美優
34 件の小説三十四話 幻の一枚
食事会の日が来た。 惜しくも大ちゃんの誕生日前日。 翌日の誕生日は私と大ちゃんは公休だったが、有希が中番、ユータンに至っては遅番だったので、全員が遅番に当たっていない前日にする事にしたのだ。 少し早めに着くと、まだ前の組が終わったあとの片付けが出来ていないとの事で、母屋のレストランのロビーで待たされた。 「これ! みんなで写真撮れるよ?!」 ユッキーが、あるゲーム機のような物を指さしながら嬉しそうな声をあげる。 それは、ロビー横のちょっとしたゲームコーナーに置かれていて、その機械の前にみんなで立って撮影ボタンを押すと撮影できるというものだった。 今のプリクラの走りのような機械と言えば良いだろうか。 当然、撮るだけ。 ただ写るだけ。 全く盛れない。 それでも物珍しさにはしゃぎながら撮ったあの頃。 でも、それがどんな仕上がりになったのか見ることはなかった。 何故なら撮った直後に、 「用意が出来ました。」 とお店のスタッフさんに呼ばれ、慌ててそちらへ向かおうとバタバタしている間に、出来上がったはずの写真が失くなってしまったから。 それは、食事の後にも戻って探してみたが、どうしても見つけることが出来なかった。
三十三話 幻の一枚
80、90年代はバンドブームであった。 仲間でバンドを組み、ライブハウスなどで演奏するのも流行していて、大ちゃんも例にもれず、高校の時から仲間達とバンドを組み、ドラムをやっていた。 BOØWYやTHE BLUE HEARTS、ユニコーンなどが80年代を中心に活躍し、私は特にBOØWYが好きだったが、大ちゃん達はBUCK-TICKやZIGGYのコピーを演ったり、自分達のオリジナル曲を演奏したりしていたようだった。 そうだ。 ドラム関係のものをプレゼントしよう。 ドラムスティックとか? 思い立ったはいいが、どこへ行けば買えるのかわからない。 音楽関係の店はピアノやエレクトーン関係、あってもギター関係ばかり。 今の時代なら部屋で座ったままネットショッピングが出来るのだが、当時はひたすら探すしかなかった。 当然、当人には内緒なので聞くわけにもいかず、全く何もわからない素人が、行き当たりばったりでひたすら歩いて探す。 後で思えば、ドラムの専門雑誌などで販売店を探せば良かったのだが、全く思いつきもしなかったおバカさんな私は、手当たり次第に歩いてクタクタになった。 丸一日ウロウロ探し歩いてグッタリした私の目に、ある雑貨店にディスプレイされていた置物が飛び込んできた。 あっ可愛い…… それは、まるで本物を縮小したかのように細部まで作り込まれた、小さなドラムセットの置物だった。
三十二話 みんなでね!
焼肉かぁ。 焼肉ねぇ。 まぁ焼肉でもいいんだけどね。 行ってみたいお店もあるし。 私は1軒の店を思い浮かべた。 少し山の中に入ったその店、というかレストランは、広い敷地の中に母屋のような建物があり、周囲にはバンガローを模した個室が何棟か建っている。 敷地の階段を降りると小さな川も流れており、まるでちょっとしたキャンプ場のようなレストランだった。 母屋は普通のレストランメニューだが、周囲のバンガローは、時間限定の焼肉食べ放題メニューを注文した客のみが利用できるシステムだった。 あそこでいいかな? 個室だから気兼ねなく楽しめるし。 あらかた自分の中で決めてから、主役を誘いに行く。 「ねぇ。〇〇日予定ある?」 私はあらかじめシフト表で調べておいた、みんなが何とか早めに参加できそうな日を挙げて聞いてみた。 「いや、ないけど?」 「じゃあまたみんなで食事行かない?」 「えっ? ミューズと?」 「?……いや、みんなでだよ?」 「ああ! みんなでね! 勿論行く!」 急に嬉しそうにはしゃいだ大ちゃんの顔を見て、「だよね~」と思う。 やっぱり私と2人で行くかもと勘違いした時よりも、4人で行くと分かった時の方が嬉しそうだよ? ユータンってやっぱりどこかズレてるっていうか、トボケてる。 でも私は3人が大好きだ。 4人揃って休みが一緒になることはないから、ゆっくり遊びには行けないけど、こうやってたまに食事に行ったりすることが楽しいし、みんなも喜んで参加してくれることが何よりも嬉しい。 「じゃあ、焼肉でいいかな? 行きたいお店あるんだけど。」 ユータンを心の中で責めた割には、私もあっさり主役の好みをフル無視する発言をしたが、 「はい! お任せします。幹事さん。」 大ちゃんは、犬ならきっとちぎれんばかりに尻尾を振っているだろうなと思われるほど、喜びを全面に表した。 喜怒哀楽の激しい奴ちゃ…… またおかしくてたまらなかったが、大ちゃんの笑顔を見るのは嬉しくて、癒やされる思いがした。 帰宅後にレストランへ電話をして予約を取った。 さてと…… 後は大ちゃんへの誕生日プレゼントなんだけど。 どうしよう……
三十一話 みんなでね!
