わやみ

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わやみ

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そうゆうこと

 私の親友はバカだ。  「シオ〜。ライン見たぁ?」  休み時間に入ったとたん、ドタバタと寄ってくる。  「見てるわけないでしょ。もう、授業中にライン送んないでって言ってるじゃん」  もし機内モードにし忘れてたら私がスマホ没収されるって、ちゃんと分かってんのかな、こいつは。ため息をつきながら通知を確認する。  『さっきのやつ、どうゆうこと?』  「ん、なにこれ? こっちがどういうこと? なんだが」  「だからぁ。ハリネズミがなんとかって言ってたじゃん」  『どうゆう』女――佐藤ほのかは、調子外れの鼻歌を歌いながら、私の手をひっぱって立ち上がらせる。  そして空いた私の椅子に、勝手に座り込んでしまった。  「んっ」と両手を広げてくる。  「『針のむしろ』のことなら、居心地が悪いって意味だよ」  私は適当に答えながら、彼女の膝の上に座る。あったかくてふわふわで、クッションとしてはそんなに悪くない。お互いの頭がぶつかる心配もない。佐藤の身長は183cm、クラスでいちばん背が高いのだ。  「野球部が初戦敗退したって話だったでしょ。あんなに期待されてたのに、さぞしんどいだろうなって」  佐藤は数秒間沈黙してから、「あーね」と呟いた。  話の意味合いが呑み込めたときにする反応だが、なにも分かってなくてもこう言うので要注意だ。言葉を続けずに黙っているところをみると、今回のは後者だろう。実際にはいまだにローディング中なのだ。  沈黙の時間を画像の整理にあてようとアプリを開くと、放置気味だった集合写真を中心にフォルダへ収めていく。中には野球部が写っているものもあった。  突然その一枚を指差して、佐藤が明るい声をあげる。  「これ、シオが好きな子ね!」  「!! バッ――!」  でかい声でなに言ってんだよ!!  弾かれたように教室を見渡して、いらん注目を集めていないか確認する。さいわい近くには誰もいなかったので、喧騒に紛れて誰にも届かなかったらしい。  佐藤のほっぺたを思いっきりつねりあげながら、ほっと息をつく。  しかしこいつ、つくづく危ない奴だ……。  「いひゃいいひゃい! ひお、はふへぇぇ〜」  「なんと言ってんのかわからん!」  弱々しく抵抗してくるので、仕方なく解放してやる。  本人は赤くなった頬をさすりながらも、まったく反省の色が見えない。  「ねぇ〜、この子でしょ。ホームラン打つの?」  「それは見たことない……っていうか、キャッチャーだから永遠に打たないよ」  「ふぅ〜ん」  曖昧な相槌を聞きながら、その写真を削除する。空いたスペースに、同じような構図の写真がスライドしてきた。  佐藤はまだこの話を続けるつもりのようだ。  「優しくていい感じのふいんきだよねぇ」  「どんな雰囲気だよ……」  ほんとにバカだな、こいつは。  二枚目の写真も削除。次から次に出てくる。好きだった人の顔。削除削除削除。  さ。  佐藤。  どきりとして、指が止まった。佐藤が写っていた。野球帽を被ったあいつと並んで笑っている。  そうか、これを撮ってすぐだったんだ。  ふたりで話したいからって、誰もいない水飲み場に呼び出された。正直ちょっとだけ期待したけど、それこそ――そういう雰囲気じゃなかった。  ――もう、佐藤と付き合わないほうがいいよ。  あいつはおずおずと、でもはっきりと言った。  ――彼女、その……ちょっと、あれだろ。  ――潮田まで同じだと思われるかもよ。  ――まあ、俺は分かってるけど……  続きを聞く前に、私は全速力で走り去っていた。  校門の前で待っていた佐藤に体当たりして、無理やりカラオケに連れていった。デスボイス系の曲ばっかり歌って、しばらく声が出なくなった。文字で話そうとする私に、なぜか佐藤まで誤字脱字だけの文章で対応して、ラインの履歴がカオスなことになっちゃった。  「……ねーぇ、シオ」  「ん? ごめん、なんだって?」  肩をつんつんつつかれて振り返ると、小首をかしげた佐藤と目が合った。  「なんで最近、あの子と遊ばないの?」  「もう好きじゃないから」  即答。だって、もう好きじゃないから。未練なんかないし、悲しくもない。それなのになぜか佐藤が涙目になっている。  すこし沈黙してから、内緒話でもするように私の耳たぶに口元を寄せた。 「じゃ、じゃ、……なんでいっつもほのかと遊んでくれるの?」  もじもじと両手を組んで、困り顔。  変な想像でもしたのか、段々と泣きそうになってくる佐藤の頭を引き寄せて、そっと撫でてやる。それだけで心から嬉しそうに笑う。コスパのいいやつである。  このまま放課後まで誤魔化せないだろうか。とっくに出ている答えを心の中でもてあそびながら、私は彼女の黒髪を撫でつづけた。

