僕とおじさんとワイン
地元を早く離れたい一心で新幹線に飛び乗った。大きな病院の跡取りの僕は、学校でいじめをうけ、家庭では過酷な勉強を強いられている。学校帰り、「家に帰りたくない」と急に自分の心の本音が聞こえて、「海に行こう」と思った。僕の地元には海がない。海を見ればなにかが変わるのではないか。そう思ったんだ。
平日のサラリーマンが退勤する前の車内はすごく空いていて、ひたすらに窓を眺めていた。背徳感と自分な急な行動に対する動揺で心の整理が追いつかない。ふいに、きつい匂いが鼻をつき、ドスッと音がして横に匂いの原因が腰を下ろす。顔が真っ赤のおじさん。右手にはワイン瓶。
「坊主。中学生か。なんで平日に新幹線に乗ってるんだ。」
へらへらして、話しかけてきたおじさんからは、ブドウが口の中で更に発酵された匂いがする。めんどくさいのは無視が1番だ。
「おいおい、おじさんが心配してるんだから答えてちょ〜だいよ〜」
知らないおじさんに心配される義理はこちらにない。おじさんは瓶の中身を1口煽ると、
「なぁ、ワインとジュースの違いはなんだと思う。」と問いてきた。新幹線はトンネルに入る。
未成年にそんな話をしてなんになるんだ。「材料は全く変わらねえんだ。ただ、その後時間を置くか、そのまま味わうか、その違いだ。」
そんなことは知っている。化学はそれなりに成績がいい。
「人生もそうだ。時間が経つごとに渋みや旨みが増していくものだ。坊主、家出でもしてきたんだろう?」
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カテゴリー: 日記・エッセー
投稿日時: 2021/8/26 5:24
yai
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