高梁ガニ

5 件の小説
Profile picture

高梁ガニ

皆さん初めまして。出来るだけ多くの作品を作りたいと思っています。出来ればコメントしてくれたらなーと思っています(欲では無いです)

勇気の理由

夜明け前の屋上。風にマントが鳴る。 「……もう、無理。私、向いてなかったんだと思う」 魔法少女は少しだけ困った顔で笑い、隣に腰を下ろした。 「そっか。じゃあさ」 彼女は指で空をなぞる。 「向いてないのに、ここまで来たってことだよね」 「それが一番、すごくない?」 彼女が黙ると、親友は続ける。 「私ね、何度も思ったよ。逃げたいって」 「でも、そのたびに浮かぶのは、あなたの背中だった」 ぐっと拳を握る。 「正直に言うよ。あなたがいなくなっても、世界は続く」 一瞬、視線を落とし――すぐに戻す。 「でも、私の“勇気の理由”は消える」 彼女の手を取り、強めに握る。 「ねえ。今は戦わなくていい。笑えなくていい」 親友の声が震える。 「ただ、生きて。今日を終わらせないで」 小さいが、しかし強く。 「明日じゃなくていい。 次の一歩じゃなくていい。 ”次の呼吸まで、私が一緒にいる”」 朝日が差し込み、二人の影が重なった。 彼女の胸の奥で、何かがほどけた音がした。 大きな希望でも、 未来の約束でもない。 勝利の宣言でも、 救済の理屈でもない。 ――次の呼吸まででいい。 それはあまりにも小さくて、ずるいほど現実的だった。 “生き続けろ”でも、“強くなれ”でもない。 ただ、今この瞬間を、分割していいと言われた気がした。 息を吸う。 思ったより、空気は冷たくなかった。 (……私は、明日を考えなくていいのか) 戦いの理由も、正しさも、世界の行方も。 それらは全部、遠くへ追いやっていい。 代わりに残ったのは、隣に立つ温度だけだった。 彼女は脳裏を駆け巡りながら思い出す。 学校の初日に仲良くなった思い出。 親友が相手にやられそうになった時に前に立ちはだかって助けた思い出。 強力な敵を倒した時の戦いの後にハイタッチをした思い出。 どれも確かに胸に残った。 でも、どれも確かに胸に残った。 それらは“考え”を揺らした思い出だった。 違う。 この一言だけは、“身体”に届いた。 肺が勝手に動き、 心臓が仕事を再開し、 足の裏が屋上のコンクリートを感じ取る。 (……私は、まだここに立ってる) 理由はない。 意味も、目的も、ない。 それでも、 誰かが隣にいる時間が、今は確かに存在する。 彼女は、もう一度息を吸った。 それだけで、世界は一秒だけ、先に進んだ。 そして思う。 ――次は、次の呼吸まで。 ――それでいい。 屋上を出る時、彼女は振り返らなかった。 景色が変わるのが怖かったからではない。 ”変わらなくてもいいと、初めて思えたからだ。” 階段を下りる。 足音が二人分、ずれて重なる。 「……ごめん」 思わず零れた声は、理由を伴っていなかった。 親友は首を振る。 「いいよ。何に対してか、分かんないし」 それ以上、言葉は続かない。 でも沈黙は、以前のように重くなかった。 沈黙が“拒絶”ではなく、“同席”に変わっていた。 校門を出る。 夜風が静かに頬を撫でる。 彼女は、無意識に歩幅を合わせようとしている自分に気づく。 一歩遅れて、少し早めて、また揃える。 それだけのことなのに、胸が微かに上下した。 (……一人じゃない) 帰り道の分かれ道。 いつもなら、無言で別れる場所。 「どっちに行く?」 親友が訊いた。 “家”という言葉が、今日は遠い。 でも―― 「……一緒に」 「少し、遠回りで」 それは逃げでも、前進でもない。 **“終わらせないための選択”**だった。 コンビニの明かりが見える。 「温かいの、飲む?」 親友が何でもない風に言う。 彼女は一瞬考え、頷いた。 (今は、冷たいのじゃなくていい) レジで会計を済ませ、缶を受け取る。 指先に、確かな温度が伝わる。 それを感じ取れたことに、少し驚いた。 歩きながら、親友がぽつりと言う。 「今日はさ」 「生き方の話、しなくていい?」 彼女は小さく笑った。 「……うん」 「今日は、しなくていい」 缶を開ける音が夜に溶ける。 湯気が立ち上る。 彼女は一口飲んで、息を吐いた。 ――次の呼吸まで。 ――今日は、もう一回。 家の明かりが見えるまで、 二人は特別な話をしなかった。 それでも彼女は知っていた。 今日という一日は、確かに続いてしまったのだと。 それで、今は十分だった。 〜fin〜

