June 4

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June 4

大好きな作家は星新一と東野圭吾、小松左京です。 「少しの想像力で、多くの感嘆を」をスローガンに頑張ります。

異質な惑星①

カラ星の宇宙船艦隊のある宇宙船のなかでこんな会話がされていた。 「前方にある星は次の侵略にもってこいの惑星だな。」 「あぁ、地球とかいう星らしいが自然も豊かで土地も比較的広い。我が星の保養地に最適だ。それに我々にはこれがあるのだから。」 そう言いながら、カラ星人の1人が積んできた大砲に視線を向けた。地球で例えるならまさに昔の海賊が使っていたそれ。 「我々は熟練した戦闘技術を身につけたおかげでこの大砲も2分で再装填できるようになった。それに、火縄銃や弓もある。万が一の時に備えて剣と盾も持ってきておいて良かったな。」 事実、カラ星人たちは、標的になった星から『宇宙一の兵器』とよばれる大砲で数々の高度な文明を持った星々を占領してきた。 「この前のカルル星との戦闘では向こうも高度な文明のため拳銃を持っていたから被害も大きかったがなんとか勝利を掴めたな。」 「やはり、我々の星の戦闘技術は最高レベルなのだろう。それに高度な文明があるからこそ光速宇宙船で重い弾薬や砲弾をたくさん運んでこられたのだ。」 そのとき、地球を観察していた1人が言った。 「この地球という惑星でもある程度の文明があるようですよ。見てください、周りを人工衛星が飛んでいます。」 「なるほど、これくらいの文明があるなら棍棒や剣だけでなく、弓やクロスボウぐらいの武器も発明されているだろう。」 「そうだな。みんな、そろそろ着陸だ。」 カラ星艦隊の宇宙船が地球の大気圏に突入して、都市部近くの空港に着陸しようと降下をはじめた。 「あっ、地上で二足歩行の生物がたくさんいますよ。おそらくこの星の支配者的存在でしょう。」 望遠鏡を見ていたやつがそう言った次の瞬間、閃光が走り、少し下で降りていた宇宙船が爆発四散した。 「なんだこれは、整備不良の故障か。」 そう言う間にも周囲の宇宙船が次々と爆発していった。 そのため、カラ星艦隊にこのような命令が下された。 「この惑星の戦闘技術は我々を凌駕している。高性能レーダーによると地上からこんなに離れた我々に金属製の物体を飛ばして火薬に似たものを爆発させている。全宇宙船撤退せよ。」 その頃地球上のある国の軍部ではこんな会話がされていた。 「先ほど撃墜した飛行物体は、相手国からの兵器ではなく、宇宙からの未知の生命体の可能性があります。現に、撃墜できなかった数機の飛行物体が宇宙空間へと上昇していきました。」 「しかし、こちらまで飛んでくるほどの技術を持っているのだったら、なぜ我が国の極超音速ミサイルを迎撃しなかったのでしょう。」 「迎撃できないのならやはり相手国の兵器に違いない、そう発表した方が都合も良いでしょう。」 「では、そうしますか。」 まったく人類というものが宇宙的にみて文明の割に軍事力だけ高いのも納得だろう。

