黒寧ロイ

10 件の小説
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黒寧ロイ

はじめまして。黒寧(くろね)ロイです。不定期で投稿していきます。よろしくお願いします。

お花見

「はぁ……もう嫌だ……」  真夜中の公園のベンチで一人缶ビール片手にうなだれる男がいた。 「人生詰んだ……」  新卒で入社した会社で充実した日々を過ごしていたが、自分をもっと成長させたいとベンチャー企業に転職。  しかしそのベンチャー企業はブラック企業で、月の残業時間は150時間を超えていた。  転職したばかりですぐに転職するわけにもいかず、かといってこのまま会社に残り続けるのも耐えれる気がしない。 「もういっそ死んで楽になりたい……」  そう見上げると街灯に照らされた美しい夜桜に目がいった。 「綺麗だな……」  男性は思わず呟いた。  昼間の花見のような賑やかさはないが、夜の花見にはブラック企業で荒んだ男の心を癒す力はあった。 「真夜中の花見も悪くないな」  今度は昼間に来てみよう。男はそう思いながらフラフラした足取りで公園を後にした。

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お花見

痛みの報酬【#7】

 放火が起こった日の夜、テレビのニュースで工藤家の火事のこと、火事によって一家全員が亡くなった事が報道されていた。  (おぉ……)  現地のレポーターが全焼した工藤家の前で深刻な顔をして報道している。    見慣れた景色がテレビに写されている、違和感がすごかった。  次の日学校では昨夜のニュースの話題で持ち切りになった。  「工藤の家の放火事件、昨日ニュースで報道されてたな!」  「家族全員焼死体で発見されたって、あらためてヤバいよな…」  ここでクラスメイトの一人が確信をついた一言を発する。  「でも変じゃないか?」  (•••?)  「昨日先生、工藤が亡くなったって“工藤くんのお父さんから学校に連絡があった”って言ってなかったか?」  「!?」  「たしかに•••」  なんでこの矛盾に気付かなかったんだろう。  家族全員焼け死んだはずなのに、工藤のお父さんから学校に連絡が入るわけがない。  数秒の沈黙の後、誰かが話し出す。  「じゃあ誰が学校に連絡してきたんだろうな•••」  そうなる。一体誰が学校に連絡してきたんだろう。  その後は各々の推理を展開して盛り上がった。  “犯人が連絡した説”  “工藤の父親の焼死体は別人の死体で実は生きてる説”  “先生が勘違いしただけ説”  “心霊現象説”  不謹慎な会話だなぁと思いつつ、正直楽しかった。  死んだのが散々まわりを虐めてた工藤だからこそのこの盛り上がりなんだろう。  死んだのは工藤だし別にいいや、そんな感じ。  罪悪感はまったくなかった。  そしてそんな会話を周囲としていくにつれて一人ぼっちだった自分の学校生活は、驚くほど賑やかで、充実したものになっていった。