2
0
勇気の理由

小説を見て毎回思う事

小説は、文字だけなのに美しい なぜこんなに美しいのだろうか? 漫画の様な“絵だけじゃ分からない面白さがあるからだ。” 例えば自分が書く場合、自身の脳内から作り出された想像力と妄想の世界に浸る事が出来るからだ。 世の中に好評される小説もあるし、何ならこのアプリにある様な小説もある。 ただ、一つだけ思う事がある… とても悩ましい程の考え事だ。 いっつも思うんだ。 何で小説の文字を詰めて書くのか? 本人の拘りか伸びやすいのかはどうでも良い 当の本人が良ければそれで良いだけだ。 どうせならこれを見た後に今すぐでも遅くても良いからコメントに理由を書いてくれると嬉しいと筆者は思う。      〔完〕

4
2

アクアリウム

今日は彼女と人気で話題の水族館「和州アクアリウム」に来た。 彼女は俺が知らない間に腕に抱きついてハキハキと話す。 「今日の休日は“二人だけ”のお楽しみだね♪」 「あぁ、そうだな。」 そう言っている間に水族館の入り口に到着しチケットを買いに入り口近くのカウンターに行く。 「はい2名さまのご予約ですね。」 スタッフは直ぐに手続きを済ませる。 「それでは行ってらっしゃいませ!」 俺と彼女が水族館に入ろうとした時、 「あ、お客様。ちょっと待って下さい」 スタッフが慌てて駆け寄って来た。 「言い忘れてた事がありました。 “地下1階に展示されている大きな魚にご注意下さい”」 俺は分からずに首を傾げた 「(どう言う事だ?大きな魚だって?)」 俺は立て続けに話す。 「スタッフさん、それってどう言う──」 しかし、スタッフは俺の口に指を当てて呟く。 「それに“目を合わせない様”に気をつけてください。そうすれば戻ってくる事は出来ますから…」 俺は息を呑んだ。 そして彼女の手を握り、引っ張る様に言う。 「それじゃ、行こうか」 彼女はハッとして明るく言う。 「うん!、行こう!」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 暫くは何事も無かった。 二人で写真を撮ったり、迷子の子の親を探すのを手伝ったり、イルカショーを楽しんだりした。 そして、いよいよ来る。 地下1階の"深海エリア"展示階へ エレベーターで着いた時、展示部屋は闇に染まった様に真っ暗だった。 エレベーターの降り場近くの隣に懐中電灯があった。 (これを使えば良いんだよな…) 彼女が俺の腕に縋り付く。 「ねぇ、怖いよ…晴人君。此処暗いよー」 「おい鈴鹿。静かにしろよ。怖かったら俺の後ろに行けよ。俺は怖くないけどな!」 (おいおい、何言ってんだ俺は…!何強がってんだよ!、足は生まれたての小鹿の様に震えているし心臓はバックバックと鼓動が速くなっているんだよ!、本当は内心恐怖で一杯なんだよ(泣)。いい加減強がるのを止めろよ俺!) 俺と彼女は忍者の様に静かに歩く。 この部屋に響くのは二人の足音だけ。 他の客はいない。 あの向かいの階段に行けば良いだけだ。 そう思っていたのだが−−−−− 突然、後ろの彼女が怯える様に俺に抱きついて来た。 「ね、ねぇ、晴人。ちょっと怖いんだけど。」 「おいおい、今度はなんだよ。」 俺は仕方なく振り向いた。 だがそれが駄目だった。 振り向くと巨大な鮟鱇らしき物が俺らの目の前に泳いでいた。 しまった 完全に"ヤツ"と目が合ってしまった 俺は咄嗟の判断で彼女の手を引っ張ってチーターの如く走り出す 「おい、速く逃げるぞ!」 でも−−−−−間に合わなかった。 既にヤツはガラスを割って目の前に居た。 あぁ、これが間に合っていたら−−−−− “アイツの餌になっていなかったかも知れないな”

