Ken

6 件の小説

Ken

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呪われた高級車4

「長谷川工業、ねぇ」 純からの報告を聞いた梨沙はそう呟いた。 最初その話を聞いた時、梨沙はあまり信じていなかったが長谷川工業の名前が出た途端に顔色を変えた。 何かがあるのかと純は勘繰ってしまう。 「私もね、純くんが夜勤の間色々調べたよ…けどね、もう関わらない方が良いね多分」 「どうゆう事ですか?、何を知ったんですか?」 純の質問に梨沙は顔をしかめる。 「まず、宮川さんのご主人の元々いた会社に行ってきたんだけどね……まあ、忘れな、このことは」 手に入った情報は教えてくれそうにない。 そんな梨沙の態度と言葉に純は苛つき初めていた。 「じゃあ依頼はどうするんですか?まさかあのまま返すつもりですか?」 「まあ、こっちも色々握ったし金はきっちりとるよ?」 「そうですか…」 梨沙のこの件に対する態度の変化に純は苛つきと驚きと好奇心を感じていた。 一体何を知ったのか? 宮川奈緒子の何を握ったのか。 「まあまあ、お金はしっかり払うよ」 そんな純の心境を察したのか梨沙が言った。 「ありがとうございます」 そう言って純は笑顔を見せた。 しかし純はこの件について個人的に調べる事を決めた。 「じゃあ、ちょっと先方と話してくるから」 「新しい依頼ですか?」 「そう、私立女子校の怪異だって、なんか味があるでしょ?」 「そうですね、良い条件で纏まると良いですね」 梨沙が出ていったのを確認したあと純は動き出した。 梨沙は依頼の資料を必ずまとめる。 それは何故かはわからないが。 今回の件で梨沙が調べたこともまとめている確率が高いと踏んだ純は梨沙の机を探していく。 今までの資料をまとめたファイル。 それに入っていた。 宮川正雄について依頼人である奈緒子に聞いてみたが曖昧な回答しか返ってこない。 何とか聞き出せたのはリストラされた会社の名前、新谷保険だ。 新谷保険にはツテがある為それを使い正雄の同僚に話を聞く事に成功した。 彼の話は信じがたい物だった。 まず宮川正雄はリストラではなく自主退社していた。それも退職金をたんまり貰って。 更に同僚は彼が辞める前いきなり質素な手作り弁当に変わっていた事も教えてくれた。 同僚が愛妻弁当か、と囃し立てると自ら作っている、と言ったと言う。 資料はその一枚だけだった。 長谷川工業や宮川奈緒子についての情報は書いてない。 しかし梨沙の言動からこの二つについての何かしらの情報を掴んでいるのは明白だ。 この資料から分かることは宮川奈緒子の嘘だ。 リストラではなく退職しかも退職金まで出ている。金はたんまりあったはずだ。それはどこにいったのか?それよりも借金が膨大だったのか?と言う疑問。 そして、いきなり質素になった弁当。 これは何かしらの原因で金が無くなったという事なのか? その原因は本当に正雄のパチンコなのか? いくら考えても答えは出ないだろう。 長谷川工業。 高福市にある建設会社。 主な作業内容は土木工事の施工全般。 社長は長谷川治。 ここには一体何があるのか。 梨沙さんの許可なしに接触はできない。 電話ならばどうだろうか?偽名か名乗らなければ良いんじゃないのか? 純は非通知で電話をかけた。 「あい、もしもし?」 