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痛みの報酬【#7】

痛みの報酬【#6】

 自席で笑っている俺に話しかけてきたのは、いつも工藤と一緒に俺を虐めてくる熊谷だった。   (ヤバい。笑ってるとこ見られた。)  工藤が死んで喜んでるところを工藤と仲のいい熊谷に見られた。  俺は”やってしまった”と思った。  なんとかして言い訳を考えないと。  そんな事を頭の中で考えるが、上手い言い訳が思いつかない。  しかし下を向いて沈黙する俺に熊谷が掛けた言葉は意外なものだった。  「ま、あいつ日頃の行い最悪だったからバチが当たったんだろうな。」    (え?)    意外だった。てっきり笑っている事を咎められると思ったからだ。  「ちなみに工藤、放火されて焼死したらしいよ。家族全員。」  「放火?」  「そうそう。俺さっき職員室に用があって行ったんだけど、警察が来ててさ。その時警察と先生達が話してるの聞こえたんだ。」  「マジか。いったい誰がそんな酷いことを。」  深刻なコメントをしてみたものの、とりあえず言っただけだった。 別に誰が工藤の家に火をつけようと、正直どうでもよかった。 すると熊谷は思いもしない事を言い出した。  「正直俺は工藤が死んでホッとしてるし、他の奴らも口には出してないだけで多分内心同じ事考えてると思うよ。」  「え、そうなのか?」  「あぁ。だって俺も含めてほぼ全員工藤のこと嫌ってたし。工藤のいないところでよく悪口言ってたしな。」  意外すぎる告白に動揺した。  (工藤のことを嫌ってたの、俺だけじゃなかったのか。他の奴らもみんな。)  心が軽くなっていくのを感じた。  そして工藤の死をきっかけに、俺の学校生活は大きく変わっていった。  もう俺を虐める奴はいない。熊谷や他の奴らも、表面上工藤に付き合ってただけだった。  不謹慎なのを重々承知の上で、それでも俺は心の底から思った。  放火犯、ありがとう。  誰だか知らないがお前のおかげで俺は救われたよ。  •••  だがこの翌日、放火事件は俺たちの間で違うベクトルで騒ぎになった。  クラスメイトの一人がこの一連の流れの中にある”大きな矛盾”に気付いたのだ。  俺は工藤が死んだ事に意識がいきすぎてまったく気付かなかったが、たしかにこの事件にはおかしな点があった。  この矛盾が理由なのか、事件の翌日も警察が学校に忙しなく出入りし先生達から事情を聞いていた。

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痛みの報酬【#6】

痛みの報酬【#5】

(あいつが、、、工藤が死んだ、、、?) 悲しみや驚きではなく、信じられないというか、冗談を聞かされたような気持ちになった。 その後、先生が工藤の死について、話せる範囲で詳細を話していた気がするが、まったく頭に入ってこなかった。 その日、学校は一日中自習だった。 先生達は対応に追われているんだろう。 時間が経って少し冷静になった。 だが、冷静になってもやはり悲しさはまったくなかった。 不謹慎なのだろう。 本当はこんな事思っちゃいけないんだろう。 だがやはり思ってしまった。 ざまぁみろと。 これであいつから嫌がらせを受ける心配はなくなった。 クラスの女子で泣いてる奴もいるが、正直理解できない感情だ。 どうせこいつも一時的な感情で泣いてるだけで、明日にはもう忘れてるだろう。 などと極端な事を考えていた。 テンションが上がっているのだろう。 「くくくくっ、、、」 笑いを堪えられず思わず声が漏れる。 こんなリアクションをしているのは俺くらいだろう。 あらためて自分の精神状態が異常で、それだけあいつに苦しめられていた事を実感した。 そんな時、誰かが俺に声をかけてきた。 「なにがそんなに面白いんだよ」

