空想ペンギン

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空想ペンギン

色んなシチュエーションを妄想するのが好き

異世界転生したコミュ障

・・・ 目を開けると 強烈な違和感が襲ってきた 派手すぎるギャル(?)がこちらを凝視している 歳は俺と同じか歳下くらいだろうか? クラスメイトの酒井さんと雰囲気は似ているが 俺が彼女と関わる事はまずあり得ない 酒井さんはカースト上位の高嶺の花 俺といえば・・・ これ以上自分を蔑むのはやめよう いや、ていうかどちら様? 17年間貞操を守り続けている哀れな俺への救済措置として神様が夢を見させてくれているのだろうか? 「何者じゃ」 じゃ? 語尾にじゃという少し古風な話し方をするのが今時のギャルの流行りなのか? 「あっと・・・えっと・・・」 乾いた口から音を発するが 情け無いコミュ力の無さを同年代であろう美少女に晒してしまった あぁ○にたい 「何者じゃと聞いておる!」 金髪の少女は 精一杯の怒号を飛ばす 「カレハ安全だ 敵意ハナイヨウダ」 え?なんか浮いてね? 少女の右肩上を発行物がヒラヒラと浮遊して おまけに言葉を発している 何これおもろ SNSにupすれば大バズりしそうだが 生憎フォロワーは指で数えれる程しかいない 「影の連中が召喚した訳では無さそう 姐さんに報告しないと」 そう捲し立てる少女は俺を置き去りにして去ろうとする 思考が追いつかない 少女の服装も見たことがない 控えめに言って目のやり場に困るような軽装をしていて 民族衣装のような格好をしている おまけにあの飛行生物は妖精か? たしかここに至るまでは家で寝ていて起きたら洞窟のような場所にいる あー確か明日は月曜だったから 早めに寝たんだっけかな? 明日洋介の奴とカラオケに行くから 早めにこんな夢から覚めたいのだが 刹那の現実逃避 ただこの状況 少女と俺しかいないという事だけは 冷静さを欠いた脳でも理解できた 「置いていかないでぇ!!」 異性に依存した人間の気持ちが今ならよく分かる この少女に置いていかれれば 俺はこのあまりにもリアルな現実での生存が厳しいものになる 四つん這いのまま少女を追いかけようとする しかし洞窟の扉は無慈悲にも ガラガラと重い音を発しながら 閉まっていくのであった

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力と正義③(弱肉強食)

