桜良

13 件の小説
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桜良

気ままに書いてます。自分の感情を文字にする。

大丈夫

少女は、いつも笑っていた。 嬉しいときも。 悲しいときも。 寂しいときも。 「大丈夫」 そう言えば、誰かが安心してくれることを知っていた。 泣かなければ、迷惑をかけない。 わがままを言わなければ、嫌われない。 何もしなければ、殴られることも蹴られることもない。 だから、自分の気持ちを塞ぎ込んだ。 怖い夢を見た夜 「ひとりにしないで」と言えなかった。 寂しい日に 「寂しい」と言えば重たいと思われる気がして、笑顔で「大丈夫」と返した 「大丈夫だよ」 いつの間にか、それが口癖になっていた。 「あなたがいてくれてよかった」と言われるだけで嬉しかった。 ただ、大切にされたかった 少女は、人に好かれる方法をたくさん覚えた。 相手の好きなものを覚えた。 嫌われるようなことはしなかった。 怒らせないようにした。 相手にどんな言葉をかければ喜んで貰えるかを考えた。 「辛かったね」 「苦しかったね」 「大丈夫だよ」 「ありがとう」 「気にしないで」 「頑張ってて偉い」 そんな言葉ばかりが上手になった。 けれど、自分の気持ちだけはいつまで経っても言えなかった。 ある日、少女は言った。 「仲良くなりたい」 勇気を出して、伝えた。 嫌われるかもしれない。 面倒だと思われるかもしれない。 それでも、初めて自分から手を伸ばした。 けれど、少女は知らなかった。 人との距離には、それぞれの速さがあることを。 自分が近づきたいと思ったからといって 相手も同じ速さで近づいてくれるとは限らないことを。 少女は伝え方を間違えた。 順番を間違えた。 気持ちを伝えることに必死になって、 相手の気持ちを見ることを忘れてしまった。 そして、離れていった。 「どうして?」 少女には分からなかった 仲良くなりたかっただけなのに。 大切にしたかっただけなのに。 嫌われたかったわけじゃない。 傷つけたかったわけでもない。 その日からまた笑うようになった。 今までより、もっと上手に。 何もなかったように笑って 何も感じていないように振る舞って。 そして夜になると、一人で布団の中に顔を埋めた。 「私が悪かったのかな」 何度も何度も考えた。 「私がもっと普通だったら」 「私がもっと上手だったら」 「私がもっといい人だったら」 きっと… 少女は自分を責め続けた。 少女が欲しかったのは特別なものではなかった。 永遠の約束でも完璧な愛でもなかった。 悩んでいる時 「大丈夫?」と聞いてほしかった。 泣いている時 何も言わず一緒にいて欲しかった 頑張ったとき 「偉いね」と頭を撫でて欲しかった。 そういう一言が欲しかった。 少女は気がついていなかった。 「大丈夫」という度 心が崩れかけていることに ある夜 鏡の前で、少女は自分の顔を見た。 泣き腫らした目。 疲れた顔。 それでも、どこか幼い顔。 「……私、頑張ったよね」 返事はない。 「ずっと、寂しかったんだよね。」 「大切にされたかっただけなのにね。」 誰かに見つけてもらうためではなく。 誰かに慰めてもらうためでもなく。 ただ、自分がずっと我慢してきたことを、 自分だけは知っていてあげるために。 その夜、少女は初めて 「辛かった。」と言って泣いた。 そして 自分の気持ちを、ちゃんと口にした。 その言葉は誰にも届かなかった。 けれど、不思議と少しだけ息がしやすくなった。 少女はまだ、愛されることを知らない。 人を愛することも 自分を愛することも まだ上手にはできない これからも間違えるだろう それでも もう、自分を嫌いになることで 誰かに愛してもらおうとはしない。 少女はゆっくりと、 鏡の中の自分に笑いかけた。 今度の笑顔は、 誰かのためのものではなかった。 ただ、自分に向けた笑顔だった。 その日から少しだけ 「愛されるために生きる」のではなく 「愛されても、愛されなくても私は私として生きていい」 そう思ってみようと思った。 少女は 真っ暗なトンネルを歩いていた。 出口があるのかも分からない。 いつまで歩けばいいのかも分からない。 それでも少女は歩いている。 誰にも必要とされていない 誰からも見られていない 誰のために行動しているのかも分からない 少女は気がついて欲しかった。 笑顔でいるから 明るいから『大丈夫』なのではなく その笑顔の意味を その言葉の裏にあるものを 見つけて欲しかった。 「大丈夫」 そう言う度に心は痛かった。 本当は大丈夫じゃなかった。 怖かった 苦しかった 寂しかった 誰かに気がついて欲しかった。 そこにいるのに 誰にも見えていない。 『助けて』 『辛い』 声にしたところで誰にも届かなかった。 少女は笑った。 「大丈夫」 そういえば、大丈夫だと思っていた。 そういえば困らすことも 嫌われることも 離れていくこともない。 『大丈夫』 その言葉が少女を少しづつ壊していった。 本当は、大丈夫なんかじゃなかった 「ここにいるよ」と ひとりの人間なんだということを知って欲しかった。 抱きしめて欲しかった。 少女はずっと暗闇を彷徨っている 何が正解なのか どうすれば『普通』に接することができるのかを。 考えても 考えても 答えはない。 そしてようやく気がついた。 待っているだけでは誰にも届かないことを。 だから少女は初めて自分のことを言葉にした。 「辛かった」 「苦しかった」 「どうすればいいのか分からない」 震える声でひとつずつ。 それでも、上手く言葉にできず 何が正解なのかもわからず 自分のことすら、よくわかっていない。 ずっとこの暗闇でひとりなのかもしれない。 感情を出すと離れていくから 面倒だと思われる。 どう接すればいいのか分からない。 だから、ひとりのほうがいいのかな。 少女は今日も笑顔で「大丈夫」と誰かのために動く。 自分の気持ちなんて考えず 他人のことだけに集中して。 正解が分からないまま進んでいく。 誰かのために 役に立つために 誰にも必要とされていない 誰の目にも映らない 何故動いているのかも分からない ただ 誰かに認められたくて 誰かの役に立ちたくて 自分の気持ちなんて蔑ろにしながら 他人を優先して生きている 少女は 人の身体について 人の心について 命について 誰かの「苦しさ」に気がつくために 誰かの「助けて」に気がつくために 誰かの助けになれるように 今日も学んでいる。 誰かの痛みには敏感なのに 自分の痛みには鈍感だ 誰かには「大丈夫?」と声をかけるのに 自分には「大丈夫」と言い聞かせる。 周りにかける言葉は全て少女自身にかけられなかった言葉だ。 誰かに必要とされる人で在りたくて 誰かの役に立つ人で在りたくて 今日も「大丈夫」と笑っている いつか自分のことを 愛せるようになれたら その時は 『幸せ』と呼べるのだろう。

