AYUKI
24 件の小説大好きだったはずの言葉
「大丈夫」 私は、その言葉が大好きだった。辛い時、悲しい時、小さい頃はよく自分に言い聞かせていたものだ。 大丈夫と言われると、なんでもできちゃう気がする。自信がつく気がする。そんな些細なことだが、“当時”は、好きな言葉だった。 年齢が上がるにつれ、求められるものも多く、高くなっていく。 私には、たいした特技も、好きなことも、特に無かった。 でも、それを親は許さない。 無理やり習い事をたくさんさせられ、好きでもないことを繰り返す。 そんな毎日に、少し疲れてしまったみたい。 子供の頃はよく見れたお母さんの笑顔も、お父さんの笑い声も、最近はもう無くなった。 毎日、毎日、「大丈夫」「大丈夫」と、無理に笑顔を作る。 私の口癖はいつの間にか、「大丈夫」ではなく「疲れたなあ」になっていたのだ。 あぁ、昔に戻りたい。 そんなこといくら願っても、叶うわけがないのに。 周りには散々「大丈夫」と言われた。子供の時は純粋に嬉しかったのに、今はもう飽き飽きだった。 大好きだったはずの「大丈夫」は、 私の一番、大嫌いな言葉になった。 end
淡い初恋はゴミ箱へ
ずっと、独りだった。孤独で、何もする気が起きなくて。 「お前は失敗作だ!!」 「本当に、なんで生まれてきたの?」 親には、こんなことを言われるザマ。 学校ではいじめを受けた。 頬を殴られて、湿布を貼ったその日、私は彼女に出会った。 「その湿布、どうしたの?」 「……殴られて……」 「え!そんなことされたの!?だっ、大丈夫!?」 あわあわとあわてる姿が面白くてふふっと笑うと彼女は嬉しそうな笑顔を浮かべた。 「やっと、笑ったね」 「ねぇ私、内山結(うちやまゆい)っていうの。結って呼んで!あなたは?」 「……要莉子(かなめりこ)」 「莉子かあ!よろしくね!」 少し下の位置でひとつ結びしたサラサラの茶髪は楽しそうに揺れてて、まるで私とは真逆の結は、親友になった。 「んー!このジュースうまぁ」 そういう彼女を見ていると、どうしても抑えられない愛しさが溢れ出てくる。 あぁ、可愛いなあ。 「ん?どうかした?」 「や、なんでもない」 そう、私は結に救われたの。 でも……。 『ねえ聞いて!私告られた!』 「私も、結のことが」 そこまで打って私は、指を止めた。 涙が溢れる。 きっと彼女はこのまま好きな人と付き合うのだろう。私にもう、チャンスなどないのだ。 あぁ、こんなことになるなら、さっさと告白しとけばよかったなあ。 あ、そうだ。この初恋は、ゴミ箱に入れちゃおう。 そして、もう2度と拾わないように、早く、早く燃やしちゃおう。 最後に、想いだけでも伝えられたら……なんて。 私、育児なしだなあ。 ねぇ、結…… 「こっちを見てよ……」
いじめからの光
私はいじめを受けている。 ほら、今日も机に「死ね」や「消えろ」の文字。 「ねぇ、見て。あいつまたきてるよw」 「いい加減死ねばいいのにねーw」 あの子とは、友達だったはずなのになあ。 ほんの些細なきっかけだったのに、彼女は易々と私を裏切った。みんな面倒ごとには巻き込まれたくないんだ。 いじめられている人を庇う、そんな漫画のヒーローみたいな人は、私の人生の中にはいないのだろうか。 文字を消しゴムで消しながら、そんなことを考え出す。 でもそうしているうちに、だんだんと腹が立ってきた。 なんで私だけこんな目にあわないといけないの? みんな心の中で「かわいそうだなぁ」とか思ってるくらいならいじめを止めてよ。 本当は、知ってる。みーんな、怖いんだ。「いじめの標的にされたらどうしよう」とか、「悪口言われたらやだな」とかさ。 でも、でもね、こっちだって辛いんだ。毎日のように物を隠され、悪口を言われ、先生は見て見ぬふり。 挙げ句の果てに浮かんだ感情は、 悲しい。 それだけだった。怒りや、辛いとかではなく。 