翠花ころも

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翠花ころも

 ゆっくり趣味の範囲で書いています。見たくなったら、来て下さい。

魔法使いの昼下がり 第二話 薬草の香り

 コツコツ。  そう石畳をブーツで歩く音は朝に似つかわしい。最も、人通りが少なく、その音がはっきり聞こえることがそう感じさせているのであろう。  ここは普段、居酒屋などが建ち並んでいる。朝から晩まで働いて、一日の終わりに人々が種族や年齢を問わず、ここへ集い、酌を交わす。朝とは全く違い、店の扉口には温かいランプが照らされ、笑い声が響く。  そんな通りも今は、人気は無く、道を照らしているのは朝の日差しだ。基本、居酒屋などは夜からの営業である。それ故に、朝はこのように閑散としているのだ。  一応、エリーの「朝の穴場スポット」のうちの一つである。これは人で混み合う場所が人に比べて苦手な彼女がリストアップしたものだ。他にもいくつかのスポットがある。  それは後に語るとしよう。  エリーは通りを抜けて、街の広場まで来た。  まだ早朝だが、多くの飲食店のシェフや主婦が屋台に並べられた食材や調味料を吟味している様子が窺える。  それに混じりたいところだが、生憎、エリーには先に済まさなければならない用事があった。  エリーは屋台の並んでいる大通り側とは反対の、比較的人が少なく、今はちょうど日陰で暗くなっている建物に向かう。  エリーの目指す店が見えて来た。  その店の看板には「薬草、瓶、希少ドロップ品」と書かれていたり、はたまた「調薬、三日で承ります。」というものもあった。  その店の外には空き瓶や色の付いた液体入りの瓶が窓の下の棚に無造作に置いてあったり、庇の部分には薬草が干されてあったりと、中々に一般人が入りづらい見た目をしている。  エリーはトコトコと店に歩いて行き、店の戸を開ける。  チリンチリン。  扉につけてある小さなベルが鳴る。 「はぁーい」  そうベルが鳴った後に続いて、元気の良い女性の声が聞こえた。 「ああ!エリーじゃん!今日も買いに来てくれたの!?嬉しいなぁ。」  店の奥から出てきたのは見た目は20代ほどの女性だ。元気が良いという印象が強い。肩までぐらいの淡いピンク色の髪に水色の瞳を持っていた。何より、特徴的なのはその耳だろうか。人より尖っている。そう、エルフだ。  エルフは数ある人類の種族の中でも最も長い寿命を持つことがよく知られている。そして、魔法の才能が長けているものが他の種族より多いことも同様だ。  そんなエルフはエリーを弾けんばかりの笑顔で歓迎していた。 「おはよう、フィナ。前に頼んでいたものをお願い。」 「おっけー!ちょっと待っててね」  そうフィナと呼ばれたエルフは言うとまた店の奥に戻って行った。  室内も薬草が吊るされていたり、瓶の敷き詰められた棚があったりと、何とも「ポーション屋」らしい店だ。  店の中は多くの灯りで照らされていた。どれも日光のような白さが目立つ光では無く、暖かみの強い光だ。エリーはかつて魔法学校で習った知識を思い出す。 (確か、多くの薬草はこの光を好むのだったな。…懐かしいな。そういや、この薬草はナムトリアだったかな。そしてこれは─。)  エリーは魔法学校に在学していた頃を懐かしく思いながらも薬草を見ていた。  そんな事をしている内にフィナが戻ってくる。カウンターに戻った彼女の手には木箱が抱えられていた。 「はい、これ!結構、仕入れるのに時間かかっちゃったー!」 「ありがとう。これ調合に必要なんだよね。」  そう言って、木箱の中身を確認する。  いくつかの種類の薬草に、瓶。そして、中でも最も特徴的なのは真ん中にある蒼い花だろうか。  明るい部屋の中でも鮮明にわかるほど輝いていた。  フィナはその花を指さして言う。 「このサルファーブル、私の伝手を辿りに辿って、やっっと手に入れたんだよ!このエルフの私の伝手でやっと!珍しいとは知っていたけれど、ここまでとは。……まぁ、お得意様のエリーだから張り切っちゃったんだけど」 「本当にありがとう。ドロップ品を今度、おすそ分けするね。」 「本当っ!助かるよぉ〜」  エリーは良くこの店を利用する。魔物を狩ったときに出るドロップ品を寄付することもしばしばだ。  この街に住んで、数年。その間、フィナとは関わることが多かった。故に、この街の中でも特に親密な人のうちの一人だ。いつも、この店に来る度に長居してしまう。客が少ないこともあり、落ち着いて居られるのもあるだろう。  しかし、何よりもフィナと話すことが楽しいことがその原因なのだろう。  今日も少しフィナと世間話をした後、エリーは店を出る事にした。  

