だkedサブ

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だkedサブ

訳あってメイン垢使えなくなったのでこっちでお願いします

魔女の鬱蝉

翌日、烏羽は学校で昼食をとっていると、スマホをボーッと眺めていた。 あれから彼女からの連絡は無かった。 思えば当然の事である。 手伝いといっても出来ることの方が少ないはずだし、そもそも毎日のように呼び出す理由も無いだろう。 だけど、密かに彼女からの連絡を期待してしまっている。 ただ何も書かれていないメッセージを、烏羽はずっと見つめ続けていた。 すると──。 「うぇーい! いっつきー!」 突如、有村の声が聞こえ、反射的にスマホをしまった。 有村は彼の顔を見てニカッと笑う。 「どーしたどーした? 驚いた顔してさ! さてはやらしいことでも考えてたのかー?」 「そ、そんなの考えてないよ!」 「ふぅん? ま、樹は確かにそんなえっちぃなことを考えたりしないもんねぇ」 「う、うん」 「ところで樹くーん? 今日の放課後お暇でありますか?」 「え? う、うん。暇だけど」 有村はそれを聞いてパアッと顔を輝かせる。 「なら。放課後私とデートしていただけませんか? 例のイチゴパフェのカフェに」 ニヤニヤしながらも、どこか怖がっていそうな表情だった。 だけど、烏羽には彼女が何に怖がっているのかが分からなかった。 彼は頷く。 「……いいよ。一緒に行こっか」 「やったぁ! じゃあ、放課後を楽しみにしているぜ!」 ピースサインをしながら彼女は去っていった。 放課後。 HRが終わり、生徒が次々と帰って行く中。 有村が烏羽の机に歩み寄る。 「それじゃあ。レッツラゴーといこうじゃありませんか! 樹!」 「うん。行こっか」 そう言って二人は歩き始める。 樹は既に真白と共にその店を訪れたことがある。 だから率先して道案内をおこなった。 「やけにスラスラと道案内するねぇ。さては……私とデートした過ぎて張り切ってたなー?」 「え……いや。違うけど」 「ふーん? なら、他の子とデートするための視察かぁ?」 「……ち、違うけど」 図星だった。 デートというより、他の子と出かけた場所ではあるからだ。 「……まいっか。それよりデートを楽しも!」 そう言って有村は「わーい」と声を上げた。 真白と有村──二人はそれぞれ違った人間だ。 二人とも楽しみにしてくれていたんだ。 だから楽しませてあげようと、烏羽は思いながら、歩き始めた。 続く