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そうゆうこと

 まず、鱗を剥ぐ。  思いつく限りの調味料とかを刷り込んで一晩寝かせる。  でっかい鉄板でじっくりと焼き上げる。  お好みで追い塩コショウして完成! Let's eat!!  のっぺりとした青空に、煙草の煙がぼやぼや登っていく。  肺に煙を残したまま鉄板から肉を頬張る。こぼれた汁も指でぬぐって舐めとる。ひと噛みでしあわせが口内に広がる。  噛むごとに甘みのある脂があふれる。濃厚な風味。塩とハーブがよく効いているから、ぎりぎりの所でくどくならない。煙草うめえ。  はふ。冷たい空気。かおる大地のにおい。  やっぱり肉と煙草はちゃんと合うのだ。先輩は最期まで認めなかったが。  「ただでさえ狩龍人は20年もたないって言うのに、ガキのうちからそんな事でどうすんのさ。ぜったい私のほうが長生きしちゃうからね」  よく細い腕を振り回して、偉そうに説教を垂れていた。  龍狩りは番号で管理されている。犯罪者の子供として生まれてすぐに、文字通り烙印を押される。  先輩の手の甲にも数字が刻まれていた。仲間内では唯一、頭の字が1だというのを自慢にしていた。それが親が犯した犯罪の等級だとみな分かっていたが、誰もなにも言わなかった。  あんなのでも、笑顔は可愛いと言えないこともない。だから誕生日に花でも渡してやろうと思って、こっそり小銭を集めていた。  清潔な生花が手に入るだけの金で、ひとつグレードの高い煙草を買った。  ざまー見ろ。  「ほんっと、あんたはクソガキだねえ」  「いや、嘘吐きに言われたかねえわ」  ばーーーか。

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目が覚めたら前世の記憶が蘇っていた件について

 はい、ボンジュール皆様がた。  あたくしバリバリの貴族ですの。  貴族ですから当然、下々の者たちはこき使って良いんですわ。  好きなものをいくらでも着ていいし、いくらでも食べていい。だって悪徳領主のお父様のお陰で、お金がじゃぶじゃぶ入ってきますのよ。  羨ましい? ええ、ええ、そうでしょうとも!  可哀想なあなたがた庶民は、せいぜいアツアツのジンギスカンをキンキンのビールで流し込みつつ大輪の花火でもご覧になっていれば宜しくてよ!!  そう、知ってますのよ。ジンギスカンもビールも。  今朝、階段から落ちて昏倒して起きたらなんか、前世の記憶が戻ってきてましたの。  それによると、あたくし日本で会社員やってたみたいですわね。  冴えない三十路の眼鏡女。日々の楽しみといったら、肉と酒と乙ゲーだけ。  で、その乙ゲーの悪役令嬢というのが、あたくし。 「はあああああ〜〜〜!?」って叫びましたわよ!!  そう叫んでる間に何かがあたくしの頭を侵食してね、あの眼鏡女の人格に置き換わっていくんですの。  会社上司労働給料時間出勤退勤残業電車掃除洗濯料理報告連絡相談義務権利常識普通婚期実力搾取情勢不況借金…………  嫌ですわ、弱冠16歳にして中身36歳の社畜になるなんて死んでも御免ですわあああ!!  ……って混乱して、気付いたらもう一度階段を転げ落ちてましたわ。  そしてたった今目覚めたら、侵食はすっかり収まってましたの。  アレですわね、バグ技みたいなもんかしら。中身入れ替わり系も大体2回ぶつかったら元に戻りますものね。は? 「お、お嬢さま……」 「は?」 「ひぃっ! ごごご加減はいかがでしょうか!?」  気付いたら枕元に執事が立ってましたわ。  彼はアンリ・ユーレイ。  幽霊みたいに、いつも気付けばそこにいる、不気味な奴。今思えば安直な名前ですわ。  いつもなら「あなたのせいで一落千丈ですわ、そんなことも分かりませんの? 相変わらず馬鹿ね」とかなんとか言うとこですけど。  さすがに前世の記憶を取り戻した今となっては、死刑を避けるため別の道を取らざるを得ませんわ……。 「あなたのせいで一落千丈ですわ、そんなことも分かりませんの? 相変わらず馬鹿ね」  ……どォ〜でもいいですわあああそんなことはァ!!  気弱×腹黒キャラのアンリが内心舌打ちし彼による毒殺エンドが近付いたのが分かりましたけれどそれもどうでもいいですわ!!  前世の記憶がなんぼのもんじゃい! あたくしはあたくし!  行き着く先が地獄なら!!  太く短く!!!  生きてやりますわ〜〜〜〜〜!!!!!

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目が覚めたら前世の記憶が蘇っていた件について