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魔法使いの昼下がり 一話 朝日と共に

   朝日が昇る。街の石畳を、森の葉を橙色に染め上げる。  朝日は始まりの象徴だ。  生物達もそれを理解している。木々は葉を揺らして笑い、花はその美しい色の蕾をゆっくりと開いて祝っている。動物達も彼らの寝床から、朝日を浴びに大地を踏む。  そして、幻想かの如く美しく芽吹く生命達は皆、今日も生きていた。  この世界では、植物、動物の中には魔法を使う、魔法生物がいる。例えば、この狼のような生き物。朝日にあたり、銀色の毛を持つそれは形だけで言えば普通の狼であろう。しかし、それは時には強大な魔法を使い、人々を攻撃することがある。敵にすれば恐ろしく、味方になれば頼もしくすらある。……懐くか否かは、その人次第であるが。  人の世でも、魔法生物と同様、幾らかの人々は魔法を使うことができる。  しかし、魔法だけで無い多くの能力を持った人々がいる。それらの能力は、種族や血族、珍しいものだと口伝により伝えられる。ごく稀に、それ以外での方法で能力を持つ者もいる。  もちろんのこと、特に特別な能力を持たない人々も多く存在する。彼らは特別な能力が無くとも、画期的な道具を発明する事ができる。  皆が皆、長所を持って生まれてきている。 そして、この世界は幻想が現実なのだ。    そんな世界の一人、魔法使いエリーはそそくさと身支度をしていた。彼女の瞳は青く、胸の辺りまである黒髪を持っている。そして、今はその髪を梳かしているところだ。  彼女は身支度をしながら、窓の外の様子を寝ぼけた目で見ていた。  彼女の家は街中にあり、多くの建物が並ぶ通りの住宅のうちの一つである。人通りは多くとも少なくとも無い。しかし、賑やかである。  町の人々は朝日と共に動き始める。近所のパン屋の婦人が会話している声が微かだが聞こえる。  その声を聞きながら今度は、料理をすることにした。  魔法で浮かせた、食材に調理器具。そして、調味料。それらはまるで意思を持ったかのように動き出す。料理のレシピを知っているかのような滑らかさで。  一見、物が踊っている様に楽しく見えるこの魔法だが、意外と神経を使うのだ。彼女が無言でいるのはそのためだ。……もっとも、寝ぼけているだけでもあるが。  食事を済ませたエリーは街歩きに出掛ける。日々の日課だ。  エリーは青い模様が縁に沿って描かれている薄黒い外套を羽織り、扉を開けた。  彼女は外に出て清々しい青空を眺めていた。  すると、声を掛けられる。 「あら、エリーちゃん。おはよう。」 「おはようございます。」  そう言って会釈をする。声を掛けてきたのはパン屋のご婦人である。先ほど、家の中からも聞いた声だ。どうやら、パン屋の開店準備をしているらしい。 「今日は買い出しかい?毎度、朝が早いねぇー」 「はい。自分は自炊メインで生活していますので。」  そう、淡白ながらも彼女は嬉しそうに言う。パン屋の婦人は「いってらっしゃい」と告げると仕事に戻っていった。エリーも同じ様に「いってきます」と彼女の背中に返すと、婦人が歩いて行った方向とは違う方へ歩き出した。  エリーはひらひらと外套と髪を揺らしながら街の中心部へと向かうのであった。

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