「お前もそろそろ 自分の行動に責任を持てるようになりなさい」 一昨日、僕に冷たく言った父の言葉が脳内で再生される 金本家の門限を破り 試験勉強をする訳でもなく 学校終わりに何処かへほっつき歩き 挙句の果てに朝まで路上で眠りこけていた僕に対して厳格な父が呆れるのも無理はない あれ以来ほとんど口を聞いてくれないのは僕に対する失望の証だ 母に怒鳴られるのには慣れているが 父の期待を裏切ってしまったのが 正直1番キツい 「おいどこ行くんだよ そっちは遠回りだぞ」 友人のユウタが僕の腕を掴む 妙に力が入り その痛みで意識が現実に引き戻される 「痛ぇーよ 今日はこっちに用事があるんだよ」 見え透いた嘘だがいつもの下校通路を通って沢田に待ち伏せされていたら堪ったものではない 「いや、でもよ」 「だから痛いって」 「あ、ごめん」 思いの外右手に力が入ってしまっている事に気が付きユウタは手を離す ユウタはバツが悪そうな顔をしている 「・・・・」 「・・・・」 少しの間の沈黙がやたらと長く感じた 「はぁ〜 分かったよ 俺もそっちから帰るわ」 ユウタはやれやれといった様子で 手のひらを上げる 二人分の靴底が地面を鳴らす音と ユウタの鞄が揺れるたびにやかましいほどしゃらしゃらと鳴るキーホルダーの音以外聞こえなくなった 二人は誰もいない 住宅街の細い道を静かに歩く 「今日井上ん家(チ)行っていい?」 僕は長い沈黙を破り 適当な話を振る 内心家に帰りたくなかった 親に許可なく門限を破る、路上で浮浪者よろしく眠りこけるという汚名を返上をするまで家に僕の居場所は無いのだ しかし ユウタの返事はない 「シカトかよ」 「え? あぁ そうだな」 「はぁ・・・」 思わずため息が出てしまう 「あのさ・・・絶対に誰にも言わないって約束できるか?」 「なんだよ」 友人の珍しい真面目な話しに少し動揺する 「俺、脅されてるんだ」 「え?」 「3年4組の沢田に・・・」 友人の突然の告白に思わず絶句してしまった 僕は足を止め 友人の言葉の続きを待つ 「お前をハメようとしたんだ 本当はお前をいつもの下校通路に連れてくるように言われてるんだ」 「本当にごめん 俺はバカだ」 違う お前は何も悪くない 頭を下げる友人にそう言葉を掛けようとするが震える唇がそれを拒否する ユウタは学校ではいつも通り陽気に話しかけてきた 今日もいつも通り ワイズに行こうと誘い いつもと変わらない態度で僕に対して「お前大丈夫か? 気分が悪いのか?」と他人の心配をしていた その裏では 沢田に脅され 僕を奴等の所へ連れていく計画をしていたのだ 吐き気がした  全てが気持ち悪い 口内に胃液が逆流してくるのをなんとか飲み込む 苦い 気管が焼ける アイツに全てを壊される 友人も 学校生活も 家庭も  沢田の圧倒的な力の前に成す術もなく 弱者は蹂躙され 破壊されるのを震えて待つ事しか出来ない という事実だけが 僕の前に立ち憚った 「・・・分かった」 苦い まだ吐瀉物の味が口内に纏わりつく 一言友人、否友人だった者にそう呟き 再び歩き出す ユウタは赦されたのか 見放されたのか判断し兼ね遠ざかる僕の背中を見ている事しか出来なかった 「あ、あいつにレジスタンス貸したまんまだった」 僕は自分の影に話しかけ 井上ユウタにお気に入りのバトル漫画を貸しているのを思い出した 「感想、聞いときゃよかったな」 強大な悪の存在に立ち向かう 不恰好だけど 強くてかっこいいヒーロー達の物語 そんな不純物のない勧善懲悪の 最高にカッコいい物語を見てアイツは何を思うだろう

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力と正義③(弱肉強食)

力と正義②(発端)

