クロネコ

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クロネコ

🐈‍⬛

黒百合は死屍累々に咲く

人間の本性は邪悪である。 にも関わらず善良であるとすれば、それは教養の成果である。                  荘子より引用 第一章前座 死体あるは地獄の地主の写真 私は、その写真に映る女を2葉見たことがある 1葉は、その女の中学のアルバムにペタリと印刷された写真 写真に映るその女は、椅子に腰掛け「腰掛けるように先生に言われたのかも知れないが」手は太ももにバツを描くように添えられている 女子までも惚れさせるような美貌を持ち、肩ほどの艶のある暗髪を色っぽく見せながら、こちらの方へ視線を向ける女子学生を私は知っている 根黒 百合、それが、その女子学生の名前だ、そして、私が追っているの存在でもある 忌々しい…いや、正しくないな、気持ち悪いっと言った方が正しい言い方かも知れない なぜそう思うかと言うと、まるで生きている死体のようだからだ 言うなれば、巧妙に作られた日本人形か、そして、その上に制服をきせ、人間のするポーズに仕立てたような不気味さが、そこにはあった けれども、不思議なことに、その写真に映る日本人形のような女子学生は、生きており、私の通う高校へと通っている 写真に写り、うっすらと微笑みを浮かべている根黒の目は、いわゆる糸目だろうか?この頃は目が薄いのか、それとも、瞬きの瞬間を撮られたのか、定かではないが、薄らな目でもわかるほどに、その目には、光も感情もこもっていない ふと…目を閉じてみる、そして、目で見た写真の風景を思い出してみる 大雑把だが、写真が撮られた部屋、生徒会室は、概ね思いだせる しかし、それ以上に私の目にやつくのは、根黒の笑みだ 絵に描いたような口角を少し上げた笑い、まるで、猿のような気持ちの悪い笑みだ はぁ…っと一つため息をつきながら目を開ける 目に映るのは、当然、根黒の姿だ、生徒会室で、椅子に座り、胸ポケットに手帳を入れた制服姿の根黒 百合…の中学の頃の写真… 本当に不気味な女だ、写真の中にいるはずなのにまるで、こちらを見てるかのような、私の心を見透かしているかのような不気味さがある そんな不気味な女を長く見たくなかった私は、放り投げるように写真が入った卒業アルバムをベットの方へと投げる さて、もう一葉の写真は今年に撮られた写真だ 私のクラス全員と先生が並べられ撮られた写真だ、一年上がると毎回撮ることになる写真、その中に私と根黒がいる 根黒は一番上の椅子…いや、登る為に使う鉄製の足場?とでも言うべきか、そこに腰掛けている 中学と比べ糸目は完全には無くなっておらず、まだ、その面影がこちらを見ている なりよりも、中学の時よりも背が大きくなっており、身長は177ぐらいだ そんな根黒は腕の肘ぐらいの艶のある黒髪を見せ、若干の上目使いで、こちらに微笑みかけている …以前、中学と比べ、糸目が無くなったせいか、暗い闇の目の奥に潜む傲慢、いや高慢さが露骨に見えている 見ていてイライラする、こんな…日本人形のような女が、私の…私の友達を殺したかもしれないなんて…! 私は、怒りのあまり写真を投げた、写真は無論、紙で出来ており、投げたところで被害はほとんど無い、そう、写真立てにでも入れてなければ 写真は、写真立ては、本棚にぶつかり、本が何冊が落ちてしまった ハッとして、本棚の方へと早足で向かう 物に当たったところで何もないのは、私が一番わかってることなのに…自責の念に駆られながら写真立てを拾う 良かった…ガラスは割れていない、しかし、少し傷はできてしまったようだ、けど、写真が見えないほどでは無いので少し安心した 拾った後は後悔が私の背中をなぞる。そう怒ったところで、あいつが私の友達を殺した…っというのは私の推測に過ぎないというのに、写真立てを投げるなんて… あぁ!くそ、とりあえず、苛立つ心を抑え、写真立てを一旦、床に置いた後、落ちた本に手を伸ばす ん、これは、人間失格だ、私の大好きな本に当たってしまうなんて…ファン失格だな…っと思いながら本棚に戻そうとする 一瞬…本棚に戻す一瞬だけ、写真立ての写真の中にいる根黒を見る、まさしく、あの女は人間失格だな、っと思いながら本棚に戻した 第一章 日本人形の人形劇 昼と夕暮れ時が交差する時間に私は廊下を歩んでいる 窓から差し込まれる光を少しだけ暖かく、秋の訪れを肌で感じる 左腕を私の目の前に引き寄せる うっすらと私の顔が映る、腕に巻かれた腕時計は、5時20分と針を指している 生徒会の仕事のせいで少し遅れてしまったが、あいつはいるはず。