きっと人間というのはそういう生き物なんだろう。 そう結論づけて、私はいじめのリーダー(前は友達だった子)のところに向かった。 「は?何?こっち寄ってくん……」 「あのさ」 彼女の言葉を遮りそのまま続ける。 「友達だからいうけど、あんたってほんと性格悪いよね。そういうところ、直したほうがいいよ」 「え……」 その子は、急な私の言葉に言葉を失い、唖然とした様子だった。 どうせ私のこと、「泣き虫で勇気もない、いくじなしなヤツ」とでも思ってたんでしょ。 つくづくバカだなあ、と思う。私が何も言わずにただいじめを受けて居るだけだと思ってたんだろう。 あの日から、結構な月日が経った。その日を境にいじめはなくなったが、彼女とは友達に戻れないままだ。 あれはいじめじゃなかったんだよね?彼女が友達との関わり方を間違えただけだよね? 席を立って、あの子のもとへと歩く。 「なんで……」 彼女はびっくりしたような、罪悪感でいっぱいというような、辛そうに、顔を顰めた。 見つけよう。どんな小さなタネでも、また友達に戻れるきっかけを。
あの子の“好き”
夢を見た。とっても綺麗な人がボクと話している不思議な夢。 でも、声が聞こえない。 彼女の顔を見ればとても真剣な話をしているのだとわかるが、肝心の内容が分からない。 口も開けないし声も出ない。まるで金縛りにでもあったかのように体が動かないのだ。 この夢は、どうやったら抜け出せるのだろうか。 「はっ」 ボクー一条由香は汗びっしょりで目を覚ました。 何かとても大事な夢を見ていた気がするが、思い出せない。 何だったんだろ? まぁ、所詮夢だ。気にしないでおこう。 ボクは時計を見ると制服に着替えてリビングに降りた。 「あ、姉ちゃんおはよー」 この子は妹の一条仁香。可愛いしモテるんだが……オタクだ。 当の本人は二次元にしか興味がないらしい。 「はよー。なーんか今日暑くなーい?」 ボクは手で顔を煽りながら仁香に質問した。 すると、仁香は怪訝そうな顔をする。 「そ?私は普通だけど……あ!雅くん配信してるじゃーん!!」 相変わらずだな仁香は……。 ボクには二次元の良さがイマイチよく分からないが……。 ちなみに雅くんというのは仁香の推しだ。 「仁香、ボク学校に行ってくるねー」 「ん、いってらー」 ガチャ。 ドアを開けると朝の空気がボクに飛び込んでくる。 精一杯空気を吸いながらバス停に向かう。 「……由香?」 「え……?あ、結衣!?ウソ、久しぶりだねぇー!!」 びっくりしたー。同中の結衣じゃん! 高校になって違う学校になってからはしばらく会ってなかった。 「由香ー!もう聞いてよ彼氏がさあ!……って、由香痩せた?ちゃんと食べてんの?」 「あー……。今日の朝ごはんは食べてないけど……」 「やっぱ食べてないじゃん!何?ダイエットでもしてんの?断食は良くないぞー。しかも由香、めっちゃ痩せてるし」 「いや、そういう訳じゃ……。なんか食欲が湧かないというか……」 そう言うと結衣はとてもびっくりした顔をする。 「え?あの由香が?中学の時はめちゃくちゃに食べてたじゃん!私が引くくらい!」 「そっ!それはっ!もう忘れて……」 その後も結衣とたくさん話した。 楽しかったなあ。 「もうバス来る!じゃ、結衣またねー!」 「うんまたー!」 そうして結衣とは別れ、バスに乗り込む。 バスの中は珍しく賑やかで、みんなが楽しそうにおしゃべりをしていた。 いつもこの時間は静かなのに……。 よく見回してみれば、いつもの中年のおじさんも、綺麗なお姉さんもいない。 ただ、見たことがない高校生たちが喋っているだけだ。 あれ、これもしかして……。 乗るバス間違えた!? しまった!結衣と話すのに夢中でバスをちゃんと確認してなかった。 今何時!? ……あ、これもう無理だわ。遅刻決定。 もーう!ボクのあほ!こんなミスなんて何年振り!? 顔が青くなるのを感じながら、ボクは急いでバスを降り、走った。 