川瀬 うそ

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川瀬 うそ

初めまして、川瀬です。 どんな内容でも読んだ感想を共有して頂けると嬉しいです🙌 更新は気分次第です笑

ポケットの中の言葉

ポケットのメモみたいに 言葉はしまっているうちに形を変える 伝えたかったはずの気持ちは 取り出すといつも少し違っている 何度も考えて 選び抜いた言葉 丁寧に並べたつもりでいても 伝えるまでの数秒に 何度も思い返して 声色や表情を頭の中でなぞる 形にしようとするたび 本当の意味がぼやけていく どこかぎこちない笑顔で 口にした瞬間 それは思い描いたものとは 少しだけ違っている 笑う君が言葉を拾うたび 僕の心は静かに揺れる 本当はこう言いたかったんだろ なんて 飲み込んでしまった言葉が 心の中で騒ぐ それなのに、時間が経つほど 浮かび上がるのは ポケットになかった言葉ばかりで 結局覚えているのは たわいない会話の方だ どこにでもあるような 何気ないやりとりが 身体の中に、確かに残っている ポケットの中には もうメモはない だけど 耳の奥では あの日の言葉たちが こっそりと擽っている

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ポケットの中の言葉

昨日と明日の間で

目が覚める 昨日と同じ景色が広がっている カーテンの隙間からこぼれる光 昨日の続きみたいな今日が始まる 駅までの道 すれ違う人たち 僕のことなんて誰も知らない だけどそれで良くて、それがいい そう思いながら コンビニのドアが開く 音無意識に手に取る缶コーヒー 並ぶレシートの数字が 今日があった証拠みたいに積もる 忘れてしまうんだ 何を話したのか、何を感じたのか 何もない今日は忘れられていく 昨日と明日の間に埋もれながら 無くしてしまったわけじゃない ただ、積み重なっていくだけ その全部が、僕になっていく 思い出せなくても、確かにあった ふと立ち止まった夕暮れの街 「つまんね」と呟いた声が 遠くへ溶けていく 昨日と明日に追われるみたいに ポケットの中の鍵の重さ カバンの底に沈んだメモ帳 どこにも行かないままの今日も 僕の中に積もっていく 忘れた日々の向こうで 僕は僕になっていく いつか気づく頃にはきっと 昨日とは違う僕がいる

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昨日と明日の間で

「1番なんてないけれど」

1番を目指して走った 子供の頃からずっと 早く、強く、高く そんな数字に追われてきた 気づけば、あの夕焼けも あの笑い声も見逃していた 日常の隅っこに転がる宝石を 拾えないまま、通り過ぎていた でも、1番に正解はないんだって あの日、聞いた言葉が 胸の奥で今も響く それを探す旅は、きっと終わらない コーヒーの香りに包まれた朝 たまたま目にした小さな虹 疲れ果てて座ったベンチから見えた 風に揺れる草の音 誰かと比べたいわけじゃない ただ、僕の中でそれが光る それだけで、十分だ 1番になりたがる僕らだけど もしかしたら、1番なんて いらないのかもしれない ただ、見つけたそれが1番だと そう感じられれば、それでいい 明日また違う1番に出会うだろう そうやって日々をつなぐのが 人生なんだろう だから今日も探せばいい 自分だけの1番を

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「1番なんてないけれど」

長生きできますように

両脇の木が、苔むした石段の隙間に影を落としていた。一段一段足を踏み締めるたびに、記憶が引きずり出されるように、頭の中に浮かんでくる。 毎日のように甲高い笑い声が聞こえていた通学路が過ったところで、ランドセルの少年がふたり、楽しそうに石段を駆け登っていった。懐かしい顔つきに、僕は言葉を失う。 頂上まで止まることなく登っていく少年の背中を見送ってから、もう一度ひび割れた石段を踏みしめる。掘り起こされる記憶の輪郭をなぞる。 *** 「長生きできますように」 放課後の教室で七夕の願いを書いていると、松野が隣の席から覗き込んできた。僕は慌てて短冊を手で隠してから、松野を睨んでやる。 「勝手に読むなよ」 けたけた笑いながら自分の席に戻る彼は、頬杖をついてから、求めていない感想を言いはじめた。 「なんか、地味だな。もっとこう、夢あること書こうぜー」 「ほっとけよ、松野は何かいたんだよ」 「宝くじが当たりますようにっ!」 聞き間違い、だと思った。宝くじ、と言う名前を聞いて、お母さんに怒られているお父さんの姿を思い出したからだ。  「宝くじ?」 改めて確認すると、松野は勢いよく首を縦に振った。どうやら、彼は母親に怒られたいらしい。変わった趣味を持つ友人の未来を僕は心配する。 「一等が当たると三億円も貰えるんだってぇ」 「三億円?」 「ああ、一等は滅多に当たらないけど、もし当たったら三億円もらえるって兄ちゃんが言ってた」 「ふ〜ん」 「当たったら、まっすーにも分けてやるよ」 「いらねぇよ」 僕がぶっきらぼうに答えると、松野は大きく笑い出した。その訳はもう、聞かなかった。 *** 階段を登り疲れしばらく立ち竦んでいると、生暖かい風に背中を押されて、僕は再び歩き出した。 松野の名前が深く刻まれている石は左奥にあった。墓石の前に立つと、自分だけのものだったはずの記憶が覗かれているような気分になった。何となく、松野が僕の中で生きる自分の存在を確認しているのだと思った。 手を合わせて、目を瞑る。今年は何を話すか、言葉を探す。 ああ、そうだ。 やっぱ長生きは、やめとけば良かったよ。 強く吹いた風の音が、いつまでも耳に残り続けた。

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長生きできますように