6月12日放課後 終わりのチャイムが鳴る 「〜〜しとくようにー」 教師の義務的な忠告はチャイムによって半分かき消され 授業中抑制されていた生徒達の声が 堰き止められた水が溢れ出すかの様に聞こえてきた 「おーい 帰るぞ」 スクールバッグをワザと僕の頭に乗せてきたのは友人のユウタ 「うっざ」 「今日帰りワイズ寄って行く?」 「・・・金ない」 「はぁ!? 小遣い入ったんじゃねーの?」 「どうせ 飯奢ってもらうの期待してるんだろ?」 「・・・んなわけねーじゃん」 「今の間で確信したわ」 そんな他愛のない会話をし、僕は裕太と教室を出る 生徒達の足音と授業から解放され各々青春を謳歌する音がミックスされ 校内を循環している しかし 僕の聞こえている音は無音だった 「どしたぁ?んな暗い顔して」 隣を歩くユウタが声をかけてくる 「・・・別に」 「いや、なんかある顔してんぞ? もしかして転売でトラブったとか?」 「そんなんじゃねーよ」 「んー・・・じゃあエロ動画の見過ぎで頭が痛いとか?」 「それお前じゃん」 くだらない事を言って気遣ってくれる友人のおかげで 少しだけ不快な気分が軽くなった 僕の家庭は小遣い制ではあるが いかんせん雀の涙ほどしか貰えなかった 両親はよく僕が眠った時間から喧嘩をしている 食事の時からお互い目を逸らしているのが分かるし 話題も僕の学校での生活や、成績そんな話ばかりだ だから僕は大手フリマサイトで転売をする事にした 初めはとにかく無茶苦茶な売り方をして 全く稼げなかったが 現代では無料で転売のノウハウを学べてしまう ネットで学んだテクニックを使ってそれなりに転売で稼げていた しかし悩みの種はそれでは無かった 事実もう親の小遣い等宛にしなくても十分に金はある 問題なのは 沢田のグループに目を付けられた事だ 一昨日 退屈な学校を終え一人でゲーセンに行き 適当に時間を潰して 帰り道を歩いていた時だ 目の前にでかい声で談笑する不良グループがいた 僕はすぐにそれを認めると目線を逸らし 普通の一般人 通りすがりの通行人になった 「あーっ!! 金本くん!?」 ワックスで頭にツノを無数に作っている男が僕の名前を呼んだ 僕はイヤホンをしている 聞こえていない口実はある 歩く速度を速める 「なーに無視しちゃってんのさー 冷たいなぁ」 ツノ男が僕の前に立ち憚る この男・・・やばい、沢田だ その男は校内でも有名な不良だった 同じクラスになったことは無いが 僕でも噂は耳にしていたし 他クラス合同体育では一段と目立つ存在であった しかしこの男と僕は面識はない筈だが・・・ 「・・・・・」 何と返そうか返答に詰まる 前に立たれた以上 聞こえていないは通用しない 「今帰り? ちょっと僕達君に話があってさーいいかな?」 「沢ちゃん そのインキャ誰?」 金髪の男が沢田に話しかける 「え?友達」 沢田が歯を見せニヤける タバコを吸っているその他の不良達も 沢田の周りに集まってくる 全部で6人か・・・ 僕はどうする事もなく そのまま壁際に追い込まれた この際プライドを捨てて 叫び声を上げて助けを求めるか? それとも・・・ 「金本君さぁ お金いっぱい持ってるんだって? 僕知ってるんだー」 「・・・持ってないです」 僕は恐怖を悟られまいと 淡々と応える 「僕達 エリート集団だからさぁ 色々とお金がいる訳よ? だから・・・ほら」 沢田は石のようにゴツゴツした掌を僕の前に出してきた 手の甲に傷跡があり 皮も一部めくれている (この下衆共が) 僕はこの虚しい生き物達から 搾取されている自分に哀しくなった 何もできない 知力ではこのクズ達より上なのに 内心恐怖で足が震えている  こいつらが狼なら 僕は肉食動物から逃げて草を食べている草食獣といったところか・・・ 狼達は舌舐めずりをして僕を見ている 「・・・これで全部です。」 沢田の掌に長財布を差し出す 「うおおおお ありがとう!!どれどれー?」 財布を開け 1万円札5枚を見て 歓喜の声を上げる狼達 「すげぇ持ってんじゃん!!こんなくれるなんて僕達もう友達だね!!」 沢田は僕の肩に馴れ馴れしく腕を回す 何もできない・・・ 言い返す事も 殴る事も 僕はこんなアホよりも数百倍賢く生きているのに!! 「じゃあ金っち また遊ぼうね♪」 耳元で沢田が囁いてきた 完全に獲物を見つけた顔だ 不良グループは意気揚々と帰っていった 僕は膝を突き 人生で初めて 自分が恐喝され ただ何も出来なかった事実に放心した 「・・・帰らないとな」 放心している自分に直近のタスクを言い聞かせ足を動かす 震える足をなんとか動かし 見慣れた道を歩く 空は鈍いオレンジ色をしていた 陽が沈み 夜を迎える準備をしている 「そこの少年」 また声をかけられた 電柱にもたれ掛かり嗄れた声で話す老人がいた この暑い時期にボロい外套を着ている ホームレスか? 僕は一瞥し 再度歩き出す 「ワシを 殺してくれんか?」 精々生きる事に絶望し 死にたくても死にきれない人間といったところか 「ワシを殺してくれたら 君の人生を救ってやろう」 老人は声を振り絞り そう言った 「え?」 その魅力的な言葉に思わず立ち止まってしまった 「この短剣で ワシを貫くのじゃ」 老人は細い指で ナイフのような物を差し出してくる 「どうして死にたいんですか?」 「君を救いたいからじゃ」 意味がわからない どうやってこの死に急ぐ老人に僕を救えるのか 「死ぬのは 痛いですよ?」 「それでも 君に刺してほしい」 老人は笑顔を見せ 僕に言う 「ワシは金持ちでなぁ 君がワシを殺してくれたなら これをやろう」 老人は大きな宝石をつけた指輪を見せる 「・・・そんな高そうな物」 「さぁ 決断を」 老人は殺される人間と相反するような表情をしている 子供が虹を初めて見たような 幸福を感じている顔だ 僕は短剣を取り 老人が心臓に向かって僕の腕を引く 息が荒くなる もしこのまま力を入れれば 僕は殺人犯となる だがこの老人の喜びに満ちた表情と 「君の人生を救ってやろう」 という言葉が脳裏に焼き付いて離れない グニュッ 柔らかい物を刺したような 鈍い感触が伝わってくる 僕は老人に抱擁され 途端に強烈な睡魔に襲われた 僕の視界は暗転し 意識を失った

