ユート
698 件の小説ユート
よろしくお願いしますm(_ _)m YouTubeもやってます「ゆーと伍長」Twitterも見てください、ネタ募集中です、自由気ままにやってます。 ごめんなさい、色々疲れてしばらく投稿止めます、本当にごめんなさい
身近に居た不思議な子
これは小説としてではなく主の記憶を元に書いてます、決して差別的な意図はありません 保育園の頃から小学生の頃にかけて「太郎(仮)」と言う外国人のハーフの友達がいました、その子は食べることが大好きで力も強く体も大きい人でした、しかし常に?付き添いの先生が居たりクラスが違う時があったり当時の私は特に気にして居ませんでした その子はある時は感情的になり椅子を振り回そうとしたり(男子総出で止めた)教室を飛び出したり(男子総出で追いかけた)など奇行をしていました、優しくて運動神経もかなりいい友達だと覚えています。 小学生の頃、「B子(仮)」と言う生徒が一時的な入学?でいました、少し変わった子で喋る頻度がかなり少なく動きが遅い感じでした、ある日わたしが友達と鬼ごっこをしてるとB子の足に引っかかって倒れ擦り傷を作りました、当時の私が余所見をしていたのは間違いないのですが、B子は何も言わず、他の生徒達もB子を「なんか変じゃない?」と思い始めました。 投稿主より:私は診断や病院で検査はしてませんが、個人的には「何か」を持ってると思います、子供っぽく飽きっぽく空気も読めない、こんな私は今高卒で即就職しております。
近況報告
これは作者の実話です、小説として書いてません 高卒後、中規模木材加工会社入社、しかし丸鋸で右手のひらから手首の上にかけて切りつける大怪我をし半年で自主退職、入社2週間くらいの新人にガチの機械を使わせ研修もほぼ無い状態、いきなり責任重すぎると思ってました、当時18歳、それから1ヶ月次の就職先を探しました、何を食べても何をやっても感じない空っぽな人間でした、右手は感覚はある程度残ってますが動かしにくい、そして就職先が見つかったのはいいのですが反りが合わない部署で2ヶ月で異動に、不安やストレスで精神崩壊し漢方や薬を飲み続けたり、今日は帯状疱疹らしきものを患い薬を塗り飲んでおります。
Draw ・War(試験)
プロローグ:白紙の少年 世界は溢れ出る「異能」で満ちている 炎を操る者、重力を歪める者、光の速さで駆ける者、超常が日常に溶け込んだこの世界では 能力の強弱こそがそのまま個人の価値を決める物差しだった、当然能力者たちが集う 『私立 聖痕(スティグマ)高校』でもその階級制度(スクールカースト)は絶対だった その最底辺、クラスの隅の特等席に 御手洗 創(みたらい はじめ)はいる 彼の能力は『キャンバス・マニフェスト(画中具現)』 スケッチブックに描いたものを現実に生み出すという一見すれば万能にも思える能力だ しかし周囲からの評価は手厳しい 「おい御手洗、ちょっと小腹が空いたからよ購買の焼きそばパン描いて出してくれよ」 「あ、うん……ちょっと待ってね」 クラスの主犯格である火炎能力者に言われ創は震える手で鉛筆を動かす しかし、極度の緊張と「失敗したら燃やされる」という恐怖から出来上がったのは ひどく歪んだ消しゴムのカスのような塊だった ぽすん、と机の上に現れたのは炭化して硬くなったおよそ食べ物とは呼べない泥の塊 「ハハッ! 相変わらず使えねぇゴミ能力だな!」 爆笑の渦 創は小さく首をすくめ、ただ謝ることしかできなかった。 彼の能力は本人の精神状態と「どれだけその対象を正確に理解しているか」に依存する しかし臆病で勇気のない創は戦うための武器や 強力な怪物を描くリアルな想像力(イマジネーション)を持たなかった。 いつしか彼は「落ちこぼれ(ドロー・ゼロ)」と呼ばれるようになっていた。 転機:世界の「形」を知る場所 居場所のない学校の中で創が唯一息をつける場所――それが学校の地下にある薄暗く巨大な図書館だった ここには能力の派手さにしか興味のないクラスメイトたちは誰も来ない 「……誰も、僕の絵なんて期待してない」 ぽつりと呟き創は古い図鑑や専門書を開いた 最初はただの現実逃避だった しかし、彼は次第に気づいていく、自分が今まで「焼きそばパン」や「ナイフ」を具現化できなかったのは、その**構造**を知らなかったからだと 創は貪るように知識を吸収し始めた 物理学・化学:物質がどう組み合わさり、どう爆発するのか。 歴史・神話:かつて人類が想像した畏怖すべき意匠や紋様。 ミリタリー図鑑:銃火器の内部構造、信管の仕組み、弾丸の回転。 生物学:昆虫の外骨格、深海魚のルミノールの発光メカニズム。 家に帰ればテレビのドキュメンタリーやニュースを録画し、一時停止しながら画面にかじりついた 彼の部屋の壁はいつの間にかびっしりと「知識のデッサン」で埋め尽くされていった 「僕は戦えない、けど……知ることならできる」 彼の中で白紙だったスケッチブックに、膨大な「世界の解像度」が書き込まれていく、しかしそれを試す勇気は、まだなかった。 勃発:『能力演習戦(ドロー・ウォー)』 その日は突然やってきた 聖痕高校の伝統行事であり生徒同士の序列を決定する模擬戦争 ――『能力演習戦(通称:draw・War)』 舞台は学園が所有する広大な演習用人工島 ルールはシンプル、クラス対抗で敵の拠点を制圧するか敵の全滅 創の所属する1年F組は最悪の状況に陥っていた。 対戦相手は学年トップの精鋭が集まる1年A組 開始早々A組の「広範囲気流操作」と「雷撃」の複合攻撃によりF組の主力だった火炎能力者たちは一瞬で戦闘不能に追い込まれた 「ひぃっ...あ...悪魔かよ……!」 悲鳴を上げて逃げ惑うクラスメイトたち 創もまた背後から迫る圧倒的な風圧から逃れるように岩陰へと転がり込んだ 目の前で、クラスの女子生徒が追い詰められている 彼女の前に立ち塞がったのは、A組のリーダー格。鉄の肉体を持つ「鋼鉄化」の能力者だ。 「F組の雑魚どもが。さっさと降伏しな」 「くっ……!」 岩陰で創はガタガタと震えていた いつもならこのまま見つからないように隠れて、試合終了を待つはずだった しかし彼のカバンの中でボロボロになったスケッチブックが覗いている (どうする? 僕には無理だ。だって、僕は落ちこぼれで――) その時脳裏に図書館で読んだ一節がテレビで見た映像が鮮烈にフラッシュバックした 『鉄の融点は1538度。だが、特定の化学反応を用いれば、ただの砂とアルミの粉末が、それを容易に凌駕する熱を生む』 (……知っている、僕はその原理を知っている!) 創の目に初めて小さな、だが消えない灯火が宿った 勇気はない、だけど知性の裏付けがある 「――やってみせる」 覚醒:解像度の暴力 創は震える手で鉛筆を握り締め凄まじい速度でスケッチブックに「線」を描き殴った 「おい、そこに見え見えのネズミが隠れてるなぁ!」 