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魔女の鬱蝉

第七話 烏羽と真白は隣合って暗くなった街を歩いている。 「えっと……まずは"魔女"について説明しないとね」 烏羽は思わず息を飲む。 何故だか彼は、この話を聞くと"二度と戻れなくなる"気がしたからだ。 そんな事は露知らず、真白は話を始めた。 「私達"魔女"は古の時代から存在する特別な血筋の人間。魔力と魔法を生まれつき持っていて、歴代の全員が……まぁ当たり前だけど女の子だったり女性だっだり老婆だったりだね」 「……まぁ。それは俺も何となく知ってる……まぁ正確にはおとぎ話とか伝承で知ってるだけだけど……」 「うん。今の人達からの認識はそんなもんだよね。だけど、昔は魔女達と一般人は密接な関わりを持っていた。良くも悪くも、魔女の力は偉大だったからね」 「そ、そうなんだ……それは意外かも知れない」 魔女というものは、人々に知られないようにする為に隠れ住んでいるイメージのものもある。 知っているのもごく一部といった印象だ。 「まぁ。それはあくまでも"今"の話。魔女の持つ魔力は誰もが欲しがるくらいの代物だし、魔法は私みたいにそこまで目立たないものもあれば、概念的で派手派手なものまで様々なんだよ」 「……奈々の魔法も十分目立つ気がするけど」 「一般人から見たらね。歴代とか他の四人に比べたらこんなの、翼竜とヒヨコくらい違うわよ」 本当に当たり前の事を言うような態度の真白に、烏羽はゾッとする。 彼女の魔法もそうだったが、これ以上に凄いと言われている四人と、彼女は今敵対していると考えると、思わず体が震える。 「さて。では何故。昔は助けとなっていた魔女の力が……今ではあまり知られていない……と言うよりは魔女達が人々から力を隠し始めたのか……ま、勿体ぶってるけどあるあるな話だね。なんだと思う?」 「えっと……悪い人間に悪用されるとか?」 「まぁそれもそうだけど……他にも理由はあるよ」 「ほ、他の理由って……?」 「…………」 彼女は急に黙り込んでしまう。 あまり触れられない話題に触れてしまったのであろうと、彼の頭は察知した。 「あぁその……無理には聞かないから」 「……ごめんね。気を遣わせちゃって」 「いや。全然……その……他の四人以外にも、魔女っていたりするの?」 烏羽が尋ねると、真白は首を横に振る。 「それも不思議なことなんだけど……魔女って言うのは同じ世界に五人以上は存在出来ないらしいの。まぁ伝承では五人以上存在しなかったってだけだから、たまたまなのかも知れないけど」 「へ、へぇ」 「私達魔女でも。魔女の全てを知ってる訳では無い。分かってるのは自分の知る限りの力と、私達の見てきた事だけ。何せ歴代の人の情報も隠されてたり消されたりしてるから曖昧なのよ……という説明で大丈夫?」 「……うん。魔女のことは十分分かったよ。ありがとう。それで……なんで奈々は、他の子達を探しているの?」 烏羽が尋ねる。 すると真白は毛先をぐるぐる弄りながらそっぽを向いた。 その目は非常に強い悲しみと決意に満ちている。 「──皆を……救いたいから」 「救う……? どういう事?」 「……魔女の皆は今の自分達を受け入れてるのかもしれないけど……その奥底には悲しみや闇を抱えてるの……だから……私が……」 泣きそうになるのを堪えるように捻り出した声で、彼女は言う。 烏羽には真白のその独白の意味が分からなかったが、辛そうなことははっきりと分かった。 「……俺に出来ることは何でも言ってね」 「……ありがとう。樹だけだからね。こんなに魔女の事をペラペラ話したのは」 「う、うん……聞いたからには……頑張る!」 小さな子供のように両手をグッと握る。 真白はそれを見てクスリと笑うと、空を見上げた。 もう月が登り、完全に世界が眠りについていた。 「今日はもうここで解散しようか。明日は……その」 「ん? どうしたの?」 「…………えっと。毎回あのメモ渡されてもめんどくさいよねって思ったから……その……」 何やらとても何かを言いたそうな目で烏羽の事を見ていた。 すると彼女はポケットから板の様な物を──。 「……スマホ?」 「う、うん……れ、れれ連絡先交換して欲しいなって……」 「え……別に構わないけど……なんでそんなにオロオロして?」 「だ、だって……さ? お、男の子と、連絡先交換……だなんて……」 「…………」 お互いに言葉に困ってしまった。 しばらく黙り込んでいると、烏羽が咳払いしながらスマホを取り出す。 「……良いよ。俺は別に、気にしないから」 「ほんと? じゃ、じゃあ……」 二人はぎこちない動作で連絡先を交換した。 互いのアカウントが登録されると彼女はスマホで口元を隠した。 「じゃ、じゃあ。明日の事はこれで連絡するから…………またね」 「うん。おやすみ」 そう言うと真白は、夜の街の闇へと姿を消した。 続く

