消化

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消化

言葉が好きで、言葉を紡ぐ人が好きで。そんな人になれるよう、毎日1作書いてます

卒業

人が成長するのは、誕生日ではなく春だと思う。 春。季節が巡り木々は冬で蓄えた力を放つように、緑の葉をつけた。 春一番が吹きいよいよ春が始まった。季節がまた、巡り始めようとしている。 そして多くの人が春と言ったら桜を連想するだろう。街にはピンクの花弁が舞い、まるで何かを祝福する紙吹雪のようだった。 その桜が、今日、私たちの胸元に咲いている。 正確に言うと桜のコサージュが私たちの胸元に付いているのだ。 3年間毎日着た制服は入学した頃よりも鮮やかさを失っていた。しかし、今日のみんなの制服は何故か、とても輝いて見えた。それは入学してからの3年間の思い出がそうさせているのだろう。 入学式の日に憧れの制服を纏った自分を見て、恥ずかしくも誇らしさを覚えたあの日から今日で3年。思い返すと、私たちの当たり前の日々はどこを切り取っても美しく、かけがえのないものだった。国語の先生の癖のある喋り方も、無駄にでかい女子の笑い声も、放課を知らせるひび割れたチャイムの音も、朝一番の教室でみんなを待つ時の気持ちも、今日で終わりだ。 「卒業生退場」 卒業式のこの言葉を聞いた時、あぁ、この体育館にはもう戻って来れなくて、ここで部活動をした事もただの思い出になってしまって。そんなことを考えていると頬を涙が伝った。 別れは寂しい。私たちはよく知っている。春は出会いの季節でもあり別れの季節でもあるということを。でも、それと同じくらい私たちはよく知っている。仲間がいることの温かさ、それを抱いて進むことの嬉しさも。だから止まらない。今日出会えなくなる友達もいるだろう。それでもみんな、進み続ける。自分が望むものに向かって。 卒業おめでとう。

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春風

帰り道にある白いアパート。それはまるで苺が逃げ出したショートケーキのようなものだった。 夕方の光が当たると、その白さは少しだけ寂しく見える。 春風が私の髪を揺らし、春一番の訪れを囁いた。 冬のあいだ、ずっと止まっていた時間が、ゆっくりと動き出すような気がした。 枯れた枝には今にも弾けそうなポップコーンのような蕾が付いている。 まだ冷たい空気の中で、その小さな蕾だけが先に春を知っているみたいだった。 私は足を止めて、しばらくそれを見上げていた。 春。新しい季節。冬のような凍てつく寒さは消え、暖かな陽気に包まれる。 街に咲くピンクはまるで新しい季節の巡りを祝福しているようだった。 春になると、人は少しだけ前を向く。 それはきっと、冬のあいだに置いてきた気持ちを拾いに行くためなのだと思う。春になると、人は少しだけ上を向く。 それはきっと、冬で出来上がった真っ白なキャンパスのような空に春の柔らかい青い空が零れるのを見るためだ。

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