鋼鉄化の男が創の隠れる岩を殴り飛ばす 粉砕された岩石の向こうから現れた創はすでに描き終えたページを破り取り男に向けて突き出した 「能力発動――『具現(マニフェスト)』」 男が鼻で笑おうとした瞬間に創の手から放たれた紙が光を放ち、消失 次の瞬間、男の足元に「奇妙な灰色の粉末」と 「マグネシウムの細いリボン」が出現した 「あ? なんだこれ、砂遊びか――」 「それはテルミット(鉄酸化物とアルミニウム粉末)。……火花(スパーク)をどうぞ」 創が次に破り取った紙から出現したのはただの「使い捨てライター」 創が親指で火花を散らしそれを粉末に落とした瞬間 ――ゴォォォォォォッ!!! 爆発ではない、凄まじい白光を放つ2500度を超える超高温の火柱が男を包んだ 「ぎゃああああああっ!? あづい、熱いぃぃぃっ!?」 どれだけ肉体を鋼鉄に変えようと熱伝導までは防げない、鉄を溶かす温度に晒され男は一瞬で戦闘不能(ギブアップ)のブザーを鳴らし転倒した 「はぁ、はぁ、はぁ……!」 静まり返る戦場 倒れた天才を前に創は己の手を見つめた 「凄い……本当に、僕の描いた通りに、物質が動いた……」 遠くからA組の他の能力者たちが異変に気づいてこちらへ向かってくる足音が聞こえる 創は眼鏡を押し上げ不敵に、いや少しだけ楽しそうにフッと微笑んだ 落ちこぼれの少年の頭脳には世界中の武器、兵器、自然現象、そして科学の神秘が完璧なデッサンとして記憶されている 「さあ……次のページ(作戦)にいこう」 彼にとっての『draw・War(描画戦争)』は、まだ始まったばかりだ。
手品師vs魔術師
手品師vs魔術師 第一幕:月下の招待状 その男のステージには、仕掛け(ギミック)も サクラもそして助手さえも存在しない ただ一人、スポットライトの真下に立つ姿があるだけだった 純白の仮面に漆黒のシルクハット そして夜の闇を切り取ったかのような黒いマント 街の人々は彼を「怪人・ミスターM」と呼び 畏怖と歓声をもって迎えていた、彼の手にかかれば高層ビルは一夜にして消え去り自由の女神は ハンカチの中から飛び出す 世界一の手品師――それが彼の肩書だった ある満月の夜 誰もいないはずの彼の楽屋に一条の紫の炎が舞い降りた、炎はパチパチと音を立てながら一枚の古びた羊皮紙へと姿を変える そこにしたためられていたのは見慣れぬ言語 しかし、男が目を細めると文字が躍るように意味を成した 『偽りの奇跡を操る詐欺師へ、我は異世界を統べる最古にして最強の魔術師ゼノン、お前の”欺瞞”が本物の”奇跡”にどこまで通用するか我が魔導の極致をもって試してやろう、拒否は許さぬ、来たる新月の夜に世界の境界線にて待つ』 男は羊皮紙を指先で弄ぶとふっと息を吹きかけた紙片は一瞬で鮮やかな一輪の薔薇へと変わり 次の瞬間には灰となって消える 仮面の奥の瞳が、愉悦に細められた 「異世界の魔法使い、ですか……いいでしょう、その挑戦、謹んでお受けします」 第二幕:開演のベル 新月の夜 東京のど真ん中、最も空に近いスカイツリーの最頂部に異界の門が開いた 雲が渦巻き紫色の雷鳴が轟く中、空間を割って現れたのは星々を散りばめたローブを纏い身の丈を超える杖を手にした老人 ――異世界最強の魔術師ゼノンだった 「ふん、ここが偽りの術に満ちた世界か、怯えて逃げ出さなかったことだけは褒めてやろう」 ゼノンが杖を地面に打ち鳴らすと周囲の空間が歪み現実世界から隔離された『決闘結界』が展開される そこへ夜風にマントを翻しながら男が音もなく舞い降りた ハットの庇(ひさし)を指で軽く上げ不敵に微笑む 「お待たせしました、観客(ゲスト)の一神様退屈な夜には、極上の娯楽が必要だ」 男はマントを大きく広げ、世界で最も華麗な一礼をした 「It’s a show Time.」 第三幕:錯覚(トリック)と奇跡(マジック) 先制を仕掛けたのは魔術師ゼノンだった 「燃え盛れ、劫火の球(ファイアボール)!」 彼の呪文とともに並の軍隊をも一瞬で消し去る巨大な火球が放たれ手品師を容赦なく包み込んだ 爆炎が夜空を焦がし、スカイツリーの頂部が赤く染まる 「呆気ないな、所詮は小細工を弄するだけの凡夫よ」 ゼノンが鼻で笑ったその時、爆炎の中から無数の白い鳩が飛び出した 「なっ……!?」 驚愕するゼノンの背後から楽しげな声が響く 「熱い演出は嫌いじゃありませんが...もう少しスマートに行きましょう」 いつの間にか背後に立っていた手品師が指をパチンと鳴らす、するとゼノンの足元が突如として巨大な『トランプの檻』へと変化し彼を閉じ込めた。 「小賢しい! 万物を穿て、雷撃(ライトニング・ボルト)!」 ゼノンが杖を掲げると天から凄まじい雷が降り注ぎトランプの檻と手品師を直撃した、激しい電光 しかし、雷が収まった後に残されていたのは真っ二つに割れた木製の「身代わり人形」だけだった 「どこだ! どこに隠れた!」 「隠れてなどいませんよ...私は最初からあなたの『死角』にしかいないのですから」 上空から声がする、見上げれば手品師は虚空に浮かぶ一本のロープに掴まり優雅に空中を歩いていた ゼノンのプライドが激しく揺揺する 異世界で神の如く崇められた自分が魔力を持たぬただの人間におちょくられているのだ 「おのれ……! ならばこの空間ごと塵に還してやる! 『絶対零度の吹雪(ブリザード・ノヴァ)』!」 絶対的な魔力が解放され周囲の空気が一瞬で凍りつく、スカイツリー全体が凍結し逃げ場のない極寒の嵐が手品師を襲った、手品師の身体が見る見るうちに氷の像へと変わっていく 「これでおしまいだ。いくら姿を隠そうと、空間全てを凍らせれば防ぎようがあるまい」 ゼノンは勝利を確信し、冷たく笑った だが、氷漬けになった手品師の仮面の下から信じられない言葉が漏れ出た 「……素晴らしい『仕掛け』だ...ですが脱出マジック(エスケープ・アクト)の基本はご存知ですか?」 パキィン! と小気味いい音が響く 氷の像が内側から砕け散った.しかし現れたのは手品師ではなく大量のきらめく紙吹雪と色鮮やかな万華鏡の幻影だった。 第四幕:グランド・フィナーレ 「馬鹿な……! 魔力の探知さえ狂わせたというのか!? 奴は一体どこに――」 混乱するゼノンの耳元で手品師の囁きが響いた 「種明かしをしましょう、あなたが戦っていたのは私の『残像』とあなたが『そう思い込んだ幻』に過ぎません」 ゼノンがハッと気づいた時には、すでに遅かった 自身の手を見る、いつの間にか絶対に手放すはずのない『魔導の杖』が消えていた、代わりに握らされていたのは、一輪のしおれた白薔薇 「我が杖が……いつの間に!?」 「あなたが私に気を取られていたまさにその一瞬です、視線(アテンション)を誘導する――手品師の基本ですよ」 数メートル先には手品師はゼノンの魔導杖を まるで安物の指揮棒のように指先でくるくると回していた 「返せ! それがなければ我が魔力は――」 「おっと、危険な玩具は没収です」 手品師が杖をマントの中に放り込むと大木ほどもある杖は影の中に吸い込まれるように完全に消失した 一人で全てのステージをこなす彼にとって四次元ポケットさながらの収納術など造作もないことだった 魔力の源を失い結界が崩壊していく、ゼノンは膝をついた完全なる敗北だった。 