涼夏清華
2 件の小説桜の木の下で君と 第2話
「ああそうだ... 綾瀬君...だよね?」 目の前の少女は僕にそう言った。どうして僕に話しかけたのか? 高々何週間か同じ空間にいるだけなのに 「そうですね」 僕は言葉を返した。一般的な男子高校生なら狼狽えるか下心を丸出しにするかの二択だろう。 だが僕は人間に興味は無い。 だが... 彼女の「どこかで見たことがある」という言葉に本能的に反応してしまう。 下心ではなく、生理的に。 もう一度彼女の風貌を見る。 肩より少し上のダークグレーの髪はうねりを知らずまっすぐ伸びている。 同じ色の瞳は好奇心に溢れている。初雪を思わせるほど白い肌。 誰もが見とれるほどの美少女だということは容易に想像がついた。 風貌を確認してきたところ、彼女には企みも陰謀も見当たらない。 よし、彼女は危険では無いな。 「で、僕に一体なんの用なんです?」 「報道部でクラスの特集記事を書くことになったんだけど、それが、男子のを書くことになって...」 「はあ」 話を纏めると、報道部で男子の記事を書くことになって、その記事の対象が僕だという話だ。 一体何故僕なのか? 彼女ならいい相手がいるはずだ。 こんな無愛想な僕をインタビューして記事をまとめるなんて、よっぽどの物好きなんだな。 僕はため息をつく。 「第一なんで僕なんですか? 白波瀬さんなら男子にモテますし、もっといい相手いますよね?」 僕はそう問いかける。 「あ、あの... 別に綾瀬君に嫌な思いをさせるつもりは全然ないんだけど、他の男子っていかにも、こう... 子供です!みたいなイメージがあって、私の書きたい記事に全然ならないの」 なるほど。単に自分のイメージ通りの記事を書くために僕に協力して欲しいのか。 「そういうことなら仕方ありませんね。僕は白波瀬さんに協力しますよ。」 「ほんとに!? ありがとう!」 彼女はそうお礼を言って微笑んだ。 インタビューは苦手だが、誰かの役に立ってお礼を言われることになればまあ悪い気はしない。 学校に着いて教室に入る。僕はいつものように読みかけの小説と最初の授業に必要なものをスクールバックから取りだし、席に座る。 周りを見てみれば、生産性に欠けている会話に花を咲かせ場を繋いでいるものが大多数を占めている。 「おはよう」友人から声をかけられた。 彼の名前は青城稜。中学時代から交流を深めている僕の唯一の友人だ。 彼は誰にでも愛想を振りまく。最初はいつも笑顔で点数でも稼いでるのかと思ったが、年月を過ごしていくうちにただ本当に優しいだけなのだと気づき、高校でも交流を深めている。 「朝から白波瀬さんと登校なんて羨ましー 湊くんは前世でどんな徳を積んできたのかなー?」 「僕は徳なんて積んでない。 稜の方が徳を積んでる。」 「白波瀬さんから何頼まれたの?」 「校内のクラス記事の特集で、僕をインタビューしたいんだと」 「へえー、無愛想で成績学校トップの湊くんが?」 「うるさい」 僕は肩を落とし、ため息をつく。流石の稜も怒りを感じ取ったのかこれ以上の追随はやめてくれた。 稜はデリカシーがないように思えるが、線引きが上手い。 だから僕は安心して彼に本音を話せる。 チャイムが鳴って教師が教室に入る。 少しの業務連絡で朝のホームルームが終わり授業に入る。 僕が通う玲瓏高校は都内で1番の進学校、それ故に授業の進み具合はめちゃくちゃ早い。秋には教科書1冊終わる。 放課後を告げるチャイムがなり、生徒たちはそれぞれ教室を出て目的の場所へ向かう。 僕の席に彼女が来る。 僕は彼女と教室を出て、彼女の部室へ向かう。
君と桜の木の下で 第1話
