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3 件の小説
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花火

 「なんで線香花火ばっかり素敵って言われるんだろう。」 文化祭の打ち上げで溜息混じりの声がでた。親近感が湧いた普通の花火に火をつける。 自分の気が強いことはわかっているし、それを嫌だともダメだとも思わない。自分の意見をしっかり言えるのは良い事だと思う。 それなのに、世の男とは「儚い」ものが好きだ。女性に対しても同じ。白くて細くて、ちょっと自分に自信がなさげで自分についてきてくれそうな、小動物的な、線香花火てきな、ふっとしたことで消えちゃいそうな女が好きだという。 私は今手にしている力強く光と輝きを放ち、全力で生きたあと消えていくこの花火の方が好きだ。男とかとは関係なしに、自分の命を全力で燃やしていこう。 「それ」 と急に声がして肩がビクッと上がった。 その方向を見ると隣のクラスの男子が居た。 見た目は地味だけど、メガネから覗くその目はどこか凛としていた。 「ススキっていうんだよ」 と行って彼は私に近づいてきた。 先程の驚きと考え事の中身を覗かれてないかなぜか心配になってか、心臓が高鳴っている。 彼は私と同じススキを手に取った。 「ね、火を分けてくれないかな」 そう彼が言うので、私は花火を彼の方に向けた。花火と花火が触れ、彼の花火も輝き出した。 オレンジ色に照らされた顔がこちらを向いて、 「俺はススキ好きなんだよね」 とか言って笑うもんだから、 私はこいつを逃しちゃならねえ、と思ってね。 これがあんたの父さんってわけ。

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花火

目の前の彼

ホーム右端より3番目、7時丁度。目の前にはJK3春から同位置に並ぶ私の密かな推し、塩顔イケオジ。今日も、車内は彼の斜め前を占拠し、景色を見るふりでじっと観察。スマホではなく小説を読むところが堪らん。はっ。カバーが外れかける!中身が見えそう、彼を知るチャンス!えっと…人妻店員に…。あ。 【次回】 やめて!どんなに好きでも、ハイブリザードの性癖を目撃してたら、燃え上がった分急に気持ちがさめちゃう! お願い、消えないで理想の君!今あんたが消えたらこの人と毎朝どんな顔で並べばいいの? 大丈夫、顔はいいんだから、顔が全てよ! 次回、「百年の恋も覚める」デュエルスタンバイ!

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目の前の彼

僕とおじさんとワイン

地元を早く離れたい一心で新幹線に飛び乗った。大きな病院の跡取りの僕は、学校でいじめをうけ、家庭では過酷な勉強を強いられている。学校帰り、「家に帰りたくない」と急に自分の心の本音が聞こえて、「海に行こう」と思った。僕の地元には海がない。海を見ればなにかが変わるのではないか。そう思ったんだ。 平日のサラリーマンが退勤する前の車内はすごく空いていて、ひたすらに窓を眺めていた。背徳感と自分な急な行動に対する動揺で心の整理が追いつかない。ふいに、きつい匂いが鼻をつき、ドスッと音がして横に匂いの原因が腰を下ろす。顔が真っ赤のおじさん。右手にはワイン瓶。 「坊主。中学生か。なんで平日に新幹線に乗ってるんだ。」 へらへらして、話しかけてきたおじさんからは、ブドウが口の中で更に発酵された匂いがする。めんどくさいのは無視が1番だ。 「おいおい、おじさんが心配してるんだから答えてちょ〜だいよ〜」 知らないおじさんに心配される義理はこちらにない。おじさんは瓶の中身を1口煽ると、 「なぁ、ワインとジュースの違いはなんだと思う。」と問いてきた。新幹線はトンネルに入る。 未成年にそんな話をしてなんになるんだ。「材料は全く変わらねえんだ。ただ、その後時間を置くか、そのまま味わうか、その違いだ。」 そんなことは知っている。化学はそれなりに成績がいい。 「人生もそうだ。時間が経つごとに渋みや旨みが増していくものだ。坊主、家出でもしてきたんだろう?」 はっとして、おじさんの顔を見る、目が据わっているのは、酔いのせいか、それとも。 「俺も盗んだバイクで走り出した時期があったもんだ、お前はまだ熟してない。そのままジュースになるか、ワインにまでなれるかそりゃあお前次第だ。若いうちはなんでも出来るぞ〜」 ただの酔っぱらいの独り言だ、普段ならうざったいと思うだろう。だが、大人たちが誰しもそうやって大人になったのだと何となく感じた。自分だけが辛い訳では無い、自分がおかしい訳では無い、そう思うと自然と心がすとんと落ちた。 「まぁ、家出したからにはしっかり自分に向き合ってから帰るんだな〜」 笑いを含んだ声が聞こえると同時にトンネルを抜け、おじさん越しに海が見えた。 「…僕、次降ります。」 「そうか。坊主。帰り賃はあるか?」 「…ないです。」 「じゃあ、これはおじさんの話に付き合ってくれたお礼だ。」 そういって、おじさんは5000円札を胸ポケットに詰め込んできた。電車が着くアナウンスがなる。 「あ、そうだ。お前さんこれいるか?」 そういいおじさんは右手のワイン瓶を差し出してきた。 「いえ、さすがに未成年ですし。」 言うのと同時に駅に着き、そそくさと降りる準備をする。成人だとしてもおじさんと間接キスは勘弁だ。 「あの、ありがとうございました。」 僕は言うのと同時にホームに降りた。 その瞬間、 「大丈夫だ!!これ葡萄ジュースだから!!」 といいおじさんがグイッと瓶を僕に押し付けてきた。 電車のドアがしまった。 目の前には広い海、右手にはおじさんの瓶。塩とぶどうの香り。 僕は、1つ大人なれるのだろうか。 というか、ワインじゃないのかよ。

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僕とおじさんとワイン