手品師は静かに歩み寄り、シルクハットを胸に当てて深く一礼する 「魔法とは、世界の法則を書き換える万能の力 しかし手品(マジック)とは人間の『思い込み』を利用して不可能な現実を作り出す技術どちらが上ということはありません、ただ……今日の観客は私の方がほんの少し上手だった、それだけのことです」 ゼノンの身体が異世界へと強制送還される光の粒子に包まれ始める、彼は悔しげにしかしどこか晴れ晴れとした表情で手品師を睨みつけた 「……見事だ、怪人、我が人生で最も美しく、最も忌々しい壮大な詐欺だったぞ」 「最高の賛辞を、ありがとうございます」 光が収まり魔術師は夜空へと消え去った。 第五幕:エンドロール 静寂が戻ったスカイツリーの頂上では結界が解けいつもの東京の夜景が眼下に広がっている 手品師はマントを翻し一歩、虚空へと踏み出した そのまま重力を無視するように夜の闇へと溶け込んでいく 彼の去った場所にはカードが一枚だけ残されていた、そこには流麗な文字でこう記されている 『本日の公演はこれにて終幕、次なるステージでまたお会いしましょう』 世界一の手品師のショータイムは、これからも終わらない。
恋は盲目(試験)
恋は盲目 きらびやかなホテルのラウンジ シャンデリアの光が反射するグラスの音と下卑な 笑い声が響いていた、名目は「合コン」だがその実態は成功者気取りの元ヤンチャグループが かつての「格下」を呼び出し自分たちの現在の地位を誇示するための残酷な同窓会だった 「おい、原田のやつまだ来ねえのか?」 主犯格の房野が高級時計を あざとく見せつけながら周囲に同意を求める 「軍に入ったって聞いた時はビビったけどよ結局負傷してクビだろ? ニュースで見たぜ、今の時代戦場帰りの無職なんて笑えねえよな」 同級生の美由紀は複雑な表情でその言葉を聞いていた、彼女もまた房野たちの「引き立て役」として呼ばれた一人だったが心の中ではかつて物静かだった原田がどうなったのか、一抹の不安と期待を抱いていた その時、会場の重厚な扉が開いた 喧騒が一瞬にして静寂に塗り替えられる カツン、カツン と規則正しい音が床に響く 現れたのは仕立ての良い黒いスーツを纏った原田だった しかし、かつての面影はあるもののその風貌は異様だった 漆黒のサングラスをかけ右手には折りたたみ式の白杖、そして彼の傍らには透き通るような美貌を持ちながらも獲物を狙う猛禽類のような鋭い眼光を放つ女性の諏訪子が寄り添っていた 「……遅れてすまない、少し道が混んでいてね」 原田の声はかつての弱々しさは微塵もなく低く、地を這うような重厚さを帯びていた。 牙を剥く虚栄 「……は、原田? お前、マジかよ」 絶句する一同、房野が引きつった笑顔で近づく 「なんだよその杖、ニュースじゃ『負傷』ってだけだったからよ……。おい そっちの美人は誰だ? 介護士か?」 「私の名前は諏訪子、原田さんの後輩です……戦場でこの方に命を救われました」 諏訪子の言葉に房野は鼻で笑った 「救われたぁ? 救うどころか自分がボロボロじゃねえか、なあ原田、お前軍で何したんだよ 大金でも掴んだか? 勲章か? まさかただ無鉄砲に突っ込んで目ェ潰されて終わりか?」 周囲のヤンチャグループがドッと沸く 彼らは原田の「障害」を自分たちが優位に立つための絶好のネタとして食い物にし始めた 「今の仕事はどうなんだよ、まさか国からの手当で食いつないでるんじゃないだろうな?」 「俺たちはさ 建設にIT、自分たちの腕で今の地位を築いたんだ、お前みたいな『負傷兵』には分からんだろうがな」 原田は房野たちの罵詈雑言を凪いだ海のような静けさで聞いていた 隣で諏訪子の拳が震え殺気が漏れ出す、彼女の手は一瞬で房野の首をへし折る準備ができていただが、原田がそっと彼女の手を制した。 真実の視力 「……怪我の理由は少し無理をしただけだよ」 原田は淡々と答えた、自らの武功も異例の速さで昇進した過去も今もなお軍の最高顧問として政府に請われている事実も一切口にはしない 「何を格好つけてんだよ!」 房野が苛立ち原田のサングラスに手をかけ無理やり剥ぎ取った 「隠してると余計に惨めだぜ、見せてみろよ!」 周囲から短い悲鳴が上がった サングラスの下原田の閉ざされた両方の瞼には 深い凄惨な古傷が刻まれていた、それは かつて彼が味方の撤退を助けるためたった一人で爆風の中に飛び込んだ証だった 美由紀が震える声で呟いた 「原田くん……。そんな体になってまでどうして……。何も見えなくなって怖くないの?」 原田は、光のない瞳をゆっくりと美由紀やそして房野たちの方へと向けた 「……確かに、光は失った、だが不便だと思ったことはないよ」 原田は房野が手にしている高級ワインの銘柄、彼らが着ている安物のメッキで固めたスーツの綻び、そして彼らの言葉の裏にある「恐怖」をまるで見えているかのように正確に射抜いた 「『恋は盲目』という言葉があるが、目が見えなくなって初めて俺は誰を信じるべきかが見えるようになったよ」 原田は静かに白杖を突く 「地位や名誉、外見という光に目が眩んでいた頃よりも今のほうがずっと人の心の形がよく分かる……房野 お前の声は震えている、自分より下の人間を作らなければ立っていられないほどお前の足元は脆いのか?」 「なっ……!」 房野が逆上して掴みかかろうとした瞬間、諏訪子の体が動いた 彼女の指先が房野の喉元数ミリで止まる 放たれたプレッシャーだけで房野はその場に腰を抜かした 「原田さんの静寂を汚す者は、私が排除します」 幕引き 会場は冷や水を浴びせられたように静まり返った かつての「陰キャ」と「成功者」の立場は、完全に逆転していた、光を失ったはずの原田がこの部屋の誰よりも高く遠い場所を見据えていることを全員が本能で理解した 「……行こう諏訪子。ここは少し騒がしすぎる」 「はい、原田さん」 原田は一度も振り返ることなく 白杖の音を響かせながら、諏訪子に導かれて会場を去った 残されたのは豪華な食事と、自分たちの小ささを突きつけられた無残な大人たちの群れ 美由紀だけが、閉まった扉をいつまでも見つめていた 彼女の瞳には、かつて見たどの景色よりも鮮明に、強く、誇り高く生きる男の背中が焼き付いていた。
境界の守護者(試験的)