居ないとおかしいのだけど 教師・欒抱 あら、根黒さん 真横から急に声が入ってきた。声の主は、私の教師、欒抱 赤 女性の教師であり、夫の惚気話を嬉しそうに時々話している、横から見ても、その30代とは思えないほど、顔には目立ったシワもなく、疲れの文字がどこにも見えない 身長は私よりも小さい165cmほど、電源の切れたスマホのような黒い髪はシニヨン、いわゆるお団子ヘアをしている 教師・欒抱 さっきはありがとうね、また、姫醋くんの勉強教えてもらっちゃて 教えて…?あぁ、そういえば、六限目の授業は、担任の担当教科でもある数学の時に姫酷に教えていた時のこと言っているのだろう 私 全然大丈夫ですよ〜教えるの好きですから。それに、クラスメイト全員好きですから 教師・欒抱 本当にありがとうね、貴女みたいな子がもっと増えたら苦労も少ないのに そう言う欒抱は、軽くため息を吐くが笑いながら、楽しそうに喋っている 教師・欒抱 根黒さんは、もう生徒会の仕事は思ったの?って言ってもここの靴箱とは真逆の廊下を歩いてるってことは違うのだろうけど 私 そうですね、先生のおっしゃる通り、まだ仕事が残ってるんですよ〜週末でお互い疲れてますけど、先生も無理しない範囲で頑張ってくださいね そう言い残すと私は欒抱から視線を外し、先生に軽く手を振りながら廊下の先へ進む 教師・欒抱 ありがとう、根黒さんも無理しないでね 私 はい、それでは、さようなら さて、欒抱と別れることがでた、そして、放課後の廊下には、まだ教室で喋っている生徒が何人かいるらしい、笑い声や気の軋む音がここまで聞こえてくる そして、特に声のうるさい教室が私の左にある その教室は私のクラス3の1であり、中から男子と女子の混ざり合った金属音とも言える笑い声が響いている あら、あまりにもうるさいもので、クラスの方へ顔を向けると扉のすぐ横に机に置かれた水槽がある この水槽は、先週の火曜日辺りに置かれたもので、なんでも理科で使うメダカを、ここで飼う事になった 私が気になったのは水槽ではなく、水槽から落ちたメダカである おそらくはまだ生きているようだ、体全体を使い、ペチペチともがいている 後ろを軽く振り向く、そこには1人の女子生徒が、こちらに歩んでいる それを確認し、すぐに前へもがき苦しんでいるメダカの方へ目を向ける 目を離したのは一瞬だというのに、最初に見た時と比べ、力が抜けているのが見てわかる メダカを指手掴む、少し冷たく、ヌメヌメとしていて、あまり良い感触ではない そんなメダカを水槽の上まで運び、水飛沫が飛ばないように、メダカの頭を水の中に入れ、指を離した 気分が悪い、私の指に、ヌメヌメとした粘りのある液体がまとわりついている ポッケとからハンカチを取り出し、指の液体を拭き取る 再び歩み出し、ハンカチを軽く畳んだ後、ポケットに入れる 一歩一歩歩むたびに、うるさい声が遠のいていく 3の1を通り過ぎると、そこには、ただ階段がそこにある 踊り場の壁に取り付けられた窓から秋の日光がこちら側へ差している 夕暮れ時のせいか、廊下は暗いものだったが、ここでは逆に少し眩しいくらいだ さて、念には念をと、少し錆びれた手すりを手に取り、登り始める 階段は廊下と違って静寂…違うわね、クラスの声がここまで着いてきている けれど、廊下の時よりはマシね 鈴美 ねっちゃん! あら、うるさくなったわね 私 あ、ナっちゃん!まだ部活だったの? そう言いながら振り向く、そこには、クラスの女子、鈴美 菜乃が居る ショートカットとそこそこの胸があるのが特徴の女子、コミュニケーションが高く、友人関係が広く、役に立つこともある、同年代がよく使う陽キャっというものだろう 鈴美 そうだよっぉ〜マジでダルイよぉ、ってゆうか、さっきこっち見たのになんも反応なかったじゃん! どうやら、先の程の生徒はこいつだったようね 私 あ!っごめん〜生徒会の仕事で疲れちゃって…ごめんね? 鈴美 ま、そうゆうことなら許しちゃいまっしょう!偉大な私なのでね! 