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力と正義②(発端)

力と正義①

2月16日 17時18分 コンビニの駐車場にて 「なにお前 僕になんか文句あんの?」 後ろに倒れ 今見た現象、立場が急に反転してしまった事に 男は声も出せずに呆気に取られていた 本来なら僕の方がこの男にボコボコにされ 顔中に痣が出来ていた事だろう 「な・・・なんだてめぇ」 「くふふっ」 あまりに間抜けな面だから笑ってしまった 決めた こいつはジワジワとなぶり殺しにしてやろう 僕がターゲットにしたチンピラは案の定「お前雑魚そうだな」と言うと 血相を変えて殴りかかってきた ところが男は突然何か強い力で宙に浮き 激しく地に叩きつけられたのである 人間は自分の理解の範疇を超えた現象が起きると固まってしまうというのは本当らしい 派手に髪を染めたまだ若い男は目を見開き反撃する訳でもなく ただ目の前の理解できない事象に信じられないといった様子だった 「命乞いしろ」 少年は一歩前に出る 「あ? てめぇ もう一度」 男がもう一度立ちあがろうとした ボキッ 男の右腕が 可動域を超えた曲がり方をした 「ギャアアアアアア」 あまりの大声に 通行人達がこちらを見る トラブルに関わるまいと早足で逃げる人が大多数だが これほどの叫び声を上げれば 普通は異常事態だと思うのが普通だろう 「あれ ヤバくね?」 「うわ喧嘩?」 「警察呼ぶ?」 と話し声が聞こえる 「ああ・・・あああ腕が・・・」 派手髪の男は情け無い声をあげ 蹲っている 「うっさ」 僕はそう呟いて周りを見渡す ここでこの男の首を捻ってしまおうと思ったが 目撃者が10人・・・ その10人全員を同時に殺すのは流石に無理がある 「お前声デカすぎなんだよ」 ダメだイライラする 殺そう 「ア・・・ア・・・ァ」 少年が手首をひねると 派手髪男の首が曲がり始め コキッ 派手髪男はそのまま沈黙した 遠くからはサイレンの音が聞こえる 「あー すっきりしたっ」 僕はそのまま裏通りを抜けて走り去る これで悪性腫瘍を除去したのは4回目だ この世にはまだまだ悪性腫瘍が存在する 僕はそいつらを排除するためにここに居るんだ そう考えると楽しくて仕方がない 僕は文字通りヒーローになったんだ そろそろヒーローマスクとヒーロースーツが欲しいな 帽子だけでは顔バレを防ぐには流石に無理がある そんな事を考えながら 僕は帰路についた  勿論親にバレない様に 2階の窓から 明日は誰を殺そうか