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異質な惑星①

第一巻 上陸

これは、私が数年前に見た夢である。今でもその光景を鮮明に覚えている。多少の脚色は加えるが、できる限り当時の見たままを書き記したい。 ※ 本書に登場する人物・団体・名称は架空のものであり、現実のものとは一切の関わりがありません。 プロローグ 朝、金沢八景の海は穏やかだった。  ベランダからは神奈川県金沢漁港の防波堤が小さく見える。坂本亮太は、カーテン越しに差し込む光に片目を細めながら、食卓の湯気を吸い込んだ。 「今日、遅くなる?」  キッチンから花子の声が飛んでくる。まだ寝癖が少し残る髪をポニーテールにまとめながら、味噌汁の鍋を持ち上げた。 「うん……。本部で会議が長引くかも。あとは巡視船の訓練計画も詰めるし」 「また?夜ごはんどうするの?」 「冷凍庫のカレーで大丈夫。戻れたら食べる」  心配性な彼女は、いつもこうして仕事の帰り時間を気にかける。  坂本は海上保安庁・第3管区海上保安本部の警備指令。港の安全を守るため、レーダーや赤外線監視網を駆使して、巡視船や航空機の運用を指揮する立場だ。デスクワークと現場判断の両方が求められるこの仕事は、彼の誇りでもあり、責任の重さを痛感させる役職でもある。  通勤電車の窓から見える東京湾は、朝日を浴びて銀色に光っていた。  その海が、あと数時間で様相を一変させるなど、この時の彼はまだ知る由もなかった。 ⸻ 第1章 15:00〜18:00  15時02分、警備指令室に警報が響いた。 「韓国・釜山沖で不明な海上異常発生。釜山港に接近。漁船3隻が救助要請後に音信不通。国際安全通信システムから緊急通報。」  オペレーターが読み上げる。  表示された報告書には「人型の大型生物の可能性あり」とある。笑い飛ばす者はいなかった。 このことを受けて韓国は大統領府を中心に、国家安全保障会議(NSC)が緊急招集し、危機対策本部を設置。国防部、警察庁、消防庁、海洋警察庁などが連携し、正体不明の人型の大型生物の動向監視、被害状況の把握、救助活動、避難誘導などにあたるとのことだった。  また、SNSでは#巨人などのワードの検索が急上昇し、様々な憶測が飛び交った。  上層部は「不審漂流物または未確認船舶」として警戒レベルを1段階引き上げた。 坂本は指示を飛ばす。 「釜山沖周辺のAIS(船舶自動識別装置)、全データ収集開始。外務省、海自情報部とリンクを確立」  スクリーンに広がる航路図の端で、航跡の乱れがじわじわと拡大していく。 ⸻ 第2章 18:00〜23:00  夕暮れ時、赤く染まる東京湾の上に、釜山沖からの衛星映像が映し出された。  画質は荒いが、そこに映るのは水面を押し分ける、異様に大きな人影。 「……やっぱり人型に見えるな。」  室内に緊張が走る。推定身長、50メートル超。  韓国ではすでに人型の巨大生物が釜山港に複数体上陸し、被害報告多数だという。  「これらをAIS未搭載の大型船か漂流構造物として、巡視船PL(Patrol vessel, Large)クラス2隻を出港させる。」 そのころ首相の承認により海上警備行動(自衛隊法82条)及び防衛出動準備命令(自衛隊法76条)を発令。目的を東京湾進入阻止、国民保護の時間確保として陸自・空自も臨戦体制へ。 海自はP-3C哨戒機が巨人を領海外で発見、追尾開始。情報を防衛省・NSC(国家安全保障会議)に送信するとのことだ。  また、首相官邸では危機対策本部が設置され、情報収集と分析、各省庁との連携を行うこと、そして防衛省、警察庁、消防庁、厚生労働省、国土交通省などが連携し、被害状況の把握、救助活動、避難誘導、医療提供、交通規制などにあたることが決定した。  上層部が「接近中の正体不明物体群」として警備対応レベルを緊急に2段階引き上げた。 その後報告が入るまで1時間ほど不気味な静寂が続いた。  "そいつら"は下関沿岸と九州との間から瀬戸内海に侵入し現在和歌山県南沖から方向を北東に一斉転換。上空から海自のP-3Cと海保ヘリコプターが追跡中。巨人に対し音響警告を行っているが効果は確認できなかったため上陸阻止を目的に進路上へ哨戒艇を展開。第七管区海上保安本部に入った被害報告によると下関・九州間の関門橋、本州四国連絡橋が大破。他にも突発的な波による船舶被害報告や巨人らしきものの目撃情報が多数寄せられているとのことだ。航跡予測では、その進路は東京湾に、つまり日本の首都になっていた。この報告を受けて最悪の場合上陸も考えられることから海上保安庁は退避・監視に移行、海自からの報告、「防衛省統合幕僚監部より情報共有。内閣官房、国民保護法に基づき大規模テロ等準用事態を発令。湾岸自治体に避難準備指示。自衛隊は防衛出動準備命令下、海自護衛艦『たかなみ』『あたご』が浦賀水道に阻止線に、『こんごう』を神奈川県南沖に展開中。」  ピーピーと音がして速報が入った。瀬戸内海を航行中の漁船から「月明かりに照らされた海を巨大な影が複数動くのを大きな波とともに見た」という海上無線での報告が同海上保安部に新たに入ってきたそうだ。  坂本は喉の奥が乾くのを感じながら、花子のことを思い出していた。だが電話をするといってもこのことは伝えられない。軍事機密情報かもしれないのだ。職務と生活の葛藤を感じながら花子のことを忘れて集中しようと努力した。 ⸻ 第3章 23:00〜0:00  警備指令室の壁一面に並ぶモニターが、緑色の光点と警告色の赤でざわめいている。  航路付近の商船に回避行動が指示され、VHFチャンネル16で緊急航行警報が発令された。  23時18分。伊豆大島沿岸に不自然な反応が。 レーダー画面に映る巨大なエコーが、時折途切れながらも確実に湾口へ進んでくる。  「湾口の巡視船に赤外線カメラとサーチライト使用せよ。」 「第1・第8巡視船、赤外線カメラ最大感度。商船には避航指示を。」 応答が返るたび、指令室の空気が張り詰める。  やがて、赤外線映像に浮かび上がった。赤外線映像に水面から人型の頭部が複数覗く姿が映る。ただし数十メートルの距離で潜水・浮上を繰り返すため、正確な数は不明。坂本は無線越しに映像の断片的報告を受け、現場の混乱と緊迫感を改めて実感した。暗闇の海を泳ぐ巨大な人影。発生する水しぶきが、赤外線映像の中で炎のように白く映る。  海自より報告があった。「目標、阻止ラインに接近。夜間暗視映像で巨人の頭部および上半身を視認。海自護衛艦よりレーダーロック完了、射撃警告信号送信中。ヘリコプターSH-60Kが上空から投光、領海侵犯警告を繰り返し送信。」 "こちらは日本国海上自衛隊の航空部隊である。 あなたは日本の領海内に侵入している。 直ちに進行を停止し、領海外へ退去せよ。 これ以上接近する場合は、安全確保のため実力行使を行う。繰り返す。進行を停止し、退去せよ。" 依然として効果はなく無視が続いた。  その後巨人の前方の海に向けてこんごう型護衛艦の54口径127mm速射砲を警告射撃として発射したとの報告があった。しかし、次の瞬間巨人群の一部が護衛艦に掴み掛かり艦橋を破壊、転覆させたのだが、坂本たちは護衛艦からの信号が突然消滅することでしかただちには確認できなかった。  このことを受けて陸自は湾岸沿いに対人・対物火力部隊を配置、空自は戦闘機を待機させ監視。すでに配置済みの海上保安庁の特殊警備隊(SST)と綿密な情報共有が始まる。  「陸自第1特科群、千葉港および横須賀沿岸に12式地対艦ミサイル、展開完了。湾奥部には普通科部隊・機動戦闘車が配備され、ゲートブリッジ周辺で防衛線形成。化学防護隊が羽田・川崎港に待機。」 「航空自衛隊、百里基地からF-2戦闘機2機発進、湾口上空で目標追尾予定。海保の巡視船PLH型『いず』、『しきしま』、および高速特殊警備艇が防衛線に合流。」 無線からの報告が絶えることなく続いていた。  