「えーと、長谷川治様とお話ししたいのですが…」 「あ、私ですよ、で、貴方はどちらさん?」 「そうですか、私木本というんですけど一つお伺いしてもよろしいですか?」 「なんでしょう?」 「宮川正雄って人を知りませんか?古い友人なんですが?」 「え?あ、ああ、昔働いてたけど」 宮川正雄の名を聞いて明らかに態度が変わったのを純は感じていた。 「あ、そうですか、今はどちらに?」 「あんた、何もん?、知り合いだったら奥さんに掛けるよね?…どこの誰だよおめぇ」 純は電話を切った。 宮川正雄の名前が出た途端に長谷川治は取り乱した。 そして最後には怒鳴り声をあげていた。 何かあるとしか思えなかった。 それから数日後 新谷駅前にある居酒屋まつぼっくり。 料亭で修行した店主が作る料理と大衆向けの価格で人気の居酒屋だ。 そこに純と一人の男が座っていた。 黒髪の短髪で少しふくよかないかつい男。 お通しのきんぴらごぼうを食べながら頼んだビールを待っていた。 「よお、純、久しぶりだなあ」 「久しぶり、亮一」 田代亮一。 純の中学の同級生で今は人に言えない仕事をしている。 「で、純、調べてきたぜ?宮川奈緒子っておばさんはわからんかったけど」 「おぉ、ありがとうな」 純は亮一に調べてもらっていた。 地域のネガティブな情報。それを一番持っているのは警察かヤクザなどのアウトロー達だ。 「まずお前、浩龍会って知ってるか?」 「しらないな」 純も新谷市周辺の暴力団の名前はいくつか知っていたが初めて聞く名前だった。 「まあ、そうだよな、ここ最近新谷にもちょっと進出してきてんだけどそんなデカイわけじゃないし」 「新谷一家?」 新谷一家、それは新谷市周辺の裏社会を支配する指定暴力団稲森会の二次団体だ。 稲森会内でも有数の組織である。その力はこのご時世でも絶大で新谷市内では半グレや外国人グループすらもみかじめ料を払っている。 「いや、そもそも稲森ですらねぇよ、高福は三羽会なんだ、まあ、俺らとは全く違う組織ってことだよ」 「で、その浩龍会が長谷川工業とどんな関係があるんだ?」 「浩龍会会長長谷川浩也は長谷川工業の次男坊らしい」 「てことは…」 「まあ、今でも関わりがあるかはわかんねぇけどな?このご時世だし、ただ社長とヤクザが兄弟だって事だよ」 いきなり質素になった生活、突然の退職。そして長谷川治の不自然な態度に長谷川工業の裏事情。 純は梨沙の言葉を思い出していた。 もう、この件には関わらないほうがいいね、多分 しかし、まだ純には気になることがあった。 宮川奈緒子、何故彼女は嘘をついたのか。 彼女はどう関わっているのか。 おそらくそれが解けた時、梨沙が握った宮川奈緒子の秘密が分かる。 そう純は確信していた。 「浩龍会についてはなんかないのか?」 「そうだなぁ」 しばらく唸っていた亮一だったが思い出したように目開いた。 「浩龍会が最近新谷に入ってきたって言ったよな?」 「うん」 「でもあの、パールってホストクラブは昔からケツを持ってたらしい」 「パール…ね…」 ホストクラブのパール。 どこかで聞き覚えがあると純は思ったがどれだけ頭を回してもわからなかった。 「そんぐらいかなぁ」 と亮一は首を傾げながら笑った。 「ありがとうな」 純は礼を言った。 「けどよぉ、俺みたいな下っ端に聞かれてもよぉ…お前の社長に聞いたほうが速いぞ?