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力と正義①

四畳半サバイバー③

店内に頭に残りやすい軽快な入店音が鳴り 客が来たことを知らせる 「しゃませー」 自分の声から発せられる声は 鈍く 掠れた声のように感じる 労働を始めて2ヶ月が経った 単純な仕事なら 業務内容に慣れて欠伸が出る頃か 「井上くん」 「は、はい!」 突然品出しをしていたユキオに背後から名前を呼ばれる この声の調子は きっと指摘を込めたお叱りだろう 「あのさ! フライヤーなんで冷凍のまま放置してんの? 前にも言ったよね?」 「あっ すみません!!」 ユキオは運動不足の肥満気味の身体を走らせる。 霜の付いたナゲットがフライ用の籠にセットされたまま放置されている 五十嵐さんは仕事上先輩だが 同い年の大学生だ ユキオはフライヤーのタイマーをセットし パチパチと沈んでいくナゲットを確認し 品出しに戻ろうとする 「接客!!」 「はえっ!?」 思わず素っ頓狂な声が出る 接客と言われたから お客が来たのだろう 「いらっしゃませー」 店内の入店口を向いて挨拶する 「ちゃうわ!レジや!!」 五十嵐は怒りの余り方言が出ている 「あっ! すみません・・・」 ユキオはレジへ向かいスキャナーで商品をバーコードにスキャンしていく単調な作業に移る これは得意だ リズミカルにピッピっと商品を捌く様は 出来る男のように思えた 「・・・896円です」 サラリーマン風の薄毛の男性は気怠そうに乱雑に1000円札と小銭をばら撒く (ちっ 腹立つな もっと丁寧に置いて労働してやってる俺に敬意を払えよ) ユキオは内心そう思った 金銭授受も慎重にやらないと 過去に10回近く精算が合わずに 全てユキオの金銭授受ミスで差額が出てしまっていた 無事にその日の業務を終え、ユキオは少し残業し、ゴミ出しをする 「はあぁ〜つっかれたー マジやってらんねーわ ゴミ共の接客とか」 塵芥でパンパンになった袋を店裏に持っていく ユキオは腰を叩き 誰も居ないことを確認するとそう呟いた 「お!トモキからPAINEだ!」 スマホを確認すると  友人のトモキからメッセージが届いていた (労働お疲れ!今日この後オールでやる?) 勿論、最近新しくサービスを始めた 今まさにゲーマー達の間で人気に火がついてきているFPSオンラインゲーム ギルティクラン 通称ギルクラの事だ サービス開始からトモキと毎日 時間さえあれば齧り付いている程ハマっている 「ったりめぇよ!ムフフ」 独り言を言いながら (当然だろ 俺らに休む暇はない) とメッセージを書き込み送信する 期間限定キャラ スカーレットを解放する為の軍資金は労働によって蓄えてある 父に社会経験のためにバイトすると言った時には 父は「そうか いい事だ しっかり働きなさい」と喜んでくれた 勿論全てはこのギルクラに課金する為に この有能な俺が身を粉にして 底辺共に付き合ってやってるんだ ユキオはゴミ出しを終えると 終業の準備の為スタッフルームに向かう 途中同じクルーの女子大学生の佐藤さんが「お疲れ様です!」 と笑顔で挨拶してくれた 「あっ おつですー」 ユキオも精一杯の笑顔でニヤッとしながら挨拶する (あの子 絶対俺に気があるだろうな) これからの至福のひとときと 可愛い女性と話せることができてユキオの気分は高揚していた 足をパタパタとスキップのような仕草をしながらスタッフルームに向かう 「店長 それがあいつマジでトロイんすよw」 ドアノブに手を掛けた手が止まる 五十嵐が体育会系の声量を発揮して ギャハギャハと笑っている 「今日なんてフライヤー揚げるの忘れてるわ 俺がお客さん来たよって言ったら しゃませーってキモい声で挨拶してたんすよw そっちじゃねぇっつぅの!w普通レジの方だろって思いません?」 「ダーッハハハ それはヤバいねー」 店長もつられて愉快そうに笑っていた ユキオは巨大な鉛を背中に乗せられた気がした 重い 重すぎる なんだよこれ? 額から汗が出てきて先へ進めない それからのスタッフルームからの会話はほとんど聞こえてこなかった 体臭が臭い 気持ち悪い という単語は聞こえたが 背中に乗せられた巨大な鉛を背負わされてる以上 重さはあまり変わらない ユキオはフラフラと 荷物も取らずに  制服姿のまま 帰路に着いた スマホを見ると(ディナーマート○○店) という着信履歴が5件 トモキから(まだ入らないのか?腹でも壊したか?) と、オンラインゲームの催促メッセージが一件届いていた そんな事はどうでも良かった とにかくこの重たい鉛を取ってくれ 呼吸もしづらいし 身体もしんどい アイツらのせいだ  (すまん 廃棄の弁当食い過ぎて腹壊した) と唯一無二の親友 トモキにPAINEのメッセージを返す 「あ〜だる 荷物置いてきた」 ユキオは天井を見つめ呟いた あそこに戻る気力は無かった ただの「無」 力も入らない ユキオはそのまま目を閉じ 眠りについた