それと同時にJアラート(全国瞬時警報システム)のサイレンと放送が防災無線で聞こえてきた。 "こちらは内閣官房国民保護室です。現在、巨大な未知の生物が東京都沿岸部に接近中です。付近の方は直ちに屋内へ避難し、頑丈な建物や地下に移動してください。屋外にいる場合は安全な場所を確保し、窓から離れてください。繰り返します。巨大な未知の生物が接近中です。直ちに安全な場所へ避難してください。"  彼の携帯が緊急速報の通知で震えた。  それにしてもこいつらの速度は尋常ではない。たった八時間で釜山から神奈川県沖まで泳いで移動している。ただ、沿岸部に近づいているためか速度は落ちているようだ。 ⸻ 第4章 0:00〜1:00  「司令、海自より連絡。巨人は進路を変えず。12式地対艦ミサイルの発射諸元計算完了、湾口で迎撃態勢に移行。東京湾防衛マップ、最新情報に更新済みです。」    浦賀水道手前から東京湾の方向へ進む巨人。 そのころ浦賀水道VTS(船舶交通サービスセンター)が、海面の不規則な波形パターンと速度異常を記録。 "通常の船影と違い、AIS信号なし・レーダー反射が一瞬だけ強く出て消えるため「低姿勢の高速物体」と判定"  「警視庁機動隊、湾岸道路・レインボーブリッジを封鎖。消防特別救助隊が品川・お台場・千葉港に展開。沿岸住民に避難指示を•••」 無線の途中で緊急の報告が入った。 「巨人群、浦賀水道を通過、レーダー反射は依然として断続的」オペレーターの報告が、低く重い声で響く。 巨人群がついに浦賀水道を突破した。 護衛艦あたご、たかなみの対艦ミサイル、主砲、巡視船いず、たかなみの機銃が一斉に火を噴いた。また、陸上より12式地対艦ミサイルが発射された。 「対艦ミサイル、巨人群に命中、複数巨人の体の大部分を破壊。」 「数が多すぎます!巨人群接近!全艦回避行動をと・・・」 巡視船、護衛艦からの連絡が途絶えた。 「陸上第1特科群より報告、巨人群が護衛艦、巡視船に襲い掛かり巡視船2隻沈没、護衛艦2隻転覆。」 「航空部隊より目標を視認できず。攻撃を開始できません。」 まずい、と坂本は感じた。  東京湾では商船の避難はほぼ完了したが、港湾施設の封鎖が間に合っていないのだ。 「岸壁クレーンの電源落とせ!岸際の作業員全員退避!」  亮太の声が響く。  その時、携帯が震えた。  表示された名前は──花子。  画面を見つめたまま、彼は通話ボタンに触れられなかった。いまこの瞬間、東京湾は、何かとてつもないものに飲み込まれようとしていたからだ。 ⸻ 第5章 1:00〜1:15 「巨人、推進が浅くなったため泳ぐような動作から海底を蹴るような動作に変わって進行中」  ベイブリッジの向こう、闇の中から巨大な輪郭が現れる。足が海底を蹴るたび、波が護岸に打ちつけられる。遠くの地鳴りが、やがて指令室の床までも震わせた。  「第3巡視船、接近限界まで前進。スポットライト照射!」  白い光が闇を裂き、巡視船の可視光カメラが巨人の腰から肩までのシルエットを初めて捉える。高さ推定50〜60m。スポットライトの角度を上げて巨人の顔を照らし出す。人間そっくりな、その表情が一瞬だけ見えた次の瞬間、周辺海域で大型水柱が複数発生、付近の巡視艇2隻が波により一時操縦不能、接近した第3巡視船が大破した。 また、動向を監視していた海保ヘリとの連絡が途絶えた。最後に送られてきた映像は巨人の1人が海からジャンプしてヘリコプターを大きな手で掴もうとするところで止まっていた。 現場からの恐怖と混乱が断続的な無線報告を通して伝わってきた。 「SH|60Kヘリより92式空対艦誘導弾を2発発射。命中、巨人2体の左胸部損傷確認。大量の蒸気と血液らしき液体を放出。」 坂本は映像を見ながら、東京湾岸への影響予測の作成を開始し、メディア対応の準備に追われていた。 ⸻ 第6章 1:15〜1:45 巨人群が速度を落とし、湾中央部の人工島(海ほたる周辺)付近で一時停止。坂本は「休息行動か」と推測するが、直後に複数体が再び潜水し北上。