鷺沢 夜透
37 件の小説突然ですが、夢を諦め切れません。
翌朝 俺はいつも通り起きたつもりだったが、 何故かいつもより物凄く緊張している。 多分、昨日のことだろう。 俺は昨日、母さんに 「夢を諦めないで」 と言われて、バスケ部の監督にも 「明日 ここで待ってる。」 そう言われた。 昔からやりたい事を諦めてきた俺は、それがとても 信じれなかった。 “やりたい” と思った物は、まず母さんの顔を思い浮かぶ それが当たり前だった だけど母さんも、 「続ける理由をちょうだい」 そう言ってくれた。 俺はようやく、したい事を出来る。 それが嬉しくて嬉しくて仕方が無かった 今すぐ、学校へ行きたい そんな気持ちだった ──────────────────── 母 「おはよう、あお」 リビング、珍しく母さんが朝ご飯を作りながら 俺の名前を呼んできた 母 「今日は部活に行くんでしょう? 頑張ってね」 弟 『……お兄ちゃん“は”いいんだ』 母 「ちょっと、蒼晴(あおは)!!」 「……」 蒼晴(あおは) は、俺の弟だ 蒼晴とは1個下で、高校1年生。俺と同じ高校に通ってる 昨日、母さんが俺の部活の事を蒼晴に言ったらしい そこから蒼晴の機嫌がとても悪いんだ。 そりゃそうだよな、蒼晴も羨ましいよな… 「…ごめん、、やっぱ俺、辞めた方がいいんじゃないかな」 俺は自信なさげそうにそう言う そうすると、母さんが慌てた表情でそう言ってきた 母 「あおは気にしないで 自分の夢に一直線、だよ。」 「……」 母さんの言葉が、とても胸に刺さる 弟 『……』 だけど蒼晴は、浮かない顔をしている その顔を見て、俺はとても申し訳ない気持ちでいっぱいだった 母 「……あ、!!遅刻するわよ!早く行きなさい!!」 「……! やべ」 時間を見ると、7時50分だった 遅刻しそうだった俺は、慌てて玄関へ行く 母 「ちょっと待ってあお!!」 「なに!?!!」 急いでるって言うのに、何故か母さんが呼んでくる 俺は急いでまたリビングへ行って、母さんの近くへ行く 母 「……あお、頑張ってね」 「……!」 母さんは涙目でそう言う 母さんも嬉しいんだ、俺がようやく諦めないでいてくれて。 「…うん、頑張るよ」 俺はそう言って、母さんの目を見る 母さんは、そう言う俺の事を安心したのか、また急かしてくる 母 「ほら、早く行っちゃいなさい」 「うん!!行ってきます!!」 俺はまた、いつも通り学校へ行く 弟 『………』 ──────────────── 『おはよう、あお』 「おう、おはよう」 朝学校に着くと、そうがやってきた 『あおってさ、バスケ部入るんだろ?』 「まだ決めてないけど、俺の親がワクワクしてた」 『でしょ? 監督もワクワクしてたよ』 「……え」 あの監督が…!?!? 俺から見た監督のイメージは、物凄く怖くて 人にあんまり期待しない人かなって思ってたのに、、!? 「まじかよ」 『まじだって。「逸材が来た」ってめっちゃ笑顔になってた』 いつざい… 逸材…!? 俺が…!? 「……え、俺が?」 『当たり前でしょ。俺気になってたんだよね、1年の頃から』 そうが俺の事気になってた? 俺はただの平凡な人間だけど…… 『…バスケを授業でやる時、めっちゃ人一倍 楽しそうにやってるし、何もかも上手い。』 『……正に、“バスケを愛し バスケに愛された”男だなって』 「………」 このセリフ、昨日も言ってたような気が… 「その言葉気に入ってる?」 『あおに合ってるんだもん、…あ、時間ないから早く行こう』 「あ、うん」 そうにそう言われ、俺とそうは教室に向かって歩く そうと歩いてる時、いつもより見られているような感じが して落ち着かない。 そう効果は凄いな…… ──────────────── 「……」 『…なにこの空気』 教室に入ると、気持ち悪い空気が漂っていた 何故か俺に目線が向いている。 …なにか、したっけ。 俺は頑張って昨日したことを思い出す そうに話しかけられたことか? それとも、この冴えない俺がバスケ部へ行ったこと? 何度考えてみても、やっぱり分からない。 何が起きてるんだ… モブ 「……なあ、これ見ろよ…」 「……?」 「……!!」 クラスメイトが見せてくれた画像を見ると、 そこには、俺の姿 があった。 俺は焦りながら、説明欄を読む 「 こいつは僕を騙した兄でーす。 僕を置いて逃げた奴。兄の夢なんてどうでもいい。 僕のことを昔虐めたくせに。まだ覚えてるんだからな。 」 この文章と俺の写真からして絶対、 “ 弟の 蒼春 ” だ。 俺は息を飲み込んだ 俺は蒼春を虐めたことなんてない。むしろ大好きだ それなのに…なんで… 「………」 鼓動が早くなる 『…あお……!!』 俺の表情を見て何かを感じ取ったのか、 そうはとても心配そうな表情をしている。 「……なん…で、おれ…」 言葉が出ない クラスメイトは俺の事を 部外者 として見ている 「……なん、ごめ…」 息ができない 息が苦しい。 ようやくしたい事を出来るようになったのに、なんで… 《 まじきも… 弟虐めてたなんて… 》 《 ほんとね…呆れる… 》 「……っは…」 嫌な言葉が聞こえる 俺は、この場から早く逃げたかった。 この地獄から、 早く… 抜け出したかった 。 『………』 「……!」 そんな時そうが俺の前に座り、両耳を両手で塞いでくる 『……お前ら、やめろよ。 まともに関わって来なかった人間が、家族虐めてると思うと こんなに沢山陰口を言うんだな。』 その瞬間、声が少し遠くなった 小さい声であまり聞こえなかったが、 多分そうは俺の事を庇ってる…気がする。 《 でも…弟が発信してるんだよ。しかもこいつの写真と共に投稿してる。》 《……な、俺もそう思う。》 俺は思わず、目を瞑ってしまった 『……お前ら…本当呆れる。 いつか分かる時が来るからな。』 そう言ってそうは、俺の両耳から両手を離し、 『あお、行こう』 そう伝えて、職員室へ行った ──────────────── 『…失礼します。』 「……失礼します」 俺達は職員室へ行き、バスケ部のコーチを呼んだ […お前らか。どうした?] そしてコーチがやってきて、俺はなんて言おうか迷った。 …絶対先生達もあの動画を見てる。 それが、怖かったからだ。 『こいつが今、拡散されてるの知ってますか』 […ああ。今さっき電話が来たところだよ。] やっぱり… 「……」 俺なんかがやっぱり、部活をやらない方がよかったんだ。 […で。お前の言い分はなんだ。 ] 「……」 やっぱり、コーチも怒ってる 俺は… ありのままをそのまま伝える事にした。 「……俺は、…訳の分からない事をSNSで発信されて、 よく分かってない…です。 ……言い訳になることなんて分かってます。 この学校が汚れる事をして本当にごめんなさい。」 [……すまん、そういう事じゃないんだ] お辞儀をしている俺を前に、 コーチは何故かそう言った。 そういう事じゃない…? なら、どういうことなんだ…? もっと謝れってこと? ……よくわからねえ… 迷っている俺を横に、コーチはこう話した […バスケ部に入るのかって。言いたかったんだ、ごめんな] 「………!」 今ここで俺が入れば、 何か問題になってしまうかもしれない。 今ここで俺が…… 「……」 俺はそう思う前に、俺の周りにいる人を見た 俺の事を誘ってくれる 監督 俺の事を初めて真剣に見てくれた そう …そして、一番の味方で一番の応援者の 母さん。 もう、誰かの為に夢を諦めたくない。 俺は俺の人生だ。 「……やります。」 […全て失いそうでも、か?] 「……」 俺は何故か、覚悟が決まっていた 「…全て失いそうでも、俺はバスケをやめられません。」 それを聞いたコーチは納得したのか、 [来い] 俺は、ようやく一歩を踏み出したような気がした。
突然ですが。
突然ですが、俺には夢があります。 キュッ キュッ… ドンドンッ… スポッ…… 【よくやった!!!】 [よっ…しゃアア…っ…!!] 「……」 俺の夢は “ バスケ選手 ” になること。 「……期待すんなよ…」 ピッ…… でも俺は、母子家庭で高校2年生 今頃バスケをやっても、何も残らない。 むしろ “ 迷惑 ” だろう 今はインターハイシーズン。 俺の高校のバスケ部は、すごい有名で強豪として噂されている そんな時に俺が入部する となると、とても迷惑だ。 なんだって俺は、 バスケ経験なし。ドリブル、シュートも授業としてしかやったことないし、むしろバレーの方が得意だ。 「……」 俺のこの夢は、中学生の頃からあった。 これは本当だ、本当。 中学一年生の頃、バスケ部に行こうとしてた だけど、無理だった 母子家庭だし、弟もいる。 スマホ代 水道代 ガス代… 親には色々払わないと行けないものがある。 そこに俺の部費代も増えると、もっと仕事を増やさなきゃ行けない。 ……母さんに、負担を掛けたくないんだ。俺は。 俺は、夢に向かうのをやめた 〈 情けない 〉 だなんて言うなよ? これが俺の本心なんだ。…いや、違うかもしれない。 「……学校、行くか。」 今日も俺は、いつも通り学校へ行く ──────────────── 『おはようございまーす』 《今日のエースが来たぞ〜!!!》 《すげえなお前!!》 「……」 …あいつ、そういえばテレビに出てたよな 確か… 俺の高校が今回勝ったんだっけ。 おめでたいな… でも、なんでだろう、この気持ち。 バスケ部でもないのに。 《なあ、やばくね。あお!! 俺の高校 しかも、クラスに エース がいるって。》 「……やばい、物凄くやばい」 今日はやけに騒がしいな。 やっぱり テレビにも映ってたし、勝ったからか… 凄かったもんな… あのシュートは 「……あいつの名前、なんだっけ。」 無意識に呟いていた 『…俺の名前?』 すると、いつの間にか目の前に エース がいた 「…うお、エース。」 『……なに?』 俺が エース と言うと、笑うエース。 こいつは女子にもモテる…らしい。 俺には程遠いな… 「……名前、なんだっけ。」 『あー、俺の名前は 蒼(そう) 。お前は?』 「……え」 俺は絶望した なぜかって? このエースの名前の漢字が、同じなんだ。 「…俺、蒼(あお)。」 『え、まじ!? 俺ら同じなんだな、漢字』 「……そうだな。」 あーー、なんでこんなに俺は運が悪いんだ エースとも名前の漢字が同じだし バスケ部にも入れない。 俺は世界一運の悪い男だ ……多分。 『………あお』 「…ん?」 急に顔が真顔になって、俺の名前を呼んできた 『…今日の4時体育館に来て』 今日の4時からは確か… バスケ部の練習だ。 「……4時からはバスケ部の練習だろ? 行って大丈夫なのかよ。」 俺は心配になってそうに伝える 『見学ならいいって監督が言ってる てか、たまに俺の友達も来るし』 見学ならいいのか… ならもっと早くに…… いや、ダメだ。 バスケ部の練習してる所を見ると、もっと入りたくなってしまう 「……俺、やめとく」 『なんで』 「…バスケ、好きじゃないんだよね」 俺は、俺自身に嘘をついた あと… そうにも。 『嘘つくなよ、1番愛してる癖に』 「……1番…?」 『…とりあえず来いよ、4時に。』 そう言って、そうが自分の席に座って行った 「………」 俺はどうするべきだ 行っても、いいのか? でも…… あーー…ほんと、なんでこんなことになっちまったんだよ… ──────────────── 夕方の4時。 冬だからか、少し暗いし寒い …そして俺は今、 “ 体育館 ” にいます。 《きゃーー!!かっこいいーー!!》 《そうくん、やっぱカッコイイな……》 「……」 隣には、恐らく後輩女子がいる やっぱりこいつ、モテるんだな。 まあ…当たり前か 【そう!!ゴールだ、ゴール!!】 今は練習試合をしている インターハイ予選に勝った後も、頑張っているのか。 本大会に向かう為…なのかな。 やっぱりすごいな、噂されてる強豪校は 物凄く練習がハードで、体からして筋トレもしてる。 『……っ…』 シュッ…… スポッ…… 《よっしゃ…!! そう、よくやった!!》 『……おう』 「……」 今見て思ったけど、こいつ物凄くテンション低くね? いや、喜べよ。 せっかく、インターハイ予選勝ったのに。 【集合!!】 《はい!!!》 うお… 部活っぽ。 【お前ら、本当によくやった。 無事インターハイ予選に打ち勝って 県代表として、本大会へ出れる。 この本大会に勝ったら、日本一の高校チームになり、会場で表彰式がある。】 県代表として、本大会に出るの…!!? だからこんなに、ハードな練習してるんだ…… 本大会に行く とかはまだ知らなかった ……凄いしか出てこないや、本当。 【お前ら、この後も練習頑張るぞ。】 《はい!!!》 【休憩、入れ】 《はい!!》 「……」 そうか… 本大会か…… これに勝ったら、日本一の高校チームなんだ… いいな… 凄いな…… 俺がもし… このバスケ部に入ってたら… いいや、考えたらダメだ。 そうも来ないし…、帰ってもいいよな? 《……あれ、そうくん誰か探してる》 《誰だろう、彼女…とか!?》 《彼女いたらガン萎えなんだけどー。》 彼女か… そう、いそうだもんな… 『……!!』 「……!?」 《きゃー!!そうくんが笑顔で手を振ってる!!》 《え、え、誰に向けて!?》 《可愛い〜……》 「……」 ま、マジで誰? 俺じゃないよな、…いや、めっちゃ目合ってる 俺とか言うなよ… 本当に。 『あお〜〜〜!!来てくれたんだ!!』 「……うわ…」 俺だった… 後輩女子からの目線が痛い…… 『あお!!下、降りて来て』 「は!?え、いいのか!?」 『いいから!!早く!』 半強制で、俺は下(体育館)へ来た バスケコートがズラリと並んでいる こんな光景は、見た事がない。 「…すげえ……」 思わず口に出てしまった 『…口に出てるよ』 「…あ、ごめん」 そうがユニフォームを着ている姿を見るのは2回目だ やっぱり、エース って感じする。 俺が着たら似合わないんだろうな… 『…ゴール、入れてみる?』 「……え」 本物の体育館のゴールにボールを入れられる…だと…? 物凄くいい機会だけど… 「いや、いいよ… 俺には出来ないし」 俺には出来ないし、今ボールを持ちたくない。 『……はあ… いいから、ほら。』 「うわっ…」 そうは怒りながら、近くにあったバスケットボールを俺に渡してきた …ゴールに入れろってこと? 本当にそうは強引だ。 『…外してもいいから、やってみろ』 「……」 俺はその言葉を信じて、入れてみる事にした これで最後だ そう言い聞かせながら。 