なんせお前のとこの社長は…」 「まあ、梨沙さんは関係ないからな、これは俺が個人的に調べているだけだ」 「え、そうなのか?」 純の言葉を聞いて亮一は驚いていた。 「まあ、深くは聞かないけどよ、多分どっぷりこっち絡みだろ?気おつけろよ?」 と亮一は人差し指で顔に傷をつける仕草をしながら言った。 「ああ、俺ももうこれ以上深入りはしないよ」 「そうか……ま、今日は飲もうや」 と、とっくにやってきていたビールを向ける亮一。 それに対し純はそうだな、と同じようにビールを当てた。 亮一との飲み会を終えて純は部屋に戻ってきていた。 頭に浮かぶのは今回の件だ。 きな臭い宮川正雄の転落劇と死、チラつくヤクザの陰。 この一件は忘れるべきとわかった。 しかし気になるものは気になってしまう。 ホストクラブパール。 どこかで……あ。 純はとある男に電話を始めた。   数日後、新谷駅前のファミレスで純はその男と会った。 前髪の長い金髪の頭を綺麗にセットした優男。 名前は高橋裕太、歳は純の1個下。 純が以前勤めていた会社の後輩だ。 「久しぶりですねー、純くん」 「おう、忙しいとこ悪りぃな」 「いいですよ全然、気にしないでください、飯島さんが捕まって以来ですね…いやぁ、懐かしいなぁ」 「そうだなぁ、髪型以外お前も変わってねぇな」 「まあ、ホストしてますからね…それにしても突然どうしたんです?」 純は裕太にはまだ何も話していなかった。 「ああ…なあ、お前、パールってとこで働いてんだよな?」 「ああ、半年ぐらい前まではいましたね…今はエリアスですよ」 「そうか」 「もしかして純くんパールに入りたいんですか?…あそこはやめた方が良いですよ、どうせだったら俺と働きましょうよ」 「いや、そうゆうわけじゃないんだ、ちょっと聞きたい事があってな…浩龍会って知ってるか?」 その言葉を聞いて裕太の表情は気が抜けたようになった。 「あ、そっちすか…まあ、俺が辞めた原因すね…今時ヤクザが経営ってありえます?」 「直轄でやってんのか?」 「そうですよ、普通にぶん殴られるしビビっちゃいましたよ」 多分、裕太はこの件に関わる何かは知らないのかもしれない。 「それで浩龍会の何が知りたいんですか?組員とかすか?」 「いや、宮川奈緒子って知ってるか?浩龍会の誰かの女とか」 と、純は宮川奈緒子の写真を見せた。 「宮川奈緒子…すか…」 裕太はしばらく上をみて考えていたがああ、と声を出した。 「多分なおちゃんの事ですね」 「なおちゃん?誰かの女か?」 裕太は笑いながら手を横に振り否定する。 「純くん女の趣味変わりすぎですよ」 「いや、そうじゃねぇけど、なんでそいつを知ってるんだ?」 「俺の仲良くしてた先輩の昔からの太客なんですよ……確かその先輩が新人の時からの」 「それは、五年前くらいか?」 「いやぁ、多分もっと前からじゃないすかねホスト歴7年とか言ってたんで」 「そうか、ありがとう」 全てが、繋がった。 純はそんな感覚を感じていた。 それからは裕太の愚痴や昔の話、純の話などで盛り上がり解散となった。 数日後。 純はいつものように天光から部屋までの道を歩いていると数人の男達に囲まれた。 「は?なんだてめっ」 啖呵を切る暇もなく背中に硬い感触。 純は知っていた、それは銃口の感触だった。 「大人しくしろよ、死にてぇか?」 黒いミニバンがやってきた。 その瞬間、痺れる感覚と共に純の意識は途切れた。