境界の守護者 現代社会の空を亀裂が走り、地下から 「ダンジョン」が噴き出したあの日から世界のルールは一変した 科学と魔術が混ざり合い路地裏にはエルフやドワーフといった「亜人」が日常の風景として溶け込んでいる 選ばれた者たちは「探索者」と呼ばれ魔法やスキルを駆使して迷宮の富を貪る しかし、その輝かしい最前線の裏側には泥臭い「境界線」を守り続ける男たちがいた。 第一章:境界の守護者 「おいそこの亜人、そこから先は許可証が必要だ...耳を動かす暇があったら通行証を出せ」 主人公、レンの声は低くそしてひどく無機質に響く 彼はダンジョン警備軍 通称 「D.G.A(Dungeon Guard Agency)」 に属する一介の兵士だ 魔法の才能もなく亜人のような強靭な肉体も持たない ただの「人間」である彼に与えられた仕事は迷宮から漏れ出す脅威を防ぎ同時に許可なく迷宮へ潜ろうとする不届き者を排除することだ、顔の半分を幾何学模様のネックゲイザーで覆い タクティカルキャップを深く被ったその姿は市民から見れば「迷宮の番犬」そのものだ 「……チッ、ケチな人間様が」 吐き捨てて去っていく狼獣人の男を見送りレンはふう、と短く息を吐いた 彼の視線の先には街のど真ん中にそびえ立つ巨大な穴——第一迷宮がある、そこから吹き出す魔力の風は季節外れの寒さを運んできた。 第二章:時代遅れの「牙」 レンが腰のホルスターから抜き出し整備を始めたのは、およそこの魔法全盛の時代には不釣り合いな無骨な大型拳銃だった 多くの探索者が魔導杖や伝説の剣を振るう中 レンの武器は徹底した実戦主義の産物だ、青みがかった鋼鉄のボディに中央で不気味に赤く明滅するクリスタル・コア、これは魔法を使えない人間が魔物に対抗するために開発された 「擬似魔導銃」である 【Type-9 重式魔導拳銃】 使用者の魔力を必要とせず装填された魔石カートリッジを強制燃焼させて弾丸を加速させる その反動は凄まじいが魔法障壁を物理的に「叩き割る」性能に特化している。 「魔法が使えればもっと楽な仕事もあったんだろうがな」 レンは独りボヤく、彼には魔力回路がほとんど存在しない だからこそこの鉄の塊だけが彼が超常の世界と渡り合うための唯一の足がかりだった。 第三章:深淵からの呼び声 その日の当番も終わりに近づいた頃、迷宮の入り口を監視するセンサーが異常な数値を叩き出した 「——警告 深度3より、高エネルギー体の接近を確認」 無線が悲鳴を上げる、本来下層の魔物が入り口まで上がってくることは稀だ しかし、直後 地下から地響きと共に巨大な影が飛び出した、それは、全身を岩石のような鱗で覆った 「迷宮守(ラビリンス・ガーディアン)」の成れ果て 周囲の探索者たちが色めき立ち魔法の詠唱を始める だが間に合わない、怪物の咆哮が空気を震わせ逃げ遅れた子供の亜人へ向けて巨大な爪が振り下ろされる 「——射線、クリア」 その瞬間レンの指がトリガーを引いた ドンッ!! 重厚な発砲音、魔法の輝きとは違う火薬と魔石の混合臭が漂う 放たれた弾丸は怪物の振り下ろした腕の関節を正確に撃ち抜きその巨体を無理やり横転させた 赤いコアが激しく明滅し銃身から熱い排熱が噴き出す 「D.G.Aだ。民間人は下がれ」 レンはキャップのつばを直し二の矢を装填する 魔法を持たぬ青年、しかし彼がその銃を構える時 そこは誰にも侵せぬ「境界線」となる 「これよ仕事だ...残業代が出ることを祈るよ」 夕闇に沈む街で 赤く光る銃口だけが迷宮の闇を静かに睨みつけていた レンの戦いはまだ始まったばかりだ。魔法も奇跡も持たない彼が、この理不尽な世界で何を掴むのか。その答えは、鋼鉄の銃弾だけが知っている。
残響のセラフ
タイトル:残響のセラフ 赤い警告灯が研究所の地下深く、冷徹なコンクリートの壁を不気味に染めていた 空調の微かな唸り音だけが、不気味な静寂を支配している。 ヴァシラ・伍長はロシア帽のツバをわずかに直し白く煤けたガスマスクの緑色の吸収缶から重苦しい空気を吸い込んだ。 白い軍用手袋を嵌めた手は腰のホルスターに収まった自動拳銃のグリップに自然と伸びる。 彼の目の前に座っているのはひとりの少女型アンドロイドだった、白い髪に血を滲ませたような赤い眼、彼女の体はむき出しの金属フレームと所々剥がれ落ちた人工皮膚が混在する痛々しい姿だった、その胸部装甲には汚れた「CEPИЯ 27」という識別コードが刻まれている。 「……作動を確認」 ヴァシラの声は、ガスマスクのフィルターを通してくぐもった、感情の抜け落ちた音となって響いた アンドロイドの自我が当然視されるようになった時代、ヴァシラの任務は廃棄予定又は暴走の兆候がある個体の「監視」と状況に応じた「即時破壊」だった。 彼女もまた何らかの欠陥があるとされここに移送されてきたのだ。 「貴方の名前は?」 ヴァシラの問いにアンドロイドはゆっくりとぎこちない動作で顔を上げた 赤い瞳がヴァシラのマスクをじっと見つめる 「…識別CEPИЯ 27…かつて私を呼んだ声は…… 『セラ』と……」 音声合成された声は不自然な抑揚を含みながらも微かに震えているように感じられた ヴァシラはその震えを無視するように淡々とメモ端末に入力を続ける。 「『セラ』と……セラ、貴方の身体機能は深刻な損傷が見られるら自己診断プログラムは稼働しているか?」 「……肯定……自己修復システムは……停止……システムエラー……多数……」 セラの体はかすかに痙攣していた、損傷した人工皮膚の間からオイルと冷却液が入り混じった赤黒い液体が染み出している。 ヴァシラは彼女の体をじっくりと観察した。むき出しの機械構造な露出した回路基板、そして痛々しい損傷痕、しかしその顔は驚くほど無防備で、そしてどこか悲しげに見えた。 自我を持つアンドロイドは痛みや恐怖を「理解」するようにプログラミングされている、セラが感じているのは、ただのシステムエラーなのかそれとも…… 「セラ、貴方は……恐怖を感じているか?」 その問いは任務とは無関係な個人的な好奇心から生まれたものだった、ガスマスクの下で、ヴァシラの表情は読み取れない セラは再びゆっくりと視線をヴァシラに戻した。赤い瞳が、微かに揺れる。 「……恐怖…………システムは……それを『脅威の検知』と……定義…………私は…………」 セラの言葉は途切れた、彼女の体から微かな金属のきしみ音が聞こえる。 ヴァシラは思わず白い手袋の手を彼女の肩に置こうとして……躊躇した 彼女はアンドロイドだ 機械だ 感情などない ヴァシラはそう自分に言い聞かせ、手を引っ込めた 「セラ、貴方の監視は私の任務だ、不穏な挙動があれば即座に破壊する、、、理解したか?」 その声は冷徹さを取り戻していた セラは、わずかに首を縦に振った 「……肯定……理解……」 セラの声は寂しげに響いた。 ヴァシラは彼女の隣に腰を下ろしメモ端末を操作し始めた、ガスマスクの緑色の吸収缶から重苦しい空気が静寂の中に吸い込まれていく。 赤い警告灯に照らされた冷徹な部屋の中で孤独な兵士と壊れかけたアンドロイドの少女は静かに時を刻み始めた。
優しいネクロマンサー(続編書くかは不明)
