〈白猫のトア〉『1』
朝、雀の囀りを聞きながら私は目を覚ます。
窓の方を少し見てみると、雀が五羽程電線の上でチュンチュンと鳴いていた。今日も平和な朝だな、と思いながら二度寝をしようとした…その時。
『御主人様、起きて下さいッ』
そう言って布団を引っ剥がされそうになった私は、全力で布団を鷲掴みにして剥がさせないようにした。
『もう御主人様、往生際が悪いですね、好い加減起きて下さい』
ペチペチと頬を叩かれる。
私が目を覚ますとそこには、飼い猫のトア…に似た人が居た。
白い髪に白い肌。
そして黄色と水色のオッドアイを持つその人はまさに私が飼っている猫にそっくりだった。
「まだ夢なのね…」
猫が人間になるなんて聞いたこと無いし、そんなこと有ったとしても物語の中だけでしょ…。
『夢じゃないですよ、早く起きて学校に行ってください』
そんな辛辣な事を言いながらその人は布団を引っ張ってくる。布団が破れるんじゃないかと心配になってきた私は諦めて布団を放した。
すると引っ張っていた人は、相当強い力で引っ張っていたせいか尻餅をついてしまった。
『いったたたた…』
転んだ姿でさえも美しく見えてしまう程美形で、この世のものでは思えないくらいだ…ってこの人誰?
寝惚けていたから分からなかったけれど、この人何処から入ってきたんだろう。窓は閉めているし戸締まりもちゃんとしておいた筈。
「貴方、誰ですか?」
私がそう聞くとその人は驚いたような顔をして答えた。
『え、分からないの?結構傍に居るのに』
結構傍に居る、という言葉で私の脳には一つの可能性がよぎった。
「あの、トアなの?」
恐る恐る私がそう聞くとパアッと顔を明るくして言った。
『そうだよ、やっと目が覚めたんだね』
トアって猫じゃ無かったっけ?
そんな疑問を抱きながらも私は時計をチラッと見てみた。
七時五十五分。
学校に着いて居なければ為らない時間は八時二十分。
あと二十五分で学校に着いていなければならない。
そう考えると物凄く急がなければいけないような気がしてきた私は、大急ぎで布団から起き上がり制服に着替える。
其の時トアが顔を伏せていた事なんて知らず、着替え終わったら私は階段を駆け下りて味噌汁と白米を急いで胃に流し込む。
ちゃんと頂きますとご馳走様も忘れずに…。
『御主人様、鞄忘れてますよッ』
トアが家から出ようとした私をそう言って呼び止める。鞄を忘れてしまっては学校に行っても意味が無い。
それを「ありがとう」と言って受け取る。
行ってきますという私にトアは何かを言おうとするが、それを無視して私は学校へ走って向かっていった…。