橘スイ

4 件の小説
Profile picture

橘スイ

優しい小説を書きたいです

泣けない夜に秋桜を。

いつもより寂しくなって 涙が溢れそうになる夜 誰かのせいにしたくなって 自分がちっぽけに見える夜 痛み止めじゃ治らない 鈍い痛みに耐える夜 そんな夜を何千回も過ごしてきた 広い世界のどこかにいる あなたへ。 この世界には-怪物-がいる 汚い部分は綺麗に隠して 笑って笑って笑って… 本当の自分が分からなくなって 誰かの愛を素直に受け止められなくなった怪物 ひょっとするとみんな怪物なのかもしれない どんな薬よりも優しい毒 解毒剤がない苦い苦い毒で 自分を殺してしまう怪物 本当の自分は誰からも受け入れてもらえないと 思っているのかもしれない いつだって自分を好きでいることが できるのは自分だけ。 だからどうか、嫌いにならないで 嫌いになってもいいけど 恨みすぎないで 信じられないかもしれないけど 笑える日は来るから そのときはきっと新しい本当の自分でいるはず 幸せは大きくなくて良いと思う 薔薇みたいな綺麗な幸せもいらないし 両手に抱けるくらいのたくさんの幸せもいらない ただ、温もりが灯る 一輪の秋桜みたいな幸せが欲しい そしたらきっと 花瓶に入れて枯れないように 大切にするから あとがき 今年一年お疲れ様でした この文章は常々自分に言い聞かせていることでもあります 決して楽しいことばかりじゃない一年でしたが こうして朝日に顔を濡らせることに 小さな幸せを感じる毎日です 読んでくださりありがとうございました‼︎ 皆さんの日々が穏やかであることを心よりお祈りしております

35
2
泣けない夜に秋桜を。

「眩しい。」

茜色の陽射しが頬を撫でる 君の笑顔が空に咲く 焼けてしまいそうなほどに眩しくて 額の前に手をかざす きっと君は太陽の生まれ変わりだと思う 僕は、太陽に照らされて光る月…… とかじゃなくて きっと僕はいつまで経っても 太陽に刺されて溶けてしまう 氷菓子のままでいるんだろう でもこれは恋とかじゃないから ただただ焦がれるほどに君が 「眩しい。」 思わず声が漏れ出た 八月、爆ぜたような茜の下 二人の影が揺れている

19
4
「眩しい。」

ただ、君に花を呼ぶ。

微かな春の匂いが頬を撫でる。 昼下がり、午後の日差しが眩しくて 思うように目を開けられない。 食卓の上、花瓶の花を挟んでうっすら君の耳元が見える。 淡桃色に、程よく血の通った耳を見つめていると 冬の終わりを感じられた。 季節の移ろいと花の移ろいは比例しているようだ。 ちょうどこの前までは うっすらと雪化粧をした町の中に、紅色の 梅の花が口紅のように咲いていたというのに、 何度かまばたきをしたうちに 今では桜吹雪が、まるで白昼夢のように あたり一面を包み込んでいる。 溶けてしまいそうな白昼夢の中、君が口を開いた 「今思ったんだけどね。私、来世は花になりたいかも。」 静けさの中、スーッと線を描くように君の声が小さく響いた。 「良いね。何の花?秋桜とか?」 「私は……花だったら何でも良い。  あ、でも出来れば桜になりたいな。好きだから。」 「貴方は、何になりたいの?」 「……君とドライフラワーになりたいかな。」 「……どうして?」 「終わりが来ないから、幸せでいられる。」 そのとき、君が悲しそうに目を細めた。 まるで琥珀を嵌め込んだかのような瞳が 木漏れ日を浴びて光っている。 と、思えば今度は優しく口元を緩めて 「命ってね、いつか必ず終わりが来るって分かってるから大切なんだって。」 とだけ言った。 君が、あまりにも綺麗だったから、 もう死んで本当に桜になってしまったのかと 疑いそうになった。 午後の日差しが暖かい。 きっと消えゆくこの時間を、花瓶に込めて 花を呼ぶ。

31
5
ただ、君に花を呼ぶ。

5㎖の群青

「泣かないで。ずっと隣で笑っていてよ。」 ずっと喉の奥に支えている。 あの夏、痺れるほどに青い空の下、この言葉が 君を呪ってしまったのかもしれない。   枯れた言葉が形もなく宙に浮かぶ。 「泣かないで。」 こんなこと言う必要が無いように 両手に抱いた花束みたいな幸せを 君に渡せていたら。 あるいは、ちゃんと涙まで抱きしめてあげられていたら。 泣かないように空を見上げる。 5㎖の群青が宙へ浮かぶ。 痺れるほどに青い空の下、 君のほうを見つめた。

31
4
5㎖の群青