私 ふふ、本当、偉大なナっちゃんに感謝しますよ、ってね、まだ、仕事残ってるから、また休み明けにね 鈴美 はいよぉ〜じゃ、仕事がんばってね〜 そう言い残すと鈴美は手を振りながら教室の方へ行った そして、教室に入ったのだろう、扉の開く声がし、クラスのざわめきが、以前より大きくなった やっと階段を登れるわ。心の中で少しため息を吐き、また階段を歩み出す 踊り場に足がつく。踊り場に取り付けられた窓の先のグラウンドでは、運動部の走り込みや、サッカー、野球などの練習をしている さて、もう半分の階段の方を見ると誰もいない ただ、窓から差し込まれる光しかない、下の階とは違い、静寂に包まれている ここ4階は、生徒準備室と試聴視覚室の2つしか無い、ちっぽけな階 けど、ちっぽけな階でも役には立つわ 役に立つのは生徒準備室なのだけど そんなちっぽけな階へ足を踏みしめた 左奥には試聴視覚室が扉を閉められ、ただそこにある あまり使われていないせいか、他の扉よりも綺麗であり、今だにメッキが剥がれてもいない そして、左の奥のまた、左に生徒会準備室の木の扉がある 扉は木で出来ている為か、所々、木の捲れがあちこち姿を表している その捲れは扉の縁をなぞる様にその姿を現している 愚行な真似をしない限り、その捲れに血がつくことはないだろう それでも一様、その捲れに当たらぬように少し緩く、凹みのあるドアノブを掴み、捻る 扉を奥に押す。そこに佇む物は、雑多と積まれた文化祭で使うであろう物か、使った物か、埃を着て、棚に半ば無理矢理、物達が詰められている そんな埃と物達の部屋となっている汚部屋に、目立つ物が一つ 公共の施設ぐらいでしか見ない埃を着た細長いテーブルの先に、横行に座り、左の膝に右足を乗せる、独特な足を組んでいる男が、おおよそいわゆる善人の笑顔とは真逆な陰気で暗黒な笑顔を光らせている その右手はテーブルに置かれ、ただスマホを、その男が見えやすくする為に少し傾けている 光でやっと見える程の茶色の髪を羽織っている、しかし、その身に合っているとは、言えない、10人中8人が鼻で笑うだろう、残り2人は美容師で社交辞令のお世辞を発しているだろう そんな男はAirPodsを耳につけて、ニタニタとその最終処理場の様な口から笑みを溢している男は蝶草 瑠璃 あまり恵まれた親の元に生まれなかったらしい、もし恵まれているのなら、そんな名前にはしないだろう それに恵まれていないから乱暴狼藉な性格なのだろうけど 肩に伸させていたスクールバックを下ろす、そして、ささくれが出ている、ただ、古いだけの椅子に座る こいつと初めて出会ってから、そこまで日は過ぎていない。こいつはいわゆる、不良という輩。その中での立場が上という、使い勝手の良い男子だ いわゆるマルチ商法のようなやり方で、こいつが下の不良に命令し、そして、その下の不良に命令し、そして、また下の不良に命令し…とこのような形になっており、仮に下っ端の不良がやらかしても蝶草自身にくることも私にくることも無い そして、最近私は、こいつを利用して、学校内の情報やいじめ等の暴力行為の指図をしている 蝶草 遅かったなぁ、んで、金は? 私の顔を見るなり、最初にその言葉が出るのが逆に安心する 私 お金は後よ、それよりも、よ。そのお手に持っているスマホにあるのかしら? 蝶草 それを答える前にだ、金だぜ 私 2度も同じことを言わせて楽しいかしら?早く見せなさい 蝶草 …このアバ…いや、分かったよ そう言うと、他人から見てもわかる程に、力のこもっていない手で、スマホを私の方へ放り投げた 私 初めの内にこうしてれば良いのよ。それと次、愚問愚答な真似したら、殺すわよ 蝶草 …あんたの殺すは、マジだから怖えぇんだよ…冗談じゃねぇぜ 私 あら、私が冗談で言うとでも? 手に取ったスマホは動画が今も流れている 途中から視聴しているが、どういう動画かは分かる、なぜなら私が撮って来るように命令したから その動画の内容は、口角が自然と上がるものである 私のクラスにいる、いや、いた男子。根暗で他人の陰口でしか生きられないドブネズミのような人間、名前は確か、杉 宏太 さて、そんなネズミが、この動画の中では、殴られ、蹴られ、その濁った目から血が混じった涙を流している その血涙は、土や泥に混じったシワだらけの服に何粒もついてる 音を流したいが、誰かに聞かれたら、殺さないといけない、そんな面倒なことはしたくないので、仕方なく無音で視聴しているがそれでも面白い 私は軽く指でスマホの画面を叩く、17分43秒となかなかの量があるらしい どうせなら、最初から見たい私がいるので、動画バーを一番最初にする 一番最初に映るものは、2人がかりで拘束され、お腹に拳を叩きつけられ、悶絶している惨めな姿 蝶草 にしてもよぉーあんたが、そうゆうのを好きなんて、意外っちゃ意外だな。