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四畳半サバイバー③

仮面舞踏会

「ねぇ 最近アレ流行ってるの知ってる? トゥイッターでバズってるやつ」 「知ってる知ってる アレ面白いよね」 「てかアレ食べた? トゥイッターでバズってるコンビニのスイーツ」 「えー!まだ食べてない食べたいから寄っていく?」 「そんなもん興味ないくせに」 僕は踊るのが下手くそだ 仮面は半分割れている 人と踊れないから隅っこでぼーっと突っ立っている 「えーめっちゃ凄い!頑張ったんだね!」 「いや?そんな頑張ってないよ テキトーにやってたら出来た」 「それって凄い事だよ!マジ天才!」 「ね?そう思うよね!?」 突然の踊りの誘いに 動揺する 「えっと そうだねー確かに凄い!でも他にもそんな人居たよ?」 足がカクカクする 手の取り方もぎこちない 踊り方を気にしてしまい 不自然な動きになる 「あははー でも凄い事には変わらないよ」 踊れない僕の手を取って 輪に入れてくれようとした人は そのまま僕の手を取り払い 自然と元の相手と踊る 違和感を感じさせない 流石だ その自然な一連の流れに気味の悪さを感じる そして僕はまた立ち尽くしてしまう 少しでも練習すればいいのにと思うだろう けれど 何度も踊れる人の真似をしても 違和感しかなかった 僕も踊りたい 何故なら踊れていないのが僕だけだから 皆は奇妙な面を着けて 機械人形のようにのように踊っている 「てかあいつウザくね?」 「確かに つーかそんな事でいちいち騒ぐなっつーの」 「いやマジでそれなw あいつ調子乗ってるから 外す?」 「おっけー」 さっきまで優雅に踊っていた人達が 仮面を着けずに出鱈目な動きをしている 何だ 仮面なんて着けなくていいんじゃないか しかも踊りが出鱈目でもいいんだ あの人達となら踊れるかもしれない 僕は声を掛けようと その人たちに近づく 「なぁ今度あそこ行かね?」 「おう!行こうぜ マジで超楽しみ!」 「そこに俺の知人がいて ちょっとした有名人なんだけどさ」 「え!まじで!?すっげ! 俺も知り合いになりてー」 あれ? 何でまた凄い踊りをするの? さっきまでの出鱈目な動きは? 何でまた仮面つけてるの? 高度なテクニックすぎて 理解が追いつかなかった 踊りや仮面の着脱を 瞬時に切り替えれる人達が羨ましかった 僕の仮面は中途半端に半分に割れていて 覆う事も出来ないし かといって曝け出したままでは話しにならない 不完全な紛い物だ 僕もあんな風に 完全な仮面を 完璧なタイミングで付け替えて人と踊れるようになりたい 「捨てた方がいいよ? そんなゴミ」 僕に近づいてくる者がいた 「なんて事言うんだ!確かに時々何だこの邪魔な物って思うけど」 その人の顔は恐ろしい目つきをしていた 口角はへの字をしていて こちらを試すかのような目をしてジッとこちらを見ていた 踊ってもいないし 仮面も着けていない 「君!ダメだよ 此処は踊れる人じゃないと来ちゃいけないんだ」 「じゃあ追い出して見ろよ」 その者は表情を変えず 淡々と応える その声には信念のような熱を帯びていた 「どうせ此処にいる奴らは俺を追い出せない 異物は目に入れたがらないからな」 「ダメだよ! 仮面をつけなければダメなんだ 踊れなきゃダメなんだ 確かにそうだよね」 「外せよそんなゴミ 邪魔だろ」 怖かった けれど外してみたかった 「・・・もし外してその後着けれなくなったら? もう僕は皆と踊れない?」 「こいつバカだw 顔が半分見えてんのに意味無いだろ」 「しかも踊ってないし」 「踊りも出来ないし」 僕のその子はそう言って同時に笑った 僕は仮面を外す くっついて剥がれないんじゃないかと思うほど硬かったが 不思議と僕の感情はそれを覆すほどに揺れていた 半分だけの 意味をなしていない仮面は地面に転がった どんな顔をしているのか 自分でも分からない 怒った顔? 泣いてる顔? 笑ってる顔? けれどそんな事どうでも良かった 「なぁ ブレイクダンスしようぜ」 「やったことないのに 出来るかっての まずは教えてよ つまんないかもしんないけど」 不思議と身体が軽い 周りの人達の表情は分からない なにを話してるかも分からない けれども 何も変わらずにその人達は踊っている けれど僕はそんな人達よりも こいつと踊る方が楽しいと思えた テキトーな動きをすれば そいつも変な動きをしてくれる 笑い合う顔も見える 楽しい 自由がどこまでも広がっている

