須玖漠雨

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須玖漠雨

小説書いてます。 Twitter : @sugubaku

トンボの子

 仕事帰り、僕は原っぱに挟まれた道を歩いていた。辺りは夕陽で赤みがかっていて、トンボがたくさん飛んでいる。  トンボを見上げながら僕は、子どもの頃のことを思い出した。  僕はよくこのあたりで虫捕りをして遊んでいた。バッタとかカマキリとかチョウとか。そして、秋になればトンボを捕まえた。  秋ごろのある日のこと。その日も、いつものように原っぱに来ると、知らない女の子がいた。  その子は、飛んでいるトンボを追いかけながら人差し指を上げていた。 「動いたら止まんないよ。」 僕がそう言うと、 「うるさい。知ってる。」 とその子は少しむすっとして言った。そして立ち止まると、指を上げてじっと動かなくなった。  どうしようかと思ったけど、僕も隣で一緒に待つことにした。  しばらくすると、やっと1匹のトンボがその子の指先にとまる。  僕もその子も、息をするのも忘れてじっとトンボを見つめた。でも、数秒もしないうちに、そのトンボは飛んでいってしまった。  女の子は僕の方を見ると、 「ありがとう。」 と笑顔で言った。  僕たちはそのあともしばらく一緒に遊んだ。そして、次の日にまた会う約束をしてわかれた。  僕は遊ぶのに夢中で、その子の名前を聞くのを忘れた。次の日会ったら最初に聞こうと思った。  でも次の日、その女の子は原っぱに現れなかった。  あの女の子はなんだったんだろうな。  僕はトンボに向けていた視線を前方に戻す。  前方には、知らない女の人がいた。  彼女は、飛んでいるトンボを追いかけながら人差し指を上げている。  僕は言う。 「動いたら止まんないよ。」  すると彼女は笑顔でこう答えた。 「うるさい。知ってる。」

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トンボの子

遠足

雨の音で目覚めると、娘はじっと窓の外を眺めていた。 部屋の片隅にはお菓子がたくさん入ったリュック。

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遠足