「……」 ゴールをよく見て… よし、出来る。 シュッ…… 『……』 「…」 どうせ出来ないだろ、 そう思っていたが、奇跡が起きた スポッ…… 『……!?』 「…え」 なんと、ボールがゴールに入ったんだ 《…あの子、幽霊部員だったのかな?》 《にしては見ない子だよね…》 周りの人がザワザワする声が、とても目立つ 『…今、ゴールした…よね。 初心者はほぼ入れられないんだよ、ゴールなんて』 そうが無表情でそう言う 「…初心者も、ゴールできるだろ」 『いやいや、早々無理だって。練習しないと』 そうは慌てて、俺にそう伝える ボールをゴールに入れる なんて、簡単だけどな。 「俺、バスケを体育でした後からバスケットボール触ってもないよ。練習も…… あんまりしてないし」 『ならもっと変だって』 そうが慌てている姿を見るのは初めてだ 教室でも、いつも無表情のまま本か友達と喋っているのに。 これ、そんなに凄いのか? 【…おい】 「…!?」 そうと話していると、後ろに監督がいた ザワついていた体育館が、少しだけ静まっているのが分かる 【今の、もう一回やってみろ】 「…え」 思わず、声が漏れた 周りを見ると、そうしかいないし、他の部活の人達は水を飲んでいるか、友達を話している。 この監督は、しっかりと “ 俺の事をまっすぐと見ている ” 。 【偶然かどうか、見ればわかる】 「…いや、俺は別に……」 【いいから。もう一本だ】 有無を言わせない声だった 『…ほら、頑張れ』 そう言って、そうがまたバスケットボールを俺に渡す バスケットボールが、さっきより軽くない むしろ、さっきより重く感じる (……無理だろ…) そう思っているのに、何故か手は止まらない ゴールを見る さっきと同じ距離 同じ高さ 同じ体育館 なのに、さっきよりずっと遠く感じた 「……」 息を吐く シュッ─── スポッ。 一瞬、音が消えた さっきよりも、はっきりと。 綺麗に… 入った。 【………。】 監督が、少しだけ目を細める 【…なるほどな】 小さく、誰にも聞こえていないような声 でも俺には、何故か聞こえた気がした 《…え、誰あれ… 初心者だよね?》 《だと思う… でも、めっちゃ綺麗に入ってたよ? 私ならできない。》 ザワつきが、さっきより大きくなる 監督はバスケットボールを見たまま、少しだけ沈黙してから言った 【お前、いつからバスケやってる?】 「授業でやっただけで、何もやっていないです」 即答だった 本当にやってない。 やってないはずなのに、 監督は、一瞬だけ笑った 【……そういうのが、1番厄介なんだよ。】 『……』 監督がそう言うと、そうが少しニヤッと笑った気がした 俺は一体、どうなるんだ…!? 【…お前、名前は】 監督に名前を聞かれ、俺は素直に名前を伝える 「えっと、… 今井 蒼 です。」 俺が名前を言うと、監督は俺の姿をまじまじと見て 【今井蒼……覚えた。 明日もまた、ここに来い。】 そう言われた 「……え、でも…」 『よかったな、あお』 そうに笑顔でそう言われた 【今日はもう帰れ。明日に向けて、な。】 「……はい」 『また明日な!!』 「…うん、また明日。」 俺はそう言って、体育館を出る 俺は 不安 しかなかった。 ──────────────── 家の玄関を開けると、いつもより家の空気が少し違っていた 母 「あ、あお!おかえり!」 母さんが、珍しく早く帰ってきていた キッチンから顔を出して、俺の姿を見ると一瞬だけ驚いたあと、すぐに笑った 母 「あおすごいね!!母さん、見ちゃった」 「…なにを」 靴を脱ぎながら俺は言う こんなにテンションが上がっているお母さんを見るのは、 久しぶりだ。 母 「今日ね、あおの面談があって学校に行ってたの そしたらバスケ部の監督に認められてるあおの姿が見えてさ…!」 母 「母さん、泣きそうになっちゃった」 母さんが笑ってそう言う 嬉しそう、というより、安心してる表情だった 「…でも、」 俺はカバンを置いて、目を逸らしながら言う 「またすぐ辞めるから」 母 「……」 一瞬、母さんの動きが止まった いつも通り、…ではないけど、冗談で言ったつもりだった でも口にした瞬間 自分でも分かるくらい軽くなかった 母 「……あお」 母さんはゆっくりと俺を見た 怒っている訳ではない。 でも、笑っていなかった 母 「辞めないで」 「……え?」 一瞬、意味がわからなかった 辞めないで ってなんだ? 母 「…辞めないで…いや、諦めないで。」 俺は少し黙ってしまった こういう言葉は、今まで一度も聞いた事がない 応援でも 説得でもなく、 ただ、止めてきた。 「…無理だよ」 母 「なんで?」 「俺、今からとか遅いし 迷惑…かけちゃうから」 いつも通りの理由を述べる 自分でも何度言ったのか分からない。 でも母さんは、息を吐いてから言った 母 「…迷惑って、誰に何をどうかけるの?」 「……」 母 「母さんは、別に迷惑だなんて思ってないよ。」 その言葉が、少しだけ重かった 母 「あおがやりたいなら、それでいいじゃん」 「……でもさ、」 言い返そうとしたけど、何も言葉が出なかった 母 「…何も出ないってことは、やりたいんでしょ? 夢に向かって 走りたいんでしょ?」 「………っ…」 母さんの表情は、笑っている気がするけど 少し涙も出てきている気がした 母 「辞める理由も あおが諦めて悲しんでいる表情も、もう何度も見たよ。」 母 「だから今度は、続ける理由をちょうだい、蒼。」 「……っ……」 母さんは、笑ってそう言った 諦めなくてもいいんだ 続けても…いいんだ。 そう思うと俺は、胸がとても暖かくなった 母 「…実はね、お父さんから貰った生活費、少しずつ貯めてたの。」 母さんがそう続ける 母 「だから…部費。払えるよ…!!」 「……っ…!!」 そう言われた途端、俺はなぜか涙がとまらなかった 今までしたい事はしたかった事へ変わっていった それでもなぜかバスケは諦め切れなくて、体育の授業でやる時に自主練をしたり 近くの公園のコートでひとりで練習したりしていた。 ひとりで部活をしている みたいな感じで楽しかった それが、本物の部活になるなんて。 俺が思いもしなかった。 母 「だから、頑張ってね、あお。」 「……うん…!!」 突然ですが俺には、夢があります その夢は、俺にとって出来っ子なくて 諦めていた夢でした。 だけど今 その夢が、 “ 叶いそう ” です。
もう、ひとりじゃない。
目が覚めると、見慣れた天井だった 「……」 身体が少し重いし、熱い。 ゆっくりと起き上がり、周りを見ると見覚えのある部屋だった 『……港くん、?』 声の方を見ると、郁がベットの横で座っていた 郁の部屋で、僕が郁のベットに横になってる…のか。 『……よかった…』 か弱い声で、郁が安心そうに肩の力が抜ける 「…僕、なんでここに…」 『校長先生が辛いだろうって、車で送ってくれたんだ。父さん達もびっくりしてた』 「……そっか…」 保健室であったことを思い出す 校長先生の言葉 泣いてしまったこと。 僕はなぜか、申し訳ない気持ちで押し潰されていた 「……ごめ、」 僕が謝ろうとすると、郁が僕を構わずこう伝える 『ありがとう。』 郁が涙目で僕に伝えてきた 僕はなぜ郁に感謝されたのか分からなかった 僕はただ、被害者でもないのに校長先生の言葉で 泣いてしまった。 むしろ許されないだろう、そんなこと。 「……」 僕が俯いたまま黙っていると、郁が続けた 『…港くんも怖かっただろうに、俺の事を守ってくれてありがとう。 怖かったのに寅…いや、港くんのことを虐めてた奴らに歯向かってくれてありがとう。 ……港くん、』 “ 本当に、ありがとう。 ” 「……」 僕は少しだけ俯いたまま、考える こんなふうに誰かに感謝されたことなんて、 今までなかったから。 いつも誰かを守っても 「当たり前でしょ」 で済まされる日々だったんだ。 「……僕、」 声が少し掠れる 郁が僕のことを静かに見つめている 「……郁のことを、ひとりにしたくなかったんだ。」 僕はゆっくり顔を上げる 「…それに、」 少しだけ言葉を探してから続けた 「……本当は、少しだけ怖かった。」 今まで言えなかった言葉。 でも郁は驚くこともなく、ただ小さく頷いた 『…うん。』 その一言だけだった。 コンコン… 僕と郁が話していると、ドアのノックがした 郁父 「…」 『……お父さん…?』 ドアを開けると、そこには郁のお父さんと 郁母 「……」 お母さんがいた。 僕は思わず、ベットから飛び出して立っていた 「…ごめんなさい、…僕、頑張って言ったのに。 最後まで守り切れなかった。ごめんなさい…」 僕は郁のお父さんとお母さんの前に急いで土下座をし、 謝った。 謝らないと、殴られる 蹴られる。 そう思ったから 郁母 「…!? ごめんなさい港くん、そう思わせたい訳じゃないの」 郁父 「港くん、顔を上げて」 そう言われて僕は顔を上げ、郁の両親の話を聞いた 郁母 「さっき校長先生から話を聞いたの。寅と摩耶って人は退学処分 寅と摩耶に便乗してた人達は停学だって。 担任の先生も地方の学校へ転勤 校長先生 教頭先生も反省して謝ってくれたわ。」 「……!!」 退学処分…!! 校長先生、してくれたんだ…!! 隣を見ると、安心している顔をしている郁がいた 本当によかった…… 郁父 「…港くん、これは誰のおかげか分かるかい?」 郁のお父さんにそう言われ、僕はすぐに 「大人の人達…いや、校長先生です。」 そう言った 僕は何もしていない、むしろ守られた側だ。 郁父 「いいや、違う。 郁が安心して学校に行けたのは、港くんのおかげだ」 「……なんで…」 僕は訳が分からなかった 僕のおかげで学校に行けた ? 行ける訳ないだろう、あんなに怖い思いをしたのに。 『…港くんは気づかなかったけど、俺港くんを迎えに行く時なぜか体が軽くてすぐ行けたんだ。』 「……!」 そうだ、あの時… 確かに、郁保健室に来た 郁父 「お昼くらいかな、学校から電話が来たんだよ 俺も お母さんも忙しくてさ、よし行こう ってなった時に郁がいなかったんだ。」 郁、僕の事を心配して… 郁父 「郁はいつの間にか学校へ行っていたんだよ、それも港くんのおかげなんだ」 「……」 僕はなぜかまた泣きそうだった。 こんなに褒められたのは人生で数えられるくらいしかないから。 郁父 「だからね、港くん」 “ あまり自分を責めるな。 ” 「……!」 郁のお父さん、 僕が僕自身を責めてる事をなんで知って…! 郁父 「こんなに人の為に自分を犠牲にする子はいない。 港くん、」 " 本当に、ありがとう " 郁母 「私からも言うわ。 ウチの息子を護ってくれて ウチの息子の為に自分を犠牲にしてくれて、」 “ 本当に…本当に、ありがとう。 ” 「……」 言葉が出なかった 胸の奥がグチャグチャで、嬉しいのか 苦しいのか分からない。 ただ、 こんな風に誰かに " ありがとう " と感謝されるのは 久しぶりで 「……っ…」 涙が出そうになる でも、今度は我慢しなかった。 「……僕、」 声が震える 「…なにも、できてないです」 そう言ったのに、 郁の両親 郁は首を振った 郁父 「郁は港くんがいたから安心できたんだよ。」 郁母 「ちゃんと、守ってくれたわ。」 『……港くんがいたから、俺がいるんだよ。』 「……」 胸がぎゅっと締め付けられる でも、その 痛さ は、前と違った 少しだけ 暖かい。 「……」 そして、ゆっくりと息を吐く 「……ありがとう、ございます…」 初めて、 ちゃんと受け取れた気がした。 郁父 「よし、じゃあみんなでご飯食べるぞ」 郁母 「そうね、港くん 郁リビング来なさい。お母さん頑張っちゃった」 『うん、行こ!』 「……うん…!」 ……ああ、僕は 今、こんなに… “ 幸せ ” だ。 ──────────────── 翌朝 僕は郁のベットで郁と一緒に寝ていた 久しぶりにぐっすりと寝たな… 郁母 「起きなさーい!!」 下から郁のお母さんの声が聞こえる 昨日は郁とスマホゲームをして、寝るのが遅くなったんだっけ 「…郁、起きろ」 僕がスマホのライトを郁の顔に当てる 『うわ、ちょ眩しい…』 「はは、起きた」 『リビング行こうか……』 残念そうに、郁が言う 「うん。行こう」 僕と郁は、リビングへ向かう ──────────────── 郁母 「おはよう、港くん 郁」 郁父 「おはよう」 リビングへ行くと、仕事の準備をしている郁のお父さんと 朝ご飯の準備をしてるお母さんがいた 「…郁、制服着て来よう」 『……うん』 校長先生には、「無理するな」 と言われた郁だったが 郁が 「行きたい」 と言って聞かなかった。 無理せず、行かなきゃいいのに… 『…うわー、久しぶりの制服とジャージだ』 「僕も久しぶりかも。」 案外久しぶりだな ジャージしか着れなかったんだよね。 郁母 「ほら、朝ご飯食べなさい」 郁のお母さんにそう言われ、僕と郁は朝ご飯を食べる 郁父 「今日学校頑張れよ〜!」 朝ご飯を食べてると、郁のお父さんが満面の笑みで応援をしてくる。 こんなお父さんが欲しかった… 「ありがとうございます」 郁父 「敬語じゃなくてもいいのに…」 郁母 「ね、郁が気になってる人なのに…」 『ちょ、やめろよ!』 郁が牛乳を吹き出しそうになり、顔を赤くなりながらも 両親を止める姿が面白い。 「……ははっ、」 思わず笑ってしまった 『…港くん、今笑った?』 郁父 「俺は見たぞ、笑顔可愛かった」 郁母 「写真撮れば良かったわね…」 そうか、今思えば僕 この家族の前であんまり笑った事ないな。 『俺も見たかったな… 港くんの笑顔』 テンション下がってる郁が言う かわいいな、ほんと。 「郁は、沢山見れるでしょ」 『…! そっか、学校があるもんね』 そう言ってお父さんにドヤ顔をする 郁父 「うわー、郁嫌われるぞ」 『いいもーん。港くんがいるし。』 朝って、 こんなに楽しかったっけ。 そう思いながら郁のお母さんが作ってくれた朝食を食べる 幸せ だな… ──────────────── 朝の準備を済ませ、郁のお父さんと一緒に出る 『じゃあ、行ってくるね』 郁母 「ええ、無理しないでね。」 郁の顔が少し青い。 緊張しているんだ… 「……」 僕は思わず、郁の手を握ってしまった 『え、港くん…?』 「緊張してそうだったから」 そう言うと、郁の両親はニヤニヤしながら 郁父 「ラブラブだな〜」 『うるさい』 顔を赤くしながら照れてる様子が何故か可愛くて。 