田舎の高校生

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田舎の高校生

私の体験談を元にして書いています。 ぜひ青春を味わってください!

「春が来るその前に1」

6月の教室は少しだけ、夏の匂いがした。 まだ梅雨だというのに、もうセミは鳴いている。 紬(つむぎ)は窓から入ってくる風を感じながら黒板の字を書き写した。紬の経験上、国語の先生は大体達筆であることが多い。しかし新しく入った高校では先生の字があまりにも汚い。何と書いてあるのか少々苦労しながらも書き写していく。 「菅野先生ってなんであんなに字が汚いんだろう。普通国語の先生って字が綺麗なんじゃないの?」 休み時間になり、紬の友人である佳奈は不満そうに口にした。 「たしかにそうだね。」 先生に悪いと思いながらも、紬は小さくうなずいた。 今日は職員会議があるため、部活動は全てオフだ。 「ねね!今日プリクラ撮りに行こうよ。」 紬はふと佳奈に言った。 「ごめん〜今日春樹と帰るんだ。」 「なんだ残念。じゃ佳奈の部活がオフの日に行こう。」 「だねそうしよう!放課後暇なんだから紬も彼氏作ればいいのに〜工業なんだから男子は山ほどいるのよ!?」 「私はいいよ笑 なんとなく気が進まないし。」 佳奈と2人でそんな話をしながら、下駄箱へ向かう。 初めての高校生活。工業高校のため女子はクラスに5人しかいない。そんな中で出来た初めての友達。毎日一緒にお弁当を食べたり、おしゃべりをするような仲になった。 梅雨が明け、本格的に夏が始まった頃だった。 「ねぇ、紬ちょっといい?」 私より先にお弁当を食べ終わった佳奈が聞いてきた。 「なに?」 紬が首をかしげると、佳奈はうきうきしながら楽しそうに笑った。 「春樹の友達がね、紬のこと気になってるんだって!」 私は食べている手を止めた。 「え、ほんとに?」 「この前廊下ですれ違った時に、可愛い子だなって思ったらしいよ!それで連絡先教えて欲しいって。」 紬は嬉しい反面、少し困ったようにため息をついた。 「なに、うれしくない…?」 期待外れの反応だったのか、佳奈は顔を覗き込むように紬に話しかけた。 「いや嬉しいけど、私が実際その人に何かをした訳じゃないし好きになるとかはきっとないよ。」 紬は自信なさげに答えた。 「別にそんな重く考えなくていいのに。うちらJKなんだよ?気楽に恋愛くらい楽しもうよ!」 そう佳奈に言われ、紬は渋々うなずいた。 「じゃ、うち春樹に紬の連絡先渡しておくね!」 「わかった。」 友達からの紹介とまではいかないけど、なんだか真面目に恋愛に向き合ってる気がして嫌だな。 そう紬は思っていた。 その日の夜、紬は早めにご飯を食べ終わり、窓を開けてベッドへ横になった。外から聞こえるコオロギの音で夏の夜を感じながら、今日の出来事を振り返った。 どんな人なんだろう。 顔も分からないし想像もつかない。 それでも少しだけ気になる気持ちがあった。 そう思いながらウトウトしていると、 ピコン! 枕元でスマホの通知がなった。 目をうっすら開きながら通知を見ると、 「はじめまして。隣のクラスの裕翔です。」 誰だろう。裕翔…ゆうとって読むのかな?誰だか分からず、その日は既読をつけずに眠りについた。 「ふわぁーほはよう。」 眠そうに佳奈が登校してきた。 「おはよう。眠そうだね。」 「だって今日小テストじゃん!うち頑張って徹夜しちゃったよ。」 佳奈にそれを言われ、今日は化学の小テストがあったことを思い出す。 範囲が分からずそれを佳奈に聞こうとした時、 「そういえば連絡きた?春樹にその人の名前聞いたんだけど、たしか裕翔っていう名前だった気が…」 え、やっぱあれがそうだったのか。 薄々そうかもと感じていながらも、どうしていいか分からず寝てしまった。 