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ギフト

玄関を開けると、それはあった。 頭ほどの大きさの白い箱。 箱には何か文字が書かれていた。 開けて呪われる確率、開けて幸福になる確率共に50% 意味がわからない。 ドッキリか? カメラを探したりしたがそんなものはあるはずもなく… 普通に考えて、これはただの悪戯だ。 無視をしても良い。 隣の部屋に置くのも面白いかも知れない。 けれど俺は何故か部屋に持って帰ってしまった。 とりあえず机に置く。 持った感触は、結構重たい。 確実に何かは入っている。 しかし、何だ?呪われる物、思い浮かぶものといえば人形や石? いや、呪いの何々なんて物は世の中にいくらでもあるか。 逆に幸福はなんだ? あのつけるだけでドル箱を積み上げたり札束の風呂に入れるあれか? いや、何が入ってるかは問題じゃないのか? もしかして開ける人によって変わるとか? まて、そんなものあんのかよ。 そんな物存在してたまるかよ。 そもそも50%ってなんだよ。 入れたお前はわかってんだろうがよ。 まあ、開ける人にとっては二択か。 パチンコの一回転の確率319分の1だけど実質は当たるか外れるかの二択、みたいな話か?  ちょっとちがうな。 てか俺何で外出ようとしたんだっけ? うーん、思い出せそうで思い出せないなぁ。 首まで出かかってんだけどなぁ。 まあ良いか。 疲れたしとりあえず煙草を吸おう。 煙草を取り出し火をつけた。 んー、美味しい。 やっぱり一日一発目の煙草は美味い。 一発目と食後の煙草は別格なんだよなぁ。 あ、俺が外出ようとしたのって腹減ってたから牛丼食べるためじゃん。 まあ、良いか。 よし、この箱を開けるか、開けないか…捨てるか。 取っておくってのもいいかもな。 いや、待て、それは危険だ。 もし中身が虫のしがいだったら? 動物って可能性もある。 その場合は非常にまずい。 いや、もうやめよう。 開けよう。 こんなくだらない時間はやめにしよう。 俺は箱に手をかけ開けた。 中には石と一枚の紙。 その紙には ばーか と書かれていた。 俺はその箱、紙をぐちゃぐちゃに潰したあと床に投げつけ、蹴り飛ばした。