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魔女の鬱蝉

第六話 烏羽と真白は揃って店に入る。 向かい合って席に座って、お互い視線を逸らしている。 会話をしようにも何も話題が浮かばない。 思えばお互いにまだ一回しか会ったことが無く、何も知らない。 学校で初めて同じクラスになった人と対面するのと同じような状況だが、今回は事情が違った。 烏羽の目の前にいるのは"普通の人間"では無い。 だから、彼にはどうすれば良いのか分からない。 「「……えっと」」 話し出そうとしたタイミングが重なり、視線を再び逸らす。 だが、烏羽は会話を投げる。 「……えっと。き、今日はどんな……あれで?」 「あー……うん。手伝ってくれるって言ってくれたから……色々説明しないとなって」 「あ。そうなんだ。てっきり怒られるかなって思ってた」 「怒らないよ。人の善意を裏切れないもん」 彼女はコホンと咳払いをする。 「まず。私達魔女は全員で五人いる。私。美玖《みく》。瀬玲奈《せれな》。香織《かおる》。撫月《なづき》の四人よ」 「……それぞれ。どんな人達なんですか?」 「……会う時に追々説明するわ。でも……皆いい子なのよ」 切ない顔をする真白に、烏羽は言葉を詰まらせる。 彼女はハッと口を手のひらで軽く覆う。 「……ごめん。その……わざわざ来てもらってこんな事……」 「ううん。大丈夫です。よっぽど……辛かったんだと思うので……」 「え……?」 「あ……その。何があったかも分からないのにおこがましいとは思うんだけど……余程辛いことがあったのかなって……」 「……ありがとう。樹は優しいんだね」 ニッコリと笑いかける。 その顔を見た烏羽は頬を赤らめる。 「まぁ。私達は魔女である以上。普通の人以上に辛いことは多い運命だから」 「……そうなのか……この前俺を襲ったのは誰なの?」 「あれは瀬玲奈だと思う。瀬玲奈の力は魔女の中でもかなり強力だったから……なるべく人を巻き込みたくはないんだよね」 「そ、そんなに凄いのか……奈々はどれくらいのレベルなの?」 「上から数えて三番目くらいだから。本当に真ん中くらいかな。だけど、上の二人が余りにも戦いの面では強すぎるから。あんまり宛にはしないで」 「となると……話し合いなのかな」 「上手くいく可能性は皆無だけど、それしかないね」 彼女はため息をつく。 あまりにも自身の無さそうな真白の姿を見て、彼は何か気の利いた言葉をかけられないか考える。 だがその直後、注文していたパフェを持った若い女性店員が席にやってきた。 満面の笑みで烏羽達に「お待たせ致しました!」と言う。 パフェ特有の独特な形をした入れ物に、ホイップクリームがたっぷり詰まっており、その上には中々の数のいちごと、シロップがかけられている。 烏羽もほとんど勢い任せで購入した為、少々ボリュームに驚いている。 彼はふと、真白の方を見る。 「……ふわぁ……!」 両目をキラキラと輝かせて、嬉々とした声を上げていた。 それを見た烏羽は目を丸くし、真白はハッと口を抑える。 そしてみるみる顔が赤くなっていく。 「…………何?」 「いや……パフェそんなに好きなの?」 「……うん。甘いのが好きで」 恥ずかしそうに頷く。 それを見て烏羽も何だか恥ずかしい気分になる。 「……食べようか」 「……うん」 二人は揃っていちごパフェを口に運ぶ。 すると真白は「んー」と声を上げて頬に手を当てる。 「おいひい……」 完全に蕩けきった顔で言う彼女に、烏羽は思わず笑ってしまう。 とても"魔女"とは思えない、普通の女の子にも思えた。 「あ……ご、ごめん。魔女の事説明しないと……」 「あ、いや……パフェ食べてからで大丈夫だよ。その方が良いでしょ?」 「……う、うん。ありがとう」 そう言うと彼女はパフェを再び食べ始めた。 二分後──。 二人はパフェを食べ終えて店を後にした。 「その……奢って貰わなくても良かったんだけど」 「良いのよ。こう見えて私お金持ってるし、貴方を巻き込んだお詫びみたいなものよ」 「そ、それなら……ご馳走様でした」 烏羽は真白にお礼を言うと彼女は「お粗末様でした」と返す。 彼女は日頃一日の終わりに甘いものを食べるらしい。 普通の女の子らしい習慣を持っており、彼は少し警戒しすぎていたことを心の中で詫びた。 真白は"魔女"とは言っても、普通の人間と遜色は無いのだろう。 「じゃあ。歩きながら話そっか……私達──"魔女"のことを」 続く