ここは夢なのだろうか? 私はそう自分に問いかける 目の前に広がるのは自室では無い かといって外でもない 何も無いのだ。 誰かの声が聞こえる 私の名を呼ぶ声が 「~!」 音にはなっている だが言語としては認識できない 「ピーピー」無機質な電子音が聞こえる 「はっ」僕 綾瀬湊は布団を剥がし、身を起こした 目の前に広がるのはダークグレーの天井 同系色の時計 木製のクローゼット... とどれも男子高校生の部屋ではなく、インテリサラリーマンの部屋と言った方がしっくりくるような家具が並んでいた 洗面所で身嗜みを整える 鏡には無愛想な男子...と男の中間層な少年が映っていた 短髪と長髪の中間の黒髪 最近流行りのアシメ...とまではいかないが髪を左右に分ける 顔を泡で洗ってコンタクトをつける 本来なら洗顔は水で済ませてしまいたいが、僕の両親は2人とも国民的化粧品メーカー美容部員 そのせいで両親とも美容関係にはうるさかった 洗顔のお湯の温度 食事 睡眠時間 季節ごとに使うスキンケア用品... とにかくあげればキリがない おかげで容姿は優れ、中学生時代から高校2年の今までで女子には困らなかった… いや、正確には周りをうろちょろする女子が多すぎてうんざりしたくらいだ 無愛想な男といてもつまらないだけだろう… その予感は的中し、いつも一日で女の子から振られるのだ。 「いい加減ほうっといてくれないかな…」ため息とともに洗面所を後にする キッチンで朝食の用意をする。冷蔵庫から作り置きの食材を取り出し皿に盛り付け、電子レンジに入れる 食材は祖父母が送っているオーガニック食材だ ありがたいが、少し迷惑だ スーパーに売っているようなものでは無いので味の好みが別れる 別に嫌いでは無いのだが、毎日となるとさすがに飽きる 黒いスマホを見ながら朝食を食べる 一人暮らしのため家具は自分で買わなければいけない 両親からはテレビを買えと言われたが あえて買わなかった 理由は単純 同じような情報しか得られないからだ。 スピーカーからクラシックを流し、味気のない料理を胃に流し込む 最近の音楽は聞かない 歌詞がいいだけで中身のないものが多いから 自室で制服に着替える 黒いワイシャツにネイビーのネクタイ ダークグレーのパンツと同色のブレザー ブラウンの靴下を履き、スクールバックを肩にかけ玄関で靴を履き家を出る バス停に着いた瞬間にバスが着く いつもの光景だ 機械にカードをかざし、最後列の席に座る 周りを見れば中身のない会話に花を咲かせている者 騒いでいる子供など... ここはいつから動物園になったんだ? そんな疑問を流すべくノイズキャンセリングイヤホンをしいつも聞いてるクラッシックを聞き流す バスが止まる 客が入れ替わる 1人の少女が僕の目の前に来る 「どうぞ」そう言って僕は彼女を隣に座るよう促した 「あ、ありがとうございます」少女はお礼を言って僕の隣に座った 少女の風貌を見る。白いブラウスに灰色のカーディガン どこぞの馬鹿な女子とは違う膝丈の黒のチェック柄スカートにタイツ 黒のローファー 別に下心がある訳では無いが、ある種の癖なのだ 初対面の人と会うと僕は必ず相手の風貌を見る その次に音声 態度 そして危険ではないと判断した者のみと交流を深める 少女の顔に疑問の表情が浮かぶ 当然だ 会ってまもない男が自分のことをジロジロ見るのだから 「すみません」僕は謝る 人を不快にさせてしまったら謝るのが道理だ 僕は単独を求めているが倫理や一般常識は人並みに持っている 「いえ、その... どこかで見たことあるような気がして」 今度は僕が疑問を持つ番だ 僕を見た事がある...となると家が同じか近所か それとも学校が同じか古い友人であるか 少女と家族では無い となると古い友人 こんな僕と友好を深めたいものはいない いたとしてもかなりの物好きだ 学校が同じ... そういえば僕は彼女をよく見る 手を組んで顎に当てて考え込む 名前を思い出した 彼女の名前は白波瀬 遥奈 彼女はいつも楽しそうに、朗らかに友人たちと笑っていた まるで花の蕾がゆっくりと開いていくように 「それもそうだと思いますよ 僕達、同じクラスでしょう?」 「ああそうだ... 綾瀬君...だよね?」