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呪われた高級車3

深夜のコンビニの前で純はタバコを吸っていた。 目の前には宮川奈緒子から預かった車が置いてある。 純の自宅や天光事務所のある新谷駅周辺から車で20分ほどの距離にある布城市のコンビニだ。 なぜこんな時間にこんな所にいるのか純は煙を吐き出しながら考えていた。 朝、事務所に入ると梨沙がこう言った。 「純くん、夜勤できる?」 「え、夜勤、ですか?」 梨沙の突然の言葉に純は戸惑った。 第一この天光で夜勤をするような仕事があるのか? 事務所の警備員ぐらいしか思いつかない。 「給料は1.2倍にするから」 「まあ、全然大丈夫ですけど…」 「よかった、じゃあ夜勤お願いね」 「でも、何をするんですか?」 その質問を聞いた梨沙は笑みを浮かべた。 「何って、あれしかないでしょ、純くんの愛車の調査」 その後純はすぐに返され自宅にて睡眠を取ったのち18時ごろ事務所に向かった。 「とりあえず深夜3時ぐらいまで適当に走っちゃって、鍵は持ったままで良いよ、はい、鍵とガソリン代、余ったのは適当に使いな」 と鍵と1万円を渡された。 「あのクソアマ、マジで覚えてろよ」 本音が溢れる。 しかし、これは仕事だ。 文句を言っても仕方がない。あの人には恩もある。 と純は短くなった煙草を灰皿に押し付けながら気を引き締めた。 それから純は3日間宮川の車で深夜運転を繰り返した。 そのうち男の声が聞こえたのは2日目だけだった。 「そう、じゃあそれ聞こえたのどこ?」 時刻は午後1時、夜勤明けの睡眠をとっていた純に梨沙からの電話がかかって来た。 少しは気を使えとは思ったがそこは堪える。 「えー、高福との間くらいですかね」 「ふーん、やっぱり高福なのね…純くん今日から高福市を走って」 「はい、わかりました」 「その声以外は何もないの?」 「特には何もないですね」 「わかった、じゃあ気おつけてね、やばいと思ったら逃げちゃって良いから」 「あ、はい、わかりました」 通話が終わり布団に戻る。 今日は聞こえるのだろうか、あの声が。 時間になり純は車に乗り込んだ。 目的地は高福市、下道で行こうか。 そしていつものように走り出した。 Bluetoothをスマホに繋げ、好きな曲を流し鼻歌混じりに車を走らせる。 最初は嫌だったこの仕事も今では楽しくなっている。 夜の運転というのは思った以上に面白い。 まだ街中で18時過ぎということもあり退屈ではあるが午前0時を超えたあたりから世界は変わる。 例えば夜の山道などは普通は行かない。 行かないからこそ新鮮な気分になる。 まるで少年の頃に戻ったような、未知の世界に足を踏み入れるような感覚になるし街中はよほど栄えている地域以外はほとんど無人となり、まるで異界に迷い込んでしまったような気持ちになる。 純は夜の運転に完全にハマっていた。 それから高福市に突入した。 時刻はまだ19時。 目に入った牛丼屋のドライブスルーで牛丼を購入し、走り出した。 目的地は高福市のとある山だ。 約1時間かけ山の頂上の駐車場に車を停める。 カーナビのワンセグでテレビを見ながら牛丼を頬張る。 最近の純の日課である。 初めは布城市の山に行っていた。 布城市は純の地元なので行ってみたがハマってしまっていた。 牛丼を食べ終わったあとは外に出て一服を済ませる。 そして仮眠をとるのだ。 リクライニングを倒し、目を閉じる。 時刻は21時。 タイマーは23時30分にセットした。 そして純は眠った。 そして、タイマーが鳴った、 時刻は23時30分。 回らない頭を強制的に回すため缶コーヒーと煙草を持って外に出た。 闇に光る煙草の赤い光と冷えたまずいコーヒー、純の眠気は徐々に冷めていった。 車に戻ると不思議な事が起きていた。 「あれ?ここ、どこだ?」 カーナビに知らない場所がセットされていた。 そして慣れきって忘れていた事を純は思い出した。 この車は霊が取り憑いているかも知れないという事を。 この場所に何なんだ?行けばどうなるのか? 仮にこの車に霊が取り憑いているとしてそいつは本当に宮川奈緒子の夫、宮川正雄なのか? 宮川正雄は繁華街で死んでいたんだろ?何で車に取り付くんだ? もし、車に付いている霊が全く別の奴だったら? いや、待て、この霊はそもそも元から居たんじゃないのか? それで宮川正雄に取り憑いて、不幸になって死んだ? いや、いくら考えても仕方がない。 いくらでも出てくる悪い考えに比例して心拍数が上がっていくのを純は感じていた。 純はしばらく動けずにいたがハンドルを握りアクセルを踏んだ。 目的地はカーナビの場所だ。 しばらく走ると目的地に着いた。 二階建ての建物と建設ヤード。 建物には長谷川工業、と書かれていた。