「…じゃあ、郁のお母さん お父さん 郁は僕に任せて下さい」 そう言うと、郁のお母さん お父さんは安心して 郁父 「おう、任せたぞ」 郁母 「任せたわ、港くん。」 こう、言ってくれた 「行ってきます」 『行ってきます』 僕達はそう言って、玄関を出た ──────────────── 『………』 いつもはイヤホンをして、音楽を聴きながら学校へ行くんだけど、 郁が緊張しすぎてる。 「…郁?」 『ごめん、…トラウマが』 やっぱり、怖いよな… 襲われそうになったんだもん。目線が怖いよね。 「トラウマが激しいなら家に帰れる…けど」 『それはやだ。』 郁は即答でそう言う 「なんで、その方が楽だよ」 『……港くんと、学校行きたいんだもん』 小さい声でぼそっと言う 「…かわいい、ありがとう。」 僕は郁の前で控えめに笑った 『…早く行くぞ。』 郁は顔を赤くしながら、早歩きになってしまった 「ちょ、郁早いって」 こんなに楽しい登校は 初めてだ。 ──────────── そして教室 いつも静かだった教室が、今日はやけに騒がしい。 『……』 郁は、ドアの前で止まっている 「…郁……」 郁の肩が、少しだけ震えているのが分かった 怖いよな あんな事があった場所だ。 簡単に入れる訳じゃない 「……」 もし、逆だったら 僕が怖くて動けなかったら。 郁は、どうするんだろう 『……港くん、』 小さい声 振り返らないまま、そう呼ばれる 「……どうした」 『…やっぱ、無理かも』 その言葉に、 “わかる”って思ってしまった 無理でもいい 逃げてもいい そう言ってあげたくなる …でも、 「……それでもいい」 『…え』 少しだけ間を置く 「…… 一緒に行くから。」 郁がゆっくりと振り返る 「ひとりじゃないなら、少しだけマシだろ。」 そう言って僕は笑う 『……っ…』 郁の目が少し潤む 僕は、そっと手を差し出す 「…行くか」 『……うん。』 郁が、その手を取る ガラッ…… 教室のドアを開ける 騒がしかった教室が、一瞬で静まる 「……」 少しの沈黙のあと、 モブ 「……なあ、」 誰かが、ぽつりと口を開く 郁の前に、無意識に行ってしまった モブ 「……この前、校長先生に怒られたんだ」 「……」 また、教室の空気が静かになる モブ 「…止めなかったやつも、同じだって。」 「……」 モブ 「……俺、止めなかった。」 少しだけ俯く モブ 「……ごめん」 『……』 郁が少しだけ目を伏せる すぐには言葉が出てこない。 でも、 「…うん」 小さく頷いた 「……行こ、郁」 『…うん』 ふたりで歩き出す 視線はまだある でも、 前みたいなものじゃなかった。 席に座る 教室の空気が、少しずつ変わっていく 誰も大きなことは言わない。 でも、 それだけでよかった。 『…港くん』 「……ん?」 『…ありがとう。』 「…別に」 少しだけ間を置く 『…ひとりに、しないから』 「……」 一瞬だけ息が止まる でも、今度はちゃんと分かる 「……うん」 窓の外を見る 太陽の光が、少しだけ眩しい。 でも、これだけは分かった “ 少しずつでいい。 それでも、前に進める ” 僕達は少しずつ、前へ進む。 そして、 もう “ 1人 にしない。 ”
ひとりじゃない 。
「……」 そして朝の5時、僕は久しぶりに学校に行く緊張感と隣に郁がいるドキドキであまり眠れなかった …でも、いつもより深く眠れたかもしれない。 「…まだ寝てる」 郁は隣でまだぐっすりと寝ている 郁を起こさないように身体を動かし、イヤホンとスマホを手に取る 僕はいつも学校に行く前音楽を聴いている とはいえ、登校中も聴いているんだけど。 …今日は、SaucyDogの曲を聴こうかな そう思い、僕はSpotifyを開く。 「……」 いい曲だ。 SaucyDogの曲を聴くと、本当に落ち着く。 心が穏やかになる 曲を聴きながら、郁の家族が起きるまで待っていた ──────────── 「おはようございます」 郁父 「おはよう」 郁母 「おはよう、港くん」 朝7時、僕は朝ご飯を作る音が聞こえたのでリビングへ来た 郁父 「よく寝れたか?」 「寝れました」 郁父 「それならよかった」 郁のお父さんとも仲良くなって、郁のお母さんとも仲良くなった なんだか、本当の家族みたいで嬉しいな。 郁母 「トースト作るから、座って待ってて」 「わかりました」 朝ご飯なんていつぶりだろう、 そう思いながら僕は椅子へ座る。 郁父 「そういえば、港くんの夢ってなんかあるの?」 夢か… 考えたこともない… けど、僕は昔からやりたい事がある それを夢と言っていいのか分からないけど。 「……学校の先生です」 郁父 「学校の先生…! それはどうして?」 「……それは…」 僕は学校の先生になりたい理由を話した 「…この世の中、先生というものは残酷な生き物で 虐められている と言っても助けない先生や見て見ぬふりをする先生が多いと思うんです。実際、僕の担任の先生がそうだったので。 だから僕は、虐められてる子を助けたい ので学校の先生を選びました。」 我ながら上手く説明できた。 郁父 「…物凄くしっかりしてるね。きっと港くんなら叶うと思うよ」 「ありがとうございます。」 郁のお父さんと話していると、郁が起きてきた 『…港くん、学校行くの…?』 「うん、行こうと思ってるよ」 不安そうな表情で僕を見てくる 『……本当に無理しないでね』 「分かってるよ、ありがとう。」 本当は、虐められるんじゃないか って不安だったけど 郁を安心させるためにも、そう言うしかない。 郁母 「朝ご飯できたよ」 「ありがとうございます、いただきます」 『いただきます』 ────────────── 「…じゃあ、行ってきます」 朝ごはんも食べて、制服も来て鞄も持って今は玄関にいる。 『行ってらっしゃい、港くん』 郁父 「行ってらっしゃい」 郁母 「また帰っておいで。」 郁と郁の両親が見送ってくれたおかげで、 今日は音楽を聴かなくても行けそうだ。 「行ってきます」 僕はそう言って玄関を開けて、外へ出た ──────────── 「……」 久しぶりに教室のドアを開ける。 まだ変わらない空気感。 寅 『あ、港いたんだ』 摩耶 『空気がなさすぎて気づかなかったよ〜』 こういう奴には言わせといた方がいい。 殴ったら殴ったで反論され、先生に嘘をつかれるだろう。 僕は無視をした 寅 『…何無視してんだよ』 先生 『授業始めるぞ〜』 手を挙げそうになった所で先生がやってきた 寅 『……くっそ…』 本当はダメなんだろうけど、 ざまぁみろ と少し思ってしまった ──────────── そして少し時間が経ち、昼休みになった 寅 『そういえば、あいつどうなってんだろうな』 摩耶 『あの転校生でしょ?怯えてる顔可愛かったな〜』 「……」 郁のことだ。 僕は小説を読みながら、摩耶達の会話に聞く耳を立てていた 寅 『ほんと可愛かったよな〜 “ゲイ” って事はきもいけど。』 摩耶 『ほんとに教室で“犯せば”よかったじゃ〜ん』 「……」 僕はいつの間にか席から立ち、摩耶達の前に出てきていた 摩耶 『どうしたの〜?』 寅 『…きも』 僕はいつの間にか、寅の机に手をついていた 「…もう1回言ってみろ。」 教室が少し静まるのが分かる 摩耶 『は?何ムキになってんの』 「…名前、出して言えよ」 空気が少し変わり、ザワザワし始めた 寅 『なんだ?お前あいつの彼氏気取りか?お前もゲイなのかよーきもー。』 寅が笑って誤魔化す 僕はいいんだ、何言われたって構わない。 僕は、寅の目を逸らさずにこう伝えた 「証拠もある。録音もある。」 ここで、寅と摩耶の顔が固まっているのが分かる 「教育委員会にも言う。大人も動いてる。」 教室がザワつく 寅 『…証拠だぁ…?笑わせんなよ。』 次の瞬間、視界が揺れた。渇いた音が教室に響く 一瞬僕は、何が起きたのか分からなかった 頬が熱い。 摩耶 『ちょ、寅……』 寅 『調子乗んなよ。』 僕は倒れない。 フラつきながらも、寅を見上げる 「…だから、お前は怖いんだよ」 ザワッ、と空気が変わる ……その時、 校長 「…何をしている。」 教室が静まり返った 振り返ると、そこには校長先生がいた。 言い訳の余地はない 校長先生の目は、全部見ていた目だ。 校長 「……」 校長先生はクラスの周囲を見渡す 校長 「目撃者は全員、後で話を聞く。」 教室の空気が変わる 校長 「保健委員、港くんを保健室へ」 モブ 「分かりました」 モブ 「港、行こう」 「…うん」 僕は保健委員に肩を任せ、保健室に行こうとする 校長 「…よくやった。」 その言葉は小さくて、でも確かだった。 頭に置かれた手の重みが涙をこぼしそうにさせる 「……!」 僕は唇を噛んで、頷いた ──────────── モブ 「先生!港お願いします!!」 保健 「港くん…!?」 僕はそのままベットへ横になった 保健 「どうしたのその傷…痛むでしょう…」 「……」 保健室の先生は変わらず僕の事を心配してくれている 「…寅と、揉めました。」 保健 「…え」 驚いたような表情をする保健室の先生を前に、 僕はきちんと伝える 「……僕の大切な人が、僕の世界で一番嫌いな人にやられそうになった。僕はそれが許せなかったんです。だから、…大人が動いてる と言ったら、殴られてしまって…身体も、だるいし…」 校長先生が来た後から、僕は体が何故かだるかった 体も、物凄く熱い。 保健 「そうだったの…大変だったわね…。体だるいなら、熱測りましょうか」 「……はい」 先生は深掘りせず、僕に体温計を渡した 「……」 本当に体がだるいし、体も熱い。 いつもはこんなことになんてならないのに… 今日はどうして? ピピッ…… 「……」 体温計が鳴り、保健室の先生を呼んだ 保健 「……え、38.5℃…?ちょ、ちょっと待っててね」 「…はい、」 保健室の先生は慌てた様子で職員室に行った 体が熱い 息も熱い 体が重い。 初めてだ、こんなことは 校長 「港くん、大丈夫かい?」 「…はい…」 校長先生がマスクをして、僕の傍にやって来た 校長 「今日はもう帰ろうか。今港くんのもの持って来てもらってるからね」 「…ありがとうございます……」 殴られたところが痛む… 校長 「…湿布かなんか貼ろうか。港くん」 「わかりました」 僕はベットから起き上がり、校長先生に湿布を貼ってもらった 結構殴られてたんだな… 頬とか、おでこや唇、 思ったよりも、たくさん絆創膏や湿布を貼られてしまった。 今日は迷惑かけてばっかりだ。 校長 「……港くん。」 「…はい」 校長先生が真面目に僕の名前を呼ぶ 怒られるのかな、と不安になった。 校長 「…君はよく頑張った。でもね」 少し間を置いて、静かに言った 校長 「子供が体を張って守らないといけない世界は間違っている。」 「……」 校長 「だから、ここからは大人の仕事だ。」 その言葉を聞いて、胸の奥が少しだけ軽くなる 校長 「…君は、」 “ もう十分やったよ。 ” 「……!」 何か言おうとしたけど、言ったら涙が出てきそうだ。 ──その時、 ガラッ 『…港くん…!』 「…郁……」 郁は僕の顔を見た瞬間、息を止めた 『……なにそれ、誰にされたの』 校長 「落ち着きなさい、郁くん。」 校長先生が静かに言う 郁は眉間にシワを寄せながら静かに校長先生の言う言葉を聞いていた 校長 「もう話は聞いている。心配しなくていい。」 校長先生は僕達を交互に見てこう言った 校長 「…君達は、よく勇気を出した。」 「……」 校長 「……もう、独りじゃないからな。」 校長先生がそう言いながら、僕達の頭を撫でる 僕は何故か、初恋で大好きだった 真琴 を思い浮かべていた。 真琴もよく、僕が落ち込んでる時にこうやって慰めてくれた。 僕が苦しい時も、辛い時も悲しい時も。 ずっとただ、隣にいてくれた。 僕よりも大きい手で、僕の頭を撫でてくれた ああ、なぜだろう。 なんで僕はこんなに、泣いてるんだろう 「……っ…」 校長 「…港くん」 被害者じゃないのに。 何もされていないのに。 なんで、…なんでこんなにも、涙が… 「…ごめんなさい、僕おかしいみたいです…」 そう言いながら僕は、笑いながら袖で涙を拭う 『……港くん…』 郁が心配そうに僕の事を見つめる 止めたいのに、止められない。 泣きたくなんてない。人に涙を見せたくない。 「……っ…なんで…」 なのに、次から次へと涙が出てくる 出てくるな って、思ってるのに。 「…泣きたくなんて、ないんです… 自覚してます、今は僕じゃないって、郁なんだって。 それなのに…ごめんなさい、許してください」 僕は校長先生と郁から顔を背けて、止まらない涙を何とか止まらせるために、頑張った。 校長 「…港くん、」 それなのに、校長先生が僕の前に座った 「見ないで、僕の泣いてる姿なんて誰にも見て欲しくない。」 校長 「…僕の友達にもいましたよ、そんな友達が」 「……?」 校長先生は僕の事を慰めずに、昔話を始めた 校長 「人前で中々泣かない子でね… いつも明るくて、元気な子でしたよ。辛くないの? と聞いても、 辛いって何? って言ってくる子でした。」 校長 「…でもね、その子大分心がやられてたみたいで、…腕に傷が多かった。多分、自分でやったんだろうね。 夏でも、長袖だった子だったからさ。」 腕に傷…か…。 校長 「僕、言いましたよ。 “辛い時は泣けばいい” って。そしたらその子、僕の前でワンワン泣いたんです。 “辛くても、苦しくても元気な姿でいないとダメになる” って叫びながら。」 「……」 “ 辛くても、苦しくても元気な姿でいないとダメになる ” …僕も、親にそう言われてたな… 校長 「僕は、その子みたいになってほしくない。 港くんも、辛ければ泣いてもいいんです。赤ちゃんのようにワンワンと泣いてください。」 「……!!」 大人に慰められたのは、初めてだった僕は その言葉でまた泣いてしまった。 「……っ…ごめん、なさい…」 止めたいのに、止められない涙が頬に流れる 校長 「…そう、そのまま泣けばいい。」 校長先生の優しくて真としている声が、僕の耳に響く 僕は今日、目が無くなるほど泣き続けていた。
安全な場所
