マグカップ
2 件の小説透明
ラムネの中に入っている透明なガラス玉が小さい頃好きだった。 飲むのに時間がかかって炭酸の抜けたラムネを一生懸命に飲んでいた。 しかし、飲み終わってもどうもしない。できない。 硬い蓋を幼い私が開けるのは至難の業だった。 最近だと珍しいラムネが店頭に並んでいる。 懐かしく思って買い、炭酸の弾けを楽しむ間もなく夏の暑さと一緒に飲み込む。 空っぽになってしまった瓶の中からあの頃のままのガラス玉が覗いている。 ラムネの瓶に手を伸ばした時見慣れた制服があることに気がつく。 ちらりと横目で眺めた後にガラス玉のことなど忘れてしまったふりをしてゴミ箱に放り込む。 透明な幼い影は息を潜めて出ることがなくなった。
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不登校の私の話
電話の音は怖くてならない。 学校へはもう何ヶ月もいっていない。 親だって何も言わない。 今日も電話をする母の声が聞こえてくる。 私は体を震わせ布団へ潜る。 いつまで続くのか分からないこの生活に私は憎しみを抱いている。 外へ出たことがないと思ってしまうほど、長い時間この家という牢獄から出ることができていない。 そんなことを考えるとまた音が聞こえる次はドアの閉まる音だった。この音で母が家を出たのが分かる。 間髪入れずにお隣の中村さんと母の声が聞こえる。 私の話なんてしていない。分かっているのに鼓動が速くなり、嫌な汗が頬を伝う。 静かになった頃やっと金縛りが解けたかの様にリビングへ向かう。 ラップのかかったおにぎりとお弁当箱が並んでいる。お弁当箱を冷蔵庫に入れてから席に着く。 おにぎりはお母さん特製の鮭とほうれん草のふりかけである。小さい頃から何度も頼みよく作ってくれていたおにぎりだ。 冷たくなっていても美味しく思い出のままの味だった。
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