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痛みの報酬【#5】

ソフトクリーム

   「ねぇねぇパパぁ〜。ソフトクリームのミックス食べた〜い。」  ここは某サービスエリア。  僕は夏休暇を取得し、車で妻と娘の3人で県外の旅館を目指していた。  途中、立ち寄ったサービスエリアで娘が無邪気におねだりをしてくる。    「お、なんだ咲(娘)はソフトクリーム食べたいのか!じゃあパパも食べようかな!」 (ソフトクリームかぁ。そういえば最近食べてないなぁ。)    「花江(妻)も食べるかい?」    「私はいらなーい。二人で食べればぁ〜。」  妻はスマホをポチポチ弄りながらテキトウな返事を返す。    「そう。了解。じゃあ咲、パパと二人で食べよう!」    「うん!食べよう食べよう!」    「パパもミックスにしようかな!」  妻は家族で一緒にいる時も常にスマホを眺めている。  娘が楽しげに話しかけても、ふーん。そうなんだ。と心無い返事をする。  僕はそんな妻に内心うんざりしていた。 (このクソ女は本当に家族に興味がないんだな)  実は僕はこの妻の事が大嫌いだった。  だが、娘のためにもそんな本心は心の奥深くに隠していた。  僕の妻に対する本心は絶対に娘にバレてはいけない。絶対に勘付かれないようにしないと。  あくまで妻を愛する良き夫、良き父親でなければならない。  そんな使命感だけで自らを偽り”理想の父親”を演じていた。  そんなモヤモヤした気持ちを抑え込んでいると店員が笑顔でソフトクリームを持った手を差し出す。    「はい!ソフトクリームミックス2つで〜す!」  娘は満面の笑みでソフトクリームを受け取る。  僕もそんな娘を愛おしく思いながらソフトクリームを受け取る。  勢いよくソフトクリームにかぶりつくと思った娘だが、予想に反してジーッとソフトクリームを見つめている。    「咲どうした?食べないの?」  すると娘は答える。    「このソフトクリーム、パパとママみたい。」  (•••?)  僕は意味が分からず娘に聞き返す。    「えーっと、どのへんがパパとママみたいなのかな?」  すると娘は答える。    「ミルクのところとチョコのところだよ。」  拙いながらも娘なりに一生懸命に説明する。    「うーんとね、ミルクのところとチョコのところってピッタリくっ付いてて•••」  (あ。なるほど。そういう意味か。)  まだ娘が話してるのにやや食い気味で話し出す。    「なるほどなるほど!たしかにいつもピッタリくっ付いてるパパとママみたいだね!」  しかしそれを聞いても娘は納得していない、というかキョトンとしていた。  僕は意味が分からなかったが、改めて娘の説明を聞いてゾッとした。    「う〜ん。たしかにピッタリくっ付いてるんだけど、全然混ざってないよね。そんなところがパパとママみたい。」  (!?)  (僕の本心がバレてる•••!?)  僕は頭が真っ白になった。  そんな僕を不思議そうに一見した後、娘はソフトクリームにかぶりつく。  そんな娘を眺めながらしばらく僕は放心状態だった。  すると娘が大きな声をあげる。    「あ!パパソフトクリーム垂れてるよ!」    「あ!」  僕のソフトクリームは溶け出しズボンにポタポタ垂れていた。  (ああ、最悪だ•••)  テンションが下がりつつも拭くものを探しているとそこに妻がやってきて、    「ほら」  と自らのハンカチを差し出してきた。    「•••あ、ごめん。ありがとう•••。」  そんな光景を見て娘はまたしても満面の笑みで笑っている。  (さすがに考えすぎかな•••)  ソフトクリームを食べ終えた僕達は再び車に乗り込み、サービスエリアを後にした。

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ソフトクリーム

痛みの報酬【#4】

この日は朝から雨が降っていた。 自転車通学の奴はカッパを着てビショビショに濡れながら徒歩通学の俺を次々と追い越していく。 俺は憂鬱になりながらゆっくり歩く。 学校に着いた時はいつもと変わらぬザワザワした雰囲気。 クラスに友達のいない俺は自席で頬杖をついて窓の外をぼーっと眺める。 (雨だから今日の体育は中止、、いや体育館で何かやるのか) (雨で外に出れないから休み時間にアイツらが教室で絡んできそうだな、、) ネガティブな想像ばかりして勝手に鬱になる。 そんな事を考えてると担任が神妙な面持ちで教室に入ってきた。 「はい席に着いて下さい!」 ダラダラと各々自席に着く。 席に着いてからも各々が近くの席の友達とベラベラ喋り続ける。 「とても大事な話があるので静かにして下さい。」 いつもとまったく違う先生の雰囲気とホームルームの導入に、全員が違和感を感じる。 先生のその一言でさっきまでのザワつきが嘘のように静まりかえった。 「•••」 少し沈黙が続く。 「•••」 (勿体つけてないで早く話せよ。。) そんなことを思っているとようやく先生が話しはじめた。 「先ほど工藤くんのお父さんから学校に連絡がありました。」 「今朝、工藤くんが亡くなったそうです。」 (•••) 「え?」 思わず声が出てしまった。