それからというもの、僕は いじめ と 過去の記憶のフラッシュバック で辛くなってしまい、学校を休んでいる。 郁には何度も感謝された。 「休んでくれてありがとう」 って、何度も言ってくれた。 やっぱり僕は、僕を気にかけてくれる郁がすきだ 大好きとまでは行かないけど、郁のことを信用してる。 ピンポーン…… 「誰だ」 今の時間は…朝の8時半…? こんな時間に誰だろう。 ガチャッ 僕は家の玄関を開けた 『……』 すると、そこには郁がいた。 ボロボロな姿をして立っていた 「…どうした?なんかあったの」 『…俺、学校停学になった』 「……え?」 あんなに優等生な郁が…停学に…? まあ、退学にならないだけいいけど…なんでこんなボロボロなんだ…? 「……とりあえず、中入って」 『うん』 ──────────── そう言って僕と郁は、家の中に入った。 「座っていいよ」 『ありがとう』 僕と郁は、近くのソファーへ座る 僕は郁が自分から話してくれるまで待ってみることにした。 『……港くん』 「…ん?」 震えた声で僕の名前を呼ぶ郁。 本当に何があったんだ。もしかして、摩耶達に何かされた…とか…? 『…俺、男がすきなんだ』 郁…僕と同じで男の子が恋愛対象なんだ… 少し安心した。 「それでどうしたの。」 『……摩耶達に、俺が男がすきなのバレちゃって。 そしたら、寅にさ、…犯されそうになって…教室で。』 その言葉の続きを言わなくてもわかる。 郁は、反抗して寅の事を殴った。その場面だけ先生に見られてて、寅達も嘘をついて、停学になったんだ。 それを言われた途端、僕は郁でも被害者でもないのに 頭が真っ白になった。 ……まただ。 僕はまた、大切な人を守れなかった。 僕が休んでたから。僕が、よわいから。 ぐちゃぐちゃになる。 でも、いつも余裕そうな郁が、今日は震えてる。 指先、僕でも分かるほどギュッとしてる。 あれほど怖かったんだろう。 「……郁は、わるくないから」 『……!』 郁は悪くない って言った途端、郁に表情の柔らかさが出てきている気がする。 親にも言ってないんだろうな… 「怖かったな、郁。 僕は郁のこと、何も変わらないよ。恋愛対象が男でも、郁は郁だ。」 そう言った途端、郁の目に涙が見えた。 「……触っても、いい?」 『……』 頷く郁に、僕は思わず静かに抱きしめた。 今強く抱き締めるのは、違うと感じたから。 『……っう…っ…』 それと同時に、郁が泣いている 親にも停学の理由を責められて、辛かったんだろう。 …そりゃ、理由も言えないよな。 同性が好きで、その同性に教室で犯されそうになったって。 言えるはずもない。 「……落ち着いた?」 『……うん、』 その言葉を確認して、僕は郁から離れる。 ……次は、どうしよう。 「……親には、言ったの?」 『…停学になったとは、言った。理由は言ってない』 やっぱりそうか。 僕の思っていた通り、郁は理由を言ってなかった。 親に引かれたら…終わり、だもんな。 「……言えないよね。無理に言わなくてもいいし、郁がひとりで背負う必要もない。……僕が、一緒に考える。」 『……』 もし、僕が郁と同じ立場だったら、 大人の人にも相談できないし、ひとりで背負うと思う。 だから僕はあえて、一緒に考えることを選んだ。 「親に言うなら、僕も一緒に行くし言えないなら 代わりに言う。」 郁は今、大人の人も怖いと思う だって、先生に理由を言わなかったから。 先生にも寅達にも、責められて停学にされて。 言えるはずもないだろう。 『……ありがとう、親に理由言いたいから、一緒にいてほしい』 「わかった。今言うか?」 『…うん、言いたい』 そう言われ、僕は郁と玄関に向かいドアを開ける。 郁は本当にかっこいい。 親に理由を言うのも怖いのに、言うのはすごい。 僕は郁の傍にいられたらそれでいい。 『……ここだよ、入って』 「うん。」 そう言われ、僕は郁の家に入る 郁母 「おかえりなさい…ってあれ、誰?この子」 『俺の友達』 郁父 「郁友達いるんだな、よかったじゃん」 この家族は、理由を言っても責められなさそうだ。 安心した。 「……お邪魔します。」 郁母 「ええ、ぜひぜひ。」 郁、手がとても震えてる。 言うの、怖いよな… 「……郁、頑張れ。(小声)」 『……うん…手繋いでもいい…?(小声)』 不安なんだろう。 僕は郁の手を郁の両親にバレないように繋いで、郁が両親に話すまで待っていた。 『……母さん、父さん。俺、停学になった理由話すよ。』 郁母 「……分かった。この子はどうするの?」 『俺が不安だから呼んだんだ。』 郁父 「…2人とも、ここに座りな。」 「ありがとうございます」 僕と郁は、両親が座っている椅子に向かい合わせで座った。 手を繋いでるのをバレないように座るの大変だ。 …それにしても、久しぶりだな こうやって向かい合わせで座る行為なんて 『……俺…さ、昨日普通に学校行ったじゃん。』 郁母 「そうだね」 郁頑張れ、頑張ってくれ。 『……っはあ…』 「…郁…」 郁が泣いてしまった 思い出すだけで怖いもんな。そうだよな… 「……僕が、代わりに話しても大丈夫?(小声)」 『……』 郁が頷いた事を確認して、僕は郁の両親にこう伝える。 「……僕が代わりに話しても大丈夫でしょうか。」 郁父 「…本人が言えないなら、大丈夫。」 郁母 「むしろありがとうね。」 郁の両親にもそう言われ、僕は郁の言った事を言葉を選んで慎重に言うことにした。 「…僕も、さっき言われて困惑していました。 郁は昨日、いつも通り学校へ行っていたんです。ですが、…僕を虐めていた人達に、郁の恋愛対象がバレてしまい、教室で襲われかけたそうなんです。」 それを言うだけでもあの場にいなかった自分に腹が立つ。 それを言った瞬間、郁の両親は驚いていた。 息子が襲われかけたんだから、そりゃ不安だよな… 『……それで俺…反抗して殴ったんだ。 ………そしたら…それを丁度見てた教頭先生に、「職員室来て」って、そいつらと俺が言われて、そいつらに嘘言われて…停学になった。』 郁は泣きながら両親に伝えてくれた 怖かっただろうに、泣きながら伝えるだけで本当にすごい。 郁母 「そうだったの…そりゃ、言えないわね。ごめんね、責めたりして。」 郁父 「…許せないな、そいつら。いや、教頭先生もだけどさ、本当に許せない。」 両親もちゃんと対処してくれそうで助かった。 もう僕が言うことは何もない。よかった。 郁父 「俺明日学校行こうか。教育委員会に電話したり」 郁母 「いや、教育委員会に電話するのは私やるから、学校行くのはあなたやって」 郁父 「わかった」 本当に仲がいいんだな。 こういう両親、欲しかった。 郁父 「……それにしても、君もその子らに虐められてたんだろ。説明してた時言ってたよな。」 「……あ…」 やばい、説明してる時にどう例えればいいか分からなかったから無意識に言っちゃってた。 怒られる…かな…。 郁父 「……辛かったな」 「……」 初めて大人に「辛かったな」 って言われた。 僕の気持ちを知られて欲しくない。 「…慣れたので、大丈夫ですよ。今は息子さんを支えてあげてください。」 それを言った瞬間、郁の両親にも郁にも驚かれた。 郁には救われた…と言っても過言じゃない。 だから今は迷惑かけたくないんだ 今の状態が1番辛いのに、僕のことを気にかけて欲しくない 郁父 「…君も、その“今”にいるだろう。」 言葉を一瞬見失った。 郁母 「今日は泊まっていきなさい。 息子を支えてくれる子をひとりで帰らせる親はいないわ」 そう言って笑う郁のお母さんに、僕はこう言った 「……迷惑かけるんじゃ…」 郁母 「迷惑な訳ないでしょ!息子が1人2人増えても、変わらないんだから。郁も喜ぶし」 『俺も嬉しいよ、港がいてくれる方が嬉しい』 視界が少しぼやけた気がした でも瞬きをして、息を飲み込んだ 「……そういうの、簡単に言わないで下さい」 そう言った瞬間、郁の両親は目を見合わせて、郁は驚いてしまった。 「……すいません、ありがとうございます。」 引かれる、と思った。 だけど郁の両親は、僕に心配している表情を見せた 郁母 「布団用意するね。郁と同じ部屋だから教えてやってよ〜?」 『分かったよ』 ああ、家族だ 僕の理想の、家族だ。 …だけど今は、郁を助けることに集中しなくちゃ。 ──────────── 久しぶりに風呂に入った。 今は郁が風呂に入ってる リビングには、郁の父親と僕だけ 郁父 「…お茶、飲むかい?」 「……いただきます」 ソファーに座り、湯呑みを両手で持つ。暖かい。 郁父 「ごめんな、急に泊めちゃって」 「……全然です」 気まずい空気になる 少し経ってから、郁の父親が僕にそう言う 郁父 「…さっきの、簡単にいわないでください っていう言葉さ」 「……!」 胸が小さく跳ねる 「…ごめんなさい」 郁父 「謝らなくていい。」 即答ではなかった それでも、僕を見ながら郁の父親はこう言う 郁父 「君は信じるのが怖いんだろう。 郁を支えてくれて、本当にありがとう。」 初めて大人に感謝された 郁には助けられてるから、当たり前だろ とも思ったが、嬉しかったのが答えだと思う。 郁父 「…でもね、君もまだ子供だ。 全部ひとりで抱え込むな。」 その言葉が、僕の心にジワッと染みる 涙が出そうだったが、すぐ我慢した 郁父 「家にいる間は、遠慮しなくていい。 迷惑なんて思わない。」 “ 今日は、ただ安心して寝なさい。 ” 「……はい」 僕は、視点を落としてこう言った 泣かずには居られなかった。 「……っ…」 泣きたくなんてなかったのに、涙が出てくる 今は郁だ。そう思ってたのに涙が一滴落ちてしまう。 「……すいません」 そう言うと、郁のお父さんは何も言わず、僕の前にティッシュを置いてくれた。 「……泣きたくなんて、なかったのに。」 初めて大人の前で本音が零れた。 そう言うと、郁のお父さんは僕の近くに来てくれた 郁父 「泣いてもいいし、我慢なんてしなくていい。」 そう言われた途端、郁のお父さんが僕の頭を優しく静かに撫でてくれた。 大人の手が怖い と思っていた僕は、少しビクッとしたが、すぐ目を閉じてしまった。 「…僕、親にいらないって言われたんです」 それを言うと、撫でる手が止まった気がした。 郁父 「…今日は何も考えないで。ここは安全だよ」 「……っう……」 そう言われた途端、僕はまた涙が止まらなかった。 もう寝ないと行けないのに涙が止まらなかった。 僕はこの家族を一段と好きになってしまった。 『…父さん?』 郁の声。リビングの空気が少し変わる 郁がタオルで髪を拭きながら入ってきて、そこで止まる 『……港くん?』 僕は慌てて顔を背ける 「…なんでもない。」 郁はすぐ分かったような表情をしたけど、 何もからかわない。 郁のお父さんも何も説明せず、まだ隣にいてくれた。 郁父 「…この子疲れただけだから」 そう言って郁のお父さんは、優しく微笑んでくれた 微笑むな、更に胸がじわっとくる…。 『……泣いた?』 「泣いてない」 僕がそう言うと、郁が少しだけ笑う そして小さく言う。 『…郁も、泣いていいんだからな。』 「……今は、郁だろ。」 郁が辛い思いしたんだから、僕は我慢すればいい 僕はもう助けられたんだから。 郁父 「違う。今日は君達の日だよ。虐めをする奴も、恋愛対象をバラして行動に移すのも、全部ダメな行為だから。 君も、郁も。よく大人に言ってくれたね」 そう言って郁のお父さんは、僕の頭と郁の頭を 撫でてくれた。 『……っ…』 郁は僕の隣で安心したのか泣いている そりゃそうだよな、男とはいえ怖いもんな…郁はすぐ分かったような表情をしたけど、 何もからかわない。 郁のお父さんも何も説明せず、まだ隣にいてくれた。 郁父 「…この子疲れただけだから」 そう言って郁のお父さんは、優しく微笑んでくれた 微笑むな、更に胸がじわっとくる…。 『……泣いた?』 「泣いてない」 僕がそう言うと、郁が少しだけ笑う そして小さく言う。 『…郁も、泣いていいんだからな。』 「……今は、郁だろ。」 郁が辛い思いしたんだから、僕は我慢すればいい 僕はもう助けられたんだから。 郁父 「違う。今日は君達の日だよ。虐めをする奴も、恋愛対象をバラして行動に移すのも、全部ダメな行為だから。 君も、郁も。よく大人に言ってくれたね」 そう言って郁のお父さんは、僕の頭と郁の頭を 撫でてくれた。 『……っ…』 郁は僕の隣で安心したのか泣いている 僕は無意識に、郁の手を繋いでしまった。 やらかした、と思い外そうとしたが、郁の力が強すぎて離せなかった 郁父 「じゃあ、もう寝るから部屋戻りなさい」 「ありがとうございます、おやすみなさい」 『おやすみ』 郁父 「おやすみ」 明日、僕は学校へ久しぶりに向かおうと思う 明日は郁もいない、僕だけだ。 そういえば僕は、ここに帰ってきていいのだろうか。 そのまま帰った方がいいのかな…? 郁母 「…あ、待って待って。港くん…だよね?」 「はい、そうですけど…」 なんで郁のお母さんが僕の名前知ってるんだ? 郁母 「やっぱり!この子郁が紹介してた子よ」 郁父 「あ、港くんか!」 郁が紹介した…?どういうことだ…?? 『もういいって!寝る前だよ!港くんも困っちゃうじゃん!』 「……??」 状況が上手く飲み込めない… どういうことだよ… 郁母 「港くん、明日多分学校行く…と思うんだけど、学校帰ってくる時にここに戻ってきてくれない?」 戻ってきても、いいのか…? 郁母 「郁も、港くんがいた方が気が楽だし、後少しだけ、」 “ ここにいてくれない? ” 「……はい」 初めて言われた。 ここにいてくれない? なんて、言われたことがない むしろ、僕は 来るな とかだった気がする。 初めてなことだらけだ… 郁母 「じゃあおやすみ!」 「おやすみなさい…」 ──────────── そして僕は郁の部屋に来た 郁のベットの隣に、布団が置いてある。多分それは僕のだろう。 『ごめんね、急で』 「大丈夫だよ」 郁に辛い思いはして欲しくない。 だから僕は、そう選んだんだ 『……ねえ、一緒に寝ない?』 「え、大丈夫なの」 『…うん、その方が暖かいでしょ』 「そうならいいけど…」 僕はそう言って郁のベッドに行った 郁と距離がこんなに近いのは初めてだ… 『じゃあおやすみ』 「…お、おやすみ……」 この状態で寝れる訳ないだろ、そう思いながら僕は無理に目を瞑る …明日は多分、寝不足になりそう。
[ 特別編 ] 大人の余裕。
