トモ
2 件の小説魔法少女は終わらない?
「葵唯(あおい)様! ご無事ですか!?」 戦闘が終わるや否や、すぐさま魔法少女…月咲葵唯(つきさきあおい)様の元へ駆け寄る隊長。 「お身体の具合は」「残る痛みはございませんか」「違和感などございましたら、直ぐにお申し付けください」 隊員達も駆けつけ、魔法少女様がご無事かどうかを確認する。彼女の身になにがあれば世界は…少なくとも、この国は終わりだ。問われた少女は… 「大丈夫です。最後のは折れただけでしたし、大したことはありません。ご心配いただき、ありがとうございます」 折れただけ。そう口にしてしまえる程、既に彼女は戦士としての生活に慣れていた。だからといって、十六歳の負傷を許容して良いはずもないが…… 「申し訳ございません! 私がもっとしっかり、手を握っていれば……本当に、申し訳ございません…!」 飛び出した子供の母親は、血の気の引いた顔で必死に謝罪を繰り返す。無理もない。葵唯様の命は我が子より重い。決して子の命が軽い訳ではなく、それ以上に重いのだ。葵唯様の御命は。 「…お母様。厳しい事を言うようですが、彼女は我々人類に残された唯一の希望です。今後二度とこのような事が無いよう…くれぐれも、お気を付けください」 それは至極真っ当な叱責だった。彼女を失えば、人々はただ死を待つのみとなる。 「はい…重々承知しております…! 葵唯様…どうか、お赦しください…」 「ご…ごめんなさい…」 齢十六の少女へ平伏し、赦しをこう母。子供もペコリと頭を下げ、謝罪を述べる。 「ちゃんとごめんなさいできて偉いね。でも、このおじさんの言う通り、私の身に何かあったら君も…お母さんも、ここに居るみんなが大変な事になっちゃうの。何より、もし私が間に合わなければ…君はいっぱい血が出て、凄く痛い思いをして、そのまま死んじゃっていたかもしれない。そのお人形、きっと君にとって凄く大事なものなんだろうけど、それだけしか見ていなかったら、もっと大切なものまで失くしちゃうかもしれないの。だから、これからは気を付けるんだよ」 少女は、高校一年生とは思えないほどに立派な娘だった。目線を合わせ、叱る声は優しく、何故いけないのかも含めて真っ直ぐに伝える。それも、厳しく言わずともちゃんと聞いてくれる子だと判断したからこそ、そのように伝えていた。 「危ないことして…ごめんなさい。それに…怪我させちゃって…ごめんなさい…」 「よしよし、反省は大事。まあでも…私は痛いのには慣れてるから、あれくらいへっちゃら! ごめんなさいも大事だけど、私としては別の言葉が聞きたいかな。ほら、私…頑張って君達を守り抜いたでしょ?」 そう。彼女は今回も、全ての人々を守り抜いた。今回も死傷者は居ない。そこら中に飛び散った血も…点在する血溜まりも…あちらこちらを赤く染めているのは、その全てが彼女一人の血だ。私は治る。みんなは死んでしまう。だから庇い、立ち上がり、守る。まさに不屈のヒーローだ。 「うん! ありがとう! お姉ちゃん!」 「えへへ…どういたしまして!」 もちろんお礼を言ってもらえるのは嬉しいが、それを求めてやっているわけではない。彼女がお礼を求めるのは決まって、相手が罪悪感を露わにした時だ。「ごめんなさい」より「ありがとう」それはもはや、彼女にとって口癖のようになっていた。 「葵唯様、そろそろ帰還のご用意を」 「はい。…あの、何度か言ってますけど、そんな堅苦しく接してもらわなくて大丈夫ですよ? もっと気安くタメ口で…それに『葵唯様』っていうのも変だし、呼び捨てで呼んでくれた方が…」 魔法少女様の要求を、隊長殿は拒む。 「…申し訳ございません。貴方と比べれば、私は無力です。私には…まだとても……すみません」 「そうですか…困らせるような事を言ってしまってすみません。準備も出来ましたし、帰還しましょうか」 もちろん無理強いはしない。準備を済ませて帰ろうとするが……隊長の方が立ち止まり、物陰で見ていた者達へ声をかけた。 「ああ、そうだ。その前に、君達!」 「え? 俺らっすか?」 「何です?」 見るからに不真面目そうな男と、子分A感マシマシな男。 「野次馬か? 前にも見かけたような気がするが、面白半分で見にくるようなものじゃないぞ」 「なんだと?」 子分B。カルシウムの足りていなさそうな男。この3人 は以前にも見かけた覚えがあった。あまりに堂々としすぎているため、流石に魔物を生み出している首謀者ということはないだろうが、何かよからぬ事を企んでいそうな奴らだ。 「バカ、やめとけ。すいませんね〜隊長さん。