ユケパンク
6 件の小説ヤモリのベールを剥がすな#1
赤い閃光 紺色の叫び声 消えない傷 いつだって争いが孕む いつだってガロが孕む うちの父さんなんてガロにじいちゃんの皮見せつけられながら死んだし、 隣ンチの佐藤さんも空爆で一人になったし、 向かいの新庄さんも、親戚の高嶺ねぇも、学校の友達も、先生も、みんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんな ガロがみんなの世界を引っ掻き回して、潰して、丸めて、まとめてガロの世界に練り上げやがった。もう誰も死ななくていい。もう誰も、何も考えなくていい。支配に包まれ青ざめた世界で笑うのはただ一人、ガロだけだ。 地下3,000メートルの無機質な研究室。 ここには私と博士しかいない。 「10年、時間はかかったが完成できて何よりだ。その間この世界にはかなり苦しませてしまったが、それも、今日で最後にしよう。」 博士が異質な巨体を包んだ布をグッと両手で剥いだ。現れたのは車。ただ他と違うのは外見が縦に伸ばした卵形であること、ハンドルと車輪がなく、その代わりのように導線が廃墟の蜘蛛の巣の如く張り巡らされていることだ。 「こいつが前から話していたタイムマシンだ。我々研究員がガロから、唯一守り抜いた最高傑作。」 博士が厚みのある重い手で、私の手に銀色の"キー"を握らせた。 「ステルスガン、食料一ヶ月分、衣服一式、タイムマシンの中に必要なものは全部積んである。」 「未来を変えてくれ。」 博士の手の滲んだ汗を、私の手で握り返す。 「期待に応えて見せます。」 目的は、青年期のガロの殺害。および、ガロの抹消。 過去幾度もガロの暗殺は行われてきたが、次の演説には別のガロが現れるの繰り返しだった。影武者だったのだ。 安全レバーを下げ、ボタンを押す。 呼応するように、タイムマシンが貫くような轟音と光を放つ。 現時点、本物のガロは身元が全くわからない。唯一の手掛かりである「ガロ」とういう名前をなぞって、雲隠れする前に俺が消す。 「ジュッ」と言う音と共に全ては静寂に包まれ、私の意識は途切れた。
覚醒したまま
僕はまだここに囚われている。 狭い闇の中に、囚われている。 腹のうめきと、かすれた声と共に閉じ込められている。 「出してくれ、俺はまだここにいる!生きている!」 誰も来ない。叫んでも、狭い中暴れても、ここには一人しかいないのだ。抵抗するたびに、頭がきしむ。頭の傷の、鼻がもげるような血の匂いが満ちる。 ここは何処だ。私は何もしていないぞ。誰かに恨まれるようなことはしないよう、親に言われた頃から貫いてきた。30年ッ。なのにッ… 不安と緊張で、呼吸が、鼓動が加速する。 こんなに狭い中息しているのに、なぜ酸欠しないのだ? !声が聞こえた。ネズミのように小さいが、この声には聞き覚えがある。 「お父さん、酸素ボンベ持ってきたよ。 起きてたら、棺を叩いて。 お父さんが生きているって、私信じてるから。」 「お父さん死んじゃ困るんだよ。 散々ヤりたい放題しておいてさ、一人で逃げるとかさ、許すと思ってんの? あの女の方も隣で生きてるよ。あっちにもちゃんと向き合ってもらわないと困るし。 一生一緒にいてろ。」 土に覆われた、おそらくすぐ隣にいる彼女の叫び、怒号がかすかに聞こえる。ひどく、荒い声が、確かに、聞こえる。 背中が恐怖で熱く凍える。嗚呼、これが私の犯した罪と罰か。 だから僕はまだ眠る。
サイダー
「サイダーとか持ってみたらいいかもね」 うちを見つめるレンズがそっぽ向いて、カメラを持った蓮が言った。 「うちがテーマなんでしょ?サイダー持ったらサイダーテーマになるじゃん」 「もっといたほうが夏っぽいし」 と、軽くあしらって自販機の方に行った 蓮はうちと同じ写真部で、最後の夏の大会が近くて、その一枚の為に今頑張っている あたしだけじゃ足りないのか… 「いえてる。」 いらないセリフが彼に聞こえないように、 小さく呟いていたら憎たらしい清涼飲料水を持った彼が帰ってきた 「もう少しサイダー近づけて」 「…。」 足りない私に夏を掛け合わせたら もっと可愛くなれるかな
アンサー
なんでもっと愛してくれなかったの いつも貴方は私と喋る時 目を逸らしてしゃべっている。 愛の言葉とプレゼント 宛先が貴方のしかない 例え心で愛しても それを証明する勇気がなければ その勇気を出す愛がなければ あたしの未来への呪いになるだけ 貴方のことは好きだったけど 貴方の愛の完成を待つほど暇じゃないの さようなら