6月に入った。 今度は大ちゃんの誕生日がある。 またみんなで食事にでも行こうか…… ユッキーに相談すると、 「うん! 行く行く!」 と喜んでくれたので、ユータンを誘ってみる。 「今月、大ちゃんの誕生日があるから、良かったらまたみんなで食事でもどうかな?」 喜んでOKしてくれると思いきや、 「え? 2人で行けばいいんじゃない?」 と言うユータンの言葉に私は戸惑った。 「ええっ? 何で2人で? いや、いいよ。 みんなで行く方が大ちゃんも喜ぶし。」 「そうかな? あいつとデートとかしてないの?」 ユータンの中では、完全に私と大ちゃんが付き合っている体になっている。 「いやいやいや、してないよ。誘われないし。」 「あれ? そうなの? 約束とかしないの?」 「するも何も、恋人でもなんでもないから。」 「ふ~ん。付き合わないの?」 「何でそうなるのよっ! 年の差ありすぎだよ? 姉弟だとしても離れすぎてるよ。」 話を振ってくる割りに、私の返事を興味なさげに「ふ~ん。」と聞いていたユータンは、 「まっ、いいや。じゃあみんなで行こうか。俺、焼肉がいいんだけど? 焼肉にしようか。」 と、主役の好みをまるで無視する発言をしてニンマリと笑った。
三十話 見捨てないでやって
その後、何だか機嫌の良くなった大ちゃんを、お兄さんのような優しい目で見つめていたユータンは、帰りの会計時、 ユッキーと大ちゃんの2人が精算をしに行っている間に、そっと私の横に来ると、 「あいつは繊細で天邪鬼で、本当に難しいタイプだけど、色々と苦労もしてる子だから。 ミューズ、あいつの事を嫌いにならないでやって? いい子だから。 あいつはいい子だから。 見捨てないでやって。」 と話しかけてきた。 「嫌いになんかならないよ。 それよりもMの話の時に気を悪くさせちゃったみたいだけど…… もしかして…… 別れた彼女さんのイニシャルがM……だったとか?」 「いや、俺はあいつから彼女の話も全部聞いてるけど、彼女のイニシャルはMじゃなかったよ。」 「そう? なら良かった。 じゃあ機嫌悪いと思ったのは気のせいかな?」 途端にユータンはイタズラっぽく笑い出し、 「そういうことにしといてあげて。」 と言って、それから一切理由を教えてくれなかった。
二十九話 見捨てないでやって
私の25回目の誕生日は素敵なものになった。 ユッキーがくれたトートバッグは可愛くて使い勝手も良さそうで、ウルッときていたところに、 「3人からだよ!」 とサプライズでバースデーケーキが運ばれてきて、もうそれで完全にやられて泣いてしまった。 3人はそんな最年長者を、まるで妹を扱うように優しく笑ってポンポンしてくれた。 二次会はカラオケに行った。 B’zや槇原敬之が流行っていて、大ちゃんがB’zの「BLOWIN’」、勇人(ユータン)が槇原敬之の「どんなときも。」、ユッキーが今井美樹の「PIECE OF MY WISH」などを唄う。 「ミューズ! なに唄う?」 ユッキーに聞かれて、 「え~と、『M』でも唄おうかな?」 と慌てて答えた。 PRINCESS PRINCESS 「M」 「Mってミューズと私のイニシャルがMだね(笑)」 ユッキーが言う。 確かに森崎と美優だな。 「でもこれ完全に失恋の曲だよ~ しかも自分がMじゃなくて、相手がMじゃないと~」 と、私が言うと、 ユッキーも、 「あっ! ホントだね(笑)」 2人で笑っていると、 「飲み物頼むけど何かある?」 と、つっけんどんな言い方で大ちゃんが割って入ってきた。 勇人改め、ユータンが微妙な顔つきでこちらを見ている。 えっ? 私? 何かやらかした? 訳がわからなかったが、もしかしたら大ちゃんの別れた彼女のイニシャルがMだったかな? それならまた申し訳ないことを……と焦り、いつも気配り上手な有希の真似をして、 「ちょうど飲み物欲しかったんだぁ。ありがとう。」 と笑顔で言ってみた。 途端に大ちゃんの表情が緩んだ。 恐るべし、ユッキーさん流気遣い効果……