『大学のサークル友達と飲み行くんで、遅れます。』 「わかった、楽しんでこいよ」 『ありがとうございます』 月日が経ち、湊くんは無事第一希望の大学へ合格し、進学。 俺は上司がいなくなり、代わりに上司になる事になった。 そして俺達は、ようやく正式に 付き合える事になった 。 もちろん告白は湊くんからしたんだけど… 最近本当に忙しそうにしている。 「……」 それと同時に、俺の中で不安が積もっている。 大学にはもちろん、可愛い女の子やかっこいい男の子がいる。 …それに比べて俺は、20後半のいいおじさんだ。 多分、奪われて別れるだろう… もう俺一途の湊くんではないのかもしれないから 「…まあ、いい…けど。」 湊くんも、大学の同じ年の子と付き合いたいと少しは思うだろう 俺はいつもビクビクしながら生活している 「……俺も行かないと」 俺は、今日もいつも通り会社に行くために玄関のドアを開け 車に乗り会社へ向かう。 ──────────── 「おはよう」 華奈 「おはようございます!」 こいつの名前は 華奈(かな) 。 覚えてる人もいるだろう。こいつは元カレの被害に困っていた俺の友達…みたいなもんだ。 華奈 「…なんかテンション低いですよね、何かありました?」 「……いや、いつも通り…だと思うよ」 この子は、人一倍周りを見れる超能力者みたいなもんだ。 これのせいで苦労もしてきたんだろう。 華奈 「……もしかして、恋人と何かありました?」 「……え」 華奈は俺がゲイな事も、湊くんの事も知ってる。 本当は華奈に湊くんの事を知らせたくなかったんだけど、 湊くんと喧嘩した時とか、いつも相談に乗ってくれている。 もう湊くんの顔写真も見せたり、「告白して正式に付き合った」 とも言ってある。 「え、まだ正式に付き合ってなかったんですか」 って驚かれたけどな… 華奈 「…その反応、図星ですね…」 そう言いながら、華奈が苦笑いをする 「…いや、俺が一方的に不安なだけだからさ…」 華奈 「なら尚更相談乗りますよ!今日お昼一緒に食べましょ」 「ありがとう」 華奈にはいつも感謝してる 俺がいつも落ち込んでる時にすぐ気にかけてくれるからな。 こいつ…普通にいい奴なのになんで彼氏いないんだろう。 ──────────── 「……」 華奈 「それで…どうしたんですか」 俺と華奈は今、会社の中にある食堂の席に座っている 「……湊くんが、無事第一希望の大学に合格してさ。 サークルにも入って、サークルの友達もできたんだよ」 華奈 「おめでたい事ですね… それで?」 「それと同時に、サークルには可愛い女の子もかっこいい男の子もいるじゃん。 だから……いつか、「こんなおじさんとは嫌なので別れます」って言われないかなって…怖くなっちゃってさ…」 俺はそう言いながら口角を上げる すると、華奈がご飯を食べる手を止めて、俺にこう伝えた 華奈 「……もう正直に言っちゃいましょうよ」 「……え」 正直に…言う…? 年齢20後半のおじさんが、縛るような言葉言って気持ち悪くない……!? 華奈 「…私もそういう時ありました 元彼が丁度サークルの飲み会が多くて、女の子もいるって時に、不安でたまらなかったけど聞かなくて。 そしたら、「素直さがないから」っていう理由で別れちゃったんです。」 華奈にもそんなことがあったんだ… 素直さがない って理由で別れることあるの? 華奈 「…湊さんは純さんが縛るような言葉を言っても、受け止めると思います。」 …そうか、今まで俺は湊くんに、 苦しい時 嬉しい時 悲しい時 寂しい時 いつも湊くんが支えてくれていたし、受け止めてくれた。 素直に話しても…大丈夫なのかな。 「…本当に素直に言って大丈夫だと思う?」 華奈 「はい、…好きな人の不安になってる姿、見たくないと思いますよ」 そう言って華奈は、笑う。 でも、いつもの笑顔じゃない気もする… 「…分かった、正直に話してみるよ。ありがとう」 華奈 「……はい!」 華奈に相談して助かった… 「じゃあ食べ終わったし、戻ろうか仕事に」 華奈 「戻りましょ戻りましょ」 華奈 「………」 ( かなわないなぁ… ) ──────────── 「じゃあ帰るね」 隣に座って仕事をしている華奈に一言言う。 華奈 「頑張ってください!」 「ありがとう」 いつも応援してくれる華奈が本当に頼りになる。 「先失礼します」 「「「お疲れ様です」」 部下達にそう伝え、俺は会社を出る 「……」 湊くんに正直に思いを伝える事は、多々あったかもしれない。 だけど今日は、思い ではなく 想い を伝える。 始めて正式に付き合って、俺から想いを伝えるから、本当に緊張する。 気持ち悪がられないかな とか 迷惑じゃないかな とか。 勝手に思ってしまう。 だけど俺は今日、素直に湊くんに想いを伝えるんだ。 ──────────── 「……ただいま…」 『おかえりなさい。』 いないはずの湊くんが、何故か家にいる。 え、なんで? 「なんでいるの」 『早く帰りたかったからです。』 早く帰りたかったからって…俺の事好きじゃん… 「……そっ…か……」 だからこそ、捨てられる時が来たら怖いし。 俺からもちゃんと言わなきゃ。 『…なんかありましたか、元気ないですけど』 そう言って湊くんは俺の顔を覗き込んでくる。 俺は思わず反射で、身体をそのまま背けてしまった 『いつもそんなことしないのに。なんか言われました?』 「……何も言われてない。」 『…ならなんで背けるの』 湊くんは自分の荷物を片付けながら、俺にそう伝える。 今がチャンスだ と思った俺は、ゆっくり口を動かす 「……俺…さ」 『……なに?』 「…最近湊くん飲み会多いじゃん。」 『…そういえば…そうですね』 湊くんが片付けをする手を止めて、俺の話をちゃんと聞いてくれている。 「……サークルにはかわいい女の子とか、かっこいい男の子とか、同年代の子もいる…じゃん。」 俺がそう言うと、少し湊くんがニヤついた。 それを気にせず、俺は話を続ける 「…こんな、いい歳の俺は…いつかすてられるんじゃないか、って…不安で…さ。 いや、分かってるんだよ!?湊くんが友達出来て嬉しいし、嬉しいけど……」 俺が話の続きを言おうとすると、 湊くんが強く抱きしめてきた。 「……み、湊くん…?まだ続きがあるんだけど…」 『…ごめんなさい、我慢できなかったです。』 我慢できなかった…?どういうことだ… 『…純さんのこと、愛してます。』 「……湊くんは、俺が離れても…大丈夫なのか…?」 思わず聞いてしまった。 無意識だった。 『…当たり前じゃないですか。離れるつもりないです。』 『……純さん。』 「離れるつもりない」 って言われて、本当によかった… 胸の中がボワッと暖かくなった 「どうした?」 俺がそう言った途端、 湊くんが俺をソファーに押し倒していた。 突然の事で理解ができなかった俺は、頭の中が真っ白になった 『…僕、もう大人です。高校生、子供じゃないです。』 「……そうだね…それがどうかしたの?」 子供じゃない年齢って事、しっかり分かってるよ。 だからこそ“正式に”付き合えたし。 『僕が、純さんの初めて、僕がもらっていいですか。』 「……え、…だ、大丈夫なの…?湊くん…」 湊くんは昔、お父さんに無理やり行為を迫られた事がある。 それを昔 トラウマ だと言っていた。 …もちろん大人だし、俺が責める…んだよな。 トラウマが蘇らないかな… 『…大丈夫ですよ。僕が“責めるんで”。 』 ……湊くんが責める…!?!? 普通大人の俺が責めるんじゃないの…!? 「な、なんで…俺が責めるんじゃないの」 『純さんは初めてだし、責められないでしょ。 僕の方がやり方知ってるんで。』 やばいやばい…俺、やられる… 確かに、俺は初めてだからそんなこと分かんないけど… だと言っても、俺も頑張れば…! 「俺も頑張ればできる…し…」 『……できないでしょ、ひとりでやったこともない癖によく言いますね』 「うるせえ!!」 俺が反抗している間、俺は湊くんにお姫様抱っこをされ、無理やり風呂場へ連れて行かれそうになる。 「ちょ、まてって!」 『待たない。ていうか、待てない。頑張ろうね。』 そう言って湊くんがイジワルな笑顔になる。 あんな表情を見るのは初めてだ… 少しゾクッとした。いい意味で。 「……湊くん、優しくしてね… 一応、初めて…だし…」 『…それは純さん次第かな。』 そう言われ俺は風呂場に強制的に入れられ、 湊くんも風呂場に入ってきた。 『今夜は楽しくなりそうですね、純さん』 「……う、うん…」 俺にはどうやら、 “大人の余裕” というのはないらしいです。
[ 特別編 ]今は僕のはずなのに。
真斗 「純ー、これ美味そうじゃね」 「食いもんじゃねえよそれ」 『……』 俺達は今、水野水族館にいる 湊くんがいつもより黙っているのは真斗がいるからだ。 ……多分。 真斗 「そういえば、本当に大丈夫だった?俺いても」 「大丈夫。婚活してるんでしょ?その気晴らしにでもしてよ」 そう、真斗はこの前離婚し、ちゃんと裁判をして慰謝料請求して真斗に親権も渡った。 だけど流石に、相手さんがいないと子供としても心配すると思うからっていう理由で婚活をしている。 真斗 「まじ!?子供も俺の親に預けといてよかった。」 「それならよかった。」 真斗の久しぶりに思いっきり笑ってるところをみて 少し安心した。誘ってよかった… 『…早く行きましょうよ、純さん』 「あ、ごめんね、行こうか」 真斗 「はーい」 ──────────── 「うわ!クラゲだ!!」 真斗 「お前クラゲ好きだったよな。"昔"は暗いの嫌って泣いてたくせに。」 「うるせえよ」 クラゲ見ると、俺の施設時代の頃思い出すな。 外出許可を受けて、真斗と真斗の親と一緒に水族館に行ったんだっけ… 『…昔一緒に行ったんですか』 「そうだよ、でも泣いてはいないから!」 真斗 「嘘だよ、純めっちゃ泣いてて可愛かった」 「まじでうるさい」 まあ、泣いてたのは事実なんだけどさ…… 湊くんの前であまり言わないで欲しい… 『……』 「…? 湊くん、次どこ行きたい?」 『マンボウでしたっけ。そこ行きたいです』 「分かった、行こうか」 真斗 「ほらー、早く行くぞ〜」 ( 真斗と純が肩を組む ) 「……!?」 流石にやばい 真斗テンション上がりすぎ。。 『……』 「…?!」 やば、嫉妬してる…のかな。 めっちゃ手繋がそうとして来る… 『なんで僕と手繋いだらダメなの。手繋ごうよ 恥ずかしいの?(小声)』 「……ご、ごめんって」 湊くん、怒ってる…? ──────────── 真斗 「綺麗な魚だな!!」 「そうだな」 真斗 「この魚とか、"昔"の純にそっくり」 「おい、やめろって」 本当にこいつは… くだらないことしか言わない それにしても、湊くん物凄くテンション低いけど 大丈夫かな…? 真斗 「綺麗だな、久しぶりに水族館"デート"を純としたわ "昔"はいっぱいしてたよな〜」 「うるせえ、昔だろ。今に集中しろ」 真斗 「はーい」 『……』 やばい、湊くんめっちゃ真顔だ。怒ってる。 …まあ、大丈夫…だろ、多分。 ──────────── 真斗 「今日はありがとうな、また行こうな」 「うん、また行こう!」 『……』 「ほら、湊くんも」 『…はい、行きましょう。』 真斗 「うん、またね!!」 「またな!!」 なんだかんだ、ご飯を食べる時も、お土産屋にいた時も 真斗と距離が近くて、昔を思い出したなあ。 楽しかったな…またこうやって、行くのもアリだな 『……』 「…どうした?」 『早く家帰りましょ。』 「あ、うん、わかった」 湊くん、やっぱり怒ってる… 今思えば、真斗めっちゃ俺と距離近かったな… 肩組んだり、手繋いだり… もしかしてそれか?原因。 ということは……めっちゃ、怒ってる…やばい。 ──────────── 家の中、なんとなく悪い空気が漂う 「……今日楽しかったな!」 『……そうですね。』 湊くんが上着を脱いで、振り返らずに言う 『…純さん』 湊くんはいつもより低くて冷たい声で 俺の名前を言った。 『あの人といる時の顔、少し赤かったです。照れてたんですか』 「て、照れてないよ!?」 俺、湊くんに分かるほど顔赤かったのか…!? 『…昔の話沢山されて、正直妬きました。』 「……ご、ごめん…」 『距離も近かったし。最近なぜか純さんに近づいたらガードされるのに、あの人はいいんですか』 「…そ、それは……」 『…肩も組んじゃったりして、手も繋いでました。』 こんなに嫉妬してる湊くんの姿を見たのは初めてだ… 『…純さん、ぼくじゃ足りませんか』 「……そ、そんな事ない!」 『じゃあなんで、僕が近づいたら距離置くんですか』 くそ、湊くんがこんなに悩んでるなら、言うしかないじゃないか…!! 「…湊くんが俺の隣に来ると…なんというか、意識しちゃうんだよ…ドキドキするっていうか… ほら、湊くん進級して高二だろ、?大人っぽい湊くん見たらなんかドキドキしたんだよ。でも湊くん、トラウマあるし…だから離れるようにしてたんだよ…!!」 よく言った。偉いぞ、俺… 『…へー…じゃあ頭の中僕でいっぱいだったんだ』 「え、は、そういうことじゃない!!」 『は?他の男のこと考えてたの?』 「そういうことでもない…って…!」 『じゃあなんなの』 「…考えてたよそりゃ!考えてた」 『誰のこと?』 ニヤニヤしながら言いやがって… 湊くんわかってるくせに… 「湊くんのことだよ…!」 『…かわいすぎ…僕が困るのでその可愛さどっかに捨て…』 『……は』 大人の余裕を見せないとね… …俺が悪いけど、言われっぱなしは嫌だ…!! 「うるさい口を黙らせた」 『……もう限界です、ごめんなさい』 「……!?」 「………ふっ……はっ、……」 『……』 湊くん……やりすぎだろ…… 頭がふわふわする… 『……』 「…はあ…は、」 『……ごめんなさい、やりすぎま…』 『……!』 湊くんが俺の顔を見た途端、力強く抱き締めてきた 「なに…みなとくん…」 『……奪いたくなるから、あまり煽らないで。』 「…な、なに言ってるの…」 『……僕、ちゃんと待てるので。』 待てるって…そういうことなのか…!? 将来は湊くんと… いや、そんなことない…よな。 「…まあ、湊くんが成人したら大人の余裕ってものを見せないとな」 『……純さんの責められて赤くなってる顔早くみたいな〜』 「…うるさいよ湊くん。。」 こんなことをするのは成人になってから… 結構時間がある…と思うから、随分先になると思うけど… 『…あいしてます、純さん』 「…俺も、あいしてる」 『可愛い…』 相変わらず今日も、充実した一日でした。 続く。
感情がない僕は、泣くことを覚えた。