俺らファンなもんで」 「…彼女のか?」 見た目で判断するのは良くないかもしれないが、本当にただのファンか、疑わしいところだ。 「そうっすけど、あんたのことも尊敬してるんすよ?」 「冗談はよせ」 「やだな〜本気っすよ〜」 「付き合いきれん。いいからさっさと帰りなさい」 「へいへい」 まあ、魔法少女様に手を出す馬鹿は居ないだろう。そう…思っていた。 「兄貴! やっぱり凄いっすね、月咲葵唯。変身すればいくらか痛みにも強くなるんでしょうけど、ちっとも怯まずに立ち向かってましたよ!」 「すぐ治るとはいえ、よくやりますよね。…あんなの相手に、上手くいきますかね?」 「今更何言ってんだ。そのためにずっと準備してんだろうが」 彼らは馬鹿だった。 「まあ…魔法少女といえど、変身してなきゃただの女の子っすよね」 「それに、俺にはコレがある」 「…そうですよね。これがあれば流石に……」 「待ってろよ、月咲葵唯。英雄だの救世主だのと崇められたって、テメェはただの女子高生だって事を分からせてやる…!」
終わらせたくない少女の献身
「はあ!」 「ギギ…ギイ!」 武器を手に、巨大な化け物を相手取る少女。悍ましい姿をした異形の怪物にも怯む事なく、少女は立ち向かう。 「しつこいですよ! いい加減、倒れてください!」 今回も戦闘は長引き、周囲の至る所が赤く染まっている。 『魔物』と呼称されるそれはあくまでそう呼ばれているに過ぎず…その実態は、一年前に落下した隕石を用いて異形化させられた昆虫だ。外殻は硬く、並大抵の攻撃では傷一つ付けることができない。 「やああ!」 「ギイイッ…!」 その強靭な外殻へ、一発でヒビを入れる少女。少女が扱う武器もまた、隕石由来のエネルギーを有していた。そもそも『魔法少女』の武器や衣装は、魔物の遺体から抽出されたエネルギーにより形を成している。 魔法少女は核兵器三発を要した化物を単独で狩ることの出来る、唯一の存在だった。 「えい!」 「ギギギッ…!」 「はあっ!」 「ギギャァ!?」 魔物は何の前触れもなく、突如出現する。巻き込まれた人々を庇いながらの戦闘となり、毎回多くの血が流れることとなるが、ようやく避難も完了し、逃げ遅れた人はもう居ない。実力は少女が上回っており、討伐まであと少しといったところだ。 ……誰かを庇う必要さえ無ければ。 「あっ! 今なら!」 「…え?」 「待って! 待ちなさい!」 今なら拾えるかもしれないと、子供が母の手を振りきり、落とし物を目掛けて一目散に駆け出す。当然、魔物もすぐさまそれに反応した。 「ギイ!?」 「あ…」 「ギシャア!」 劣勢のため子供を利用…などといった知性は持ち合わせていない。ただ突然向かってくる何者かを迎撃しようとしただけ。それ故に…弱者を嬲るためのものではなく、未知なる脅威を近寄らせないための、渾身の一撃が放たれる。 「危ない!」 着弾する直前、間一髪のところで割り込んだ少女。纏った衣は魔物の外殻程ではないが、それなりの防御性能を有している。鉄の鎧程度であれば容易く砕くそれを受け止めてもなお、少女の腕は “繋がっていた” 「ぐっ…!」 幼さの残る容姿には到底似合わぬ、低くくぐもった声。日々過酷な訓練に耐え、痛みに慣れた英雄様がこの程度で挫けることはない。それでも…少女がどれだけ我慢強くとも、 “腕が折れ曲がる痛み”というものは、一切声を発さずに耐えられるようなものでは無かった。 「ギギイ!」 「不味い! 援護しろ!」 一般部隊の隊員達は隊長の命を受け、直ぐさま援護射撃を開始する。隊長に至っては通常装備でありながらも、 魔物を煽るように駆け出し、自らを囮とした。 「ギィィィ…」 効果が薄いとはいえ、通常兵器も全くの無駄という訳ではない。現に一体目の魔物は、多大な犠牲を払いながらも自衛隊によって討伐されている。時間を稼ぐだけであれば充分だ。 「葵唯(あおい)様への追撃を許すな!! 葵唯様! 恐れ入りますが、早急に回復を!!」 「ゔっ…! みなさん! ありがとうございます! 後は私に任せてください!」 魔法少女の使用する『回復魔法』は、 自らの傷しか癒せないものの、その効果は絶大だ。彼女…月咲葵唯(つきさきあおい)は、どれほどの傷であっても一秒足らずで全快させることができる。一般部隊の援護はあくまで万全を期すための補助に過ぎなかった。もちろん、無くともやれるというのは無くても良いということにはならない。それでもやはり…… 「はあああああ!!」 「グギィィィィィィィィィ…!」 この国の…世界の存亡は、彼女一人にかかっていた。