二十八話 俺の誕生石
レストランに着き、「森崎の名前で予約していると思うのですが……」と伝えると、奥のテラス席に通された。 周りには広い芝生が広がっており、ライトアップされた噴水がなかなかロマンティックな雰囲気を醸し出している。 さすが有希。 案内されて用意された席に近づくと、有希と勇人が既に来ており、2人でなにやら楽しそうに笑い合っていた。 「お疲れ様! もう来てたんすか?」 そこに大ちゃんが嬉しそうに急いで近づいていく。 私は遅れて歩きながら、有希と勇人の姿を見つめていた。 絵になる2人だなぁ。 改めてしみじみ思う。 有希は色白で、いかにも育ちの良さそうな品の良い美人。 勇人は、好みは分かれるだろうがそれなりのイケメンで、今の有名人で言うならば向井理さんに少し似ていた。 そこに大ちゃんか。 はぁ…… 私だけ浮いてる…… 年齢も最年長。 顔も丸顔、丸目のタヌキ顔。 お客さんに「知り合いの娘さんに似てる」だの、「友達に似てる子がいる」だの、しょっちゅう言われる超平凡顔。 この3人といると嫌でも場違い感が…… 「何してるの! ミューズ遅いよ!」 大ちゃんに呼ばれる。 「え? ミューズって誰?」 「おい神谷、歳上の田村さんに偉そうな口をききすぎ(笑)」 有希と勇人が口々にそう言いながらウケている。 3人の笑顔を見ていると楽しい。 こんな何の取り柄もない私でも仲間と思っていてくれるようで嬉しかった。 この日を境に私達4人は急速に親しくなり、お互い仕事外ではあだ名で呼び合い、しばしば4人で遊びに行くようになった。
二十七話 俺の誕生石
有希が予約してくれた店は、大きなスペアリブとロブスターを売りにしているアメリカンスタイルのカジュアルレストランであった。 「ロブスターなんて食べたことないねっ」 何となくウキウキとはしゃぐ車内。 「うん。俺、スペアリブも食べたい!」 大ちゃんの話し方が完全にタメ口全開だ。 それでも大人びた外見とは逆の、子供っぽい大ちゃんを感じられて嫌な気持ちはまるでしなかった。 「ミューズ、ちょっと髪上げて。」 信号待ちで大ちゃんがこちらを向いて言う。 「んっ。こう?」 私はピアスが見えるように髪をかき上げる。 「うん。やっぱり似合う。」 大ちゃんは嬉しそうに私の頬に軽く触れた。 ちょっと恥ずかしい。 「そ、そういえばなんでブルームーンストーンのピアスを買ってくれたの? 高かったでしょ?」 「ん? ピアス欲しいって言ってたからあちこち見に行ってみたら、店員さんに話しかけられて。誕生石をもらうといいようなことを聞いたし、ミューズもこんなの好きそうかなって思ったし……」 すごく考えてくれたんだ…… 胸がキュンとした。 お店の人に聞いたからって、私の幸せを願って誕生石をくれるなんて…… ……んっ?! 誕生石? んんっ?! 5月の私の誕生石は確かエメラルド……だったはず…… 「ね、ねぇ? 5月の誕生石ってブルームーンストーンあったっけ?」 「ううん、6月。 