【 そんなしょうもないことする前に勉強しなさい!! 】 【 お前の顔、きもいんだよ!!しねやカス!! 】 【 お前なんていらねえんだ、早くどっか行け 】 「……っは、はあっ……」 またこの夢か… 僕の名前は 小林 港 ( こばやし こう ) 。高校1年生。 みんなが思ってるように高校はそんな簡単なところじゃない。 僕は入学して1週間が経った頃、虐められた。 理由はノリが合わないから だそう。俺はいつも放課後殴られている。 みんなが行ってる高校も、そんなところなんですか? 僕は 顔がキモい だけで罵りられ 僕は 空気を吸う だけで殴られ 僕は 言葉を喋った だけで蹴られる。 だけど僕は、そんなこと興味無いし、人間にも興味を示さない。 人間というのは悲しいもの。 誰かを虐めないと 誰かを罵らないと気が済まないただのマスコットキャラクターだ。 僕は、そんな人間がしょうもないし、僕が人間っていう事実も知りたくない。僕が人間なのも嫌だ。 人間 という ただのマスコットキャラクター を壊したい。 「……」 そう思いながら、僕はカバンを持って学校へ向かう。 寅 『おっと〜笑笑 また糞がやって来たぞ〜笑』 摩耶 『きもすぎ〜笑』 「……」 またか。 そう思いながら僕は自分の席に座った。 しょうもない僕の悪口を聴きながら。 摩耶 『…は?無視?』 寅 『懲りないなこいつは。ほんとつまんねえ。』 つまんねえのはどっちだよ。 摩耶(まや)とかいう女は僕の事をスマホで撮ってくるし 寅(とら)とかいう男はいつも僕の事を罵る。 僕の事を目立ちさせてるのはお前らだろ。笑 「…ほんと、しょうもねえ…笑」 あ、やっべ。 僕はやってる事がつまらない人間さんの目の前で思わず酷い言葉を話してしまった。 でも本当にしょうもないんだから、仕方がないと思うんだけど 寅 『あ?なんだ、ゴラ。文句か?』 摩耶 『あっれ〜?激アツ展開!?』 教室なのにも関わらず、寅は僕の事を殴る準備。 摩耶はスマホで動画を撮っている 他のクラスの人達は僕達のことを見ているだけ。 助けようとする人間なんて、そういなかった。 ガラガラ… 寅 『…くっそ。』 摩耶 『つまんな。』 僕を殴ろうとした瞬間、先生が入ってきた いつもは遅いのに、今日はどうしたんだろう 先生 「転校生 が入ってきた。 ほら、来い。」 転校生 か… どうせまたつまらないマスコットキャラクターだろう、とそう思っていた 『……』 モブ 「イケメン……」 寅 『……』 摩耶 『イケメンじゃん、アイツ…』 「……」 『…俺の名前は 齋藤 郁(さいとう かおる)です!よろしくね!』 そいつは呑気に笑う。 このクラスが、イジメをしていることも それを相談してもなんも言ってこない先生がいることも知らずに。 先生 「…えー、今日来てきたばっかの郁くんだ。みんな仲良くしてやれよ。」 先生はそれだけを言い残し、教室を出ていく。 なんて最低な先生なんだろう。 『…えっと……』 そしてなんでこの僕がコイツと席が隣なんだろう。 神は、僕の事を見ていないのか? 「…僕の名前は港。仲良くするつもりないから。」 俺は郁とか言うやつに聞こえるようにそう言う。 そう言うと、いつも通り寅と摩耶が笑いながら僕の所にやってきた 摩耶 『えー、冷た〜笑』 寅 『ひでえやつだよな、こいつ笑 あ、ちなみに俺の名前は 寅 で』 摩耶 『うちの名前は 摩耶 でーす』 そう言って2人はピースをする。 なんだ、そのポーズ。痛いやつだなほんと。 そう思い、僕はスマホを弄る 寅 『…こいつの事は奴隷として扱えよ笑』 摩耶 『こいつ殴っても蹴っても何も反応しねえから笑』 寅 『こいつマジキモい笑』 そう言って寅は僕の頬目掛けて殴る 「……」 寅 『ほらな?なんも言わねーだろ?なんでもしていいからな〜』 (寅が港の髪を掴む) 「……」 髪が痛むだろ と言いたかったが、それを止めた。 今は転校生の前だ。我慢我慢。 きっとこいつも、寅と摩耶の味方であり、僕の事を助けない。 『…そういうしょうもない事には俺乗らないよ』 「……!」 『港くん、大丈夫?』 コイツはそう言い、俺の前に手を差し出した。 なんだこいつ、悪趣味だな。 寅 『は…なんで、お前…』 摩耶 『こいつと同じ事してやろうか?笑』 寅と摩耶は転校生にそう言う。 この転校生もバカだな、大人しくコイツらに従えばいいだけの話なのに。 その方が安心だろ。 『…いや、なんで君達が決めるの? 俺がそうしたいからしてるだけだって。君達にもう用はない』 『行こ、港くん!』 「…は、」 コイツはそう言って、僕の手を掴んでそのまま教室を出た こんな事は初めてだ。 なんなんだよ、こいつ。 『港くん、大丈夫だった?』 僕と郁は、人影がないような場所に来た。 「……」 コイツも、同じ人間。 どうせ僕をいつか捨てる。 人間は、いらなくなったものをゴミにして捨てるんだ だから僕もいつか、こいつに捨てられる。 信じたらダメだ 『怪我してる…保健室どこか分かる?』 「……痛くないし、どうでもいいだろそんなこと。」 僕はいつも殴られてきた。 放課後も アイツらがイライラしてる時も 僕は殴られてきた。だからもうどうでもいい。 …痛みも、もう感じない。 『どうでもよくなんかないよ…!!港くん、保健室教えて。』 郁は、真剣な眼差しで僕の事を見つめた 僕は心配する人間を見たことがない。人間はいつも見て見ぬふりをする。 郁も、そういう人間なのだと思っていた。 …でもこいつは、違うのかも。 「…ついてきて。」 僕はそう言い、郁の手を繋いで歩く 『…先生、いないみたいだね』 「……保健室の先生、出張行ってるから。」 『でも任せて!俺前の学校で保健委員だったから怪我人の人の世話とか見てたからできる! 怪我、見せて。』 「……」 どの傷を見せればいいか分からなかった。 僕には、沢山傷があったから。 『…ごめん、触るね』 郁は何かを感じ取ったのか、僕の上着を脱がす 『……』 郁は僕の傷を見て、驚いていた。 まぁ、そりゃそうだよな。 僕は、学校の人にも虐められ 家の人にまで虐められる。 あの夢は、施設の頃の嫌な思い出だ。 僕はあの頃の夢を今でも覚えている。 『…これ、ずっと…前から?』 「……別に」 『そっか… じゃあもう慣れたんだね』 「……」 ソイツは背中の傷に消毒を付けながら話した 「って……」 消毒が染みて痛かった僕は、思わず口に出てきてしまっていた 『…! ごめん、大丈夫?』 「痛い」 と言えばいつも殴られる僕は、『大丈夫?』 と声をかけられた事がなかった。 昔から、痛いといえば無視をされ、殴られる日々を送ってきた。 だから僕は高校入学をしてから家を出て、一人暮らしをしている。 なのに、虐められて殴られる。 いつも殴られてばっかりだったのに、心配されるのは初めてだ 「……別、に。」 僕は少し、声が震えた気がした 『すいません!!遅れました!』 授業に20分も遅れたのは初めてだ。 そして保健室に行ったのも 湿布やデカい絆創膏を貼ってもらったのも、初めてだった 先生 「今度は気をつけろよ」 『はい!! 港くん、席戻ろ』 僕はそう言われ、コイツと一緒に席を座る 摩耶 『きっしょ… 味方作りやがって』 寅 『ほんと、気持ちわりぃあいつ。』 いつも通り、陰口をいわれる。 だが、いつもやってる僕の足を踏むのはしない。 郁が隣なのもあるのか。 別にやってもいいのにな。 『……気にしないでね』 「……」 気にしないで って、僕気にしてないのに。 そして気づくとまた放課後。 僕はいつも通りアイツらに呼ばれた 寅 『来い。』 「……」 いつものか、と思いながら僕はアイツらについて行こうとする 『……港くん!!一緒に帰ろう!』 「……!」 僕は初めて、誘われた。 でもアイツらはイライラしたように郁に言う。 摩耶 『…ごめんね〜郁くん。こいつうちらとのヤクソクがあるからさ〜』 寅 『そうなんだよ〜ごめんな〜?』 コイツらはヘラヘラしながら郁にそう言う。 逃げるだろうな、と思いながら聞いていた 『じゃあ、俺も行くよ。それならいいだろ?』 寅 『……それは困るな…』 『なんで?人に見られていいヤクソクなんだろ?なら大丈夫じゃん。俺も行くよ』 摩耶 『……寅行こう』 寅 『…クソが』 今日は…殴られないのか… 今日は、蹴られたりしないんだ… そう思うと、なぜか心が軽くなった気がする。 『…港くん!帰ろう!』 「……うん。」 ──────────── 『……あれ、もしかして同じマンションに住んでる?』 「……僕ここだけど」 『え、まって同じじゃん!!』 郁は飛び跳ねて喜んでいた。 僕とマンションが一緒なだけでそんな喜ぶ? 「……なんでそんな喜んでんの」 『俺友達いたことなかったんだ。』 「……」 こんなに笑顔が素敵な奴でも、友達いない事なんてあるんだな。 僕はそう思いながら郁の話を聞く 『…本当に港くんからしたら気持ち悪いと思うんだけどさ。 ……港くんが体に傷が多いのも、港くんがしょうもない奴らに虐められてるのも…俺…嫌なんだよね、』 「……なんで」 『…俺の……おれの、』 “ 唯一の友達なのに って思っちゃうから ” 「……!」 初めての感覚だった。 こんなに、こんなに…僕が唯一 人間になっていい と思ったのは 初めてだったんだ。 こいつの前でなら、泣けるかもって、 こいつの前でなら、笑えるかもって、そう思えた気がした 僕は多分、…… こいつのことが、 …… 好きだ。 『…じゃ、じゃあまた明日』 「…うん、また明日」 僕はそう言って、初めてこいつの前で笑う。 するとこいつは顔を赤らめて、急いで家へと帰っていった 僕も、急いで自分の家へ帰った。 ──────────── 僕は自分自身で 感情がない と思っていた 僕の大切な存在の人が亡くなっても、泣けなかったから。 僕は、学校で唯一の親友の 真琴(まこと) という男の子がいた。 僕の初恋で、好きだった。 バレンタインデーの時に、真琴は僕の為にチョコを買おうと外に出ると、信号無視の車に轢かれて亡くなってしまった。 僕のお母さんと真琴のお父さんが話してたんだ。 ……真琴は… “ 即死 ” だった。 医者も手に負えないくらいの被害だったって。 警察が見つけた時には、もう息を引き取っていたらしい。 それから僕は真琴の葬式に行った 葬式には、黒いスーツの人達が沢山いて、僕の両親も黒いスーツを着てた。 僕も、中学の制服を着た。 真琴の青くなっている顔を見て、死んだんだ と実感した。 したけど、泣けなかった。 両親や真琴の友達、真琴の両親、おじいさんは泣いてたのに 僕は泣かなかった。 それを見た僕のお父さんが、 「真琴くんが死んでいるって言うのに、なんで泣かないんだ…」 って、言った。 僕は泣けない自分自身が 憎かった 恨めしかった 呪いたかった なんで泣けないんだって、思った。 だけど、泣きたいと思うほど涙が出なくて、どうすればいいか分からなかった。 それから僕は、学校でも家でも孤立して、今この状況だ。 「……真琴…」 いつも寝る時に、葬式の頃の夢を見る。 「お前なんていらない」 と言われて、責められて。 でも僕は、 苦しい と言ってはいけない存在だから、 虐められて当然なんだ。 僕というニンゲンは、むしろ虐められていた方がいい。 そう思いながら生きてきた。 だけどもう、限界が来そう。 助けを求めたい。 苦しい って、その一言を言いたい。 でも、無理だ。 僕は、 「助けて」 って言う資格がない人間…いや、ロボットだから。 「……」 今日もまた、食欲がない。食べる気が起きない。 ピンポーン… 「……誰だ」 そんな時、家のチャイムが鳴る。 家のチャイムが鳴ったのはひさしぶりだ。誰だろう 『よ!!夜ご飯一緒に食わね? お母さんがせっかくならって!!』 郁か…親が来たのかと思ってビクッとした 「……」 本当は一人でのんびりしたかった。 だけど今日は、誰かといたい気分だった 「いいよ、食べよ」 『…! うん!!』 ──────────── 『港くんのリビング、広いね』 「……港でいいよ」 なんだ、この気分… ぼく、頭でも打ったか…? 『…港!』 「……」 【 最低だな 港。 】 「……!!」 なん…で、 『…大丈夫?』 【 お前は虐められても大丈夫な人間だもんな〜笑 】 「……っは、」 『…港…?』 【 港なんて、産まなきゃ良かった 】 「……ひっ…」 息が、苦しい。 なんで、ぼく、こんなに…くるしいの… 『…港くん!!俺はここいるから!』 手が震える。 声も出ない。 人間が、 怖い。 「……こわい、」 『…港…くん…?』 “ 真琴の代わりに港が死ねばよかったのに ” 「……っ…!!」 僕が…いちばん言われたくない言葉… 僕だってわかってるよ、真琴の代わりに僕が死ねばよかった なんて… だからいっぱい自分で傷を増やしたんだ…!! 『……港くん、大丈夫…大丈夫だから…』 「かお…かおる、怖いよ…」 なんでこいつがいる時に…フラッシュバックなんて、 なんで…なんでだよ… 『……ごめんね』 ギュッ… 「……!!」 『…好きな人が、俺の前で苦しがってるんだ 我慢なんて、できないよ。』 そう言って郁は、僕の事をギュッと抱きしめてくれた 初めて人の温もりを感じた。 こんなに、気持ちいいんだ、人の温もりって こんなに落ち着くんだ… 「……ごめ…」 『謝らないでよ。これは俺がしたくてしてる。港くんは、』 “ 悪くないよ。 ” 「……」 初めて、僕を、「小林 港」 という人間を認めてくれた気がした 僕は、目から涙が出そうだったけど、堪えた こいつには…僕の事を全て言える気がするって、 そう思った。 『…港くんが辛いことや苦しいことがあったら俺、話聞くから』 これで確信した こいつは僕の話を聞いてくれる。 そう思った俺は、口を開いた 「…僕…さ、大切な人が亡くなってしまったんだ。」 『……!』 僕がそう言うと、郁は悲しそうな顔をしていた 「…それでも僕、泣けなかった。 葬式の時に言われた。 「なんでお前は泣けないんだ」って。 それから、家でも、学校でも、そういう扱いになった。 ……だから、傷も多いし、虐められるのにも慣れてる。 僕は…… 虐められて当然なんだ、と思ってた。」 僕は僕自身が全て思っていたことを郁に話してしまった。 無意識だった 僕の話を聞いた郁のことを見ると、 …… 泣いていた 「……なんでお前が泣くんだよ」 『…ごめん。』 郁は涙を拭きながら、僕にこう言った。 『…俺はさ、大切な人…が、亡くなった事なんてないから、港くんの気持ち、分からない。』 「……だよね、ごめん」 「…おかしいよね、やっぱり。泣けないなんてさ、笑」 僕はいつも通り無理に口角を上げる 元気だよ、ぼく。 『…知ってる? 人間ってね、1番苦しい事や辛い事があったら、想いを隠すんだ。』 「……どうやって、?」 『脳がね、「辛くない」「苦しくない」って、勝手に思い込むの』 人間って、苦しい事と辛いことがあったら想いを隠すのか…? 『…港くん、港くんが大切なこは、何が好きだった?』 「……漫画が好きで…アニメも、好きだった」 『何の食べ物が好きだった?』 「…漬物のキュウリを美味しいって言って、たべてた…」 それで…僕には合わなくて、真琴に上げたんだっけ… ……あれ、僕… 「……っ…(泣)」 泣けてる…? 『……港くん、その子はどういう子だった?』 「…元気、で…明るくて…こんな僕でも、友達になってくれて…」 「……それで…それで…っ…(泣)」 真琴は…誰よりも、人のことを想って… 僕の、好きなチョコレートを買おうとして… 「……っ…うっ…(泣)」 うどんが誰よりも好きで… 納豆は嫌いで… 「……っうっ…ふーっ…(泣)」 『……港くん、おいで』 優しい笑顔をしてる郁の元へ、僕は急いで行った 「…かお…る…っ…(泣)」 『……うん、港くん。しっかり泣けてるよ。』 『港くんは、虐められていい人間でも、感情がない人間でもない。 ただ、港くん自身が、 泣いたら壊れる って、勘違いしてただけなんだ。』 そっか… ぼく、泣いたらダメって、勘違いしてただけなんだ… 「……こんなぼくでも、泣いていいの…?」 『…いいんだよ、 だって港くんは、』 “ 人間 なんだもん。 ” 「……うっ…かおる…っ…(泣)」 『……つらかったね。』 僕は、初めて人間の前で思いっきり泣いた。 真琴のことも、摩耶と寅のことも、 本当は辛くて、苦しかった。 葬式の時も、本当は泣きたかった。 ただ、僕自身が 泣くな ってブレーキをしてただけなんだ。 郁は、こんな僕でも 泣いていい って、言ってくれた。 こんな僕でも 苦しくなっていい って、言ってくれた。 ニンゲンはただの マスコットキャラクター だと思っていた僕は 少しずつ、人間が好きになってきている。
