Sue
4 件の小説Sue
「すぅ」です。 Usの日常や好きだと思ったこと、綺麗だったもの、悩み、その他もろもろを投稿していきます。 Usでは、物語と詩の作品を、 Sueでは、エッセイを。 アイコンはフリー画像にございます
U. R. Fever
平熱、三十六度七分 それより少し冷めた優しさを。 私が火傷せずに、持ち続けられるように。 死んだミミズを土に埋め、 道端で手を合わせたところで、巡り廻るものはない。 友人を傷つけた私のひとことの方が、 ずっと。 私たちの間で廻り続けている。 私が隠せなかった態度ひとつが。 言葉にすらできないほど小さなひっかかりになった。 嫌だとあの人が言おうとしても、 口元から水が溢れるように、ただ流されて終わる。 言葉に当てはめてしまえば、 ちっぽけにすぎなくなる。 等身大の違和感は、 私があの人にこびりつけて、困らせてしまった。 優しくなりたい。 それは「あなたは優しいのね」と言われたかったからなのかしら。 自らすすんでする自己犠牲に。 酔えるからかしら。 自己犠牲を優しさとはきちがえた、 愚かな私。 切断した私の一部が燃えるように痛む。 微熱と、言い張れない高熱。 あなたの平熱に合わせた優しさじゃ。 あなたを救えやしないのよ。 わたしの平熱に合わせた優しさで。 あなたは私を救えやしないの。 スープを口に運ぶあなたの髪が、 スープに浸からないように、 隣でそっと、あなたの髪を耳元へかけてやるより。 もっと。 近づけば熱くて振り向く優しさなどではなく、 馴染むような優しさを。 まるで、日焼け止めを塗り込むように。
近況
夏が侵食し始めた。 瞼から汗が滴り落ちて、グラウンドに倒れ込む。 私の心拍数とは反対に、 雲はゆったりとゆったりと空を流れていく。 あまり痛くない怪我を理由に、 サボった練習の罪悪感を胸に抱えて、 美しい空を見上げていた。 中途半端に弱くて、強くなれない私。 頑張ることを、諦める私。 ひどく惨めに思えた。 汗が染み込んだシャツをしぼって、 ほんの少し水分補給をしたと思えば、駆けていく仲間。 いたるところにテーピングをして、 それでも必死に食らいついていく仲間。 テーピングも何もせずに、 痛くもない体をさすって何もしない私。 だから、夏が嫌いだ。 自分の醜さが隠せない。 澄んだその世界が。 私には苦しくて仕方がない。 暑さで汗が背に滲む中、 また私は学校へ行き、授業を受けていた。 賢いクラスメート。 ついていけてしまった授業。 結局、私は中途半端に理解力があって。 落ちこぼれにもなれず。 虚勢を張って、堕ち続ける。 ふと、羞恥が胸を刺した。 物語を書くこと。 なかなか人とは被らない趣味。 その特別さに酔う私。 ノートの切れ端にイラストを描きなぐることと同じだけ、 ありふれた行為に。 私は、ひとと違う優越を抱えていたのだ。 誰も、思いつかないでしょうと。 その醜さに吐き気がした。 そんな驕りを持って、私は書いていたのか。 いいね一つ。 コメント一つを期待するためだけに。 私は無理やりにも頭の中の絵を。 勝手に解釈していたのか。 私は醜い。 だから、せめて。 自分で私の書いた物語の価値を、探したいのです。 いいねがなくとも。 誰にも読まれなくとも。 絶対的な価値を。 私は見つけたいのです。
あぁあ。
できるだけ気づかないように、 そっと隅にやって。 思い出で覆い隠してしまおうと思っていた。 泣き崩れたわたしに合わせて、 しゃがんでくれたあの人は。 まだ一度も呼んだことのない私の名前を呼んで。 それは穏やかに微笑いました。 少し、困ったように鼻をかいて。 私が泣き止むまでずっと。 意味もなく、ただ哀しい、哀しいとしか言えなくて。 ごめんな、一人にさせてと謝られて。 その言葉が余計に悲しくて、 ふと顔を上げれば、澄んだ目と。 優しさを含んだ目元が静かに私を見つめていました。 三文小説のように。 終わらないと分からない恋があると。 淡いながらも私はその心と切なさを知りました。 込み上げるこの想いは。 もう、泡沫のようなものなのです。
ごめんね。
丸い背中ひとつ。 すぐに抱きしめてやらない私のその頬を。 誰か張り飛ばしてくれ。 高一になったから、と。 もう増えない貯金を切り崩して、 祖母は小遣いをくれる。 私はありがとう、とそのお金を受け取る。 そして、祖母は百八十度にも開かない皺々の腕を、 私の方へと向ける。 私はその体をグッと抱きしめて。 濡れる肩に気づかないふりをした。 ありがとう、ありがとうと祖母は泣く。 小遣いと引き換えに、祖母を抱きしめているような気がした。 少し、家庭の中でごたごたが続いていた。 それはまっとうに生きてきた祖母を何度も打ち据えた。 古い考えだと父に罵られ、 しょうがないのよ、昔の人だものと母が嘲っていた。 祖母は責めることしかできなかった。 彼女にはもう解決する手立てなど残っていないのだ。 時代が、あまりにも目まぐるしく変化しすぎていた。 それでも祖母は諦めずに、 自分を新しくしようと色々なことに挑戦し始めた。 和太鼓、デッサン、その他もろもろ。 変わる努力をしていた。 だか、それをひとにまで押し付けていた。 私が変わる努力をしているのだから、 あなたも頑張ってねと。 死に物狂いで頑張っている家族にすら求めてしまったのだ。 限界以上の頑張りを。 子に責められ、 何度も自身を責め、 人を罵り、 罵られ、 嘲られた祖母の心は疲弊した。 私が毎日学校へ行き、部活に参加したそれだけで。 あの人はとても褒めるようになった。 偉いね、えらいね、頑張ってるねと。 憐れなほど、価値観が変わってしまった祖母を。 私はただ傍観していた。 祖母に責められ、 心を疲弊させた母を知っていたからだ。 どちらかを擁護する選択など私にはできない。 布団の中で、 ごめんなさい、ごめんなさいと何度も泣いて謝った。 ごめんね、おばあちゃん。 ごめんね、と。 家族が揺らいだ不安を抱えさせてごめんなさい。 あなたはそのまま、生きていけるはずだった。 小遣いをもらったときにしか。 抱きしめられなくて、ごめんなさい。 あなたはただ、孫に抱きしめられたかった。 家族の温かさを伝えられるのは私だけなのに。 毎月、小遣いを渡す日が来ると、 朝から嬉しそうにそわそわと後で渡すからねと、 くしゃくしゃな顔を余計にくしゃくしゃにして。 お金を喜んで差し出して、 私にハグを求める。 やめてよ。 小遣いを出さなくたって、 あなたを抱きしめるわ。 それをしないのは私。 この臆病で卑怯な私。 なんてことを、家族にさせてしまっているの。 お小遣いでしか、私に抱きしめてもらう対価がないとでも。 あの人は思っているのかしら。 対価など、 育ててきてもらった恩と、愛情で。 私が返せないほどなのに。 この不孝者め。 その背中の小ささを知っているでしょう。 いつもアイロンのかかった服が、 皺々になっていることだって。 ものを書くことが嫌いな祖母の手帳が、 溢れ出るほど書かれていることを知っているでしょう。 謝ったってしかたがないのよ。 電気もつけずに、椅子に背を丸めて座る彼女から。 目を逸らしたのは私。