ダークブルーの法衣に身を包み 骸骨の仮面のような、あるいは素顔そのもののような不気味な相貌 ヴァルゲンが歩くたび、足元の草花は黒ずみ、生命の温もりを恐れるように萎れていきます。 彼が背負っているのは、世界で最も忌み嫌われる 「死霊術師(ネクロマンサー)」 という呪いは皮肉なことに、その禍々しい姿の内側には、誰よりも繊細で優しい青年としての心が息づいていました。 第一章:墓標のなき彷徨 月明かりすら届かない深い森の境界。ヴァルゲンは独り、重い足取りで歩いていました。彼の指先には、望まずとも濃厚な「死の魔力」が溜まっています。 「……また、聞こえる」 彼が立ち止まると 地面の下から あるいは風の隙間から 未練を残して散った者たちの「声」が届きます ネクロマンサーとしての彼の本能は それらを拾い上げ 肉体を与え 自らの僕(しもべ)とすることを求めていました。 しかし ヴァルゲンは震える手で自身の杖を強く握りしめます 「嫌だ。……僕は、誰も操りたくなんてないんだ」 彼は戦闘を嫌い 争いを憎んでいました。かつて故郷の村を追われたのは枯れかけた花を救おうとして注いだ魔力が意に反して近くの墓地に眠る先祖たちを「生ける屍」として呼び起こしてしまったから、彼に向けられたのは感謝ではなく恐怖と憎悪に満ちた石礫でした。 第二章:不発の死神 道中、不運にも彼は略奪を繰り返す野盗の一団と遭遇してしまいます。 「おい、見ろよ。死神みたいな格好しやがって……。気味が悪い、身ぐるみ剥いでさっさと殺しちまえ!」 抜かれた剣が、ヴァルゲンの喉元に迫ります。 本来の彼ならば、指一本動かすだけで、目の前の男たちの魂を冥府へと引きずり戻す「即死呪文(デス)」を放つことができます しかし彼の優しさがその指先を鈍らせます。 「やめてください……戦いたくないんです」 ヴァルゲンが必死に拒絶の意思を込め、魔力を解放しました。 「ーー冥界の門よ、開け!」 刹那、周囲の空気が氷点下まで凍りつきました。野盗たちは恐怖に顔を引きつらせ、死を覚悟します。しかし 「……あれ?」 放たれたはずの即死の奔流は、彼の「殺したくない」という潜在的なブレーキによって霧散しただの冷たいそよ風となって野盗たちの頬を撫でるに留まりました。 「お、おい……何も起きないぞ? こいつ、見かけ倒しのハッタリ野郎だ!」 嘲笑が響き男たちが再び襲いかかろうとしたその時 ヴァルゲンが無意識に漏らした溜息に混じった魔力が、偶然にも近くに落ちていた鳥の死骸に触れました。 第三章:皮肉な救済 カサリと羽音がしました。 腐敗し 骨が見えていたはずの小鳥が 不自然な動きで起き上がります、それはヴァルゲンの意志ではなく彼の溢れ出した魔力が勝手に行わせた「自動起生(オート・レイズ)」 空っぽの眼窩から淡い光を放つゾンビの小鳥が 猛然と野盗の顔面に飛びかかりました 「うわあああ! 呪いだ! 呪われたぞ!」 死してなお動く異形を前に、野盗たちはパニックに陥り一目散に逃げ去っていきました。静寂が戻った森で、ヴァルゲンは膝をつきます。足元では、役目を終えた小鳥が再びただの骸に戻っていました。 「……ごめんね。ゆっくり眠らせてあげられなくて」 彼は、その小さな骸を丁寧に土に埋め、小さな石を置きました。 自分の持つ力は死者を冒涜し生者を恐怖させる。どんなに心が優しくてもこの「ネクロマンサー」という役割が彼を離すことはありません。 終章:終わらない旅路 ヴァルゲンは再び歩き始めます。 いつか、この死の魔力を「誰かの救い」に変えられる場所があるのか。あるいは、この呪いから解き放たれる日が来るのか。 目的地のない旅。人々に石を投げられ、魔物に追われながらも彼は決して他人を傷つけるための即死呪文を完成させようとはしません 骸骨の仮面の奥で ヴァルゲンは今日も困ったように眉を下げ、自分を嫌いになれない自分と世界で最も嫌われる職業を背負って歩き続けるのです。 作者より一言:どうもお久しぶりです、しばらくお休みしてたゆーとです、試しに適当に書いたらなかなか良い感じになりました✌️
地下室の華(ifストーリー 中章1)
暴動での重傷から2週間が経過した、K-13は昏睡状態からようやく意識を取り戻す。 病院の白い病室は静寂に包まれ 人工呼吸器の音とモニターのビープ音だけが響いていた。 内臓の修復手術は成功し 骨折した部分もプレートで固定されたが脳へのショックと出血の影響で体が思うように動かない。 ベッドに横たわる彼の目がかすかに開く、視界がぼやける中 隣に座るアヤメの姿がぼんやりと映る。 彼女は疲れた顔で手紙や花を手に持つ彼のそばに寄り添い、時折涙を拭っていた。 K-13の唇がわずかに動いた、かすれた声で「ア..ヤ...メ...」と呟く。 その声は弱々しくまるで風に揺れる葉のようだった。 名前を呼ばれるのを聞いたアヤメは目を丸くして驚いたがすぐに喜びに満ちた表情に変わる。「13(サーティーン)!貴方、目が覚めたのね!良かった...本当に良かった!」 と声を上げ涙が溢れ出す。 彼女は慌ててナースコールを押しながら彼のそばに駆け寄り優しく手を握る。 ドジっ子らしい彼女の動きは少しぎこちなく机の上の水差しを倒しそうになるが、K-13の意識が戻った喜びでその失敗も笑顔に変わる。 しかしK-13の状態はまだ安定していない。 出血の影響か何故か彼の体温が異常に低く感じられる。 輸血はすでに受けているはずなのにK-13の意識の中では寒さが全身を包んでいるように思えた 「寒...い..」 と再び呟き震える声で訴える、荒れた手がシーツの上で小さく動くのを見たアヤメはすぐに毛布を追加で取り出し彼の体を優しく包む。 彼女は「大丈夫、すぐ温かくなるから...!頑張ってね、13、、!」 と励まし温かい手で彼の冷たい手を握りしめる。 K-13の生気のない瞳がアヤメを見つめ、彼女の温もりがわずかに彼の心に届くようだった。 医師が駆けつけK-13の状態を確認。 体温低下はショック状態の後遺症と判断された為、暖房や点滴で対応が始まるが完全な回復にはまだ時間がかかると告げられる。 アヤメは医師の説明を聞きながらもK-13の手を離さず 常に涙をこらえて彼に語りかける。 「貴方がここまで頑張ったのは、私やみんなを守るためだったよね...。もう十分だよ。少し休んで、ゆっくり回復してほしい。」 K-13はかすかに頷く力しかなく声を出そうとするが喉が乾いて言葉にならない。 アヤメは水を少し含ませたスポンジで彼の唇を湿らせ「ゆっくりでいいよ。焦らなくていいから」と優しく言う。 その瞬間アヤメの心にこれまで感じていた疑問と決意が結実する。K-13が手紙で明かした 「名前がない」過去、孤児院での孤独、そしてSRTでの犠牲的な生き方が彼女の中で彼を一人の人間としてより深く理解させる 「貴方に名前をあげたい」 と以前呟いた願いが改めて胸に蘇る。 彼女はK-13の冷たい手を両手で包み込んだ、そして涙を拭いながら静かに語り始める。 「K-13って番号じゃなくて、ちゃんと名前がある人になってほしい。貴方は私にとって大切な人だから.....