ヒーローじゃなくても
朝5時、俺はいつもより早く起きてしまった。 「……」 久しぶりだ、ギターに触るのは。 今までスマホとイヤホンしか触らなかった ギターに触る余裕なんてなかったんだな、と初めて実感する。 「ヒーローじゃなくてもいい」 って、凛都はそう言ってた。 だけど、ヒーローじゃなかったら俺は何者なんだろう。 俺は弱くてもいいのか? 俺は強い方がいいのか? とはいえ、また強くなったら苦しくなる。 みんなにまた、心配をかけてしまう。 俺は、みんなに心配してほしくない。俺のことで負担をかけられたくない。 ……俺は一体、どうすればいいんだよ… そう思ったまま、俺はギターを膝に乗せた 「……」 考えることをやめた訳じゃない。 むしろ今も考えてる。 ただ、これ以上考えたら、また壊れる気がした。 弦にそっと指をかける。 力を入れすぎて、少し音が濁った。 「……下手だな。」 昔なら、ここでやめてた。 ここでやめて、音楽を聴いて、やっぱりしたくて。 完璧な音を出そう出そうって。 完璧じゃないと気が済まなかった。 でも今は、 やめなかった。 もう一度、同じコードを鳴らす。 今度も、お世辞にも 綺麗 とは言えない。 それでも、 「…音、出てる。」 誰かを救ける為じゃない。 誰かの太陽になるためでもない。 ただ、 俺がここにいる って確かめるみたいに。 歌わなかった。 声も出なかった。 それでも、ギターの音が朝の部屋に響いた。 理由は…まだ分からない。 だけど、 「…歌っても、いいのかもしれないな」 そう思えたのは、昨日以来だ。 アラームの音が鳴った。 「……いつの間にか寝てたんだ…」 朝5時に起きて、もう準備しようと思ってたのに 俺、いつの間にか寝てたんだ。 楓 「…太陽、あれ起きてる」 朝に見る楓先輩は久しぶりに見た。 「起きてるよ。」 楓 「今日、学校に行けそうか? 行けないなら先生に言っとくけど。」 昨日分かったけど、俺の休みの連絡は全て楓先輩がしていてくれたらしい。 ……絶対女の子にモテる奴だろ、この人。 「…途中から行ってみるよ。部活にも参加する。 凛都と伶先輩にもそう言っておいて。」 楓 「……分かった。」 楓先輩は少しニヤッとしていた。 俺が部活、そして学校に行く事が嬉しかったのかな、と思いながら楓先輩の作った朝ごはんを食べる。 今日も楓先輩の作る朝ごはんが美味しい。 楓 「…じゃあ、行ってくるね。」 「うん、また後で」 俺はそう言って、学校に行く楓先輩の事を見送った 「…準備するかぁ…」 本当に久しぶりの学校だ。 なんて言われるんだろう。 小学校の時も、中学校の時も、 こんなに俺が休む事はあまりなかった。 むしろ学校が大好きで、いつも7時45分に家を出て、朝イチで学校に行ってたくらい。 こんなに学校が憂鬱になったのは、高校が初めてだ。 だけど、凛都や伶先輩、そして楓先輩のおかげで、 少しだけ、学校が楽しみになって来たかも。 「……よし…」 制服も着た、歯磨きもした、風呂にも入った。 あとはスクールバックを持って玄関を出るだけ。 それだけなのに、スクールバックを持つのが怖い。 スクールバックを持つと、学校に行くっていうことになってしまうから。 それがなぜか、怖いんだ。 「……」 ピンポーン♪ 俺の玄関のチャイム音が響く スクールバックを持たずに玄関に行くと、そこには兄ちゃんがいた 昴 「お、準備してたんだな」 「うん、今日は行きたい、行きたいんだけど、」 昴 「…足が上手く出てこないんだろ?だから俺迎えに来た」 そういえば、今日は兄ちゃんの学年だけ休みだったっけ。 兄ちゃんが昨日言ってたな。 「…ありがとう、たまにはいい兄ちゃんも出てくるんだね」 昴 「おい、バカにしてんのか」 「してないよ」 昴 「ほら、スクールバックを持ってここに来い。 俺待ってるから」 兄ちゃんにそう言われて、俺はスクールバックの近くに行く。 俺は震えた手でスクールバックをもって、兄ちゃんのいるところに行く。 怖い、怖いけど兄ちゃんと同じなら俺は大丈夫。 そう思いながら。 昴 「……」 ギュッ… そう思ってると、兄ちゃんが俺の手をギュッと握ってくれた。 多分、手が震えてることがバレてしまったんだと思う 「…兄ちゃん、なんで、俺の手、」 昴 「…俺、太陽に言わないだけで太陽の気持ちたっくさんしてきた。 両親に影で 「太陽はいいのになんでお前は…」 って言われてきたんだ。」 兄ちゃんの…過去はこういうことだったのか。 昴 「だけど俺は、太陽の無邪気な笑顔が好きで、歌声も大好き。 兄としての責任が、俺のことを狂わせた。 嫉妬心で太陽の歌声を否定して、太陽の事を傷つけてしまった。 だから今度は、太陽の兄として、太陽を救ける。」 “ 久しぶりに手を繋いで学校に行こう、太陽。 ” そう言って兄ちゃんは俺に笑顔で言ってきた。 兄ちゃんは 兄としての責任 で狂って、嫉妬心で俺の歌声が嫌いって言っただけなんだ。 そしたら、兄ちゃんは悪くない。 両親が悪い。 「……うん、兄ちゃん学校行こう。」 昴 「…おう、行こう。」 久しぶりに兄ちゃんと手を繋いで玄関を開けて外に出た。 兄ちゃんと手を繋いで歩いたのは小学校以来かな。 兄ちゃんの手は暖かくて、デカい手。 俺は兄ちゃんの手が大好きだ。 昴 「……太陽、ここからは1人。」 兄ちゃんは俺の手を解いて、俺の前で屈んだ 昴 「太陽が不安で怖い時はいつでも迎えに行くから、連絡して」 「うん。」 不安で怖い時… 俺は本当に逃げてもいいのか。 逃げてもいい人間なのか? …くそ、また悩んでしまう、 昴 「……太陽!!」 俺が校門へ歩いていると、兄ちゃんが大きな声で俺の事を呼んだ 「………」 俺は兄ちゃんの方を向いて、兄ちゃんのことを見た 昴 「……逃げても、いいんだからな。」 「……!」 そうだ、俺も普通の人間だ。 辛い時、苦しい時、不安な時、怖い時は逃げてもいいんだ。 「…うん…!ありがとう…!」 昴 「……」 俺がそう言うと兄ちゃんは笑顔で家に帰って行った ここからは俺1人…いや、凛都や伶先輩、楓先輩がいる。 大丈夫、そう思いながら校門のドアを開ける 「……」 久しぶりの下駄箱。 久しぶりの上靴。 久しぶりだらけだ。 モブ 「お、太陽じゃね!?」 俺が下駄箱で上靴を履いてる途中、階段から俺の友達が出てきた 多分、この時間は音楽だった気がする。 モブ 「久しぶりだな!!お前のこと “待ってた” んだよ!」 「……!」 俺の事を… 待っていた 人がいるんだ… モブ2 「お前の歌声、大好きだからさ、またききてえ」 モブ 「それな!!このクラスだけでいいからまた演奏しろよ!」 俺の歌声を 好き って言ってくれる人がいる。 俺の歌声を 待ってくれる 人がいる。 それだけで俺は、十分だ。 モブ 「次社会で、教室だから来いよ!凛都もいるから」 「おう」 凛都…には、楓先輩言ってくれたよな…? そう思いながら俺は、教室へ向かう 「……おはようございます。」 教卓に座っている先生に聞こえる声で挨拶をした。 凛都 「……!」 席に座って本を見ていた凛都が俺の方をみて、俺のところに来た 凛都 「…太陽……」 ギュッ 「……!」 凛都は教室なのに、俺の事を強く抱き締めてくれた。 クラスのみんなにキャーキャー言われても、凛都は離さなかった。 凛都の久しぶりの温もりを感じる。 落ち着くなあ…ほんとに。 凛都 「……おかえり。」 クラスのみんなにキャーキャー言われていても、凛都は俺の耳元で 「おかえり」 って、一言言った。 これを聞くだけで、 「ああ、帰ってきてよかった。」 ってそう思った。 「……ただいま。」 俺はそう言って、凛都を強く抱き締め返す。 クラスのみんなは何かを感じ取ったのか、いつも通り友達と話す。 俺のクラスは感じ取る人が多いな、と少し面白かったし、 俺の事を強く抱き締めてきた凛都にも、少し 可愛い と思ってしまった 凛都 「おう、社会の準備して来いよ」 凛都はそう言って、俺の抱きしめる手を離した。 だけど距離は近かった。 いつもは俺が距離近いのに、今度は凛都が距離近い。 たまには、凛都が距離近いのもいいな。 「……うん、準備するね。」 俺は、自分のロッカーに行って教科書を手に取る。 ああ、今俺は学校にいるんだ。そう思いながら。 ──────────── そして、チャイムと共に部活が始まる。 俺は、凛都と一緒に久しぶりに第2音楽室に向かっている。 凛都 「久しぶりだよ、お前と行くの」 「俺も。」 何気ない会話をしながら、凛都と向かうのが本当に久しぶりだ。 意外とこの時間が好きだったりもする。 凛都 「…ほら、付いたぞ」 凛都はそう言って第2音楽室の扉を開ける。 俺は緊張して、腹がとても痛かった。 だけど俺は、がんばって声を出した 「……… 久しぶりです。」 昨日も会ったけど、ここで会うのは久しぶり。 ────俺がここで会いたかった場所だ。 伶 「……太陽くん… 久しぶり。」 楓 「……」 伶先輩は、一瞬驚きながらも、俺に笑顔でそう言ってきた。 今日もいつも通り、部活が始まる。
それでも歌いたい。
文化祭から1週間後、俺は未だに学校に行けていない。 部屋に引きこもって、歌詞ノートを眺めるだけ。 「……」 楓先輩はもう学校に行ってる時間だろう。 俺も行けたらなぁ。 いつも通り、凛都に途中で会って いつも通り、上靴を履いて いつも通り、廊下を歩いて いつも通り、教室に入る。 そんな事ができたらなぁ。 「…っ……!」 …やば、頭痛い… イヤホン…音楽聴かないと… 「……」 俺は急いでイヤホンとスマホを持ち、音楽アプリを開く 〜♪♪ 「……」 最近は音楽を聴いて俺の世界に入るのにハマっている。 なぜか落ち着くんだ。 音楽が、俺の事を 「大丈夫だよ」 って言ってる気がして。 ピロン♪ ピロン♪ 「…兄ちゃんか。」 最近は兄ちゃんからの連絡が多い。 「迷惑だ」 と何回も言ってるのに、なんで多いんだよ。 でも、初めてこんなにLINEの通知が溜まった。 こんなの初めてだ。 こんな時、ふと思ってしまう。 俺は、軽音部 の ボーカル としてちゃんとやって行けたのだろうか。 でも俺は、どうせ 軽音部 をやめる。 俺がいると、みんな苦しくなる。 伶先輩は自分の歌声が嫌いだ。 楓先輩は親に必要とされていない。 凛都は自分を責めた。 いや、責めすぎた。 俺がいる時に… 俺が、いつも助けたいと思ってる時に、こうなる。 実質 俺のせいじゃん。 全部。 文化祭の時も、勝手に家に帰った。 どうせ誰も必要とされていないだろう。 俺は、生きていてもいい存在 …なんだろうか。 「……」 机の上に、昨日使ったカッターが置いてある。 昨日使ったってだけなのに、何故か目が離せない。 これさえあれば、 俺の苦しみも 俺の悲しみも 俺のこの考えも 全て消えるんじゃないか って、そう思った。 「……」 でも、 それでも俺は 手が伸ばせなかった。 手を伸ばそうとした瞬間 急に頭から声が流れてきた。 「…… 歌うの、怖いんだ 」 伶先輩の震えた声。 「…お前…なんなん…」 初めて俺の前…いや、後輩の前で弱さを出した楓先輩。 「…全部、俺のせいだと思ってた。」 凛都のあの泣きそうな顔。 俺が救けた訳ではない。 俺が 助けよう としただけだ。 それでも、先輩達と凛都は変わらず、笑ってた。 歌えなかった日も 泣いた日も、 それでも前へ進んだ。 “ 俺が消えたら、みんな楽になるのだろうか。 ” その答えはまだ、分からない。 だけど結果は分かってる。 俺なんか、必要ない ってな。笑 そう思った途端、俺は玄関に居た。 何故か分からないけど外に行きたかった。 落ち着く為に。 ──────────── 「……」 あいつ、大丈夫かな。 凛都くんから話は聞いている。 あいつがあんなに追い込んでいるのは初めて見る。 だからこそ心配LINEを送るのに、既読無視をされるだけ 流石に兄ちゃんも腹立つぞ。 「…重いかな。」 弟の事が心配で堪らない俺は、太陽の家の前へ来てしまった ……弟で、家族だ。 他人じゃねえから大丈夫。 俺はそう思い、合鍵でドアを開けた 「…くっら……」 太陽の家に入ると、とても暗かった。 幽霊にでも呪われたのか くらい。 ……そういえば、太陽を見かけないな。 あいつ、バカなことしてないよな…? 「……」 そう思った俺は、太陽の部屋に行った。 よかった、バカなことはしていなかった。 「…なんだこれ。」 そう思っていたら、太陽のベットの上にある 歌詞ノート を手に取った。 ……そういえば、太陽が曲を作ってるんだっけ。 どれどれ、見せてもらおうか。 「……!!」 そこに書いてあったのは、 歌詞なんかじゃなかった。 …いや、歌詞ではあった。 