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魔女の鬱蝉

第五話 翌日の放課後。 烏羽は教室で真白のくれたメモ用紙を見つめていた。 『コノ街ノ娘子ノ好ミシ場ニテ待ツ』 「この街の……むすめこ……? 女の子……で良いのかな? 女の子の好きな場所……?」 烏羽は腕を組んでうんうん唸る。 彼には恋人は勿論、女子の友達も少ない。 だから女子の好きなものには疎い。 どうしようかと悩んでいると、すぐ近くでスキップするような足音が聞こえた。 咄嗟にメモ用紙をポケットにしまう。 そこにいたのは──。 「やっほー樹! 放課後にもしかして自主学習?」 ウェーブのかかった髪を横に結んだ女の子。 いわゆるルーズサイドテールである。 腰にセーターを結びつけており、ニコニコ笑って彼を見つめている。 「あぁ。有村さん……!」 「有村さんだよー。んで、何してたの?」 有村結月《ありむらゆずき》。 烏羽のクラスメイトで人気者の女の子。 オシャレや流行に詳しくいつも明るいギャル。 「えっと……その。考え事かな?」 「ふーん? 悩みとかあれば聞くからねぇー」 「ありがとう有村さん。いつも助かるよ」 「えへへ。この有村さんに任せなさいな」 満面の笑みを浮かべる彼女に、烏羽も笑顔を返す。 そしてハッと思い出したかのように彼女に尋ねた。 「有村さん! その……女の子が好きそうな場所ってどこだと思う?」 「うーん? さては……樹。女が出来たのかあ?」 「ち、違うよ! た、ただ気になっただけ!」 「ふーん? ま、樹は私一筋だもんねー」 「ええっ!? そ、それもちょっと違うような……」 「あっははっ。ジョーダンだよ! うーんそうだなぁ。女の子が好きそう……ぶっちゃけどこでも嬉しい気もするけど……カフェとかかなぁ?」 「カフェ……」 烏羽は下唇を噛んだ。 街──賑わっているのが駅前なのでそう過程するが、そこら辺にはカフェなんてかなりの数がある。 これだけじゃ割り出せない。 「あ、そいや。最近駅前のいちごパフェの人気な店でこんなパフェが売られてるらしいよ!」 有村は烏羽にスマホ画面を見せる。 画面にはいちごが沢山乗っているとても見栄えの良いパフェが映っていた。 値段と共に記されたキャッチコピーは『魔法の様な味わいのいちごパフェをご堪能あれ!』との事。 「……魔法……まさか……?」 余りにも安直だが、彼はある可能性が頭を過ぎった。 このパフェのことかもしれないと。 「……まぁダメで元々か……よし。行ってみるか」 「ん? どしたの? ここ行きたいの?」 「うん。それってどの店?」 「駅前にある……っていうか一緒に行こっか?」 「あー……ごめん。ちょっとそれは……」 なんて言い訳すれば良いのか分からなかった。 真白のことはなるべく一般人には知られない方が良い。 だけど、彼女の誘いをなんと言って断れば良いのかが、彼には分からなかった。 だが烏羽の葛藤を察したのか、有村はニコリと笑った。 「まっ。私とのデートの為の下見に行きたいって事にしようか」 「へ……あ、うん! ありがとう!」 「ただぁし。今度絶対この有村さんを連れて行くこと!」 「うん! 絶対ね!」 「よろしい……じゃまたねー」 彼女に別れを言うと教室を飛び出して、調べた店に向けて歩き出した。 駅前の街は夕焼けに照らされ、人混みも多くなってきた。 放課後の学生や、帰りのサラリーマンが行き交っている。 そんな中、余りにも女性人口が多い店が見えた。 調べた店通りの場所だ。 だが──。 「……ここに入るのか」 真白がいてもいなくても、この店に入ったら最後、注文して食べ終わるまで居なくてはならない。 いなかった場合は彼は羞恥心で燃え尽きてしまう可能性が高い。 烏羽はこれ以上に無い程の葛藤をしている。 すると──。 「──樹?」 「へっ!?」 背後から声が聞こえ慌てて振り返る。 そこには昨日と変わらない服装の真白が立っていた。 驚いた表情で彼を見つめている。 「……よく分かったね。場所」 「うん。調べてみてもしかしたらって……ていうか来させる気あったのあれ……?」 「えっと……ごめん。さすがにヒント無さすぎた」 「ううん! 大丈夫です! だけど……毎回あの言い回しなのは……?」 「……ひ、秘匿の為なのと……この方が魔女っぽいかなって」 真白は頬を少し赤くしながら言った。 そんな彼女を見て、烏羽は微笑んだ。 「ち、ちなみにここを選んだのは?」 「…………食べてみたかっただけ」 「え……?」 「「…………」」 二人揃って黙り込んでしまう。 だが数秒後。 「「……プッ」」 二人揃って吹き出して笑ってしまう。 その景色はまるで、年頃の高校生男女の様だった。 だがその裏には──深く暗い闇がある事を、誰も知らない。 続く

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魔女の鬱蝉

第四話 烏羽は真白の方を見て挨拶を返す。 彼女はバリケードの向こうの茜色の景色を見つめ、説明を再開した。 「まず。私は何度も言うけど五人の魔女の一人で、ちゃんと魔法的なものも使えるよ」 「ほ、ホントですか!? ど、どういった……?」 「そうだね……ちょっとここ見ててね」 真白は左腕のパーカーの袖をあげる。 色白の細い腕が露になり、右手の平で左手の甲に触れる。 そして、スゥーと日焼け止めを塗る様な仕草で手の平を滑らせる。 すると白く美しかった腕が、白さとは程遠いドス黒い色となってしまった。 まるで色を塗り替えられたかのようだった。 烏羽はそれを見て驚いた。 「……これって……学校のやつに似てる……」 「そう。学校の壁や天井の色が変わってたのも私の力の影響よ。あの子を捕まえる為の撹乱で使ってたんだけど……ごめんなさい。貴方がいると思わなくて」 シュンとした表情で言った。 彼女にとって烏羽が学校にいたことは想定外のことだったらしい。 「ごめんなさい……課題を教室に忘れてしまって」 「……まぁあるあるよ。気にしないで」 真白が彼を励ます。 「とまぁ。私の自己紹介はこんなもんにしとこうかな。それで。他に気になることは?」 「……な、なんで俺の学校にいたの?」 「……あのローブの子のことを覚えてる?」 「あー、うん。うろ覚えだけど」 「その子も私と同じ魔女なの。私は、残りの四人の魔女を探してるの」 真白はそう言った。 烏羽は目を丸くする。 「……こんな力を持った人があと四人もいるんですね……ていうかなんで俺は襲われたんですか!?」 「……魔女っていうのは、なるべく一般人に能力や正体を見られないようにするという潜在意識があるの。多分それによる過剰防衛かな」 「過剰防衛かな。じゃなくて! 俺それで死にかけたんですよね!?」 「……うん。ごめんなさい」 切ない表情で頷いた。 それを見た烏羽も、何も言えない気分になる。 「えっと……そ、そういえば! 他の魔女がどこにいるーとか分かるんですか?」 「……なんとなく予想はついてるけど。日本中に散らばってる可能性も高い」 「え、じゃあつまり……」 「ま、私は本来。日本全国を巡らなければ行けない可能性もあるけど。それは無いかな」 「ど、どうして?」 「元々……私達五人は一緒にいた友達みたいなものだったの。だけど……私のせいでバラバラになっちゃったから。きっと──」 彼女は胸に手を当てて、少し掠れた声で言う。 「私を……殺しに来る」 「っ……!?」 辛そうな顔をする彼女に、烏羽は心が苦しくなる。 すると彼は息を深く吸い込んで言う。 「……ねぇ。何か、俺に手伝えることは無いかな?」 「え?」 「勿論。俺は魔女のことは分からないし……危険な事はなんとなくだけど分かる。ただ……命を助けて貰ったのに。何も出来ないのが悔しいというか……」 彼は早口になる程必死に訴える。 真白はそれを聞くと目を丸くして──。 手で口を隠して短く笑う。 「ありがとう。ただ。一つだけ言わせて」 真白は途端に真剣な顔になり、彼に告げる。 「私達魔女は。貴方達の様な一般人とは何もかも違う。言わば別の生き物と思った方が良い。つまり、貴方は必然的に、私と関わるのなら危ない目に遭うのは言うまでも無いの。それでも良いの?」 「……正直に言うなら怖いです。だけど、貰った恩は返さないと」 「…………そう」 彼女は頷くとニコリと笑いかけてくれる。 そして烏羽に右手を差し出す。 「なら。お言葉に甘えるね。よろしく樹」 握手の意味なのだと彼は理解し、手を握り返した。 暖かく、柔らかい手触り。 烏羽はそれと同時に決意した。 彼女の役に立とうと。 真白は暗くなり始めた空を見上げる。 「今日はもう遅いし。家に帰って休んで」 「う、うん! 次はいつに……?」 「あ、そうだったね。じゃあこれ」 真白は彼の両手に何かを握らせる。 手のひらを開くと、小さなメモ用紙が握られていた。 『コノ街ノ娘子ノ好ミシ場ニテ待ツ』 「……えっと。これの意味……って……?」 烏羽は訳が分からずに真白に尋ねようと前を向く。 だがそこに彼女の姿は無く、ただ藍くなり始めた景色が広がっていた。 続く