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痛みの報酬【#4】

痛みの報酬【#3】

辛い辛い辛い。 学校に行きたくない。 また今日も笑われるんだ。 想像しだしたら止まらなくなる。 どうして俺ばっかり。 いなくなれ。あんな奴消えてなくなれ。 「•••」 分かってる。消えるわけない。 我慢するか、俺が消えるか、どっちかしかない。 自分を消す、すなわち自分の命を終わらせる。 そんな勇気があったらここまで追い込まれてない。 その前にやり返してる。 「はぁ〜。そろそろ行くか。」 今日も重たい体を引きずりながら家を出て、通学路を歩く。 だが今日の学校は、いつもと少し違っていた。

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痛みの報酬【#3】

痛みの報酬【#2】

「おい、水筒貸せ」 そういうとそいつは俺の水筒をとりあげゴクゴク飲みはじめた。 「自分の飲めよ」 そういうもそいつは無視。俺なんか相手にしない。 かつての友達は、今では完全に格下の子分としてしか見られていない。 子分の主張など、いちいち相手にはしない。 当然の理屈だ。そいつにとっては。 先生に報告するも、まともにとりあってもらえない。 「そんなこと自分で解決しなさい。」 と鼻で笑われた。 指導のつもりなのだろうか。 心を鍛えてるつもりなのだろうか。 勇気を振り絞ったSOSはまったく相手にされなかった。

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痛みの報酬【#2】

痛みの報酬【#1】

 小学生までは確かに友達と呼べる存在だった。 放課後、お互いの家に遊びに行ってゲームをしたり、公園でサッカーをしたり。  そいつといると毎日が楽しかった。 •••でもたまに違和感を感じた。  体が中々大きくならない俺と違って、そいつはすぐに大きくなった。 そして学年が上がるにつれ、なんとなく俺のことを見下す仕草が端々に感じ取れるようになっていった。  それでも俺はそいつといるのが楽しかった。 「ははは。そういう言い方するのやめろよ〜」  適当に流す。 辛さよりも楽しさが勝った。 これくらいの痛みなら我慢できる。  でも中学生になって状況は大きく変わった。  野球部に入ったそいつは、中学からの新しい仲間と一緒になって俺のことを虐めはじめるようになったのだ。 ここから俺の痛みは増していくことになる。

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痛みの報酬【#1】

電池

 目覚ましより前に目が覚める生活。 多分眠りが浅いんだろう。  布団の中で30分以上、「行かなきゃ、行かなきゃ」と自分に言い聞かせ、少しずつ、少しずつ、体が動くようになってくる。 (今日もまた目が覚めてしまった) 毎朝思う。  目が覚めずにそのまま最期を迎えられていたら、どれだけ楽だろう。 最期を迎えた自覚すらないまま、まるで電池の切れた玩具のように、布団の中で人知れず眠りにつけていたら、どれだけ楽だろう。 鏡を見つめながら、疲れ切った顔をした自分に問う。 「君の電池はいつ切れるんだ?」 なんの答えも得られないまま、身支度を終えて家を出る。  満員電車の隅の方で俯きながら、自分と同じように電池が弱っていそうなスーツ姿の中年男性をじーっと眺める。 (これは多分、数年後の自分の姿なんだろうな) 勝手にそう思い込む。 (きっとこの電池は一生切れることはないんだ) 今にも止まりそうになりながらも、弱々しく動き続けるんだろう。 (電池がなくならないなら、もういっそ本体を壊すしかないのか) そんな良からぬ事を考えながら電車に揺られていると、あっという間に目的の駅に到着してしまった。 「はぁ〜•••」 思わずため息が出る。  改札を抜け、オフィスのある通りを突き進む。 オフィスが近づくにつれ、知った顔が徐々に増えていく。 ここまで来ると少しだけ楽になる。 もちろん  楽になる=幸福感 というわけではない。  ただの「もうどうにもならないからやるしかない」だ。 仕事モードになる。というよくある表現だが、まさにそれだ。 (自席についたらまずアレをやって、次にコレを•••)  もう自分の命を電池に例え、感傷に浸っていた事などすっかり忘れて、今日も社会の歯車として動き続ける。  そしてそんな苦痛と、慣れというただの「麻痺した毎日」が、明日がくる度に永遠に繰り返される。  本体が壊れるその日まで。

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電池