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プロローグ

4月のちょうど良い温度の日差しを浴びながら男は信号を待ってい た。 男の名前は木村純。 この新谷市に住む22歳。 黒いスーツに身を包んだ爽やかな好青年。 彼はポケットからスマホを取り出して時間を確認する。 7時55分。 まずい。 その日純が起きた時刻は7時25分。 職場までは徒歩で15分。 寝起きの彼に残された時間は20分しか無かった。 急いで支度をし、家を出たのは45分を過ぎた頃だった。 赤信号が青信号に変わると同時に人が動き出す。 まるで機械見たいだな、と純は思う、しかし自分もまたその中の一 人なのだと自覚する。 今日もまた、憂鬱な一日が始まったのだ。 除霊会社天光。 新谷市、新谷駅前に本社兼事務所を構える純の働いている会社 だ。 業務内容は文字の通り除霊である。 純はとある駐車場のついたコンビニの脇の階段を登り2階のドアを 開け、職場へと入った。 「遅いじゃん、寝坊?」 ソファに座り込み新聞を読んでいる黒髪の女に話しかけられた。 彼女の名前は田中梨沙。 天光の社長だ。 「あ、はい、そうです、すみません」 は梨沙の側に立ち謝罪をした。 梨沙は横目で睨みつける。 「やる気あんの?、今日は9時から客が来るからって言ってあったよね?」 「あ、ああ、すみません」 梨沙は大きなため息をつきながら新聞をたたむ。 「とりあえずコーヒー、それから軽く掃除して」 そう指示を出した後梨沙はポーチからメイク道具を出してメイクを 始めた。 「わかりました」 純は返事をした後に仕事に取り掛かった。 それからコーヒーを出し、あらかた掃除が終わった頃には時刻は9 時になろうというところだった。 梨沙もちょうどメイクが終わったらしく道具をしまっていた。 「机、拭いといて」 「はい」 純が机を拭き終わった頃チャイムが鳴った。 客だよ」 「はい」 玄関に向かいドアを開けた。 ドアの向こうには上品なマダムが立っていた。 「宮川さんで、よろしいでしょうか?」 純はマダムに向かって名前を尋ねた。 はい、そうです」 「わかりました、中へどうぞ」 宮川を中に入れると梨沙はもうソファに座っていた。   宮川を梨沙の向かいに座らせ茶菓子とコーヒー、灰皿を出す。 「初めまして宮川さん、私田中と申します」 と梨沙は名刺を渡しながら笑顔で挨拶をした。 宮川は名刺を受け取りながら軽く会釈を返した。 「それで宮川さん、今日はどの様なご相談なんですか?」 「あ、はい、その、私の乗ってきた車なんですけど」 「車、ですか?」 「はい」 どの様なことが起きるんですか?」 「聞こえるんです、夜に走っていると、死んだ夫の声が」