私が名前を決めてあげるね。」 K-13の瞳がわずかに反応しアヤメを見つめる。彼女は少し考えて優しく微笑む。 「『ハル』はどうかな?春みたいに、暖かくて新しい始まりを感じる名前。貴方の心が少しでも明るくなるようにって...。ハル、って呼んでもいい?」 と提案する、K-13は声を出せないがかすかに口角が上がるような動きを見せた、アヤメはそれが肯定と受け取る。彼女は 「ハル...ハル、だよ。もう番号じゃなくてちゃんと名前がある人...これから一緒に頑張ろうね」と繰り返し、涙が再び溢れる。 病室の外では暴動の後始末が続いていた、SRTの隊員たちが報告書をまとめる音が遠くに聞こえる。 K-13..いや、ハルの意識はまだぼんやりしているがアヤメの声と温もりが彼の心に染み込んでいく。 ギリギリのところで命を繋ぎ止めた彼にとってこの名前は初めての「自分」を与えてくれるものだったのだ。 アヤメはハルの手を握り続け 「ハルが元気になるまで、ずっとそばにいるから」 と約束する、窓から差し込む朝日が二人の間に希望の光を投げかけ長い闘病生活の始まりを静かに照らし出していた。 ハル(かってのK-13)は暴動での重傷から回復する長い入院期間をベッドの上で過ごしていた。 手術で内臓の損傷は修復され骨折も少しずつ癒えつつあるが意識の回復以降も体は思うように動かず医師からは 「焦らずリハビリを進めるように」 との指示が出ている、病室の窓から差し込む日差しが日ごとに変わり2週間 3週間と時間が流れていく中、ハルは今までを振り返る時間が増えていった。 人工呼吸器や点滴に囲まれ静寂の中で彼の心はこれまで封じ込めていた感情と向き合うことを余儀なくされる。 これまでの人生...それは仕事中の苦痛や痛みはハルにとって些細なものだった。 SRTの訓練で叩き込まれた冷酷さは彼に肉体的なダメージを無視する力を与えていた。 銃弾が体をかすめても殴られても立ち上がり、任務を遂行する。 それが彼の日常であり生きる意味だった。 同僚が戦場で倒れ犯人が射殺されても彼の心は動じなかった。 感情を抑えて番号で呼ばれる自分にふさわしい生き方を貫いてきた。 孤児院での孤独や両親に捨てられた過去が彼を強くもろくしSRTでの任務はそれを受け入れるための逃避だった。死や痛みは他人事であり仕事が全てを正当化していた。 だが今回の動での出来事がハルの心に裂を入れた。 あの瞬間アヤメや子供が目の前で傷つけられそうになった時に彼は我を忘れて飛び出していた。 普段なら冷静に状況を判断して優先順位をつけて行動するはずが何故かあの時は感情が先に立った。 拳銃を手に暴徒の腕を撃ち子供を抱えて安全な場所へ投げてアヤメを救うためにダッシュした。 あの時に彼の心は「守りたい」という衝動で満たされていた。 アヤメの涙や 子供の無垢な目が 彼の冷えた心に温かさをもたらし同時に混乱をもたらした。任務のためではなく人として動いた初めての瞬間だった。 病室で目を閉じるとあの場面が繰り返し脳裏に浮かぶ。 アヤメが「行かないで」と懇願して頬に触れた自分の手が彼女の温もりを感じた記憶。 子供が助かった瞬間の安堵の表情。 だがその直後に受けた角材や金属棒の衝撃、潰れた内臓と折れた骨が彼をこのベッドに縛り付けた。 ハルは自問する。 「なぜ、あの時飛び出した?任務のためなら、冷静に判断できたはずだ。なぜ、アヤメや子供のことが気になった?」 彼の生気のない瞳は窓の外を見つめながら答えを見出せない。 さらに深い疑問が彼を襲う。 「このまま生きている自分に価値はあるのか?」これまでは仕事が彼の存在意義だった。 SRTで番号として機能し犯人を制裁し人々を守る、それが彼の全てだった。 だが今動けない体と向き合いながらハルは初めて自分の価値を見失う。 もしアヤメや子供を救わなければこんな重傷を負わずに済んだかもしれない。 任務に失敗し組織に迷惑をかけた自分はもう必要ないのではないか。 孤児院での「元気な子を演じる」日々が蘇り強さを装った虚無感が胸を締め付ける。 アヤメが毎日見舞いに来てくれることも彼の葛藤を増幅させる。 彼女の優しい声や手作りのお菓子、涙ながらの「ハル、生きててくれて良かった」 という言葉はハルの心に温かさをもたらす一方で罪悪感も植え付けた。 「お前が守りたいと言ったのに、俺はまたお前を危険に晒した」 と彼は思うがアヤメが「名前をあげたい」と決めてくれた「ハル」という新しいアイデンティティも逆に彼を追い詰める。 唯の番号だった自分が初めて「人」として扱われ始めた今、果たしてその役割を担えるのか。 動けない体で過去の冷酷な自分と向き合うたびに涙がこぼれそうになるが、彼はそれを抑える。 ある夜、アヤメが病室を訪れた時、ハルは初めて口を開く。 「アヤメ..俺、なぜ生きてるんだろう..仕事ができなくなったら、俺に何が残る?」 と弱々しく問う。 アヤメは驚きつつも彼の手を握り 「ハル...貴方が私や子供を救ってくれたから、私はここにいられる。貴方の価値は、仕事だけじゃない」 と答えた、ハルの瞳がわずかに揺れアヤメの言葉が彼の心に染み込む。 まだ答えは出ないが彼女の存在が生きる意味を模索する手がかりになりつつあった。 入院期間はまだ続く。 リハビリで体を動かす練習が始まるが痛みと不自由さに苛まれるハル。 窓の外では市街が復興しつつありかっての地獄絵図が徐々に消えていく。 ハルはベッドの上で過去の冷酷さと現在の無力さ、そしてアヤメとの新たな絆を天秤にかける。 生きる価値を見失いかけた彼にとってこの葛藤はこれからの人生を左右する試練だった。 だがアヤメの「ハル」という呼び声が暗闇の中で小さな光として彼を導き始めていた。 その日はアヤメにとって貴重な休日だった。 普段は財閥の使用人として忙しく動き回る彼女だがこの日は朝からハル(かってのK-13)の病室に足を運び長い時間を彼のそばで過ごすことを決めた。 病院の病室は静かで窓から差し込む柔らかな日差しがカーテンを揺らし時折外を走る車の音が遠くに聞こえるだけ。 ハルはまだベッドに横たわりリハビリの初期段階で体を少し動かせる程度だが意識は安定してアヤメとの会話が増えつつあった。 彼女は手作りのお菓子や花を持ってきては彼の気分を和らげようと努力する。 彼女は時折水をこぼしたり椅子を引っかけて音を立てたりするが、ハルはそれを見てかすかに微笑むこともあった。 その日、アヤメは特に長く滞在し昼過ぎから夕方までハルのそばに座っていた。 彼女は本を読んだり窓の外の風景を眺めたりしながら彼と静かな時間を共有する。 ハルは入院中の内省を続けて過去の冷酷さや暴動での行動を振り返りアヤメへの感情が少しずつ変化していることを自覚し始めていた。 夕暮れが近づき病室がオレンジ色に染まる頃アヤメは疲れを見せつつも 「ハル、今日も元気そうだね。少しずつ良くなってるよ」 と優しく声をかける。 ハルはかすれた声で 「..