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魔女の鬱蝉

第三話 女の子は烏羽の方を見て安心した様に言う。 彼は全く状況を理解出来ていなかった。 面識の無い人に唐突に「良かった」と言われることに、違和感しか覚えない。 「……えっと」 返答に困っていると、彼女はその胸中を察したのか、口を手で軽く覆う。 そして咳払いを挟む。 「ごめんね。貴方からすれば初対面だもんね。なら──」 彼女は自分の胸元に手を置く。 「私の名前は、真白奈々《ましろなな》。現代に生きる──五人の"魔女"の一人」 「……ま?」 思わずかなり間の抜けた声が出てしまう。 "魔女"という言葉は烏羽には馴染みが無い訳では無い。 アニメや漫画といった創作物で、沢山見てきている。 だけど、現実でこうも高らかに言っている人は彼は初めて見た。 「……魔女って……あの魔女ですか?」 「多分その魔女だと思うけど。どういうの?」 「ほらその……ちちんぷいぷいのぷいみたいな」 「……ふふっ。まぁでもそんな感じよ」 あまりにも幼稚な知識に真白は笑ってしまう。 それを聞いた上でも、烏羽はまだ納得出来ていない。 「えっと……その。え、えぇ? 魔女っていきなり言われても……ていうかそもそも、ここに俺を呼び出したのは貴方なんですか?」 「ちょ、ちょっと。あまり一遍に質問しないでよ。聖徳太子じゃないんだから」 「あ……その。ごめんなさい」 「まぁ、大丈夫。一つずつ答えるよ」 彼女は微笑んだ。 そして再び咳払いをする。 「改めて。私は真白奈々。現代に生きる五人の"魔女"の一人。それで……えっと貴方を呼び出したのも私で合ってる」 「……そ、そうなんだ……じゃあ。このメモって?」 烏羽はポケットからメモを取り出した。 それを見た真白はうんうんと頷く。 「そう。貴方の……安否確認がしたかったというか」 「安否確認?」 「うん。貴方を……巻き込んじゃったし。あれ下手したら死んじゃってたし」 「え……?」 唐突な発言に、烏羽は顔を青ざめる。 それに真白は「あ」と口を覆う。 「……し、死んじゃう可能性が……無きにしも非ずんばって…………感じ」 「む、無理がありませんか?」 「そ、その……ごめん」 「えっと……でも。てことは助けてくれたんですよね? ありがとうございます」 「え」 真白は彼からのお礼の言葉を聞くと、目を丸くして驚いた。 しばらく彼女はそのまま固まってしまった。 すると、自分の白い髪の先を弄りながら視線を逸らした。 「……どういたしまして…………って! そうじゃない!」 突然のノリツッコミに、烏羽は思わず笑いそうになってしまう。 「ていうか。貴方……怖がらないの? 私、魔女だのなんだの言ってるのに」 「……なんだか。何となく……良い人なんだなって思って……あと、あんまり魔女特有の怖さは無いというか……あ、そうですよ! 魔女って言うんなら、魔法とか使えるんですか!?」 グイッと食ってかかる彼に、真白は体をビクつかせる。 「な、なんでちょっとワクワクしてるの?」 「あ、いやその……俺、魔法とか超能力とか……みたいなのが好きで。いい歳しといて何言ってんだって思うけど」 「……ふーん。まぁ。ご期待に添えれるか分からないけどね。あ、そう言えば。まだ貴方の名前を聞いてないよね? 聞いても良い?」 「あ、うん。えっと……俺は烏羽樹です」 「樹……ね。よろしく」 彼女は目を閉じて笑い、右手を振った。 続く