紬は少し申し訳ない気持ちになった。 その日の放課後、紬は進路担当の先生の元へ進学者向けの資料を貰いに行った。しかし職員室にはいなかったため、部活に行ったのかなと思いサッカー部がいるグラウンドへ向かった。 グラウンドでは、アップとしてパス練習をしながら声出しをしている生徒たちの姿があった。サッカー部は人気の部活で人が多く、その分マネージャーも多い。 紬は小学校,中学校とサッカーをしていた。高校ではマネージャーをしようとも思ったが、やはりスポーツは自分が動いてプレイする方がいい。そう思い、紬は郊外で女子サッカーチームに所属している。 サッカー部顧問である牧先生の元へ資料を貰いに行った時、ちょうどサッカー部のアップが終わった。紬は邪魔にならないようにサッカー部の横を通った。 紬が横を通った時、 「あ。」 不意に後ろから誰かの声がした。振り向くとそこにはサッカー部の男子が立っていた。アップ終わりだからか、額にはうっすらと汗がにじんでいる。 「もしかして紬さん?」 突然の名前に紬は驚いた。 「え?」 「俺、裕翔。」 その名前を聞いた瞬間、昨夜の通知が頭に浮かんだ。 「はじめまして。隣のクラスの裕翔です。」 まさかこんな形で会うとは思っていなかった。 「……あ、昨日LINEくれた?」 「うん。返事こないから、ちょっと不安だったけど。」 裕翔はそう言って、少しだけ笑った。 沈黙が続き、紬が昨夜のことを謝ろうとした時 ピピーッ 顧問の集まる合図である笛がなった。 「じゃ、また!」 裕翔はそう言い残し、走ってグラウンドへ戻って行った。 紬は取り残された気分になりながらも、帰ったらLINE返そうと思い、その場を後にした。 「返信遅れてごめんね5組の紬です!」 時刻は17時半。まだ彼は部活中かなと思いながらも、紬は猫のスタンプとともに返信をする。 夜ご飯を食べ終わった頃、彼から連絡が来た。 「よろしくね!」 びっくりマークだ。男子でつける人珍しいな。そう思いながら既読をつけ、紬は勉強机へと向かった。 ブーブーブーブー スマホのバイブ音が鳴り響いた。 佳奈からだ。 「もしもし、どうしたの?」 「特に用はないけど、暇だったからかけただけ。」 そう笑いながら話す佳奈。 「なにそれ笑 あそういえば今日たまたま裕翔くんに会って、少しだけど話したよ。部活中だったから挨拶程度だけど。」 「そうなの!?どうだったー?」 そう聞かれ、紬はちょっと嬉しそうに答えた。 「なんか可愛い感じの顔だった。砂糖顔みたいなの、しかも優しそう。」 「髪型とかはどんな感じ?」 「えー、そこまで見てなかったけど多分マッシュっぽい。」 「そうなんだ。てか紬って塩顔が好きなんじゃないっけ?元彼2人とも塩顔イケメンって感じじゃん。」 まあ確かに、中学生の時に付き合ってた元彼は塩顔っぽいかも。でも顔で好きになったわけではないし… 紬はそう思いながらも、裕翔くんは今までの元彼とは違うタイプで、今まで会ったことのない優しい雰囲気を持っている人だなと思っていた。 「やっぱ一目惚れだよね。紬可愛いもん!惚れる気持ちもわかる。」 「いやーどうだろうね、今だけかもよ。」 「なんでそんなネガティブなのよ?裕翔くんもっと紬と話したいんだって!好きなんだよ紬のこと。」 佳奈にそう言われながらも、どこか信じられない自分がいた。しかも裕翔くん自身から聞いた訳ではないので、迂闊に喜べるような話でもなかった。 佳奈と2時間近くあれこれ話をしていたら、もう日付が変わる時間になっていた。そろそろ寝ないと…そう思い、紬は電話を切り眠りについた。 しかし朝4時前、蒸し暑くて起きてしまった紬は、眠れなくなってしまい、冷蔵庫にある牛乳を1杯飲んだ。 ベッドに戻り、なんとなくスマホを開く。すると裕翔からLINEが来ていたのだ。 2時38分「ねこと犬どっちが好き?」 