柿空
3 件の小説とこしえの日常
4,いつまでも 1か月に一回、必ずと言って良い程に自分が水中に沈んでいくような感覚に襲われる。 それは決まって神社にお参りをした直後に起こるのだ。 不思議と息苦しくはない。ただ喪失感とあきらめと悲しみを感じる 私は何かを忘れている。思い出したい。 そんなことを考えていると、呼ぶ声が聞こえ意識がもとの所へと戻される。 『姉さん?顔色悪いぞ』 「ほんとだ!少し休む?」 心配そうな声と共に顔を上げると息を呑む。 可愛い妹と弟の顔にノイズが走った。 【あっ、いや何でもないよ。ごめんね、少し考え事してて。】 『…そうか』 「なんともないなら良かった~!」 誤魔化せただろうか。 そう思うのと同時に焦りが湧き出てくる。 あぁ、早く終わらせなければいけない。 でも、終わらせてはいけない。 ほら、また聞こえてくる。 「誰か…たすけて、誰でもいいの戻してあの頃に」
古くから続いた『湖』と『信仰』
3、湖の噂 それは、雨が降り日が暮れて薄暗くなる森の中。湖の近くに居る人は消えてしまう 昔から神様の使いが眠っている場所として知られていた。 そんな噂を知ってか知らずか、薄暗い森の中鳥居の近くで双子は湖の水に足を浸している。 『あ~あ最近お客さん来ないんだよなぁ』 足で水をかき分け、淡々とする中学生ぐらいの男の子。 「そうね。私もお腹がすいてきちゃった。」 その隣にいる中学生ぐらいの女の子は薄暗い雲を見る。 『でもさ、明日にはまたお客さん来るはずだったよな?』 「そうだっけ?あ…もうその時間だった~。今度はどんな味してるかな?」 『前は味がしなかったからな。次は味が濃い奴だと良いな。』 少しの間の沈黙の後女の子は言葉を放つ。 「いつまで、続いてくれるかな。この時間」 その声は、少し震えて男の子に届く。 『姉さんと俺たちが、望む限りきっと続いてくれるはず。』 「でも、あんなに…ごめん何でもない。もうそろそろ帰ろっか」 双子は手を取り自宅へと足取りを進める。 その世界には色がない。まるでモノクロテレビの中を移動しているような感覚。 「何回目だろうね、この場面を見たのは。」 『さぁ?でもここでしか暮らせない僕たちにとっては何ら問題はない』 「そうだね。私もそう思う、けど胸騒ぎがするの」 男の子は微笑むと安心させるように言葉をかける。 『大丈夫。姉さんの思いも俺たちの思いもこの世界には宿ってるんだから。』 その意味を理解した女の子は安心したような表情を見せる。 「そういえば、お姉ちゃん今日お参りしてるよね?お迎えにいこ!」 『そうだな。』 迎えに行くと手を合わせて目を閉じている姉がいた。 『「お姉ちゃん!/姉さん」』 【ん?迎え来てくれたの?】 姉が動き出すと同時に新しい時間が動き出す。色が着くのだ。 【帰ろっか。】 そうして、双子の一日は始まった。
願うは少女
1.少女は夢を見る 雨に打たれながら傘も持たずに息を荒げながら誰かが走っている 私は見ていることしかできないけれどいつだって私も苦しいという感覚が残る。 『貴方は、どうしてこんな雨の中走っているの?』 そんな私の問いに答えてくれるはずもない。そんなことは分かっていた。 でも、今日の夢は一段と長く続く。いつもはこの質問をすると夢が覚めてしまうのだ。 なんで?こんな事一度もなかったはず。でも今まで見れなかった続きが見れる。 期待と不安混じる中、走っていた誰かは初めて言葉を発した。 「誰か…たすけて、誰でもいいの戻してあの頃に」 私はその言葉を聞いた瞬間一瞬固まってしまう。涙が溢れてしまうのだ。走っている誰かも私も。 そして、私にはその一言だけで想像ができてしまった。どうしようにも変わらない変えられない日常に 生きてしまっていることが辛くなってしまったのだと。 いつまでこの光景は続いてくれるのだろうか。答えてくれるはずもない疑問を持つ 少しすると、走っていた誰かは足を止める。目的地についたのだろうか? そこを見ると小さな湖があった。目の前には鳥居、周りには木々で覆いつくされていた。 湖に近づいた誰かはしゃがみ込み両手を水に触れさせる。 「本当はこんな事…もう」 水に触れた瞬間紫の光を放つ六芒星が浮かぶ 「ハハッ、ごめんね…そこの君。私と出会ったことが運の尽き。せめて幸せでいてね」 その瞬間、意識はブラックアウトしてしまう。 2.当たり前にあるもの 「起きてー!朝ごはん出来てるよ~」 その一声で物凄い勢いで飛び起きる。夢での出来事はぼやっと覚えているが忘れてしまうだろう。 「は~い!今行くから少し待って!」 そういうと着替えを始める。朝ごはんを食べ学校に行く、帰ってきたら友達と遊んで家族と一緒に 夜ご飯を食べる。そして夜、日が暮れ薄暗い時に神社に行きお願いするのだ。 こんな日が続きますように。夢で見た誰かの事も思いながら。 そんな少女にとっての当たり前はずっと続いている。