いや、まだ走れば希望はあるかもしれない! あ!バスが見える! 「待ってバスー!!」 ボクは脚をできるだけ動かしながら手を伸ばした。 ま、間に合ったー! こんなホッとしたの久しぶりかも……。 いつもの静かな車内でボクは一人胸を撫で下ろした。 良かった〜。これで反省文書かなくて済む……。 ボクは学校に着くと自分の教室に入り鞄を下ろした。 「おはよう由香。珍しいね、こんな遅く来るの」 「ひぇっ、サナちゃん!」 この白髪の子はサナちゃん。ボクの親友であり……片思いの相手。 わかってるんだ。これが叶わない恋だって。 だって、サナちゃんも、ボクも、女の子。つまり同性。叶いっこない。 もしもボクたちが付き合ったとしても、きっと周りが許さない。 昔、サナちゃんと同じく一度だけ女の子に恋をしたことがある。 そして、「告白」をした。 でも、そんなボクに帰ってきた返事は……。 「は?私が好き?女にそういう意味で好かれても全く嬉しくないんだけど。キモっ!付き合うとか絶対無理ー。私男にしか興味ないから」 まさか、そんなことを言う人だなんて思ってなかったから、突きつけられた現実にただただショックを受けた。 ボクが、女なんかじゃなかったら、あの子も振り向いてくれたのかなって、今でも思ってる。 それからボクは変わった。 髪を切って、なるべくズボンしか履かないようにして。 ボク、昔っから男みたいな顔立ちだからもうただのイケメンにしか見えないらしくて、それはそれはモテたモテた。女の子に、ね。 でも、それでも。好きにはなれなかった。 あの子じゃないとダメ。あの子しか好きになれない。 そんな時、出会ったのがサナちゃん。 サナちゃんはいわゆる、イケメン女子?っていうのかな。見た目だけのボクとは違ってサラちゃんは中身までカッコいい。一見、ただの可愛い女の子みたいに思えるけど、話してみたらもうイケメンすぎて惚れるわ。 ツインテールの可愛い女の子。 それが第一印象だったけど、今は好きな人しか思えない。 話すたびに惚れ直すみたい。 たまに口から見える八重歯も超可愛いし、もうサラちゃんの全部がかっこ可愛い。 ベタ惚れすぎてもう後には戻れないんだよねぇ。 「サナちゃん、キョッ、キョウノイチゲンメナンダッケ?」 あー!!緊張しすぎてカタコトに!変に思われてないかな!? そんなことをボクが思っているなんてつゆも知らないだろうサナちゃんは笑顔で答える。 「ふふっ、一限目は数学だよ?」 す、好き!! はっ、いちいち発作を起こしてたらキリがない! なるべく普段通りにしてないと……。 「そっ、そっか!ごめんねどうでもいいこと聞いて。それよりさ、サナちゃんって好きな人いるの?」 あ、口が滑ってずっと気になってたこと聞いちゃった!! サナちゃん引くかな!? でも、サナちゃんは私の想像と真逆のことを言った。 「う、うん……いる、よ」 完全に恋する乙女顔のサナちゃんを見た瞬間、頭が真っ白になる。 えっ、?サナちゃんに、好きな人がいる……?てっきり平然と「いないよ」っていうと思ってたのに。 終わったーー!!私の恋おわったー!! くっ、サナちゃんは罪な女だよ。これだけベタ惚れさせといて、違う人と付き合うなんて! ま、ボクにこんなこと言う筋合いなんてないんだけど。 うっ、自分で言ってて虚しい。 なんてどうでもいい茶番は置いといて、サナちゃん、好きな人いたんだ……。 せっかくまた、好きな人ができたのに、失恋して終わるのか……なんか、悲しいなあ。 涙が出そうなのをグッと堪えて、ボクは無理矢理笑顔を作る。 「そっか、叶うといいね。その恋」 すると、サナちゃんは切なそうな、辛そうな、悲しい笑顔をした。 「うん。ありがとうね、由香」 なんで、そんな笑顔をするの?もしかして、その人に振り返ってもらえないの? ハァ?誰ソイツ!こんなに可愛いサナちゃんに振り返らないとか、見る目なさすぎだろコンニャロー! 