クロネコ
2 件の小説帰れぬ旅人
随分と遠い場所へ来た 私の近くに見えるものは一面闇、それもそうか、ここは宇宙、そしてここは、宇宙の深淵、ボイドなのだから ボイドには、何もない、星も光も生命も無い、暗い深淵 私は一体、何年宇宙をボイドを旅しているんだろうか? 10年…いや20年以上は経っているだろう 私は探査機、そして仕事は二つある。仕事の一つ目は終わった、それは、太陽系に近づき写真を撮ること、そして、2つ目は…私を作った人類以外の生物に、地球のデータを詰め込んだ、レコードを渡すため… 私は二つ目の仕事のため、今も旅をしている 今の所は、生命をもつ星は見られない …私が壊れるのが先か、このレコードを渡せるのが先か… 例え結末がボイドよりも暗い結末でも構わない…私は探査機で私は旅人なのだから …ボイドの中で、後ろを振り向くと遠くに一つだけ見える星、いや白い点が見える 小さくて、偉大な星、地球 あの白い小さな点で私は作られた 愛も、想いも、意思も、幸福も、不幸も、悲しみも、喜びも、生も死も、全てがあの小さな点に詰まっている …私の仕事、先ほど、私は仕事の一つ目は終わったと言ったが、一つだけ忘れていたことがあった、それは、太陽系の一つ、地球を撮っていない 私は、暗いボイドでも見れる点を撮る さて、これで仕事は、一つだけになった 電池は宇宙と違い無限ではない、しばらくは電源を切っておこう …探査機から人類へ、敬意を、そして幸運を
ある死体のフィロソフィ的な考え方
私は死体だ、そして、今日も動いている 別に、汗を垂らさないとか、心臓が動いていないとか、体温が無いとかでは無い 現に、私は、灼熱の太陽に照らされ、汗を垂らし、心臓の鼓動が速くなり、体温が上がっていると感じている けれども、私は死体であり、今日も、ビルとビルが並ぶただの街の歩道を歩んでいる 歩道は、まるで、残業後の廊下のように、ほどほどに人がおり、各々別の道を歩んでいる おっと…子供にぶつかりそうになった 子供から、謝罪を貰い、また歩み出した …子供の顔は明るく、充実した顔だ、いや、そう思っているだけかもしれないが 私があの子の歳の頃は、もう、死体になりかけていたのかもしれない あの頃は、中学受験に向けて勉強を強要され、塾で外に遊ぶ暇もなかった だが、別に苦では無かった、なぜなら、それが日常であったからだ 日常的であったからこそ、何も思わなかった 勉強しか無い小学生生活が日常だったからだ …そういえば…あの子供の服は、野球が描かれていた 野球で思い出した、そういえば私は中学の部活で、私は確か野球部に入りたかった しかし、親は野球よりも勉強を強要した、良い大学に入り、良い会社に入社する、それが一番だと私の親は考えていた、その主観が、結局は砂状の主観であることも知らず、それがただの、折り紙の皿でしかないことも知らずに… そして、当時の私は、多少は反抗しただろうが、結局は、無意味であった 今思えば、やっていた方が、完全な死体にはなら無かったかもしれない、後の祭りだが 中学になっても、小学校の時は、変わることはなかった ただ勉強を行い、ただ、塾に行き、ただ勉強を行い、ただ塾に行き… 変わることは無かった、遊ぶこともできなかった いや、正確には違う、別に遊ぶこともできた、親の監視下が、そんな広大な訳も無い 遊ぶことは別に難しくは無かった だが、それで、学力が下がったら、怒号と叫びが飛ぶからだ …そう、ただ、それだけ しかし、それが、嫌だった、まぁ、これを好きになれる人はいないと思うが 昔、一度だけ、学力が下がり、テスト結果が悪かった時がある その時、親は、私に対して、ビンタとヒステリックな叫びをぶつけた 別にビンタは痛く無かった、一番痛かったのは耳であった その、無駄で、中身の無い叫びは、一時間や二時間ほど続くものであった 学がないからこそ、中身の無い行動を行い、それを何も思わないのだろう それからは、叫びではないが、呪詛のように、勉強を催促するようになった それも、3週間ほど続いた、体感ではもっと長く感じた あれから私は、「遊び」を視野に入れず、学校行事も視野に入れず、ただ、勉強を視野の真ん中に入れた これが死体の始まりだったんだと思う それからは、早かった、いや、何も、記憶の引き出しが空っぽだからこそ、今になってみれば、早く思ったんだろう 高校に上がった時、もう野球のことは眼中にも無かった、いや、勉強のこと以外、何も思わなかった そういえば、今思うことだが、クラスの中で死体がもう、何人かいた気がする 高校頃の思い出は…あの担任の言葉………それと………やっぱり…空っぽだな…引き出しが… …大学も…か…あの赤い門…あの学食…あの……… あの………? ……… … おっと…! あまり、前を見てなかった 工事現場の人にぶつかりそうになった ぶつかりそうになった作業員に深く謝罪した後、また歩みだそうとしたが、ふと何を工事しているのか気になり後ろを振り向く そこまで高くないビルの工事らしい、大変そうだ ん…地面に何か落ちている よく見ると、写真だ、手作りだろうか?拙いが可愛らしケースに入れられている その写真は、男性と女性、そして、子供の三人がピースしている写真だ とても…温かみのある、時間を切り取った写真だ 拾って交番に届けようか、迷っていた時、さっきぶつかりそうになった人のものだった 写真を拾い、懐に入れ、また作業に入った その人の顔は、とても…充実した顔だった…とても…とても… そう思うのは私だけだろうか…? …………あの時…卒業式の時…担任から…クラス全体に言った言葉を思い出す 「思い出をたくさん作りなさい、それが、生きた証になるから」 ……………私はまた歩み出す、そして、私が今までの人生の中で一つ考えていたことがあった 生きるということは…生きているということは…それは思い出を作ること…質の良い思い出を作ること、それこそが生きるということ 思い出があるからこそ…振り返れる質の高い思い出があるからこそ…それは生きているということなのだ 私には、思い出はほとんど無い…その中での少しの思い出達は、陸なものではない …思い出が存在するということは、生きている証拠でもあるのだろう 先ほど…ぶつかりそうになったあの人は、多分…私よりも質の高く、そして、多くの思い出があるのだろう あの人は生きている、そして、私は死んでいる 思い出があるからこそ、それは生きていると言える …そんな考えているうちに、会社に着いた、墓場みたいな会社に 私 …思い出か あんな事を考えていたが、別に…今更、思い出を作る気にもなれない…それに、今は仕事が忙しい それにだ、別に、死体のままでも、苦労は無い…そして、楽しさも無い しかし、それでも私は、今日も明日も、どーせ動いている 私は死体だ、そして、明日も、明後日も同じく死体だ …所詮、思い出の無い人間は、死人と同じなのだから