プロローグ

 枕を変えると眠れない。僕はそんな人だった。  普段使うことのない羽毛の枕は、僕の鼻を曲がらせるには十分な匂いだった。  おかげで、ソファーの上で寝ることになったが、思いのほか心地よい。最近眠れてないということもあり、僕はすぐに夢の世界へと迷い込んだ。  ふと気がつくと、ソファーの上から落ちていた。手探りでスマートフォンを探す。  電源を入れ、光が灯る。液晶に映る文字は、3:19と表していた。 「まだこんな時間か」 二度寝しようと重たい体をソファーに乗せる。 ふと、暗闇で何かが動いた。 「まだ起きてたのかよ」  言葉に反応することなくその影は動き続けた。「あいつも眠るのかな」  ちょっとした疑問が浮かんだか、眠気にはかてなかった。  僕は、テーブルの上にあるコップをつかみ、飲み干すと再び眠りについた。  

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