小学生がするような質問に、紬は思わず笑ってしまった。こんな時間に、こんな質問を送ってくるなんて。 そう思いながら紬は、猫が好きと返した。 ほんとはどっちも好きだけど…そう返すのはつまらないのではないかと思い、紬は猫を選んだ。 ピコン 「そうなんだ、ありがとう!」 ………ありがとう? ただ好きな動物を答えただけなのに、なぜお礼を言われるのか分からない。 ていうか寝たのかな?まだ4時なのに。 不思議な人だなとは思ったけど、嫌な感じはしなかった。 「佳奈!裕翔くんとLINEしたよ。」 紬は朝イチに報告した。LINEの内容を話すと、 「うける笑 答えただけでありがとうなのも面白いし、質問がそれなのも面白いよね。」 紬も共感しながら裕翔くんの不思議さにちょっと笑った。 朝のHR前。 ざわざわした教室の中で、紬は配られたプリントを眺めていた。 「これは専門教科書の領収書になるから必ず保護者の人に渡すんだぞー。」 担任はそう言って朝のHRを終わらせた。 紬は1時間目の数学の教科書を取りにロッカーに向かうと、ちょうど担任に声をかけられた。 「紬は家庭科係だろ?こないだ集めたワークを取りに来てだとよ。」 「分かりました。職員室まで取りに行きます。」 そう言って、紬は職員室へ向かった。 家庭科の先生からワークを貰い、人数分のワークを両手に抱え、紬は教室まで歩いていた。 しかし150cmという小柄な女子が持つには難しい量だった。前を見るのに苦労しながらも、一人でトコトコ廊下を歩いていく。 曲がり角に差し掛かったときだった。 「うわっ」 前から来た人とぶつかりかけて、紬は思わずバランスを崩す。 その拍子に、抱えていたワークがばさっと音を立てて床に広がった。 「あ、ごめん」 落ちたワークを見て焦る紬の前に、すぐしゃがみ込む影。 「大丈夫?」 聞き覚えのある声に、紬は顔を上げた。 「あ…裕翔くん」 裕翔くんは特に驚いた様子もなく、淡々とワークを拾い集めていく。 「これ、全部?」 「うん、クラス分…」 「多くない?」 少しだけ眉をひそめながら言うその顔に、紬は思わず笑った。 「だよね、重い」 二人で拾い終えると、裕翔くんは当たり前みたいに半分を持った。 「持つよ。」 「え、いいよ」 「いや、無理でしょ」 さらっと言われて、紬は一瞬言葉に詰まる。 「…ありがとう。」 2人は並んで歩き出す。 さっきより視界が開けて、少しだけ歩きやすい。 沈黙が続き、紬はふと思い出したように口を開いた。 「ねえ」 「ん?」 「今日のLINEさ」 裕翔くんが少しだけ視線を向ける。 「なんであの質問したの?小学生みたいでちょっとおもしろかった。」 そう言うと裕翔は少し考えるように間をあけて、こう答えた。 「頭に浮かんだ質問がそれだったから。」 紬はくすっと笑う。 「なんだか小学生みたい。」 「そう?」 「うん、なんかいいと思う。」 その一言に、裕翔くんは照れるように微笑んだ。 教室の前に着く。 「ありがと、助かった。」 「ん」 ワークを受け取るとき、指先が一瞬だけ触れた。 一瞬なのに時間が長いような… 紬の中でその感覚だけが、やけに残った。 「じゃ、またね。ありが-」 紬がお礼を言いかけたその時 「あのさ、もし良かったら今日一緒に帰らない?」 「え?」 急な誘いに紬は少し戸惑った。だが、彼をもっと知りたい。そんな気持ちが紬の中にはあった。 そう思い、紬は 「いいね一緒に帰ろう!」 「ほんとに?じゃあ昇降口で待ってるね。」 「わかった。」 「ありがとう!」 彼はそう言い残し、教室に戻って行った。そのときの背中は、ほんの少しだけ軽く見えた。 ドアを開けて教室に入ると、さっきと同じざわざわした空気。 なのに、少しだけ世界が違って見えた。

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