だけどあいつは多分、気づいて欲しかったんだ。 言葉にできない苦しみを 必死に押し込んだ感情を 「助けて」 と言いたかった想いを。 俺は、太陽の兄だからこそ分かる。 太陽がどう、 助けを求める か。 あいつは昔から 「助けて」 と言葉で言わない… いや、言えないんだ。 だから言えない代わりに 行動 文字 音にして言う人間だ。 それを俺は知っていたはずなのに… 「…なんで……っ」 胸の奥が、締め付けられた。 ──────なんで俺は…… “ 弟のヘルプに 気づかなかった んだ…!! ” 「…凛都くんに……」 俺は悔しさを抱えながらも、凛都くんに連絡をした。 凛都くんも多分、太陽の思ってる事がわかるだろうから。 ……もう、遅いかもしれない。 それでも、 それでも俺は、 今度こそ見逃さない。 太陽が、自分自身を壊す前に。 でも俺は、1人じゃ無理だ。 だから俺は、[ 凛都 ] というトーク画面を開く。 太陽は俺だけに救われるべきじゃない。 そう思った俺は、震える指で凛都に連絡をした。 ──────────── 楓 「……」 伶 「暇だね」 「うん…」 丁度部活帰り。 俺は楓先輩と伶先輩と帰っていた。 太陽のいない帰りはなぜか、寂しい。 そう思いながら。 ピロン♪ 「あ、俺だ。ごめん見るね」 伶 「うん!」 楓 「うん。」 「……!!」 久しぶりに太陽の兄、昴さんから連絡が来た。 どうせいつもの学校のことだろう とそう思っていた。 「……太陽…?」 そこには、太陽の歌詞ノートの写真が送られてきて、 昴さんの言葉も送られていた。 昴 [ 太陽 やばい。ごめん、俺守れなかった。] 「守れなかった」 この言葉で分かった。 太陽は、自分自身を追い詰めてるんだって。 そう思った途端、後悔と悔しさが堪らなかった。 楓 「…おい、凛都。」 伶 「どうしたの…?大丈夫…?」 「……」 これは 幼なじみ としての問題じゃない。 これは多分、 仲間 としての問題だ。 そう思った俺は、楓先輩と伶先輩にも文章を見せた。 歌詞ノートの写真も、昴さんの言葉もしっかり見せた。 それを見た楓先輩と伶先輩の表情は真面目で、俺と同じように 後悔している表情だったと想う。 「…やっぱり太陽は体調が悪いんじゃなかった。 これは俺が、止めなかった責任です。ごめんなさい。」 太陽を止めなかった。 太陽の気持ちをよく分からなかった悔しみで、 俺は思わず先輩達に謝ってしまっていた 楓 「…凛都だけのせいじゃない。これは、俺達の問題なんだ。」 伶 「楓の言う通り。これは僕達の問題。」 " 太陽くんの事、救けよう。 " 「……はい。」 伶先輩の言葉で 俺だけの問題 じゃないってことがわかった。 だけど俺があそこで止めていれば あそこで心配をかけていれば、 なにかが違ったかもしれない。 でも多分それは、楓先輩も伶先輩も思っているだろう。 ……俺は今、太陽を救ける事に集中する。 …太陽 待っとけよ。 楓 「…太陽、どこにいるかな。」 伶 「お兄さん、居場所分かる?」 「…多分、小林公園 だと思う」 楓 「……!」 太陽はいつも、小さい頃から何かがあると 小林公園 へ来ていた お兄さんと喧嘩した時も 親とぶつかって喧嘩した時も いつも 小林公園 でブランコをしていた。 …懐かしいなぁ… 伶 「…じゃあ、そこ向かおう」 俺と楓先輩は伶先輩の言葉に頷いた 太陽、お前には勘違いしてた事が3つあった。 1つ目 それは、太陽は意外と 弱い ところ。 2つ目 それは、太陽は意外と 無理してる ところ。 そして最後、3つ目は 誰よりも人を救けたい という気持ち。 俺は弱い太陽も、無理してる太陽も全部受け止める。 前の太陽は、俺にそうしてくれたから。 俺の事を遠回しに 必要だ と言ってくれたから。 今度は俺達が太陽を救う、いや… 救ってみせる 。 ──────待ってろよ 太陽 。 ──────────── 俺は今、なぜか分からないが小林公園に来ている。 懐かしいな、楓先輩が俺の家に来たのはここからだっけ。 確か、楓先輩は家庭問題で俺の事を呼んだ。 俺はなんであの時、あんな無責任な言葉が出たんだろう。 バカみたいだ。 でももう、全部、 どうでもいい。 どうせ俺は、 ボーカル じゃなくなるんだから。 「……帰るか。」 俺はそう思いながらようやく、重い足を動かし、家に帰ろうとした。 ────────その時だった。 「「「太陽…!!」」」 「…先輩達、凛都…兄…ちゃん…?」 なんで皆がいんだよ… この時間… 時計を見ると、もう夕方の18時だった。 「…何バカなことしてんだよ…早く帰れよ…」 明日は期末テストなんだろ? 俺の事なんか思わずに、自宅に帰れよ…! 伶 「…そんなこと…できる訳ないじゃないか…!!」 「…! 伶先輩…?」 そう思ってると、伶先輩が初めて声を荒らげた 伶先輩が荒らげた姿は見た事がなくて、焦った。 …でもどうせ、やめるんだ。学校ごと。 だからもう、どうでもいい。 楓 「……戻ってこいよ、俺らの場所に。」 楓先輩が普段言わない言葉を言う。 “場所” かぁ…笑 戻れやしないよ、俺は。笑 「…無理。」 凛都 「何でだよ…!!お前、あんなに楽しんで歌ってただろ…!!」 「……やる気が、見失った。 もういいだろ、?笑 俺はもう学校ごと辞める。」 俺は今、誰なんだろう。 俺なのに、オレじゃない気がするのは何でなんだろう。 凛都 「ふざけんな…!!一緒にバンドする夢はどうなるんだよ…」 「…ごめんな、情けなくて。笑」 笑う事しかできないのは何でだろう。 悲しむことが出来ないのはなんでだろう。 自分でも、理由が分からない。 楓 「……太陽。」 楓先輩が俺の名前を呼んだ。 楓先輩に名前を呼ばれるのは久しぶりだ。 楓 「…俺は、親に “生まれなきゃよかった” って言われた人間だ。 でもお前は、何も言わず 何も聞かず、俺を家に入れた。 理由も言わずに “ここにいていい” って言われた気がした。」 楓 「俺は最初、 この世にいなくなろう って、そう思っていた。だけどお前は、弱い俺をただバカにせず、救けてくれた。 ……あの時、初めて俺は 生きててもいいのかもしれない って、そう思った。 弱い俺を…情けない俺を、見下さずに受け入れてくれたのは…太陽だ。 だから今度は、」 “ 俺達が太陽を救ける番だ。 ” 「……」 …ずるいだろ。 そんな声で、そんな口調で、言うのは。 俺はただ、当たり前のことをしただけだ。 楓先輩の話を聞いて、 楓先輩の事を勝手に家にいれる。 「ここにいろ」なんて、声に出して言った覚えもない。 なのに、 それが楓先輩の 「生きていい」 に繋がっていたなんて。 胸の奥がジワッと熱くなって それと同時に痛い。 だって俺は、誰かを救った覚えなんてなかったから。 それなのに、俺が無意識でやった事で、 誰かが 「生きたい」 と思えたのなら。 …じゃあ、今の俺は…なんなんだよ… 伶 「…太陽くん」 伶先輩に太陽くんだなんて言われるのは久しぶり。 久しぶりに聞く。 伶 「僕さ、ずっと僕の歌声が嫌いだった。 僕の声は気持ち悪い 、そう思ってた。 同級生の言葉ってね、意外と頭に残るんだ。笑って流したつもりでも、脳内のどこかにはその言葉が溜まっていく。 だから歌うのも、話すのも、正直あまりしたくなかった。」 伶 「…だけどね、太陽くん。 太陽くんだけは僕の声をちゃんと聴いてくれた。 “いい声だね” って、軽く言った訳じゃない。 太陽くんは 本気 で、真っ直ぐ に言ってくれた。 その一言で、僕は始めて思えたんだ。 「この声で生きててもいいのかもしれない」 って。 太陽くんはさ、人を救けた自覚なんてないでしょ。 でもね、僕は太陽くんの声に救われた。 だから今度は、 」 “ 太陽の声が折れそうになった時、僕達が支える。 ” 「……」 ……なんでだよ。 そんなふうに、そんな顔で…そんな声で、言うなよ。 俺なんかが、伶先輩を救った? そんな訳ないだろ。 俺はただ、 本当の事を言った 思った事を言った だけだ。 「太陽くんの声に救われた」 って言われたことがない俺は嬉しいなんて言葉じゃ足りなかった。 否定したいのに、なぜかできなかった。 本当はここから逃げ出したい。 早く学校も、軽音部もやめたい。 それなのに、俺は少しだけ、 { 歌いたい } って気持ちが、まだ生きていることに気づいた。 それが、1番怖かった。 凛都 「…太陽。」 凛都が震えた声で俺の名前を呼びかける 凛都 「俺も最初、太陽みたいに居場所が分からなかった。 いや、分かろうとしなかったんだ。 俺が無駄に 必要ない って思い込んで、太陽にも無理に俺が願ってるって勝手に思い込んでた。 でも違ったんだ。」 凛都 「全部、俺が勝手に思ってた事で、太陽はそんなこと思ってなかった。 逆に俺の事を慰めてくれた。…いや、救けてくれた。 「お前は必要なんだ」 って、言われても言われてなくても分かったよ。俺は…俺達は、太陽の事が必要だ。 無理をする太陽も 弱い太陽も 全部受け入れる。 …全部…全部、太陽のしてくれた事だ。 …太陽、もうお前は ヒーロー じゃなくていい。 」 “ 太陽の弱い姿も見せろよ。 ” 凛都の言葉は、ちゃんと暖かい。 分かってるよ、俺だって。そんなこと。 でも、それを信じたら、 今までの俺が、壊れる気がした ヒーローじゃなくていい? 弱い姿も見せろ? ……無理だ、そんなこと、できない。 俺は、みんなが苦しい時に歌ってきた。 笑って、盛り上げて 「大丈夫」って顔をしてきた。 それを今更、 「俺は弱いです」 「助けてください」 なんて言ったら 今まで救けてきたつもりの全部が嘘になる。 「……そんなの、嘘だ。」 俺でも分かるくらい、冷たい声。 こんなに冷たい声を出すのは、学祭前以来かな。 「…俺の弱い姿なんて見せたら、また苦しくなるだけ。 俺の事はもう、気にすんなよ。笑 」 俺はそう言って笑う。 本当は違う、それは俺も頭では分かってる。 でも、心が、 それを許さない。 楓 「…うるせえ、お前…俺の弱い姿は見せたくせに、 お前の弱い姿は見せない? ふざけるなよ。仲間だろ、俺達」 伶 「そうだよ…僕達、仲間なんだ。太陽の事を ヒーロー だなんて、思ったことないよ… 太陽、戻ってきてよ…!」 凛都 「なんか言えよ…!!このメンバーで武道館行くんだろ!? お前がボーカルで俺がドラム 楓先輩がサブギターで、伶先輩がベースなんだ。 …太陽、戻ってきてくれよ。またお前の歌声が聴きたい。」 「……」 みんながみんな、俺の為に戦ってくれてる。 それは嬉しい、嬉しいはずなのに、まだ俺が俺の事を許してくれない。 勝手に無駄な言葉を言ったこと 文化祭途中に出ていった事がまだ、頭から離れない。 なんでだ… なんでなんだ… こんな時、兄ちゃんがいたら… 兄ちゃんがいたら…変わってるのかな…俺… ( 昴が太陽の耳を両手で塞ぐ ) 「……! 兄ちゃん…?」 そこには、俺の耳を両手で塞ぐ兄ちゃんの姿があった。 何してんだよ 受験生のくせに… 昴 「…太陽、ごめんな。俺、勝手に太陽の家に行った。」 「……」 勝手に家に行ったって…ストーカーかよ。クソ兄ちゃん。 昴 「…凛都くんがさ、太陽の曲素敵だよって教えてくれたから、歌詞ノートを見たんだ。」 そう言いながら、俺の隣に立った。 兄ちゃんは 「ここ座りな」 と俺を近くのベンチに座らせた 昴 「……そこには、綺麗で、太陽の想いのような歌詞が書いてあった。」 「……」 俺の想い… 確かに俺は、俺の想いを歌詞ノートに書く癖がある。 「それでも歌う」 という俺が作った歌詞も、全部。全部、俺の想いだ。 昴 「…太陽、太陽は自分の何を許してないの?」 俺の何を許してない…か。 「…全部。俺なんて、必要ないんだ。」 昴 「それはなんで?」 「俺は、軽音部のみんなのことの事情に入り込んで、俺の感情のままみんなの事情に言葉を言った。 お調子者で、ポンコツな俺に、踏み込まれて、挙句の果てには変な言葉もかけられて。それが、許せなかったんだ。」 無意識に口に出ていた。 本当は口に出そうとしなかった。だけど、無意識だったんだ。 俺なんて って、いっつもそう思っていた。 伶先輩が虐められて、伶先輩を助ける前のいじめっ子のあの言葉がまだ、頭の中でグルグルしてる。 昴 「…そっか。なあ、太陽。」 兄ちゃんは、俺の名前を呼んで、俺に言葉を言う。 昴 「…俺さ、いつも太陽とカラオケ行く時 「下手」 って言ってた。 それは嘘なんだ。俺、いつも感動してたよ。お前の歌が好きだった。 けどさ、その時は嫉妬してた。お前の才能に、お前の希望に。だから反抗していっつも 「下手」 って言ってた。本当はすごい好きなんだ、太陽の歌声。」 昴 「……だからさ、歌ってくれよ。 いつも通り 変わらず、ただ楽しく歌って欲しい。 凛都くんから話は聞いてる。お前めっちゃ楽しそうに歌ってるんだろ? お前が弱い時も苦しい時も、全部先輩達や凛都くん、そして俺に全部任せろよ。「言葉を言った」 って言ってたけど、あれは多分、この人達は太陽の言葉で今生きてる。」 「……!」 俺の言葉で…生きてる…? 昴 「…お前はもう無意識に誰か人を救ってる。 だから今度は、お前が救けられる番だ。 弱い時も、苦しい時も、全部俺達に任せろ。」 “ 太陽、もう弱くていいんだ。これ以上自分を責めるな。 ” 「……!!」 兄ちゃんの言葉を聞いた瞬間、なぜか涙が止まらなかった。 後ろの凛都達も、なぜか腕の袖で涙を吹いていた。 兄ちゃんの言葉に頷きながら、腕の袖で涙を吹いていたんだ。 兄ちゃんの最後の言葉で、俺の心の中の何かが壊れる音がした。 もう責めなくていいんだって、まだ俺は、歌ってもいいんだって、そう思える気がした。 「…おれ…うたってもいいの…?」 それでも不安だった俺は、みんなに聞いてみた。 俺はボーカルで本当にいていいのか。 俺はみんなの前で楽しく歌っていいのか。 凛都 「思う存分歌えよ」 楓 「…お前の歌声、俺大好きだ。」 伶 「うん、僕も太陽くんの歌声で何度も救われたよ。」 昴 「……太陽の歌声、大好きだよ」 それを聞いた俺は、さらに涙が止まらなくなった。 ああ、俺は歌ってもいいんだ。 俺は、幸せでいいんだって、そう思えた。 「……ありが…と、う…」 泣いて、泣きまくって言葉が出なかったけど、これだけは伝えたかった。 俺に生きてる希望をくれてありがとう って、伝えたかった。 俺の言葉を聞いたみんなは、泣いていた。 初めてだ、こんなに泣いたの。 俺がこんなに泣いたのは久しぶり。 でも、明日からはちゃんと笑顔でいられる気がした。