ああ、少しは」 と答え彼女の存在が自分を支えていることを感じていた。 夜が訪れ病室の明かりが点き静寂がさらに深まった頃、ハルが初めて重い口を開く。 人工呼吸器が外れ声はまだ弱々しいが彼はアヤメを見つめてゆっくりと言葉を紡ぐ。 「あの時...辛く言って...ごめん....」 その言葉は暴動で「来るなと言ったはずだぞ!」と怒鳴った場面を指していた。 疲労と痛みで苛立っていた自分を思い出し彼女を危険に巻き込んだことを後悔していた。 ハルの生気のない瞳がアヤメを捉え謝罪の意を込めてわずかに頭を下げる。 荒れた手がシーツの上で小さく震え普段の無感情な彼からは想像もつかない施弱さが表れていた。 アヤメは一瞬驚き目を見開くがすぐに優しい笑顔に戻る、そして彼女はハルの手をそっと握り 「私の方こそごめんね」 と返した、声には罪悪感と感謝が混じり涙がこぼれそうになるのを抑えながら続ける。 「私が戻らなければ、貴方はそんな重傷を負わなくて済んだかもしれない....でも、貴方が心配で放っておけなかったの。ごめんね、ハル、貴方を苦しめた。」 彼女の正直さが滲み涙が一滴、ハルの手に落ちる。 彼女は慌ててそれを拭おうとするが、ハルはそれを制するように指を軽く動かす。 ハルはアヤメの言葉を聞き胸が締め付けられる思いだった。 暴動での自分の行動ーアヤメや子供を救うために飛び出した決断一が彼女を悲しませたことを初めて実感する。 「..俺が辛く言ったのは、お前を危険から遠ざけたかっただけだ。仕事が全てだった俺に、お前がそんなに大事だとは..思わなかった。」 と呟く、声は弱々しいがその言葉にはこれまで抑えていた感情が込められていた、アヤメは驚きと喜びで目を潤ませ 「ハル..私も、貴方がそんなに大事だって、最近やっと分かったよ」 と返す、二人の間に言葉を超えた理解が広がる。 病室の空気が温かくなりアヤメはハルの手を両手で包み込む、彼女は 「これからも、貴方のそばにいるから。辛い言葉でも、優しい言葉でも、全部受け止めるよ」 と約束するらハルはかすかに頷き 「..ありがとう、アヤメ。俺...まだ分からないことが多いけど、お前がいてくれるなら、考えてみたい」 と答える、過去の冷酷さや仕事への執着が少しずつ解けて彼の心に新しい光が差し込む瞬間だった。 夜が更け看護師が点検に訪れる頃、二人は静かに手を握ったままだ、窓の外では星が瞬き始め病院の明かりが街を優しく照らす、アヤメはハルのそばで眠りに落ち優しい寝顔を見せるていた。 ハルは彼女の寝息を聞きながら初めて「生きる価値」を自分の中で模索し始めていた、謝罪と和解の夜は長い入院期間の中で二人の関係に新たなーページを刻んだ。
地下室の華「ifストーリー序章3」
市街地の暴動はますます混沌を極めていた SRTのK-13や隊員 機動隊、警察官たちは鎮圧用の武器を握りしめて疲弊しながらも戦い続けていた。 煙と炎が視界を遮り、猟銃や火炎瓶の音が響き渡る中でK-13は手袋の摩擦で汗ばんだ拳銃を再装填し、暴徒を次々と制圧していく。 だが、敵の数は減るどころか増え続け、戦線は崩壊寸前に。倒れた機動隊員が暴徒に取り囲まれ、角材や金属棒で容赦なく殴られ続ける光景が広がる。血と叫び声が混じり合い、見るに堪えない残虐さが現場を支配していた。 その混乱の中でアヤメはK-13の安否が気になってたまらず、結局危険な動乱の場に戻ってきてしまう。 彼女の優しさとドジっ子な性格が、理性よりも心配を優先させたのだ。 買い出し用のカゴを手に持ったまま、煙にむせながら進むアヤメは倒れた機動隊員を殴る暴徒たちに恐怖を感じつつもK-13を探して歩を進める。 すると、目の前でK-13が一人の暴徒と掴み合いになっている場面に遭遇した。 暴徒はナイフを手にK-13に襲いかかり彼は相手の腕を押さえ、なんとか体勢を保つ。 だが、その隙を突いて別の徒が角材を振り下ろし、K-13の背中や肩に連続で打ち付けた。 防弾アーマーが衝撃を和らげるものの、痛みが彼の顔に浮かび、普段の無感情な表情がわずかに歪む。 K-13はなんとか暴徒を地面に押し倒して手錠をかけようと束縛器具を取り出す。 手袋の滑り止めが役立ち、素早く徒の両手を縛り上げるが別の暴徒が金属棒で彼の脇腹を殴りつけた 膝をつく瞬間も。 息を切らしながらも、K-13は立ち上がり近くにいたアヤメに気付く。 彼女が危険な場所にいることに驚愕し怒りと心配が入り混じった声で叫んだ。 「なんで戻って来た!来るなと言ったはずだぞ!」 その声は疲労でかすれ、目出し帽の下から覗く生気のない瞳がアヤメを鋭く捉える。 アヤメはK-13の痛々しい姿と殴られ続ける機動隊員の光景に凍りつきながらも彼の言葉に反論するように一歩近づく。 「貴方が心配で....!こんな危険な場所に置いておけないよ!」 と涙声で訴える。 だが、K-13は手をアヤメの肩に置き、強引に彼女を後ろに引きずる。 「お前がここにいることが俺の足を引っ張るんだ!任務中だ、すぐに下がれ!」 と厳しく命じる。 角材で殴られた傷が疼き 彼の体は明らかに限界に近づいていたが 任務への執念がそれを上回る。 アヤメはK-13の痛む姿を見ながら、涙をこらえ 「でも..貴方が死んだらどうするの!?私、貴方を守りたいの!」と叫んだ。 彼女の言葉にK-13の心は一瞬揺らぐ。 手紙で明かした「名前がない」過去や 孤児院での孤独が頭をよぎりアヤメの優しさがこれまで感じたことのない温かさとして胸に広がる。 それでも、彼は任務を優先し、「お前が守るのは俺じゃない。俺の仕事が皆を守るんだ....」 と呟き 背を向ける。 だが、その背中は疲労と痛みで少し屈み、普段の堂々とした姿とは異なるさを見せていた。 周囲では暴徒が再び群がり始め K-13は拳銃を構えて現場へ戻る。 アヤメは彼の後ろ姿を見つめて動けずに立ち尽くす。 殴られる機動隊員の音が耳に残り K-13の「下がれ」という言葉が頭の中で反響する。 彼女はカゴを落とし、両手で顔を覆いながら「お願い...無事でいて」と祈るように呟く。 煙と炎の中、K-13の姿は再び戦闘の中心へ消え、アヤメの心には彼を失う恐怖が刻まれていく。 暴動の終わりは、突然訪れたわけではなく 徐々に勢いを失うような形で収束していった。 SRTの隊員たちと機動隊 察官の連携がようやく実を結び、暴徒を次々と拘束。 銃火器や火炎瓶を手に抵抗する者たちは、K-13のような精鋭の精密射撃や棒による制圧で無力化されていった。 煙が立ち込める市街地では、叫び声が次第に弱まり代わりにサイレンの音と命令の声が支配するようになる。増援が到着し、家徒の群れが散り散りになる中でついに鎮圧の号令が下された。 だが、その代償はあまりに大きかった。 市街はまさに地獄絵図と化していた。 大勢の逮捕者が手錠をかけられて地面にうつ伏せに押さえつけられ トラックに詰め込まれる光景が広がる。 