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愛されたかっただけの少女

自分の気持ちを上手く言葉にできない。 つまらない 何考えてるか分からない と言われることは慣れている 何を言おうとしても聞いてくれなかった 怒られた 殴られたし蹴られた。 私の意見なんか聞いてくれなかった。 その結果こうなった。 人と仲良くしたかった。 作り話や、嘘をついた。 それでみんなが笑ってくれたし、楽しそうにしてくれていた。 自分の気持ちを伝えた。 伝える順番を間違えた。 傷つけてしまった。 ただ、 仲良くなりたかっただけなのに。

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あの日から狂ったんだろう

寒い冬の日、家族は幼い僕たちに聞かせないように家に入れてくれなかった。 それはきっと大事な大人だけの話なんだろう。 家族なのに大切な話に入れない。 外は寒いんだ 話が終わらないと帰れない。外はつまらない。寒い。 隣で妹がすやすやと眠っている。 ずっと家に帰りたい。と思っていたあの日からきっと全て狂ったんだろう 死にたい。消えたい。と口癖のように吐く毎日だった 何もしたくないし、やる気も起きない 言葉を発する気力すらない 現実考えられず、映像が流れるような日々 街中で家族が歩いている。 とっても仲が良くて、平和なのかなと考えるが実際どうなんだろうか? 気がついた時には寒さなんて感じてなかった。 家に帰りたくないとそう思うようになっていた あの日会話をしていたみんなの雰囲気が今までとは違う漢字がする。 明るいようで明るくない。 辛いのに元気に振舞っているのを感じる。 度々家に入れない日が続いた。 大事な話だから外にいなさい。と 僕には知る権利がないのかな。教えたくない話なのかな。 家族とはなんなんだ?