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魔女の鬱蝉

魔女の鬱蝉 第二話 目が覚めた時、天井は白かった。 少しだけ見覚えがあった天井だ。 「……保健……室?」 彼は保健室のベッドの上で目が覚めた。 どれ程の時間眠っていたか分からないが、少なくとも"さっき"とは違い見慣れた景色だ。 すると保健室の若い女性の先生が目を丸くする。 「君っ!? 目が覚めたの!? 良かったぁ」 「うぇ? せ、先生? 俺はどんだけ寝てたんですか?」 「二時間近くよ。もー心配しちゃったの! 階段近くで倒れてたって言ってたから、落っこちて頭打ったのかと……」 先生は理解しきれずに困惑していた。 烏羽は頭や耳をペタペタ触ってみる。 特に外部に異常は無さそうだ、頭が特別痛い訳でもない。 二時間前に受けたあの激痛も、不思議と消えている。 「今から担任の先生呼ぶから待っててね。特に体に問題は無さそう?」 「は、はい。大丈夫です……よ?」 彼は先生に返答して、違和感に気づいた。 右の手のひらに何かが握られている。 保健室の先生が受話器を握り視線が外れた。 その隙に手のひらを見る。 手の中には小さな紙が握られていた。 そこには、丸っこい文字でこう書かれていた。 『明日ノ夕暮。学舎ノ頂ニテ待ツ』 「……なんだろうこのメモ」 烏羽は頭が「?」で埋め尽くされていた。 誰かに恨みを買ったりといったことが、全く身に覚えが無い。 「明日の夕暮……放課後かな。学舎の頂……屋上?」 更に頭が困惑する。 屋上は普段は鍵がかけられている。 だから誰かが入れる訳が無い。 そう思いながら、彼はメモをポケットにそっとしまい込んだ。 翌日。 あの後、特に体に異常は見られず、体調に再び違和感を覚えたら病院に行くように言われた。 一日経過した今でも、烏羽は正常に活動出来ていた。 今でも昨日の出来事は夢なのでは無いかと思ってしまう。 「……何がなんなんだか」 烏羽がため息混じりに言う。 そして、昨日手に握られていたメモを手に取る。 『明日ノ夕暮。学舎ノ頂ニテ待ツ』 未だ意図が掴めない。 直感だが、このメモの送り主は昨日の"あの出来事"に関係した人なのだと思っている。 先生の呼び出しなら、こんな回りくどくも無いし、普通に呼び出すから有り得ない。 生徒も同様だし、何よりあの時周りには生徒の気配はほとんど無かった。 つまり、あのフードの人影か、もしくは意識の途切れる前に感じたあの気配か──。 「…………」 どちらにせよ、気になるのは確かである。 烏羽は授業終わりの放課後、こっそり屋上に向かおうとする。 「おーい烏羽ー!」 教室から出ようとするも、クラスメイトの男子達に止められてしまう。 烏羽はピタッと止まり、からくり人形の様なぎこちない動きで振り返る。 「今日皆でカラオケ行こーぜー!」 「あー……ご、ごめん。今日は用事が……」 「用事? 珍しいな。呼び出しか?」 「う、うん。そんなところ?」 「まじ? もしかしてクラスの有村さんか!? お前ら仲良いもんなぁおい!?」 「ち、違うよ!」 烏羽は頬を赤らめながら否定する。 男子生徒達に別れを言うと、彼は屋上へと通じる階段を登る。 屋上へと繋がる扉に手をかけ、ドアノブを回す。 ガチャリ──。 普段なら決して開かない筈の扉が、そっと開き始めた。 「ッ──!」 烏羽は息を飲んだ。 扉を思い切って全て開き、屋上へと足を踏み入れてみる。 夕焼けに染められた床に、高い網状のバリケードの影が張り付いている。 そしてその中には──"人間の影"も混じっていた。 烏羽は目の前に映った人を見て思わず目を丸くする。 女の人だった。 灰色のパーカーに黒い長ズボン。 長くも短くも無い。黒く、白のメッシュが混じった髪が、風に靡いている。 背丈は烏羽とあまり変わらない。 バリケードにもたれていた女の人は、彼を視認した途端息をほぅと吐いた。 「良かった。無事だったんだね」 安心した表情で、彼女は顔を笑顔で崩した。 続く