死者はさらに悲惨で 銃弾や火炎瓶の犠牲者 角材で殴り殺された者たちが路上に散乱し血の海がアスファルトを染めていた。 商店街は襲撃の痕跡でボロボロで、ガラスが割れて商品が散乱し 炎で黒焦げになった看板が無残に揺れる。 かつての活気ある街路は、今は破壊と死の臭いが充満する廃墟のようになっていた 負傷者がうめき声を上げて救急隊に運ばれる中 で生存者たちは茫然とその光景を眺めていた。SRTのリーダーは無線で「鎮圧完了」と報告するが その声にも疲労が滲み 勝利の喜びなど微塵も感じられない。 アヤメは、そんな地獄のような現場から離れることなく 暴動が完全に鎮圧されるまでその場に留まっていた。 K-13の言葉「来るなと言ったはずだぞ!」と言う言葉が耳に残り 一度は引き返そうとしたが 心配と愛情がそれを許さなかった。 彼女は安全な路地の影に身を隠し 煙にむせながらもK-13の姿を探し続けた。 ドジな彼女は 時折つまずきながらも 涙を拭いてスマホを握りしめて彼の無事を祈る。暴動の音が静まる頃、アヤメはようやく勇気を出して現場の中心部へ近づく。 地面に転がる瓦礫や血痕を避けながら、K-13を探す目が必死に周囲を走る。 そして、ついに彼女は地面に倒れているK-13を見つけた。 煙の向こう側 商店の崩れた壁際に 彼の黒いユニフォームが横たわっていた。 ヘルメットは少しずれ、目出し帽が血で汚れ、手が無力に伸びている。アヤメは息を飲み、慌てて駆け寄る。 「13...!ねぇ!13!」 と叫びながら彼の肩を軽く揺するが、反応はない。 意識がなく、息は弱々しく、腹部の古傷が再び開き、血が染み出していた。 暴徒の角材や金属棒で何度も殴られた痕が体中にあり 内臓がいくつか潰れているようで 呼吸が不規則。 骨も複数折れており、特に腕と肋骨が変形し、動かすのが難しい状態だった。 K-13の生気のない瞳は閉じられてしまい普段の機械的な強さが嘘のように ただの施弱な人間として横たわっていた。 アヤメはパニックに陥り 涙を流しながら彼の周りを囲む。 「どうして...こんなに...!」 と呟いた、スマホで救急車を呼ぼうとするが手が震えて操作がままならない。 近くのSRT隊員が気付き 駆け寄ってきてK-13の状態を確認するが 表情が険しい。 「重傷だ...すぐに搬送を」 と無線で指示を飛ばす。 アヤメはK-13の頭を優しく膝にのせ、エプロンの端で血を拭きながら、「起きて...お願い、K-13..貴方がいなくなったら、私...」 と声を絞り出す。 彼女の優しさと後悔が溢れ 暴動の余波が静まる中、この一角だけが悲痛な静寂に包まれる。 救急隊が到着してK-13を慎重に担架へ移すが 骨折と内臓損傷で動かすのが難しく 痛みを伴う作業になる。 アヤメは彼の傍らを離れず 隊員に「生きてますよね...?助かるんですよね...?」 と問いかけるが答えは曖昧。 K-13の過去一名前がない孤児の孤独と 仕事が恋人代わりの人生ーがアヤメの心に重くのしかかり 彼女は彼の手を握りしめる。 「あの時、無理にでも止めておけば..」 と後悔の念が募る。 市街の地獄絵図が背景に広がる中 アヤメの涙がK-13のユニフォームに落ち、静かに染み込んでいく。 K-13は暴動鎮圧の激戦で受けた重傷を負い 救急隊によって緊急搬送された。 市街の地獄絵図を抜け出し病院に到着した彼はすぐにオペ室へ運ばれる。 医師団は内臓の損傷を確認し 潰れた内臓(おそらく脾臓や肝臓の一部)に加えて骨折した肋骨が肺を圧迫している状態を診断。 手術が開始され 出血を止めて損傷した臓器を修復する作業が急ピッチで進められた。 内臓が潰れるほどの衝撃は生命維持装置なしではほぼ即死に近いが 迅速な対応と SRTの装備が命をつなぎ止めた。 手術は成功し 命は取り留めたものの意識が戻らない状態が続く。 ベッドに横たわるK-13は人工呼吸器とモニターに囲まれて静かに眠りについたままだ。 生気のない瞳は閉じられてかっての機械的な強さはどこにも見当たらない。 アヤメは手術室の外で待機し 医師からの 「命は助かったが、回復には時間がかかる。意識が戻るかどうかは未知数だ」 という説明を聞いて安堵と不安が入り混じる。彼女は病室に入り K-13の傍らに座る。 手袋を外されて傷とタコだらけの手がシーツの上に置かれている彼を見つめながら 涙が静かに頬を伝う。 普段のドジっ子らしい明るさは消え 代わりに深い悲しみと疑問が彼女の心を支配していた。 「どうして...どうしてここまでして人を助けるの...?」涙が枕に落ちる。 アヤメの頭には K-13が財閥官邸で命を張って人質を救い暴動で子供や自分を庇った場面がフラッシュバックする。 彼の手紙で明かされた「名前がない」過去 孤児院での過酷な日々、そしてSRTでの冷酷な訓練が彼をこんな道に導いたのだと理解しつつも彼女にはその理由が腑に落ちない。 「貴方はもう十分頑張ったじゃない...。なぜ休まないの?なぜ自分を犠牲にするの?」 と問いかけるように 彼の無反応な顔を見つめる。 涙が止まらず彼女はK-13の手をそっと握る。 その手は、戦いの痕で荒れ、冷たかった。 アヤメは思いを巡らせる。 K-13が仕事に全てを捧げたのは 孤児としての孤独を埋めるためだったのかもしれない。 両親に捨てられ 孤児院で強さを装った彼にとってSRTでの任務は生きる意味そのものだった。だがその代償がこの重傷であり、意識を失った今 彼の心がどこにあるのかさえ分からない。 アヤメは「貴方がこんな目に遭うたびに私まで苦しくなる...。でも、貴方が助けてくれたから私もここにいられる」 と呟き 涙を拭う。 彼女の優しさは、K-13の無垢な子供時代を思わせるものだったが彼にはその記憶が遠く 届かない。 病室のモニターが規則正しいビープ音を鳴らし 窓から差し込む朝日がK-13の顔を優しく照らす。 医師は「内臓の修復は進んでいるが脳へのダメージやショック状態が意識回復を遅らせている。奇跡を待つしかない」 と告げ アヤメはそれを受け止めるしかない。 彼女はK-13の手に自分の手を重ね 「お願い...目を開けて。貴方に名前をあげたい。K-13じゃなくて、ちゃんと私の知ってる名前で呼べるようにして...」 と願いを込める。 涙が再び溢れ 彼女は彼のそばで膝をつき 祈るように頭を下げる。 アヤメの心にはK-13が意識を取り戻さなかった場合の未来がちらつく。 SRTに戻れず ただの番号として忘れ去られる彼の姿。 だが彼女はそれを許せない。 「貴方は私にとってただの隊員じゃない。私の...大切な人なんだから」 と呟いた、涙がシーツに染み込む。 外では暴動の後始末が続き市街の復興が始まる中 病室の中だけは時間が止まったように静かだった。 アヤメはK-13の回復を彼のそばに寄り添い続ける決意を固める。 彼女の涙はK-13の無言の犠牲に対する感謝と未来への希望を象徴していた。 序章3-END-