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夜は静かで 夜の海のように深い空が広がっているの。 雲の隙間から見える星がとても綺麗で 星や月は近すぎないからこそ綺麗に見えると思うの。 夜は涼しい ひとりで歩いてるだけでもいい 気を使う必要も 頑張る必要もない ただゆっくりと歩く 坂を下ると灯りが少なくなっていく 街灯に照らされた道を ゆっくりと歩いていく 段々と暗くなる さっきまで聞こえていた車の音も少しづつ小さくなっていく 振り返ると遠くにまだ街の灯りが見える あそこには今日を終えようとしている人たちがいるのだろう。 家に帰ると家族が迎えてくれる。 『おかえり』 その言葉がとても暖かく感じる 家族と話して 食卓を囲んで 今日あったことを話す。 たわいもない話で笑って 暖かいご飯を食べて お風呂に入る。 そうして今日を終えようとしている。 こんな毎日を『幸せ』と呼ぶのだろう。 なにか特別なことがある訳じゃない ただ 『おかえり』と言ってくれる人がいて 『ただいま』と言える場所がある 暖かい食卓を囲んで1日を終える。 そんな毎日のことを幸せと呼ぶのだろう。 夜は静かだ。 窓の外を見ると家は眠っていて 街灯の明かりしかない。 日が昇ればまた一日が始まる。 明日は何があるのか分からない。 分からないからこそ明日が楽しみになるんだろう。 確実にわかることは 帰る場所があって 『おかえり』と言ってもらえて、1日を終えることが幸せということ。 この毎日で十分幸せなのかもしれない。 そして明日も 『いってらっしゃい』と言われてまた1日を始める。 そんな何気ない毎日を『幸せ』と呼びたい。

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青い空 夜は、まるで夜の海のように深く先が見えない空 毎日違う顔を見せてくれる空 同じ顔は二度と見えない。 そんな空が好きだ。

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希望を失った日

世界は壊れなかった。 朝は来たし 信号は変わったし 誰かは笑っていた ただ 遠くで鳴っていた音楽だけが 急に聞こえなくなった。 海の底みたいに静かだった。 耳を澄ませても、 昨日まで信じていた声は返ってこない。 その時知った。 絶望というのは何かを失うことじゃない。 もう探さなくていいと 自分に言い聞かせ始めることなのだと。 それでも時間は進んだ。 進むというより 流れていた。 岸を目指す気力もなく 波に名前をつける元気もなく ただ浮いていた そんな夜に思った。 人間とはまるで長編小説の途中の章のようね。 今だけ読んでも、結末は分からないの。 だからきっと、 希望が消えたんじゃない。 まだ次の頁を読んでいないだけなのだ。

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救われたかった

『おはよう』 『大丈夫?』 『またね』 その一言があればどれだけ救いだったか。 誰かのためになれば 誰かが楽になれば 自分を犠牲にしても、誰かが救われるなら 周りが幸せでいてくれるならいい そんな気持ちを抱えて生きてきた そろそろ身体にガタが来た 『疲れた』 少しずつ崩壊していく。 今まで気が付かなかった自分の状態を痛いぐらい感じている。 無理をしすぎた。 今まで積み重なった“疲労”が押し寄せてくる 身体が悲鳴をあげている 『自分を大切にしなさい』 そんなことを言われたっけ 無理して笑って 人の前では“いい子”を演じて いつしか自分がわからなくなってしまった 辛そうな子たちに『大丈夫?』と声をかけて悩みを聞いた。 何人も、何十人も その子たちはみんな今は元気。 『ありがとう』 その言葉が嬉しかった いつも私は救う側で 本当は救われたかった でももう疲れたんだ 疲れちゃったんだ 少し休みたい