僕の終電
感性で生きているところがあると自負している 夕焼けや、近所のお婆さんの白髪を綺麗と思えるし、電車から見える街の人口光にも飽きない 人の死にも綺麗、綺麗じゃないといえのは見出せるのではないだろうか。 そう思って、私は手を掴んだ ホームから転落しようとする男の手を 名前も知らない手の死に様を 間一髪で引き戻し、終電が来た 男は死の淵を見たが、不思議と、どことなく落ち着いた笑みを表していた。 「あの、私これ終電なので行きますけど、また倒れ込んだりしないでくださいね!?」 少々荒げた声で男に向かって発した、が、 「いや、僕もこの電車に乗りますので、大丈夫です。」 青白い照明が揺れる車内で、私は男に尋ねた 「あの、どうして自殺なんてしようとしたかって、聞けますかね…?」 「いや、自殺しようとしたわけではないですよ。 ただ、自分の価値を試したまでですよ。」 「と…言うと?」 不思議になり、男に尋ねた 「ここが私に生きる意味を見出したなら、助けてくれる。 見出さなければ、無関心に見殺しにする。」 「こうやって、自分の価値を計っているんです」 馬鹿げた話だ。だが、これは相当… 「もしかして、何か大変なことでもあったのですか?」 男はケロっとした態度で、 「いやいや、そうわけではないですよ。誰だってふと、自分の生きる価値が分からなくなる時はありますよね?その頻度が多いだけですよ。」 「いや、生きる意味は誰にでもありますよ」 「本当にそうかな、自分が死んでも別に世界は滅ばないし、何も変わらないだろう?」 「そんな、悲観的なっ…」 「悲観的じゃないよ、当たり前のことなんだ。 家族なんかがいたら、別なんだろうけどね。」 私は何かを察して黙り込んでしまった。 きっと、その男は天涯孤独になったが故にこの様な狂気的な行動に移ったのだろうと、予想したものの 彼の顔は変に落ち着いており、まるで本当に生まれた時から今まで、 自分の価値をないと決定していたかの様に見えもしたからだ。 「…とにかく、線路に飛び込むのはやめて下さい。他の人の迷惑になるので、」 男は少し濁った顔をした 「よければ、私が貴方の価値を決めますよ。横柄な言い方ですけど、今日のことを話し合えますし、 線路に飛び込むよりはマシですよ」 男は、 「…そうだね、君とならラフに話せそうだし、毎日退屈しなさそうだ。」 いきなりな事を言われて少し顔を赤くした。でも、少しの間、この男の価値創りに協力することにした。 「そういえば、名前聞いてなかったですね…」 「僕?芝田。芝生の芝に田んぼの田。」 シューッ… 「じゃあ、私はここなので」 「また、明日」 扉が閉まる。 冷静に考えれば、ただのかまってマンだった可能性もあるが、彼との会話は本質をついている様で、飽きなかった。 「次、何話そっかな…」 翌日 「速報です、昨日午後9時にホームで男性が突き落とされ電車に轢かれました。 突き落とされた男性は"芝田健斗"30歳。 逃走した容疑者は、田中麗子37歳。 容疑者は、 あいつのせいでダイヤがずれて患者を手術できなかった。許せなかった と証言しています。」
イマジナリー彼女
僕の隣にいるのは、 小五の時に付き合ったあの子と同じ笑い声をしていて、 中一の時に付き合ったあの子と同じ目つきをしていて、 そして、存在しない。 「なにー?この問題わからないの?」 そいつは授業中も、夕飯食べてる時も、寝る前にも話しかけてくる。その割、そいつはすぐに消えて、また現れて、すぐ消える。 今日まではただ邪魔だったっただけだった。 そう、“今日までは。” 教室に座って、左上に見える机、 その上に座る彼女。僕は正直、彼女が好きになっている。 授業中も、昼休みも、振り向きさづらそうな席でこっちを向いて話しかけてくれる。 でも、彼女と話している間にも、隣に現れる。 嫌い。でも、嫌いになれない。でも… ねぇ、私の事、嫌いになったの? そんな事ない。あの日の日常、あの日の思い出、 君の名前を見かける度、 君と行った場所を見かける度、 フラッシュバックして仕方がない。 何回もの夜を超えて、ようやくわかった。 今日、彼女に告白する事。 僕の中にあるこいつは、君には伝えない事。 こいつは、隠しても、嫌いになっても、 忘れてはならない、大切な軌跡だと 気づいたから。