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魔女の鬱蝉

第一話 「な、何だ……これ」 青年はつい数秒前まで高校の校舎だった場所に立ち尽くしていた。 別の場所に移動した訳では無い。 確かに学校だが……"色が変わり果てている"。 黒板に座席、窓や床や壁に天井。 あらゆるものが、まるで全ての色の絵の具をぶちまけたかのような奇天烈な色に染まって蠢いている。 まるで絵本に出てくる呪いや黒魔法の表現みたいだった。 「どうなって……何が起きて……」 青年・烏羽樹《からすばいつき》は途方にくれてしまった。 二時間前──。 古典の授業中。 眠くなる話し方をする年寄りの先生で、クラスの大半は眠りについている。 烏羽は眠気を堪えながらもノートを取っている。 すると、使っていたシャーペンの芯が折れてしまった。 「あ、シャー芯入れ替え……あれ?」 彼は筆箱に入ったシャーペンの芯ケースを取り出すが、芯が入っていなかった。 あちゃー、と烏羽が声を出す。 「帰りに補充しておかないとなぁ」 烏羽はそういってため息をつく。 結局、彼は隣の席の人にシャーペンの芯を譲り受けて貰った。 その後、その日の授業が終了して校内が完全に静まり返っていた。 はぁ。と気だるげに烏羽がため息をつく。 「つくづく俺は運が無いなぁ」 シャーペン以外にも彼は、今日昼食の際に箸が折れてラスト1つの唐揚げを落としたり、体育の授業でコケて体操服を汚してしまったりと散々な目に遭っている。 烏羽は幼い頃から運にそこまで恵まれておらず、ささいなことからかなり大きな不運にもよく見舞われる。 ただの勘違いや思い込みが大半なのかも知れないが、彼はそれがきっかけで少し自己肯定感が低い。 学校の門から少し離れた時。 「……あれ? 課題の……プリントが……」 課題として出されていた数学のプリントが鞄の中に入っていなかった。 烏羽はゲンナリとした。 「教室に置いてきちゃったのかな。はぁ……取りに戻るか」 烏羽は振り返って学校内に入り直す。 先生数人しか残っていない校舎は静まり返っていた。 彼の足音が廊下に木霊する。 教室の扉を開けて、自分の机の中を漁る。 置き勉している教科書達の間に挟まったプリントを取り出し、鞄にしまった。 烏羽が立ち上がると──。 「── 『Under the spreading chestnut tree』」 どこからともなく、女性の歌声が聞こえてきた。 学内放送では無く、校舎内に直接だ。 「綺麗だな……」 つい聞き入ってしまう。 美しい歌声だと烏羽は思った。 彼はそう思いながら教室を出る。 その直後──世界が黒く染まった。 更にその直後、黒い世界の上から様々な色の線や点が描かれた。 黒いキャンパスの上に、全ての色の絵の具をひっくり返したかの様な、不気味でそれでいて美しい光景だ。 烏羽の背筋がゾッとしてしまう。 「え……?」 驚嘆のあまり、彼は辺りを見回す。 どういうことかと、烏羽は焦り続けていた。 「ど、どういう? え?」 彼は色の変わり果てた廊下で立ち尽くしている。 幸いにも構造が変わっている訳では無かったため、記憶を頼りに出口へと歩き出す。 しばらくおかしくなった廊下を歩き続けると どこからか足音が聞こえた。 早足で駆けている音だ。 階段から聞こえて来て、どんどん近づいてくる。 彼は音の方へと歩くと、上から誰かが駆け下りてきた。 ローブで全身を覆い、フードで顔を隠した人だ。 階段の何段か上で飛び降り、烏羽の目の前に着地する。 するとローブの人は彼に気づくと微かに息を飲んだ。 その直後息を深く吸い込み始める。 何事か分からず、烏羽は呆然としている。 「──貴方! 逃げて!」 突如階段の上から誰かの焦った声が聞こえる。 烏羽が階段の上を見上げようとした時。 フードの人の口から超高音の音波が放たれた。 耳から脳、そこから全身に駆け巡る音波に、烏羽は声にならない絶叫を零した。 「あ゛……がっ……」 全身に電流を流されたかのような衝撃が、彼の意識を奪い去って行く。 音波が収まると、彼はドサッと地面に倒れ込む。 背後の窓ガラスが割れており、ローブの人はそこから外へと飛び出した。 視界がボヤけ、脳が麻痺し、音もハッキリ通らなくなってしまった。 すると、彼の目の隅に誰かが移った。 姿は女性のように見える。 「──た! ──!?」 必死にこちらに何かを訴えている。 彼の耳には全く届いていない。 ──あぁ。俺はなんて……。 「……ついて……な……い」 彼の意識は遥か彼方へと吹き飛んでしまった。 続く