東京港と横浜港の港湾警察署にも情報が一斉通達された。  無線が一斉にざわついた。 「本牧ふ頭E地区で大型物体確認!」  巨人群の一部が臨海部のふ頭に接触したのだろう。亮太はすぐにモニターを切り替える。港湾監視カメラが捉えたのは、岸壁に片手をかける巨大な影。その腕の長さはクレーンを優に越えている。 「第2・第4巡視船はE地区の東側へ回り込み、強制退避区域を広げろ」  指令を出す間にも、巨人は水から上がり、舗装路をゆっくりと進む。  地響きが、映像の揺れとして伝わってきた。 坂本は無線を握りしめた。 「司令、第1機甲教育隊所属、16式機動戦闘車部隊より入電。ベイブリッジ付近に複数巨人が上陸を試みている。歩行速度は約15キロ、武装は105mm滑腔砲および機関銃。これより対巨人戦闘開始を開始する。」 「了解。機動戦闘車は橋脚の防衛に全力を尽くし、普通科連隊は市街侵入を阻止するよう報告せよ。海保特殊警備隊は市街地から援護射撃する。」 「第1特科群からも報告。12式地対艦ミサイルが東京湾岸道路沿いに配備完了。目標は巨人の胸部・頭部。命中率向上のため、飽和射撃を準備中。」 「87式自走高射機関砲も合流。35mm機関砲で巨人の上半身を狙撃中。夜間照明弾が照らす標的に集中砲火せよ。」 無線は飛び交い、次々に現場からの状況が報告された。 「巨人の一体が橋脚に向けて腕を振り下ろし、衝撃波が湾岸道路を揺らしています。現場では普通科隊員が防衛線を維持しつつ後退戦を展開。」 「臨海部の化学防護隊は体液流出に備え封じ込め準備。被害拡大防止が急務。」 坂本はモニターの地図上で赤く点滅する複数の巨人アイコンを凝視しながら指示を続けた。 ⸻ 第7章 1:45〜2:20 「司令、こちら第1機甲教育隊、16式機動戦闘車部隊。状況報告。目標の巨人群が予想を遥かに上回る数で上陸し、我が部隊は完全に数的劣勢に陥っている。」 「現在、橋脚周辺での防衛線は突破されつつあり、残存部隊は重火器を用いて懸命に抵抗するが、巨人の圧倒的な物理力と数により、次々と撃破されている状況。」 「普通科連隊も連携を図るが、敵の増援が絶え間なく続き、ほぼ包囲される。機動戦闘車隊は既に複数が被弾・損傷、撤退不能の状態。」  港の奥から、照明塔の光が一つ、また一つと消えていく。  停電ではない。巨人が腕を振るうたびに、鉄骨ごと倒れていっているのだ。  坂本は呼吸を整えた。恐怖を顔に出せば、部下の士気が落ちる。  それでも、耳の奥で脈打つ心臓の音は隠せなかった。 「第4巡視船、支援ヘリ1号を発進させろ。上空から動向を追う」 「了解、発進まで4分」  時間が遅すぎるように感じた。 ⸻ 第8章 2:20〜2:40  カメラの映像を見て一瞬、頭の中が空白になる。ふと彼は今日の朝買った昼食をまだ食べていないことを思い出した。それほど精神的な疲労が溜まっていた。  リュックサックをあさって、彼はコンビニのおにぎりに手を伸ばす。  しかし──「巨人、ベイブリッジ方面へ移動!」という叫び声がその瞬間に飛び込み、指は宙で止まった。  彼は急いで巨人の進路を監視する画面へと視線を戻す。 ⸻ 第9章 2:40〜2:50  ベイブリッジの白いアーチが、霧の中に浮かび上がっている。  巨人は迷うことなく、その橋脚へ向かっていた。  港湾の灯り、信号、船のサーチライト──すべてが霧に飲まれ、ただ低い振動音だけが残る。  そして、轟音。  橋脚に衝撃が走り、モニターの映像が一瞬途切れる。  復帰した画面には、傾きかけたベイブリッジと、その向こうに消えかける巨人の影があった。  「橋脚への攻撃によりベイブリッジ一部損傷、交通遮断は確実。16式機動戦闘車隊の残存部隊は巨人に対し迫撃砲と機関銃を連携射撃中。」 「巨人群が装甲車両の射撃を受けてもなお進撃を続けている。普通科隊員の士気が落ちており消耗も激しい・・・」  坂本は息を吐き、次の指令を出す準備を整えた。  この夜が、まだ終わらないことを理解しながら──。 続く