やっぱし、俺みたいにそうゆう系が好きなのか? 私 あら、私だって、他人が悶絶している姿なんてどうでもいいわよ、ただ、私の嫌いな輩が惨めに落魄なっている姿が好きなのよ 蝶草 へ、いい性格してやがるぜ。あぁ、ところで…そろそろ、な? 動画に映るネズミは、ナイフかそれとも殴打でか、頭から血を流し、そのジグゾーパズルのような顔を土の中に埋められている そして、そんな遊戯をしている不良達が、そのネズミの頭ほどの石を持って、撲殺をしようとしているのに、蝶草という男子は、お金を要求してくる こいつが使いようのない人間だったら殺せたのに スクールバックの中を手で探す、動画を見ていたいので、バックの方へは目を向けず、手探りで探している 確か、プリント類を入れたファイルの中に入れてたはずだけれど…っと、教科書とノートの間にファイルがあった ファイルの真ん中あたりに、プリントとプリントに挟んでいた封筒がある 中には40万ほど入れてある、こいつは、少額で動く為、使いやすい 私 これでいいかしら? 蝶草 あぁ、いつも助かってるぜ、マジに信用しってからなぁ そう言いつつ、こいつは、私から受け取った封筒のお金を念入りに調べている そう、一枚一枚念入りに確認している、そんな芸を覚えるぐらいなら、私のクラスの誰かを殺す芸をおぼえてほしいのだけど 私 ところで、このネ…いや、杉はどうしたのかしら? 蝶草 どうしたって言われてもなあ、まあ、あんたの言う通り、殺す気でやってこいっとは言ったけど、最終的にどうなったかは知らねぇよ 私 殺す気…つまり殺してないの?殺していいのに 蝶草 いや…まあ、殺すのはよ、だって人を殺すんだぜ?まだ、殴る蹴るの暴行だったら罪もまだ、軽いしよ、殺人は…な? 私 けど、あんたに刑罰が来ることはないようにしたのだから、殺せばいいのに。せいぜい捕まるとすれば、下っ端の下っ端でしょう? 蝶草 そうなんだけどよぉ…そもそも、「殺せ」なんて言っても、大抵の奴は聞かないぜ 私 そうゆうものなのね、なら、もっとお金を渡すべきかしら 蝶草 いや、そうゆう事でもないと思うが… 少しため息を吐きながら「殺してもいいのに」と小言を部屋に放つ 私 まぁ、いいわ。次もあるだろうから、その時は頼んだわよ スマホをこいつの方へ置く、そして、カバンを手にもつ 蝶草 え、あぁ、分かった。また、なんかあったらそん時は言ってくれ 私 えぇ、もちろん。信用はしてるわ そう言い残すと、カバンを肩に回し、生徒会準備室を後にした * 学校を出るまでに、幸運にも誰とも会わず、会話もすることもなく帰ることができた 外は、中にいた時と比べて、だいぶ夜が浸食している 夕焼けは、切れかけの電球のように、弱々しい光しか街を照らしていない そんな、日光と月光が混じった光に、照らされながら、私は家にへと向かっている いつも見ている、この街の街並みは、赤青緑と限らない、様々な光で満ちている 月光など比にならない程に 綺麗…というよりかは、ただ眩しいだけの有象無象な光としか感じない そんな光の中にいて、歩んでいる私を含めた通行人達は、不純な煌めく光と反して、どこが死んだ目をしている 皆、つまらない人生を送っているようだ ん、ふと、右を見ていると、駅が見えた 有象無象の光を反射しているガラスが多く壁に取り付けられているその駅は、新宿駅だ 新宿駅は、まるで、一つの穴に吸い込まれる洗面台の水のように人が入って行く …そうだ、思い出したわ、そう言えばあそこで、殺したわね そう、昔、中学の頃に、あそこの駅で生徒一名を突き落として殺したことを思い出した 名前も声も忘れてしまったが、顔だけはいまだに覚えている 忘れられないほどに、醜い顔だったからだけども でも、なんで殺したのかしら?