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仮面舞踏会

四畳半サバイバー②

「はあぁ くっそ使えねぇ仲間だな!」 ユキオはモニターに怒鳴り 般若の如き顔でキーボードを叩く (noob) FPSゲームでの煽りの意味で使われているスラングだ 「あー マジで新しいチーム作らないとな」 昨日、友人でありチームだったトモキは 働くという半ば裏切りにも等しい言葉を残してゲームを抜けた その翌日には母タカコから父の危篤を知らされた まずい これまでの俺の平穏、いやプロゲーマーの道が危ぶまれている いや、そんなことは父が病に倒れた時から分かってはいたんだ 「大丈夫よ 貴方には私が居る 私さえいれば貴方は強くなれる」 モニターの中のキャラクター、スカーレットはユキオに話しかける それに呼応するかのように腹から情けない声が出てくる 「・・・・腹減ったな」 無情にも 呼吸をして居る限り腹の虫は鳴る 脳が(死なせるわけにはいかない!) と食欲や空腹感を刺激してくるのだ 扉をそっと開けるが 何という事だ 食事が用意されていないではないか! 「チッ なんだよ」 いつもならタカコが食事を扉前に置いて行ってくれるのだが なるほど餓死して死ねという事か ストックのスナック菓子はもう空だ ムシャクシャする 何だか叫んでこの世界をRPGの魔王の如き町や村を破壊する というような破壊衝動が芽生えてくるが ユキオには相棒のPCを壊すという暴挙に出る勇気はなかった 「〜〜〜〜〜っ!!ぶあああ!!!」 その結果、枕に顔を埋めて ありったけの感情をぶつけるという行動に出た 町や村は焼け野原になり 人類に絶望の渦が巻いている事だろう 音を立てず 1階の様子を窺いながら カップラーメンを取りに行く 母、タカコはリビングで「はい、分かりました 直ぐに向かいます」 と何処かに電話を掛けていた 目当てのカップラーメンは既に一つ手に入れていた あとストックとして3つは手に入れたいが 今はこれで我慢しよう 直ぐに部屋に戻らねば まるで脱獄映画の主人公にでもなったかのようだ 父が元気だった頃はコソコソせず 「練習中だから 栄養補給したいんだよ」 と、まるで大義の為に戦っている兵士よろしく堂々としていたのに 今は脇汗が止まらない 別に俺は何も悪い事はしていないのに しかしもしタカコに見つかってしまえば 次にどんな言葉を掛けられるか ユキオにはそれがとてつもなく恐ろしい物に感じた タカコは2ヶ月前に呪文のような言葉をユキオに唱えた 「ねぇ そろそろ普通の仕事に復帰しない? お母さん求人探してきてあげるから」 当然、ユキオは憤慨した あれだけの辛い経験をさせておいて まだ苦しめというのか 怒りの矛を母に突き刺すと 母は何も言わなくなった プロゲーマーになろうとして努力しているのに働けだと? トモキだって「お前絶対ゲームの才能あるよ」と称賛してくれていた 母はユキオの中で自分の道の邪魔をする存在のように感じていた パキッ 床の軋む音がした 微かな音だったが 「ユキオ!」 一瞬だけ久しぶりに見る母はまた一段と不健康な痩せ方をしているように見えた ダッダッダッダッ 脱獄映画で看守に見つかって歩いて逃げる囚人はいない 理由は分からないがユキオは走って四畳半の城に逃げ込んだ 扉の鍵を掛け椅子で塞ぎ ヘッドホンを装着する ついでにPCの電源を入れる 聞きなれた起動音 聞きなれたキャラクターの声 トモキはオフライン状態だ "マッチを開始します” ゲームは始まっていないのに 鼓動の音は早鐘のように高鳴っていた ジリジリジリジリ 今日もアブラゼミは笑っている

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四畳半サバイバー②