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第一印象

私は中学の入学式で、体調を崩して吐いてしまった経験がある。 人酔いと呼ばれるものであろう。 入学式やそういった行事のような人混みの場所だと、緊張で三半規管がやられてしまうのだ。 中学校最初の登校行事をまさかの保健室で過ごし、一日遅れでクラスの人と交流出来る──そう思っていた。 初めてクラスの人の前で自己紹介した時、何とか体調を崩さないように頑張ったが、グダグダになってしまった。 「入学式の時もそうだけど、大丈夫だった?」 と声を掛けてくれた子もいたけど。 大半の人には避けられているのが目に見えて分かった。 当然である。 人前の中でも入学式会場という公共の場であの様な醜態を晒しているのだ。 こうなるのも当然だ。 中学の時も同じだった。 授業の際に吐き気を催してしまい、保健室へと駆け込んだ。 その次の日から私は「ゲロ女」や「コミュ障」という烙印を押されて、避けられて生きてきた。 「だ、大丈夫? リサさん」 「……え?」 そんな中、声をかけてくれたのは"彼"だけだった。 「……大丈夫だよ」 中学の時に出会った少年。 名前も顔も少ししか覚えていない青年。 私はみんなからの第一印象は最悪だった。 だけど、その後もちゃんと関わってくれていたのは"彼"だけだった。 ただ──思い出せない。 大切だったはずのその人の顔も名前も……。 あぁそうか──。 私は──もう……。 [完]

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幼馴染契約

後編 俺達は居酒屋を出て、あいつには飲み物を購入して渡す。 フラフラしたこいつは飲み物を受け取ると俺にお礼を言う。 「あんがとー……んっ」 こいつは貰った飲み物をろくに確認もせずに飲む。 その瞬間含んだ飲み物を全力で吹き出した。 涙目になって咳き込み始める。 「あ、あんたこれ……炭酸じゃん……ゲホッ!」 「酔いが一撃で消し飛ぶだろ。お前はこれで」 「……意地悪」 むせ続けているこいつに俺は「ふん」と鼻で笑う。 落ち着いたこいつは息を吐く。 「……なんか悩むのが馬鹿らしいな。あんた一緒だと」 「……そいつぁ何よりだよ」 「それで? さっき何言おうとしたの?」 「へ?」 「知らない人って怖いじゃんの時になんか言いかけて無かった?」 「……覚えてやがったのか。酔いつぶれてた癖に」 「いやぁいつもなら忘れちゃうけどさ……期待しちゃったから」 「き、期待?」 俺はその言葉に背筋が凍った。 どういう意図でこいつがこの言葉を言ったのかなんとなく分かってしまう。 「私。今回ので思ったの。私は本当に人と関わるのが苦手で、誰かの助けが無いとそれも克服できない……だから、あんたに助けて欲しいの──小さい頃からの友達のあんたに」 「……だから。どうして欲しいんだよ」 「付き合って欲しい。私と」 酔ってる訳でも無く、正真正銘の本音なのだろう。 俺はその言葉を聞いて、体の高揚感が止まらなかった。 俺だって本音を言うなら、こいつのことは好きだ。 性格の裏面性がどうにも憎めなくて、顔も可愛いし。 願わくば俺だってこの気持ちに答えたい。 だけど──。 『私達……ずっと……友達……』 俺は友達と誓ったんだ。 他の誰でもないこいつと。 「……俺も、お前が好きだし、付き合って欲しい……だけど」 「だけど?」 「お前とは……友達でいたい気持ちもあるし、もっと他の関係になりたい気持ちもあるが……友達でいたいって約束したじゃねぇか」 「…………あれ覚えてたんだ?」 「……お前こそ」 俺達は顔を見合わせる。 するとニヤッと笑い合う。 「「キモいな」」 大きな声で笑い合う。 やっぱりこいつはどこまでも憎めない。 「ありがとう。覚えててくれて。だけど、あんたがいれば、人とはもっと関われると思ってる。だから、一番傍にいて欲しいの」 「…………」 「だめ?」 上目遣いで見つめられる。 ……酒のせいなのか。 今まで幼馴染として見慣れていたこいつが普通の女の子に見えてしまう。 「……お前はいいのかよ」 「何が?」 「俺以外の男とは仲良くならなくて」 「男なんてクソ喰らえって言ったやん? あんた以外は」 「……ったく。こいつめ」 俺は我慢が出来ず、つい抱きついてしまう。 えへえへと言いながらこいつは抱き返してくる。 それがただ、気分が良かった。 幼馴染という過去の"契約"を破棄──いや昇華させた瞬間であった。 [完]

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