っと自分に問いかけてみる けど、返ってくる言葉はない 理由は何かあったはず、でも、それが何だったのかは、覚えていない 覚えられないほどにどうでも良かったらしい そう結論をつけると、家に着いた 黒と白を基調とした明るみのない色をした家が私と弟が住んでいる家 そして、私が唯一心休まる場所でもある そう、心休まる場所、中で待っているであろう、カスミに心躍ろさせながら玄関の扉を開けた 玄関を開けた先は少し暗い、そこには少し土で汚れた赤い可愛らしい靴が綺麗に置かれている リビングと玄関の境界線である扉についているガラスからは、暖かい光が暗い玄関に刺している 良かった、弟は家にちゃんと帰ってきているようだ 心の中で安堵し扉の前に立つ、扉の先からはドタドタっと小さく可愛い足音がこっちに聞こえる 少し口角が上がるのを感じながら、私は扉を開けた 扉を開けた先は、地上の天国か楽園か、どちらでも良いが、その先には全身が痺れるほどの愛らし弟がそこにいる 鈴 おかえり!お姉ちゃん! そう言って私の方へ駆け寄る弟を私は少ししゃがみ腕を広げ受け止める 私 ただいま!ごめんね?ちょっと遅くなちゃって 私の胸に沈む弟、根黒 鈴は純粋潔白で汚れを知らないまさしく、阿鼻叫喚の人間社会に現れたと言ってもいい天使であり、黒髪で屈託のない笑顔は私を本当笑みを生み出す事ができる唯一の存在であり、私の生きる意味、そして、支えとなっている そんな、鈴は、今や小学5年生であり、身長は143,1cm、体重は以前と変わっていなければ43,7キロ程、平均よりも少し小柄であり、今もだき続けているが少し力をいれただけで折れてしまいそう 黒色の少し癖のある可愛らしい髪の毛は私の手をくすぐる、この髪の毛は撫で心地は夢心地であり、100だろうが1000回だろうが、何度撫でても飽きないほどの触り心地、そして、甘く柔らかいに思いもする そこさえも、愛らしく思えてしまう、そんな愛らしい鈴は私のシャツをギュッと掴み、私の胸の中で少し早い呼吸を続けている 私が頭を撫でると、胸の中で上目遣いで嬉しそうにニコリと私の方へ微笑みかけてくれる そんな姿が堪らなく身体中が痺れてしまうほど、可愛く愛しい… さて、目に入れても痛くない、それどころか、身体中の不調が治るような存在だが、いつまでも、抱きついていると、鈴も嫌がる可能性があるかもしれないので、ここら辺でだき続けるのはやめておこう、名残惜しいが 鈴の背中に回していた手を離し、まっすぐ私の目を見てくれる鈴の頭を撫でる ふと、私から見て右側のキッチンを挟んだ先にあるテーブルには、私が作っておいた料理が半分ほど食べられている 私 ふふふ、それじゃぁ私は着替えてくるから、その後は一緒にご飯食べよっか 鈴 うん!待ってるね!お姉ちゃん 良かった、鈴にとっての正解を引けたようね 鈴と別れるのは一瞬だけれども視界から完全に消えるまで私の視線はずっと鈴を追っていた 本当に名残惜しいわね…ずっと一緒に抱き合って混ざり合うぐらいに愛したいのに… さて、リビングの一直線にある廊下がある 電気はついておらず、真っ暗で一寸先さえよく見えないほど 本来ならば、電気をつけた方が良いのだけれど、それをする必要のないほどに廊下に入ってすぐ左側に私の部屋があるのだから 私の部屋は、闇、一面の闇が部屋に満ちている、今にも溢れそうなほどに 電気をつけるとその有象無象の闇は切り裂かれ光に満ちる 学校のカバンを机の横に置き、静かで少し厚い部屋の中で体を真っ直ぐに伸ばす そして、窮屈でクレヨンで殴り書きしたかのような趣味の悪い学校の制服を最低限の指使いで畳み、何も置かれていない机に捨てるように置いた 第一章 終幕

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しぜんすい様より狂人

あれ、どうして、貴方の遺体がここに? それを口に出したような気がした、うん、多分したと思うが学校の疲れのせいか心の中で言ったのを口に出したと錯覚したのかもしれない あぁ、そんなこより、どうして?なんで、貴方の死体が? なんで、虫の死体の死屍累々と積み重なったゴミの上で貴方は血を流しているの? …そうだ、まずは、隠さないと、どこかに、コレを とりあえず、汚いコレを隠せる場所を探しているけど、どうだろう…あのキッチンのゴミ山に入れたらバレないかな? コレを隠す候補を決めたところで、貴方をまた見る うわぁ…グロ…ぐちゃぐちゃだ ん?なんだろう?