1
0

渡されるものと託されるもの

白熱電球は、今日も落ち着きなく瞬いていた。 チカ、チカ……ジジッ、と小さな悲鳴のような音を立てながら、天井からぶら下がっている。 ベルトルト・ウォルターは、その光をじっと見つめていた。 キャンバスの前に立つ彼の背中は、画家として積み重ねてきた年月を物語るように静かだった。 古くなった赤いベレー帽、少し老けた顔、痩せた肩、白くなった髪。だが、その眼差しだけはまだ燃えている。まるで、今にも消えそうな電球の内部にあるフィラメントと同じように。 「……今日の光は、落ち着かないな」 そう呟きながら、彼は鉛筆を走らせる。 シャッ、シャッ、と紙を擦る音が、部屋に微かに反響する。 描いているのは、ただの白熱電球。 それなのに、ベルトルトは何度も消しては描き、描いては消した。 その時、彼の部屋の扉が静かに開き、誰かが入ってきた。 「先生、また“生きてる”光を描こうとしてますね」 背後から、少女の声がした。 助手のアートだ。短く結った髪、絵の具のついた指先。彼女はまだ若く、世界の終わりよりも始まりの方を多く信じている年頃だった。 「“生きている”、か……」 ベルトルトは苦笑しながら彼女に振り向く。 「光はな、アート。ただ明るいだけじゃない。消えることを知っているから、美しいんだ」 白熱電球が、チカッ、と一瞬だけ強く光った。 アートはそれを見て、少しだけ目を細めた。 「でも、もし消えてしまったら、もう中の光が見えません」 「そうだ。だから“光っている間に”描く」 彼はキャンバスに向き直る。 「消える前の一瞬を、紙の上に残す。それが、私の仕事だ」 アートは黙って、彼の背中を見つめた。 その姿が、電球よりもずっと儚く見えたからだ。 時間は、誰にも平等に進む。 画家にも、助手にも、そして光にも。 ジジッ……と、電球の音が弱くなる。 ベルトルトの手も、わずかに震えた。 それでも、線は確かだった。 「先生」 「なんだい」 「もし、描けなくなったら……そのときは?」 ベルトルトは少し考え、それから穏やかに答えた。 「そのときは、君が描きなさい。私の代わりに」 アートは息を呑む。 「生は、渡されるものだ。死は、終わりじゃない。次に託すための、静かな合図だよ」 チカ……チカ…… そして、“ふっと”、瞬いて光っていた電球の光が消えた。 とても真っ暗な闇が訪れる。 だが、不思議と恐ろしくはなかった。 アートは、そっとキャンバスを見る。 そこには、今にも光り出しそうな白熱電球が描かれていた。 消えてしまったはずの光が、確かに“生きている様に”描かれていた。 アートは、彼の机に置いてあった鉛筆を取る。 新しい紙の上に、一本目の線を引いた。 シャッ、という音が、静かな彼の部屋に響く。 「先生、私も光輝く“生”というものを描いてみたくなりました。」 ウォルターは静かに頷く。 「うん、それでこそ僕と同じ優秀な助手だ。」 生は続く。 “形を変えて、手から手へと。

7
2

流木

その流木は、最初から“そこにあった”。  海沿いの町『海樓町』に引っ越してきて一週間。  高校への通学路として使う防波堤の脇に、灰色がかった巨大な流木が横たわっているのを、俺――朝霧(あさぎり) 湊(みなと)は毎朝目にしていた。  不思議なのは、潮位が変わっても、嵐が来ても、  流木の位置が一ミリも動かないことだった。 「(……撤去しないのかな)」  独り言を呟きながら通り過ぎるたび、  流木の表面に刻まれた歪な木目が、まるで“目”のように見える気がして、視線を逸らしていた。  ◇  クラスでその話をすると、反応したのは隣の席の少女だった。 「それ、近づかない方がいいよ」  黒髪を耳にかけ、淡々とした声で言う。  名前は白波(しらなみ)澪(みお)。地元出身らしい。 「昔から、あの流木は“流れ着くものじゃない”って言われてる」 「どういう意味?」 「……流木ってさ、本来は川とか海を“流れて”来るでしょ」  澪は一瞬だけ言葉を切り、こちらを見た。 「あれはね。  流れてきたんじゃなくて、流されてきたものなの」  意味が分からず、聞き返そうとしたが、  澪はそれ以上何も言わなかった。  ◇  その夜、不思議な夢を見た。  真っ暗な海。  月も星もなく、波の音だけがやけに大きい。  足元に、あの流木があった。  ――いや、違う。  流木だと思っていたそれは、  無数の“手”が絡み合い、固まったような形をしていた。 『――まだ、足りない』  どこからか  声がした。  次の瞬間、俺の足首に冷たい感触が絡みつく。  目が覚めたとき、心臓が破裂しそうなほど鳴っていて、  足首には、はっきりと赤い“掴み跡”が残っていた。  ◇  それから、流木は少しずつ“変わっていった”。  長さが伸びている。  昨日より、形が人に近い。  木目が、明らかに“顔”の配置をしている。  そして――  通り過ぎるたびに、数が増えている。  一つだったはずの流木が、二つ、三つと、防波堤に並び始めていた。  澪に詰め寄ると、彼女は観念したように口を開いた。 「この町ではね、昔から“海に連れていかれた人”がいるの」 「事故……?」 「違うよ。  選ばれた人」  澪は静かに言った。 「海に未練を残した人、居場所を失った人。  そういう人が、少しずつ“流木”になるの」 「……冗談だろ」 「じゃあ聞くけど」  澪の瞳が、異様に澄んでいた。 「最近、海の音が近く感じない?」  その瞬間、  教室の床が、ゆっくりと波打った気がした。  ◇  次の日、防波堤にあの流木はなかった。  代わりにあったのは、  人が一人、座れるくらいの空白。  安心したのも束の間、  クラスで澪の席が空いていることに気づいた。  誰に聞いても、 「そんな生徒、最初からいなかった」と誰もが口を揃えて言う。  帰り道、防波堤を歩く。  そこには、新しい流木が一本増えていた。  やけに細くて、  黒髪のような海藻が絡みついている。  そして、その表面には――  俺の名前が、木目で刻まれていた。  足元で、波が囁く。 『次は、君だ』  逃げなきゃ、と思うのに、  体が動かない。  流木の“手”が、  ゆっくりと、俺の足首に触れた。  ――ああ。  だから、流木は流れないんだ。  “自分から、迎えに来るから。”

8
2