心の中で顔も知らないその相手にキレながら、ボクはサナちゃんに「もう授業始まるよ」と言って自分の席に着いた。 ー………。 「ね、サナちゃん!今度の日曜日、一緒に買い物しない?」 「買い物?服とかそこらへん?」 「ううんゲーm……」 はっ、ここでゲームとか言ったら可愛くない!? 「う、うん!服!服買いに行こ!」 「オッケー、日曜日ね」 ヤッタ!サナちゃんのデートだ! まぁ、サナちゃんはデートだなんて微塵も思ってないだろうけど。 夜。 ボクはまた夢を見た。内容は同じでとっても綺麗な人と喋ってる夢。 でも、一つだけ違うところがある。 それは、女性の声がちゃんと聞こえることだ。 あとはなんの変わりもない。体も動かせないし、声も出ない。 「お願い……早く、早くこの子を救わないと。この子が、“死んでしまう”」 この子って……ボクのこと? しかも死ぬって、どういうこと? 女性はとても真剣で、焦っている様子だった。 しかし、ボクに話しかけるというより自分に言いかけているようだ。 「あぁ、ダメ……ダメ!!また、駄目、なの……!?」 目を覚ました。 また変な夢を見ていた気がする。 ボクは気にせずそのまま二度寝した。 日曜日当日 「サッナちゃーん!!」 ボクは腕をブンブンと振り回しながら目印のところでスマホを見ているサナちゃんに笑いかけた。 「あ、由香!おはよう!」 「グッ……」 サナちゃん……私服可愛い……。 なんて、本人には絶対言えないけど。 「どこ行く?由香」 「そうだなあ、お腹空いたし、最初にご飯でも食べよっか?」 「そだね!あ、私いいところ知ってるよ、着いてきて!」 「え……」 サナちゃんはボクの手を引っ張り、笑顔で走った。 はぁ、可愛い……。幸せすぎる。 この時間が一生続けばいいと思いながら、ボクはサナちゃんに着いて行ったー。 「楽しかったね、サナちゃん!」 「うん、楽しかった!今日は誘ってくれてありがとう!」 ま、眩しいっ。 服もたくさん買ったし、楽しかったなー。 「ガッ!」 急に、胸の辺りが苦しくなった。 息もまともにできない状態だ。 「ガッ、はっ、スースーズッ!うオェ……」 「由香!!」 サナちゃんが駆け寄ってくるのが見える。 あ、れ……?『私』、もう死んじゃうの? ハハッ、神様は意地悪だなあ……。 それじゃあせめて、最後にサナちゃんに……。 「さ、なちゃん、ずっと、大好きだったよ。もっ、ちろん、恋愛の意味でっ……」 「えっ……?」 サナちゃんは驚いた顔で目を丸くした。 そりゃそうだよね、友達にこんなこと言われても、気持ち悪いだけだよね……。 すると、サナちゃんは涙を流しながら、悲しそうに笑ってこう言った。 「私も」 end
夢
ずっと、夢を見ていた。 僕が寝ると、必ずその扉は現れる。 扉を開くとね、僕の夢だけの世界が広がってるんだ。 僕の好きなものが、何だってあるんだよ。 分かってる。これが夢であって、「現実」ではないって。 でも僕は、夢が見たいんだ。 起きてしまったら、またあの汚い世界に戻らないといけないから、 僕は永遠に、夢を見ることにした。
母親
いつかあの子が大人になったら、どんな人になるかな。 優しい人に、なれるといいな。 どうか、私みたいな人生を送らないでほしい。 父親には暴力を振るわれ、親には汚い言葉を吐かれ。 辛かった。だからこそ、あの子には優しい人と結婚してほしいの。 あの子が望むのならば、結婚が嫌というなら、しなくていい。しなくていいから、どうか、お願い。 幸せになって。 私はもう、あなたの視界に、入れないから。
大きな損失