何か袋みたいなのが露出してる 血濡れてて分かりずらいけど、少し黄色くて、たまに少し動いてる ああ…本当に残念でならないなぁ、かわいそう まぁ、とりあえず、コレを運ぼうかぁ コレの首に巻かれてる少しメッキの剥がれたロケットのチェーンを掴む、引きずって持っていこ… え、待って、怖い…動いてる…こっちを見ている 怖くなってチェーンを掴んでる手を離した、少し引っ張っていたから首と地面が少し浮いてた そのせいで首が地面に一気に落ちる形になった、あと私も驚いて転けちゃったので、同じく地面に落ちちゃった そして、貴方の壊れ掛けのスピーカーから出たような枯れた声が部屋にこだました その音痴な歌がうるさくて、慌てて耳を塞いだ あぁ…うるさいな、いつもうるさいけど、慣れないや 貴方の方を見ると、口から血を出しながら悲鳴を出している 少し可哀想に思い、貴方の口の周りについてる血を拭こうと思い、貴方の首のすぐ横に座る ハンカチで拭こうと思ったけど、ふと、目につくものがあった 貴方がいつもかけてたロケットの中が先ほどの衝撃で開いたらしい 気になってロケットの中を見ると、写真だ、写真が入ってる それは、私ではなく、貴方と茶髪でヨレヨレなその体にあっていない高級なスーツを被せている男の写真だ …ねぇ“どうして私を騙したの?“ 今度はちゃんと口から出たらしい、部屋に呻く声と私の声が混じったのを聞いた 貴方は理解できてないようだ、それとも、理解しようともしてないの? ……あれ、そうか、そうだなぁ、生きてるなら、救急車、救急車だ、呼ばないと 急いで起きあっがて固定電話のある、机の方へ体を向ける あれで、助かる、貴方が助かる… ゴミ山をかき分けて、電話が置かれてあるテーブルへ着く 元の色もわからないテーブルはゴキブリでいっぱいだ、昨日よりも増えてる そして、私は電話へ手を…あれ、でも、ああ、そうか、ああそうだ、出来ない、そう出来ないや、だって電気つかないから、貴方は電気代を今月も払ってない、そう、だからできない、うん、そういばそうだった …ごめんね…本当にご冥福をお祈りします じゃあ隠さないと そう思い貴方へ近づこうと体を振り返ろうとした時、何かビニール袋のようなものを踏んでしまい、体が変な方向へ前のめりになってしまった 咄嗟に何か掴もうと本能のようなものの命令のせいか、腕を前の方へとさした 今回は体が地面へと落ちなかったけれど、腕は、手は壁の方へ触れた、触れてしまった 壁についてるボタンへと 多分、初めて押す、そのボタンは部屋を明るくした、私と貴方も …こんなに明るい部屋初めて見たかもしれない… あ!待って、ヤバい、見られちゃう! 私はすぐに右手でボタンを………あれ…なんで…血で濡れてるの…? あ、いや…違う…これは、貴方に触れた時についた血で… ………左手で、ただ、ボタンを押す また、暗くなった、いつもの暗闇に 明るさに慣れた目は、貴方も、いつも見るゴミやハエを見ることができない けど、今は、貴方が呻く声の示す方向へ… あれ…痛たい…なんだろう足に痛みが…でも…懐かしなあ、貴方にもされたっけ、小学生だっけ、ほんと、懐かしいな、その時はカッターナイフだったなあ 屈んで有象無象に散らばった物たちを手で確認する、あ!私の足を切った原因もカッターナイフだ!なんか運命的… あれ…?これ…血で濡れてる…私の血じゃない、いや、正確には、私の血もあるだろうけど…私の血以上に…赤く、赤く、真っ赤に塗られてる …貴方へ…そうだ、こんなことよりも貴方へ…貴方を隠さないと 四つ這いで貴方の方へ向かう、虫や生ごみが手や足につくがどうでもいい もうだいぶ暗闇に目が慣れてきた、料理みたいにぐちゃぐちゃな貴方をしっかりと見ることができるぐらいに もう血は止まったみたいだ、お腹から出てくるものはなさそうだ 私の手と同じぐらいの切り口が私を覗いてくる、その切り口は細く、包丁とかナイフで話そうだぁ ふと、貴方の切り口へカッターナイフを当てる、不思議なことに切り口とカッターナイフはピッタリだ、シンデレラフィットだっけ?本当にピッタリだ まるで、これで刺したように… 違う、刺してない、切ったんだ あれ…なんでそれを知ってるんだろう…? だって私は見てもないのに…見ても…見ても…? あ…あ…?あぁ…そうか…そうだね…私か…私だな そうだ、私が殺したんだ 貴方を …なんで…なんで…?私は笑っているの…? 貴方のポケットから出ている小さな手鏡が私の間抜けな笑顔を見せる どうしてか笑みが顔からひっついて離れない ふふ、なんだか、私の間抜けな笑顔を見ていると笑い声が自然と口から出る そう、ただ笑う、遺体の隣で  ただ笑う、間抜けな顔で そして、また笑う、貴方のせいで! 