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呪われた高級車2

「やっぱり高級車は違うね」 純は宮川からの預かった車で午前中の高速道路を進んでいた。走っている車は少なくとても走りやすい。 隣に座っている梨沙は高級車は揺れないだの乗り心地が違うだのと騒いでいた。 それには全面的に同意するがいささかうるさく純は内心苛ついていた。 心を落ち着けようと視線を車道から外す。 景色は緑色や茶色が多めになっていた。 目的地が近い。 天光事務所のある新谷駅前から高速道路で30分ほどの距離にある高福市、目的地だ。 高福ICで下道におりナビ通りに進む。 そしてとあるアパートに着いた。 「着いたね」 「そうですね、えーと、あれが大家ですかね」 アパートの前に白髪の老人が立っていた。 こちらを見ているのでどうやら気づいているようだ。 二人は車から降りて老人の元へ向かった。 「こんにちわ、有川さん」 「こんにちわ」 笑顔で挨拶する二人に対し老人、有川は小さくどうも、と軽い会釈をした。 「着いてきてくださいね」 それだけ言うと老人はアパートに入っていった。 そしてある部屋の前で止まり鍵を開けた。 「この部屋の除霊をお願いします」 と有川は廊下を戻っていった。 「じゃあ、入ろうか」 「はい」 二人は部屋に入った。 間取りは2DKといったところか。 三人一家の母親が自殺。残された二人は部屋を出ていった。 新しい入居者は入っていないらしい。 近年事故物件ということは隠せない、ならば除霊をするとしないとでは次の入居者の入りやすさは変わってくる。 しかし除霊はなかなか高額だ。一般的には寺や神社に依頼するが事件や事故の内容によっては10万円を超えることも少なくない。 その点天光はどのような事件、事故でも一律2万5千円で行うので格安だ。 そのためこのような不動産除霊が天光の主な業務内容となっている。 「じゃあ、ちゃっちゃとやりますか」 「そうですね」 二人は除霊の準備を始めた。 除霊と言っても二人には何の力もない。 しかし大家がいつ入ってくるかわからないため一応それ風の事はするのだ。 梨沙は鞄から水晶を取り出し小さい座布団の上に乗せる。 純は部屋の壁に画鋲を使い、適当にお札を貼り付けていく。 「あれ、棒忘れちゃった」 「え、どうします?」 「まあ、手でいいや」 棒とは神社で神主が持っている紙のついた大麻の棒である。 梨沙の持っているのは大麻ではなくただの木ではあるが見た目は変わらない。 ガチャリ、突然ドアが開き大家、有川が入ってきた。 部屋をぐるりと見渡す。 「有川さん、どうしました?」 「いや、どんなもんかと思って」 純の質問に有川は答えた。 表情には疑念が表れている。 これは天光では良くある事である。 何せ寺でも神社でもない自称霊能者がお祓いをするのだ。 怪しまない訳がない。 「良かったら、見学しますか?」 純は笑顔で尋ねた。 それに対して有川はそうしますと答えた。 そうゆうときは大家にも見てもらえばいい。 こんな会社に依頼する時点で有川に知識などない。 梨沙の除霊を見れば文句は言えない。 本当に除霊ができているかなど彼にはわからないのだから。 「純くん、お札一枚くれる?」 「はい」 梨沙は純からもらった札を人差し指と中指に挟みお経のような呪文を唱えながら右へ、左へと振っていく。 次第に大ぶりに、更に立体的になっていく。 動きに合わせ呪文も大声に。 それには過酷な修行を積んだ高僧のような迫力がある。 そんな梨沙の動きに合わせ、純も鈴やおりんをならす。 部屋は何かとてつもない事が行われているような神聖や雰囲気に包まれていた。 目を開き萎縮した様子の有川。 純は自身が初めて梨沙の除霊を見た時の衝撃を思い出していた。 「ありがとうございます、また機会があれば天光さんにお願いしますね」 除霊が終わった頃には有川は二人への態度が一変していた。 「ぜひお願いします」 梨沙は笑顔で返し車に乗った。 時刻は10時半。 まだ後2現場残っている。 「次終わったらご飯にしよう、あそこのラーメンでいいよね」 「はい、わかりました」 あそこのラーメンとは高福市に来た時に二人がいつもいく店だ。 梨沙のお気に入りでプライベートでもかなりの頻度で一人で行っているという。 そうして仕事が終わりラーメンを食べ3つ目の現場が終わった。 特に3つめは山奥にあり道に迷ってしまったため高福市街に着いた時には20時を過ぎていた。 「今日はいらない移動が多いね」 「すみません」 窓を見ながら嫌味を呟く梨沙に苛つきながら純は車を走らせた。 高福ICから高速に乗りこむ。 田舎の高速道路の風景は昼と夜では印象がガラッと変わる。 昼は開けた景色で自然の緑があり、爽やかだが夜は闇で道以外見えず少し不気味だ。 純は隣で梨沙が奏でているイビキを煩わしく思い、ため息を吐いた。 ラジオの音量を上げる。 「ゔあぁぁぁぁぁぁぁぁ」 「え?」 突然オーディオから男の声がした。 それは苦しいようなうめき声。 車の持ち主の宮川が言っていた、夫の声。 「ん?なに?いきなりでかい声出して」 隣の梨沙が目をこすりながら言った。 どうやらさっきの声で起きたようだった。 「梨沙さん、オーディオから、宮川が言ってた男の声が」 「はぁ?何言ってんの?」 純は説明をしたが梨沙は疑っている。 その時だった。 「ゔあぁぁぁぁぁぁぁぁ」 もう一度、うめき声が聞こえた。 車内は沈黙に包まれた。 「う、嘘でしょ?バグかなんでしょ、多分」 ようやく梨沙がそう話し始めたのは高速道路を降り、事務所までもうすぐと言ったところだった。 結局あのあとは一度も男の声は出ていない。 「いや、否定はできません、けど俺は2回聞きました」 幽霊など信じていない二人は起きた初めての怪現象に戸惑っていた。 「ま、まあ、とりあえず帰ろう」 「そ、そうですね」 車を駐車場に停め降りる二人。 「純くん、とりあえず今日は遅いし帰りなよ」 「あ、わかりました…お疲れ様です」 純は挨拶をしてから歩き出した。 梨沙は車を見つめる。 この仕事を始めて二年、まさかこんな事が起こるなんて。 おそらくはバグか何か。 幽霊なんて、いる訳ない。 けど、もしいたら? 私達が扱っていいものなのか? 寺かどっかに出すべきなのか? いや、とりあえずどうにかなるだろう。 梨沙は考えることをやめた。 事務所に行き除霊道具を置いてから帰路についた。