⚠︎これは現在の日本とは全く関係ありません。 戦争。 それは私が最も大嫌いなもの。 そんな大嫌いな戦争が、今この日本で起こっている。 戦争というものは、罪なき大勢の人が死に、嘆くこと。 そう、小さい頃から言われてきた。 その言葉は、本当に、その通りだった。 その通り過ぎるくらいに。 いつも「当たり前」だった、朝昼晩の食事もほとんどなくなり、水なんてもってのほか。 汚い、とても飲み物とは思えない汚れた川の水を飲まないといけない。 そうしないと、生きていけないの。 毎日、毎日、この戦争が終わるように願う。 どうか、あの楽しかった毎日が戻ってきますように。お願いです、神様。 毎日願った。同じことを。 でも、状況は悪化するばかりで、一向に良くなる気配はない。 私は今、13歳。 こんな歳の子供に、何ができるっていうの? 私よりもっと小さい子たちが次々と死んでいく中で、私はまだのうのうと生きていていいの? ー大人は、どうして戦争をするの?ー 戦争なんかして、一体何になる? あんなに平和な世界をつくろうとか言ってたくせに、このザマは何? 知ってる。知ってるよ。きっと日本のどこかに、本気で平和な、争わない世界を作ろうとしている人がいるって。 でもね、本当に、平和な世界なんて作れるの?不可能、じゃないの? 私のお父さんも、お母さんも、弟も、姉も、みんな死んだ。生きているのは私だけ。こんな世界に、価値などあるの? いつか、この戦争が終わった時、私は 生きているのかな。
天使の羽に命を奪われる少女
ある日、本当に突然だった。 私の目の前に、「天使」が舞い降りた。 可愛くて、ふわふわ。 一目でわかるほど、天使の女の子は可愛かった。 それから、幸運なことが続いた。 お母さんの重い病気がなくなったり、宝くじが当たったり。 あ、それに、お母さんとお父さんの仲も良くなったの! 幸せ。 そう強く思った。これは絶対、天使ちゃんのおかげだ。 ずっとこの幸せが続くと思ってた。 でも、違ったの。 私が幸運になるばなるほど、周りの人間が不幸になっていった。 友達、先生、おじいちゃん、おばあちゃん。 みーんなやつれた顔して、疲れてる。 親友の、美久ちゃんも、ある日青白い顔をして登校してきた。 どうしたの?って聞いても「何でもないよ」って言って答えてくれない。 何で?私、信用できない? ううん、ほんとは分かってるよ。美久ちゃんは昔から優しいから、1人で抱え込む癖があるって。 私に迷惑かけたくないから言ってくれないんだって。 でも、ちょっとくらい、言ってくれてもいいのに。 私は天使ちゃんに叫んだ。 「これ以上私を幸せにしないで!!」 ってね。 すると、天使ちゃんは意味のわからないことを言い出した。 「ごめんね、ごめんね。でも、羽はあと3本なの」 羽……? 天使ちゃんの羽を見てみても、初めてみた時と同じでふさふさだった。 3本?どういうこと? わからなかったから、私、あんまり気にしなかったの。 天使ちゃんはその日からいなくなった。 翌日、私は呼吸困難に陥った。 朝起きた瞬間から、過呼吸になったのだ。 私は救急車に運ばれ、病院に行った。 医者に、こう言われた。 重い病気だって。もしこれが治ったら奇跡だって。 きせき……。 その言葉に私は絶望した。つまり、治る可能性はほぼない、ってことでしょ? 何で、急に……。 それからは最悪だった。 お母さんはやっぱりお父さんとうまくいかず離婚。 さらには仲がいいと思っていた友達にいじめを受けた。 とにかく悲しかった。何でこんなに私の人生上がり下がりなの? その日、私は夢を見た。 いなくなったはずの天使ちゃんと話している夢。 「もう間に合わない!!また私は、ニンゲンを救えないの……?」 何を言っているんだろう天使ちゃんは? ニンゲン?人間? 意識が朦朧とする中、私は声を振り絞った。 「待って……」 天使ちゃんの羽が、一枚落ちた。 次の日、主人公は朝早くに、息を引き取った。 「だって、『これ以上私を幸せにしないで!!』って、言ったじゃない」 天使は1人、誰もいない空間でつぶやいた。 end
大好き
