須玖漠雨
2 件の小説トンボの子
仕事帰り、僕は原っぱに挟まれた道を歩いていた。辺りは夕陽で赤みがかっていて、トンボがたくさん飛んでいる。 トンボを見上げながら僕は、子どもの頃のことを思い出した。 僕はよくこのあたりで虫捕りをして遊んでいた。バッタとかカマキリとかチョウとか。そして、秋になればトンボを捕まえた。 秋ごろのある日のこと。その日も、いつものように原っぱに来ると、知らない女の子がいた。 その子は、飛んでいるトンボを追いかけながら人差し指を上げていた。 「動いたら止まんないよ。」 僕がそう言うと、 「うるさい。知ってる。」 とその子は少しむすっとして言った。そして立ち止まると、指を上げてじっと動かなくなった。 どうしようかと思ったけど、僕も隣で一緒に待つことにした。 しばらくすると、やっと1匹のトンボがその子の指先にとまる。 僕もその子も、息をするのも忘れてじっとトンボを見つめた。でも、数秒もしないうちに、そのトンボは飛んでいってしまった。 女の子は僕の方を見ると、 「ありがとう。」 と笑顔で言った。 僕たちはそのあともしばらく一緒に遊んだ。そして、次の日にまた会う約束をしてわかれた。 僕は遊ぶのに夢中で、その子の名前を聞くのを忘れた。次の日会ったら最初に聞こうと思った。 でも次の日、その女の子は原っぱに現れなかった。 あの女の子はなんだったんだろうな。 僕はトンボに向けていた視線を前方に戻す。 前方には、知らない女の人がいた。 彼女は、飛んでいるトンボを追いかけながら人差し指を上げている。 僕は言う。 「動いたら止まんないよ。」 すると彼女は笑顔でこう答えた。 「うるさい。知ってる。」
遠足
雨の音で目覚めると、娘はじっと窓の外を眺めていた。 部屋の片隅にはお菓子がたくさん入ったリュック。