俺の誕生石!」 信号が青に変わり、再び前を向いて車を発進させながら、大ちゃんはものすごく嬉しそうに答えた。 ……えっ 誕生石をもらえて幸せになるというのは…… 贈られる側の誕生石であって…… 贈る側の誕生石では……ない……んだ……けど…… もう、おかしくて仕方がなかった。 笑いをこらえるために、切れて血が出るんじゃないかと思うくらい下唇を噛み締めた。 「なに?」 私がずっと無言でいることを不審に思った大ちゃんが聞いてきた。 「うん? 本当に嬉しいな!と思ってたんだ。」 私は心からそう言った。
二十六話 抱きしめたい
「!? どうしたの?」 私の言葉には答えず、大ちゃんは私を抱きしめる腕にさらに力を込める。 私の耳にかかる彼の息がだんだんと荒くなる。 「キス……して……いい?……」 少し上ずった切ない声で聞いてくる。 私が黙っていると、彼は私の耳たぶに軽くキスをし、そのまま首筋にそっと唇を押し当てた。 「あっ……」 思わず声が出てしまう。 私の反応を見た彼は、さらに切なげな声で、 「唇……キス……したい……」 と囁きかけてきた。 「あ……それは……」 どうしよう。 付き合っているわけでもないのに…… 六歳も下なのに…… 私の気持ちが伝わったのか、大ちゃんは急に体を離すと、 「ごめん。少しそこらを散歩してから戻ろうか」 と私の頭を優しくポンポンとした。 * 「キャッ」 車を降りると足場が少し悪く、高めのヒールを履いていた私はふらついた。 うわっ、歩きにくい。 「そんな靴を履いてくるからだよ」 大ちゃんは少し笑い、車の後部座席から昼間の買い物で私が一目惚れして購入したサンダルを取り出した。 「え? いいよ。汚れちゃうよ」 「いいから! 早く! 時間なくなるよ!」 半ば強引にサンダルへ履き替えさせられ、海岸沿いをペタペタ歩く。 「あはは、ミューズ。ペンギンみたい!」 「ミューズとかペンギンとか言うなっ! サンダル大きくて歩きにく~い」 「手間がかかるなぁ。オバサンはこれだから笑」 「オバサン言うなっ! 大体……」 文句を言いかけた私の手を、大ちゃんが取る。 「何かすごく楽しい。朝までここにいようか?」 「何言ってるの。山田さんに怒られるよ!」 「嘘だよ笑 みんなでミューズのお祝いしなきゃ。少し歩いてから戻ろ」 大ちゃんは私の手を取ると、しっかり繋いで歩き出した。 夕暮れ時の海は風が心地よく、薄い青色を残した夕焼け空は、見上げるだけで心を癒してくれるようだった。
二十五話 抱きしめたい
「ね? つけていい?」 「うん」 早速付けてみる。 「うん。良かった。似合う」 ほっとしたように笑う大ちゃんの笑顔にドキドキした。 車内に少し気恥ずかしい空気が流れる。 「そうだ、これ! ちょっと入れてきたから」 大ちゃんがウォークマンを取り出し、イヤホンの片方を私に渡してくれた。 二人でイヤホンを片方ずつ付けると、Mr.Childrenの「抱きしめたい」が流れ出した。 わざわざ入れてきてくれたんだ…… うっとりと聴き入る。 「こういうのいいね」 「うん。抱きしめられたいって思うこととかある?」 大ちゃんが聞いてくる。 「そうだね。疲れてる時に癒やされたいとか。でもやっぱり、大好きな人に大好きな気持ちを伝えたい時、伝えられた時かな。抱きしめられたいし、抱きしめたいよ」 「そっか……」 大ちゃんは短く答える。 「男の人は違うの?」 「……同じ……」 大ちゃんは短く答えると、そっと私を抱きしめてきた。