笑い声が、ただ部屋に満ちる 静かに、静寂の中で、途切れ、途切れで …そういえば、部屋は私の笑い声だけになっている 貴方の呻く声は、口にタオルを突っ込まれたみたいに聞こえない 顔を覗くと口から血を流して固まっている もう、動いていない 目も口も動いていない 私の目を見てもくれない、呻き声も何もその口から話してくれない いつもの事なのに、どうして、こう…心がぽっかり空いたような…何かが満たされていないような…なんか…体に力が入らないや… …どうして…貴方の死体が…? どうして…汚い死体がここに…? …貴方の頬をそっと撫でる 指の隙間から、貴方の生暖かい血が垂れているのを感じる 貴方の血溜まりが、急に騒ぎ出した、貴方のお腹の辺りに溜まっている血溜まりが それは、小さな水飛沫が何個も何個も絶え間なく騒いでいる なぜ水飛沫が起こるか 私の小さな水が、目から流れる少し塩っぱい水…涙が貴方に血溜まりに落ち、混ざり合ってる 泣く、ただ、泣いている、声を出さず ただ、そこには水が落ちる、些細で小さな音がかすかに耳に届くだけだ 不思議と貴方の頬を撫でる手が震える 息遣いも、荒く感じる …泣いた、泣いた、たくさん泣いた 水飛沫の音はだいぶ収まりを見せている 涙は、いつからか、だいぶ出にくくなった 貴方の目を今一度、しっかりと見る、暗く濁った目を あ、ほんとうに…残念でなりません… ねえ、ほんとに。寂しくてなりません、

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帰れぬ旅人

随分と遠い場所へ来た 私の近くに見えるものは一面闇、それもそうか、ここは宇宙、そしてここは、宇宙の深淵、ボイドなのだから ボイドには、何もない、星も光も生命も無い、暗い深淵 私は一体、何年宇宙をボイドを旅しているんだろうか? 10年…いや20年以上は経っているだろう 私は探査機、そして仕事は二つある。仕事の一つ目は終わった、それは、太陽系に近づき写真を撮ること、そして、2つ目は…私を作った人類以外の生物に、地球のデータを詰め込んだ、レコードを渡すため… 私は二つ目の仕事のため、今も旅をしている 今の所は、生命をもつ星は見られない …私が壊れるのが先か、このレコードを渡せるのが先か… 例え結末がボイドよりも暗い結末でも構わない…私は探査機で私は旅人なのだから …ボイドの中で、後ろを振り向くと遠くに一つだけ見える星、いや白い点が見える 小さくて、偉大な星、地球 あの白い小さな点で私は作られた 愛も、想いも、意思も、幸福も、不幸も、悲しみも、喜びも、生も死も、全てがあの小さな点に詰まっている …私の仕事、先ほど、私は仕事の一つ目は終わったと言ったが、一つだけ忘れていたことがあった、それは、太陽系の一つ、地球を撮っていない 私は、暗いボイドでも見れる点を撮る さて、これで仕事は、一つだけになった 電池は宇宙と違い無限ではない、しばらくは電源を切っておこう …探査機から人類へ、敬意を、そして幸運を

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帰れぬ旅人

ある死体のフィロソフィ的な考え方

私は死体だ、そして、今日も動いている 別に、汗を垂らさないとか、心臓が動いていないとか、体温が無いとかでは無い 現に、私は、灼熱の太陽に照らされ、汗を垂らし、心臓の鼓動が速くなり、体温が上がっていると感じている けれども、私は死体であり、今日も、ビルとビルが並ぶただの街の歩道を歩んでいる 歩道は、まるで、残業後の廊下のように、ほどほどに人がおり、各々別の道を歩んでいる おっと…子供にぶつかりそうになった 子供から、謝罪を貰い、また歩み出した …子供の顔は明るく、充実した顔だ、いや、そう思っているだけかもしれないが 私があの子の歳の頃は、もう、死体になりかけていたのかもしれない あの頃は、中学受験に向けて勉強を強要され、塾で外に遊ぶ暇もなかった だが、別に苦では無かった、なぜなら、それが日常であったからだ 日常的であったからこそ、何も思わなかった 勉強しか無い小学生生活が日常だったからだ …そういえば…あの子供の服は、野球が描かれていた 野球で思い出した、そういえば私は中学の部活で、私は確か野球部に入りたかった