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喪失

人間が嫌い。 この世界が大っ嫌いだ。 大切な人を奪った、この世界が嫌いだ。 何も悪くなかった人が傷ついて、苦しんで、最後には生きることを諦めてしまう。 どうして、あの人じゃなければならなかったのだろう。 どうして、誰も気づいてあげられなかったのだろう。 どうして、この世界は、優しい人から先に壊れてしまうのだろう。 七年経った今でも、その答えは分からない。 ただ一つ分かっていることがある。 あの人は、自ら死を選んだのではない。 この世界に、少しずつ殺されていったのだ。 だから、人間が嫌いだ。 大切な人を奪ったこの世界が大っ嫌いだ。 誰か一人が、手を差し伸べていれば。 誰か一人が、「生きていていい」と言えていれば。 誰か一人が、「あなたのせいじゃない」と抱きしめていたら。 もしかしたら、あの人は今もどこかで笑っていたのかもしれない。 他愛もない話をして、また明日を生きていたのかもしれない。 その『明日』は、もうどこにも存在しない。 記憶は薄れてしまう 楽しかったことも、大切なことも忘れてしまう 人は忘れることで生きていける生き物だから。 でも、それがどうしようもなく怖かった。 あの人の声を忘れてしまうことが あの人の言葉を忘れてしまうことが あの人が、この世界で確かに生きていたという事実を忘れてしまうことがとてつもなく恐ろしかった。 だから私はこの記憶を書き遺そうと思う 七年前、好きな人がいた その人のことをとても尊敬していた 自分が弱音を吐いても どれだけ泣いても どれだけ支離滅裂な話をしても 最後まで話を聞いてくれた。 『大丈夫』 という言葉に何度救われたか分からない。 当時の私にとっては、とても大きな存在だった ある日、私は気になっていたことを聞いた 「なぜ、そんなにも助けてくれようとするんですか?」 少しの沈黙の後返ってきたのは思いがけない言葉だった 「それは償いだ」 「5年前に死んだ彼女への償いだよ」 その瞬間、時間が止まった気がした。 何を言われたのかが理解できなかった。 いつもと変わらない明るい声だった でも、明るい声の奥にはどうしようもない重みを感じた。 「言ってなかったっけ?」 「5年前に彼女が自殺したって話。」 まるで「今日も雨だね」というような口調だった 初めて聞く話だった。 その話の一つひとつは幼い私にはあまりにも重すぎた。 私は何も知らなかった。 5年間ずっと、一人でこの痛みを抱えてきたこと 彼の時間が5年前から止まっていること そして彼もまた、死を選ぶということを 知らなかった。 私は彼の言葉に甘えすぎていた 泣いて、弱音を吐いて、『大丈夫』という言葉に甘えていた。 その『大丈夫』を口にしていた人が、誰よりも壊れていたことにも気が付かないまま。 5年前に取り残されたまま 誰にも見つけられない場所で生きていた 「赤の他人が死のうがどうでもいいでしょう?」 その言葉は否定したかった。 もしもあの日もっと違う言葉をかけていたら。 そんな後悔がずっと付き纏ってくる。 人は忘れることで生きていける。 私は彼を忘れたくない。 彼がこの世界で生きていたことを 誰かのことを大切に想っていたことを。 ちゃんと生きていたんだよ。って言う事実を。