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呪われた高級車1

「亡くなったご主人の声、ですか」 「そうです」 宮川の恐怖に溢れた様子に梨沙は少し驚いていた。 死んだ夫の声、それにそれほど恐怖するのだろうか。 「それはどの様な事を言っているのですか?」 「それが、わからないんです…あーとかうーとか何か苦しそうに…とにかく怖くて」 「わかりました」 形見の車から夫のうめき声、確かにそれは不気味だろう。 「ではご主人が亡くなった時のこと教えてもらえませんか?」 「はい、夫は、真面目な人だったんです…」 「でも会社をクビになって、次の仕事も長くは続かなくて、次第にギャンブルにハマって借金を作りました」 絵に書いた様な転落劇。 それは宮川の目に溜まった涙が表している。 「私も子供がいますし、離婚も考えたんですがある日、パチンコ辞めて真面目に働いてくれるようになったんです…けどすぐにいなくなってしまって」 「蒸発、ですか?」 「そうです、それで数日後、繁華街で酔い潰れて死んでいたんです」 「わかりました、ありがとうございます」 梨沙は泣きそうになっている宮川に感謝の言葉をかけた。 仕事をクビになりギャンブルにハマり、酒に溺れて死んだ男。 宮川は夫に対して良い感情を持っているはずはない。 「それでは、その車を見ましょうか、下のコンビニの駐車場ですか?」 「あ、そうです」 三人で部屋を出た後、下に降りる。 「あの、白いセダンです」 宮川が指差した先には国内大手自動車メーカーの高級セダンが置いてあった。 洗車をしてきたのだろうか、日差しを反射させ光っていた。 「中に入らせてもらいます」 梨沙は鍵を開けてもらい、運転席に座った。 特にこれと言って変なところはない。 外側と同様しっかり掃除をしてありとても綺麗だった。 それから少し経ってから車を出る。 「ご主人の悔しい思いが渦巻いています」 「やっぱり、そうでしたか」    「はい、除霊をするので一旦こちらで預からせてもらいます」   「わかりました」 「それでは色々と契約の話もありますので中に戻りましょうか」 三人は事務所へ戻った。 宮川と梨沙は契約の話を始めた。 しばらくして話はまとまったのか梨沙はペンと契約書を純に頼んだ。 それをサインをして宮川はタクシーを呼んで帰って行った。 「あの高級車、何か感じましたか?」 純はコーヒーカップを片付けながら質問した。 「いや、まったく」 梨沙はスマホをいじりながら答えた。 「そうですよね」 純は昔梨沙が言っていた言葉を思い出した。 あれはまだこの会社に入ってまもない頃。 たしか、殺人現場の除霊、だったっけか。 現場の雰囲気に圧倒され、怖がっていた純に向けて、梨沙は言った。 「いい?純くん、霊なんて思い込みなの、だから私達がいないって思い込ませれば消える、そういうもんだよ」 そう、梨沙も純も霊など見たことも信じてもいない、当然霊能力などあるはずもない。 除霊会社天光。 それはエセ霊能者の詐欺まがいの会社だった。 「そうだ、明日の高福市の現場、あの車でいこう、純くん、運転できる?」 「できますけど、良いんですか?」 「良いに決まってるじゃない、勿体無いよ、折角なら乗らないと」 「わかりました」 それから純は昼飯を外で済ませた後梨沙の命令で車を少し走らせた。 特に変なところはない。 宮川の言った様に男の声など聞こえない。 幽霊とは、思い込み、そんな梨沙の教えに純は賛同していた。 今まで様々な曰く付きの物や部屋、場所に行き除霊…をするフリをしてきた。 しかし本当に霊にあったことも何か不幸があったことは一度もないからだ。 純は車を駐車場に止め外に出る。 鍵を閉めタバコに火をつけた。 時刻は3時半。 あと1時間半、仕事を頑張ろう、と純は天光事務所に向かっていった。 事務所に入ると梨沙は書類をまとめていた。 「車、どうだった?慣れた?」 「ええ、ばっちりです」 「そう、じゃあ明日の朝一から高福市ね」 「はい」 純は先程明日の現場の住所をナビに設定していた。準備は万端である。 「あ、そうそう、一応これ、読んどいて」 梨沙に紙を手渡された。 そこには宮川からの依頼がまとめてあった。 依頼人 宮川奈緒子 51歳 依頼内容 5年前に事故で他界した夫宮川正雄の残した車から彼のうめき声がする為除霊してほいしい。 宮川正雄は真面目な男だった様だがリストラに合いギャンブルで借金を作るなど荒れるが妻に真面目に働く事を宣言する、しかし失踪し、数日後酒に酔って死んでいる所を発見された。

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