佳名汰
6 件の小説推理小説とは何たるものか
「たとえばさ、物語の序盤で人が死にましたーっていきなり言われても読者からすると全然実感湧かないじゃん。」 「そりゃ現実味ないもん。そういう設定かーって冷静に見ちゃうかな。」 「そうそう。だから人が死ぬ話にしたいのなら序盤はやめといた方がいいんだよ。」 「ええ−−。でも最初っから人が死んでても面白い話は沢山あるじゃん。」 「たとえば、何があるのよ?」 「………。」 「ほら。すぐにはでてこないでしょ。そういうもんなのよ。アガサクリスティーの『そして誰もいなくなった』だって序盤から人は死なないでしょ。」 「大事なのは何かこの雰囲気、事件が起こるのかな?誰か死ぬのかな?って思わせることだって思ってる。だから突然死なせるのはよくない。 でもわたしは読者には『あっ』と驚かせる作品を届けたい。予想しててもその予想を遥かに上回るミステリにしたい。 つまりはもっと沢山本を読んで、推理小説について学ばなきゃいけないってこと。梨奈はどう思―――――――――」 「梨奈?」
憂等生
最初の方は百点目指してた。 それが九十点になって、 八十点になって、 七十点になって、 平均点になって、 五十点になって。 気がついたら赤点さえ取らなきゃいいやって考えるようになっていた。 いつからこんな風になってしまったんだろう。 中学生の時はこんなに落ちぶれていなかったのに。 自分が努力できない人間だって分かって認めてしまってからはもう毎日がつまらない。 今日もがんばれなかった、昨日もがんばれてない、ならきっと明日もがんばれない、、、。 こんな無限ループはもう嫌だ。 そう思いつつもスマホをいじる日々。 今だってほら−−−−−−−−− ね、いじってるでしょ。
精一杯の
本当にごめんね。 私、弱虫で臆病者だから思ったことを口に出すのが怖くていつも反対のことを言っちゃうんだ。 君がせっかく選んでくれたプレゼントなのに 「別に頼んでなんかない」 とか可愛げないこといったり、 帰りが遅い私と一緒に帰ってくれる時にも 「待たなくてよかったのに」 とか。 思えば君には迷惑ばっかりかけていたね。 でも、 それでも君はどんな私でも好きって言ってくれるから 不器用ながらも君の隣を歩いていけたんだ。 だからこそ君のこと本当はどう思ってるの、って聞かれたらこんな事しか言えない。 「嫌いじゃないよ。」 これが、私が言える精一杯の告白。
今日もねずみは生きている
「生きてるってどういうことなの?」 知りたがりなねずみが聞いた。 「死んでいないこと」 「動いてること」 「息をすること」 「食べること」 たくさんの動物がこたえてくれた。 それでもよくわからなかった。 「死んでいないってどういうこと?」 「動いてなかったらだめなの?」 「息を止めてたらだめなの?」 「ダイエットはしちゃだめ??」 つきあっていられないよ、動物たちはそう言って次々とねずみのもとから去っていった。 薄暗い下水道、昼か夜かもわからない湿った場所でひとり考え続けた。 「……全然わからないや。」 とぼとぼ歩いていると、隣を流れている川からゆらゆらと浮いてきたざりがにが話しかけてきた。 「何か悩みごとかい?」 ねずみはほかの動物に聞いたことをざりがににも聞いてみた。 「うーん……」 ざりかにもきっと答えを知らないんだろう。ねずみが諦めかけたとき、 「じゃあねずみくんは生きていることについてどう考えているんだい?」 「それがわからないからみんなに聞いてみたんだ。」 「うん、そうなんだよ。」 うれしそうにゆびをくっつけたりはなしたりしている。 「だれにも、答えは分からない。だってその答えはひとそれぞれにちがうから。」 「ねずみくんは好きなこととかあるかな?」 「……わからない。」 「じゃあ、嫌いなことは?」 「………。」 勇気をだして、きらいなことをざりがにに打ち明けた。 「………ひとりぼっちは、悲しい。」 そうか、どこか遠い目をしながらざりがにはつぶやいた。自分の過去のことを思い出していたのかもしれない。 ざりがにはおほん、とひとつ咳払いをして改まった口調でこう言った。 「ねずみくん、ぼくと友達になろう。」 背景に映る川がいつもよりきらきらと輝いてみえた。
はじめての、
「ねえ、今までに何回恋した?」 「……一回もないよ。」 「え−−、ほんとに〜??」 「ほんとに。」 「小学生の時は?」 「ない。」 「じゃあ幼稚園!」 「ないってば。」 ないって言ってるのに。お願いだからこの話を続けないでくれ。心に頑丈な扉を閉じてさらに、鍵をかける。 「一回くらいならあるでしょ、誰だって。」 予鈴のチャイムが鳴り始めたこともあって、友人は自分の机に戻っていった。とりあえずは回避できたようだ。 「……あんたが初めてなのよ。」 誰にも聞こえないくらいの小さな声でそう呟いた。
涙をみせない彼女。
どんなに意地悪されても泣かない子がいた。 仲間はずれにされても上履きを隠されてもでたらめな噂を流されても。どんなことをされてもその子は決して泣かなかった。 わたしはそれをただ傍観してるだけ。一緒に無視するわけでもなく静かにその子を目で追っていた。 いじめっ子は平気な顔をしているのが気に入らなかったらしくて幼稚な行為がさらにエスカレートしていった。それでもやっぱりその子が泣くことはなかった。どうして泣かないんだろう。泣いて、男の子や先生に助けを求めればいいのに。そうしたら楽になれるのに。 朝、目覚めと共に日直だということを思い出したので急いで準備し走って学校に行った。不規則に乱れた息を整えるように膝に手をあてる。顔を上げると誰もいない教室でひとり黙々と机の落書きを消しているその子がいた。 口を開いてから言葉を発するのに数秒かかった。意を決して聞いてみる。 「どうして泣かないの?」 はぁ、と一度溜め息をついてから真っすぐ、睨むようにこっちをみて言った。 「辛くないから。」 「いじめをする人は誰かに気持ちをぶつけたくてやってるだけ。ただのストレス発散なの。だったらそれを上手くかわせばいい。」 どうせすぐ飽きるだろうしね、消しかすを集めながら呟いていた。その子は、いや彼女はとても落ち着いていた。 彼女が泣かない理由が何となく分かった気がした。助けを求める必要がなかったのだ。心がとても強いから。いいな。わたしもそうありたい。もう、見てみぬふりをしたくない。