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誰かの人生

夢がないわけじゃなかった。 好きなものがないわけでもなかった。 自分の声よりも他人の声を優先してしまっていただけだった。 これは何者にもなれないと思っていた彼女が 「生きていた」という事実を取り戻していく物語 これは、何かを成し遂げた人の話ではない。 大きな夢を叶えた人でも、強い意志で未来を切り開いた人でもない。 毎日朝起きて 大学へ行って 講義を受け 帰って 眠る また朝が来て、同じ1日を繰り返す。 そんな毎日を繰り返す中で彼女はある日、ふと立ち止まった。 「何が好きなんだろう」 「何のために生きているんだろう」 答えられない 「趣味は?」 「好きなことは?」 きっとそれは何気ない質問なんだろう。 けれど答えられなかった。 本当にないのか、あるけど言葉にならないのか もう分からない。 何も好きじゃない人みたいで 何も持っていない人みたいで 気づけば「何者なんだろう」と そんな問だけが心の中で反芻した。 周りを見渡す。 みんな楽しそうだった。 夢があって 推しがいて 休日の予定を楽しそうに話す人。 笑いあって、何かを好きだと言える人達。 彼女はといえば、特別好きだと言えるものがなかった。 生きているのに、生きている実感だけがなかった。 ある日ふと思った。 空っぽなんじゃない。 誰かの期待や願いを心に詰め込んでいただけなんだ。 嫌われないように 周りと同じいれるように 期待に応えられるように 『いい子』でいられるように。 そうして彼女は誰かの望む役を選び続けるうちに、本当の彼女は少しづつ薄れて行った。 自分の『好き』より、誰かの『正解』 自分の気持ちより、誰かの安心。 誰かを優先する度に彼女の輪郭は少しずつ薄れて行った。 だから、「好きなことは?」という問いに答えられなかった。 好きなものがなかったんじゃない。 ただ、「好き」と口にする前に誰かの顔色を伺うことが当たり前になってしまっていた。 「それ本当に好きなの?」 「変だと思われない?」 そんな声が、自分の声より先に聞こえてしまっていた。 誰かに合わせることが、息をするかのように自然になってしまっていて。 気がついた時には『どう生きたいか』ではなく 『どう見られるか』で生きるようになっていた。 毎日が、全部暗かったわけじゃない。 「おはよう」 その一言だけで、その日は少し世界が明るく見えた。 一緒に授業を受けた日。 たわいもない会話を交わせた日。 それだけで「今日も大学へ来て良かった」と思えた。 たったそれだけなのに。 きっと人は大きな愛より先に、小さな存在確認で生きている。 ここにいていい 忘れられていない ちゃんと誰かの世界には彼女も存在している。 そんな小さな実感が、少しずつ彼女を生かしていた。 相手が悪かったとか 彼女が悪かったとか 環境が悪かったとか 何度も考えた。 答えは見つからなかった。 ただ確かなことがあった。 苦しいと言えなかった時間 我慢してきた時間 平気なふりを続けてきた時間 その全部が心の奥で静かに積み重なっていた。 そしてある日、長く閉じ込めていた感情がとうとう封を切って溢れ出した。 相手を傷つけたかったんじゃない。 責めたかったわけでもない。 理解されたかったわけでもない。 『苦しかった』 ただ、その一言を否定せずに聞いて欲しかった。 自分はここにいていいのだと、信じたかった。 まだ名前はない まだ人生で何をしたいか分からない。 「これが私です。」と胸を張って言えるものもない。 それでも前より少しだけ知っている。 誰かに話しかけてもらえると、嬉しいこと。 ちゃんと眠れた朝は、少しだけ心が軽いこと。 本当はずっと満たされたかったこと。 何もなかったんじゃない。 ただ、少しだけ不器用だった。 自分の気持ちに気づくことも 言葉にすることも。 これから歩いているうちに、いつか彼女自身の言葉を見つける日が来るのだろう。 見つからない日があったとしても、それで人生に価値が無くなるのではない。 今日誰かと笑ったこと 誰かと話したこと 立ち止まったこと 迷ったこと 苦しかったこと 泣いてしまったこと その一つひとつは決して消えない。 全部、生きていた証だから。 そしてきっとこれからの長い人生の中で 『何者かになる』ことよりも先に『ここにいていい』と思える日を迎える。 その日、彼女はようやく自分の人生を歩き始めるのだろう。 まだ見ぬ希望を胸に抱きながら 静かに眠りにつく。 明日もきっと
名前のない一日が始まる。 おわりに もし、未来の彼女がこの本を読むならこう伝えたい。 あの頃のあなたはちゃんと生きていたよ。 遠回りもした 立ち止まる日もあった 苦しくて、誰かに助けを求めた日もあった 答えなんて、ほとんど見つからなかった。 それでもあなたはちゃんと歩いていた 泣いた日も 笑った日も 何もできなかったと思った日も 全部、あなたが生きてきた時間だった。 だから、安心して続きを生きて。 あなたの物語はまだこれからだから。 あとがき この物語には成功談はありません。 人生を変えるような言葉も 綺麗な結論もありません。 あるのは答えが出ないまま生きていた日々だけです。 何者にもなれないと思った日。 好きなものが分からなくなった日。 「ここにいていい理由」を探していた日。 その一日一日は決して無駄ではありませんでした。 答えがなくても 迷ったままでも 遠回りでも そのすべてが、生きるということだったのです。 もしこの本を読んで 「これは自分のことかもしれない」 そう思った人がいるなら あなたもきっと、ちゃんと生きています。 明日もまた、生きていけます。

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消えないもの

死とはなんなのだろう。 死んだあとはどうなるのだろう。 永遠に朝が来ると思っていた。 昨日の続きが今日であり 今日の続きが明日であると信じていた。 けれど時間は止まってくれない。 季節は巡り 人は歳を重ね いつか別れの日は訪れる。 人は失ってからその大切さを知るという。 失って初めて当たり前だと思っていた日々が どれほどかけがえのないものだったのかを思い知るのだ。 もう聞けない声がある もう触れられない温もりがある もう帰れない昨日がある それでも人は生きていく 胸に空いた穴を抱えながら 消えてしまったのではなく 確かにそこにいた証を抱きしめながら。 死は終わりなのかもしれない。 けれどその人が生きていたという事実まで消すことはできない 笑ったことも 泣いたことも 誰かに愛され 誰かを愛したことも その全てが確かに存在したという証である 記憶は薄れてしまうことがあるけれど 誰かの心に残したものも 誰かの人生に触れたことも この世界に生きた軌跡も その人が確かに生きていた事実そのものは消えないから。

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