しかし、親は野球よりも勉強を強要した、良い大学に入り、良い会社に入社する、それが一番だと私の親は考えていた、その主観が、結局は砂状の主観であることも知らず、それがただの、折り紙の皿でしかないことも知らずに… そして、当時の私は、多少は反抗しただろうが、結局は、無意味であった 今思えば、やっていた方が、完全な死体にはなら無かったかもしれない、後の祭りだが 中学になっても、小学校の時は、変わることはなかった ただ勉強を行い、ただ、塾に行き、ただ勉強を行い、ただ塾に行き… 変わることは無かった、遊ぶこともできなかった いや、正確には違う、別に遊ぶこともできた、親の監視下が、そんな広大な訳も無い 遊ぶことは別に難しくは無かった だが、それで、学力が下がったら、怒号と叫びが飛ぶからだ …そう、ただ、それだけ しかし、それが、嫌だった、まぁ、これを好きになれる人はいないと思うが 昔、一度だけ、学力が下がり、テスト結果が悪かった時がある その時、親は、私に対して、ビンタとヒステリックな叫びをぶつけた 別にビンタは痛く無かった、一番痛かったのは耳であった その、無駄で、中身の無い叫びは、一時間や二時間ほど続くものであった 学がないからこそ、中身の無い行動を行い、それを何も思わないのだろう それからは、叫びではないが、呪詛のように、勉強を催促するようになった それも、3週間ほど続いた、体感ではもっと長く感じた あれから私は、「遊び」を視野に入れず、学校行事も視野に入れず、ただ、勉強を視野の真ん中に入れた これが死体の始まりだったんだと思う それからは、早かった、いや、何も、記憶の引き出しが空っぽだからこそ、今になってみれば、早く思ったんだろう 高校に上がった時、もう野球のことは眼中にも無かった、いや、勉強のこと以外、何も思わなかった そういえば、今思うことだが、クラスの中で死体がもう、何人かいた気がする 高校頃の思い出は…あの担任の言葉………それと………やっぱり…空っぽだな…引き出しが… …大学も…か…あの赤い門…あの学食…あの……… あの………? ……… … おっと…! あまり、前を見てなかった 工事現場の人にぶつかりそうになった ぶつかりそうになった作業員に深く謝罪した後、また歩みだそうとしたが、ふと何を工事しているのか気になり後ろを振り向く そこまで高くないビルの工事らしい、大変そうだ ん…地面に何か落ちている よく見ると、写真だ、手作りだろうか?拙いが可愛らしケースに入れられている その写真は、男性と女性、そして、子供の三人がピースしている写真だ とても…温かみのある、時間を切り取った写真だ 拾って交番に届けようか、迷っていた時、さっきぶつかりそうになった人のものだった 写真を拾い、懐に入れ、また作業に入った その人の顔は、とても…充実した顔だった…とても…とても… そう思うのは私だけだろうか…? …………あの時…卒業式の時…担任から…クラス全体に言った言葉を思い出す 「思い出をたくさん作りなさい、それが、生きた証になるから」 ……………私はまた歩み出す、そして、私が今までの人生の中で一つ考えていたことがあった 生きるということは…生きているということは…それは思い出を作ること…質の良い思い出を作ること、それこそが生きるということ 思い出があるからこそ…振り返れる質の高い思い出があるからこそ…それは生きているということなのだ 私には、思い出はほとんど無い…その中での少しの思い出達は、陸なものではない …思い出が存在するということは、生きている証拠でもあるのだろう 先ほど…ぶつかりそうになったあの人は、多分…私よりも質の高く、そして、多くの思い出があるのだろう あの人は生きている、そして、私は死んでいる 思い出があるからこそ、それは生きていると言える …そんな考えているうちに、会社に着いた、墓場みたいな会社に 私 …思い出か あんな事を考えていたが、別に…今更、思い出を作る気にもなれない…それに、今は仕事が忙しい それにだ、別に、死体のままでも、苦労は無い…そして、楽しさも無い しかし、それでも私は、今日も明日も、どーせ動いている 私は死体だ、そして、明日も、明後日も同じく死体だ …所詮、思い出の無い人間は、死人と同じなのだから

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