私には、好きな人がいます。 親友の友ちゃん!彼女は何でもできてね。 優しくて、可愛くて、人気者で。 友ちゃんはなーんでも一位! かけっこでも、水泳大会でも! 私にはもったいなさすぎるなあ。 今日も友ちゃんは可愛い。 あれ? 何で、みんな私を見ないの? 私はいつも友ちゃんの隣にいるのに、みんな私には目もくれない。 何で? 私も、頑張ってるのに。努力してるのに。 何でもできる友ちゃんの親友なんて、すごいでしょ? ねぇ、何でみんながみんな、「友ちゃん」なの? 私もいるのに。私だって、人間なのに ずるい。ずるいずるいずるい!! なんでなの!なんでみんな……なんで……! ああ、今気づいた。 私って 友ちゃんが大嫌いだ。
一つだけの宝物
いつか、お母さんが私に優しく笑いかけてくれる日が来るのだろうか。 暴言、暴食、暴力。 みんな私のお母さんに当てはまる。 そう、今日も。 「ねぇ、お母さん!私、今日誕生日なの!だかr……。」 「うるっさいわね!!お母さんは忙しいの!休日の時くらい静かにしてちょうだい!」 「あ……ごめんなさい……」 怖い。 そんな言葉が頭の中をぐるぐる回る。 私が小さい時、お父さんは私を事故から庇って死んだ。 そこからかな。お母さんの私への態度がこんなふうになったのも。 『アンタのせいで!!あの人が……あの人が死んだのよっ!!あんたさえいなければ!!!』 『ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!!だから、叩かないでっ、お母さん!』 そんなお母さんに浮かんだ感情は。 恐怖。 そんなことだった。 今日は、私の誕生日。 でも、祝ってくれる人なんていない。プレゼントもない。 何で私だけ、こんな目に遭わないといけないの?周りの子達は、みーんな幸せなのに! 私だけ、こんな仕打ち。 悲しい。悲しい!この世に神様なんて、存在しないんだ。 次の日。 私が起き上がると、プレゼントが置いてあった。 びっくりしながら中を開けてみると、そこには一つのブレスレットが入っていた。 菫色の、綺麗なブレスレット。 私は数分間、そのブレスレットに見惚れていたが、ハッとした。 誰がこんなプレゼント、おいたんだろう。お母さん……なはずないよね。 ふとプレゼントの中を見ると、一つの手紙が入っていた。 『すみれへ。 すみれ、すみれは幸せかい? 僕はね、ずっと幸せだったよ。素敵な家族に恵まれ、優しい妻もでき。 うん。今思い返しても素晴らしい人生だった。 でも、僕は少し幸せすぎたようだ。 だから、すみれに幸せのお裾分けをするよ。 君の名前はこの、菫色のブレスレットから名付けたんだよ。 すみれに少しでも、幸せが訪れますように。 ずっと、願っているよ。 優太』 気づけば、涙が溢れていた。 顔も知らないその相手に、私は泣いた。 そして、私はそのブレスレットを腕に嵌めると、下の階に降りた。 いつものように、お母さんはスマホをいじっている。 お母さんは私に気がつくと、目を見開いた。 「ねぇ……そのブレスレット、どこにあったのっ!?」 「え…朝起きたら、プレゼントの箱に入ってて……優太さんって人から」 そう言うと、お母さんはもっと目を開いた。今にも目がこぼれ落ちそうだ。 「う、そ……だって、優太はもう……」 「その優太って人ね、これ、幸せのお裾分けだって言うの。おかしいよね!」 ポロポロと大粒の涙がお母さんの目からこぼれ落ちた。 驚いて、私は一生懸命お母さんを慰める。 今までお母さんが泣いてるところなんて見たことがなかった。 「どっ、どうしたの!お母さん!どこか痛い?」 「私って、馬鹿だわ……。この子は何にも悪くないのに、八つ当たりして……」 そう言うと、お母さんは私に笑いかけた。 「誕生日のプレゼント、買いに行こっか!」 「もう、もらってるよ」 私のプレゼントは。 「お母さんの笑顔」それだけで十分。 そのブレスレットは、私の一つだけの宝物になった。 end