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第一巻 上陸

半月の夜までの回想

プロローグ 病室での最後の回想を終えて絶望感に押しつぶされそうな主人公の気が変わりやすい性格と数奇な人生をお楽しみください。熟読すれば意味がわかるはずです。 ※行間がある場合は時間の経過があります。 #ショートショート “オギャーオギャー” 俺は生まれた。十五夜のことだった。 おめでたいことだ。 まだ小さい保育園の頃は普通の毎日だった。 繰り返しの連続。 卒園式は半月だった。 義務教育は散々だった 俺はもともと学業には向かないのだ。 先生に怒られるならまだいい方。校長室に呼ばれた時はさすがに顔が青くなった。 卒業式の日の夜は新月だった。 そのあと俺は底辺高校に入学した。することがないので勉強を続けた。 高校の卒業式は半月だった。 大学は充実していた。 そこそこの公立に入学することができて友人もできた。一安心といったところか。 卒業式は満月だった。 初の就職の時は緊張したな。 俺はそれまでアルバイトすらやったことがなかった。ただ他の新人と仕事をして一緒にバーに行くつまらない毎日。もっと刺激が欲しいなあ。 寝室から半月が見えたが酔った記憶のため確かではない。 まったくこの世の中油断も隙もあったもんじゃない。いままでの仕事の怠慢さでお払い箱。 おまけに就職難ときた。 いっそのこと新しいことを始めてみるか。 アパートの窓から月は見えなかった。 そうだ俺はもともとこの国は性に合わんのだ。 このビジネスを外国の中心に展開してみよう。 多少の借金と退職金でなんとかなった。 売り上げは良くも悪くもなくといったところか。 外国への飛行機で半月を見た。 まったくこう儲かると知っていればもっと早くから取り組めばよかった。この手の商売が意外と外国でやっていけた。金は増えだすと止まらない。 将来にほくそ笑んで眠った満月の夜。 俺ももう若いとは言えない年齢になった。 独身のまま一生を過ごすことになった。 まあ後悔はない。会社は譲ろう。 半月の夜にふと思った。 いかん。体の調子が悪くなってきた。 帰国して調べたら医者はこう言った。 この症状は治療は難しいため長期的な療養が必要だ。入院しなさい。 まったく病室の窓からの眺めは嫌なもんだ。 灰色の建物しかない。 その日は新月だった。 この病気の治療法が見つかった。治療費は高額と言われたが仕方がない。治療のためにまだまだ入院しなければならない。この治療法がなければあと半月ほどの寿命だったらしい。 この夜は半月だっただけにまったく縁起が悪い。 今までの人生は訳がわからん。 しかしもうすぐ満月だ。いい老後になりそうだ。 そう考えていた時。病室のテレビの音が耳に入った。 翌晩に日本各地で皆既月食が観測されます。月は地球の影に完全に入り、本来なら赤銅色に輝く様子が薄く見られるのですが、明日はあいにくの曇りとなるため月は見えないでしょう。 とんだことになったもんだ。多分治療が失敗するか病気が悪化するかで俺が死ぬのは確実だろう。 まったく月には敵わない。 エピローグ まったく関係ないが、こう見ると学生時代は人生の中でも濃厚な期間であることがわかる。

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半月の夜までの回想